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2025/03/10 07:43 |
浅葱の杖――其の十三/月見(スケミ)
『微妙なあらすじ』

まさに死ぬような思いをしてようやく『浅葱の杖』を手に入れたファング達。
喜びにはしゃぐファング。

しかし、その時聞いてはならない音がしたような気がした。

……………………………………………………
PC:ファング、トノヤ、月見
NPC:ワッチ
場所:ヴァルカン/炭坑付近~ヴァルカン/元鍛冶屋の家
……………………………………………………



ぱりん。




一瞬、耳に入って来た音が幻聴だと思った。
いや、正確にいうと思いたかった、だが。

「あ。」
「あ★」

ファングの背後、しかも乾いた音がしたあたりから情けない声が聞こえた。
そういえば喜んでいる間、自分は何かしてはいけないことをしたような気がした。
『杖』の原料はガラスだ。

いくら良質のガラスというども、力強く握りしめてしまえば……

「ま、まーさーか……」

振り返る際の、砂利を踏み締める音がやけに強く強く響く。
ゆっくりと、ゆっくりと振り返れども現実は否応無しに襲ってくる。
視界に飛び込んで来たのは………

美しい虹色の輝き。

半分の長さになった『杖』の割れた断面が、青空に浮かぶ太陽の光を反射してきらき
らきらきらと虹色に輝いていた。
『杖』は心の闇を喰らうアイテム。
その虹色は生物のあらゆる感情の闇を網羅したような色だった。
輝く虹色の断片に自分の闇があるのだとしたら、意外と闇というものはは美しいもの
なのかもしれないと思った。

そして、もう『杖』のもう半分はファングの手の中にある。

(これは。ほんとう。どうしよう。)

思わず動きを止めたファングに、『杖』が割れた場面を目撃したワッチと月見の二人
が興奮しながら詰め寄ってくる。

「バ、バンダナ殿!何だか『杖』が素敵分裂しましたぞッ★」

「………あー。いや、うん、そう、アレって分裂するんだよ、うん。」

「スゴイなー!『杖』ってのはこんなことも出来るのかー!」

「え、いや、あの……いや、仕様だよ、うん。」

『スゲー!!』

謎のテンションではしゃぐ二人を虚ろな気分で見つめつつ、ファングの心の中は混乱
していた。

(やべやべやべやべやべー!これはトレジャーハンターとしてどうよ俺?!命からが
ら生き延びてこれってどうなのよ俺?!っていうかここ掃除しとかなきゃ駄目だよな。
もしも子供とかきたら足の裏切って泣くし!それで治療費請求されてもどうしような
いじゃん!困る、果てしなく困る。…………あ、でもよく見たら破片はまったく散ら
ばって無い……?そうだ!!今の状態なら断面を接着すればきっと元の『杖』に戻っ
たりしちゃったりなんだりするかもしれない!そうだそうに違いないッ!)

そう思ったファングは地面に落ちた『杖』の半身を拾おうと身を傾けた。
一抹の希望に縋るように、溺れた者が藁をも掴む心境で。

「オイッ!人を下敷きにしたら謝れっつーのー!」

怒ったようなトノヤの声と背中に衝撃。
ファングの視界は、何が起こったか分からないままどんどんと砂利ばかりの地面へ近
付いていく。
ヤケに、その光景がスローモーションのようにゆっくり、ゆっくりと進む。

「へぶしッ!」

今度は顔面の衝撃。


ぱりん


そして自分の腹の方から鈍く響くかわいた音。
その時ファングは、既視感にも似た目眩を感じた。

またまた興奮する月見とワッチの声が何故か遠く聞こえた。


父の『遺産』はその息子の手によって欠片となった。





「オーイ!鍛冶屋のおっちゃーん!!」

勢いよく木製のドアがあけられる。
あまりの勢いのよさに壁にバウンドしてドアが閉じそうになるが、ワッチは素早い動
きでそれを制した。
小屋の中には以前と同じように、ガランとした部屋の中にぽつん、とドワーフの鍛冶
屋が座っていた。
物がないこの部屋に、ドワーフのような体格が良い者が一人だけいる風景はどこか滑
稽にも思える。

「なんじゃ……またオマエらか」

どうやら寝起きらしく、ちょっと不機嫌そうな顏をしてワッチ達を迎え入れる。

「ん?新しい奴が増えてるの。………変な格好じゃな」

新しい奴……則ちトノヤだ。
確かにトノヤの格好はあまり見ない素材・形状で一般的に見ても奇抜な格好である。
それに加えてここは火山の漢達の町、彼等にとって服は機能性が一番なのでトノヤの
格好は余計奇抜に見えるのである。
初対面のドワーフに変な格好と言われたトノヤはムスッとした顔をして、静かに睨む。
自分のセンスを馬鹿にされて、いい気分のはずがない。

「おー。ケンカ売ってんのかジジイ。」
「ほほー。若造がワシに喧嘩をふっかけるのか?」

流石は年長者トノヤの睨みにも動じる事無く余裕で答える。
だが。

「うっせ。このデブハゲ。独身。無職。チーーーーーーーーーーーーーービ。」
「……な……なんじゃと若造ーーーーーーーー!!!」

見事にコンプレックスを刺激した罵倒に激昂するドワーフ。
どうやら気にしていたことらしく顔が真っ赤になっている。

「おじいちゃん!このお方は変な格好だけど先の副将軍トノヤ殿っすよー!」

そんな彼等を制止しようと間にはいる月見だが言ってることがトンチンカンであまり
効果がない。
うっかり一般人が間に入ったことでワルガキと鍛冶屋のパワフルクロスカウンター一
身に受けることになってしまった月見であった。
大回転。


ひとしきり問答を繰り広げた後、ふとドワーフの視線がワッチの背後にいるファング
にが止まった。
いや、止まらざるをえないと言ったほうが正しいか。

「お、おい、どうしたんじゃ……ソイツは……」
「…………………………………あー」

ファングはどんよりとした顔でひたすら唸っていた。
泣きそうな来るしそうな痛いそうな死にそうな顏をしながらお腹をさすっている。
吐きそうなのだろうか?


「そうそう!それできたんだよオイラ達!実をいうと『杖』がさ……」

いまだ色々と唸りまくってるファングを除いたワッチ達は、ドワーフに今までのいき
さつを身ぶり手ぶりを加え、賑やかに話した。


宝の場所をつきとめたこと。

暗闇ハードプレイSM(襲撃)があったこと。

トノヤに出会ったこと。

その他諸々のこと。

そして


「そんなワケでですね~!おじいちゃん、コレ直せないッスか?」


月見はバッグの中からスナック菓子の袋を取り出してドワーフに渡した。
怪訝に思いながらも袋の中を覗く。

「ほぉ……!これは!」

ドワーフは思わず感嘆の声をもらした。
そこにあったのは上質なガラスの破片。
その品質は破片になっても未だ美しい断面の輝きでわかる。



上質なガラスの欠片………
『浅葱の杖』の破片である。
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2007/03/09 01:01 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖

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