アイボリーは顔を上げもしない。先に走っていった月見を追おうとして、ふと
立ち止まって振り返る。何か彼女に言いたかったが、喉から出てこない。
ためらっていると、ぽつりとアイボリーが呟いた。
「お父上は、良い人でしたよ」
その一言を聞いて、ファングはようやく自分の父を、ウィルドの事を――
少し尊敬できたような気がした。
「…じゃね」
「えぇ」
・・・★・・・
3人の姿は、やたら乱雑な通路の先にあった。
走ってきた勢いでトノヤの隣に並ぶと、
「俺が分析するに、あの聖書とかいうやつはただのオヤジの日記だな」
「…なんだそれ」
笑いながら言ったこちらのセリフにさして興味を示すこともなく、トノヤは
虫でも追い払うかのような手つきをして、目をくれもしなかった。
「あーん見たかったッス!ファング君の秘密やらパパンの秘密やら!」
「見たがるな!」
「でもよ、謎が解けるまでここから出さないつってるのに、謎を解くには
ここから出なきゃいけないって・・・ムジュンしてるよな」
ワッチの姿がない。かわりに頭上から金属的な音が響いている。
と、巨大な影がそこから降って来た。
「少年。なんとかできたぜ」
「どーも」
「ぅおう!さすがオヤジ殿!何したんですか自分の筋肉を挟んできたのですかぃ!?」
「挟むか!」
「そういえば一回り小さく…」
「なってないッ!」
いつものように始まったやりとりを遠巻きに、トノヤが苛々と急かしてくる。
「なんでもいいから早くしろよオラ」
「はーいっ!」
無闇に元気よく返事する月見。ワッチと顔を見合わせて、ファングはバンダナに
手をやろうとするが、左手はガラスになっているため動かない。
ふと、詩を思い出す。
【月も太陽も星もいらぬ。欲望は闇に埋まる―――闇を食らう浅葱の杖】
「! わかった!」
ぱし、と膝を叩いて、立ち止まる。このすっきりとした閃きは、
これまで一度も間違いなど弾き出したことはないと、ファング自身自負していた。
「欲望は闇に埋まって、その闇を食うっていうのは、別に俺達が食われるんじゃなくて
俺らを閉じ込めた『闇だけ』を食うってことだ!」
大仰に右手をぶんぶん振って、ただひたすら口を動かす。
「じゃあ闇ってなんだ?俺らの心の闇だよ!欲望はその闇に埋まっているんだ!
心の闇なら照らすのは太陽とかの光じゃない――きっとそうだ!
浅葱の杖は心を浄化するアイテムなんだよ!」
「――じゃあなんで、お前ガラスになってんだよ」
静かに問いかけられて、自分も左手を見ながら考える。
「…わかんねぇ…もしかしたら、この浅葱の杖ってのは、浄化=ガラス化って
いうふうに考えてるんじゃないのかな?」
「うわー。じゃああんま時間ないな」
「どういう意味だよ!?俺は心に一点の曇りもねぇぞ!?」
言ってはみるが、やおら彼はこちらを指差してきた。
「ほらほらもう肘までガラスになってんじゃんお前」
「ファング君、嘘なんかつくから♪」
「どわぁああ!?ていうか嘘じゃねぇって!」
月見の横槍に混乱しかけるこちらに、あくまでも冷めた表情で、トノヤが
周囲を隙なく見渡す。
「とりあえず、ここから出るのに一週間はかけらんねぇな。
あのねーちゃんなら、あと数刻で『聖書』を読み終わりかねねぇ」
「う・・・どうする?俺的にはさっきの坑道を逆戻りしたほうが速いと思う」
すると、はぁ?と、人と会話するために必要ななにかの感情を欠落させた――
つまりつっけんどんな態度で、トノヤが目つきを悪くさせて見てくる。
「バーカ。それ以外に方法ねぇだろ。だからこうやってシチ面倒くせーことしてたんじゃねぇか」
「なっ…そーゆー言い方ないだろ!?お前かわいくなーい!」
「うるせー!男に可愛さとかいらねーだろ!?」
ごん。
「い!?」
「ってぇ…何すんだよオヤジ殿」
「なんで俺まで」
「ケンカ両成敗だ!時間ないんだろ!?とにかくファングは上に行ったら走るんだ!」
ワッチの怒号が、いつもより大きく聞こえた。
立ち止まって振り返る。何か彼女に言いたかったが、喉から出てこない。
ためらっていると、ぽつりとアイボリーが呟いた。
「お父上は、良い人でしたよ」
その一言を聞いて、ファングはようやく自分の父を、ウィルドの事を――
少し尊敬できたような気がした。
「…じゃね」
「えぇ」
・・・★・・・
3人の姿は、やたら乱雑な通路の先にあった。
走ってきた勢いでトノヤの隣に並ぶと、
「俺が分析するに、あの聖書とかいうやつはただのオヤジの日記だな」
「…なんだそれ」
笑いながら言ったこちらのセリフにさして興味を示すこともなく、トノヤは
虫でも追い払うかのような手つきをして、目をくれもしなかった。
「あーん見たかったッス!ファング君の秘密やらパパンの秘密やら!」
「見たがるな!」
「でもよ、謎が解けるまでここから出さないつってるのに、謎を解くには
ここから出なきゃいけないって・・・ムジュンしてるよな」
ワッチの姿がない。かわりに頭上から金属的な音が響いている。
と、巨大な影がそこから降って来た。
「少年。なんとかできたぜ」
「どーも」
「ぅおう!さすがオヤジ殿!何したんですか自分の筋肉を挟んできたのですかぃ!?」
「挟むか!」
「そういえば一回り小さく…」
「なってないッ!」
いつものように始まったやりとりを遠巻きに、トノヤが苛々と急かしてくる。
「なんでもいいから早くしろよオラ」
「はーいっ!」
無闇に元気よく返事する月見。ワッチと顔を見合わせて、ファングはバンダナに
手をやろうとするが、左手はガラスになっているため動かない。
ふと、詩を思い出す。
【月も太陽も星もいらぬ。欲望は闇に埋まる―――闇を食らう浅葱の杖】
「! わかった!」
ぱし、と膝を叩いて、立ち止まる。このすっきりとした閃きは、
これまで一度も間違いなど弾き出したことはないと、ファング自身自負していた。
「欲望は闇に埋まって、その闇を食うっていうのは、別に俺達が食われるんじゃなくて
俺らを閉じ込めた『闇だけ』を食うってことだ!」
大仰に右手をぶんぶん振って、ただひたすら口を動かす。
「じゃあ闇ってなんだ?俺らの心の闇だよ!欲望はその闇に埋まっているんだ!
心の闇なら照らすのは太陽とかの光じゃない――きっとそうだ!
浅葱の杖は心を浄化するアイテムなんだよ!」
「――じゃあなんで、お前ガラスになってんだよ」
静かに問いかけられて、自分も左手を見ながら考える。
「…わかんねぇ…もしかしたら、この浅葱の杖ってのは、浄化=ガラス化って
いうふうに考えてるんじゃないのかな?」
「うわー。じゃああんま時間ないな」
「どういう意味だよ!?俺は心に一点の曇りもねぇぞ!?」
言ってはみるが、やおら彼はこちらを指差してきた。
「ほらほらもう肘までガラスになってんじゃんお前」
「ファング君、嘘なんかつくから♪」
「どわぁああ!?ていうか嘘じゃねぇって!」
月見の横槍に混乱しかけるこちらに、あくまでも冷めた表情で、トノヤが
周囲を隙なく見渡す。
「とりあえず、ここから出るのに一週間はかけらんねぇな。
あのねーちゃんなら、あと数刻で『聖書』を読み終わりかねねぇ」
「う・・・どうする?俺的にはさっきの坑道を逆戻りしたほうが速いと思う」
すると、はぁ?と、人と会話するために必要ななにかの感情を欠落させた――
つまりつっけんどんな態度で、トノヤが目つきを悪くさせて見てくる。
「バーカ。それ以外に方法ねぇだろ。だからこうやってシチ面倒くせーことしてたんじゃねぇか」
「なっ…そーゆー言い方ないだろ!?お前かわいくなーい!」
「うるせー!男に可愛さとかいらねーだろ!?」
ごん。
「い!?」
「ってぇ…何すんだよオヤジ殿」
「なんで俺まで」
「ケンカ両成敗だ!時間ないんだろ!?とにかくファングは上に行ったら走るんだ!」
ワッチの怒号が、いつもより大きく聞こえた。
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