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2024/05/17 05:03 |
21.ギゼー『熱き死闘(謎』/ギゼー(葉月瞬)
◆――――――――――――――――――――――――――――

PC:ギゼー ジュヴィア リング
NPC:ラオウ ユリア ケン ジン バッティ リンダ
場所:ソフィニア~ラオウの豪邸~天界格闘場
*++―――――++**++―――――++**++―――――++**++―――――
++**++―――――++*

 時として人は、何かを求める為に戦う。
 それが、失うだけの行為だとしても心を満たすために―。


 翌日から、ギゼーの特訓は始まった。
 体力作りから始まり、秘策の用意まで。
 それは、ギゼーだけの秘密特訓だった。

 一週間後。
 大会は滞りなく執り行われた。
 “天界闘技場”という、ラオウが自分の趣味の為にだけ作らせた場所で。
 “天界闘技場”とは、なぜか屋敷の中心に聳え立っている塔―天空の塔という名前
らしい―の最上階

に据えられている、円形闘技場のことだ。どうやってバランスを取っているのかは、
秘密である。雲海

を見下ろすその美しい景観から、“天界闘技場”と名付けられたらしい。
 その、天界闘技場で今回の筋肉格闘大会は執り行われるのだ。
 当然、参加者はケン・シロウとギゼー、ジュヴィア、リング以外は誰もいなかっ
た。それもその筈で

ある。貴族連中が全て筋肉質体系だと思ったら、大間違いである。そう思い込んでい
るのは、ラオウと

ケン・シロウだけであった。
 当然、総スカンを喰らってしまうのは、いつもの事だった。
 大商人ラオウとケン・シロウは、実は社交界の中では良い噂は流れていなかった。
寧ろ、余り芳しく

ない噂ばかりだった。何処其処で、誰々に乱暴を働いただの、金に色目を付けて、娘
どもをかどわかし

ただの…悪い噂には事欠かない。
 で、今度の事でもそうだ。彼等が勝手に決めて、勝手に開催した大会など、貴族連
中が参加する義理

も義務も無い。だが、そんな事を気にするラオウや、ケンではなかった。寧ろ、暴走
するだけである。

誰も止める者が無いからだ。娘すらも。そして、益々総スカンを喰らっていくのだ。
それは、永遠に続

くかと思われる、悪循環だった。
 そして今回も、当然の事ながら誰も来なかった。一部を除いては。
 一部とは、ケン・シロウの取り巻き達である。
 取り巻きは全部で三人いた。
 一人は銀髪の長髪が見目麗しい、自分で二枚目だと自負している男、ジン。当然、
筋肉質の青年であ

り、ケンとは同い年のようだ。
 もう一人は十二、三歳の成人一歩手前の少年、バッティだ。子供ゆえの好奇心で、
ケンの後を付き纏

っている様だ。未だ幼さが残る、とはいってもこちらもかなり体を鍛えている。が、
ギゼーと同じ背丈

しかないし、小柄であるために侮られがちのようである。力もそんなに無いのは、事
実だが。
 三人目は少女だった。それも、飛び切りの美少女。名を、リンダと言う。華奢で、
薄幸の美少女とい

うイメージはあるが、実質どうだか皆目見当も付かない。見ようによっては、妖艶な
美女にも見えなく

も無いからだ。耳が尖がっていてエルフ種族であることが解る事から、その外見から
年齢を推し量る事

も出来ない。少なくとも、見た目ではバッティと同年齢のようだが。
「…………ギゼーさん好みの少女じゃないですか」
「…………うるさいっ。俺は、少女嗜好者じゃないって言ってるだろっ」
 リンダを見たジュヴィアがギゼーに囁いた言葉を、そのまま囁きで返すギゼー。い
つまで経っても、

誤解は解けないままである。
 ギゼー達の視線に気付いたのか、リンダが高笑いを上げながら宣言する。
「おーほっほっほ!あたしを子供だからって、あまり甘く見ないことねぇ。女には色
んな、武器がある

んだから。まっ、せいぜいがんばることね」
 彼女、リンダに関してだけ言えば、取り巻きというイメージは払拭したかった。な
ぜ、ケンに付き従

っているのかは謎だが、少なくともかなり高ビーな性格の様である、ということだけ
は分かった。
 彼女の言葉を聴いてジュヴィアは、過敏に反応していた。“女の武器”と言う言葉
に、淫魔の血がざ

わめき出したのである。その、淫魔の血を極度に嫌っているジュヴィアは、己の嫌悪
感を昇華する為に

密かに闘争心を燃やしていた。
「…………ギゼーさん、あのリンダとか言う女、私に任せてくれませんか?10秒で
片付けます」
「…………えっ!?ジュヴィアちゃん…!?」
 普段あまり感情を露わにしないジュヴィアが闘志を漲らせて言うのを目の当たりに
し、ギゼーは自分

の目を疑った。普段と違う、彼女の激しい一面を垣間見たような気がする。
 リングはリングで、取り巻き達の筋肉を触りながらしきりに感心していた。
(あいつはあいつで、何時どんな時でも変わらないなぁ)
 リングの行動を見て、妙な感想を抱くギゼーであった。

 残念なことに、第一試合はリンダのたっての願い―我侭とも言う―からギゼーとリ
ンダの対戦に決定

した。どうやら、女の武器とやらを使うには対戦相手が男じゃないと駄目らしい。ず
いぶんと応用範囲

の狭い武器だな、と心の中で突っ込むギゼーであった。
「宜しくお願いしま~すv」
(……ぶりっ子!?)
 それでもリンダの変幻自在な態度に、ギゼーは驚きを隠せないでいた。

 かくして、第一試合は始まった。
 リンダは、容易に近付いて来ず、間合いを取るだけに止まっている。
(…?なんだ?女の武器、とやらを使う積もりかぁ?それとも、何か…魔法みたいな
ものでも…?エル

フは魔法使うって、聞いたしな…)
 一応、念の為慎重に相手の様子を見るギゼー。
 その内、リンダの手の動きが奇妙な形に動いているのに気付く。
(……!?魔法か…!?なんだ?)
 彼女の腕の動きに合わせて、周囲の大気が動き出す。徐々に、彼女の周囲に集積し
ていく。やがて風

が起こり、彼女を中心に周回する旋風となる。
「風よ!切り裂け!!」
 彼女の掛け声とともに、旋風はかまいたちとなりギゼーに襲い掛かる。
「うわっ!風の精霊魔法かっ!」

「……風の精霊魔法ね」
 巻き添えを食らわないよう、遠くの方で静かに観戦しつつも冷静に分析するジュ
ヴィア。
「ええっ!?精霊魔法って言うんですかー。あんなの、始めて見ました。凄いです
ね、地上の人って…

。海の中では、水の魔法しかなかったからなぁ」
 ここに来ても未だ、妙な関心を見せるリング。意外と余裕なのかもしれないと、
ジュヴィアは彼女に

ついて分析するのであった。

「うっしっ!風の精霊魔法には、土系の魔法だ!……こんな所で、いきなり世話にな
るとはな…」
 リンダの繰り出すかまいたちを持ち前の素早さで華麗に(?)避けながらも、ギゼー
は腰に付けたポー

チから土色の玉を複数取り出した。
 そしてそれを、リンダの周囲にばら撒いていく。
「いっけー!ストーンウォール!」

「………勝手に、アイテムの名前付けちゃって…」
 またまた、冷静な分析を口ずさむジュヴィアであった。最近、これが口癖になって
来たようだ。

 ギゼーの大方の予想通り、彼の手から放たれた数個の土色の玉は地面に衝突するな
り岩の壁となって

上空に伸びていった。それが丁度、リンダを中心に円を描くように囲んでいる。これ
で風は、上を抜か

して全方向に放てなくなった。
 かまいたちは、横殴りに来る風である。
「……くっ!」
 その状況をして、リンダに先程まで見せていた余裕は無くなった。
 この状況では、上から吹き降ろす風しかないのだ。
「へっへーんだ。でも、こっちは何時でもナイフであんたを仕留められるんだぜ。壁
の隙間からな。も

う、降参するんだな」
「……わかったわ。降参する」
「えっ!?」
 リンダの意外と素直な反応に、ギゼーは驚いて一瞬思考が停止した。

「…………バカ」
 ジュヴィアが溜息混じりに呟いた。

「………………………あのな、お嬢ちゃん。子供が、大人に色目使っても、アホなだ
けだぞ」
 呆れ心頭、といった感じで静かにギゼーは言う。
 アースウォールが消えると同時にリンダが打って来た手は、所謂“お色気作戦”
だった。
 胸も小さいし、背丈も小さいし、おまけに見た目は未だ幼さが残るところから、エ
ルフとは言えまだ

まだ見た目通りの年齢なのだろう。あるいは、もう少し上か。どちらにせよ、二十七
歳のギゼーにとっ

ては子供である。美女は好きだが、美少女は範疇外だ。
(ふっ、まだまだ、もう少し大人になってから来るんだな)
 と、言うことである。
「えっ!?」
 少女は、自分の得意技だと思い込んでいた“色気”が相手に通じないところを目の
当たりにして、驚

きの表情を隠しきれないでいる。
 その一瞬を付いたギゼーは、彼女の頸椎の部分を軽く手刀で打ち込み、気絶させる
ことに成功した。
 勝者は、ギゼーと相成った―。

「………少女嗜好の癖に、無理しちゃって…」
 あくまでもギゼーを少女嗜好者に仕立て上げようとする、ジュヴィアであった…。
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2007/02/14 22:52 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
22.MY ONE AND ONLY LOVE/ジュヴィア(微分)
◆――――――――――――――――――――――――――――

PC:ギゼー ジュヴィア リング
NPC:ラオウ ユリア ケン ジン バッティ リンダ
場所:天界格闘場

----------------------†----------------------

ごめんなさい。貴方のことを殺さずにはいられない。


「よしっ!先ずはカル~ク緒戦勝利ッ!」
ギゼーの明るい声が閑古鳥鳴く闘技場に響いた。立派な建物はたったの8人の
人物しか収容していないが、これも贅沢のうちなのだろうか。何時の間にか審
判席に座ったラオウがずるずると気絶したリンダを連行していく。
「……愚かな人…」
ジュヴィアが眉間に皺を寄せたまま瞳を閉じてため息を吐いた。何だかさっき
までの自分の憤りは奇麗に収束してしまいそうだった。
その男が名乗りを上げるまでは。
「ラオウ様!」

一瞬、心臓が大きく跳ね上がった。

――銀の髪。
立ち上がって片手を天に向けていたその男は、銀の長い髪を風に靡かせながら
不適に笑っていた。整った顔立ちの、その男。

――るしうす

忌まわしい記憶が彼女の思考を支配する。

――あめのよる

そう、雨の夜、私はあの塔で

――まのがき

「いやぁ…ッ!」
幽かな慟哭に喉を衝かれ、ジュヴィアは全身から激情が溢れ出してくるのを感
じていた。頭の中にあるのはただ一つ、あの夜の記憶。
尋常でないジュヴィアの様子にギゼーとリングは慌てて駆け寄った。
「ジュヴィアさん!?どうなさったんです!?」
肩を掴んでリングが呼びかけるが、目は虚ろなままだ。何が起きたのか――二
人には解らなかった。ただ、ジュヴィアにとって耐え難い何かが、突然彼女を
襲ったとしか思えなかった。
「ジュヴィアちゃん!聞こえるか?どうした?」
――まさか、あいつら。
ギゼーはキッとケン達のほうを睨んだ。何かの小細工でジュヴィアを戦えなく
させたのか?十二分に有り得た。巨大な斧を背負うジュヴィアは普通の少女に
は見えない。主要な戦力と見なされ封じられてしまった可能性は高い。
「何てことしやがる!」
ギゼーが声を張り上げたが、ジンというその銀髪の美青年は気にも留めずに
ラオウに語り掛けた。
「ラオウ様、正直なところこの試合は余りにも結果が見えすぎています。解り
きったことを証明するのに無駄な時間を費やすのは愚かの極みです。私は、
可及的速やかにこの試合を終わらせるべく、第二回戦を……」
そこで言葉を区切り、ギゼー達の方を見やりながら再びニヤリと笑った。
「第二回戦を、私とあの小さな娘とで開催するという案を提言させていただく」
小さな娘、と言われ、リングが驚愕の表情を浮かべる。何かに脅えている今の
ジュヴィアを試合に出せと言うのか!?
その思いはギゼーも同じだったらしく、彼は再び声を張り上げた。
「てめえら!彼女が今戦えないのを知ってて言ってやがるな!」
だが、その言葉にジンは心外だ、と言う風に肩を竦めてみせた。
「ご挨拶だな。我々は只、最も早く勝負をつけるべくお互いに主力をぶつけよ
う、と提案したまでのこと。その少女は君たちにとって主力となるのだろう?」
「何でお前らがそんなこと知ってるんだよ!」
 ジンは人差し指を振って見せた。
「解らないかな?解らない方が幸せかもしれないね」
そう言うと、小馬鹿にしたように肩を竦める。
――こいつ…!
再び声を張り上げようとしたギゼーを押しとどめる声があった。
「ギゼーさん、何も言わないで下さい」
 静かなその声は――
「ジュヴィア(さん)(ちゃん)!」
ギゼーとリングの声が同時に彼女の名を呼んだ。ジュヴィアはゆっくりと立ち上
がると、ジンを睨む。
「二回戦は貴方と私の対戦には絶対になりません」
 憎しみさえ感じられる声で、ジュヴィアは堂々と言った。くるりとラオウの方
に向き直る。
「ラオウさん、貴方が組み合わせを決められるのなら、二回戦はあの少年と私に
 なさって下さい」
「何を馬鹿なことを…」
 異論を唱えようとするケンを、ジュヴィアはあの紫色の瞳でじっと見据えた。
「先ほどはあのリンダと言う少女が願いを聞き入れて貰いました。私たちだけが
 その権利がないのは不平等です。力と力のぶつかり合いにはなりません」
それに…と一度口をつぐんでから、ジュヴィアは続ける。
「あの男と私がぶつかれば間違いなくあの男は死にます」
「死にッ…!」
「私は絶対に殺します。万に一つも狂いなく、確実に」
 紫色の瞳が、ラオウへと移る。
「…良いだろう。こちらとしてもジン君のような優れた青年を失うのは存外だか
 らな。それに、力のぶつけ合いが目的であって殺しが出るのは本意ではない」
「ラオウ様!?このような戯言をお聞きになるので…」
「黙りなさい」
ジュヴィアは場内へと足を踏み入れながら、背中の斧を振り下ろした。再びケン
を見据える。
「無駄な時間は取りたくありません」
 あの瞳で見つめられ、ケンが言葉を失うのがギゼー達にも窺えた。しばらくし
て、おずおずとバッティが出てくる。
「お願いしま…」

ずん、と音がした。

お願いしますとバッティが言い終わる前に、ジュヴィアは斧の柄で彼の鳩尾を突
いていた。気を失ったバッティが地面へと倒れこむ。
 その間、何秒もあっただろうか。
暫くの静寂の後に、リングが口を開いた。
「…ジュヴィアさん…本気で怒ってます…怒ってると言うより…憎んでいます…」
ジュヴィアはバッティを捨て置いてギゼー達の方へ戻ってくる。
「次はリングさんです…」
 そのまま、ジンの方を鋭く睨んだのを二人は見ていた。

2007/02/14 22:54 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
23.<少年>リング/リング(果南)
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC ギゼー ジュヴィア リング  場所 ソフィニア 天界格闘場
NPC ラオウ ケン ユリア ジン バッティ リンダ

-にんぎょひめは 十五さいの たんじょう日が くると、
           うみの 上に 出ることが ゆるされて いました-


「えっと、次は私の番ですね・・・」
 身体から静かに怒りオーラを発しているジュヴィアをちらっとみて、リング
がいそいそと場内に進み出た。
 リングには、ジュヴィアの態度が急に変わった理由が解らなかった。ジュヴ
ィアが苦しんでいるときも、ただただおろおろとして見ている事しかできなか
った。そんな自分がとても、情けなくて悔しい。・・・私はもっと、誰かに頼
られるような存在になりたいのに。
(何故でしょう。何故、ジュヴィアさん、急にあんな・・・)
 考える度、ジュヴィアのことが不安で、心配になってくる。しかし、今は目
の前に次の対戦相手、ジンがいる。戦うことは好きではないが、今は戦わなけ
ればならない。
(仕方ありません。ジュヴィアさんのことは後で考えましょう)
 リングは一つ深呼吸をすると、戦うことに精神を集中させた。
「相手をさせていただきます、リングです。宜しくお願いします」
 そう言って、リングはぴしっと礼をする。礼儀正しく接することが、相手に
対する最低限のマナーだと、幾度も教えられてきた結果だ。
 すると、
「ああっ・・」
 突然、ジンが自分の額を押さえてよろけた。
「あのっ!どうなさいました?」
 驚いたリングがジンの傍に駆け寄ると、
「美しい・・・」
 突然、そう言ってリングの手を握るジン。
「ええ?」
「ああ、運命というのは残酷なものだ・・・。リング・・・、こんなに美しい
君と戦わなければならないなんて・・・。駄目だ、僕には出来ない!君と戦う
なんて!でも、僕は友人を裏切るわけにはいけない・・・。ああ、なんて残酷
な運命なんだ・・・」
「???」
 リングは訳がわからない、という顔でジンを見つめている。どうやら、リン
グはこの手の話はかなりうといようだ。しかし、ジンの言葉が、妙に芝居がか
かっていて訳がわからないというのも原因だろう。
「なあ、アイツ、アレで一応・・・、告白、してるんだよな?」
 不審そうな顔で、ギゼーが隣にいるジュヴィアに尋ねる。ジュヴィアは不機
嫌を未だ引きずっているため、冷たく答えた。
「さあ・・・、あんな男の心理なんて、解りたくもありません」
 ジュヴィアとギゼーが会話している間も、リングはリングなりに今の状況を
考えていた。ジンが何を言いたいのかはよくわからないが、とりあえず、ジン
がここまで何かに困っているのを放ってはおけない。
「えと・・・、つまり、私が今の姿のままでは、戦うのに不都合だとおっしゃ
りたいのですか?」
 おずおずとリングは尋ねた。
「ああ、そうだ、君のその姿はもはや罪・・・」
「あいつ・・・」
 ギゼーがその言葉を聞いてため息をついた。
「言ってることが、メチャクチャだな・・・。っていうか、馬鹿・・・」
「・・・私もそう思います。本当に、馬鹿な奴・・・」
 珍しく意気投合するジュヴィアとギゼーだった。
「そうなんですか?解りました」
 しかし、リングは何故か、その言葉に納得したように頷いた。
「そうですよね。本にも書いてありました。普通、地上の男は女に乱暴をはた
らかないものだと。やはりここはフェアに、<男同士>で、戦うべきですよ
ね」
 その言葉に今度はジンが不思議そうな顔をした。
「えっ・・・?<男同士>って、一体・・・?」
「解りました、少し待っててください」
 言うと、リングはすっと目を閉じ、胸に手を重ねた。とたんにリングの身体
から、まばゆい金色の光が飛び出す。
「!!!」
 その場にいた人々は息をのんだ。光の中で、リングの肩幅が広くなり、胸が
なくなり、顔つきが変わっていく。
「さあ、これで大丈夫ですよ?」
 身体を取り巻く光が消え、そう言った声は、少し低音がかかっていた。リン
グの身体は、・・・男のそれに変わっていたのだ。
 黒目黒髪の、眼鏡の似合う、知的なイメージは変わらないが、顔つきは、い
わゆる、「医者になったらかっこいい」タイプに変わっていた。唖然としてい
る全員の視線をよそに、リングはにっこりと微笑む。
「これで、フェアに戦えますね、ジンさん」
「ちょっ、ちょっと待て!リングちゃん!」
 ギゼーが観客席から呼び止めた。
「リングちゃん!君、まさか・・・男だったのか!?それとも、男に変身する
ことが出来るのか?」
「残念ながら、どちらもハズレです」
 自分の方に振り向いたリングの印象があまりに違うので、思わずギゼーはど
きっとする。
「知らなかったですか?竜族は一般的に、二十歳まで性別が存在しないんで
す。ですから、私はいわゆる<男>でも<女>でもないんですね。だから、変
身する際、私は男にも女にもなれるんです。でも、私は女の姿のほうが好きで
すから、いつもは女の姿で通してるんです」
 言うとリングはあらためて、ジンのほうに向き合った。
「さあ、準備は整いました。戦いましょう」
 ジンは唖然としていたが、それもつかの間、
「ふ・・・ふふっ・・・騙してたんだね、君は私を・・・」
 引きつった笑みをリングに向ける。
「え?」
「君は私の・・・、純粋な恋心を踏みにじって・・・、精神的ダメージを与え
たつもりか・・・、しかし、私はそんなことに負けたりはしない・・・」
 ジンは不敵ににやりと笑うと言った。
「そうだ、これで対等に戦うことが出来る・・・。君には・・・、感謝する
よ・・・。これでもう、恋心に惑わされることもないのだからな」
「???」
 自分はジンと対等に戦うために変身したのに、ジンは何故か、あまり喜んで
はいないことを、リングは不思議に思った。しかも、何か勘違いをしているよ
うだ。
(まあ、いいでしょう、戦うことが目的なのですから。誤解は後から解けばよ
いことですし)
 そう勝手に思い、リングはファイティングポーズをとった。
「では、用意はいいですか。戦いましょう」


 その言葉と同時に、リングがあらかじめ戦闘用に用意してあった、樽いっぱ
いの水が樽からざばあっと飛び出し、ベールのようにリングを包み込む。
「ふん、そんなこけおどし、私には通用しない!」
 そう言うと、猛烈な勢いで、ジンがリングに向かってくる。
「はああああっっ!!!」
 そして、強烈なパンチを繰り出してきた。しかし、リング、両腕でそれをし
っかりとガードする。
「!?」
その時に、ジンは気づいた。
自分の拳と、リングの腕の間に水の「膜」が出来ている。膜というより、その
厚い幅、鉄のような硬さから言えばむしろ「壁」だった。それが、リングの守
備を硬くし、ダメージを大幅に減らしている。
「くそっ!!!」
ジンはパンチを連打するが、リングの操る水の「壁」のせいで思うようにダメ
ージが与えられない。しかもその水は、リングの身体の傍を絶対に離れない。
そのすばやい動きにぴったりとついてくるのだ。
「くそっ!!!」
パンチを繰り出しながらジンは叫んだ。
「くそっ!!ナメやがって!!!」


「ギゼーさん」
ふと、振り向くと、ギゼーの背後にいつの間にかユリアが立っていた。優しい
笑みを浮かべ、ギゼーを見つめている。
「おっ、おう、何だ?」
「ギゼーさん、実は、少しお話があるのです。私と一緒に来ていただけないで
しょうか?」
 そのユリアを、ジュヴィアが冷たい目で見つめた。その視線に気づいたユリ
アが尋ねる。 
「・・・何でしょう?」 
「・・・いえ、別に。気にしないでください」
そう言って、ジュヴィアはユリアから目をそらした、しかし、内心は、ざわざ
わとした、不吉な予感を感じていた。
(何か・・・、起こりそうな気がする・・・。ユリアという女に近づいたら、
何か・・・)
しかし、そんな確証もないことを口に出して、ギゼーを引き止めるなどという
ことはジュヴィアには出来ない。
「じゃあ、ジュヴィアちゃん、俺、ちょっと行ってくるな。リングちゃんの応
援、頼むぜっ!」
そう言って、ギゼーはユリアとともに行ってしまった。ジュヴィアはそんな二
人の後ろ姿をじっと見つめた。
(私の予感が・・・、当たらなければいいのですが・・・)
 ジュヴィアがそう思って後ろ姿を見つめていたとき、ユリアは内心、ギゼー
を横目で見ながら、ほくそえんでいた。
(これで、カモがまた一人、増えたわね・・・)

2007/02/14 22:54 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
24.『暗黒の支配者』//ギゼー(葉月瞬)
◆――――――――――――――――――――――――――――

PC:ギゼー (ジュヴィア リング
NPC:ユリア
場所:天界闘技場~館の地下室“儀式の間”
*++―――――++**++―――――++**++―――――++**++―――――++*

  貴方をもう二度と手放さない。
  貴方はもう、私だけのもの。
  私はもう、貴方だけのものだから…。

 暗い廊下をユリアに連れられて歩いているギゼーは、先程から妙な胸騒ぎを覚えて
いた。
(…………妙だな……?俺だけに話って、いったい何処へ連れて行く気だ……?先程
のジュヴィアちゃんの様子も気になるし………これは……ひょっとすると……)
 不審に思ったギゼーは、おもむろに足を止める。そして、躊躇いがちに口を開い
た。
「あの…さ、ユリアちゃん。俺に話って、何かな……?あの場で、言えない事……な
のかな?」
 その質問が心外だとでも言いたげに、前を歩いていたユリアは足を止め振り向く。
その表情は、心なしか少し悲しげに見える。
「……ギゼーさん……それを、私に言わせるのですか?……今直ぐ、此処で?」
 彼女が何か腹黒いことを抱えているとしたら、それは迫真の演技だった。まるで、
ギゼーに対し彼女が恋心とでも呼べるものを抱いているかのごとく、瞳を潤ませて訴
えるその様はギゼーの心を打つのには十分だった。そして、その唇から吐き出される
一語一句が、ギゼーにとって真実味を帯びた言葉になる。ギゼーの警戒心を解くに
は、それで十分だった。

―美人に弱い男供は、これで十分よ…。チョロイもんね。男なんて……。

 ギゼーが警戒心を解いて謝る様をみて、ユリアは密かにほくそえんだ。
 そして、再び向きを変え歩き始める。元々向かっていた場所へ向けて、二人は再び
暗い廊下を歩み始めた。
 だが、ギゼーは完全に警戒心を解いたわけではなかった。未だに心の何処かで燻っ
ている、疑心というものがあった。そして、ユリアの背をじっと見詰めながら、腰の
ポーチの中に眠る“アイテム”にそっと手を伸ばすのであった。

  ☆…………☆

(……今頃闘技場の方では、もう決着が付いているんだろうなぁ……)
 そう、思考を巡らせるギゼーの佇むその場所は、館の地下の一室だった。
 ユリアの導きで長くて薄暗い廊下を延々と歩かされた末、辿り着いたのは、ラオウ
邸の地下室の一室に当たる“儀式の間”と呼ばれる何もない、魔法陣だけが描かれた
部屋だった。
 目の前にはユリアがいる。二人は、魔法陣のほぼ中央に立っていた。そして、見詰
め合っていた。
(………どーしたもんか、この状況………)
 ユリアの潤んだ瞳を見て、ギゼーは思案するばかりであった。

 ユリアはギゼーの首に自身の腕を巻きつけ、逃れられないようにしながら艶やかな
声音で話し出した。
「ギゼーさん、知ってます?私達の一族はね、貴方の様なバカな人間から精気を吸い
取って、自分達を繁栄させる力とするのよ。私達はそれで、今まで成功を収めて来た
わ。そして、これからもね………」
 そう、言うが早いかユリアは、ギゼーの首筋に赤黒く鋭く尖った“爪”を立てた。

 そして、自分の唇をギゼーの唇に這わせる。桃色の美麗な舌が、その輪郭をなぞ
る。二人の睫毛が触れるか触れないか、紙一重の所まで近付く。両手の指に生え揃っ
ている、赤黒い“爪”をギゼーの肌に食い込ませようと、力を込めた瞬間、ギゼーの
腰の辺りでカチリと硬くて鋭い音が、小さく響いた。
 暗闇に閃いたのは、銀の閃光だった。
 ギゼー後自慢のアイテムの一つ、“ミスリル銀製のスイッチナイフ”を翳したの
だ。純度99.99%の純正のミスリル銀製で、柄の部分が昇竜を模って作られてい
る。刀身が僅かばかりの光を発している所を見ると、少なからず魔力を帯びているの
が解る。ギゼーが今までの人生の中で手に入れた、お宝の内の一つだ。大抵の宝は売
り払ってしまうが、自分が特別に気に入った宝だけは、手元に残しておくのだ。これ
は、その内の一つである。
(……これが、こんな時に役に立つとはね。俺の悪運も、中々捨てたもんじゃないな
…)
「………くっ!ミスリル銀か…」
 ミスリルのスイッチナイフを見せ付けられて、一歩後退って苦虫を噛み潰したよう
な表情を見せるユリア。その美麗な顔立ちは、もはや僅かばかりの面影を留めている
だけに過ぎない。

―…ここまで来ると、もはや化け物だな。

 ギゼーの、今のユリアに対するその感想は、尤もなものだった。
 ギゼーは、少しでもユリアとの間合いを取ろうと後ろに下がる。
 すると、足元の魔法陣が仄かに明るくなり、見えない壁を形成してゆく。円を描く
魔方陣全体が壁を形成して行き、やがてドーム状になる。
「ホホホ、これは魔法の壁よ。最早、貴方は此処から逃げられないわよ。覚悟しなさ
い」
(………くっ、俺ってば、何気にピンチ………?)

2007/02/14 22:57 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
25.WHO KNOWS/ジュヴィア(微分)
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー ジュヴィア リング
NPC:ユリア ジン
場所:天界格闘場~館の地下室“儀式の間”

----------------------†----------------------

 残念なことに、貴方にはもう時間がありません。


 姿を変えてもなお、リングの優勢は変わらなかった。自分からは仕掛けず
ジンの攻撃を受け流すように動いている。
「降参してください。あなたに勝ち目はありません」
「うるさい!黙れ!」
 醜く叫ぶその様を、ジュヴィアは見たくなかった。いつかは向き合わなく
てはいけない忌まわしい記憶を、無理やり引きずり出されている感覚に襲わ
れるのだ。
――貴方は、死んでからも尚私を苦しめるの?
貴方が私を苦しめるから、貴方が私を殺そうとしたから私は貴方を殺したの
に。
『貴様の血は淫らな魔物の血だ!』
――まもの。
 そう口に出したとたん、全身がぞわりと総毛立つような感じがした。
――いる。すぐちかくに、いる
ぎゅ、と斧を握り締め、ジュヴィアは廊下へと急いだ。リングは勝つに違い
ない。彼女―今は彼だが―に関しては今は心配要らないが…
「ギゼーさん」
 先ほどユリアと一緒に姿を消した彼のことを考えると、自分の弱さが悔や
まれた。死人の面影に振り回されて、案ずるべき事に目を向けられなかった
弱さ。
「……美人だと思ってついていくからそんなことになるんです」
 封印するには、壁を厚くするしかないから。


「バカね、貴方。大人しく犯されていれば、極楽を味わいながら死ねたのに」
 ユリアはすでに人ならぬものの姿を完全に顕していた。美貌は見る影もな
い。わざとらしく爪を立てるような仕草をして、ギゼーに見せつけた。
「お前のようなバケモンは俺の趣味じゃない。それはお断りだな」
余裕を無くしたら、すぐにつけこまれる…
ギゼーはそう言いながら、魔方陣の端ぎりぎりまであとずさった。その様子を
見てユリアがまた凄絶な笑みを浮かべる。
「ふぅん。後ずさるほどいやなのね。なぁに?女性恐怖症かなにか?」
 にじり寄ってくるユリア。逃げ道はない。ギゼーは破れかぶれでナイフを構
えた。と、その時。
「その人は少女嗜好だからです」
 聞き覚えのある幼い声が、部屋の入り口から届いた。
「ジュヴィアちゃん!」
ギゼーが会心の表情を浮かべる。ジュヴィアは冷ややかにユリアを眺めやると、
静かに手に握った斧を差し向けた。ユリアが恐ろしい形相で彼女を睨みつける。
「何故邪魔立てする!」
「ギゼーさんを見殺しにすると夢見が悪いからです」
 その言葉に、ユリアの表情がたちまち解け、代わりに皮肉がましい笑みが浮
かぶ。
「へぇ、貴女は同族とばかり思っていたけれど、人間の男になど執着するのね?
 何の意義もない、ただの食料に?」
「ど、同族!」
ギゼーはユリアのほうへ向き直り、そして彼女とジュヴィアを交互に見た。
「何のことだ!?」
「ギゼーさん、話ならこのおばさんを片付けてからいくらでもします。今は止
 めて下さい」
そう言って、ジュヴィアは一歩ユリアに近づいた。だが、ユリアの手がそれよ
り早くギゼーの胸倉を掴み、引き寄せる。
「お黙り小娘!それ以上動いて御覧なさい、この男の喉を掻っ切るわよ!」
 だがジュヴィアは眉一つ動かさず、じっとユリアを見た。
「……貴女のような存在は嫌いです」
そして肩に力を入れる。ユリアの顔が驚愕に引き攣った。
「バカな!何故お前ごとき小娘がそんな!」
しかし、もう遅い。ユリアの腕から見る見る力が抜け、ギゼーはたちまち自由
になる。それを見るが早いかジュヴィアはユリアに肉薄した。
 ざん、と音がする。ユリアの首が派手に血飛沫を上げて飛んだ。同時にギゼー
を閉じ込めていた結界が消える。だが、無事に助かったことよりも、ギゼーの
頭の中にあることは――
「…ジュヴィアちゃん」
「解っています。まさかあなたにお話しすることになるとは思いませんでした」
「話したくないなら、俺は聞かないぜ」
 ジュヴィアはうつむくと、ぎゅっと拳を握った。唇を噛んで僅かに震える。
「……誰にも、話したことなんて……無かったから……」
だから、と消え入るような声で言って、ジュヴィアは背を向けた。
「…ごめんなさい……でも、きっとお話しします……リングさんにも…聞いて
 貰おうと思うから……後で……」
「…そっか」
 ギゼーはぽん、とジュヴィアの肩に手を置いた。即座にジュヴィアが振り向
く。
「…油断も隙もありませんね。人が真剣な話をしているのに早速少女嗜好全開
 ですか」
「な!?今まで泣いてたのは誰だよ!」
「泣いてなんかいません!」
「泣いてただろ!」
「しつこい言いがかりは止めて下さい!それよりリングさんが危ないかもしれ
 ません」
リングが危ない。
「何で?」
「回転の遅い人ですね。ユリアは魔物だったんですよ。当然ラオウも魔物でしょ
 う」
大体あんな貴族が居るわけないと思っていました――とぶつぶつ言いながらジュ
ヴィアが廊下に走って消える。ギゼーも後を追った。

「……そういえば、もうリング『ちゃん』て言えないのかな」

という、いささかどうでもいいことを考えながらではあったが。

2007/02/14 22:57 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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