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2024/05/17 05:39 |
16.KNOWN SECRET /ジュヴィア(微分)
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC :ギゼー・リング・ジュヴィア
NPC:女性、悪漢AOV
場所 :ソフィニア
◆――――――――――――――――――――――――――――

 君を守るためなら君を殺したって良いんだよ?


 全力疾走(本当にそうかは図りかねたが…)するギゼーを追いながらリングが
息を荒げて言った。
「はぁ、はぁ、ま、待ってくださいぃ~…お二人とも奇妙に速いですよぉ~」
すでに息が上がっているのか、スピードも今ひとつ出ていない。走るのに慣れて
いないのか――何しろ海底では地面を蹴って進む必要などないのだし。
「もたついてる訳にはいかねえ!絶世の美女がピンチだ!」
「――差し詰め貴方のお好きな美少女ですね」
「くどいぞジュヴィアちゃんっ!」
だが、苦しそうなリングとは裏腹に余裕で掛け合いをするギゼーとジュヴィア。
そうこうしている内に目的とするべき場所、つまり悲鳴を上げたギゼー曰くの
「美(少)女」がいる場所にたどり着く。リングは肩で息をしながら追い縋った。
「はああああ…待って~…」
 漸く追いついたリングは、見たことのあるような光景を目にした。即ち――
「オイこらぁ、ねえちゃん!わかってんのかコノォ?」
「アンタのオヤジがおれたちに何したか知らねぇたぁ言わせねえぞ!」
女性にからむ悪漢3人、である。この前と違うのは「女性」の方がフリフリの
服を着ておらず、脛毛・髭も生えていないということだった。
「これはまた…解り易い図ですね」
 ジュヴィアが皮肉混じりに言った。実際、ごつくていかにもな連中となかなかの
美女…と言う取り合わせであれば、誰でもどちらに非があるかという問題について
同じ答えをはじき出すに違いない。
「アンタのオヤジはなぁ!おれらに依頼をしときながら、必要経費すら払わなかっ
 たんだぜぇ!?」
悪漢A(頭が尖っていたのでなんとなくそう名づけた)が担いだ棍棒をずん、と美
女の足元に落とす。ムゴ、と地面にめり込む音がした。
「ヒッ…!」
 美女が息を飲む。
「払われてませんと言ったらなあ、あのくそオヤジ、あんたらに払う金などないと
 こう抜かしたんだぞ!?」
悪漢O(ハゲで太っていたのでなんとなくそう名づけた)が美女の腕を掴んで引い
た。
「こうなったらてめえを売り飛ばしてやらぁ!心配するこたねえ、品のいい店に売っ
 てやるからよ!」
「や、やめてください…!」
「…訂正します。解り易いを通り越して何かの寸劇ですね」
ひんやりとジュヴィアが言い放つ。だが、ギゼーの心境はひんやりとはしていない
ようだった。
「てめえらっ!」
そう叫ぶなり悪漢と美女の間に割り込んだ。リングもつられて飛び出す。ジュヴィア
はつられなかったが、こう呟いた。
「どうして面倒事に進んで関わるんでしょうね…」
だが、そんな呟きをよそにギゼーは怒鳴った。
「お前等の言い草はおかしいじゃねえか!文句があるならそのオヤジに言うべきだ
 ろ!彼女は関係ないぞ!」
 それが建前や上辺の伊達からくるものでないことは、怒りに燃える鳶色の瞳が示
していた。だが、如何せん分が悪すぎる。それはまさに火を見るより明らかだった。
「うるせえ!セコンドは黙ってろこのチビが!」
悪漢V(見事なまでに逆三角体型なのでなんとなくそう名づけた)がそう凄みを利
かせた、が――
「今なんつった!!!!」
 額に血管が卍型に浮かび上がりそうな迫力で、ギゼーが怒鳴り返した。そう、彼
にとってチビとは――禁句なのだ。
「今何つったっつってんだよ!!!!」
あまりの迫力に悪漢AOVはたじろいだように見えた(気のせいかもしれないが)。
だが…
「ギゼーさん、武器も持っていないのにどうするんでしょうね…」
 喧嘩を買うにあたって、重要なポイントがギゼーにはない。ましてや相手は棍棒
を持った男に大剣を持った男、武器こそないがどこからどう見ても格闘家に見える
男のトリオである。リングの「聖書」を使えばどうにかなるかもしれないが、こん
な道の往来で彼女の腹が伸びるのを見せてはどうなることか知れたものではない。
「うるせー!チビにチビっつって何が悪い!つべこべ抜かしてっとブッ殺すぞ!!」
 悪漢トリオはそれぞれ身構えた。ギゼーの背後で美女が身を強張らせる。リング
はと言えば、今ひとつ状況を把握していない様子だ。まあ、無理もないと言えたが。

「…ああ…不条理の連続です…」

 ジュヴィアの発した呟きは、雑踏に紛れて儚くなった。
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2007/02/14 22:47 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
17.ピンチヒッターは少女だった。/リング(果南)
◆――――――――――――――――――――――――――――
メンバー ジュヴィア・ギゼー・リング
場所 ソフィニアの街角
NPC 美女と悪漢(O,A,V)
◆――――――――――――――――――――――――――――

-うみの そこに にんぎょの おしろが ありました。
       おしろでは うつくしい にんぎょが くらして いました-
 
「はい、じゃあ後はよろしくなっ」
 そういって、ぽんとギゼーがリングの肩をたたいた。
「はい?」
 当然、リングは訳がわからないという顔をする。
「あの、何を・・・」
「何って」
 ギゼーはさも当然そうな顔をする。
「見てわかんねぇかなぁ?俺の手には武器がないな?」
「ええ」
「そして君は酒に酔ったとき、水を使って俺の手を捕まえた。覚えてるか?」
「ええ・・・、ぼんやりとなら」
「じゃあ、答えはカンタン。君がその力と、聖書、だっけ?それを使ってあの
悪漢三人をやっつけるんだ。俺は武器がない。よって君が戦う。カンタンな事
だろ?」
「はあ・・・」
 何の悪意もない笑みで、ニコニコと笑うギゼー。リングはぽりぽりと頭を書
いた。
「では、ギゼーさん。水を出してください」
「えっ?」
 ギゼーの顔に冷や汗が出た。たしかに、今までの話の流れから言うと、水が
必要なのはあきらかで、言い出したからにはギゼーは水を所持してなければな
らない。しかし、水のことなどギゼーは全く考えてはいなかった。・・・何し
ろ、今とっさに思いついて言い出したことなのだから。
「あ、あと、今、聖書はつかえませんよ?」
 リングがさらに追い討ちをかける。
「聖書の攻撃は間が長いですし、攻撃が広範囲に及ぶんです。私、まわりの建
物を雷撃で攻撃して弁償するお金など所持していませんし、無関係な人々に危
害を加えたくありません」
「あ・・う・・・」
 何が起こってもリングが何とかしてくれると思っていたギゼーにとって、こ
れは絶体絶命のピンチだった。視線をふらふらと動かし、足取りもおぼつかな
い。
「よぉ、兄ちゃん。何だ?俺たちに文句があるんじゃなかったのかい?」
 情況が好転したのを察知し、悪役0が強気になってギゼーに迫る。ギゼー
は、たじたじと後ろに下がった。
「う・・・」
「たしか、チビって言われるのが気に食わないんだよな・・・?」
悪漢Aのセリフとともに、三人がギゼーに詰め寄る。
(どうするよ、俺!なんかこの図はカッコ悪いぞ・・・。ってゆーか、ピンチ
だよ、俺!)
 今や三人はギゼーの目と鼻の先で、ぬうんとギゼーを見下ろしている。リン
グはといえば、この状況に何の危機感も覚えないらしく、(前に一度自分が体
験したくせに)ぽやっと四人を観察していた。
(何だか、えっと・・・、これってピンチなんでしょうか・・・?)
 ギゼーがピンチにあせり、リングがぽやっとしていた、そのとき、
「はぁ・・・」
 群衆の中からジュヴィアが、いかにもしんどそうな顔をして現れた。
「全く・・・、いくら馬鹿のしたことでも見ていられないですよ・・・」
(ジュヴィア「ちゃん」「さん」!)
 そのとき、ギゼーの目には斧を背負うジュヴィアが天使に見えた。
(ジュヴィアちゃんっ、きっと、その大きな斧でずばっと男どもを片付けてく
れるに違いないっ!)
 しかし、自分からケンカを仕掛けた割に、なかなか情けない考え方である。
「あ?なんだテメェは?」
 悪漢Vがジュヴィアをギロッとにらむ。しかし、そんな男にたじろぐことも
なく。ジュヴィアは軽蔑したような視線を悪漢Vに向けた。
「たしかにこの青年は向こう見ずの馬鹿ですが、あなたたちのしていることも
相当幼稚ですよ。と、いうか芸がありませんね。あなたたち、悪者の王道パタ
ーンにはまっている自覚はないんですか?」
「う・・・」
 一瞬男たちは言葉が詰まった。が、
「何だよテメェは!いきなり出てきてうるせぇんだよ!!」
 こうして少女にむきになって怒る様子からして、どうやら三人にもそれなり
の自覚はあるようだ。
「それが何だってんだ、生意気な口きいたテメェからつぶすぞ!」
「はぁ・・・」
 ジュヴィアの表情から、全くしょうがないことに巻き込まれた・・・と思っ
ていることがありありと解った。
「リングさん」
「はいっ!」
 ジュヴィアはしょうもないという表情を崩さないまま、男たちを見据えてい
った。
「・・・二秒で片付けますから」
「ええ!?」
 リングが訳がわからないという表情を浮かべている間に、ジュヴィアはその
大きな斧をひゅんと振り下ろした。

「お強いですね、ジュヴィアさん・・・」
 ギゼーといえば、ぽかんとして目の前に倒れている男たちを見つめていた。
三人の男が、ジュヴィアの斧の一振りで倒れてしまった。しかも、
(俺・・・、見えなかったぜ、ジュヴィアちゃんが斧を振った手・・・)
 リングはといえば、純粋にジュヴィアの腕に感心している。
「すごいですジュヴィアさん、斧の後ろを使って、すばやくみねうちをくらわ
せましたね!すばやい動きです!」
(ええっ!こいつ見えてたのかよ!)
 さすが人間じゃないヤツだけあって、侮れないな・・・、と思うギゼーだっ
た。そんな二人を、ジュヴィアは冷たく見つめて言う。
「この程度ならば、誰でもできます。あなたたちこそ、その程度の腕と対応の
仕方でよく、今まで旅が続けられましたね」
「う・・・、俺はっ、基本的に戦いを好まない性質なんだよっ!」
「・・・おかしいですね。あなたから、この喧嘩に割って入ったように見えま
したが?」
「あのぅ・・・」
 そんな二人の会話に、助けられた女性が遠慮がちに割って入った。
「あの、助けていただいたお礼を言いたいのですが・・・」
 そのおろおろとした様子は、そこはかとなくリングに似ていた・・・。

2007/02/14 22:49 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
18.『美女と野獣(?)』 /ギゼー(葉月瞬)
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー、ジュヴィア、リング
NPC:助けられた美女ユリア、大商人ラオウ、(ユリアの許婚ケン・シロウ)
場所:ソフィニアの目抜き通り~大商人の豪邸
◆――――――――――――――――――――――――――――

 貴方しか見えない。
 貴方しか感じない。
 貴方の居ない世界など考えられない。
 ねえ、知ってる?
 私が貴方を、待ち続けている事。
 例え貴方が他の女性[ひと]を見つめていても、私は貴方を待ち続ける―。
 いつか貴方が、振り向くその日まで…。
 ~メディーナの日記より~


「あの、助けていただいたお礼を言いたいのですが……」
 被害者である美女が、おもむろに口を開く。
 おどおどしていて、世間知らずな風体を示しているその肢体は、どこと無くリング
に似ていなくも無い。だが、リングの放つ“不思議”な雰囲気は、彼女からは発され
ていない。あくまでも人間、あくまでも唯の深窓の令嬢なのだ。
「あっ、いや、礼には及びませんよ。お嬢さん。元々そんなつもりで、助けた訳じゃ
ありませんから」
 キザったらしく美女に向けて手など翳しながら、相手の申し出を断るギゼー。自己
陶酔にどっぷりと浸かっている様だ。周囲の、やや呆れ気味の視線など毛ほども感じ
ないほどだ。自分の世界に集中し過ぎる余り、周りが視界に入らないらしい。
 そんなギゼーを無視するかのように美女に歩み寄ると、ジュヴィアは冷ややかに宣
言した。
「……別に、ギゼーさんがやっつけた訳じゃないです。それに、貰える礼は受け取っ
ておいた方が良い

です。……というわけで、頂きますよ?そのお礼」
 ジュヴィアは、真っ直ぐに美女の瞳を覗き込む。彼の女性の瞳は、澄んだ菫色をし
ていた。
 心なしか、その菫色の瞳が潤んでいるように見える。それも、視線をジュヴィアか
ら外さずに。
 それに気付いたジュヴィアは、背筋に冷たい何かが走るのを感じた。が、しかしそ
の事を言葉に乗せることは無かった。
 美女は、熱っぽい視線をジュヴィアの身に浴びせつつもしっかりと、するべきこと
をする。つまり、相手の名前を尋ねた。やや、夢見心地な声音だったが。
「あの………、失礼ですが、貴女(方)のお名前は………?」
 突然当たり前の事を妙な感じで尋ねられ、少しムッとしながらジュヴィアが応じ
る。
「本っ当に、失礼ですね。他人の名前を尋ねるには、まず自分から名乗るのが礼儀で
しょう?」
 何も知らないお嬢様であるところの美女は、ジュヴィアの言動を素直に受け入れ、
驚いて短く息を吸い込んだ。そして、慌てて訂正する。
「あっ!?それは、失礼しました。私は、ユリアと申します。商人ラオウの娘で、こ
の目抜き通りの先に行った所にある、家に住んでおります。貴女は?」
 最後まで言い終えると、飛びっきりの笑顔をジュヴィアに向ける。男ならば誰で
も、悩殺される笑顔だ。ジュヴィアは、少女だからか無反応であったが。
 一方、周囲の野次馬達は驚きの声でざわついていた。それも、ユリアと名乗った美
女が「商人ラオウの娘」と自分で名乗った当たりからだ。この界隈では、「商人ラオ
ウ」の名は結構それなりに―少なくとも、その職業名の上に“大”が付くくらいは―
有名らしい。ギゼーは、周囲のざわつきから飛び交う言葉でその事に気付かされ、少
しの驚きと関心をその表情に表した。
(へぇ………。結構有名な商人なんだ。ユリアさんの親父さんって)
 ギゼーもプロだ。宝物を糧に生計を立てている身である。遺跡内で手に入れた宝物
を、時として闇市に売りに出す時があるのだ。その時に知り合った商人ならば、何人
かは知っている。闇商人という、裏の商法に通じている商人ではあるが。
 それゆえか、商人の知り合いが多いギゼーですら、正規の商人であるユリアの父
親、「大商人ラオウ」の名は知識の宝庫の何処を探しても存在していなかった。
「……私は、ジュヴィア……」
 意外と素直に自分の名を露わにしたユリアに対して、少なからず警戒を解いたの
か、ジュヴィアが口火を切って自身の名を口頭に上らせる。
「………そちらの、おどおどした女性はリングさん。………で、こちらの……失礼極
まりない、自信だけは無駄にあって、戦えないくせに喧嘩を売って、挙句の果てに他
人に場を任せる男性が、ギゼーさん」
 話の流れからか、そのまま続けてジュヴィアが他の二人の紹介までも済ませてしま
う。多少、彼女の主観が入っているようだが。
「だぁっ!んだよつ!その説明はぁっ!?………お嬢さん、俺はギゼー。しがないト
レジャーハンターさ。あんたみたいな美人さんの危機を見ると、ついつい放って置け
なくてね。勝手に体が反応しちゃうんだ。いや、いや。決して勝算が無くて、あんな
行動したわけじゃなくて…だな…」
 自分で自分の弁護をする事ほど間抜けな事は無いな、と一人失笑するジュヴィアで
あった―。

 一行は、人の十倍はあろうかと言うほどの、巨大な鉄門扉の前に立ち尽くしてい
た。
 そして、口を間の抜けた形に開け放ち、呆けていた。―ジュヴィア以外は。
 巨大な鉄門扉と、地の果てまで続いていそうな広大な庭と、その庭を分かつように
真っ直ぐに伸びる道と、その行き着く先に胡麻のように見える屋敷とに眼を点にして
見入りつつ、驚嘆の声を漏らす。
「すっげ~~~~~!」
「こ~~んな、大きな屋敷に住んでいるんじゃ、大商人さんって、おっきなひとなん
ですねv」
 これは、リングの驚嘆の声だ。それを聞いたギゼーは、肩を落とし、項垂れた。
(……ふぅ~、これからは、俺がこの子に世の中の常識を教えねばならんのか…)

 三人が暫く屋敷の広大さに見惚れている間に開けたのか、ユリアが鉄門扉の向こう
で手招きしている。
「みなさ~ん!来て下さい。父に紹介します」
 「てゆうか、金持ってんの父親なんじゃ…」と心の中で突っ込みを入れながらも、
ギゼーが彼女の手招きに応じて屋敷の敷地内に入る。それに習って、とばかりに後に
続くリングとジュヴィア。何気ない事にいちいち驚嘆を露わにするリングとは対照的
に、ジュヴィアは終始無表情である。
 門を潜ると、唯真っ直ぐに伸びる道とその行き着く先に見える胡麻のような屋敷が
あるだけで、後は草原がどこまでも広がっていた。館は、やや小高い丘の上にあるよ
うだ。所々に木が植えてあるが、それも疎らで眼に映えるのは草原の方だ。成金趣味
もいいところで、草原の所々に金であしらわれた像が立ち並んでいた。ちょっとし
た、彫刻の森である。皆、著名な芸術家の手による物ばかりだ、とギゼーは察知し
た。
「!?おいっ、館から誰か出て来たぞ。ひょっとして、あんたのお父様か?…ユリア
さん」
 いつの間に装着したのか、やや重量感のある航空ゴーグルで胡麻のような館を見て
ギゼーが言った。

それもまた、ギゼー御自慢のマジックアイテムである。その名も、“カルドスコー
プ”と言う。装着し、左右に組み込まれている魔法石の部分を一撫ですると、遠見の
魔法が発動し100km四方が見渡せるようになる。精度はその都度調節できるが、だ
いたい100km先に置いた紙に書かれてある文字が読めるほどである。当然、暗闇で
も見通せる優れ物だ。トレジャーハンター七つ道具の一つだ。
 突然呼び掛けたギゼーの言葉に驚いて、ユリアが振り向き逆に尋ねる。
「それは、恰幅の良い人ですか?だいたい、40代前半くらいの?」
「いんや、違うな。筋骨隆々の、逞しい青年だ」
 即答したギゼーのその言葉に、ユリアは顔色を変える。
 まるで、何かを恐れてでもいるかのごとく、肩を戦慄[わなな]かせて。
「それ、私の父じゃありません。………私の、婚約者です」

 館に到着すると、例の筋骨隆々の青年が一行を出迎えてくれた。
「やあ、ユリア(微笑)」
 暑苦しい風体の上に、キザったらしい相貌の青年が、爽やかな笑顔でユリアに挨拶
してくる。何気に良く磨かれた歯が、陽の光を反射して一層暑苦しさを増しているよ
うである。
 この青年こそ、ユリアの婚約者にしてソフィニアの名家であり、候爵位を持ってい
るシロウ家の跡取り息子である、ケン・シロウその人であった。
「……あの、皆さん。こちらが、私の婚約者のケン・シロウ様です」
 ユリアは、やや視線を逸らせ気味で皆に紹介した。

2007/02/14 22:49 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
19.BOOGIE MYSTERIOSO /ジュヴィア(微分)
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー、ジュヴィア、リング
NPC:ユリア、ケン・シロウ
場所:大商人ラオウの豪邸
◆――――――――――――――――――――――――――――


もっと早く、君の方を愛していれば良かったのかも知れない。


 時折キラリと光る(ように見える)その男の歯に、一同の視線は釘付けにされ
ていた。全身満遍なく日焼けしており、テカテカと光って見える。華奢なユリア
と並ぶと、まさに美女と野獣――
 三人がそんなことを考えているうちに、その野獣ことケン・シロウ様はユリア
に訊ねた。
「ユリア、この人々は知り合いかな(微笑)」
暑苦しい白い歯がまたキラッと光った(ように見えた)。ユリアは余り気が乗ら
ないような口調でおずおずと言った。
「こちらの方々は、私がごろつきに絡まれていたのを助けてくださったのです。
 この女性が、リングさん」
 リングがぺこりと頭を下げる。
「この方がジュヴィアさん…」
何かがこもっていそうなその言い方に、ジュヴィアは再び先ほどの感覚を覚えた
が、一応軽く頭を下げる。
「そして、こちらがギゼーさんです」
「あ、どうも」
頭に手をやりながらギゼーが頭を下げた。途端にケン様の顔が嫌そうに歪む。
「ユリア、キミはどこの馬の骨とも知れない男を家に上げたのかい?(苦々)」
「えっ…?で、でもギゼーさんは私を助けてくださって…」
 慌ててユリアが弁解するが、ケン様は聞く耳を持たない。
「僕の婚約者として、余り望ましい行動とはいえないな、ユリア(苦々)」
その嫌な顔のまま、ギゼーの前までやってくる。彼は狼狽した。
(ええっ!俺が悪いのかよ!?ていうかこの人殴るつもりか?)
 思わずリングとジュヴィアのほうを見やるが、リングは相変わらずほえっとし
ているし、ジュヴィアは何故か苦々しげにユリアのほうを見ている。
(ちょっと待てよ~!俺ってピンチに陥りすぎじゃねえか!)
「ユリアが世話になったねギゼー君。それでいくら払えば良いんだい?(嘲)」
 唇の片方を吊り上げ、ケン様がギゼーを見下ろす。やはり体格差からか、ケン
様の方が心理的優位を感じているようだ。ギゼーはと言えば、ビビリつつも矢張
り今の言葉はカチンときたらしく、文句をいうべく口を尖らせた。
 だが、彼の言葉は横から伸びてきた手に遮られる。見ると、ジュヴィアがあの
紫色の瞳でじっとケン様を見据えている。
「シロウさんと仰いましたね」
遠慮の無い眼差しと物言いに、ケン様がたじろぐ。だが、ジュヴィアは気にも留
めずに言葉を続けた。
「このギゼーさんは確かに素性の知れない怪しい者に見えるかもしれませんが、
 ユリアさんをお助けしたのは事実です。私から見れば、柄の悪い者にユリアさ
 んが狙われているのを放っておいた貴方の方が余程下賎に見えます」
一息にそう言ってしまうと、ジュヴィアはギゼーの口から手を退けた。ケン様が
口をパクパクさせながら何か言おうとしているが、言葉が思いつかないようだ。
(ジュヴィアちゃん、これって助太刀かぁ~?何か怒らせてないか、これ?下賎っ
 て言っちゃってるし…)
ギゼーの思いをよそにリングが横槍を入れる。
「ギゼーさんは、お礼が欲しくて助けたんじゃないですよ」
 どこか自分の婚約者に似た雰囲気のリングにそう言われ、ケン様も毒気を抜か
れてしまったようだ。何か言いたそうな顔をしたまま、部屋を出て行く。去り際
にこんな捨て台詞を残していった。
「フッ…今日のところはユリア、君の美しさと、ミス・リングの仲間を思う優し
 い心に免じてギゼー君とジュヴィアちゃんは勘弁してあげよう。ただ…今度僕
 にそんな口を利くと、侯爵家シロウ家が黙ってはいないよ(不敵)」
そのまま豪奢な扉を力任せにバダンと閉める。勢いにシャンデリアがゆらゆらと
揺れ、扉のそばに置いてあった高そうな壺が台座から転げ落ちる。ギゼーは慌て
てそれを支えた。ジュヴィアがボソリと呟く。
「侯爵家では扉の閉め方の作法を習わないのですね。第一私はあんな人にジュヴィ
 アちゃんとか呼ばれる筋合いはないと思うのですが」
 その言葉を聞いて、ユリアが表情を曇らせる。
「あ、あの…ケン様のこと、お気に障ったならごめんなさい…」
瞳の端には涙の存在すら窺える。その視線がまっすぐジュヴィアのみを捉えてい
るのにギゼーはようやく気が付いた。
(え、これって…まさか)
 だが、リングののんきな声で思考は途切れた。
「ユリアさんは、ケンさんのことをあまりお好きでないんですね~?」
のんきな声だが内容はいつになく鋭い。ユリアは不安そうに頷いた。
「実は…私の意思でない婚約なんです。父がケン様をとても気に入って…」
「あの、どこを気に入ったって言うんだ?」
「『貴族界で私と互角に戦える男はあいつだけだ』と言っていました」
 ギゼーは暫し面食らった。
「何だ、そりゃ」
「結婚してからは、父親でなく夫が一番近くでお前を守る存在になるのだから、
 私より弱い輩は認めん――というのが父の言い分です」
ユリアは静かにまぶたを閉じた。儚げなその仕草はギゼーを魅了するに十分だった
様だ。ギゼーが勢いよく拳を作り、大声で叫ぶ。
「そんな話ってあるかよ!強けりゃあんなスカポンタンでもいいなんて、そんな
 理屈は通りゃしねえ!侯爵家だかなんだか知らないが、嫌なもんは嫌って言わな
 きゃ!」
「ありがとうございます、ギゼーさん。私を気遣ってくださって…」
 ユリアが微笑む。だが、目からは大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていた。
「でも、これもきっと商人ラオウの娘に生まれた運命なんです…運命からは…逃れ
 られません。でも、好きな人に好きと言えず…それだけが…」
 口を手で覆い俯くユリアを見て、リングが慌てる。
「ど、どうしたんですかユリアさん?泣くのはダメですよ」
わたわたと手を振りながらそんなことを言ってみるが、当然ユリアの涙は止まらな
い。ギゼーはその姿を見てまたも自分の中に義憤心を燃え上がらせた――即ち、お
節介な心である。
「そんな運命なんてあるかよ!」
「ええ、馬鹿げています」
 その声はジュヴィアだった。その場にいる全員が思わずそちらを見る。俯いたま
ま彼女は言った。
「運命?そんな言葉は馬鹿げています。自分が何もしないのを運命などとこじつけ
 て周囲の同情を買おうなどと浅はかな考えは止めて下さい。目障りです」
冷たい言葉が次々に彼女の口から飛び出す。そんなに大きな声でもないのに部屋に
響くような心地がした。
「貴女がそれでもこれが運命だと言い張るなら」
ジュヴィアは頭を上げた。紫色の瞳でじっとユリアを見る。
「その運命、私が断ち切って見せます」


――かくしてケン様&ユリア別れさせ大作戦が決行される――

2007/02/14 22:50 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
20.「全貴族対抗 無差別格闘大会」 /リング(果南)
◆――――――――――――――――――――――――――――
場所 大商人ラオウ邸
メンバー ギゼー ジュヴィア リング
NPC ラオウ ケン・シロウ様 ユリア嬢
◆――――――――――――――――――――――――――――

-海洋学者 ル・ハーンの著作<神秘の生物>より-
 
 海竜族とは、四つの種に分かれた竜族の中で、海に生息するものを指す。
 知能は高く、魔力を持つ者も存在する。
 そして、その姿は見るものを恐怖で圧倒するであろう、おぞましさである。


「さて、これからどうするかだな・・・」
 神妙な顔をしてギゼーが話す。ここは屋敷のサンルーフ。天井はガラス張り
で、やわらかい陽の光がまんべんなく射し込んで来る。そのサンルーフはユリ
アいわく、「午後のティータイム専用の場所」だそうで、そこから見渡せる庭
には、世界から集められたであろう何種類もの草花が花を咲かせていた。
 そんなサンルーフで、三人はお茶をご馳走になっている。ギゼーはさっきか
ら考え込んでいて何も口にしていないし、リングは「美味しいですねっ!」を
連発してお茶を飲み、菓子を食べまくっていたが、ジュヴィアは一人目の前の
物を見つめながら、硬直していた。ジュヴィアには解っていた。・・・自分の
目の前にあるこの食器も、この菓子も、一般人には手の届かない高級品だとい
うことを。
 これは一般人に対する嫌がらせなのか、それとも、単に何も考えずにしたこ
となのか。
「・・・・」
 ジュヴィアは勝手に前者だと思い込んだ。ジュヴィアは、この女性が時折ジ
ュヴィアに変に注目していることに薄々感づいている。その視線には何か裏が
あることをジュヴィアは確信していた。
(裏・・・、いいえ、そんなものではない)
 ジュヴィアはちょうど自分の向かいに座り、蜂蜜のような笑顔でリングに給
仕をしているユリアの顔を見つめた。この女性の仕草には、時折異質なものが
感じられるような気がしてならない。
(そう、それは裏というより「仮面」。お嬢様という「仮面」・・・)
 そんな思考をめぐらせながらユリアを見つめていたジュヴィアだが、その思
考は突然の物音によって中断された。

バンッ

「おいっっ!!お前ら真面目に話し合う気あんのかよっっ!」
 痺れを切らしたギゼーがテーブルを思いっきり叩いたのである。その拍子で
テーブルの上の食器がガタンと揺れた。そして、その音で、全員の行動がスト
ップモーションし、視線がギゼーに集まる。
「なんですか、ギゼーさん。いきなりテーブルを叩くものではありません」
 その食器類の価値を知っているジュヴィアが思わず言った。
「ギゼーさん、この食器に何かあったら弁償できるだけのお金を持っているん
ですか?これはあのラバスブランドの有名な・・・」
「今、考えることはそれじゃない!!!」
 憤然としてギゼーが言い返した。
「今考えることは、いかにしてユリアちゃんをあの体育会系キザ男の魔の手か
ら救ってあげるか、だろっ!それをなんだ、さっきから俺ばっかり考えてるじ
ゃないか!そこっ!お菓子を頬張らない!!」
 びくっ、としてリングがお菓子をつまむ手を止めた。その横ではきょとんと
してユリアがギゼーの顔を見つめている。それを見て、ギゼーがはぁぁぁ
ぁ・・・と情けなさ倍増、といった感じのため息をついた。
「全く・・・、ユリアちゃん?今は君の事について話し合ってるんだ
ぜ・・・。少しは真剣に聞いてくれよ・・・」
「でも、ギゼーさん、お菓子、本当に美味しいんですよ?そういえばギゼーさ
ん、まだ一口も召し上がっていませんね。せっかくですから一口・・・」
「あのなー、リングちゃん、俺たちはここに菓子食いに来たわけじゃないだ
ろ!」
 ギゼーはそういって興奮のあまりふんっと鼻をならす。彼の言うことはもっ
ともなので、リングはうなだれた。
「はい・・・、そうでした、すみません・・・」
「じゃあ、本題へ入ろうぜ。いかにして、ケン・シロウをユリアちゃんと別れ
させるか!」
 ケン・シロウという名を口にしたとたん、ギゼーにさきほどの屈辱がよみが
えってきた。あの見下した態度、あのキザっぽい口調。
「きーーーーっ、今思い出してもムカツクぜっ!!!あんなヤツとなんか絶対
結婚させねぇっ!!」
 怒りのあまり、思わず叫ぶギゼー。そんなギゼーを(なんだか、私情入りま
くりじゃないですか・・・)と冷ややかに見つめるジュヴィア。
「で、なんかいい案ないか?なんかこう、もう、あのきざ男がハンカチ噛んで
悔しがるようないい案!」
「ギゼーさん、私知ってますよ」
 とたんにリングがにっこり笑って、人差し指をピンっと立てて言う。
「こういうの、たしかコトワザで<他力本願>っていうんです」
 その言葉にぐっ、とギゼーは詰まった。
(なんでコイツはこんなことばっかり詳しいんだよっ)
「で?」
 少し不機嫌気味にギゼーは尋ねた。
「何かいい案。特にジュヴィアちゃん、何かないか?」
「・・・何故私ですか」
「君が一番常識があって賢そうだからだよ。なぁ、なんか思いつかないか?」
「はいはいはい!」
 思いがけず、リングの手が上がった。
「たしか、ここの主人さんのラオウさんは、強い男性がお好みでしたよね?」
 ね、といった表情で、リングはユリアの顔を覗き込む。その言葉に、ユリア
が少し苦笑気味に答えた。
「ええ・・・、<力のあるものが最後は勝つ>が父のモットーなくらいですか
ら・・・」
「では、その<力>で、ケン・シロウ様を負かしてしまえばいいのではないで
しょうか?今の話からして、よほど<力>を信じているお父様のようですか
ら、力で力を負かしてしまえば何も言えないはずです」
「どうでもいいが、なぜ様づけなんだ?」
「え・・・、いえ、なんとなくそのほうがふさわしいかと」
「では、話は早いですね」
 ジュヴィアが話を切り上げた。
「要は、誰かがケン・シロウに試合を申し込んで、勝てばいいんです」
「はっはっはっ!よく言った美少女!」
 その大きな声にその場にいた全員が背後を振り返った。するとそこには顎鬚
をたっぷりと生やした、身長が二メートルがあるかと思われる巨体の男がずー
んと立っていたのだ。しかも、その身体にはボディービルダー並みの隆々とし
た筋肉がついている。そしてその横にむすっとした顔のケン・シロウもいた
が、その男に比べれば、ケン・シロウが小さく見えるのが驚きだった。
「あのぅ・・・、もしかしてこの方が・・・」
「・・・はい、私の父です」
 ユリアから格闘好きらしいことはきいていたが、まさか、ここまで格闘派な
身体を持つ男だとは皆、思っていなかった。ギゼーはぽかんと口を開け、ジュ
ヴィアは無言で男を見つめ、リングはこんな大きな男をはじめて見たという感
動で顔がぱあっと輝いている。
 そんな三人を尻目に、大男ラオウはにいっと笑い。三人の顔を見渡した。
「少女よ、たしかこのケン・シロウに勝負を申し込むといっていたな?」
「はい・・・たしかに・・・」
 ラオウに見つめられたジュヴィアが、彼女らしくもなく少しどぎまぎしてい
るようにリングは見えた。
 しかし、ラオウは満足げにジュヴィアを見つめるとはっはっはっと先ほどと
同じ豪傑笑いをした。
「はっはっはっ!ここまで威勢のいい美少女は初めて見たぞ!いやあ、気に入
った。実はな、私もちょうど同じようなことを考えていたところだ」
「えっ?」
 ユリアが驚いて身を乗り出した。
「どういうことですか?お父様?」
「実はな、このたびこの、ケン・シロウのお披露目もかねて<全貴族対抗 無
差別格闘大会>を私の所有している、<天界格闘場>で開催しようと思ってい
たのだ。最近、貴族も身体がなまっているようだからな。ここは一発運動もか
ねて、な」
「な、・・・って・・・」
 ギゼーは唖然としてラオウを見つめた。
(貴族って、格闘するものだったのか・・・!!!)
 そういえば、この人もどう見たって貴族に見えない風体だ。
「そういうことでだ」
 ラオウはリング、ジュヴィア、ギゼーの顔を順に眺めて言う。
「もし、その大会に参加して、君たちのうち一人でもこのケン・シロウを倒す
ことができたらムスメの結婚話は白紙に戻そう」
「なっ・・・、ラオウ様!」
 どうやらこの話はラオウの突然の思い付きだったらしく、ケン・シロウは驚
いてラオウに言った。
「どうしてそんな・・っ・・・、突然っ!」
「別にいいだろう?ケン?それともお前・・・」
 急にラオウの顔が厳しくなった。
「まさか、こんな素人に負ける気はないだろうな・・・?」
「いっ、いいえそんな、滅相もございません!」
 ケン・シロウはとたんに平伏姿勢になった。
「私、自らの誇りとユリア様への愛のため、全身全霊、命をかけて戦いま
す!」
「よし、よくぞ言った!ケン!」
 ラオウは、誰かさんによく似た、キラリンと光る白い歯を見せて三人に笑っ
た。
「そういうことだ、君たちが大会に参加してくれることを願っているよ」
(えと、こういうの、確かこういうんですよね・・・)
 リングは心の中で思った。
(「類は友を呼ぶ」、と・・・)


2007/02/14 22:50 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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