◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー、ジュヴィア、リング
NPC:ユリア、ケン・シロウ
場所:大商人ラオウの豪邸
◆――――――――――――――――――――――――――――
もっと早く、君の方を愛していれば良かったのかも知れない。
時折キラリと光る(ように見える)その男の歯に、一同の視線は釘付けにされ
ていた。全身満遍なく日焼けしており、テカテカと光って見える。華奢なユリア
と並ぶと、まさに美女と野獣――
三人がそんなことを考えているうちに、その野獣ことケン・シロウ様はユリア
に訊ねた。
「ユリア、この人々は知り合いかな(微笑)」
暑苦しい白い歯がまたキラッと光った(ように見えた)。ユリアは余り気が乗ら
ないような口調でおずおずと言った。
「こちらの方々は、私がごろつきに絡まれていたのを助けてくださったのです。
この女性が、リングさん」
リングがぺこりと頭を下げる。
「この方がジュヴィアさん…」
何かがこもっていそうなその言い方に、ジュヴィアは再び先ほどの感覚を覚えた
が、一応軽く頭を下げる。
「そして、こちらがギゼーさんです」
「あ、どうも」
頭に手をやりながらギゼーが頭を下げた。途端にケン様の顔が嫌そうに歪む。
「ユリア、キミはどこの馬の骨とも知れない男を家に上げたのかい?(苦々)」
「えっ…?で、でもギゼーさんは私を助けてくださって…」
慌ててユリアが弁解するが、ケン様は聞く耳を持たない。
「僕の婚約者として、余り望ましい行動とはいえないな、ユリア(苦々)」
その嫌な顔のまま、ギゼーの前までやってくる。彼は狼狽した。
(ええっ!俺が悪いのかよ!?ていうかこの人殴るつもりか?)
思わずリングとジュヴィアのほうを見やるが、リングは相変わらずほえっとし
ているし、ジュヴィアは何故か苦々しげにユリアのほうを見ている。
(ちょっと待てよ~!俺ってピンチに陥りすぎじゃねえか!)
「ユリアが世話になったねギゼー君。それでいくら払えば良いんだい?(嘲)」
唇の片方を吊り上げ、ケン様がギゼーを見下ろす。やはり体格差からか、ケン
様の方が心理的優位を感じているようだ。ギゼーはと言えば、ビビリつつも矢張
り今の言葉はカチンときたらしく、文句をいうべく口を尖らせた。
だが、彼の言葉は横から伸びてきた手に遮られる。見ると、ジュヴィアがあの
紫色の瞳でじっとケン様を見据えている。
「シロウさんと仰いましたね」
遠慮の無い眼差しと物言いに、ケン様がたじろぐ。だが、ジュヴィアは気にも留
めずに言葉を続けた。
「このギゼーさんは確かに素性の知れない怪しい者に見えるかもしれませんが、
ユリアさんをお助けしたのは事実です。私から見れば、柄の悪い者にユリアさ
んが狙われているのを放っておいた貴方の方が余程下賎に見えます」
一息にそう言ってしまうと、ジュヴィアはギゼーの口から手を退けた。ケン様が
口をパクパクさせながら何か言おうとしているが、言葉が思いつかないようだ。
(ジュヴィアちゃん、これって助太刀かぁ~?何か怒らせてないか、これ?下賎っ
て言っちゃってるし…)
ギゼーの思いをよそにリングが横槍を入れる。
「ギゼーさんは、お礼が欲しくて助けたんじゃないですよ」
どこか自分の婚約者に似た雰囲気のリングにそう言われ、ケン様も毒気を抜か
れてしまったようだ。何か言いたそうな顔をしたまま、部屋を出て行く。去り際
にこんな捨て台詞を残していった。
「フッ…今日のところはユリア、君の美しさと、ミス・リングの仲間を思う優し
い心に免じてギゼー君とジュヴィアちゃんは勘弁してあげよう。ただ…今度僕
にそんな口を利くと、侯爵家シロウ家が黙ってはいないよ(不敵)」
そのまま豪奢な扉を力任せにバダンと閉める。勢いにシャンデリアがゆらゆらと
揺れ、扉のそばに置いてあった高そうな壺が台座から転げ落ちる。ギゼーは慌て
てそれを支えた。ジュヴィアがボソリと呟く。
「侯爵家では扉の閉め方の作法を習わないのですね。第一私はあんな人にジュヴィ
アちゃんとか呼ばれる筋合いはないと思うのですが」
その言葉を聞いて、ユリアが表情を曇らせる。
「あ、あの…ケン様のこと、お気に障ったならごめんなさい…」
瞳の端には涙の存在すら窺える。その視線がまっすぐジュヴィアのみを捉えてい
るのにギゼーはようやく気が付いた。
(え、これって…まさか)
だが、リングののんきな声で思考は途切れた。
「ユリアさんは、ケンさんのことをあまりお好きでないんですね~?」
のんきな声だが内容はいつになく鋭い。ユリアは不安そうに頷いた。
「実は…私の意思でない婚約なんです。父がケン様をとても気に入って…」
「あの、どこを気に入ったって言うんだ?」
「『貴族界で私と互角に戦える男はあいつだけだ』と言っていました」
ギゼーは暫し面食らった。
「何だ、そりゃ」
「結婚してからは、父親でなく夫が一番近くでお前を守る存在になるのだから、
私より弱い輩は認めん――というのが父の言い分です」
ユリアは静かにまぶたを閉じた。儚げなその仕草はギゼーを魅了するに十分だった
様だ。ギゼーが勢いよく拳を作り、大声で叫ぶ。
「そんな話ってあるかよ!強けりゃあんなスカポンタンでもいいなんて、そんな
理屈は通りゃしねえ!侯爵家だかなんだか知らないが、嫌なもんは嫌って言わな
きゃ!」
「ありがとうございます、ギゼーさん。私を気遣ってくださって…」
ユリアが微笑む。だが、目からは大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていた。
「でも、これもきっと商人ラオウの娘に生まれた運命なんです…運命からは…逃れ
られません。でも、好きな人に好きと言えず…それだけが…」
口を手で覆い俯くユリアを見て、リングが慌てる。
「ど、どうしたんですかユリアさん?泣くのはダメですよ」
わたわたと手を振りながらそんなことを言ってみるが、当然ユリアの涙は止まらな
い。ギゼーはその姿を見てまたも自分の中に義憤心を燃え上がらせた――即ち、お
節介な心である。
「そんな運命なんてあるかよ!」
「ええ、馬鹿げています」
その声はジュヴィアだった。その場にいる全員が思わずそちらを見る。俯いたま
ま彼女は言った。
「運命?そんな言葉は馬鹿げています。自分が何もしないのを運命などとこじつけ
て周囲の同情を買おうなどと浅はかな考えは止めて下さい。目障りです」
冷たい言葉が次々に彼女の口から飛び出す。そんなに大きな声でもないのに部屋に
響くような心地がした。
「貴女がそれでもこれが運命だと言い張るなら」
ジュヴィアは頭を上げた。紫色の瞳でじっとユリアを見る。
「その運命、私が断ち切って見せます」
――かくしてケン様&ユリア別れさせ大作戦が決行される――
PC:ギゼー、ジュヴィア、リング
NPC:ユリア、ケン・シロウ
場所:大商人ラオウの豪邸
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もっと早く、君の方を愛していれば良かったのかも知れない。
時折キラリと光る(ように見える)その男の歯に、一同の視線は釘付けにされ
ていた。全身満遍なく日焼けしており、テカテカと光って見える。華奢なユリア
と並ぶと、まさに美女と野獣――
三人がそんなことを考えているうちに、その野獣ことケン・シロウ様はユリア
に訊ねた。
「ユリア、この人々は知り合いかな(微笑)」
暑苦しい白い歯がまたキラッと光った(ように見えた)。ユリアは余り気が乗ら
ないような口調でおずおずと言った。
「こちらの方々は、私がごろつきに絡まれていたのを助けてくださったのです。
この女性が、リングさん」
リングがぺこりと頭を下げる。
「この方がジュヴィアさん…」
何かがこもっていそうなその言い方に、ジュヴィアは再び先ほどの感覚を覚えた
が、一応軽く頭を下げる。
「そして、こちらがギゼーさんです」
「あ、どうも」
頭に手をやりながらギゼーが頭を下げた。途端にケン様の顔が嫌そうに歪む。
「ユリア、キミはどこの馬の骨とも知れない男を家に上げたのかい?(苦々)」
「えっ…?で、でもギゼーさんは私を助けてくださって…」
慌ててユリアが弁解するが、ケン様は聞く耳を持たない。
「僕の婚約者として、余り望ましい行動とはいえないな、ユリア(苦々)」
その嫌な顔のまま、ギゼーの前までやってくる。彼は狼狽した。
(ええっ!俺が悪いのかよ!?ていうかこの人殴るつもりか?)
思わずリングとジュヴィアのほうを見やるが、リングは相変わらずほえっとし
ているし、ジュヴィアは何故か苦々しげにユリアのほうを見ている。
(ちょっと待てよ~!俺ってピンチに陥りすぎじゃねえか!)
「ユリアが世話になったねギゼー君。それでいくら払えば良いんだい?(嘲)」
唇の片方を吊り上げ、ケン様がギゼーを見下ろす。やはり体格差からか、ケン
様の方が心理的優位を感じているようだ。ギゼーはと言えば、ビビリつつも矢張
り今の言葉はカチンときたらしく、文句をいうべく口を尖らせた。
だが、彼の言葉は横から伸びてきた手に遮られる。見ると、ジュヴィアがあの
紫色の瞳でじっとケン様を見据えている。
「シロウさんと仰いましたね」
遠慮の無い眼差しと物言いに、ケン様がたじろぐ。だが、ジュヴィアは気にも留
めずに言葉を続けた。
「このギゼーさんは確かに素性の知れない怪しい者に見えるかもしれませんが、
ユリアさんをお助けしたのは事実です。私から見れば、柄の悪い者にユリアさ
んが狙われているのを放っておいた貴方の方が余程下賎に見えます」
一息にそう言ってしまうと、ジュヴィアはギゼーの口から手を退けた。ケン様が
口をパクパクさせながら何か言おうとしているが、言葉が思いつかないようだ。
(ジュヴィアちゃん、これって助太刀かぁ~?何か怒らせてないか、これ?下賎っ
て言っちゃってるし…)
ギゼーの思いをよそにリングが横槍を入れる。
「ギゼーさんは、お礼が欲しくて助けたんじゃないですよ」
どこか自分の婚約者に似た雰囲気のリングにそう言われ、ケン様も毒気を抜か
れてしまったようだ。何か言いたそうな顔をしたまま、部屋を出て行く。去り際
にこんな捨て台詞を残していった。
「フッ…今日のところはユリア、君の美しさと、ミス・リングの仲間を思う優し
い心に免じてギゼー君とジュヴィアちゃんは勘弁してあげよう。ただ…今度僕
にそんな口を利くと、侯爵家シロウ家が黙ってはいないよ(不敵)」
そのまま豪奢な扉を力任せにバダンと閉める。勢いにシャンデリアがゆらゆらと
揺れ、扉のそばに置いてあった高そうな壺が台座から転げ落ちる。ギゼーは慌て
てそれを支えた。ジュヴィアがボソリと呟く。
「侯爵家では扉の閉め方の作法を習わないのですね。第一私はあんな人にジュヴィ
アちゃんとか呼ばれる筋合いはないと思うのですが」
その言葉を聞いて、ユリアが表情を曇らせる。
「あ、あの…ケン様のこと、お気に障ったならごめんなさい…」
瞳の端には涙の存在すら窺える。その視線がまっすぐジュヴィアのみを捉えてい
るのにギゼーはようやく気が付いた。
(え、これって…まさか)
だが、リングののんきな声で思考は途切れた。
「ユリアさんは、ケンさんのことをあまりお好きでないんですね~?」
のんきな声だが内容はいつになく鋭い。ユリアは不安そうに頷いた。
「実は…私の意思でない婚約なんです。父がケン様をとても気に入って…」
「あの、どこを気に入ったって言うんだ?」
「『貴族界で私と互角に戦える男はあいつだけだ』と言っていました」
ギゼーは暫し面食らった。
「何だ、そりゃ」
「結婚してからは、父親でなく夫が一番近くでお前を守る存在になるのだから、
私より弱い輩は認めん――というのが父の言い分です」
ユリアは静かにまぶたを閉じた。儚げなその仕草はギゼーを魅了するに十分だった
様だ。ギゼーが勢いよく拳を作り、大声で叫ぶ。
「そんな話ってあるかよ!強けりゃあんなスカポンタンでもいいなんて、そんな
理屈は通りゃしねえ!侯爵家だかなんだか知らないが、嫌なもんは嫌って言わな
きゃ!」
「ありがとうございます、ギゼーさん。私を気遣ってくださって…」
ユリアが微笑む。だが、目からは大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていた。
「でも、これもきっと商人ラオウの娘に生まれた運命なんです…運命からは…逃れ
られません。でも、好きな人に好きと言えず…それだけが…」
口を手で覆い俯くユリアを見て、リングが慌てる。
「ど、どうしたんですかユリアさん?泣くのはダメですよ」
わたわたと手を振りながらそんなことを言ってみるが、当然ユリアの涙は止まらな
い。ギゼーはその姿を見てまたも自分の中に義憤心を燃え上がらせた――即ち、お
節介な心である。
「そんな運命なんてあるかよ!」
「ええ、馬鹿げています」
その声はジュヴィアだった。その場にいる全員が思わずそちらを見る。俯いたま
ま彼女は言った。
「運命?そんな言葉は馬鹿げています。自分が何もしないのを運命などとこじつけ
て周囲の同情を買おうなどと浅はかな考えは止めて下さい。目障りです」
冷たい言葉が次々に彼女の口から飛び出す。そんなに大きな声でもないのに部屋に
響くような心地がした。
「貴女がそれでもこれが運命だと言い張るなら」
ジュヴィアは頭を上げた。紫色の瞳でじっとユリアを見る。
「その運命、私が断ち切って見せます」
――かくしてケン様&ユリア別れさせ大作戦が決行される――
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