◆――――――――――――――――――――――――――――
場所 大商人ラオウ邸
メンバー ギゼー ジュヴィア リング
NPC ラオウ ケン・シロウ様 ユリア嬢
◆――――――――――――――――――――――――――――
-海洋学者 ル・ハーンの著作<神秘の生物>より-
海竜族とは、四つの種に分かれた竜族の中で、海に生息するものを指す。
知能は高く、魔力を持つ者も存在する。
そして、その姿は見るものを恐怖で圧倒するであろう、おぞましさである。
「さて、これからどうするかだな・・・」
神妙な顔をしてギゼーが話す。ここは屋敷のサンルーフ。天井はガラス張り
で、やわらかい陽の光がまんべんなく射し込んで来る。そのサンルーフはユリ
アいわく、「午後のティータイム専用の場所」だそうで、そこから見渡せる庭
には、世界から集められたであろう何種類もの草花が花を咲かせていた。
そんなサンルーフで、三人はお茶をご馳走になっている。ギゼーはさっきか
ら考え込んでいて何も口にしていないし、リングは「美味しいですねっ!」を
連発してお茶を飲み、菓子を食べまくっていたが、ジュヴィアは一人目の前の
物を見つめながら、硬直していた。ジュヴィアには解っていた。・・・自分の
目の前にあるこの食器も、この菓子も、一般人には手の届かない高級品だとい
うことを。
これは一般人に対する嫌がらせなのか、それとも、単に何も考えずにしたこ
となのか。
「・・・・」
ジュヴィアは勝手に前者だと思い込んだ。ジュヴィアは、この女性が時折ジ
ュヴィアに変に注目していることに薄々感づいている。その視線には何か裏が
あることをジュヴィアは確信していた。
(裏・・・、いいえ、そんなものではない)
ジュヴィアはちょうど自分の向かいに座り、蜂蜜のような笑顔でリングに給
仕をしているユリアの顔を見つめた。この女性の仕草には、時折異質なものが
感じられるような気がしてならない。
(そう、それは裏というより「仮面」。お嬢様という「仮面」・・・)
そんな思考をめぐらせながらユリアを見つめていたジュヴィアだが、その思
考は突然の物音によって中断された。
バンッ
「おいっっ!!お前ら真面目に話し合う気あんのかよっっ!」
痺れを切らしたギゼーがテーブルを思いっきり叩いたのである。その拍子で
テーブルの上の食器がガタンと揺れた。そして、その音で、全員の行動がスト
ップモーションし、視線がギゼーに集まる。
「なんですか、ギゼーさん。いきなりテーブルを叩くものではありません」
その食器類の価値を知っているジュヴィアが思わず言った。
「ギゼーさん、この食器に何かあったら弁償できるだけのお金を持っているん
ですか?これはあのラバスブランドの有名な・・・」
「今、考えることはそれじゃない!!!」
憤然としてギゼーが言い返した。
「今考えることは、いかにしてユリアちゃんをあの体育会系キザ男の魔の手か
ら救ってあげるか、だろっ!それをなんだ、さっきから俺ばっかり考えてるじ
ゃないか!そこっ!お菓子を頬張らない!!」
びくっ、としてリングがお菓子をつまむ手を止めた。その横ではきょとんと
してユリアがギゼーの顔を見つめている。それを見て、ギゼーがはぁぁぁ
ぁ・・・と情けなさ倍増、といった感じのため息をついた。
「全く・・・、ユリアちゃん?今は君の事について話し合ってるんだ
ぜ・・・。少しは真剣に聞いてくれよ・・・」
「でも、ギゼーさん、お菓子、本当に美味しいんですよ?そういえばギゼーさ
ん、まだ一口も召し上がっていませんね。せっかくですから一口・・・」
「あのなー、リングちゃん、俺たちはここに菓子食いに来たわけじゃないだ
ろ!」
ギゼーはそういって興奮のあまりふんっと鼻をならす。彼の言うことはもっ
ともなので、リングはうなだれた。
「はい・・・、そうでした、すみません・・・」
「じゃあ、本題へ入ろうぜ。いかにして、ケン・シロウをユリアちゃんと別れ
させるか!」
ケン・シロウという名を口にしたとたん、ギゼーにさきほどの屈辱がよみが
えってきた。あの見下した態度、あのキザっぽい口調。
「きーーーーっ、今思い出してもムカツクぜっ!!!あんなヤツとなんか絶対
結婚させねぇっ!!」
怒りのあまり、思わず叫ぶギゼー。そんなギゼーを(なんだか、私情入りま
くりじゃないですか・・・)と冷ややかに見つめるジュヴィア。
「で、なんかいい案ないか?なんかこう、もう、あのきざ男がハンカチ噛んで
悔しがるようないい案!」
「ギゼーさん、私知ってますよ」
とたんにリングがにっこり笑って、人差し指をピンっと立てて言う。
「こういうの、たしかコトワザで<他力本願>っていうんです」
その言葉にぐっ、とギゼーは詰まった。
(なんでコイツはこんなことばっかり詳しいんだよっ)
「で?」
少し不機嫌気味にギゼーは尋ねた。
「何かいい案。特にジュヴィアちゃん、何かないか?」
「・・・何故私ですか」
「君が一番常識があって賢そうだからだよ。なぁ、なんか思いつかないか?」
「はいはいはい!」
思いがけず、リングの手が上がった。
「たしか、ここの主人さんのラオウさんは、強い男性がお好みでしたよね?」
ね、といった表情で、リングはユリアの顔を覗き込む。その言葉に、ユリア
が少し苦笑気味に答えた。
「ええ・・・、<力のあるものが最後は勝つ>が父のモットーなくらいですか
ら・・・」
「では、その<力>で、ケン・シロウ様を負かしてしまえばいいのではないで
しょうか?今の話からして、よほど<力>を信じているお父様のようですか
ら、力で力を負かしてしまえば何も言えないはずです」
「どうでもいいが、なぜ様づけなんだ?」
「え・・・、いえ、なんとなくそのほうがふさわしいかと」
「では、話は早いですね」
ジュヴィアが話を切り上げた。
「要は、誰かがケン・シロウに試合を申し込んで、勝てばいいんです」
「はっはっはっ!よく言った美少女!」
その大きな声にその場にいた全員が背後を振り返った。するとそこには顎鬚
をたっぷりと生やした、身長が二メートルがあるかと思われる巨体の男がずー
んと立っていたのだ。しかも、その身体にはボディービルダー並みの隆々とし
た筋肉がついている。そしてその横にむすっとした顔のケン・シロウもいた
が、その男に比べれば、ケン・シロウが小さく見えるのが驚きだった。
「あのぅ・・・、もしかしてこの方が・・・」
「・・・はい、私の父です」
ユリアから格闘好きらしいことはきいていたが、まさか、ここまで格闘派な
身体を持つ男だとは皆、思っていなかった。ギゼーはぽかんと口を開け、ジュ
ヴィアは無言で男を見つめ、リングはこんな大きな男をはじめて見たという感
動で顔がぱあっと輝いている。
そんな三人を尻目に、大男ラオウはにいっと笑い。三人の顔を見渡した。
「少女よ、たしかこのケン・シロウに勝負を申し込むといっていたな?」
「はい・・・たしかに・・・」
ラオウに見つめられたジュヴィアが、彼女らしくもなく少しどぎまぎしてい
るようにリングは見えた。
しかし、ラオウは満足げにジュヴィアを見つめるとはっはっはっと先ほどと
同じ豪傑笑いをした。
「はっはっはっ!ここまで威勢のいい美少女は初めて見たぞ!いやあ、気に入
った。実はな、私もちょうど同じようなことを考えていたところだ」
「えっ?」
ユリアが驚いて身を乗り出した。
「どういうことですか?お父様?」
「実はな、このたびこの、ケン・シロウのお披露目もかねて<全貴族対抗 無
差別格闘大会>を私の所有している、<天界格闘場>で開催しようと思ってい
たのだ。最近、貴族も身体がなまっているようだからな。ここは一発運動もか
ねて、な」
「な、・・・って・・・」
ギゼーは唖然としてラオウを見つめた。
(貴族って、格闘するものだったのか・・・!!!)
そういえば、この人もどう見たって貴族に見えない風体だ。
「そういうことでだ」
ラオウはリング、ジュヴィア、ギゼーの顔を順に眺めて言う。
「もし、その大会に参加して、君たちのうち一人でもこのケン・シロウを倒す
ことができたらムスメの結婚話は白紙に戻そう」
「なっ・・・、ラオウ様!」
どうやらこの話はラオウの突然の思い付きだったらしく、ケン・シロウは驚
いてラオウに言った。
「どうしてそんな・・っ・・・、突然っ!」
「別にいいだろう?ケン?それともお前・・・」
急にラオウの顔が厳しくなった。
「まさか、こんな素人に負ける気はないだろうな・・・?」
「いっ、いいえそんな、滅相もございません!」
ケン・シロウはとたんに平伏姿勢になった。
「私、自らの誇りとユリア様への愛のため、全身全霊、命をかけて戦いま
す!」
「よし、よくぞ言った!ケン!」
ラオウは、誰かさんによく似た、キラリンと光る白い歯を見せて三人に笑っ
た。
「そういうことだ、君たちが大会に参加してくれることを願っているよ」
(えと、こういうの、確かこういうんですよね・・・)
リングは心の中で思った。
(「類は友を呼ぶ」、と・・・)
場所 大商人ラオウ邸
メンバー ギゼー ジュヴィア リング
NPC ラオウ ケン・シロウ様 ユリア嬢
◆――――――――――――――――――――――――――――
-海洋学者 ル・ハーンの著作<神秘の生物>より-
海竜族とは、四つの種に分かれた竜族の中で、海に生息するものを指す。
知能は高く、魔力を持つ者も存在する。
そして、その姿は見るものを恐怖で圧倒するであろう、おぞましさである。
「さて、これからどうするかだな・・・」
神妙な顔をしてギゼーが話す。ここは屋敷のサンルーフ。天井はガラス張り
で、やわらかい陽の光がまんべんなく射し込んで来る。そのサンルーフはユリ
アいわく、「午後のティータイム専用の場所」だそうで、そこから見渡せる庭
には、世界から集められたであろう何種類もの草花が花を咲かせていた。
そんなサンルーフで、三人はお茶をご馳走になっている。ギゼーはさっきか
ら考え込んでいて何も口にしていないし、リングは「美味しいですねっ!」を
連発してお茶を飲み、菓子を食べまくっていたが、ジュヴィアは一人目の前の
物を見つめながら、硬直していた。ジュヴィアには解っていた。・・・自分の
目の前にあるこの食器も、この菓子も、一般人には手の届かない高級品だとい
うことを。
これは一般人に対する嫌がらせなのか、それとも、単に何も考えずにしたこ
となのか。
「・・・・」
ジュヴィアは勝手に前者だと思い込んだ。ジュヴィアは、この女性が時折ジ
ュヴィアに変に注目していることに薄々感づいている。その視線には何か裏が
あることをジュヴィアは確信していた。
(裏・・・、いいえ、そんなものではない)
ジュヴィアはちょうど自分の向かいに座り、蜂蜜のような笑顔でリングに給
仕をしているユリアの顔を見つめた。この女性の仕草には、時折異質なものが
感じられるような気がしてならない。
(そう、それは裏というより「仮面」。お嬢様という「仮面」・・・)
そんな思考をめぐらせながらユリアを見つめていたジュヴィアだが、その思
考は突然の物音によって中断された。
バンッ
「おいっっ!!お前ら真面目に話し合う気あんのかよっっ!」
痺れを切らしたギゼーがテーブルを思いっきり叩いたのである。その拍子で
テーブルの上の食器がガタンと揺れた。そして、その音で、全員の行動がスト
ップモーションし、視線がギゼーに集まる。
「なんですか、ギゼーさん。いきなりテーブルを叩くものではありません」
その食器類の価値を知っているジュヴィアが思わず言った。
「ギゼーさん、この食器に何かあったら弁償できるだけのお金を持っているん
ですか?これはあのラバスブランドの有名な・・・」
「今、考えることはそれじゃない!!!」
憤然としてギゼーが言い返した。
「今考えることは、いかにしてユリアちゃんをあの体育会系キザ男の魔の手か
ら救ってあげるか、だろっ!それをなんだ、さっきから俺ばっかり考えてるじ
ゃないか!そこっ!お菓子を頬張らない!!」
びくっ、としてリングがお菓子をつまむ手を止めた。その横ではきょとんと
してユリアがギゼーの顔を見つめている。それを見て、ギゼーがはぁぁぁ
ぁ・・・と情けなさ倍増、といった感じのため息をついた。
「全く・・・、ユリアちゃん?今は君の事について話し合ってるんだ
ぜ・・・。少しは真剣に聞いてくれよ・・・」
「でも、ギゼーさん、お菓子、本当に美味しいんですよ?そういえばギゼーさ
ん、まだ一口も召し上がっていませんね。せっかくですから一口・・・」
「あのなー、リングちゃん、俺たちはここに菓子食いに来たわけじゃないだ
ろ!」
ギゼーはそういって興奮のあまりふんっと鼻をならす。彼の言うことはもっ
ともなので、リングはうなだれた。
「はい・・・、そうでした、すみません・・・」
「じゃあ、本題へ入ろうぜ。いかにして、ケン・シロウをユリアちゃんと別れ
させるか!」
ケン・シロウという名を口にしたとたん、ギゼーにさきほどの屈辱がよみが
えってきた。あの見下した態度、あのキザっぽい口調。
「きーーーーっ、今思い出してもムカツクぜっ!!!あんなヤツとなんか絶対
結婚させねぇっ!!」
怒りのあまり、思わず叫ぶギゼー。そんなギゼーを(なんだか、私情入りま
くりじゃないですか・・・)と冷ややかに見つめるジュヴィア。
「で、なんかいい案ないか?なんかこう、もう、あのきざ男がハンカチ噛んで
悔しがるようないい案!」
「ギゼーさん、私知ってますよ」
とたんにリングがにっこり笑って、人差し指をピンっと立てて言う。
「こういうの、たしかコトワザで<他力本願>っていうんです」
その言葉にぐっ、とギゼーは詰まった。
(なんでコイツはこんなことばっかり詳しいんだよっ)
「で?」
少し不機嫌気味にギゼーは尋ねた。
「何かいい案。特にジュヴィアちゃん、何かないか?」
「・・・何故私ですか」
「君が一番常識があって賢そうだからだよ。なぁ、なんか思いつかないか?」
「はいはいはい!」
思いがけず、リングの手が上がった。
「たしか、ここの主人さんのラオウさんは、強い男性がお好みでしたよね?」
ね、といった表情で、リングはユリアの顔を覗き込む。その言葉に、ユリア
が少し苦笑気味に答えた。
「ええ・・・、<力のあるものが最後は勝つ>が父のモットーなくらいですか
ら・・・」
「では、その<力>で、ケン・シロウ様を負かしてしまえばいいのではないで
しょうか?今の話からして、よほど<力>を信じているお父様のようですか
ら、力で力を負かしてしまえば何も言えないはずです」
「どうでもいいが、なぜ様づけなんだ?」
「え・・・、いえ、なんとなくそのほうがふさわしいかと」
「では、話は早いですね」
ジュヴィアが話を切り上げた。
「要は、誰かがケン・シロウに試合を申し込んで、勝てばいいんです」
「はっはっはっ!よく言った美少女!」
その大きな声にその場にいた全員が背後を振り返った。するとそこには顎鬚
をたっぷりと生やした、身長が二メートルがあるかと思われる巨体の男がずー
んと立っていたのだ。しかも、その身体にはボディービルダー並みの隆々とし
た筋肉がついている。そしてその横にむすっとした顔のケン・シロウもいた
が、その男に比べれば、ケン・シロウが小さく見えるのが驚きだった。
「あのぅ・・・、もしかしてこの方が・・・」
「・・・はい、私の父です」
ユリアから格闘好きらしいことはきいていたが、まさか、ここまで格闘派な
身体を持つ男だとは皆、思っていなかった。ギゼーはぽかんと口を開け、ジュ
ヴィアは無言で男を見つめ、リングはこんな大きな男をはじめて見たという感
動で顔がぱあっと輝いている。
そんな三人を尻目に、大男ラオウはにいっと笑い。三人の顔を見渡した。
「少女よ、たしかこのケン・シロウに勝負を申し込むといっていたな?」
「はい・・・たしかに・・・」
ラオウに見つめられたジュヴィアが、彼女らしくもなく少しどぎまぎしてい
るようにリングは見えた。
しかし、ラオウは満足げにジュヴィアを見つめるとはっはっはっと先ほどと
同じ豪傑笑いをした。
「はっはっはっ!ここまで威勢のいい美少女は初めて見たぞ!いやあ、気に入
った。実はな、私もちょうど同じようなことを考えていたところだ」
「えっ?」
ユリアが驚いて身を乗り出した。
「どういうことですか?お父様?」
「実はな、このたびこの、ケン・シロウのお披露目もかねて<全貴族対抗 無
差別格闘大会>を私の所有している、<天界格闘場>で開催しようと思ってい
たのだ。最近、貴族も身体がなまっているようだからな。ここは一発運動もか
ねて、な」
「な、・・・って・・・」
ギゼーは唖然としてラオウを見つめた。
(貴族って、格闘するものだったのか・・・!!!)
そういえば、この人もどう見たって貴族に見えない風体だ。
「そういうことでだ」
ラオウはリング、ジュヴィア、ギゼーの顔を順に眺めて言う。
「もし、その大会に参加して、君たちのうち一人でもこのケン・シロウを倒す
ことができたらムスメの結婚話は白紙に戻そう」
「なっ・・・、ラオウ様!」
どうやらこの話はラオウの突然の思い付きだったらしく、ケン・シロウは驚
いてラオウに言った。
「どうしてそんな・・っ・・・、突然っ!」
「別にいいだろう?ケン?それともお前・・・」
急にラオウの顔が厳しくなった。
「まさか、こんな素人に負ける気はないだろうな・・・?」
「いっ、いいえそんな、滅相もございません!」
ケン・シロウはとたんに平伏姿勢になった。
「私、自らの誇りとユリア様への愛のため、全身全霊、命をかけて戦いま
す!」
「よし、よくぞ言った!ケン!」
ラオウは、誰かさんによく似た、キラリンと光る白い歯を見せて三人に笑っ
た。
「そういうことだ、君たちが大会に参加してくれることを願っているよ」
(えと、こういうの、確かこういうんですよね・・・)
リングは心の中で思った。
(「類は友を呼ぶ」、と・・・)
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