◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー、ジュヴィア、リング
NPC:助けられた美女ユリア、大商人ラオウ、(ユリアの許婚ケン・シロウ)
場所:ソフィニアの目抜き通り~大商人の豪邸
◆――――――――――――――――――――――――――――
貴方しか見えない。
貴方しか感じない。
貴方の居ない世界など考えられない。
ねえ、知ってる?
私が貴方を、待ち続けている事。
例え貴方が他の女性[ひと]を見つめていても、私は貴方を待ち続ける―。
いつか貴方が、振り向くその日まで…。
~メディーナの日記より~
「あの、助けていただいたお礼を言いたいのですが……」
被害者である美女が、おもむろに口を開く。
おどおどしていて、世間知らずな風体を示しているその肢体は、どこと無くリング
に似ていなくも無い。だが、リングの放つ“不思議”な雰囲気は、彼女からは発され
ていない。あくまでも人間、あくまでも唯の深窓の令嬢なのだ。
「あっ、いや、礼には及びませんよ。お嬢さん。元々そんなつもりで、助けた訳じゃ
ありませんから」
キザったらしく美女に向けて手など翳しながら、相手の申し出を断るギゼー。自己
陶酔にどっぷりと浸かっている様だ。周囲の、やや呆れ気味の視線など毛ほども感じ
ないほどだ。自分の世界に集中し過ぎる余り、周りが視界に入らないらしい。
そんなギゼーを無視するかのように美女に歩み寄ると、ジュヴィアは冷ややかに宣
言した。
「……別に、ギゼーさんがやっつけた訳じゃないです。それに、貰える礼は受け取っ
ておいた方が良い
です。……というわけで、頂きますよ?そのお礼」
ジュヴィアは、真っ直ぐに美女の瞳を覗き込む。彼の女性の瞳は、澄んだ菫色をし
ていた。
心なしか、その菫色の瞳が潤んでいるように見える。それも、視線をジュヴィアか
ら外さずに。
それに気付いたジュヴィアは、背筋に冷たい何かが走るのを感じた。が、しかしそ
の事を言葉に乗せることは無かった。
美女は、熱っぽい視線をジュヴィアの身に浴びせつつもしっかりと、するべきこと
をする。つまり、相手の名前を尋ねた。やや、夢見心地な声音だったが。
「あの………、失礼ですが、貴女(方)のお名前は………?」
突然当たり前の事を妙な感じで尋ねられ、少しムッとしながらジュヴィアが応じ
る。
「本っ当に、失礼ですね。他人の名前を尋ねるには、まず自分から名乗るのが礼儀で
しょう?」
何も知らないお嬢様であるところの美女は、ジュヴィアの言動を素直に受け入れ、
驚いて短く息を吸い込んだ。そして、慌てて訂正する。
「あっ!?それは、失礼しました。私は、ユリアと申します。商人ラオウの娘で、こ
の目抜き通りの先に行った所にある、家に住んでおります。貴女は?」
最後まで言い終えると、飛びっきりの笑顔をジュヴィアに向ける。男ならば誰で
も、悩殺される笑顔だ。ジュヴィアは、少女だからか無反応であったが。
一方、周囲の野次馬達は驚きの声でざわついていた。それも、ユリアと名乗った美
女が「商人ラオウの娘」と自分で名乗った当たりからだ。この界隈では、「商人ラオ
ウ」の名は結構それなりに―少なくとも、その職業名の上に“大”が付くくらいは―
有名らしい。ギゼーは、周囲のざわつきから飛び交う言葉でその事に気付かされ、少
しの驚きと関心をその表情に表した。
(へぇ………。結構有名な商人なんだ。ユリアさんの親父さんって)
ギゼーもプロだ。宝物を糧に生計を立てている身である。遺跡内で手に入れた宝物
を、時として闇市に売りに出す時があるのだ。その時に知り合った商人ならば、何人
かは知っている。闇商人という、裏の商法に通じている商人ではあるが。
それゆえか、商人の知り合いが多いギゼーですら、正規の商人であるユリアの父
親、「大商人ラオウ」の名は知識の宝庫の何処を探しても存在していなかった。
「……私は、ジュヴィア……」
意外と素直に自分の名を露わにしたユリアに対して、少なからず警戒を解いたの
か、ジュヴィアが口火を切って自身の名を口頭に上らせる。
「………そちらの、おどおどした女性はリングさん。………で、こちらの……失礼極
まりない、自信だけは無駄にあって、戦えないくせに喧嘩を売って、挙句の果てに他
人に場を任せる男性が、ギゼーさん」
話の流れからか、そのまま続けてジュヴィアが他の二人の紹介までも済ませてしま
う。多少、彼女の主観が入っているようだが。
「だぁっ!んだよつ!その説明はぁっ!?………お嬢さん、俺はギゼー。しがないト
レジャーハンターさ。あんたみたいな美人さんの危機を見ると、ついつい放って置け
なくてね。勝手に体が反応しちゃうんだ。いや、いや。決して勝算が無くて、あんな
行動したわけじゃなくて…だな…」
自分で自分の弁護をする事ほど間抜けな事は無いな、と一人失笑するジュヴィアで
あった―。
一行は、人の十倍はあろうかと言うほどの、巨大な鉄門扉の前に立ち尽くしてい
た。
そして、口を間の抜けた形に開け放ち、呆けていた。―ジュヴィア以外は。
巨大な鉄門扉と、地の果てまで続いていそうな広大な庭と、その庭を分かつように
真っ直ぐに伸びる道と、その行き着く先に胡麻のように見える屋敷とに眼を点にして
見入りつつ、驚嘆の声を漏らす。
「すっげ~~~~~!」
「こ~~んな、大きな屋敷に住んでいるんじゃ、大商人さんって、おっきなひとなん
ですねv」
これは、リングの驚嘆の声だ。それを聞いたギゼーは、肩を落とし、項垂れた。
(……ふぅ~、これからは、俺がこの子に世の中の常識を教えねばならんのか…)
三人が暫く屋敷の広大さに見惚れている間に開けたのか、ユリアが鉄門扉の向こう
で手招きしている。
「みなさ~ん!来て下さい。父に紹介します」
「てゆうか、金持ってんの父親なんじゃ…」と心の中で突っ込みを入れながらも、
ギゼーが彼女の手招きに応じて屋敷の敷地内に入る。それに習って、とばかりに後に
続くリングとジュヴィア。何気ない事にいちいち驚嘆を露わにするリングとは対照的
に、ジュヴィアは終始無表情である。
門を潜ると、唯真っ直ぐに伸びる道とその行き着く先に見える胡麻のような屋敷が
あるだけで、後は草原がどこまでも広がっていた。館は、やや小高い丘の上にあるよ
うだ。所々に木が植えてあるが、それも疎らで眼に映えるのは草原の方だ。成金趣味
もいいところで、草原の所々に金であしらわれた像が立ち並んでいた。ちょっとし
た、彫刻の森である。皆、著名な芸術家の手による物ばかりだ、とギゼーは察知し
た。
「!?おいっ、館から誰か出て来たぞ。ひょっとして、あんたのお父様か?…ユリア
さん」
いつの間に装着したのか、やや重量感のある航空ゴーグルで胡麻のような館を見て
ギゼーが言った。
それもまた、ギゼー御自慢のマジックアイテムである。その名も、“カルドスコー
プ”と言う。装着し、左右に組み込まれている魔法石の部分を一撫ですると、遠見の
魔法が発動し100km四方が見渡せるようになる。精度はその都度調節できるが、だ
いたい100km先に置いた紙に書かれてある文字が読めるほどである。当然、暗闇で
も見通せる優れ物だ。トレジャーハンター七つ道具の一つだ。
突然呼び掛けたギゼーの言葉に驚いて、ユリアが振り向き逆に尋ねる。
「それは、恰幅の良い人ですか?だいたい、40代前半くらいの?」
「いんや、違うな。筋骨隆々の、逞しい青年だ」
即答したギゼーのその言葉に、ユリアは顔色を変える。
まるで、何かを恐れてでもいるかのごとく、肩を戦慄[わなな]かせて。
「それ、私の父じゃありません。………私の、婚約者です」
館に到着すると、例の筋骨隆々の青年が一行を出迎えてくれた。
「やあ、ユリア(微笑)」
暑苦しい風体の上に、キザったらしい相貌の青年が、爽やかな笑顔でユリアに挨拶
してくる。何気に良く磨かれた歯が、陽の光を反射して一層暑苦しさを増しているよ
うである。
この青年こそ、ユリアの婚約者にしてソフィニアの名家であり、候爵位を持ってい
るシロウ家の跡取り息子である、ケン・シロウその人であった。
「……あの、皆さん。こちらが、私の婚約者のケン・シロウ様です」
ユリアは、やや視線を逸らせ気味で皆に紹介した。
PC:ギゼー、ジュヴィア、リング
NPC:助けられた美女ユリア、大商人ラオウ、(ユリアの許婚ケン・シロウ)
場所:ソフィニアの目抜き通り~大商人の豪邸
◆――――――――――――――――――――――――――――
貴方しか見えない。
貴方しか感じない。
貴方の居ない世界など考えられない。
ねえ、知ってる?
私が貴方を、待ち続けている事。
例え貴方が他の女性[ひと]を見つめていても、私は貴方を待ち続ける―。
いつか貴方が、振り向くその日まで…。
~メディーナの日記より~
「あの、助けていただいたお礼を言いたいのですが……」
被害者である美女が、おもむろに口を開く。
おどおどしていて、世間知らずな風体を示しているその肢体は、どこと無くリング
に似ていなくも無い。だが、リングの放つ“不思議”な雰囲気は、彼女からは発され
ていない。あくまでも人間、あくまでも唯の深窓の令嬢なのだ。
「あっ、いや、礼には及びませんよ。お嬢さん。元々そんなつもりで、助けた訳じゃ
ありませんから」
キザったらしく美女に向けて手など翳しながら、相手の申し出を断るギゼー。自己
陶酔にどっぷりと浸かっている様だ。周囲の、やや呆れ気味の視線など毛ほども感じ
ないほどだ。自分の世界に集中し過ぎる余り、周りが視界に入らないらしい。
そんなギゼーを無視するかのように美女に歩み寄ると、ジュヴィアは冷ややかに宣
言した。
「……別に、ギゼーさんがやっつけた訳じゃないです。それに、貰える礼は受け取っ
ておいた方が良い
です。……というわけで、頂きますよ?そのお礼」
ジュヴィアは、真っ直ぐに美女の瞳を覗き込む。彼の女性の瞳は、澄んだ菫色をし
ていた。
心なしか、その菫色の瞳が潤んでいるように見える。それも、視線をジュヴィアか
ら外さずに。
それに気付いたジュヴィアは、背筋に冷たい何かが走るのを感じた。が、しかしそ
の事を言葉に乗せることは無かった。
美女は、熱っぽい視線をジュヴィアの身に浴びせつつもしっかりと、するべきこと
をする。つまり、相手の名前を尋ねた。やや、夢見心地な声音だったが。
「あの………、失礼ですが、貴女(方)のお名前は………?」
突然当たり前の事を妙な感じで尋ねられ、少しムッとしながらジュヴィアが応じ
る。
「本っ当に、失礼ですね。他人の名前を尋ねるには、まず自分から名乗るのが礼儀で
しょう?」
何も知らないお嬢様であるところの美女は、ジュヴィアの言動を素直に受け入れ、
驚いて短く息を吸い込んだ。そして、慌てて訂正する。
「あっ!?それは、失礼しました。私は、ユリアと申します。商人ラオウの娘で、こ
の目抜き通りの先に行った所にある、家に住んでおります。貴女は?」
最後まで言い終えると、飛びっきりの笑顔をジュヴィアに向ける。男ならば誰で
も、悩殺される笑顔だ。ジュヴィアは、少女だからか無反応であったが。
一方、周囲の野次馬達は驚きの声でざわついていた。それも、ユリアと名乗った美
女が「商人ラオウの娘」と自分で名乗った当たりからだ。この界隈では、「商人ラオ
ウ」の名は結構それなりに―少なくとも、その職業名の上に“大”が付くくらいは―
有名らしい。ギゼーは、周囲のざわつきから飛び交う言葉でその事に気付かされ、少
しの驚きと関心をその表情に表した。
(へぇ………。結構有名な商人なんだ。ユリアさんの親父さんって)
ギゼーもプロだ。宝物を糧に生計を立てている身である。遺跡内で手に入れた宝物
を、時として闇市に売りに出す時があるのだ。その時に知り合った商人ならば、何人
かは知っている。闇商人という、裏の商法に通じている商人ではあるが。
それゆえか、商人の知り合いが多いギゼーですら、正規の商人であるユリアの父
親、「大商人ラオウ」の名は知識の宝庫の何処を探しても存在していなかった。
「……私は、ジュヴィア……」
意外と素直に自分の名を露わにしたユリアに対して、少なからず警戒を解いたの
か、ジュヴィアが口火を切って自身の名を口頭に上らせる。
「………そちらの、おどおどした女性はリングさん。………で、こちらの……失礼極
まりない、自信だけは無駄にあって、戦えないくせに喧嘩を売って、挙句の果てに他
人に場を任せる男性が、ギゼーさん」
話の流れからか、そのまま続けてジュヴィアが他の二人の紹介までも済ませてしま
う。多少、彼女の主観が入っているようだが。
「だぁっ!んだよつ!その説明はぁっ!?………お嬢さん、俺はギゼー。しがないト
レジャーハンターさ。あんたみたいな美人さんの危機を見ると、ついつい放って置け
なくてね。勝手に体が反応しちゃうんだ。いや、いや。決して勝算が無くて、あんな
行動したわけじゃなくて…だな…」
自分で自分の弁護をする事ほど間抜けな事は無いな、と一人失笑するジュヴィアで
あった―。
一行は、人の十倍はあろうかと言うほどの、巨大な鉄門扉の前に立ち尽くしてい
た。
そして、口を間の抜けた形に開け放ち、呆けていた。―ジュヴィア以外は。
巨大な鉄門扉と、地の果てまで続いていそうな広大な庭と、その庭を分かつように
真っ直ぐに伸びる道と、その行き着く先に胡麻のように見える屋敷とに眼を点にして
見入りつつ、驚嘆の声を漏らす。
「すっげ~~~~~!」
「こ~~んな、大きな屋敷に住んでいるんじゃ、大商人さんって、おっきなひとなん
ですねv」
これは、リングの驚嘆の声だ。それを聞いたギゼーは、肩を落とし、項垂れた。
(……ふぅ~、これからは、俺がこの子に世の中の常識を教えねばならんのか…)
三人が暫く屋敷の広大さに見惚れている間に開けたのか、ユリアが鉄門扉の向こう
で手招きしている。
「みなさ~ん!来て下さい。父に紹介します」
「てゆうか、金持ってんの父親なんじゃ…」と心の中で突っ込みを入れながらも、
ギゼーが彼女の手招きに応じて屋敷の敷地内に入る。それに習って、とばかりに後に
続くリングとジュヴィア。何気ない事にいちいち驚嘆を露わにするリングとは対照的
に、ジュヴィアは終始無表情である。
門を潜ると、唯真っ直ぐに伸びる道とその行き着く先に見える胡麻のような屋敷が
あるだけで、後は草原がどこまでも広がっていた。館は、やや小高い丘の上にあるよ
うだ。所々に木が植えてあるが、それも疎らで眼に映えるのは草原の方だ。成金趣味
もいいところで、草原の所々に金であしらわれた像が立ち並んでいた。ちょっとし
た、彫刻の森である。皆、著名な芸術家の手による物ばかりだ、とギゼーは察知し
た。
「!?おいっ、館から誰か出て来たぞ。ひょっとして、あんたのお父様か?…ユリア
さん」
いつの間に装着したのか、やや重量感のある航空ゴーグルで胡麻のような館を見て
ギゼーが言った。
それもまた、ギゼー御自慢のマジックアイテムである。その名も、“カルドスコー
プ”と言う。装着し、左右に組み込まれている魔法石の部分を一撫ですると、遠見の
魔法が発動し100km四方が見渡せるようになる。精度はその都度調節できるが、だ
いたい100km先に置いた紙に書かれてある文字が読めるほどである。当然、暗闇で
も見通せる優れ物だ。トレジャーハンター七つ道具の一つだ。
突然呼び掛けたギゼーの言葉に驚いて、ユリアが振り向き逆に尋ねる。
「それは、恰幅の良い人ですか?だいたい、40代前半くらいの?」
「いんや、違うな。筋骨隆々の、逞しい青年だ」
即答したギゼーのその言葉に、ユリアは顔色を変える。
まるで、何かを恐れてでもいるかのごとく、肩を戦慄[わなな]かせて。
「それ、私の父じゃありません。………私の、婚約者です」
館に到着すると、例の筋骨隆々の青年が一行を出迎えてくれた。
「やあ、ユリア(微笑)」
暑苦しい風体の上に、キザったらしい相貌の青年が、爽やかな笑顔でユリアに挨拶
してくる。何気に良く磨かれた歯が、陽の光を反射して一層暑苦しさを増しているよ
うである。
この青年こそ、ユリアの婚約者にしてソフィニアの名家であり、候爵位を持ってい
るシロウ家の跡取り息子である、ケン・シロウその人であった。
「……あの、皆さん。こちらが、私の婚約者のケン・シロウ様です」
ユリアは、やや視線を逸らせ気味で皆に紹介した。
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