忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/17 03:10 |
10.紅い森「RED FORESUT」/マレフィセント(Caku)
 PC フレア・ディアン・マレフィセント
NPC 傭兵団・魔物1号(?)
 場所 フレデリア街道沿いの宿屋~東の沼

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

RED FORESUT

紅く染まる森


森は含み笑いをしているように、暗く見えた。
窓枠の外の世界は、酷く待ちわびているような感じだった。








「フレア、傭兵達が動くぞ」

今にも支度を整えていたフレアはぎょっとした。
窓から見えた傭兵と白い法衣の魔術達……その数、総勢40人を下らない。

「なっ、あれっ……!?」

「さっき矢が見えた。
赤い矢だ、確かアレは傭兵が自分の死だと判断したときに放つ印だ。
身内を殺されて黙っていられねぇからな、これ以上街道沿いのこの
場所を危険にさらす訳にもいかない。
だから、今一気に狩りだそうって話らしい」

傭兵達の瞳には、正義と憎悪に輝く猛る光。
白い法衣の集団には、信仰と人々の盾となる使命と勇気がきらめく。
手に持つ禍々しいまでの松明の炎を掲げて、森へと進軍していく。

「ディアン!」

「わぁってるさ!
何があったか知らんが、あんないきり立った奴らの前にあいつが見つかれば
火炙りどころじゃねぇぞ。悪魔は人類の敵だからな、最悪の責め苦の果てに
内臓まで引きずり出されて、溶けた鉄の中に入れられて死ぬ」

がちゃり!と刀の柄を握り締め立ち上がり、裏口のドアを蹴り破る。
ディアンの悪魔処刑の台詞に、思わず青ざめるフレア。なんとしても彼ら
より早く少女を見つけなければ!

「なんで、なんでそこまで!」

「そりゃあ有史以来、悪魔のおかげで人間様が迷惑こうむってるからな。
少なくとも、悪魔っつう奴等は神の敵だ、そして、人間の敵でもある」

宿屋の裏手にある馬屋の柵を乗り越えて、繋いであった馬の手綱をとった。
軽やかに馬の背に乗ったディアンと、それに続くように別の馬にまたがる
フレア。
馬はこの宿屋のものなのだが、そんなことを気にしている余裕もない。
それに、今や村は騒然として誰も二人の行為など気がついていない。

「飛ばすぞフレア!ついてこい」

「言われなくても!」

二人は同時に薄暗い森の中へと駆け込んだ。
目指す場所は魔が棲むというーーーー東の沼地。




声が聞こえる。
それは憎悪と正義の声、神に守護された人間の声だ。

友の死を無駄にするな、悲しみの剣を掲げていざ復讐を
魔の声を無視してはいけない、断罪の炎を掲げていざ聖戦を

松明は森を焼き払う、あざみ野さえ焼き尽くして。
闇だけでなく、小鳥も焼き払う。焦げつく匂いが森を渡る。
花は縮れ、燃え尽き、葉は翠を失い干乾びる。
褪せた風は大気を焦がし、逃げ惑う命が炎に飲み込まれる音。

目指すは魔が巣食うというーーーー東の沼地。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「君、大丈夫かい?」

青年は、人の良さそうな顔で微笑んだ。
走ってきたのか、やや額に汗を浮かべて。手にはよく手入れされた弓一式。

「駄目じゃないか、こんなところに来ちゃ。さあ、帰ろう?」

そういってマレフィセントの手を握った。
少女を追いかけてきた青年は、周囲を見渡して少しだけ眉根をしかめた。
相当深い場所まで来てしまった。もう沼地が近い、早く戻らなければ。

少女は、もっと先に行きたかった。
しかし青年が手を握ってくれることが嬉しくて、歩みを止めた。
手を繋いでもらうのはすごく嬉しいので、小さな手で握り返すと青年は
優しく笑った。

ふと、青年は少女のフードを取ろうとした。
この周囲は沼地のうえに、草木は鋭く尖ったものも多い。怪我でもしてな
いだろうかと、彼はおとなしく手を引かれている少女のフードを取った。


それが、彼の運命を決めてしまった。


「ひっ…………」

喉元を捻り潰されたように、青年は叫びを押し殺した。
フードの下に隠されていたのは、歪な角とあどけない素顔と、獣の四肢。
まるで悪魔の教本そのままの山羊の足に歪に捩れた角。驚愕で思わず後ろ
へ下がる。握った手は、振り解かれた。

「?」

少女は不思議そうに首を傾げた。
今まで自分と接してくれた人達とは違う反応がわからなくて、もう一度手
を繋ごうと手を伸ばす。

「なっ…君、君は、まさか……」

と、周囲で風もないのにがさりと揺れ始めた。
青年が青ざめた顔で、周囲を振り向く。光の届かない森の中、足元に泥水
がたまってぴしゃりぴしゃりと音を立てた。
彼らの、周囲で。

「そうか、そうか…き、お前が沼の悪魔っ……僕を、嵌めたんだなっ!」

まるで見えない獣が周囲を走り回っているかのように、がさがさとせわし
ない森の中。
混乱した青年は憎悪と恐怖の眼差しでマレフィセントを睨んだ。
しかし、混乱しているのは少女も同じ。
いつのまにか同族の気配が複数も出てきて、一様に自分達を囲んでいる。
向けられた気配は、原始的な飢え。
それは少女に向けられていなかった、目前の青年へと向けられている。
それを理解すると、少女は必死に彼にしがみついた。

「なっ…触るなっ!離れろ、誰かっ……くそぉ!!」

腹を蹴られ、頬を殴られても、少女は離れなかった。
今ここで青年が一人になれば、周囲の同胞がこの青年を食べてしまう。
言葉が通じないと知っても叫ぶ、行かないで!と。

『θёёпβωэ!!』

その声に触発されたのか、急に周囲が静まり返った。
異界の言葉に、この沼地に潜む同胞が警戒したのか、急激に納まる気配と音。
しかし、それは青年の恐怖を増幅させただけのようだった。

『uu……u…пθωωαυζбθ…』

あの、あのね、行かないで……と言った次の瞬間。
下腹部に焼けた鉄を捻じ込まれるような激痛を感じて、思わず仰け反った。



「嫌だっ…死にたくない!くそっ、くそ!!」

少女に突き刺さった銀の短刀は、さらに一層力を込めて押し込まれた。
視界が真っ赤になるほどの痛みに蹲る少女を振り返りもせず、彼は弓を
構えながら走り出した。

『ζζ……θυυαωΩΖ……』

赤い意識の中で、手を繋ごうとして手を伸ばしても、彼は振り返らなかった。
その少女の周囲から、待ち構えていたとばかりの黒き影。
見た目は蛇のようで、青年の背に向かって一斉に鎌首をもたげ。



さらに、連なる赤い歌声。



絶叫。絶叫。赤い声と湿る水音。
何かが放たれる音に、その後はぐちゃくちゃと何かを抉り、食べる音。
絶叫、絶叫、発狂、最後に哄笑。
這いずる音に、そのすぐ隣で聞こえる骨を割るような、肉を裂く音楽。




痛いよう、痛いよう。
ごめんなさい、ごめんなさい、こんなことになるなんて知らなかったの。
少女は泣いた、痛くて痛くて血が出てくる。

仲間なんて探さなければよかった。
同胞なんて探そうと思わなければよかった。

痛いよ、恐いよ。誰か、誰か助けて。
真っ赤な血と一緒にぼろぼろ涙が溢れて止まらない。
こんなことになるなら、こんな痛い目に合うぐらいならもういい。
でも、でも。


お母さん、お母さん…お父さん、お父さん……。
でも一人も恐いの、一人は嫌なの。ひとりぼっちは絶対に嫌。
自分だけなんて耐えられない、一人きりじゃ痛くて悲しいの。

痛くて痛くて、その痛みに咽び、さらに咽び泣いた声で痛みが大きく
なり、泣き叫ぶ。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ここに、誰も知らなかったことがある。
森に入った傭兵達とディアン達。その後、入り口である場所には森な
どなく、後衛部隊が必死に周囲を捜索したにも関わらず“森と沼地な
どどこにもなかった”のである。
そこにはただ草原があるだけで、何もなかったという。
噂の東の沼さえ見当たらなかったという。後衛の傭兵部隊達はこう
いった。


「まるで森や沼が移動したみたいだ」と。

悪魔の森、という特殊な魔物がいる。
それは、森の木々からその草の根まで、森の全てが一つの悪魔、魔物
として生きる、巨大な生命体なのだと。
数百の木々にして一つのもの、数千の草にして一つなるもの。
数多にして個である魔物。森と沼を血肉とする広大な魔物の生態が
あることを知る人間はまれである。

もはや魔物ではなく、悪魔の一種であると。
森はただ待っているだけでよかったのだ。餌が、自らの中に来るのを。
そして、のべ40人以上の人間が体内にいる。








森は、笑った。

PR

2007/02/12 23:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼
11.アッシュローズ/フレア(熊猫)
キャスト:ディアン・フレア(・マレフィセント)
NPC:レンジャー(ディーナッツ)
場所:フレデリア街道沿い~魔の森
―――――――――――――――

- Speed of feeling runs -

―――――――――――――――


誰かの笑い声を聞いたような気がして、フレアは唾を飲み込んだ。


ひどく堅い唾だった。
ゆれる馬の背の上で、ちょっと振り返る。

誰もいないのはわかっているのに。
笑い声など聞こえるはずないのに。

森の入り口は、既に遠かった。

と、

「おい、おい!止まれっ!」

突然、横の茂みを突き破り、目の前に一人の男が飛び込んできた。

フレアは慌てて手綱を引いた。馬も驚いて、
激しく首を振りながら前足を上げる。
すんでのところで落馬しそうになったが、どうにか
馬は落ち着いてくれた。

「なんだ、あんた」

ディアンも馬を止めて、この密集した森の中で器用に向きを変える。
男はあえぐ胸を押さえるように手をあてて、もう片方の腕を振った。

「聞いてくれ。俺はディーナッツ。レンジャーをやっている者だ」
「レンジャー?」

レンジャーとは森や谷などの自然地区を保護、管理をする者達の
総称である。
また森を通過する旅人の案内(ナビ)もし、禁猟区での
密猟者の捕縛を行ったりもする。

「俺は本来、この森よりずっと西のエリアを担当していて、
 ここは管轄じゃない。
 だけど今回の件で、助っ人に来たんだ」

いや――、と、彼はふっと何かを確認するように横を見た。
だがすぐに首を横に振って、早口でまくしたてる。

「そんなことはどうだっていい。いいか、この森には入るな!
 なんでかって聞くまでもないだろう。
 死人が出てる。それも一人や二人じゃないんだ」
「死人?」

まともに驚いて、フレアは聞き返した。
ディーナッツと名乗ったレンジャーは大きく息を吐くと、
立ったまま膝に手を置いた。

「そうだよ――俺らの前にいた班は全滅だ。俺も5人の同僚と
 組んでいたが、3人死んだ。あとの一人は行方不明、
 最後のひとりは…狂った」

フレアはとっさにディアンを見た。ディアンは口を一文字にして
苦い顔をしている。彼女はさらにレンジャーに問い返した。

「一体なにが…?」
「知るかよ。わかるもんか。俺は帰るんだ」

おぼつかない足取りで森の入り口に向かうレンジャーの背を、
フレアは見送ることしかできなかった。

「フレア」


ディアンの呼びかけに振り向くと、彼は目で「どうする?」と
訊いてきていた。


フレアは迷うことなくうなずいて、手綱を取った。


・・・★・・・


「いぶし出すつもりだな」


前を走っているディアンのつぶやきが聞こえたのは、
この森が異常に静かだからに他ならなかった。


西風が吹いている。
このときばかりは、追い風は有難くない。
何かが燃える臭い。

「ひどい事をする…」

手の甲を鼻に押し付けて、フレアは上を見上げた。

日はとうに中天を過ぎ、あとは傾くばかりである。
その太陽も煙の黒いゆらぎに覆われて、
そのシルエットを不気味に森に落としている。
そのせいで、どう控えめに見ても空は暗い。

この森に入ってから既に、かなりの時間が経っている。


ヒィイイ…ン


まるでそのものが悲鳴のような、鏑矢の音がする。
鏑矢の音を聞くのはこれで二回目だが、この数は
あてにならないとフレアは踏んでいた。

自分ならば、鏑矢を打つ余裕があるくらいなら走って逃げる。
逃げ切れるかどうかは別として。

(何が起きているんだろう)

東に向かえば向かうほど、森は少しずつ様子を変えていた。
大木の姿はまばらになってゆき、背の低い木と、
湿地にあるような下草が目立っている。
馬の足には泥がつくようになり、疲れのせいもあってか
足取りは重い。

こんな寂しい場所に、あの少女はいるのだろうか。

(急がないと――)



頬に何かがあたった。花びらかと思って指で払うと、灰だった。




2007/02/12 23:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼
12.常磐世界/マレフィセント(Caku)
キャスト:ディアン・フレア・マレフィセント
NPC:なし
場所:『悪魔の森』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


常磐、永遠普遍。
変わらない森の色。変われない森の色。

常磐色。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

森は笑いに笑った。
反響した笑い声は旗となり、悪魔の森は自らの内に行進を始めた。





地を這う手は、泥と血に塗れてかぺかぺに渇いていた。
すでに沼地を離れ、今は鬱蒼と生い茂る雑草の中にいる。
出血はすでに止まり、血も収まっている。だが失われた血液は、
少女から体力と判断力を多大に奪っていた。

それでも、少女には致命傷ではない。
やはり少女は人とは違い、正しい進化の系譜を辿った生物ではないのだ。
ただ、どんな強靭な肉体を持とうと、どんな時に抗える寿命を抱こうとも
、刺されれば痛みにもがき、痛みを感じれば苦痛も感じるのであった。

また、感情を持つ存在ならではの、精神的な苦痛も。


『Юппθααωυ……а』

呼気は掠れ、痛みで枯れ果てた声帯は、声を朽ち果たしたように戦慄く。
それでも、少女は声をあげて這いずり彷徨う。
おかあさん、おかあさん…泣いても泣いても、見えるのは恐ろしげな森
と沼、まるで自分を遮るような草ばかり。

『Юппθααωυ……Юппθααωυ…』

必死に冷たい手足を動かす少女の嗅覚に、嫌な匂いが混じった。
懐かしいというには忌わしく、覚えがあるといえば思い出したくない
思い出にはっきり記憶された匂い。


焦げる匂い。
焼け落ちる異臭。
荒々しい叫び。
高ぶる士気。


人の気配がする。
嫌な匂いと記憶を振りかぶって聞こえた方向へ歩んだ。
浮かぶのは、優しい黒髪の少女と、恐いけれどどこか優しい白い騎士
の面影。それを支えに忌わしい経験を飲み込んだ。彼らに会いたい。

大丈夫?きっと白い手で頭を撫でてくれる。
もう安心していいよ、きっと優しく背中をさすってくれる。
このお腹の傷も触って、直してくれる。血で汚れた顔を拭いてくれる。
暖かいスープを飲ませてくれて、一緒にベットで眠ってくれる。


おかあさん、おとうさん。
少女の理性の欠けた頭によぎるのは楽しくて暖かいことばかり。
冷たい手足、血塗れの顔。
凍える現実の寒さに反比例するように、夢想はとてもとても暖かい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー


「なんか、おかしくないか?」

ディアンの発言で、フレアは顔をあげた。
先ほどから妙にも違和感を感じていただけに、無言で肯定した。

「ディアンも、そう思うのか?」

「迷ってるって感じじゃねぇんんだよ。
むしろ、森と一緒に“動いてる”って気がしてならない」


馬を一回転させて、フレアのほうに振り向かせる。
周囲にはやや不穏な気配があるものの、取り立てて危ないものは、
目に見える不審はない。それが、怪しいのだ。

「嫌な感じだ」

「…なあ、マレは大丈夫だろうか?怪我とかしてないだろうか…
こんなに探しても見つからない、もしかしたら迷子になってるのか…」

あるいは。
先にあの傭兵達に見つかってしまったのだろうか。
そんな事態にでもなってるのならば………

「人間ってのは悲観するとどこまでも崩れるだけだ。
見てまだ確かめもしてない事にいちいち悩んでると、いくら頭があって
も足りないぞ」


と、俯きかけたフレアの耳朶に、ある種あっけらかんとした声が響いた。
思わず反論しかけて顔を上げると、口をへの字に曲げて、それでも傲然
と構える不敵な男がいた。

「ディアンはそうやっていっつも!!」

「フレアみたく、俺は繊細でも器用でもなくてな。
細かいこと、わからねぇ事をいちいち幾つも同時に考えられないだけさ。
俺にわかるのは
今のことと、これからのことを出来るだけ上手く良いほうに持ってくっ
てことだけさ」

「………」


感嘆半分、呆れ半分。
どうしてこの男はこんな思考にたどり着けるのか。
これをこんな肯定的に考えられるようになりたい、と見るべきか、
はたまたどうしてこんな非常時にさえこんな思考が出来るのかと驚くべきか。


自分の胸に溜まっていた薄暗い霧が晴れていくように、少女は溜息をついた。
そうだ、悩む程度のことなら誰だって出来る。今は行動しなければ、悪魔の少
女の為にも。
自分の為にも、この男の為にも。
フレアの堅い決意を表すように、馬は嘶いた。


「行こう、ディアン。なるべく上手いほうに!」

「了解、リーダー」


おどけた調子とは裏腹に。
その瞳に焦燥と仄かな不安を宿して、それでもなお弱まらぬ眼光を携え。

彼らは求める先に駆けていく。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー


「悪魔の森ー…それは微細な個の集大成となった“群体”なのか。
あるいはそれ自体が、その中の自然環境生態全てを含めて大きな“個”なの
か」

「唯一確かなことといえば、それは確かに悪魔の分類に記載されるべき存在で
あることであろう。
それは動物を食らうのではない。人を食らう魔物だからだ。
悪魔の条件は、人類に敵対するもの、神に敵対するもの。神の似姿たる我らを
冒涜し、人の原形たる神を侮辱せし。
許されざり、認めうるなど不可なり。ああ、忌わしきその森よ。森の姿を名乗
る悪魔よ」

「森の全ての木は一つ一つが、全てが魔物。
草も花々も飛び交う蝶も、麗しい声の小鳥も、沼地を横切る蛇も何もかもが。
旅人よ、迷い込んでしまったらせめてもの救いに祈りなさい。
変わらない、来たる悲愴の終焉を。逃げられぬ森の顎に咥えられるまで」

そして、ページは破り捨てられていた。


「私はもう二度と森へなどと行ったりしない」


ある旅人の手記より
彼が悪魔の森を抜けられたのは何故か、どこにも記載されてなかった。

2007/02/12 23:06 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼
13.カーディナルレッド/フレア(熊猫)
キャスト:ディアン・フレア(・マレフィセント)
場所:フレデリア街道沿い~魔の森
―――――――――――――――

- Scape goat -

―――――――――――――――

死体がなくとも、この場所で人間が死んだのは確かなようだった。
血臭が風に混じる。

明らかに黒味を増した泥、片方しかないブーツ。


大量の血。


肺の中まで赤に染まる幻想を覚えて、フレアの気持ちは沈んだ。

がさり、と横手の茂みが揺れる。
フレアは一瞬だけ魔物の姿を想像したが、そこにいたのは
ディアンだった。

「こんだけ小道具があんのに、肝心の役者がいないってのは
どういう事だ?こりゃ」

ディアンは手に短剣を持っている。無論彼の得物ではない。
おそらく、『役者』のものだ。
これも馬鹿丁寧に血で汚れている。

「それは?」

フレアが問うと、彼は短剣の柄を軽く握って、こちらに突くふりをした。

「こう――刺したんだな。そこに落ちてた…まぁ、来いよ。
 見たほうが早いだろ」

馬から離れるのは不安だったが、この森にいる限り
危険なのはかわりない。
茂みをかきわけるディアンについていくと、そこは
木々が大きくひらけた所だった。

小さな浅い水溜まりが点在し、足元の土や苔も多分に水を含んでいる。


その、一画。


先ほどと同じく、黒くわだかまった泥。
その端は水にひたり、一部を赤く染めている。

それだけなら先ほどと同じだが、何かをひきずったような跡が、
雄弁に何かを物語っていた。

「この『主』はこれだけ血が出てんのに、どうしてまだ動けるかね?
 ――それと、だ」

言いながらディアンは、無造作に銀の短剣を放り捨てる。
刃から落ちた凶器は、音さえ立てず泥に突き立った。

「この足跡は――人間のじゃねぇよな」

彼の指差した先にあったのは。




一対の蹄の跡だった。


「――!」




それを知覚してフレアが息を飲んだ時、残してきた馬が
絶叫した。

振り返るが、茂みのせいでどうなっているのかわからない。
ただ、盛大な血の破片と、揺れる尻尾、荒い息遣いだけで、
おおむね状況は理解できた。


つまり、危険が迫っているということ。


2人が走り出したのはまさに同時だった。
馬のほうではなく、根拠のない這い跡を辿る。

泥は残酷なほどまで正直に『その時』を示し、
森は今も相変わらず背後で命をむさぼっている。
馬の断末魔を聞き流して、泥に残された痕跡をたどってゆく。



小さな手形、手形、手形、蹄、手形、血。



その先にいるのが正義ではないことを、不本意ながらフレアは祈っていた。


2007/02/12 23:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼
14.Crimson Flag/マレフィセント(Caku)
キャスト:ディアン・フレア・マレフィセント
NPC :イザベル(宣教師)、ザイリッツ(隻腕の男)、その他傭兵団
場所  :魔の森


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


Crimson Flag

旗が上がった。深紅の旗だ。
白い旗なら降伏の証。赤い旗なら……開戦の合図だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

魔物の森が行進する、笑いながら啜りながら。
悪魔の声が反響する、雄叫び、泣き声、哄笑とりどりと。

森に放たれた火が、沈静化していた。
全てを燃やし尽くす炎ですら、この魔物を灰に返せないのか。
蠢く森に、彷徨う人々。
果たして、逃げ出せるのは幾人か………?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


闇が謳歌する森の中を、一人の女が走っていた。
名前はイザベル、白い法衣も今や血と泥で汚れてしまっている。
森の木々の根でよろけ、思わず近場の木の幹に手をつく。呼吸は荒く、息は絶
え絶え。
最後の手綱であるかのように、握り締めるのは胸元の金のロザリオ。

褪せた金髪を乱して、目をつぶる。
悪魔を滅ぼそうとして、彼らは森へと入った。そして、森に吸い込まれた一人
の子供を追って。
そう、子供がいたのだ。フードをかぶった子供。
昼間に出会った子供、フードの隙間からちらりと見えた青い瞳と髪。
彼女の心を貫いたのは、ありし日の思い出、追憶の光景。
子供がいた、そう…愛した人と同じ青い瞳の可愛い我が子。愛らしい自分の
娘。




…………

とある教会で起こった事件の前。
その教会で、自分の娘は天使のような衣装で初めての聖歌隊に望んでいた。
送り出した朝は光に溢れ、娘は笑顔で騎士の父親と共に教会へ向かう。
娘を抱える夫は、嬉しそうに抱えた我が子に目を細め、家の玄関で見送る妻に
笑った。


帰ってきたら、今日はご馳走だね。


雨上がりの植木は露をのせて煌き、陽光は暖かく世界を包んでいた。
丘の向こうに暗雲がまだ広がっていたけれど、その自分達の朝には決して及ば
ないと思った。雨は、きっと夕方頃だろう と思っていた。

世界は、空は繋がっていた。
輝く朝の後には、泣き崩れる雷雨が来た。

時計は夜の3時を過ぎていた。
微笑みながら、遅い二人の夕食を待ち続けた。食卓はとうに冷え、永遠に開け
られないワインが、テーブルに並んでいる。
ただ、彼女は待ち続けた。雷雨の中で、大切なものが帰ってくるのを。

帰ってきた夫は首と足がなかった。帰り着いた娘は顔と手がなかった。
無言の帰宅を迎えるのは、冷えた夕餉と泣き崩れた彼女だけ。
白い法衣の同胞は、ただ無言で彼女の背をさするしかできなかった。

大切なものは、帰ってきたはずなのに、もうどこにもいなかった。

………





一緒にいた傭兵達とははぐれてしまった。
遠い木々の間から叫び声がいくつも聞こえた。彼らの末路は容易に想像でき
る。
胸に輝くロザリオ、それだけが、唯一の彼女の守りだった。

がさっ と突然目前の草むらが揺れた。
恐怖に叫びそうな口元を必死に抑えて、よろよろと後退する。
逃げられなかった、逃げられないのだ。この森から、この悪魔の群れから。
走っても走っても続く悪夢、今まさに最後の悪夢がーーーーー。


「………uuαθл」


草むらから現れたのは、悪夢でもなければ天使でもなかった。
這い蹲るように手足をついた、魔の娘。
彼女が昼間に聖水を手渡し、青い瞳に心を打たれた少女の姿だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「このままでは全滅です、引き返しましょう!!」

若い傭兵の叫びに、残った集団が脅えながらも頷く。
一緒に歩いていたはずの仲間の幾人かがいなくなり、歩む道先にその「欠片」
ばかりが見つかる。

「…引き返せるのか?」

リーダー格の隻腕の男は、静かな、それでいてよく透き通る低い声で周囲を見
渡した。

「…諸君、よく聞け。
我らはいつから死に脅えるようになった?旅などしてれば幾らでも死の危険な
どある。
いつどこで朽ち果てようとも、君達にはその覚悟があったのではないか?」

隻腕の男の話に、俯く傭兵達。
正義に、人類の宿敵に仇を討つという崇高な目的ばかりで、危険を考えなかっ
たのだ。
隻腕の男の声は、静かに静かに彼らを射抜いた。

「……だが」

隻腕の男の声が、数倍にまで増したような感覚。
まるで声そのものが質量を持つような、そんな力強い声と音。
皆が、顔を上げた。

「ただ怯え死に、朽ち果てるという選択肢以外にもやりようはある。
死を覚悟するぐらいなら、何でも出来る…そう思うことにしないか?」

隻腕の男の、死地の中の砕けた雰囲気は周囲を微笑ませた。
再び武器を握りなおす力を得た集団は、それでも不安そうに森を見渡す。

「だが…どうやってこの森から抜けられるのだろうか?」

「ふむ、難しい質問だな。
こういう時、勇者の一団は森の奥深くまで行く。すると悪魔がいて戦いにな
る。
最後は壊れていく森の中から奇跡的に皆で脱出…という筋がよかろう?」

不謹慎だが、最後は幾人か笑いをこぼした。
と、隻腕の男がかすかに目を細め、瞬時に剣を抜き放った。
前の茂みに狙いを定め、動きを止めると、周囲も凍るように身構える。

「ずいぶんな挨拶だな」

「その様子では、君達の娘は見つかっていないようだね」

現れたのは、フレアとディアンだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あ、あなた……」

イザベルは声もない。
青い瞳の少女は、見るからに人間外のもの。
歪な角、針金のような黒い翼、半身はまさに馬のもの。悪魔と相応しい身な
り。

「悪魔……?」

言葉が切れ切れに、震える。
わななく唇を必死に押さえて、目の前の少女を凝視する。

「………?」

少女は、汚れた顔を上げて泣き顔を必死に上げた。
そのまま一瞬だけ硬直して、と、なぜか泣き始めた。

「え……」

泣かれても困る。
子供が泣いてると、とっさに母親の頃の記憶を思い出してしまう。
おずおずと、頭を撫でてあげて抱きしめてやる。きっとこの後、私は心臓とか
抜き取られるんだろうとわかっても、彼女はそうした。
抱きしめてやると、また泣き声が酷くなった。
困惑しながらもとりあえず宥める。悪魔なのに、その子は暖かかった。

心臓は抜き取られなかった。その子は血を啜ったりなどしなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「私の名はザイッツリ。片腕は昔、戦争で亡くしてね」

「ずいぶん、数がへってるな」

挨拶もそこそこに、彼はディアンの言葉に頷いた。

「ああ、幾人かがやられたようだ。そこでだ、君達も悪魔を倒すのに協力して
欲しい」

「残念だが、そりゃあできねぇ相談だな」

ざわり、とディアンの不穏な発言に戸惑う人々。

「……ふむ、君達は悪魔の手先でもないようだが、我々の味方でもないと?」

「悪魔だって魔物だってどうだっていい、俺達は探し物さえ見つかれば退散す
る。
悪魔狩りなら他所でやってくれ、俺達は生き延びるのに必死な一般市民でね」

頑ななディアンの口調に何を悟ったのか、隻腕の男・ザイッツリはふと笑っ
た。

「一般市民にしては、腕が立つようだね」

「そりゃどうも」

「探している子供は、どうやら人ではないのかな?」

「………」

フレアが少しだけ、肩を引き攣らせた。
それを見て、豪快に笑うザイリッツ。魔の森の最中というに、その大笑いが出
来る肝は並外れているといえよう。

「いやいや、お前さんよりもずいぶん後ろのお嬢さんは素直だな。素直なのは
よいことだ。
では交換条件といこう、お前さんらは子供を捜している。俺らはこの森の魔物
を倒したい。
どちらにしろ、この森はどうやら何かの意志によって統一されているようだし
な。
子供が見つかって森から出るにしろ、簡単には逃がしてくれなそうだぞ?」

「………」

男臭い笑みが、妙に清清しいザイリッツは剣を担いだ。

「お前さんの子供は見逃そう。そのかわり、俺らの手伝いをしてほしい。
全部見逃してやろう、だから、そのために共に戦おうではないか」




2007/02/12 23:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

<<前のページ | HOME | 次のページ>>
忍者ブログ[PR]