キャスト:ディアン・フレア・マレフィセント
NPC:なし
場所:『悪魔の森』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
常磐、永遠普遍。
変わらない森の色。変われない森の色。
常磐色。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
森は笑いに笑った。
反響した笑い声は旗となり、悪魔の森は自らの内に行進を始めた。
地を這う手は、泥と血に塗れてかぺかぺに渇いていた。
すでに沼地を離れ、今は鬱蒼と生い茂る雑草の中にいる。
出血はすでに止まり、血も収まっている。だが失われた血液は、
少女から体力と判断力を多大に奪っていた。
それでも、少女には致命傷ではない。
やはり少女は人とは違い、正しい進化の系譜を辿った生物ではないのだ。
ただ、どんな強靭な肉体を持とうと、どんな時に抗える寿命を抱こうとも
、刺されれば痛みにもがき、痛みを感じれば苦痛も感じるのであった。
また、感情を持つ存在ならではの、精神的な苦痛も。
『Юппθααωυ……а』
呼気は掠れ、痛みで枯れ果てた声帯は、声を朽ち果たしたように戦慄く。
それでも、少女は声をあげて這いずり彷徨う。
おかあさん、おかあさん…泣いても泣いても、見えるのは恐ろしげな森
と沼、まるで自分を遮るような草ばかり。
『Юппθααωυ……Юппθααωυ…』
必死に冷たい手足を動かす少女の嗅覚に、嫌な匂いが混じった。
懐かしいというには忌わしく、覚えがあるといえば思い出したくない
思い出にはっきり記憶された匂い。
焦げる匂い。
焼け落ちる異臭。
荒々しい叫び。
高ぶる士気。
人の気配がする。
嫌な匂いと記憶を振りかぶって聞こえた方向へ歩んだ。
浮かぶのは、優しい黒髪の少女と、恐いけれどどこか優しい白い騎士
の面影。それを支えに忌わしい経験を飲み込んだ。彼らに会いたい。
大丈夫?きっと白い手で頭を撫でてくれる。
もう安心していいよ、きっと優しく背中をさすってくれる。
このお腹の傷も触って、直してくれる。血で汚れた顔を拭いてくれる。
暖かいスープを飲ませてくれて、一緒にベットで眠ってくれる。
おかあさん、おとうさん。
少女の理性の欠けた頭によぎるのは楽しくて暖かいことばかり。
冷たい手足、血塗れの顔。
凍える現実の寒さに反比例するように、夢想はとてもとても暖かい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーー
「なんか、おかしくないか?」
ディアンの発言で、フレアは顔をあげた。
先ほどから妙にも違和感を感じていただけに、無言で肯定した。
「ディアンも、そう思うのか?」
「迷ってるって感じじゃねぇんんだよ。
むしろ、森と一緒に“動いてる”って気がしてならない」
馬を一回転させて、フレアのほうに振り向かせる。
周囲にはやや不穏な気配があるものの、取り立てて危ないものは、
目に見える不審はない。それが、怪しいのだ。
「嫌な感じだ」
「…なあ、マレは大丈夫だろうか?怪我とかしてないだろうか…
こんなに探しても見つからない、もしかしたら迷子になってるのか…」
あるいは。
先にあの傭兵達に見つかってしまったのだろうか。
そんな事態にでもなってるのならば………
「人間ってのは悲観するとどこまでも崩れるだけだ。
見てまだ確かめもしてない事にいちいち悩んでると、いくら頭があって
も足りないぞ」
と、俯きかけたフレアの耳朶に、ある種あっけらかんとした声が響いた。
思わず反論しかけて顔を上げると、口をへの字に曲げて、それでも傲然
と構える不敵な男がいた。
「ディアンはそうやっていっつも!!」
「フレアみたく、俺は繊細でも器用でもなくてな。
細かいこと、わからねぇ事をいちいち幾つも同時に考えられないだけさ。
俺にわかるのは
今のことと、これからのことを出来るだけ上手く良いほうに持ってくっ
てことだけさ」
「………」
感嘆半分、呆れ半分。
どうしてこの男はこんな思考にたどり着けるのか。
これをこんな肯定的に考えられるようになりたい、と見るべきか、
はたまたどうしてこんな非常時にさえこんな思考が出来るのかと驚くべきか。
自分の胸に溜まっていた薄暗い霧が晴れていくように、少女は溜息をついた。
そうだ、悩む程度のことなら誰だって出来る。今は行動しなければ、悪魔の少
女の為にも。
自分の為にも、この男の為にも。
フレアの堅い決意を表すように、馬は嘶いた。
「行こう、ディアン。なるべく上手いほうに!」
「了解、リーダー」
おどけた調子とは裏腹に。
その瞳に焦燥と仄かな不安を宿して、それでもなお弱まらぬ眼光を携え。
彼らは求める先に駆けていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
「悪魔の森ー…それは微細な個の集大成となった“群体”なのか。
あるいはそれ自体が、その中の自然環境生態全てを含めて大きな“個”なの
か」
「唯一確かなことといえば、それは確かに悪魔の分類に記載されるべき存在で
あることであろう。
それは動物を食らうのではない。人を食らう魔物だからだ。
悪魔の条件は、人類に敵対するもの、神に敵対するもの。神の似姿たる我らを
冒涜し、人の原形たる神を侮辱せし。
許されざり、認めうるなど不可なり。ああ、忌わしきその森よ。森の姿を名乗
る悪魔よ」
「森の全ての木は一つ一つが、全てが魔物。
草も花々も飛び交う蝶も、麗しい声の小鳥も、沼地を横切る蛇も何もかもが。
旅人よ、迷い込んでしまったらせめてもの救いに祈りなさい。
変わらない、来たる悲愴の終焉を。逃げられぬ森の顎に咥えられるまで」
そして、ページは破り捨てられていた。
「私はもう二度と森へなどと行ったりしない」
ある旅人の手記より
彼が悪魔の森を抜けられたのは何故か、どこにも記載されてなかった。
NPC:なし
場所:『悪魔の森』
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常磐、永遠普遍。
変わらない森の色。変われない森の色。
常磐色。
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森は笑いに笑った。
反響した笑い声は旗となり、悪魔の森は自らの内に行進を始めた。
地を這う手は、泥と血に塗れてかぺかぺに渇いていた。
すでに沼地を離れ、今は鬱蒼と生い茂る雑草の中にいる。
出血はすでに止まり、血も収まっている。だが失われた血液は、
少女から体力と判断力を多大に奪っていた。
それでも、少女には致命傷ではない。
やはり少女は人とは違い、正しい進化の系譜を辿った生物ではないのだ。
ただ、どんな強靭な肉体を持とうと、どんな時に抗える寿命を抱こうとも
、刺されれば痛みにもがき、痛みを感じれば苦痛も感じるのであった。
また、感情を持つ存在ならではの、精神的な苦痛も。
『Юппθααωυ……а』
呼気は掠れ、痛みで枯れ果てた声帯は、声を朽ち果たしたように戦慄く。
それでも、少女は声をあげて這いずり彷徨う。
おかあさん、おかあさん…泣いても泣いても、見えるのは恐ろしげな森
と沼、まるで自分を遮るような草ばかり。
『Юппθααωυ……Юппθααωυ…』
必死に冷たい手足を動かす少女の嗅覚に、嫌な匂いが混じった。
懐かしいというには忌わしく、覚えがあるといえば思い出したくない
思い出にはっきり記憶された匂い。
焦げる匂い。
焼け落ちる異臭。
荒々しい叫び。
高ぶる士気。
人の気配がする。
嫌な匂いと記憶を振りかぶって聞こえた方向へ歩んだ。
浮かぶのは、優しい黒髪の少女と、恐いけれどどこか優しい白い騎士
の面影。それを支えに忌わしい経験を飲み込んだ。彼らに会いたい。
大丈夫?きっと白い手で頭を撫でてくれる。
もう安心していいよ、きっと優しく背中をさすってくれる。
このお腹の傷も触って、直してくれる。血で汚れた顔を拭いてくれる。
暖かいスープを飲ませてくれて、一緒にベットで眠ってくれる。
おかあさん、おとうさん。
少女の理性の欠けた頭によぎるのは楽しくて暖かいことばかり。
冷たい手足、血塗れの顔。
凍える現実の寒さに反比例するように、夢想はとてもとても暖かい。
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「なんか、おかしくないか?」
ディアンの発言で、フレアは顔をあげた。
先ほどから妙にも違和感を感じていただけに、無言で肯定した。
「ディアンも、そう思うのか?」
「迷ってるって感じじゃねぇんんだよ。
むしろ、森と一緒に“動いてる”って気がしてならない」
馬を一回転させて、フレアのほうに振り向かせる。
周囲にはやや不穏な気配があるものの、取り立てて危ないものは、
目に見える不審はない。それが、怪しいのだ。
「嫌な感じだ」
「…なあ、マレは大丈夫だろうか?怪我とかしてないだろうか…
こんなに探しても見つからない、もしかしたら迷子になってるのか…」
あるいは。
先にあの傭兵達に見つかってしまったのだろうか。
そんな事態にでもなってるのならば………
「人間ってのは悲観するとどこまでも崩れるだけだ。
見てまだ確かめもしてない事にいちいち悩んでると、いくら頭があって
も足りないぞ」
と、俯きかけたフレアの耳朶に、ある種あっけらかんとした声が響いた。
思わず反論しかけて顔を上げると、口をへの字に曲げて、それでも傲然
と構える不敵な男がいた。
「ディアンはそうやっていっつも!!」
「フレアみたく、俺は繊細でも器用でもなくてな。
細かいこと、わからねぇ事をいちいち幾つも同時に考えられないだけさ。
俺にわかるのは
今のことと、これからのことを出来るだけ上手く良いほうに持ってくっ
てことだけさ」
「………」
感嘆半分、呆れ半分。
どうしてこの男はこんな思考にたどり着けるのか。
これをこんな肯定的に考えられるようになりたい、と見るべきか、
はたまたどうしてこんな非常時にさえこんな思考が出来るのかと驚くべきか。
自分の胸に溜まっていた薄暗い霧が晴れていくように、少女は溜息をついた。
そうだ、悩む程度のことなら誰だって出来る。今は行動しなければ、悪魔の少
女の為にも。
自分の為にも、この男の為にも。
フレアの堅い決意を表すように、馬は嘶いた。
「行こう、ディアン。なるべく上手いほうに!」
「了解、リーダー」
おどけた調子とは裏腹に。
その瞳に焦燥と仄かな不安を宿して、それでもなお弱まらぬ眼光を携え。
彼らは求める先に駆けていく。
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「悪魔の森ー…それは微細な個の集大成となった“群体”なのか。
あるいはそれ自体が、その中の自然環境生態全てを含めて大きな“個”なの
か」
「唯一確かなことといえば、それは確かに悪魔の分類に記載されるべき存在で
あることであろう。
それは動物を食らうのではない。人を食らう魔物だからだ。
悪魔の条件は、人類に敵対するもの、神に敵対するもの。神の似姿たる我らを
冒涜し、人の原形たる神を侮辱せし。
許されざり、認めうるなど不可なり。ああ、忌わしきその森よ。森の姿を名乗
る悪魔よ」
「森の全ての木は一つ一つが、全てが魔物。
草も花々も飛び交う蝶も、麗しい声の小鳥も、沼地を横切る蛇も何もかもが。
旅人よ、迷い込んでしまったらせめてもの救いに祈りなさい。
変わらない、来たる悲愴の終焉を。逃げられぬ森の顎に咥えられるまで」
そして、ページは破り捨てられていた。
「私はもう二度と森へなどと行ったりしない」
ある旅人の手記より
彼が悪魔の森を抜けられたのは何故か、どこにも記載されてなかった。
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