キャスト:ディアン・フレア(・マレフィセント)
場所:フレデリア街道沿い~魔の森
―――――――――――――――
- Scape goat -
―――――――――――――――
死体がなくとも、この場所で人間が死んだのは確かなようだった。
血臭が風に混じる。
明らかに黒味を増した泥、片方しかないブーツ。
大量の血。
肺の中まで赤に染まる幻想を覚えて、フレアの気持ちは沈んだ。
がさり、と横手の茂みが揺れる。
フレアは一瞬だけ魔物の姿を想像したが、そこにいたのは
ディアンだった。
「こんだけ小道具があんのに、肝心の役者がいないってのは
どういう事だ?こりゃ」
ディアンは手に短剣を持っている。無論彼の得物ではない。
おそらく、『役者』のものだ。
これも馬鹿丁寧に血で汚れている。
「それは?」
フレアが問うと、彼は短剣の柄を軽く握って、こちらに突くふりをした。
「こう――刺したんだな。そこに落ちてた…まぁ、来いよ。
見たほうが早いだろ」
馬から離れるのは不安だったが、この森にいる限り
危険なのはかわりない。
茂みをかきわけるディアンについていくと、そこは
木々が大きくひらけた所だった。
小さな浅い水溜まりが点在し、足元の土や苔も多分に水を含んでいる。
その、一画。
先ほどと同じく、黒くわだかまった泥。
その端は水にひたり、一部を赤く染めている。
それだけなら先ほどと同じだが、何かをひきずったような跡が、
雄弁に何かを物語っていた。
「この『主』はこれだけ血が出てんのに、どうしてまだ動けるかね?
――それと、だ」
言いながらディアンは、無造作に銀の短剣を放り捨てる。
刃から落ちた凶器は、音さえ立てず泥に突き立った。
「この足跡は――人間のじゃねぇよな」
彼の指差した先にあったのは。
一対の蹄の跡だった。
「――!」
それを知覚してフレアが息を飲んだ時、残してきた馬が
絶叫した。
振り返るが、茂みのせいでどうなっているのかわからない。
ただ、盛大な血の破片と、揺れる尻尾、荒い息遣いだけで、
おおむね状況は理解できた。
つまり、危険が迫っているということ。
2人が走り出したのはまさに同時だった。
馬のほうではなく、根拠のない這い跡を辿る。
泥は残酷なほどまで正直に『その時』を示し、
森は今も相変わらず背後で命をむさぼっている。
馬の断末魔を聞き流して、泥に残された痕跡をたどってゆく。
小さな手形、手形、手形、蹄、手形、血。
その先にいるのが正義ではないことを、不本意ながらフレアは祈っていた。
場所:フレデリア街道沿い~魔の森
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死体がなくとも、この場所で人間が死んだのは確かなようだった。
血臭が風に混じる。
明らかに黒味を増した泥、片方しかないブーツ。
大量の血。
肺の中まで赤に染まる幻想を覚えて、フレアの気持ちは沈んだ。
がさり、と横手の茂みが揺れる。
フレアは一瞬だけ魔物の姿を想像したが、そこにいたのは
ディアンだった。
「こんだけ小道具があんのに、肝心の役者がいないってのは
どういう事だ?こりゃ」
ディアンは手に短剣を持っている。無論彼の得物ではない。
おそらく、『役者』のものだ。
これも馬鹿丁寧に血で汚れている。
「それは?」
フレアが問うと、彼は短剣の柄を軽く握って、こちらに突くふりをした。
「こう――刺したんだな。そこに落ちてた…まぁ、来いよ。
見たほうが早いだろ」
馬から離れるのは不安だったが、この森にいる限り
危険なのはかわりない。
茂みをかきわけるディアンについていくと、そこは
木々が大きくひらけた所だった。
小さな浅い水溜まりが点在し、足元の土や苔も多分に水を含んでいる。
その、一画。
先ほどと同じく、黒くわだかまった泥。
その端は水にひたり、一部を赤く染めている。
それだけなら先ほどと同じだが、何かをひきずったような跡が、
雄弁に何かを物語っていた。
「この『主』はこれだけ血が出てんのに、どうしてまだ動けるかね?
――それと、だ」
言いながらディアンは、無造作に銀の短剣を放り捨てる。
刃から落ちた凶器は、音さえ立てず泥に突き立った。
「この足跡は――人間のじゃねぇよな」
彼の指差した先にあったのは。
一対の蹄の跡だった。
「――!」
それを知覚してフレアが息を飲んだ時、残してきた馬が
絶叫した。
振り返るが、茂みのせいでどうなっているのかわからない。
ただ、盛大な血の破片と、揺れる尻尾、荒い息遣いだけで、
おおむね状況は理解できた。
つまり、危険が迫っているということ。
2人が走り出したのはまさに同時だった。
馬のほうではなく、根拠のない這い跡を辿る。
泥は残酷なほどまで正直に『その時』を示し、
森は今も相変わらず背後で命をむさぼっている。
馬の断末魔を聞き流して、泥に残された痕跡をたどってゆく。
小さな手形、手形、手形、蹄、手形、血。
その先にいるのが正義ではないことを、不本意ながらフレアは祈っていた。
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