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2025/03/10 06:49 |
14.Crimson Flag/マレフィセント(Caku)
キャスト:ディアン・フレア・マレフィセント
NPC :イザベル(宣教師)、ザイリッツ(隻腕の男)、その他傭兵団
場所  :魔の森


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Crimson Flag

旗が上がった。深紅の旗だ。
白い旗なら降伏の証。赤い旗なら……開戦の合図だ。

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魔物の森が行進する、笑いながら啜りながら。
悪魔の声が反響する、雄叫び、泣き声、哄笑とりどりと。

森に放たれた火が、沈静化していた。
全てを燃やし尽くす炎ですら、この魔物を灰に返せないのか。
蠢く森に、彷徨う人々。
果たして、逃げ出せるのは幾人か………?

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闇が謳歌する森の中を、一人の女が走っていた。
名前はイザベル、白い法衣も今や血と泥で汚れてしまっている。
森の木々の根でよろけ、思わず近場の木の幹に手をつく。呼吸は荒く、息は絶
え絶え。
最後の手綱であるかのように、握り締めるのは胸元の金のロザリオ。

褪せた金髪を乱して、目をつぶる。
悪魔を滅ぼそうとして、彼らは森へと入った。そして、森に吸い込まれた一人
の子供を追って。
そう、子供がいたのだ。フードをかぶった子供。
昼間に出会った子供、フードの隙間からちらりと見えた青い瞳と髪。
彼女の心を貫いたのは、ありし日の思い出、追憶の光景。
子供がいた、そう…愛した人と同じ青い瞳の可愛い我が子。愛らしい自分の
娘。




…………

とある教会で起こった事件の前。
その教会で、自分の娘は天使のような衣装で初めての聖歌隊に望んでいた。
送り出した朝は光に溢れ、娘は笑顔で騎士の父親と共に教会へ向かう。
娘を抱える夫は、嬉しそうに抱えた我が子に目を細め、家の玄関で見送る妻に
笑った。


帰ってきたら、今日はご馳走だね。


雨上がりの植木は露をのせて煌き、陽光は暖かく世界を包んでいた。
丘の向こうに暗雲がまだ広がっていたけれど、その自分達の朝には決して及ば
ないと思った。雨は、きっと夕方頃だろう と思っていた。

世界は、空は繋がっていた。
輝く朝の後には、泣き崩れる雷雨が来た。

時計は夜の3時を過ぎていた。
微笑みながら、遅い二人の夕食を待ち続けた。食卓はとうに冷え、永遠に開け
られないワインが、テーブルに並んでいる。
ただ、彼女は待ち続けた。雷雨の中で、大切なものが帰ってくるのを。

帰ってきた夫は首と足がなかった。帰り着いた娘は顔と手がなかった。
無言の帰宅を迎えるのは、冷えた夕餉と泣き崩れた彼女だけ。
白い法衣の同胞は、ただ無言で彼女の背をさするしかできなかった。

大切なものは、帰ってきたはずなのに、もうどこにもいなかった。

………





一緒にいた傭兵達とははぐれてしまった。
遠い木々の間から叫び声がいくつも聞こえた。彼らの末路は容易に想像でき
る。
胸に輝くロザリオ、それだけが、唯一の彼女の守りだった。

がさっ と突然目前の草むらが揺れた。
恐怖に叫びそうな口元を必死に抑えて、よろよろと後退する。
逃げられなかった、逃げられないのだ。この森から、この悪魔の群れから。
走っても走っても続く悪夢、今まさに最後の悪夢がーーーーー。


「………uuαθл」


草むらから現れたのは、悪夢でもなければ天使でもなかった。
這い蹲るように手足をついた、魔の娘。
彼女が昼間に聖水を手渡し、青い瞳に心を打たれた少女の姿だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「このままでは全滅です、引き返しましょう!!」

若い傭兵の叫びに、残った集団が脅えながらも頷く。
一緒に歩いていたはずの仲間の幾人かがいなくなり、歩む道先にその「欠片」
ばかりが見つかる。

「…引き返せるのか?」

リーダー格の隻腕の男は、静かな、それでいてよく透き通る低い声で周囲を見
渡した。

「…諸君、よく聞け。
我らはいつから死に脅えるようになった?旅などしてれば幾らでも死の危険な
どある。
いつどこで朽ち果てようとも、君達にはその覚悟があったのではないか?」

隻腕の男の話に、俯く傭兵達。
正義に、人類の宿敵に仇を討つという崇高な目的ばかりで、危険を考えなかっ
たのだ。
隻腕の男の声は、静かに静かに彼らを射抜いた。

「……だが」

隻腕の男の声が、数倍にまで増したような感覚。
まるで声そのものが質量を持つような、そんな力強い声と音。
皆が、顔を上げた。

「ただ怯え死に、朽ち果てるという選択肢以外にもやりようはある。
死を覚悟するぐらいなら、何でも出来る…そう思うことにしないか?」

隻腕の男の、死地の中の砕けた雰囲気は周囲を微笑ませた。
再び武器を握りなおす力を得た集団は、それでも不安そうに森を見渡す。

「だが…どうやってこの森から抜けられるのだろうか?」

「ふむ、難しい質問だな。
こういう時、勇者の一団は森の奥深くまで行く。すると悪魔がいて戦いにな
る。
最後は壊れていく森の中から奇跡的に皆で脱出…という筋がよかろう?」

不謹慎だが、最後は幾人か笑いをこぼした。
と、隻腕の男がかすかに目を細め、瞬時に剣を抜き放った。
前の茂みに狙いを定め、動きを止めると、周囲も凍るように身構える。

「ずいぶんな挨拶だな」

「その様子では、君達の娘は見つかっていないようだね」

現れたのは、フレアとディアンだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あ、あなた……」

イザベルは声もない。
青い瞳の少女は、見るからに人間外のもの。
歪な角、針金のような黒い翼、半身はまさに馬のもの。悪魔と相応しい身な
り。

「悪魔……?」

言葉が切れ切れに、震える。
わななく唇を必死に押さえて、目の前の少女を凝視する。

「………?」

少女は、汚れた顔を上げて泣き顔を必死に上げた。
そのまま一瞬だけ硬直して、と、なぜか泣き始めた。

「え……」

泣かれても困る。
子供が泣いてると、とっさに母親の頃の記憶を思い出してしまう。
おずおずと、頭を撫でてあげて抱きしめてやる。きっとこの後、私は心臓とか
抜き取られるんだろうとわかっても、彼女はそうした。
抱きしめてやると、また泣き声が酷くなった。
困惑しながらもとりあえず宥める。悪魔なのに、その子は暖かかった。

心臓は抜き取られなかった。その子は血を啜ったりなどしなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「私の名はザイッツリ。片腕は昔、戦争で亡くしてね」

「ずいぶん、数がへってるな」

挨拶もそこそこに、彼はディアンの言葉に頷いた。

「ああ、幾人かがやられたようだ。そこでだ、君達も悪魔を倒すのに協力して
欲しい」

「残念だが、そりゃあできねぇ相談だな」

ざわり、とディアンの不穏な発言に戸惑う人々。

「……ふむ、君達は悪魔の手先でもないようだが、我々の味方でもないと?」

「悪魔だって魔物だってどうだっていい、俺達は探し物さえ見つかれば退散す
る。
悪魔狩りなら他所でやってくれ、俺達は生き延びるのに必死な一般市民でね」

頑ななディアンの口調に何を悟ったのか、隻腕の男・ザイッツリはふと笑っ
た。

「一般市民にしては、腕が立つようだね」

「そりゃどうも」

「探している子供は、どうやら人ではないのかな?」

「………」

フレアが少しだけ、肩を引き攣らせた。
それを見て、豪快に笑うザイリッツ。魔の森の最中というに、その大笑いが出
来る肝は並外れているといえよう。

「いやいや、お前さんよりもずいぶん後ろのお嬢さんは素直だな。素直なのは
よいことだ。
では交換条件といこう、お前さんらは子供を捜している。俺らはこの森の魔物
を倒したい。
どちらにしろ、この森はどうやら何かの意志によって統一されているようだし
な。
子供が見つかって森から出るにしろ、簡単には逃がしてくれなそうだぞ?」

「………」

男臭い笑みが、妙に清清しいザイリッツは剣を担いだ。

「お前さんの子供は見逃そう。そのかわり、俺らの手伝いをしてほしい。
全部見逃してやろう、だから、そのために共に戦おうではないか」



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2007/02/12 23:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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