キャスト:ディアン・フレア(・マレフィセント)
NPC:ザイリッツ・傭兵団
場所:魔の森
―――――――――――――――
- Abyss -
―――――――――――――――
「どうかね?」
返事を待つザイリッツに顔を見られ、フレアは判断しかねて黙った。
と、
「交渉の確認だが――」
腕組みをしたディアンが皮肉げに口の端を吊り上げた。
「俺らはあんたらと『協力』して、倒さなくてもいい魔物だか悪魔だかを
死ぬ気で潰す。で、あんたらは娘一人を見逃せばそれでいい。
――そういうわけだな?」
ザイリッツも笑みを消さない。だが決して動じていない。
「協力、と言っただろう。それとも辞書が必要かな?」
「及ばねぇよ。割に合わないって言ってんだ。
あんたの後ろにいる十把一からげがどれだけ役に立つ?」
あてつけのようなディアンのせりふに、空気が堅くなる。
だが片腕の傭兵は否定も肯定もせず、ふむと嘆息しただけだった。
「この非常時が既に割に合わないと思うがね。さっきも言ったとおり、
君たち2人だけで森から出るのは非常に難しい。それは
我々だけでも同じこと。
――こんなイカれた森から出るのは…たとえば、かの有名な
『白の傭兵』でも難しいと思うね?」
へっ、とディアンが鼻で笑う。その意味がわからず、フレアは
彼の顔を不思議そうに見上げたが、ザイリッツのせりふはまだ
続いていた。
「――こういうのはどうだろう。この条件を飲んでくれたならば、
いくらかの謝礼をしよう。
それでも納得できないのであれば、交渉決裂ということに」
ザイリッツの後ろにいる傭兵の何人かが、何か不満そうに口を開けて
首をわずかに伸ばした――が、結局のところ表面的にはそれで
異存はないようだった。
早く話を終らせたかったのか、そうでなければこのザイリッツ
とかいう傭兵をよほど信頼しているに違いない。
ディアンも今度こそ素直にうなずいて、腕組みした手をほどいた。
「よし、交渉成立だ」
・・・★・・・
マレフィセントのものだと思しき足跡は、傭兵達の足跡で
踏みにじられていた。
しかしザイリッツの話によれば、件の沼は近いという。
もはやその情報に頼るしか道はなかった。
「そういえば、まだ名を教えてもらっていないね?」
身体はごついくせに、左にいるザイリッツがやたら紳士的に
名前を訊いてくる。
「いつまでも『お嬢さん』では気まずかろう。」
「あ…。フレアだ。彼はディアン」
その態度に応えなければならないような気がして、
フレアは背筋を伸ばした。
右を歩いているディアンが名前を呼ばれ、ちらりとザイリッツを見たが
わざとらしく半眼のまま視線をそらした。
その様子を見て傭兵はさも愉快そうに笑うと、剣を担ぎなおす。
「ところで、徒歩でここまで来たというわけではあるまい?
馬はどこに?」
思わずフレアが目を伏せると、ザイリッツはそれだけで
合点がいったようだった。
「そうか…『森』は人のみを狙って食べるのかと思っていたが…?
このぶんだと我々が置いてきた馬も使えなくなっているか…」
小鳥のさえずりが、沈黙を満たす。
しかしフレアの頭の中は思考で埋まっていた。
言われてみれば確かにそうだ。この森は広大で、動物も多くいるはずだが、
見つかる死体は人間だけであり、ほかの動物の死体は見当たらない。
しかし現に自分たちの馬は襲われたのだ。
でも、今鳴いている小鳥はどうしてこの森にいても無事なのだろう?
答えが見つからないまま、上を見上げる。
風が出てきた。
梢が揺れている先で、薄い黄色の空が雲を抱いている。
その遥か深遠には、群青が待ち構えている。
その先には――
「…」
立ち止まったのは皆ほとんど同じタイミングだった。
誰も喋らない。ただ目だけはせわしく周囲を探っている。
と、
鼓膜を切り裂くような絶叫が森に響いた。
隻腕の傭兵はようやくそこで笑みを消していた。
NPC:ザイリッツ・傭兵団
場所:魔の森
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- Abyss -
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「どうかね?」
返事を待つザイリッツに顔を見られ、フレアは判断しかねて黙った。
と、
「交渉の確認だが――」
腕組みをしたディアンが皮肉げに口の端を吊り上げた。
「俺らはあんたらと『協力』して、倒さなくてもいい魔物だか悪魔だかを
死ぬ気で潰す。で、あんたらは娘一人を見逃せばそれでいい。
――そういうわけだな?」
ザイリッツも笑みを消さない。だが決して動じていない。
「協力、と言っただろう。それとも辞書が必要かな?」
「及ばねぇよ。割に合わないって言ってんだ。
あんたの後ろにいる十把一からげがどれだけ役に立つ?」
あてつけのようなディアンのせりふに、空気が堅くなる。
だが片腕の傭兵は否定も肯定もせず、ふむと嘆息しただけだった。
「この非常時が既に割に合わないと思うがね。さっきも言ったとおり、
君たち2人だけで森から出るのは非常に難しい。それは
我々だけでも同じこと。
――こんなイカれた森から出るのは…たとえば、かの有名な
『白の傭兵』でも難しいと思うね?」
へっ、とディアンが鼻で笑う。その意味がわからず、フレアは
彼の顔を不思議そうに見上げたが、ザイリッツのせりふはまだ
続いていた。
「――こういうのはどうだろう。この条件を飲んでくれたならば、
いくらかの謝礼をしよう。
それでも納得できないのであれば、交渉決裂ということに」
ザイリッツの後ろにいる傭兵の何人かが、何か不満そうに口を開けて
首をわずかに伸ばした――が、結局のところ表面的にはそれで
異存はないようだった。
早く話を終らせたかったのか、そうでなければこのザイリッツ
とかいう傭兵をよほど信頼しているに違いない。
ディアンも今度こそ素直にうなずいて、腕組みした手をほどいた。
「よし、交渉成立だ」
・・・★・・・
マレフィセントのものだと思しき足跡は、傭兵達の足跡で
踏みにじられていた。
しかしザイリッツの話によれば、件の沼は近いという。
もはやその情報に頼るしか道はなかった。
「そういえば、まだ名を教えてもらっていないね?」
身体はごついくせに、左にいるザイリッツがやたら紳士的に
名前を訊いてくる。
「いつまでも『お嬢さん』では気まずかろう。」
「あ…。フレアだ。彼はディアン」
その態度に応えなければならないような気がして、
フレアは背筋を伸ばした。
右を歩いているディアンが名前を呼ばれ、ちらりとザイリッツを見たが
わざとらしく半眼のまま視線をそらした。
その様子を見て傭兵はさも愉快そうに笑うと、剣を担ぎなおす。
「ところで、徒歩でここまで来たというわけではあるまい?
馬はどこに?」
思わずフレアが目を伏せると、ザイリッツはそれだけで
合点がいったようだった。
「そうか…『森』は人のみを狙って食べるのかと思っていたが…?
このぶんだと我々が置いてきた馬も使えなくなっているか…」
小鳥のさえずりが、沈黙を満たす。
しかしフレアの頭の中は思考で埋まっていた。
言われてみれば確かにそうだ。この森は広大で、動物も多くいるはずだが、
見つかる死体は人間だけであり、ほかの動物の死体は見当たらない。
しかし現に自分たちの馬は襲われたのだ。
でも、今鳴いている小鳥はどうしてこの森にいても無事なのだろう?
答えが見つからないまま、上を見上げる。
風が出てきた。
梢が揺れている先で、薄い黄色の空が雲を抱いている。
その遥か深遠には、群青が待ち構えている。
その先には――
「…」
立ち止まったのは皆ほとんど同じタイミングだった。
誰も喋らない。ただ目だけはせわしく周囲を探っている。
と、
鼓膜を切り裂くような絶叫が森に響いた。
隻腕の傭兵はようやくそこで笑みを消していた。
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