PC:マレフィセント(フレア・ディアン)
NPC: 母親(魔女)、イザベル
場所:悪魔の森→沼地へ
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誰も彼もとは言えずとも、貴方一人ぐらいなら。
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聖職者としての立場をすっかり忘れて、少女の頭を優しく撫でている。
なんだか、場違いな事をしているようでものすごく困っているのだが、いかん
せん今のところこれ以上の優先順位がないのだから仕方ない。
少女はようやく泣き収まったものの、今だ泣き腫らした様子でぐすぐすとむず
っている。
先ほどから会話をしようにも、少女の唇から出てくるのは妙な解読不可能な言
語と文字。
それでも、多少の意思疎通は身振り手振りで通じるらしい。
少女の歪な角に気をつけながら抱き寄せてやると、少女の啜りあげるのがよう
やくとまった。
「…どうやったら」
ここから出れるのだろうか、と言おうとして溜息が代わる。
森の木々の隙間から見える空はすでに夕暮れがかかり始めている。急がねば。
こんな森で一夜など過ごせるはずもない。夜が来てしまえば、辺りは闇に、つ
まりは森に飲み込まれるような気がしてならない。
心配げな顔をしていたイザベルは、ふと悪魔の娘がじぃっとこちらを見ている
ことに気がついた。
なけなしの勇気を振り絞って、笑顔を作って立ち上がる。
少女も離れないように手を繋いでやると、恐る恐るながらも握り返す感触があ
った。
「大丈夫よ、きっと大丈夫」
幸いだろうか、先ほどから視線を痛いほどに感じるが、少女と共にいるせいか
襲ってくる気配はない。
手を引いて歩くと、少女もついてきた。
子供の歩調に合わせる自分の足を見る、それはかつて我が子のためについた習
性。
今、こうして他の誰かのために一緒に歩いてあげることが出来るならば。
きっと我が子が死んだのも無意味などではなかったのだろうと、少しだけ苦笑
した。
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手を引かれながら歩く。
歩いていると思考が明瞭になってきて、繋いだ手の暖かさに安堵する。
刺された所為で血の足りない頭を総動員させる。
帰らなくちゃ、と思う。この森にいるのは同じ悪魔だけど、とても恐い者達ば
かりだ。
同じ種族でも、こうも違うのかと少女は初めて知った。
違う種族でさえ、こうして手と手を取り合えるのに、と少女は悲しくなった。
少しだけ開けた場所に出た。
空は夕暮れに染まり、不吉なまでに赤い。
手を繋ぐ女性の強張った顔を、沈んでしまう太陽が照らしていく。
夜が、はじまる。
夜に入る前に森から出ないと、と少女も思った。
夜の世界は自分たちの世界だ。きっと皆飲み込まれてしまう。
昼の世界の人は昼に、夜の世界の人は夜にいなければならない。
この白い女の人は昼の世界の人、だから帰らないと。
そう、あの黒髪の少女も白い傭兵も少女の居場所は昼の中。例え夜に嫌われて
も、帰れる場所さえあるのならば悲しくない。
森を見渡す。
相変わらず、鬱蒼としていて出口がどこだか見当もつかない。
諦めかける心を奮い起こして叱咤する。
今は、そう今は。
帰れる場所がまだある。あの少女と傭兵の元がある。
もう迷子じゃないんだ、もう見知らぬ世界ではないんだ。自分には帰りたい場
所があって、きっとこの白い女の人もそうなんだ。だから、森から出よう。
そもそも、先ほどから嫌になるほど歩いているというに、道どころか木々の切
れ目さえも見えない。
おかしい、と思う。
前には沼地だったりしたんだから、森は全部繋がっているわけではない。
なのに、一向に同じ場所から出れない。
ふと、森の木々に絡みつく赤い果実が目に入った。
不思議なほど紅く、また形は葡萄にも似た実のなり。だが、透ける果実の皮の
中がもごりと動いた。
「どうしたの?」
「……ρρ…」
マレフィセントの記憶が呻いた。
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「森を管理するのは難しい」
母親の魔女のしなやかな手は、まるで雪のように白かった。
指差す果てには、暗緑色のモミの木が広がる禁忌の森。緑、というより黒に近
い。
「一人では広大なこの森達を治めるのは難しい。
だから、私は多くの使い魔を持ってこの城と森を統べている」
母親は、そうして手短な一つの蔦を手に取った。
それは母親が取ると、まるで紳士の動作のように、恭しく実を下げて従った。
「……?」
「これは最も効率の良いものだ。
この子達は小さな小さな魔物の一房に過ぎないが、彼らの種は一つの森に着地
すると一つの木を乗っ取る。次は隣の木、そしてまた次の木へ……幹に枝に絡
みつき、木を支配し思いのままに操ることさえ出来る。
そうして、長い年月を繰り返して森の木々全てはこの子達の配下となる。
森は、この子達の遺伝子を受け入れるのだ」
近くを飛んでいた鴉が、幾羽か魔女と娘の肩に降り立つ。
「木々のつける花を吸う虫、木々の樹液をすする動物。
それらもやがて、木の支配の影響を受けながら生態系を徐々に森に合わせてい
く。
やがて、途方も無い時の果てに森は一つの者となるのだ」
魔女の話に同意するように、木々がざわめく。
森を掠める風さえも、まるで支配下に置かれたかのようだ。
「こうして、最も小さき房達は最も大きな森の神経となる。
……この方法ならば、自然に任せておけば時の立つにつれ、森は完全に自らを
意志できるようになる」
侵入者が来、森を害する者が来ても。
森はただ焼かれ朽ちるだけではなく、反撃し牙を向けるのだと。
「だが、もちろん完璧などどこにもありはしない」
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赤い果実をもぎ取ると、小さな小さな悲鳴が聞こえた。
やっぱり、と珍しく真面目顔で蔦を睨む少女にイザベルは戸惑った。
「…お腹すいたの?でも、こんな場所にあるものを食べないほうがいいわ」
マレフィセントは振り返って、蔦を説明しようと口を開けて一言発っしたが、
その言葉は相手に伝わらず、青い文字でぽわんと空中に浮かんだだけだった。
「…え、えと、ごめんね?よく分からないの」
「………」
“繰り返し増殖をし、コピーを繰り返すこの子達はどうしても、末端が本来の
情報より劣化するのだよ。わかるか?ようは親と子の違いといってもいい。
お前と私は同じ遺伝子によって繋がっているが、決して私の持つ情報の全てを
お前が持っているわけではないだろう。
すなわち、この子達は最初に森に侵食した親一つ以外はなべて虚弱なのだよ。
親はそれを知っているので、普段は地中に奥深く潜っている。沼の泥や、果て
は岩盤の奥にな。
親さえあれば、子達はいくらでもまた増えれる。
しかし、森を乗っ取る為に生まれた子供らは、自ら増えることができない。
そして、親の意志を上から下へ伝えるだけのこの魔物は子供らの意志が薄弱で
もある”
だから。
マレフィセントはその果実を思いっきり飲み込んだ。
あまり美味しくない味が口の中に広がって、そしてぷちっという気持ち悪い音
はこのさい無視。
目をぎゅっと瞑って無理やり嚥下すると、脳裏に森に這い絡む小さな支配者の
神経が見えた。
この小さな魔物なら、マレフィセントを支配することは出来ない。
中に取り込んだ情報から、マレフィセントに見えるのはこの森の意識を伝える
回路。
辿れる。
強い意識の流れ。泥と土と血反吐に塗れて見えなかった一つの形。
目を開くと、鬱蒼とした森の変わらない姿。
イザベルの袖を引っ張る。
そうして、急いで森の中を書ける。闇が訪れようとする、太陽が沈む方向とは
逆の方角。
すでに闇が覆い始めてる、その最中へ。
「え、こっち!?ちょ、ちょっとま……」
もう一人じゃないから。
もう独りきりじゃない、抱きしめてくれる人。帰れる場所だってある。
退くことも脅えることなんてない。退路なんてないんだから進めばいい。
沼地へ。
痛みに呻いて、悲しみに咽いだあの沼地へ。
帰れる場所を思い出して、独りじゃなくなった悪魔の娘が走る。
そこには、沼地の悪魔がいると知って。
そこには、フレアとディアンや、その他の傭兵がいると知らず。
そして、森の中の戦いの合図は火蓋を切った。
NPC: 母親(魔女)、イザベル
場所:悪魔の森→沼地へ
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誰も彼もとは言えずとも、貴方一人ぐらいなら。
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聖職者としての立場をすっかり忘れて、少女の頭を優しく撫でている。
なんだか、場違いな事をしているようでものすごく困っているのだが、いかん
せん今のところこれ以上の優先順位がないのだから仕方ない。
少女はようやく泣き収まったものの、今だ泣き腫らした様子でぐすぐすとむず
っている。
先ほどから会話をしようにも、少女の唇から出てくるのは妙な解読不可能な言
語と文字。
それでも、多少の意思疎通は身振り手振りで通じるらしい。
少女の歪な角に気をつけながら抱き寄せてやると、少女の啜りあげるのがよう
やくとまった。
「…どうやったら」
ここから出れるのだろうか、と言おうとして溜息が代わる。
森の木々の隙間から見える空はすでに夕暮れがかかり始めている。急がねば。
こんな森で一夜など過ごせるはずもない。夜が来てしまえば、辺りは闇に、つ
まりは森に飲み込まれるような気がしてならない。
心配げな顔をしていたイザベルは、ふと悪魔の娘がじぃっとこちらを見ている
ことに気がついた。
なけなしの勇気を振り絞って、笑顔を作って立ち上がる。
少女も離れないように手を繋いでやると、恐る恐るながらも握り返す感触があ
った。
「大丈夫よ、きっと大丈夫」
幸いだろうか、先ほどから視線を痛いほどに感じるが、少女と共にいるせいか
襲ってくる気配はない。
手を引いて歩くと、少女もついてきた。
子供の歩調に合わせる自分の足を見る、それはかつて我が子のためについた習
性。
今、こうして他の誰かのために一緒に歩いてあげることが出来るならば。
きっと我が子が死んだのも無意味などではなかったのだろうと、少しだけ苦笑
した。
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手を引かれながら歩く。
歩いていると思考が明瞭になってきて、繋いだ手の暖かさに安堵する。
刺された所為で血の足りない頭を総動員させる。
帰らなくちゃ、と思う。この森にいるのは同じ悪魔だけど、とても恐い者達ば
かりだ。
同じ種族でも、こうも違うのかと少女は初めて知った。
違う種族でさえ、こうして手と手を取り合えるのに、と少女は悲しくなった。
少しだけ開けた場所に出た。
空は夕暮れに染まり、不吉なまでに赤い。
手を繋ぐ女性の強張った顔を、沈んでしまう太陽が照らしていく。
夜が、はじまる。
夜に入る前に森から出ないと、と少女も思った。
夜の世界は自分たちの世界だ。きっと皆飲み込まれてしまう。
昼の世界の人は昼に、夜の世界の人は夜にいなければならない。
この白い女の人は昼の世界の人、だから帰らないと。
そう、あの黒髪の少女も白い傭兵も少女の居場所は昼の中。例え夜に嫌われて
も、帰れる場所さえあるのならば悲しくない。
森を見渡す。
相変わらず、鬱蒼としていて出口がどこだか見当もつかない。
諦めかける心を奮い起こして叱咤する。
今は、そう今は。
帰れる場所がまだある。あの少女と傭兵の元がある。
もう迷子じゃないんだ、もう見知らぬ世界ではないんだ。自分には帰りたい場
所があって、きっとこの白い女の人もそうなんだ。だから、森から出よう。
そもそも、先ほどから嫌になるほど歩いているというに、道どころか木々の切
れ目さえも見えない。
おかしい、と思う。
前には沼地だったりしたんだから、森は全部繋がっているわけではない。
なのに、一向に同じ場所から出れない。
ふと、森の木々に絡みつく赤い果実が目に入った。
不思議なほど紅く、また形は葡萄にも似た実のなり。だが、透ける果実の皮の
中がもごりと動いた。
「どうしたの?」
「……ρρ…」
マレフィセントの記憶が呻いた。
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「森を管理するのは難しい」
母親の魔女のしなやかな手は、まるで雪のように白かった。
指差す果てには、暗緑色のモミの木が広がる禁忌の森。緑、というより黒に近
い。
「一人では広大なこの森達を治めるのは難しい。
だから、私は多くの使い魔を持ってこの城と森を統べている」
母親は、そうして手短な一つの蔦を手に取った。
それは母親が取ると、まるで紳士の動作のように、恭しく実を下げて従った。
「……?」
「これは最も効率の良いものだ。
この子達は小さな小さな魔物の一房に過ぎないが、彼らの種は一つの森に着地
すると一つの木を乗っ取る。次は隣の木、そしてまた次の木へ……幹に枝に絡
みつき、木を支配し思いのままに操ることさえ出来る。
そうして、長い年月を繰り返して森の木々全てはこの子達の配下となる。
森は、この子達の遺伝子を受け入れるのだ」
近くを飛んでいた鴉が、幾羽か魔女と娘の肩に降り立つ。
「木々のつける花を吸う虫、木々の樹液をすする動物。
それらもやがて、木の支配の影響を受けながら生態系を徐々に森に合わせてい
く。
やがて、途方も無い時の果てに森は一つの者となるのだ」
魔女の話に同意するように、木々がざわめく。
森を掠める風さえも、まるで支配下に置かれたかのようだ。
「こうして、最も小さき房達は最も大きな森の神経となる。
……この方法ならば、自然に任せておけば時の立つにつれ、森は完全に自らを
意志できるようになる」
侵入者が来、森を害する者が来ても。
森はただ焼かれ朽ちるだけではなく、反撃し牙を向けるのだと。
「だが、もちろん完璧などどこにもありはしない」
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赤い果実をもぎ取ると、小さな小さな悲鳴が聞こえた。
やっぱり、と珍しく真面目顔で蔦を睨む少女にイザベルは戸惑った。
「…お腹すいたの?でも、こんな場所にあるものを食べないほうがいいわ」
マレフィセントは振り返って、蔦を説明しようと口を開けて一言発っしたが、
その言葉は相手に伝わらず、青い文字でぽわんと空中に浮かんだだけだった。
「…え、えと、ごめんね?よく分からないの」
「………」
“繰り返し増殖をし、コピーを繰り返すこの子達はどうしても、末端が本来の
情報より劣化するのだよ。わかるか?ようは親と子の違いといってもいい。
お前と私は同じ遺伝子によって繋がっているが、決して私の持つ情報の全てを
お前が持っているわけではないだろう。
すなわち、この子達は最初に森に侵食した親一つ以外はなべて虚弱なのだよ。
親はそれを知っているので、普段は地中に奥深く潜っている。沼の泥や、果て
は岩盤の奥にな。
親さえあれば、子達はいくらでもまた増えれる。
しかし、森を乗っ取る為に生まれた子供らは、自ら増えることができない。
そして、親の意志を上から下へ伝えるだけのこの魔物は子供らの意志が薄弱で
もある”
だから。
マレフィセントはその果実を思いっきり飲み込んだ。
あまり美味しくない味が口の中に広がって、そしてぷちっという気持ち悪い音
はこのさい無視。
目をぎゅっと瞑って無理やり嚥下すると、脳裏に森に這い絡む小さな支配者の
神経が見えた。
この小さな魔物なら、マレフィセントを支配することは出来ない。
中に取り込んだ情報から、マレフィセントに見えるのはこの森の意識を伝える
回路。
辿れる。
強い意識の流れ。泥と土と血反吐に塗れて見えなかった一つの形。
目を開くと、鬱蒼とした森の変わらない姿。
イザベルの袖を引っ張る。
そうして、急いで森の中を書ける。闇が訪れようとする、太陽が沈む方向とは
逆の方角。
すでに闇が覆い始めてる、その最中へ。
「え、こっち!?ちょ、ちょっとま……」
もう一人じゃないから。
もう独りきりじゃない、抱きしめてくれる人。帰れる場所だってある。
退くことも脅えることなんてない。退路なんてないんだから進めばいい。
沼地へ。
痛みに呻いて、悲しみに咽いだあの沼地へ。
帰れる場所を思い出して、独りじゃなくなった悪魔の娘が走る。
そこには、沼地の悪魔がいると知って。
そこには、フレアとディアンや、その他の傭兵がいると知らず。
そして、森の中の戦いの合図は火蓋を切った。
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