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2025/03/10 07:18 |
17.スプレンデンス/フレア(熊猫)
キャスト:ディアン・フレア・マレフィセント)
NPC:ザイリッツ・イザベル傭兵団
場所:魔の森・沼地
―――――――――――――――

- So little birds -

―――――――――――――――


もう何度も悲鳴を聞いているのに、体が慣れようとしない。


悲鳴は傭兵の一人が発したものだった。
襲われた本人ではなく、惨劇を目撃した者の。

冗談じみた素早さで首をなくした人間の姿を見ても、笑えなかった。

胴体は両の手を垂らし、律儀に膝を折ったものの、
まるで丸太のような無機質じみた動きで倒れた。

傭兵たちはわけもわからず胴をはねられ、頭蓋を貫かれ、潰されてゆく。

森の攻撃は多様だった。

刃のように鋭い根が肉を斬り、幹が大蛇のごとく巻きつき骨を砕く。
鋼線に似た蔦は血管に入り込んで脳で爆発する。

「くっ――」

何も入っていない胃が、ざわりとする不快感。

フレアは剣を抜くと、ザイリッツの横――
失われた腕をかばうようにして立った。

だが、いきなり手を捕られる。驚いて目を白黒させていると、
ザイリッツはやはり笑って言った。

「守ってくれるなら、失われたほうより今あるほうにしてほしいね?」

私も君を守りやすいし、という付け足しがなければ、あぶなく納得してしまうと
ころだった。
フレアは渋々と移動しながら胸中で呟く。

(どうしてこの状況下で笑っていられる?)

ふと、既視感を感じて視線をめぐらす。

そこでは、一挙動で抜刀したディアンが、忍び寄ってきていた
枝を切り落としているところだった。
呼吸を感じさせない、何かの流れに沿った動き。
相手のすべてを読んで、先手を取ってしかも反撃させない。

彼もまたかすかに、しかし確かに笑っていた。

そうだ、この傭兵たちはよく似ている。
それに気づいたことで特に嬉しいわけでもなかったが、
フレアは平穏にも似た感情を覚えていた。

「移動しましょう!!」

傭兵の一人が、撥ねる枝を辛うじて避けながらザイリッツに叫ぶ。
地獄絵の中で動いているのは、もはや先ほどいた人数の半数ほどしかいない。

「むぅ…」

隻腕の傭兵はその巨体に似合わない身の軽さで、絡んでこようとする蔦を避ける。
ディアンも何らかの手を打っているようなのだが、なにせ森の密度が濃すぎる。

フレアはほとんど動けなかった。
もしザイリッツやディアンの援護がなければ、自分も足元に転がっている
死体と同じ末路を辿っていたに違いない。

さらに極度の緊張で筋がこわばっている。
傭兵の放つ弱音に満ちた提案も、この時ばかりは賛成だった。

「――やむをえん。強行突破する!動ける者のみ沼へ向かえ!」

(え――)

ザイリッツの声量は大きく、また傭兵達も即座にそれを理解した。
全員が走り出す中で、しかしフレアは戸惑った。

(動ける者のみ?)

確かに森の攻撃は半端ではないほど強力で、それを受けたものはただではすまない。
しかし、手当てを受ければ助かるものも大勢いる。
だが誰もそれを指摘しない。むしろそれを理解しきっている。



だってここは。



「フレア、行くぞ」

後戻りしないようにこちらの肩に手を回してくるディアンを見上げて、
フレアは何かを言おうとした――

だが追いすがってくる木々に気づいて、中断する。
そうでなかったとしても、きっと今は何も言えない。

「…ここは戦場なのだよ」

わかってくれ、と。
フレアが走り出すのを待っていたザイリッツが、場違いなまでの
穏やかな声でそう言った。


待ってくれ――


弱弱しい叫びが、木々のざわめきに消えた。

・・・★・・・

膨張する森は、闇が広がるごとに活発さを増していた。
湿地であるため、足元はすでにくるぶしあたりまで水が増している。フレアは
森が迫る危険と、いつ水に引き込まれるとも知れない恐怖で
神経をすり減らしていた。

やおら立ち止まり、とげが刺さって傷ついた両手を森に掲げて叫ぶ。

「アッカード!」

放たれた赤い魔術の炎が森の幕を包み――それだけだった。
赤の波を突き破って、夕闇を吸って黒に染まった森が
こともなげに追ってくる。

これをさきほどから数回繰り返しているが、すべて同じ結果だった。
フレアの体力は限界を超え、負う手傷も多くなってきている。

また走り出す。おそらく、次の魔術は放てまい。
焦燥に駆られながら前を睨む。もう太陽はその余波でしかなく、
すべては青みを増して光を失っていた。

「おい!本当に沼はこっちなんだよな!」

ディアンがザイリッツに怒鳴る。
ザイリッツは片腕がないので大きく体を振って、バランスをとりながら
走っていたが、深く頷くと一息で答えた。

「森が地形をいじっていなければな」

と――

先頭を走る傭兵の前に、いきなり白い柱が『生えた』。
あぶなく串刺しにされそうになって、その傭兵はやむをえず急停止する。

「なんだっ!?」

がつ、がつ、がつ――

夕闇に映える白は、フレア達の周囲を囲むようにして生えてきた。
逃げる間もない。

地から生じたそれは、天へ伸びて皆の頭上で収束した。
ゆるやかな曲線を描いて、あたかも白い鳥籠のようだ。
鳥籠が全員を取り入れた一瞬後、さらにその周りを追いついてきた
蔦や枝が飾るようにして這う。

「これは…?」

鳥籠は隙間だらけなのだが、なぜか森はそれ以上入ってこようとしなかった。

呆然としているその横で、ザイリッツがふいに片膝をつく。
さきほどから襲撃を受けていたにもかかわらず、彼には傷ひとつなかったが、
顔には余裕がない。

「大丈夫ですか?」

フレアも息をあげながら、付き添うようにしゃがみ込む。
しかしそれを手で制し、片腕の傭兵はかぶりを振った。

「心配ない…幻肢痛だ…」
「ゲンシツウ?」

耳慣れない単語に思わず聞き返すと、本格的に痛みに呻くザイリッツのかわりに
ディアンが答えた。

「以前あった手足の痛みを、脳が記憶してんだ。こればっかりは薬も魔術も効か
ねぇ」
「すぐに収まる…しかし、我々は悪魔の胃袋に落ちたらしいな」

ざわりざわりと、鳥籠の周囲で蠢く森。
だがザイリッツのせりふには違和感があった。思わずディアンと顔を見合わせる。

「ディアン…」
「こいつぁ――アレかもな」

フレアは立ち上がると、手近な白い柱に触れた。

節のついた、まるで骨のように白い、骨董のように美しく飾られた――

「角だ」
「ザイリッツ様!」

フレアの呟きに、突然女の声が重なると、森の影が消えた。
同時に鳥籠もさきほど出現したのと同じ素早さで、地中に消えてゆく。

視界が開け――

星が光染めた薄明穹を背景に、広大な沼が波紋すらたてずにそこにあった。



その、前。



白い法衣を纏った女に連れられて、角を仕舞いこんだマレフィセントが
じっとこちらを見ていた。
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2007/02/12 23:09 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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