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2024/11/20 05:25 |
18.ホワイトナイト(white night : 白夜、眠れぬ夜 /ディアン(永田光)
キャスト:ディアン・フレア・マレフィセント
NPC:ザイリッツ・イザベル傭兵団
場所:魔の森・沼地


 すでに太陽の残滓は跡形も無く、変わって地平を埋めるのは這い寄る夜の闇。
 それは、わずかに生き残った傭兵たちの一団を身震いさせるほどの禍々しさを纏
い、急速に森の中を満たしていく。
 
 「おい、そいつぁ・・・!」
 誰かが、呆然とした声でそう呟いた。
 法衣をまとった神官が連れているのは、蒼髪の少女。
 それは、紛れも無く昨夜村を抜け出した少女であった。
 傭兵たちがそれに気づくのに、さして時間はかからなかった。
 
 こいつを追いかけて、仲間が死んだ。
 こいつは、どうしてこんなところにいやがる?
 気でも、触れてやがるのか?
 そもそも、こんなガキがこんな地獄のような森の中で、なんで生き残ってやがる?
 あんな夜中に抜け出して、まさか一晩をこんなところで過ごしたってのか?
 あり得ねぇ、バカな・・・
 横についている女は、見覚えがある。
 一緒にきたはずの神官だったが・・・この女、気づいてるのか?
 こんなところで生きている人間なんざ、俺らの他にいやしねぇってことをよ。
 いや、待てよ・・・目の前の女、森が見せた幻影じゃないと誰が言い切れる?
 助けたつもりが罠だった、なんてのは御免だぜ。
 せっかく、ここまで生き延びたんだ・・・
 怪しいものに関わっていられる状況じゃない。
 これまで、仲間がたくさん死んだ。
 なら、あと一人二人増えたって構いやしないだろ・・・
 
 呟きが、皆の心に浸透し、状況を理解し、それは不信となって疑問をもたらす。
 疑問は、寄せる闇に追い立てられ、安易に負の想像へと黒い翼をはためかせ-堰を
突き破ってあふれ出す、その刹那。
 
 「マレ・・・大丈夫か?」
 一瞬の硬直から立ち直り、フレアが弾かれたように駆け寄った。
 不意を衝かれて、傭兵たちの間に立ち上っていた不穏な気が、霧消する。
 駆け寄ったフレアは、土に汚れるのも構わずひざまずき、泣きそうな顔であちこち
をぽんぽん叩いて、怪我が無いことを確かめる。
 その間、マレは無表情で立っているだけだったが、フレアが自分を心配していたこ
とは分かるのだろう。
 空いているほうの手で、そっと、フレアの髪を撫でた。
 あどけないその仕草に、黒髪の少女は唇を綻ばせる。
 実にしばらくぶりの微笑みに、こわばった表情筋が解けていくのが分る。
 一箇所、腹のあたりのタイツに裂け目を発見して顔をしかめるが、きっと草木に
引っ掛けたんだろうとすぐに納得した。
 「ありがとう、ええと・・・」
 「イザベルです。あなたは、この子の・・・?」
 宿した目の色に、フレアは知った。
 彼女も、「知って」いるのだ。
 わずかな時間の後、黒髪を微かに揺らし、フレアは首を縦に振った。

 「・・・ってこった。」
 白の傭兵は背後の光景に軽く顎をしゃくり、ザイリッツを眺めやる。
 「ま、この惨劇の中で君らの探していた少女が無事だったんだ、それだけでも喜ぶ
べきことじゃないか。ただ・・・」
 そこで言葉を切って、隻腕の傭兵はわざとらしくため息をついた。
 「ここから、どうすればいいと思うね?」
 「ふン、そうだな・・・てめェらの放った火も、どうやら消されちまったみたいだ
しな。おまけに、もう足元もヤバいくらいにあたりは真っ暗だ。どうせ誰も、明かり
なんざ持ってきて無ぇんだろ?」
 そう、マレが見つかったことで一瞬気持ちは上向きになったが、それで事態が何か
好転したわけではない。
 むしろ、女子供を抱え込んだことで全滅する可能性が急上昇しただけだ。
 ザイリッツはそう、言外に言いたいのだろう。

 (ま、こいつはマレの本性を知らないからな。マレとここを支配してる魔族はどう
やら相容れないみてぇだし、どのみちこりゃあそいつを始末するまでここから出るっ
つうわけにもイカンよな?マレの方がこの森の下っ端どもより格上みてぇだし、とな
ると、直にここの主が直接出て来ざるをえないってぇ寸法だ。やれやれ・・・こい
つぁ待ちの一手になりそうだぜ。)

 長考に入ろうとしたディアンを引き戻したのは、フレアのでも、ましてマレのでも
ない女性の声だった。
 「あ、あの・・・光でしたら、私が。」
 ぽんと手を打って、ザイリッツが向き直る。
 「お、そういえばイザベラさんは神官殿でしたな。ぜひとも・・・」
 イザベラが何事かを呟いて両の手を合わせると、その間から微かな光が漏れ出す。
 そのままゆっくりと合わせた手のひらを離していくと、その光の元は球の形をして
いることが分かってくる。
 直径10CMほどのそれは、すっかり闇に覆われた森の中を、青白く照らし出し
た。
 
 「おぉ・・・!」
 文字通り「希望の」光にざわめく傭兵たちを抑え、ザイリッツが片眉を上げた。
 「いいか、光はある。状況は分からんが、森の攻撃も今はやんでいるようだ。だが
・・・油断はするな。ここは沼地、森の心臓部なのだからな」
 そして、素早くいくつかの指示を下した。
 生き残った傭兵たちは、フレアやマレ、イザベラを中心に素早く円陣を組み、ザイ
リッツは森側、ディアンは沼側の最前列に場を占める。
 「そうそう、この中で銀か、魔法のかかった武器を持ってるヤツぁどれくらいいる
んだ?魔族に鉄の武器なんざ屁の突っ張りにもなりゃしないぜ?」

 下級のものはともかく、中級以上の魔族には鉄の武器は通じない。
 それは、魔と対峙するものたちにとっては、これ以上ないほどの常識。
 賢者は言う、「彼らは人の世とは異なった理の中で生きる者ゆえ、彼らの世界にも
在る存在でしか傷つけることは叶わぬのだ」と。
 
 舌打ちするザイリッツに、再びざわめく傭兵たち。
 ぼそぼそと返事がかえり・・・結果、ディアンとフレアが沼側、魔法のかかった長
剣を持つザイリッツと銀の短剣を持っている配下の傭兵二人が森側を向き、その他の
ものは全て戦力外と言うことでその間に陣取ることになった。
 「ふぅ・・・そうだったな。これまで経験が無かったとは言え・・・俺もヤキが
回ったか?」
 「しょうが無ェさ。もとより、傭兵の本業じゃないんだしな。魔族なんざ、魔法使
いと冒険者に任しておけばいいさ・・・うまいことここを抜けたら、な」
 珍しくフォローを入れるディアンの言葉に頷いたのもつかの間、団長は表情を引き
締めると、今や10名に満たない配下の者に檄を飛ばした。

 「昨日まで一緒に飯を食っていたヤツらがもうお前らの隣にはいない。団一番の力
持ちだったイズンも、メシを作るのが上手かったマルクも、賭けに負けてばっかり
だったリーバスも死んじまった。このまま泣き寝入りか?ケツまくって逃げて、お前
らそれで女房子供や恋人に胸張って帰れるのかよ!?」
 周りはみな敵、減っていく仲間、そしてこれから戦う相手は武器の効かない魔族・
・・ザイリッツの檄に、さっきまで脅えていた団員たちの表情が変わる。
 見回して一呼吸置き、ザイリッツは半ば叫ぶように言い放った。
 「先に行った奴らにあの世で先輩面されるのも癪だからよ、こっちで思い切り暴れ
て、奴らに聞かせてやろうぜ!俺らの武勇伝をよ!ビビってケツ引いて後ろから刺さ
れるくらいなら、笑って突撃してやろうじゃねぇか!やるぜ、お前ら!!!」
 おうッッ・・・!
 団員たちはおろか、フレアやイザベルまでも顔を紅潮させて剣を、拳を天へと突き
上げていた。
 マレだけは怪訝そうな顔で首を傾げていたが。
 やれる・・・やってやる!!
 そんな高揚した精神は、戦場において何物にも勝る興奮剤となる。
 兵士は死を恐れず、がむしゃらに戦い、そして・・・散っていく。
 ディアンは、何も言わずただ口を一文字に引き結んで沼をにらみつけているだけ
だ。
 
 昏い沼の表面に、微かな・・・微かな気泡が濁った立ち上る。
 わずかな瘴気が、彼の心に開戦を告げる。
 気負いはない。
 ためらいも、死への恐怖も無い。
 気負いは、体を硬くして反応を遅れさせる。
 ためらいは、刃の速度を鈍らせる。
 そして、彼は自分が死ぬなどとは露ほども考えていない。
 人は、道を歩いていても、家に座していても、死ぬときは死ぬのだから。
 
 「死ぬまでは、生きるさ」
 呟き、声を張り上げた。
 「おい・・・来るぞ!!!」
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2007/02/12 23:09 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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