PC フレア・ディアン・マレフィセント
NPC 傭兵団・魔物1号(?)
場所 フレデリア街道沿いの宿屋~東の沼
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
RED FORESUT
紅く染まる森
森は含み笑いをしているように、暗く見えた。
窓枠の外の世界は、酷く待ちわびているような感じだった。
「フレア、傭兵達が動くぞ」
今にも支度を整えていたフレアはぎょっとした。
窓から見えた傭兵と白い法衣の魔術達……その数、総勢40人を下らない。
「なっ、あれっ……!?」
「さっき矢が見えた。
赤い矢だ、確かアレは傭兵が自分の死だと判断したときに放つ印だ。
身内を殺されて黙っていられねぇからな、これ以上街道沿いのこの
場所を危険にさらす訳にもいかない。
だから、今一気に狩りだそうって話らしい」
傭兵達の瞳には、正義と憎悪に輝く猛る光。
白い法衣の集団には、信仰と人々の盾となる使命と勇気がきらめく。
手に持つ禍々しいまでの松明の炎を掲げて、森へと進軍していく。
「ディアン!」
「わぁってるさ!
何があったか知らんが、あんないきり立った奴らの前にあいつが見つかれば
火炙りどころじゃねぇぞ。悪魔は人類の敵だからな、最悪の責め苦の果てに
内臓まで引きずり出されて、溶けた鉄の中に入れられて死ぬ」
がちゃり!と刀の柄を握り締め立ち上がり、裏口のドアを蹴り破る。
ディアンの悪魔処刑の台詞に、思わず青ざめるフレア。なんとしても彼ら
より早く少女を見つけなければ!
「なんで、なんでそこまで!」
「そりゃあ有史以来、悪魔のおかげで人間様が迷惑こうむってるからな。
少なくとも、悪魔っつう奴等は神の敵だ、そして、人間の敵でもある」
宿屋の裏手にある馬屋の柵を乗り越えて、繋いであった馬の手綱をとった。
軽やかに馬の背に乗ったディアンと、それに続くように別の馬にまたがる
フレア。
馬はこの宿屋のものなのだが、そんなことを気にしている余裕もない。
それに、今や村は騒然として誰も二人の行為など気がついていない。
「飛ばすぞフレア!ついてこい」
「言われなくても!」
二人は同時に薄暗い森の中へと駆け込んだ。
目指す場所は魔が棲むというーーーー東の沼地。
声が聞こえる。
それは憎悪と正義の声、神に守護された人間の声だ。
友の死を無駄にするな、悲しみの剣を掲げていざ復讐を
魔の声を無視してはいけない、断罪の炎を掲げていざ聖戦を
松明は森を焼き払う、あざみ野さえ焼き尽くして。
闇だけでなく、小鳥も焼き払う。焦げつく匂いが森を渡る。
花は縮れ、燃え尽き、葉は翠を失い干乾びる。
褪せた風は大気を焦がし、逃げ惑う命が炎に飲み込まれる音。
目指すは魔が巣食うというーーーー東の沼地。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「君、大丈夫かい?」
青年は、人の良さそうな顔で微笑んだ。
走ってきたのか、やや額に汗を浮かべて。手にはよく手入れされた弓一式。
「駄目じゃないか、こんなところに来ちゃ。さあ、帰ろう?」
そういってマレフィセントの手を握った。
少女を追いかけてきた青年は、周囲を見渡して少しだけ眉根をしかめた。
相当深い場所まで来てしまった。もう沼地が近い、早く戻らなければ。
少女は、もっと先に行きたかった。
しかし青年が手を握ってくれることが嬉しくて、歩みを止めた。
手を繋いでもらうのはすごく嬉しいので、小さな手で握り返すと青年は
優しく笑った。
ふと、青年は少女のフードを取ろうとした。
この周囲は沼地のうえに、草木は鋭く尖ったものも多い。怪我でもしてな
いだろうかと、彼はおとなしく手を引かれている少女のフードを取った。
それが、彼の運命を決めてしまった。
「ひっ…………」
喉元を捻り潰されたように、青年は叫びを押し殺した。
フードの下に隠されていたのは、歪な角とあどけない素顔と、獣の四肢。
まるで悪魔の教本そのままの山羊の足に歪に捩れた角。驚愕で思わず後ろ
へ下がる。握った手は、振り解かれた。
「?」
少女は不思議そうに首を傾げた。
今まで自分と接してくれた人達とは違う反応がわからなくて、もう一度手
を繋ごうと手を伸ばす。
「なっ…君、君は、まさか……」
と、周囲で風もないのにがさりと揺れ始めた。
青年が青ざめた顔で、周囲を振り向く。光の届かない森の中、足元に泥水
がたまってぴしゃりぴしゃりと音を立てた。
彼らの、周囲で。
「そうか、そうか…き、お前が沼の悪魔っ……僕を、嵌めたんだなっ!」
まるで見えない獣が周囲を走り回っているかのように、がさがさとせわし
ない森の中。
混乱した青年は憎悪と恐怖の眼差しでマレフィセントを睨んだ。
しかし、混乱しているのは少女も同じ。
いつのまにか同族の気配が複数も出てきて、一様に自分達を囲んでいる。
向けられた気配は、原始的な飢え。
それは少女に向けられていなかった、目前の青年へと向けられている。
それを理解すると、少女は必死に彼にしがみついた。
「なっ…触るなっ!離れろ、誰かっ……くそぉ!!」
腹を蹴られ、頬を殴られても、少女は離れなかった。
今ここで青年が一人になれば、周囲の同胞がこの青年を食べてしまう。
言葉が通じないと知っても叫ぶ、行かないで!と。
『θёёпβωэ!!』
その声に触発されたのか、急に周囲が静まり返った。
異界の言葉に、この沼地に潜む同胞が警戒したのか、急激に納まる気配と音。
しかし、それは青年の恐怖を増幅させただけのようだった。
『uu……u…пθωωαυζбθ…』
あの、あのね、行かないで……と言った次の瞬間。
下腹部に焼けた鉄を捻じ込まれるような激痛を感じて、思わず仰け反った。
「嫌だっ…死にたくない!くそっ、くそ!!」
少女に突き刺さった銀の短刀は、さらに一層力を込めて押し込まれた。
視界が真っ赤になるほどの痛みに蹲る少女を振り返りもせず、彼は弓を
構えながら走り出した。
『ζζ……θυυαωΩΖ……』
赤い意識の中で、手を繋ごうとして手を伸ばしても、彼は振り返らなかった。
その少女の周囲から、待ち構えていたとばかりの黒き影。
見た目は蛇のようで、青年の背に向かって一斉に鎌首をもたげ。
さらに、連なる赤い歌声。
絶叫。絶叫。赤い声と湿る水音。
何かが放たれる音に、その後はぐちゃくちゃと何かを抉り、食べる音。
絶叫、絶叫、発狂、最後に哄笑。
這いずる音に、そのすぐ隣で聞こえる骨を割るような、肉を裂く音楽。
痛いよう、痛いよう。
ごめんなさい、ごめんなさい、こんなことになるなんて知らなかったの。
少女は泣いた、痛くて痛くて血が出てくる。
仲間なんて探さなければよかった。
同胞なんて探そうと思わなければよかった。
痛いよ、恐いよ。誰か、誰か助けて。
真っ赤な血と一緒にぼろぼろ涙が溢れて止まらない。
こんなことになるなら、こんな痛い目に合うぐらいならもういい。
でも、でも。
お母さん、お母さん…お父さん、お父さん……。
でも一人も恐いの、一人は嫌なの。ひとりぼっちは絶対に嫌。
自分だけなんて耐えられない、一人きりじゃ痛くて悲しいの。
痛くて痛くて、その痛みに咽び、さらに咽び泣いた声で痛みが大きく
なり、泣き叫ぶ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここに、誰も知らなかったことがある。
森に入った傭兵達とディアン達。その後、入り口である場所には森な
どなく、後衛部隊が必死に周囲を捜索したにも関わらず“森と沼地な
どどこにもなかった”のである。
そこにはただ草原があるだけで、何もなかったという。
噂の東の沼さえ見当たらなかったという。後衛の傭兵部隊達はこう
いった。
「まるで森や沼が移動したみたいだ」と。
悪魔の森、という特殊な魔物がいる。
それは、森の木々からその草の根まで、森の全てが一つの悪魔、魔物
として生きる、巨大な生命体なのだと。
数百の木々にして一つのもの、数千の草にして一つなるもの。
数多にして個である魔物。森と沼を血肉とする広大な魔物の生態が
あることを知る人間はまれである。
もはや魔物ではなく、悪魔の一種であると。
森はただ待っているだけでよかったのだ。餌が、自らの中に来るのを。
そして、のべ40人以上の人間が体内にいる。
森は、笑った。
NPC 傭兵団・魔物1号(?)
場所 フレデリア街道沿いの宿屋~東の沼
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RED FORESUT
紅く染まる森
森は含み笑いをしているように、暗く見えた。
窓枠の外の世界は、酷く待ちわびているような感じだった。
「フレア、傭兵達が動くぞ」
今にも支度を整えていたフレアはぎょっとした。
窓から見えた傭兵と白い法衣の魔術達……その数、総勢40人を下らない。
「なっ、あれっ……!?」
「さっき矢が見えた。
赤い矢だ、確かアレは傭兵が自分の死だと判断したときに放つ印だ。
身内を殺されて黙っていられねぇからな、これ以上街道沿いのこの
場所を危険にさらす訳にもいかない。
だから、今一気に狩りだそうって話らしい」
傭兵達の瞳には、正義と憎悪に輝く猛る光。
白い法衣の集団には、信仰と人々の盾となる使命と勇気がきらめく。
手に持つ禍々しいまでの松明の炎を掲げて、森へと進軍していく。
「ディアン!」
「わぁってるさ!
何があったか知らんが、あんないきり立った奴らの前にあいつが見つかれば
火炙りどころじゃねぇぞ。悪魔は人類の敵だからな、最悪の責め苦の果てに
内臓まで引きずり出されて、溶けた鉄の中に入れられて死ぬ」
がちゃり!と刀の柄を握り締め立ち上がり、裏口のドアを蹴り破る。
ディアンの悪魔処刑の台詞に、思わず青ざめるフレア。なんとしても彼ら
より早く少女を見つけなければ!
「なんで、なんでそこまで!」
「そりゃあ有史以来、悪魔のおかげで人間様が迷惑こうむってるからな。
少なくとも、悪魔っつう奴等は神の敵だ、そして、人間の敵でもある」
宿屋の裏手にある馬屋の柵を乗り越えて、繋いであった馬の手綱をとった。
軽やかに馬の背に乗ったディアンと、それに続くように別の馬にまたがる
フレア。
馬はこの宿屋のものなのだが、そんなことを気にしている余裕もない。
それに、今や村は騒然として誰も二人の行為など気がついていない。
「飛ばすぞフレア!ついてこい」
「言われなくても!」
二人は同時に薄暗い森の中へと駆け込んだ。
目指す場所は魔が棲むというーーーー東の沼地。
声が聞こえる。
それは憎悪と正義の声、神に守護された人間の声だ。
友の死を無駄にするな、悲しみの剣を掲げていざ復讐を
魔の声を無視してはいけない、断罪の炎を掲げていざ聖戦を
松明は森を焼き払う、あざみ野さえ焼き尽くして。
闇だけでなく、小鳥も焼き払う。焦げつく匂いが森を渡る。
花は縮れ、燃え尽き、葉は翠を失い干乾びる。
褪せた風は大気を焦がし、逃げ惑う命が炎に飲み込まれる音。
目指すは魔が巣食うというーーーー東の沼地。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「君、大丈夫かい?」
青年は、人の良さそうな顔で微笑んだ。
走ってきたのか、やや額に汗を浮かべて。手にはよく手入れされた弓一式。
「駄目じゃないか、こんなところに来ちゃ。さあ、帰ろう?」
そういってマレフィセントの手を握った。
少女を追いかけてきた青年は、周囲を見渡して少しだけ眉根をしかめた。
相当深い場所まで来てしまった。もう沼地が近い、早く戻らなければ。
少女は、もっと先に行きたかった。
しかし青年が手を握ってくれることが嬉しくて、歩みを止めた。
手を繋いでもらうのはすごく嬉しいので、小さな手で握り返すと青年は
優しく笑った。
ふと、青年は少女のフードを取ろうとした。
この周囲は沼地のうえに、草木は鋭く尖ったものも多い。怪我でもしてな
いだろうかと、彼はおとなしく手を引かれている少女のフードを取った。
それが、彼の運命を決めてしまった。
「ひっ…………」
喉元を捻り潰されたように、青年は叫びを押し殺した。
フードの下に隠されていたのは、歪な角とあどけない素顔と、獣の四肢。
まるで悪魔の教本そのままの山羊の足に歪に捩れた角。驚愕で思わず後ろ
へ下がる。握った手は、振り解かれた。
「?」
少女は不思議そうに首を傾げた。
今まで自分と接してくれた人達とは違う反応がわからなくて、もう一度手
を繋ごうと手を伸ばす。
「なっ…君、君は、まさか……」
と、周囲で風もないのにがさりと揺れ始めた。
青年が青ざめた顔で、周囲を振り向く。光の届かない森の中、足元に泥水
がたまってぴしゃりぴしゃりと音を立てた。
彼らの、周囲で。
「そうか、そうか…き、お前が沼の悪魔っ……僕を、嵌めたんだなっ!」
まるで見えない獣が周囲を走り回っているかのように、がさがさとせわし
ない森の中。
混乱した青年は憎悪と恐怖の眼差しでマレフィセントを睨んだ。
しかし、混乱しているのは少女も同じ。
いつのまにか同族の気配が複数も出てきて、一様に自分達を囲んでいる。
向けられた気配は、原始的な飢え。
それは少女に向けられていなかった、目前の青年へと向けられている。
それを理解すると、少女は必死に彼にしがみついた。
「なっ…触るなっ!離れろ、誰かっ……くそぉ!!」
腹を蹴られ、頬を殴られても、少女は離れなかった。
今ここで青年が一人になれば、周囲の同胞がこの青年を食べてしまう。
言葉が通じないと知っても叫ぶ、行かないで!と。
『θёёпβωэ!!』
その声に触発されたのか、急に周囲が静まり返った。
異界の言葉に、この沼地に潜む同胞が警戒したのか、急激に納まる気配と音。
しかし、それは青年の恐怖を増幅させただけのようだった。
『uu……u…пθωωαυζбθ…』
あの、あのね、行かないで……と言った次の瞬間。
下腹部に焼けた鉄を捻じ込まれるような激痛を感じて、思わず仰け反った。
「嫌だっ…死にたくない!くそっ、くそ!!」
少女に突き刺さった銀の短刀は、さらに一層力を込めて押し込まれた。
視界が真っ赤になるほどの痛みに蹲る少女を振り返りもせず、彼は弓を
構えながら走り出した。
『ζζ……θυυαωΩΖ……』
赤い意識の中で、手を繋ごうとして手を伸ばしても、彼は振り返らなかった。
その少女の周囲から、待ち構えていたとばかりの黒き影。
見た目は蛇のようで、青年の背に向かって一斉に鎌首をもたげ。
さらに、連なる赤い歌声。
絶叫。絶叫。赤い声と湿る水音。
何かが放たれる音に、その後はぐちゃくちゃと何かを抉り、食べる音。
絶叫、絶叫、発狂、最後に哄笑。
這いずる音に、そのすぐ隣で聞こえる骨を割るような、肉を裂く音楽。
痛いよう、痛いよう。
ごめんなさい、ごめんなさい、こんなことになるなんて知らなかったの。
少女は泣いた、痛くて痛くて血が出てくる。
仲間なんて探さなければよかった。
同胞なんて探そうと思わなければよかった。
痛いよ、恐いよ。誰か、誰か助けて。
真っ赤な血と一緒にぼろぼろ涙が溢れて止まらない。
こんなことになるなら、こんな痛い目に合うぐらいならもういい。
でも、でも。
お母さん、お母さん…お父さん、お父さん……。
でも一人も恐いの、一人は嫌なの。ひとりぼっちは絶対に嫌。
自分だけなんて耐えられない、一人きりじゃ痛くて悲しいの。
痛くて痛くて、その痛みに咽び、さらに咽び泣いた声で痛みが大きく
なり、泣き叫ぶ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここに、誰も知らなかったことがある。
森に入った傭兵達とディアン達。その後、入り口である場所には森な
どなく、後衛部隊が必死に周囲を捜索したにも関わらず“森と沼地な
どどこにもなかった”のである。
そこにはただ草原があるだけで、何もなかったという。
噂の東の沼さえ見当たらなかったという。後衛の傭兵部隊達はこう
いった。
「まるで森や沼が移動したみたいだ」と。
悪魔の森、という特殊な魔物がいる。
それは、森の木々からその草の根まで、森の全てが一つの悪魔、魔物
として生きる、巨大な生命体なのだと。
数百の木々にして一つのもの、数千の草にして一つなるもの。
数多にして個である魔物。森と沼を血肉とする広大な魔物の生態が
あることを知る人間はまれである。
もはや魔物ではなく、悪魔の一種であると。
森はただ待っているだけでよかったのだ。餌が、自らの中に来るのを。
そして、のべ40人以上の人間が体内にいる。
森は、笑った。
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