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2024/05/17 02:31 |
立金花の咲く場所(トコロ) 42 /アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 女将
場所:エドランス国 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 無事手続きを終えた5人は町の中をとおり、女将のしめした採取のできる山に
行くのに
一番近い門を目出していた。

「それにしてもリリアもリックもさすがになれてるよな。」

 通りをてくてく歩きながら感心したようにアベルが言った。
 書類の書き方からどこの誰に話しておくか、万一のために出かける先などの情
報を保安
課に念のために直接伝えておくなど、初めてだらけのアベルたちには感心しきり
のことだ
った。
 
「あはは、そんなことないよ。」

 なんとなく前にアベル、ラズロ、リックの三人が並び、後ろにはヴァネッサ、
リリアが
続く隊列をとっているため、アベルの背中に向かってリリアが明るく返す。
 横を歩くリックも照れたように言う。

「慣れてくれば、っていうか皆慣れなきゃいかんことだろ。」

 その言葉に釣られて皆が笑う。

「お、おそこらへんに目印の看板が見えてるだろ?」

 リックが指をさす通りの先のほうに、城壁の上のほうに扉の絵の看板が見えて
いた。
 このエドランスはもともとある王城とその城下町があり、並ぶようにアカデ
ミーがある。
 戦争を知らないこの王都は、城から真っ直ぐ伸びるメインストリーとの先に正
門がありそ
れとは別にいくつかの中門が城下町とアカデミーに作られている。
 アベルたちが始めて訪れたのは、町側に作られた中門の一つだったが、今向
かっているは
さらに小さい通用門だった。
 この通用門は今回のアベル達のように街道を使わない目的地、つまり近くの森
や山に行く
ときに大回りしなくていいように作られてるのだった。

「ま、利便性考えてなんてこの国ぐらいだけど、遠回りせずにすむのはありがた
いな。」
「あ、そうか、リックもリリアも他国からきたんだっけ?」
「ん、まあな。」

 そんなことを話しながら城壁に近づくと、簡単なつくりの開き戸の門がある手
前に、門番
と思しき兵士と、見慣れたウサギ型眷属が立ち話をしていた。

「ん、あれ?女将さん?」

 アベルがおや?とだした声を捕らえたのか、ぴくりと長い耳を動かして振り向
いた女将さん
らしきウサギさんは手を振って皆を呼んだ。

「まあまあまあ、ちゃんとここをとおってくれてよかったわ。」
「やっぱり女将さん。どうかしたの?」
「あのね、これを渡しておこうと思って。」

 女将はアベルに一枚の手紙のようなものを渡した。

「これは?」
「大丈夫と思うけど、あの山の近くに私の村があって山を管理してるの。それで
一応私の使いっ
てわかるようにね。」

 男子三人はふーん、といったところだった。
 女将の口ぶりだとなくても問題ないが念のためといった感じだし、香草といっ
ても野草あつめ
だから今回は関わる事もないだろうと思ったからだ。
 しかしなぜか後ろの二人の女の子は目を輝かせて頷きあった。

「き、きいた?」
「うん、ウサギさんの村?」

 前に聞こえない程度にささやき会う少女達は、下手な冒険以上にこのクエスト
に胸躍らせていた。


――――――――――――――――
――――――――――――――――
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2007/06/25 22:20 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 43/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 
場所:エドランス国 ウサギ型眷属の村近く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「俺は疑問に思っているんだが」

ラズロは、真面目な顔で腕組みをし、アベルとリックにシリアスな口調で告げた。
アベルはきょとんとした顔で、片やリックはラズロの口調にどこか圧倒され、黙って
聞いていた。
ラズロはかまわず続ける。

「女というのは、どうして、ああいった、ふさふさした生き物が関わると喜ぶんだ
?」

……あまり深刻な疑問ではないようだ。

「ふさふさが好きなんじゃねえの?」

単純に答えたのはアベル。
しかし、この答えにラズロは不満なようで、

「だから、どうして女はふさふさが好きなんだろうかと考えているんだが?」

眉間にかすかにシワを寄せた。

「うーん。言われてみると、確かに、女ってさ、小さくてふかふかした毛並みの生き
物を見ると、すぐ『カワイイー!』って言って、なでたり抱きしめたりしたがるんだ
よなぁ」

リックの言うそれは、おそらくリリアのことだろう。

「おまけに、その時一緒にいると、『ちょっと、ほらほらほら、見なさいよ! カワ
イイでしょ? ねぇねぇ』ってうるさくってさ。こっちが『ああそうだね』って言わ
ない限り、しつこく
言ってくるんだぜ。小動物は嫌いじゃないけどさ、別に歓声上げて喜ぶほどじゃない
よ、俺」

「……女はよくわからない」

聞き終えたラズロは、深いため息をつき、腕組みをほどいて地面を睨んだ。

「たかだかウサギ型の眷属の村に行くというだけで、どこからこんなパワーが出てく
るんだ?」

一行……もとい少年三人と、そこから離れた位置で何やら楽しげに会話している少女
二人は、目指していた村が見える位置にいた。
この分だと、予定していたよりもずっと早く、村に到着することになりそうだ。

予定よりもずっと早くここまで来た理由。
それは、リリアとヴァネッサ……というよりも主にリリアが一行を引っ張る形で道中
を突き進んだためである。

ラズロは正直、この少女二人の方が疲労しやすいだろうから、間に休憩を挟むべき
か、とも考えていたのだ。
それなのに、実際は少年三人の方がちょっと疲れている。
少女二人の方は疲れの色など微塵も見せていない。
気がつけば、少女二人の方が前方を歩いている。

――女の子というのは、か弱いのだから、男子が常に守って差し上げなければなりま
せん。

ラズロは、この状況を省みて、ふと、幼少の頃にばあやに言われた言葉が頭をよぎり
――冒頭の台詞に辿りついたわけである。

「女って、たくましい生き物だなぁ」

リックがぼそりと呟き。

「ヴァネッサは違うっての」

ここのところ落ちついているとはいえ、まだ油断のならない発作を持つ姉をかばっ
て、アベルは反論し。

「悪い。撤回。リリアってたくましいよなぁ」

反論を受け、リックが前言を撤回して言い直し。

「こら、アンタたち!」

そこへ突如飛んできたリリアの声に、三人はギクリと固まる。
別に悪いことをしていたわけではないが、コソコソ話していたというのが少しばかり
後ろめたいのだ。

「ちゃっちゃと歩きなさいよ、ったく、さっさとクエスト済ませて、ウサギさん達と
触れ合わなきゃいけないんだから!」

リリアはそんな様子に気付いていないようで、腰に両手を当てて声を上げている。
彼女の中では、すでにクエストよりもウサギ型眷属との触れ合いの方が重要事項に
なっているらしい。

「楽しみだね、リリアちゃん」

その隣で、ヴァネッサは額ににじんだ汗をぬぐい、微笑んだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2007/07/17 20:15 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 44/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 
場所:エドランス国 ウサギ型眷属の村近く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 女の子の元気さに引っ張られるようにして歩き続けた五人は、予定よりも
だいぶ早く地図に記された村が見えてきた。

「うーん、意外と楽にこれたな。」

 アベルも故郷の辺境から徒歩で歩いてきたのだから、それなりに疲労や時
間は予測を立てていたが、それよりもかなり楽に感じていた。
 それはヴァネッサもラズロも同じらしく、意外に感じているようだった。

「お、それは皆真面目に授業受けてた証拠さ。」

 基礎課程としてクラスで受けた授業のなかに、旅法というのがある。
 基礎の基礎として初期に教わるのだが、装備や荷物を持ったときの重心や
姿勢、長距離を歩くときの体重移動を使う歩き方、心肺の負荷をへらす呼吸
法など、およそ「冒険者」と気負っているほど肩透かしな地味なものだった。
 とはいえそれ以降、アカデミー内では当たり前にやらされることもあって、
今となっては頭の中に残ってなくても、体に染み付いているものだった。
 リックはこの旅法が移動速度のUPと疲労の軽減につながっているといった。

「俺もさアカデミー来る前から仕事はチョコチョコしてたから、結構なめて
たんだけどさ、これが全然違うもんだから驚いたよ。」

 冒険者ともなれば旅は付き物。
 そう思ってみれば、一緒に旅をしたギアはいつも余裕綽々だった。
 あれは子供と大人の違いだけではなかったのだ。

「へー、専門課程だけでいいのにって思ってたけど、さすがアカデミーだな
ぁ。」

 アベルもこうして実際の成果を目の当たりにして、そのすごさを改めて実
感した。
 剣も魔法強いだけなら数多いるだろう。
 しかしこういう基礎的な部分が底上げされているからこそアカデミーで学
んだことがステータスになりうるのだ。

「おかげで早くついたし、お昼にする前に村によっておこうよ。」

 リリアのせかすよな提案に異論はなかった。
 女の子ほどでないにせよ、エドランス特有の眷属という種族の村、皆興味
があるのは男の子とて同じだった。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ 


「うわぁ!」
「!!」

 リリアが感動に声を上げ隣では声もなく感じ入るヴァネッサが目を丸くし
ていた。

「おお、ウサギさんだらけだけど、意外に普通に生活してるんだ。」
 
 アベルもある意味想像通りの光景に驚く。

「おい、彼らはエドランスではエルフやドワーフといった亜人種と同じ国民
権をもつ同胞なんだぞ。失礼なことするな。」

 冷静なラズロの言葉にリリア、ヴァネッサ、アベルの三人は気まずそうに
顔を見合わせる。
 
「ははは、しかたないって、まあ、これから気をつけようぜ。」

 なんだかんだで経験をつんでいるリックはそれなりに異邦での礼儀も心得
ているらしく、驚きを顔に出したり、不躾な視線を撒き散らしたりはしてい
なかった。
 気を取り直してどうするか話し合おうとした五人に、なにやら聞きなれた
感じの声がかけられた。

「まあまあまあ、こんなところに何か御用ですか?」

 声のしたほうを向くとそこには女将と同じようなウサギ型の眷属が立って
いた。
 シンプルな青いワンピースにエプロンを身につけ、手には野菜の入ったバ
ケットを下げているおそらく女性(雌?)のその人(?)は、なぜか微笑ん
でいるように見えた。
 ……いや、アベル、ヴァネッサ、ラズロの三人は女将との共同生活の中、
感情を感じ取れるぐらいにはなっていたので、彼女が不審者をとがめている
というより、はっきり親切心から声をかけてきたことを感じ取っていた。

「あ、あの、すいません、その王都のせせらぎ亭の女将さんの代わりに、こ
の村で管理している山に香草の採取に来たんですが……。」
「まあまあまあ、せせらぎ亭の?」
「はい、これがその女将さんの手紙なんです。」

 ヴァネッサが村に来た目的をつげ、手紙を出して封筒に記された女将のサイ
ンを見せた。

「あらあらあら、たしかにあの子のサインね。だったら長のところにこの手紙
をもっていけばいいのよ。よかったら連れて行ってあげましょうか?」
「良いんですか? ……アベル君どうする?」

 ヴァネッサは、どう見ても悪意を感じられないウサギさんのつぶらな瞳を見
ていると二つ返事しそうになるのをこらえて、仲間に確認を取った。

「そうだなぁ……うん、よかったら頼めますか?」

 アベルは仲間の顔を見渡し反対がないことを見て取ると、ウサギさんのほう
を見て頭を下げた。

「あらあらあら、気にしなくてもいいのよ。ちょうど帰るところだったんです
から。」

 太陽が中天に差し掛かり、暖かい日差しが降り注ぐ中をエプロン姿のウサギ
に先導させれて歩くこと数分。
 さして広くない村の真ん中、ほんの少しほかの家々より大きな家にやってき
た。
 ウサギさんに促されて中に入ると、なかは普通の人間が使うのと同じつくり
で、入り口から少し入ったところにある大部屋で、無骨な作りのロッキングチ
ェアに揺られながら本を読んでいるウサギがいた。

「ん? 客人か?」

 女将や案内してくれたウサギさんが、柔らかな毛皮に覆われたいわばフワフ
ワモコモコな感じなのに対し、本からはずしたその目は鋭く、体毛も硬そうで
その成果全体として引き締まった感じに見えるそのウサギは、低い落ち着いた
声をしていた。

(な、なんか予想外なお人が……。)
(こら、リック!失礼だぞ。)

 小声で話すリックとリリアにラズロも加わる。

(む、ひょっとして雄体?)
 
 ラズロがそうつぶやいたのが聞こえたのか、長い耳をピクリと動かすと、笑
いながらほんを置いた。

「ははは、どうやら客人は兎族の村は初めてのようですな。確かにわしはあな
た方で言うところの男、雄というべきかどうかは悩むところですが、とにかく
男にしてを村長やっておる、ワムといいます。」

 そこで案内をしてくれたウサギさんも振り返って、

「あらあらあら、そういえば自己紹介まだでしたね、一人娘のミノです。」
「あ、アベルです。」
「ヴァネッサです。」
「リリアです。」
「ラズロといいます。」
「リックです」

 ミノのあいさつに、あわててみなも挨拶を交わした。

「ふむ、それでこんなところに何か御用ですかな?観光するには面白みもない
と思いますが。」

 女の子二人は、「いいえ堪能させてもらってます!」といったところだった
がそれには触れずに、ヴァネッサは手紙を出して見せた。

「ふむ、わし宛のようじゃな。」

 中に目を通した長はうなづいた。

「あの子も香草の採取ぐらいで律儀なものじゃのう。」
「それでは?」
「うむ、管理しているといっても山は誰のものでもない。荒らすのでなければ
すきにするとよい。」
「ありがとうございます。」

 ヴァネッサが頭を下げるのに続いて四人も頭を下げる。

(それにしても、あの子って……ウサギは年がわからないからなぁ。)

 アベルのみならず、下げた頭の中では似たような疑問がいっぱいの5人だった。

 

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2007/08/08 23:13 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 45/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック ワム
場所:エドランス国 ウサギ型眷属の村

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「さて……」

本を片手に持ち替え、ワムはロッキングチェアから体を起こす。

「君達はこれからどうするつもりだね。すぐ香草の採取に行くのか?」
「いえ、昼食を済ませてから行こうと思っています」
ラズロが律儀な口調で答えると、ワムはアゴに手をおいた。
「うむ。それが良い。実を言うと、なるべく調子の良い状態で行ってもらいたいの
だ」
「……どういう意味でしょう?」
ヴァネッサは思わず尋ねていた。
香草の採取は、そんなに過酷な作業だろうか。
「いや、説明もなしにすまない」
ワムは、片手をそっと上げた。

「実は、最近、どうも香草の畑が荒らされているようなのだ。今のところ、たいした
被害は出ていないし、村人の誰かが危害を加えられた話もないから、様子を見ている
のだが……もしかしたら、何かに出くわす……ということも考えられるのでな」

その口ぶりに、リックは何かピンときたらしい。

「あ、もしかして、調味料が届いてない、っていうのは……」
リックの言葉に、ワムは頷く。
「……そういうことだ。以前のように作業に集中できんのでな、村で使う分はなんと
か確保できたのだが、他へまわす分が少し足らなくなってしまったのだ」
(それで、女将さんは自分で取りに来ようとしてたのかな?)
ヴァネッサは、ふと、そんなことを思った。
「犯人の目星はついているのですか?」
ラズロが尋ねると、ワムは悩むような素振りを見せた。
「村の者が、それらしいものを見た、と言っていたんだが……」
「それなら、手がかりになりますよね。教えてください」
「う、ううむ……」
ラズロの言葉に、ワムは言いよどんだ。
「どうしたんですか?」
「手がかり、と言えるかどうか……」
「目撃されているのなら、有力な証拠だと思いますけど」

しばらくワムは黙りこみ……それから、ぽつん、と呟いた。

「何か、白くてぼんやりしたものが畑の周りを回っていたらしい」

「そ、それって幽霊っ?」
リリアがビクッと震え、ヴァネッサにしがみつく。
「怖いのか?」
「あったりまえじゃない!」
アベルの問いかけに、リリアは威嚇する猫のごとき態度で答える。
「ふーん。幽霊なんて、だいたいは何かの間違いなんだろ。かーちゃんが言ってた
ぜ。怖がってると、何でも幽霊に見える、って」
「怖いものは怖いの! あんまり幽霊の話しないでよバカ!」
うっすらと涙すら浮かべ始めたリリアに、アベルは「へーい」と返事をし、それから
アクビをした。
「でもさ、まだ幽霊って決まったわけじゃないだろ。そんなにビクビクしなくたって
大丈夫だって」
リックがなだめているが、リリアはすねて答えない。

(幽霊、かぁ……。本当なのかなぁ。幽霊だとしたら、何のために畑を荒らすのかし
ら……?)

リリアにぎゅうっとしがみつかれながら、ヴァネッサはぼんやりとその点に思いをは
せていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2007/08/24 02:02 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 46/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 
場所:エドランス国 ウサギ型眷属の村

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 山でと思っていた予定を変更して、村の宿兼食堂でお弁当にすることに
した一行は、村の地産であるという香草茶を頼んで、机の上に弁当を広げ
た。

「美味い!」
「ほんと、これ美味しい!」

 リックとリリアは、今回の楽しみの一つである女将の手作り弁当の味に、
満足の声をあげた。
 弁当はどこでも食べやすいように、パンに具を挟み込んだいわゆるサンド
イッチだったが、その具材には「せせらぎ亭」の名物でもある女将の仕込み
料理が餡として一工夫されたものが使われていて、これだけでも十分店が
出せそうなほどの完成度だった。

「すごい……餡にするために普通より水分を少なめにしてるんだぁ。 それ
なのに十分煮込んである。 うーん、後で水気飛ばしたんじゃ、ぱさぱさに
なるよね?」

 ヴァネッサが一口食べ進めるごとに、感動しては「どうやって?」を繰り返
している。
 普段厨房を手伝っていても、まだまだ女将の技には追いつけそうにない。
 身についた料理人の魂がついつい調理法に目を向けてしまうが、素直に
美味しいという気持ちがやはり大きい。
 何種類かに分かれていることをしって、ヴァネッサとリリアは中に何か使
われているかで盛り上がっていた。
 一方の男三人は、美味いと最初にうなった後は黙々と食べることに集中し
ていた。
 アベルとリックはともかく、ラズロですら終始口元をほころばせっぱなし
だったところを見ると、十分すぎるほど満足したのは疑いなかった。
 そうして当然ながら早く食べ終わった三人は茶をすすりながら満足げに椅
子の背もたれに背を預けた。
 女の子ほど料理話で盛り上がれはしないが、特に普段女将のお弁当なん
て口にできないリックは、食後の感想がしばらく続いたほどだった。

「ふー、そういや、ワムさんの言ってた幽霊ってなんだろな?」

 「おいしかった!」も一息つくと、リックはこれからのことを考えて気になっ
ていることをあげた。
 ラズロも知識を記憶のそこから引っ張り出すように思案する。

「幽霊というとたいていは錯覚だ。モンスターとしてならレイスやファント
ムがありきたりだが、こういう普通の野山での遭遇例はあまり聞かないな。」

 ダンジョンや建築物、もしくは古戦場など、それなりに意味のある場所に縛
られているのが、ファントムやレイスといったアンデッドとよばれる系統のモン
スターの特徴だ。

「なら何かを見間違えたか。白くてぼんやりしたもの……、うーん。」

 アベルもほんものの幽霊とは思わなかったが、今ひつ思い当たるものがな
かった。
 
「まてよ、普通畑に行くのは昼間だろ? アンデッドの線は薄くないか?」

 この中ではもっとも実践経験のあるリックにしても、昼日中から現れるアン
デッドの話は聞いたことがない。
 強いて言えば魔法使いが使い魔として創造するクリーチャー系(ゴーレム
等が有名)のアンデッドならありえるが、それこそ単体で山をうろつく理由もな
いし、目撃証言ともかなり違う。
 三人そろって思案にふけっていると、ようやく食事を終えたヴァネッサとリリ
アもお茶を入れて会話に加わってきた。

「目撃談といっても、直接荒らしてるところではなくて、付近で見かけただけな
のよね。」

 言外に「ほんとに関係あるの?」とにじませながら、リリアが言った。

「でも、時期が合いすぎてる。」

 ラズロが冷静に指摘する。
 昔からならともかく、畑があらされた同時期に突然あらわれたとなれば、犯
人かどうかはともかく、無関係とはおもえなかった。

「ひょっとして、精霊とか……。」

 術謝以外が精霊を目視できることは稀だが、大事に扱われたもに人の思
念が宿りもともとそこにいた精霊に力を与えるというのはままあることだ。
 この村の人たちが、畑や畑のある山を大事にしきたなら、精霊が姿を現せ
るほどに力を付けていても珍しくはない。
 ヴァネッサは村に入ってからも、精霊の力が満ちていることに気かついてい
た。
 それはこの村が自然と調和するようにして存在していることを示していた。
 
「だとすると、犯人というより何かを伝えようとしてるのかも。」

 ヴァネッサはそういうとなんとなく山のほうをみた。

「案外、猿や猪が犯人で目撃されたのはたまたまの自然現象だったなんての
もよくある話だ。 一応気をつけるってことで、そろそろいくか?」

 リックがそういうと、皆もうなづいた。
 まずは山にあるという香草の畑にいく。
 しかしそこが荒らされている事が入荷不足の原因だったとなると、おそらく山
の中に自生してる分を探さないと必要分は手に入らないだろう。
 さらに、アベル、ヴァネッサ、ラズロの三人は女将さんのことを考えれば、で
きることなら畑に対して何らかの対策をしておきたいところだった。

「よっし! 長さんに挨拶して早速山にいれてもらおうぜ。」

 アベルはそういうと、いそいそと食事跡をかたずけだした。


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2007/08/28 00:39 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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