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2024/05/16 21:20 |
立金花の咲く場所(トコロ) 47/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「うわぁ……」

香草畑に到着しての第一声は、感嘆の声だった。
田舎育ちのアベルとヴァネッサにとっては、畑など見慣れたものだったが、それで
も、その風景には感激させられた。
山のなだらかな斜面に作られた広々とした畑に、背の低い香草が生い茂っている。

「広ーい! すっごーい!」

リリアはきゃいきゃいとはしゃぎ、

「ここまでの広さを開墾したのか」

ラズロはその労力と苦労に思いをはせ、

「あ……雑草、生えてるね」
「だいぶ草むしりしてないな、こりゃ」
「幽霊騒ぎのせいで、手入れもままならないんだろ」

他の三人は、畑の状態について会話をしていた。

「って、無駄話している場合じゃないぞ。早いところ摘み取って戻ろう」
リックが作業開始を促すと、
「リック、そのカッコ恥ずかしいから、早く終わらせたいんでしょー」
リリアがにたりと笑う。
ちょっとだけ図星だったらしく、リックが「う……」と呟いた。
リックは、大きなカゴを背負っている。
今回は、このカゴ一杯になるまで摘み取る予定である。
ちなみに、なんでリックが背負っているのかというと、じゃんけんで負けたためであ
る。
じゃんけんになったのは……あんまりカッコ良くないスタイルになるため、積極的に
背負いたいものではなかったからである。

「うるさい、お前はユーレイユーレイ泣いてたくせにっ」
「泣いてないわよ! カゴ男っ」
「別に、カゴ男呼ばわりじゃ傷つかないし」
「じゃあ壁がお友達の独り言王子っ!」
「人をネクラみたいに言うなっ」

あっと言う間に、やいのやいの、と言い合いが始まる。
二人と知り合ってから、何度目になることか。
最近ではおなじみになりつつある光景である。
おなじみになりつつあるが……だからって放っておくのもいけないことのような気が
するヴァネッサである。
だいいち、今は「香草摘み」という大事な作業を目の前にしているのだ。
「二人とも、やめて」
しかし、ヴァネッサの声は届かない。
二人は相変わらず言い合っている。
「放っておけ」
ラズロは関わるだけ時間の無駄、とばかり、さっさと畑の中に踏み込んでいった。
「でも……」
困り顔で二人を見ていると、アベルがポンと肩を叩いてきた。
「大丈夫だって、本気でお互いが嫌いでケンカになってるわけじゃないから、よく言
うだろ、ケンカするほど仲が良いって」
「う、うん……」
それは、ヴァネッサだってわかってはいるのだが。
「そのうちケロッとしていつも通りになってるって。んじゃ、ちゃっちゃと終わらせ
ようぜ」
そう言うと、アベルはラズロに続いて畑に入っていった。

ヴァネッサは、畑に入る前、ぐるりと辺りを見回してみた。
――ワムの言っていた『白くてぼんやりしたもの』は、今のところ見当たらなかっ
た。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PR

2007/08/28 00:46 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 48/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 山の斜面に開墾された畑は、日当たりがよい上に、風のとおりも程よく、
時折そよぐ風が香草からの香りを巻き上げて、実に健やかに過ごせる場所だ
った。
広大な敷地にはまさに「売るほど」の香草が茂っているが、それほどの高さ
に成長しない種類のようで、五人の目線からすると緑の絨毯の上に空の青とい
う自然の絵画が存分に楽しめた。

「はー、こりゃちょっとした絶景だなぁ」

 周りを見渡しながら、リックが感心したように言った。
 確かに整備された畑は、視界をさえぎりそうなものが何もなく、かといっ
て少し向こうには山の森林があって殺風景でもなく、植えられた香草のさわ
やかな香りもあいまって、ちょっとした空中庭園のようだった。

「俺もそう思うが……これほど茂っていて、なぜ『不作』だったのだ?」
「そういやそうだな?」

 ラズロはリックの感想に共感しつつも、こんなに茂っていてどこが荒らさ
れてるんだろうと首をひねった。
 アベルも一緒に首をひねる。
 たしかに見る限り香草はたくさん生えている。
 これで出荷できるほどの収穫がなく、その理由が畑が荒らされてると言う
のは何か変だった。
 
「どういうことだろう?」
「ま、いいんじゃね? 俺は最悪このかご背負ってやまを駆けずり回るのか
と思ったよ」
 「アベルもかご男もさったとはじめましょ。」
「だから、かご男いうな!」

 リリアにせっつかれる二人に連なるように全員が、畑に入っていった。
 足を踏み入れてみると、一面に生い茂っているように見えたのは、成長し
て増えた枝葉が広がっていただけで、ちゃんと棟ごとに列になるように整備
されていた。
列と列の間を歩きながらおくに入り、比較的成長してそうなあたりにめぼし
をつけて移動した。

「よし、ここらでいいだろう」

 リックがかごを脇に下ろしたのを合図に、それぞれしゃがんで香草をつみに
かかった。

「あら?」

 暫く香草の出来を確認するように観察していたヴァネッサは、何かに気がつ
いたのか、不意に立ち上がると皆に声をかけた。

「ねえ、この先の方に少し緑が薄くて柔らかい部分があるはずなんだけど、皆
のところにはある?」

 ヴァネッサが手折った香草を掲げて見せる。

「え……んー、こっちのもないよ」
「こっちもだ」
「俺の方も同じだ」

 リリア、リック、ラズロ三人とも首を振る。

「こっちもないけど、それがどうかした?」

 アベルも手折ったものを同じように掲げて見せた。

「あのね、この香草は先端部分の若芽のところだけ少し違うの」

 その部分は薬草として毒消しに使われることもあり、そこまであわせて売り
に出るのが普通だが、この畑にあるのはそこだけがなくなっていると言うのだ。

「ひょっとして荒らされてるってこれ?」

 誰にというのでもなく、香草をみながら拍子抜けしたようにリリアが言った。
 王都に入荷しなくなった、そう聞いて直接産地に来れば畑があらされている
という。
 その展開なら畑そのものが壊滅的な被害にあってるとかそういうのがお約束
ではないのだろうか。
 村で香草の入荷が滞っている真相を聞いから、それなりに勢い込んでいただ
けに、リリアの気持ちももっともといえた。

「んー、でも若芽がないと商品価値もほとんどなくなるし、被害は大きいと思
うけど……」
 
 ヴァネッサが補足をするがさすがに自信はなさそうだった。
 田舎育ちなうえ、交易の窓口を兼ねる宿屋(食堂付)兼ギルド支店という実家
に育った経験から言うと、たとえ完全な状態でなくなったとしても、たとえ売
値が暴落するとしても、それを生業とするなら、生産品は必ず売りに出すもの
だった。
 実際農作物は天候に左右される不安定な生産品である。
 そのため年毎、地域ごとにでき不出来に差が出てしまうが、例え不完全な状
態(未成熟、破損)だとしても、とりあえず各町へと出荷されていく。
 それは生活がかかっているのだから当たり前のことだった。
 しかし、アベルもヴァネッサもまだ良くわかっていなかったことだが、眷族
というのはいわゆる人型種族に比べ、金銭的欲求は低い。
 人と意思疎通できるとはいえ、その本能は姿に見合う動物達にちかく、兎族
もまた基本は生産活動を必要としない。
 彼らすれば、あれば便利な金銭獲得手段の一つであり、またそれを喜んで買
ってくれる人たちがいるからたまたま続けているからで、完品でないものをあ
えて売りさばこうとする理由はないのだ。
 もし業者が若芽のない香草をあえて望むなら別だったろうけど。
 この微妙な違いがまだ理解されない限りは、「安くたたかれるかもしれない
けどなぜ売らないのか?」という疑問は解消されそうになかった。

「まあいいさ。女将さんの料理は薬膳ではないのだから、これで十分だろ?」

 ラズロがヴァネッサにきいた。
 この中で本当に必要不必要を判断できるのは、レシピを理解しているヴァネ
ッサだけだからだ。

「そうね。 うん、スパイスと香り付けに使うときは若芽は取るから、むしろ
手間が省けていいぐらいかも」
「よっし、ちゃっちゃとすまそうぜ」

 そういったアベルは言葉通りどんどん摘んではかごにいれていった。
 他の四人も同じように作業を再開した。
 それから数時間。
 たわいのないおしゃべりをしながら作業してるうちに、香草でかごがいっぱ
いになってきた頃、リックが皆を呼び集めた。

「おーい、ちょっときてくれ」

 皆が集まると地面をさしてみせた。
 そこにはわかりにくいが足跡のようなものがあった。
 
「ただの足跡じゃないのよ!」
「本とだ、でもこれが何?」
「おいおい、リリアもアベルもわからねーの?」
「! 靴か?」
「そうそう、さすがラズロはちがうねー」

 なにを!とむっとするアベルとリリアをまあまあといつものようになだめな
がら、ヴァネッサも足跡を見る。

「たしかに靴跡にみえるけど……」
「ヴァネッサまで……。 いいか、これは人間、少なくとも人型の足跡で、そ
れも俺たちじゃない。 兎族の人達の足跡じゃないって事。」
「それって……」

 皆がみつめるなか、リックは面白くなってきた、という笑みを浮かべて言い
切った。

「白い影とやらが何かしらないけど、少なくとも畑に入って何かやってる生身
のにんげんがいるってことさ」


――――――――――――――――
――――――――――――――――

2007/09/24 22:45 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 49/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「白い影とやらが何かしらないけど、少なくとも畑に入って何かやってる生身の人間
がいるってことさ」

どこか自信ありげに語るリック。
その肩に、ぱん、と手を置く者がいた。

「待て」

ラズロである。

「人間とは限らない」
「へ?」
思いがけない言葉だったのだろう、リックは口をぽかんと開け、間抜けな顔をしてい
る。

「靴跡だけで断定するのは危険だ。例えば、人間に近い姿のモンスターもいる。亞人
種の可能性も捨てきれない。連中の中には靴をはく奴もいる。靴跡だけの情報で人間
と決めつけるのは少し早いだろう」

「あ、そうか」
頬をかくリック。
「まあ、気にするな」
「靴をはくモンスターなんかいるのかぁ?」
アベルは半信半疑で、じっと靴跡をにらむ。
「俺は以前見たことがある」
「へぇ~」
長年田舎の小さな村で過ごしてきたアベルと、旅をしてきたラズロでは、見識の広さ
に違いが出るようだ。
「ラズロ君、物知りだね」
ヴァネッサは、素直な感想をリリアに述べた。
「うん、顔も良くて頭も良くて、おまけに剣の腕も立つ! こりゃモテないわけない
わね」
リリアも納得した顔で頷く。
「そうだね。すごく人気あるよね」
「なんか、クラスの子がファンクラブ作るとか言ってたよ」
(ラズロ君、嫌がりそう……)
不機嫌極まりないラズロの表情が浮かぶようで、ヴァネッサは苦笑した。

「……?」

ヴァネッサは、不意に顔を上げた。
なんだか、とても良い匂いがするのだ。
とは言っても、おいしそうな食べ物の匂いではない。
例えて言うと、花の匂いに似ている。
具体的にどんな花の匂いなのかと聞かれると、うまく答えられないが。

「お、おい。どうしたんだよヴァネッサ」

突然、辺りをきょろきょろと見まわし始めたヴァネッサに、アベルが気付く。
「……何か、いるみたい」
「えぇっ? それ、幽霊っ?」
ヴァネッサの答えに、リリアが今にも泣きそうな顔をする。
「わからないけど……でも、悪いものじゃない気がする」
「悪いものじゃないって、じゃあ何?」
「それは……」
どう答えたら安心させられるだろう、と考えていると、視界の端に、白いものがふわ
りと広がった。
驚いてそちらを向くと、薄いヴェールを何枚も重ねたような、そんなものがふわふわ
と空中を漂っていた。
その姿は、まるで――

「きゃーっっ!!」

リリアが絶叫し、リックにしがみつく。
恐怖で混乱したのだろう、ずいぶんと力がこもっている。
ただ、しがみついた場所が悪かった。
彼女は、がばっとリックの首に腕をまわしていたのである。
「ぐ、ぐるぢぃ、ぐるぢぃ」
「きゃーっ、きゃーっ、きゃああーーっ!」
必死に訴えるも、リックの声は届いていない。
「おいっ、リックが死にかかっているぞ」
見かねたラズロが助け舟を出しているが、それでもリリアの混乱は解けそうにない。

「下がってろ、ヴァネッサ」

ずい、とアベルがヴァネッサをかばうようにして前に立つ。
その顔には緊張感がみなぎっていた。
二人の見る前で、布は空中でひらりと一回転する。

『うふふ。仲良しさんですね』

おだやかそうな声がした。
もしかしたら、言葉が通じるのかもしれない。
ヴァネッサは、緊張しながら声をかけた。

「こ、こんにちは」
『こんにちは。なんだか楽しそうなので、つい出てきてしまいました。びっくりさせ
て、ごめんなさい』
びっくりしているのは一名のみである。
「あなた……もしかして、ここの香草畑の近くに住んでいるとか?」
『はい。この辺はとても居心地が良いので、住むことに決めました』

布は、ふわふわ揺れながら答える。

「そう……。それで、あなたは?」
『はい?』
「幽霊なの? それとも、別のもの?」
『私はれっきとした妖精ですよ。幽霊呼ばわりしないでください。まあ、間違えるの
は仕方ないでしょうけど。白くてひらひらしてますからね』
「ご、ごめんなさい」
『あ、怒っているわけではありませんから。あまり気にしないでください』


「ちょ、ちょっと待った。ヴァネッサ、こいつ何か言ってんのか?」

困惑顔のアベルに尋ねられ、ヴァネッサは驚く。
いつの間にかリリアの混乱は解けたようで、丸い目にいっぱい涙をためつつ、
「うー」とうなっている。
そのそばで、顔色の悪いリックがぜぇぜぇと息をしていた。

「え……」
「俺、何も聞こえねーぞ?」
言いつつ、お前は?と言いたげにラズロを見る。
ラズロは黙ったまま首を横に振る。
同じく聞こえない、ということだろう。 
「ヴァネッサしか会話できない、ってことか?」
アベルは頭をがしがしとかく。
「仕方ないな。通訳を頼む」
「……えぇ」

ヴァネッサはもう一度、布と向き合う。
肝心なことを、まだ聞いていない。

「その……あなたが、この畑を荒らしているの?」
『はい?』
「最近、この香草畑が荒らされて、とても困っているって聞いたの。目撃した人の話
だと、あなたのような白い影を見たって……」
『ひどいです!』
布は憤慨した。
この反応を見る限り、犯人ではないようだ。

『私じゃありません! むしろ私はあいつらが来ないよう、追い返したりすることも
あるっていうのに、あんまりです! だいたい、私が畑を荒らして何の得をするって
言うんです?』

(あいつら?)

それは誰なのかをすぐに問い詰めたかったが、ヴァネッサは踏みとどまった。
それよりも先にすることがある。
この「白い影」の身の潔白を伝えておかねばならない。

「疑ってごめんなさい、今から、皆にもそう伝えるわ」

ヴァネッサは、三人の方に向き直った。

「この……えぇと、布さんは、犯人じゃないわ。犯人は、別にいるって、そう言って
る」



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2007/10/29 20:11 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 50/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック  畑の妖精(?)
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 人間誰しも一つや二つは共通の幻想というのがあるだろう。
 ヴァネッサの説明は4人の持つ一つを壊すのには十分だった。

「う、うそだろ・・・…?」

 リリアから解放されたリックが弱弱しくつぶやく。

「でも、私も妖精さんは犯人じゃないと思うの。 ほら、足跡のこともあるし」

 直感というほどでもないが、直接、話をしたヴァネッサは、そんなに悪い感じ
は受けなかった。
 だがリック首を振った。

「そんな妖精あるかぁー!」

 その勢いに気おされて、フリーズするヴァネッサの後ろに漂う『妖精』を指差
しながら誰にともなくリックは吼えた。

「アカデミーでも、チラっと見かけた程度だったけど、あれだ、妖精ってのはこ
う小さかったりして可愛くて、羽があったりとかしてるもんじゃねぇのかよ!」

 いつもなら冷静な突っ込みを入れるはずのラズロまで、ほかの三人も思わ
ずうなづいていた。

(・・・・・・妖精さんを疑ってたわけじゃないのね)

 彼らが「妖精であること」を疑っていたことに気がいたヴァネッサは、改めて
中に漂う「それ」を見てみた。
 一枚一枚は薄そうな布が重なり合った様なそれが、つつんでいるように見
えるその中身がどうなっているのかは定かではないが、ぱっとみて妖精とす
ぐに思える人は少ないだろう、と思えた。
 もっともヴァネッサのように魔法の素養があり、基礎的な訓練を経たもの
なら、五感とは違う感覚でその存在を捉えることができるため、見た目の姿
よりも、その存在の放つ力によって本質を捉えるため、そうしたものたちは
見た目に惑わされることはめったにないのだが。

「えーと……その、、、」

 素直に認めるのもなにか悪い気がして、さりとて否定もできずに、ヴァネ
ッサも口元の笑いを抑えながら、言葉に詰まっていた。
 その様子を眺めて(?)いた妖精は、あきれたようにため息ついた。

『はあ、グラントの血を引いてる割に頭わるいんだなぁ』

 期待はずれ、と後に続く言葉を聞き終わる前にヴァネッサは自分でも
驚くほどの勢いで振り返り、妖精にせまった。

「妖精さん! それはどういうこと!」
『え? え? ちょ、なに?』
「ヴァネッサ? そいつが何か言ったのか?」

 急変したヴァネッサの様子に、アベルも気を取り直して問いかける。

「妖精さんが、お義父さんの名前を言ったの。 ね、どういうこと? なに
かしってるの?」

 これまた珍しく説明を簡単に済まして相手に詰め寄るヴァネッサ。
 布……もとい妖精は温厚そうだったヴァネッサの変化に驚いていたよう
だったが、何かに気がついたようだった。

『なんだよ、急に……あ、そうか、そうすると君がヴァネッサかぁ』
「私の名前まで……やっぱり、お父さんに会ったことあるのね?」
『うん、グラントは僕の友達さ」
「!」

 妖精があまりにあっさりと養父のことを口にしたため、かえって二の句を
告げずにかたまるヴァネッサ。
 妖精の声はきこえずとも、ヴァネッサのようすから事情を察したほかの面
々も固唾を呑んで様子を見ている。
 とくにアベルは言葉が通じるなら俺が締め上げてやるのに、とまで思って
いたが、ヴァネッサの手前ぐっと我慢していた。

「ヴァネッサ、そいつは父さんをしってるんだな?」
「うん、そうみたい」

 アベルの声に我を取り戻したヴァネッサは改めて問いかけた。

「ねえ、お義父さんの事何か知ってるなら教えて」

 妖精の表情はわからない。
 だが、おそらく考え込んでいただろう、少し間をおいてヴァネッサにだけ
聞こえる声で言った。

『そうだなぁ、そうだ! 助けてくれるならおれいにおしえてあげる』
「たすける?」
『うん、畑を荒らすあいつらをどうにかしてほしいんだ』


――――――――――――――――――

2007/11/07 01:21 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 51/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック  畑の妖精(?)
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『あいつらは、皆が寝静まった夜になると出てきて、ぶちぶちって千切って持ってく
よ』

とは、幽霊……もとい、妖精の言葉である。

「ああ……ここの芽のところね」

ヴァネッサは、近くにある香草を指先でつついた。
よく見ると、先の方が引き千切られたようになっている。
そこには本来、柔らかい若芽があるはずだった。

『そのたびに、若芽が泣き叫ぶんだよ。たくさんの若芽が、痛いよ、ひどいよ、どう
してこんなことするの……って。でも、その声、あいつらには聞こえないんだ』
「聞こえていたら、きっと、泥棒なんてできないわ……」
ヴァネッサは沈痛な面持ちで呟く。
『うん、そうだねぇ』
と、そこでアベルが肩を叩く。
「ヴァネッサ、通訳通訳」
「あ、ごめんなさい。忘れてた」

通訳なんてするのは初めてのことで、慣れない。
ついつい、その場にいる全員がこの妖精の言葉を聞いているようなつもりで会話して
しまう。
ヴァネッサは妖精ともう少しいろいろ話してみたい気持ちになったが、情報収集を優
先させることにした。

「ねえ、妖精さん。あいつら、ってことは、犯人は何人かで行動してる、ってこと
?」
『うん。一人が指示出してて、あと何人かはひたすら若芽を盗んでいくんだ。いつも
三人とか四人とか、そのぐらいで来るよ』
「犯人は複数で、一人が指示をして他の人間を動かしてる。だいたいは三人から四人
で来る。皆が寝静まった夜に行動するんですって」
ヴァネッサの通訳を聞いたラズロが眉をひそめる。
「盗賊団……ということか?」
妖精が、ひらりと体をはためかせる。
『そこまではわからないよ』
「そこまではわからない、って言ってる……」

「……なんか。ヴァネッサ、かっこいい」

はふぅ、とため息混じりに呟き、リリアが目をキラキラさせている。
自分にはできないことをこなしている、というだけでそう見えるらしい。
「え、ええと……」
ヴァネッサは礼を言うべきなのかよくわからず、戸惑った。
「気にすんな。で、連中の特徴は?」
アベルが代わりに話を進める。
妖精は、ひらひらと漂い始めた。
『うーん。リーダーっぽい奴の顔なら覚えてるよ。いかつい顔で、ヒゲが生えてるん
だ。もじゃもじゃっと』
「リーダーらしい人間は、いかつい顔で、ヒゲが生えてる」
「なんか、ものすごーく悪そうな奴を想像するんだけど、俺」
「……私も……」
ヴァネッサは苦笑いを浮かべた。
ちなみに彼女の想像では、いかつい顔でひげもじゃの、体格のいい男が巨大な剣を降
りまわしている。

「あのさ」
と、そこでアベルがおずおずと手を上げた。
「お前、そいつら追い払おうって思わなかったのか?」
『そりゃもう、何回も追い払おうって思って出ていったよ! でも、あいつら怖がっ
たのは最初だけで、後は無視されたんだ』
「何度も追い払うために出ていったけど、怖がられたのは最初だけで、後は無視され
てた」
人の物を盗むような連中なら、幽霊ぐらいでいちいちビクついたりしないのかもしれ
ない。

「誰かさんみたいに幽霊だーって騒がないんだな」
リックの言葉に、リリアがムッとした顔をする。
「しょうがないでしょ、あたしは幽霊苦手なんだからっ」
「つーかお前、人の首締め上げたの謝れよなっ! 俺、三年前に死んだじーちゃんが
花畑にいるの、ちらっと見えたんだぞ!」
「はいはい申し訳ありませんでした心からお詫びしますーっ」
言いつつリリアは舌を出している。
「誠意がねぇっつーの!」

ケンカ、再び。
相変わらずな二人である。

「幽霊ごときで騒ぐような、ちんけな連中じゃないということだろうな」

その二人のそばで、ラズロは一人、緊張した顔で腕組みをしていた。
強敵では? と考えているらしい。

「でもさー、お前、なんでそんな紛らわしい姿してるんだ? それじゃ妖精っていう
より幽霊だろ」
アベルが不意に投げかけた言葉に、妖精が布(?)のすそをばたばたさせる。
『勘違いしないでくれない? 本当はこんな姿じゃないんだよ』
どうやら妖精は、感情の変化で布をばたばたさせたりひらひらさせたりしているらし
い。
「本当はこんな姿じゃない、って言ってる」
「へ?」

『昔は別の姿をしてたんだけど、ここで長い間過ごしてるうちに、だんだん力が衰え
てきて……姿が変わっちゃったんだ。変だよね』

その呟きが、とても悲しげだった。


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2007/12/20 20:38 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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