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2025/03/10 06:44 |
立金花の咲く場所(トコロ) 51/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック  畑の妖精(?)
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『あいつらは、皆が寝静まった夜になると出てきて、ぶちぶちって千切って持ってく
よ』

とは、幽霊……もとい、妖精の言葉である。

「ああ……ここの芽のところね」

ヴァネッサは、近くにある香草を指先でつついた。
よく見ると、先の方が引き千切られたようになっている。
そこには本来、柔らかい若芽があるはずだった。

『そのたびに、若芽が泣き叫ぶんだよ。たくさんの若芽が、痛いよ、ひどいよ、どう
してこんなことするの……って。でも、その声、あいつらには聞こえないんだ』
「聞こえていたら、きっと、泥棒なんてできないわ……」
ヴァネッサは沈痛な面持ちで呟く。
『うん、そうだねぇ』
と、そこでアベルが肩を叩く。
「ヴァネッサ、通訳通訳」
「あ、ごめんなさい。忘れてた」

通訳なんてするのは初めてのことで、慣れない。
ついつい、その場にいる全員がこの妖精の言葉を聞いているようなつもりで会話して
しまう。
ヴァネッサは妖精ともう少しいろいろ話してみたい気持ちになったが、情報収集を優
先させることにした。

「ねえ、妖精さん。あいつら、ってことは、犯人は何人かで行動してる、ってこと
?」
『うん。一人が指示出してて、あと何人かはひたすら若芽を盗んでいくんだ。いつも
三人とか四人とか、そのぐらいで来るよ』
「犯人は複数で、一人が指示をして他の人間を動かしてる。だいたいは三人から四人
で来る。皆が寝静まった夜に行動するんですって」
ヴァネッサの通訳を聞いたラズロが眉をひそめる。
「盗賊団……ということか?」
妖精が、ひらりと体をはためかせる。
『そこまではわからないよ』
「そこまではわからない、って言ってる……」

「……なんか。ヴァネッサ、かっこいい」

はふぅ、とため息混じりに呟き、リリアが目をキラキラさせている。
自分にはできないことをこなしている、というだけでそう見えるらしい。
「え、ええと……」
ヴァネッサは礼を言うべきなのかよくわからず、戸惑った。
「気にすんな。で、連中の特徴は?」
アベルが代わりに話を進める。
妖精は、ひらひらと漂い始めた。
『うーん。リーダーっぽい奴の顔なら覚えてるよ。いかつい顔で、ヒゲが生えてるん
だ。もじゃもじゃっと』
「リーダーらしい人間は、いかつい顔で、ヒゲが生えてる」
「なんか、ものすごーく悪そうな奴を想像するんだけど、俺」
「……私も……」
ヴァネッサは苦笑いを浮かべた。
ちなみに彼女の想像では、いかつい顔でひげもじゃの、体格のいい男が巨大な剣を降
りまわしている。

「あのさ」
と、そこでアベルがおずおずと手を上げた。
「お前、そいつら追い払おうって思わなかったのか?」
『そりゃもう、何回も追い払おうって思って出ていったよ! でも、あいつら怖がっ
たのは最初だけで、後は無視されたんだ』
「何度も追い払うために出ていったけど、怖がられたのは最初だけで、後は無視され
てた」
人の物を盗むような連中なら、幽霊ぐらいでいちいちビクついたりしないのかもしれ
ない。

「誰かさんみたいに幽霊だーって騒がないんだな」
リックの言葉に、リリアがムッとした顔をする。
「しょうがないでしょ、あたしは幽霊苦手なんだからっ」
「つーかお前、人の首締め上げたの謝れよなっ! 俺、三年前に死んだじーちゃんが
花畑にいるの、ちらっと見えたんだぞ!」
「はいはい申し訳ありませんでした心からお詫びしますーっ」
言いつつリリアは舌を出している。
「誠意がねぇっつーの!」

ケンカ、再び。
相変わらずな二人である。

「幽霊ごときで騒ぐような、ちんけな連中じゃないということだろうな」

その二人のそばで、ラズロは一人、緊張した顔で腕組みをしていた。
強敵では? と考えているらしい。

「でもさー、お前、なんでそんな紛らわしい姿してるんだ? それじゃ妖精っていう
より幽霊だろ」
アベルが不意に投げかけた言葉に、妖精が布(?)のすそをばたばたさせる。
『勘違いしないでくれない? 本当はこんな姿じゃないんだよ』
どうやら妖精は、感情の変化で布をばたばたさせたりひらひらさせたりしているらし
い。
「本当はこんな姿じゃない、って言ってる」
「へ?」

『昔は別の姿をしてたんだけど、ここで長い間過ごしてるうちに、だんだん力が衰え
てきて……姿が変わっちゃったんだ。変だよね』

その呟きが、とても悲しげだった。


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2007/12/20 20:38 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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