キャスト:トノヤ・ファング
NPC:ワッチ・月見・リア・セバス
場所:ヴァルカン/リア邸内
___________________
夜、あてがわれた部屋にいると、ノックの音がした。
「あーい」
気楽に返事をして、同じく気楽にドアノブに手をかけようとすると、
いきなりトノヤが「待て!」と制止してきた。
「月見だったらどうすんだ!」
「あ、そっかやべ。いませーん」
適当にドア越しに声をかける。逆効果なのはわかっていたが、
一度返事してしまった後では関係なかった。
「…いいから開けて。話があるの」
うんざりした声音がドア越しに返って来た。今度こそドアを開けると、
そこにはリアが口調に似合う顔――つまり仏頂面で立っている。
腰に置いた手には煙草と、灰皿代わりらしい焦げた空き缶を
持っていた。
「あの女の子、そんなに嫌われてるの?さっきたんこぶまで
作ってたけど…まさか殴ったりしてないわよね?」
「いんや正当防衛」
「嫌いというよりもはや恐怖だよね」
「まぁいいけど。――入るわね」
トノヤとファングの答えに本当にどうでもよさそうに肩をすくめると、
いくぶん表情を和らげてずかずかと部屋に入ってくる。
そのまま部屋の奥にある窓枠に腰掛けて、持っていた缶を
傍らに置く。
ふと気付いたように、黙っていたワッチがぼそりと呟いた。
「そういえば、月見だったらノックなんかしないもんなぁ」
「お呼びですかオヤジ殿!」
どばん、といきなり部屋の隅にあるクローゼットが開き、服と共に
月見が飛び出してきた。突然外向きに開いたドアの片方が
ワッチの後頭部を直撃する。
「うわ出た!」
「おお、月見。お前そんなところにいたのか」
「なんでワッチんノーリアクションなの…?」
確実に直撃を受けたはずなのだが、何事もなかったかのように
ワッチは笑みさえ浮かべて月見を見た。月見は身体のあちこちに
クローゼットの中身をひっかけながら、実に楽しげに答える。
「ひょーっ★いや決して夜這いを画策して潜伏していたとかそ」
ばたん。
トノヤによって開いた速度と同じ速さで閉められたドアのおかげで、
月見の姿と声はなくなった。
彼が背中で封をするようにそのまま扉に寄りかかり、平静を装って
腕など組んでいる様子をまじまじと見て、リアがファングに顔を向ける。
「いいの?」
「あとで持って帰ってくれるなら大丈夫っす」
「連れてきたつもりはないけど…まぁいいわ。あの子にも話すつもり
だったから。そこなら聞こえるでしょ」
無造作に煙草を一本出し、口に咥えてから「いい?」と訊いてくる。
ファングが頷くと、そのまま火を点けて吸う――「ここは客室だから
やめろってセバスに止められてるんだけどね」。
「で…話って?」
「ええ。ま、大したことじゃないんだけどね。この屋敷の事」
細く開けた窓に紫煙を吐き出し、閉めてから向き直って、
リアはこんな事を聞いてきた。
「彼は…普通の人間に見えた?」
「あい?」
ファングは、ぽかんと立ったまま彼女の顔を見て――
なんとなく不穏な空気を感じながらも、疑問を口にする。
「彼って…誰っすか」
「セバスの事よ」
言われて脳裏に浮かぶのは特に何の変哲もない、絵に描いたような
老執事だったが。
「あの執事のじっちゃん?まぁ、なんか面妖な人だとは思ったっすけど」
「オイ…まさか…」
トノヤが何かに思い当たったのか、青ざめる。
リアは短いため息と共に煙を吐くと、ごくあっさり頷いた。
「セバスはだいたい30年ぐらい前にこの屋敷で死んでるのよ」
一瞬、彼女が何を言っているのかわからなかった。
そして次には、自分が何を言うべきかわからない。
同じく皆も同じだったのだろう。
一人を除いて。
「どどどどどういう事ですかッ!?がっつり幽霊的なそういう話ですかっ!?
アレですかこれは確実に心霊現象とかいうやつですか?!」
「今んとこ俺らにしてみればお前のほうが心霊現象だけどな…」
「…なんか言ってることよくわかんないけど…そうよ」
視線をトノヤの方、つまりいまだ開かないクローゼットへ向け、
頷くリア。
「執事とかあたしも欲しいッ!今度皆で執事服着てください!」
「着ねーよ!そもそも誰に仕えんだよ」
まったく関係のない希望に、顔だけをそちらに向けて即座に言い返す。
「ファング君、ほーら目の前!すんごい目の前!」
「見えないぞぉおお!俺にはクローゼットしかぁあ!」
「どうでもいいけどクローゼット壊さないでね」
不毛な掛け合いに温度のない声音で釘を刺し、リアが煙を吐く。
口が自由になったそのついでか、彼女はさらに一言言い添えた。
「前の主人とのボードゲームにボロ勝ちしたら、ナイフで喉笛を
掻き切られたんですって。よくある話よね」
「よくあってたまるか!そんな惨殺事件!」
珍しく必死な顔でトノヤがツッコミを入れる。
「遊戯室に行けばまだそのボードゲームあるわよ。明日やる?」
「しねぇよ!」
そう言われれば執事がドアを開け閉めしたのはただの一回きりで、
それ以外はすべていつの間にかいたりいなかったりしたのを
ファングは思い出しながら、うめいた。
「俺としてはあの根暗さんがよっぽど幽霊に見えたっすけど…」
「サジーは人間よ。まぁたまに"中間地点"にいる時もあるけど。
悪い人じゃないから安心して」
そのセリフひとつで安心できるはずもなかったが、彼女としては
もうそれ以上話すつもりはないようで、煙草を空き缶に入れた。
「んでも、なんでったってこんなブキミ屋敷に工房なんか?」
「こんなところ、だからよ。設備を揃えるために資金を
使い切っちゃって。ある人の紹介をもらってね、タダ同然の
この屋敷を見つけたってわけ。怪談は昔から好きだし、
運がよかったわ」
ワッチの疑問に淡々と答えながら、空き缶のふちで煙草の灰を
叩いて落とす。窓は開いていたが、それでもかすかな芳香は
部屋にも漂っていた。
「文字通り幽霊屋敷ってわけかよ…」
ファングの呟きに、くすりと笑いを漏らすリア。
「本当は黙っておこうかと思ったんだけど。何か見てから
騒がれるのも嫌だし、一応話しておくことにしたわけ。
ま…それだけだから。じゃあおやすみ」
あくび混じりに言い置いて、リアが出てゆく。
部屋には沈黙と、奇声や物音を押し込めたクローゼットが残された。
「…月見置いていきやがった…」
幽霊屋敷の一日目は、誰ともなしに呟かれた言葉で幕を閉じた。
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NPC:ワッチ・月見・リア・セバス
場所:ヴァルカン/リア邸内
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夜、あてがわれた部屋にいると、ノックの音がした。
「あーい」
気楽に返事をして、同じく気楽にドアノブに手をかけようとすると、
いきなりトノヤが「待て!」と制止してきた。
「月見だったらどうすんだ!」
「あ、そっかやべ。いませーん」
適当にドア越しに声をかける。逆効果なのはわかっていたが、
一度返事してしまった後では関係なかった。
「…いいから開けて。話があるの」
うんざりした声音がドア越しに返って来た。今度こそドアを開けると、
そこにはリアが口調に似合う顔――つまり仏頂面で立っている。
腰に置いた手には煙草と、灰皿代わりらしい焦げた空き缶を
持っていた。
「あの女の子、そんなに嫌われてるの?さっきたんこぶまで
作ってたけど…まさか殴ったりしてないわよね?」
「いんや正当防衛」
「嫌いというよりもはや恐怖だよね」
「まぁいいけど。――入るわね」
トノヤとファングの答えに本当にどうでもよさそうに肩をすくめると、
いくぶん表情を和らげてずかずかと部屋に入ってくる。
そのまま部屋の奥にある窓枠に腰掛けて、持っていた缶を
傍らに置く。
ふと気付いたように、黙っていたワッチがぼそりと呟いた。
「そういえば、月見だったらノックなんかしないもんなぁ」
「お呼びですかオヤジ殿!」
どばん、といきなり部屋の隅にあるクローゼットが開き、服と共に
月見が飛び出してきた。突然外向きに開いたドアの片方が
ワッチの後頭部を直撃する。
「うわ出た!」
「おお、月見。お前そんなところにいたのか」
「なんでワッチんノーリアクションなの…?」
確実に直撃を受けたはずなのだが、何事もなかったかのように
ワッチは笑みさえ浮かべて月見を見た。月見は身体のあちこちに
クローゼットの中身をひっかけながら、実に楽しげに答える。
「ひょーっ★いや決して夜這いを画策して潜伏していたとかそ」
ばたん。
トノヤによって開いた速度と同じ速さで閉められたドアのおかげで、
月見の姿と声はなくなった。
彼が背中で封をするようにそのまま扉に寄りかかり、平静を装って
腕など組んでいる様子をまじまじと見て、リアがファングに顔を向ける。
「いいの?」
「あとで持って帰ってくれるなら大丈夫っす」
「連れてきたつもりはないけど…まぁいいわ。あの子にも話すつもり
だったから。そこなら聞こえるでしょ」
無造作に煙草を一本出し、口に咥えてから「いい?」と訊いてくる。
ファングが頷くと、そのまま火を点けて吸う――「ここは客室だから
やめろってセバスに止められてるんだけどね」。
「で…話って?」
「ええ。ま、大したことじゃないんだけどね。この屋敷の事」
細く開けた窓に紫煙を吐き出し、閉めてから向き直って、
リアはこんな事を聞いてきた。
「彼は…普通の人間に見えた?」
「あい?」
ファングは、ぽかんと立ったまま彼女の顔を見て――
なんとなく不穏な空気を感じながらも、疑問を口にする。
「彼って…誰っすか」
「セバスの事よ」
言われて脳裏に浮かぶのは特に何の変哲もない、絵に描いたような
老執事だったが。
「あの執事のじっちゃん?まぁ、なんか面妖な人だとは思ったっすけど」
「オイ…まさか…」
トノヤが何かに思い当たったのか、青ざめる。
リアは短いため息と共に煙を吐くと、ごくあっさり頷いた。
「セバスはだいたい30年ぐらい前にこの屋敷で死んでるのよ」
一瞬、彼女が何を言っているのかわからなかった。
そして次には、自分が何を言うべきかわからない。
同じく皆も同じだったのだろう。
一人を除いて。
「どどどどどういう事ですかッ!?がっつり幽霊的なそういう話ですかっ!?
アレですかこれは確実に心霊現象とかいうやつですか?!」
「今んとこ俺らにしてみればお前のほうが心霊現象だけどな…」
「…なんか言ってることよくわかんないけど…そうよ」
視線をトノヤの方、つまりいまだ開かないクローゼットへ向け、
頷くリア。
「執事とかあたしも欲しいッ!今度皆で執事服着てください!」
「着ねーよ!そもそも誰に仕えんだよ」
まったく関係のない希望に、顔だけをそちらに向けて即座に言い返す。
「ファング君、ほーら目の前!すんごい目の前!」
「見えないぞぉおお!俺にはクローゼットしかぁあ!」
「どうでもいいけどクローゼット壊さないでね」
不毛な掛け合いに温度のない声音で釘を刺し、リアが煙を吐く。
口が自由になったそのついでか、彼女はさらに一言言い添えた。
「前の主人とのボードゲームにボロ勝ちしたら、ナイフで喉笛を
掻き切られたんですって。よくある話よね」
「よくあってたまるか!そんな惨殺事件!」
珍しく必死な顔でトノヤがツッコミを入れる。
「遊戯室に行けばまだそのボードゲームあるわよ。明日やる?」
「しねぇよ!」
そう言われれば執事がドアを開け閉めしたのはただの一回きりで、
それ以外はすべていつの間にかいたりいなかったりしたのを
ファングは思い出しながら、うめいた。
「俺としてはあの根暗さんがよっぽど幽霊に見えたっすけど…」
「サジーは人間よ。まぁたまに"中間地点"にいる時もあるけど。
悪い人じゃないから安心して」
そのセリフひとつで安心できるはずもなかったが、彼女としては
もうそれ以上話すつもりはないようで、煙草を空き缶に入れた。
「んでも、なんでったってこんなブキミ屋敷に工房なんか?」
「こんなところ、だからよ。設備を揃えるために資金を
使い切っちゃって。ある人の紹介をもらってね、タダ同然の
この屋敷を見つけたってわけ。怪談は昔から好きだし、
運がよかったわ」
ワッチの疑問に淡々と答えながら、空き缶のふちで煙草の灰を
叩いて落とす。窓は開いていたが、それでもかすかな芳香は
部屋にも漂っていた。
「文字通り幽霊屋敷ってわけかよ…」
ファングの呟きに、くすりと笑いを漏らすリア。
「本当は黙っておこうかと思ったんだけど。何か見てから
騒がれるのも嫌だし、一応話しておくことにしたわけ。
ま…それだけだから。じゃあおやすみ」
あくび混じりに言い置いて、リアが出てゆく。
部屋には沈黙と、奇声や物音を押し込めたクローゼットが残された。
「…月見置いていきやがった…」
幽霊屋敷の一日目は、誰ともなしに呟かれた言葉で幕を閉じた。
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