PC:アベル ヴァネッサ
NPC:ラズロ リリア リック
場所:エドランス国 香草の畑
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「白い影とやらが何かしらないけど、少なくとも畑に入って何かやってる生身の人間
がいるってことさ」
どこか自信ありげに語るリック。
その肩に、ぱん、と手を置く者がいた。
「待て」
ラズロである。
「人間とは限らない」
「へ?」
思いがけない言葉だったのだろう、リックは口をぽかんと開け、間抜けな顔をしてい
る。
「靴跡だけで断定するのは危険だ。例えば、人間に近い姿のモンスターもいる。亞人
種の可能性も捨てきれない。連中の中には靴をはく奴もいる。靴跡だけの情報で人間
と決めつけるのは少し早いだろう」
「あ、そうか」
頬をかくリック。
「まあ、気にするな」
「靴をはくモンスターなんかいるのかぁ?」
アベルは半信半疑で、じっと靴跡をにらむ。
「俺は以前見たことがある」
「へぇ~」
長年田舎の小さな村で過ごしてきたアベルと、旅をしてきたラズロでは、見識の広さ
に違いが出るようだ。
「ラズロ君、物知りだね」
ヴァネッサは、素直な感想をリリアに述べた。
「うん、顔も良くて頭も良くて、おまけに剣の腕も立つ! こりゃモテないわけない
わね」
リリアも納得した顔で頷く。
「そうだね。すごく人気あるよね」
「なんか、クラスの子がファンクラブ作るとか言ってたよ」
(ラズロ君、嫌がりそう……)
不機嫌極まりないラズロの表情が浮かぶようで、ヴァネッサは苦笑した。
「……?」
ヴァネッサは、不意に顔を上げた。
なんだか、とても良い匂いがするのだ。
とは言っても、おいしそうな食べ物の匂いではない。
例えて言うと、花の匂いに似ている。
具体的にどんな花の匂いなのかと聞かれると、うまく答えられないが。
「お、おい。どうしたんだよヴァネッサ」
突然、辺りをきょろきょろと見まわし始めたヴァネッサに、アベルが気付く。
「……何か、いるみたい」
「えぇっ? それ、幽霊っ?」
ヴァネッサの答えに、リリアが今にも泣きそうな顔をする。
「わからないけど……でも、悪いものじゃない気がする」
「悪いものじゃないって、じゃあ何?」
「それは……」
どう答えたら安心させられるだろう、と考えていると、視界の端に、白いものがふわ
りと広がった。
驚いてそちらを向くと、薄いヴェールを何枚も重ねたような、そんなものがふわふわ
と空中を漂っていた。
その姿は、まるで――
「きゃーっっ!!」
リリアが絶叫し、リックにしがみつく。
恐怖で混乱したのだろう、ずいぶんと力がこもっている。
ただ、しがみついた場所が悪かった。
彼女は、がばっとリックの首に腕をまわしていたのである。
「ぐ、ぐるぢぃ、ぐるぢぃ」
「きゃーっ、きゃーっ、きゃああーーっ!」
必死に訴えるも、リックの声は届いていない。
「おいっ、リックが死にかかっているぞ」
見かねたラズロが助け舟を出しているが、それでもリリアの混乱は解けそうにない。
「下がってろ、ヴァネッサ」
ずい、とアベルがヴァネッサをかばうようにして前に立つ。
その顔には緊張感がみなぎっていた。
二人の見る前で、布は空中でひらりと一回転する。
『うふふ。仲良しさんですね』
おだやかそうな声がした。
もしかしたら、言葉が通じるのかもしれない。
ヴァネッサは、緊張しながら声をかけた。
「こ、こんにちは」
『こんにちは。なんだか楽しそうなので、つい出てきてしまいました。びっくりさせ
て、ごめんなさい』
びっくりしているのは一名のみである。
「あなた……もしかして、ここの香草畑の近くに住んでいるとか?」
『はい。この辺はとても居心地が良いので、住むことに決めました』
布は、ふわふわ揺れながら答える。
「そう……。それで、あなたは?」
『はい?』
「幽霊なの? それとも、別のもの?」
『私はれっきとした妖精ですよ。幽霊呼ばわりしないでください。まあ、間違えるの
は仕方ないでしょうけど。白くてひらひらしてますからね』
「ご、ごめんなさい」
『あ、怒っているわけではありませんから。あまり気にしないでください』
「ちょ、ちょっと待った。ヴァネッサ、こいつ何か言ってんのか?」
困惑顔のアベルに尋ねられ、ヴァネッサは驚く。
いつの間にかリリアの混乱は解けたようで、丸い目にいっぱい涙をためつつ、
「うー」とうなっている。
そのそばで、顔色の悪いリックがぜぇぜぇと息をしていた。
「え……」
「俺、何も聞こえねーぞ?」
言いつつ、お前は?と言いたげにラズロを見る。
ラズロは黙ったまま首を横に振る。
同じく聞こえない、ということだろう。
「ヴァネッサしか会話できない、ってことか?」
アベルは頭をがしがしとかく。
「仕方ないな。通訳を頼む」
「……えぇ」
ヴァネッサはもう一度、布と向き合う。
肝心なことを、まだ聞いていない。
「その……あなたが、この畑を荒らしているの?」
『はい?』
「最近、この香草畑が荒らされて、とても困っているって聞いたの。目撃した人の話
だと、あなたのような白い影を見たって……」
『ひどいです!』
布は憤慨した。
この反応を見る限り、犯人ではないようだ。
『私じゃありません! むしろ私はあいつらが来ないよう、追い返したりすることも
あるっていうのに、あんまりです! だいたい、私が畑を荒らして何の得をするって
言うんです?』
(あいつら?)
それは誰なのかをすぐに問い詰めたかったが、ヴァネッサは踏みとどまった。
それよりも先にすることがある。
この「白い影」の身の潔白を伝えておかねばならない。
「疑ってごめんなさい、今から、皆にもそう伝えるわ」
ヴァネッサは、三人の方に向き直った。
「この……えぇと、布さんは、犯人じゃないわ。犯人は、別にいるって、そう言って
る」
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NPC:ラズロ リリア リック
場所:エドランス国 香草の畑
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「白い影とやらが何かしらないけど、少なくとも畑に入って何かやってる生身の人間
がいるってことさ」
どこか自信ありげに語るリック。
その肩に、ぱん、と手を置く者がいた。
「待て」
ラズロである。
「人間とは限らない」
「へ?」
思いがけない言葉だったのだろう、リックは口をぽかんと開け、間抜けな顔をしてい
る。
「靴跡だけで断定するのは危険だ。例えば、人間に近い姿のモンスターもいる。亞人
種の可能性も捨てきれない。連中の中には靴をはく奴もいる。靴跡だけの情報で人間
と決めつけるのは少し早いだろう」
「あ、そうか」
頬をかくリック。
「まあ、気にするな」
「靴をはくモンスターなんかいるのかぁ?」
アベルは半信半疑で、じっと靴跡をにらむ。
「俺は以前見たことがある」
「へぇ~」
長年田舎の小さな村で過ごしてきたアベルと、旅をしてきたラズロでは、見識の広さ
に違いが出るようだ。
「ラズロ君、物知りだね」
ヴァネッサは、素直な感想をリリアに述べた。
「うん、顔も良くて頭も良くて、おまけに剣の腕も立つ! こりゃモテないわけない
わね」
リリアも納得した顔で頷く。
「そうだね。すごく人気あるよね」
「なんか、クラスの子がファンクラブ作るとか言ってたよ」
(ラズロ君、嫌がりそう……)
不機嫌極まりないラズロの表情が浮かぶようで、ヴァネッサは苦笑した。
「……?」
ヴァネッサは、不意に顔を上げた。
なんだか、とても良い匂いがするのだ。
とは言っても、おいしそうな食べ物の匂いではない。
例えて言うと、花の匂いに似ている。
具体的にどんな花の匂いなのかと聞かれると、うまく答えられないが。
「お、おい。どうしたんだよヴァネッサ」
突然、辺りをきょろきょろと見まわし始めたヴァネッサに、アベルが気付く。
「……何か、いるみたい」
「えぇっ? それ、幽霊っ?」
ヴァネッサの答えに、リリアが今にも泣きそうな顔をする。
「わからないけど……でも、悪いものじゃない気がする」
「悪いものじゃないって、じゃあ何?」
「それは……」
どう答えたら安心させられるだろう、と考えていると、視界の端に、白いものがふわ
りと広がった。
驚いてそちらを向くと、薄いヴェールを何枚も重ねたような、そんなものがふわふわ
と空中を漂っていた。
その姿は、まるで――
「きゃーっっ!!」
リリアが絶叫し、リックにしがみつく。
恐怖で混乱したのだろう、ずいぶんと力がこもっている。
ただ、しがみついた場所が悪かった。
彼女は、がばっとリックの首に腕をまわしていたのである。
「ぐ、ぐるぢぃ、ぐるぢぃ」
「きゃーっ、きゃーっ、きゃああーーっ!」
必死に訴えるも、リックの声は届いていない。
「おいっ、リックが死にかかっているぞ」
見かねたラズロが助け舟を出しているが、それでもリリアの混乱は解けそうにない。
「下がってろ、ヴァネッサ」
ずい、とアベルがヴァネッサをかばうようにして前に立つ。
その顔には緊張感がみなぎっていた。
二人の見る前で、布は空中でひらりと一回転する。
『うふふ。仲良しさんですね』
おだやかそうな声がした。
もしかしたら、言葉が通じるのかもしれない。
ヴァネッサは、緊張しながら声をかけた。
「こ、こんにちは」
『こんにちは。なんだか楽しそうなので、つい出てきてしまいました。びっくりさせ
て、ごめんなさい』
びっくりしているのは一名のみである。
「あなた……もしかして、ここの香草畑の近くに住んでいるとか?」
『はい。この辺はとても居心地が良いので、住むことに決めました』
布は、ふわふわ揺れながら答える。
「そう……。それで、あなたは?」
『はい?』
「幽霊なの? それとも、別のもの?」
『私はれっきとした妖精ですよ。幽霊呼ばわりしないでください。まあ、間違えるの
は仕方ないでしょうけど。白くてひらひらしてますからね』
「ご、ごめんなさい」
『あ、怒っているわけではありませんから。あまり気にしないでください』
「ちょ、ちょっと待った。ヴァネッサ、こいつ何か言ってんのか?」
困惑顔のアベルに尋ねられ、ヴァネッサは驚く。
いつの間にかリリアの混乱は解けたようで、丸い目にいっぱい涙をためつつ、
「うー」とうなっている。
そのそばで、顔色の悪いリックがぜぇぜぇと息をしていた。
「え……」
「俺、何も聞こえねーぞ?」
言いつつ、お前は?と言いたげにラズロを見る。
ラズロは黙ったまま首を横に振る。
同じく聞こえない、ということだろう。
「ヴァネッサしか会話できない、ってことか?」
アベルは頭をがしがしとかく。
「仕方ないな。通訳を頼む」
「……えぇ」
ヴァネッサはもう一度、布と向き合う。
肝心なことを、まだ聞いていない。
「その……あなたが、この畑を荒らしているの?」
『はい?』
「最近、この香草畑が荒らされて、とても困っているって聞いたの。目撃した人の話
だと、あなたのような白い影を見たって……」
『ひどいです!』
布は憤慨した。
この反応を見る限り、犯人ではないようだ。
『私じゃありません! むしろ私はあいつらが来ないよう、追い返したりすることも
あるっていうのに、あんまりです! だいたい、私が畑を荒らして何の得をするって
言うんです?』
(あいつら?)
それは誰なのかをすぐに問い詰めたかったが、ヴァネッサは踏みとどまった。
それよりも先にすることがある。
この「白い影」の身の潔白を伝えておかねばならない。
「疑ってごめんなさい、今から、皆にもそう伝えるわ」
ヴァネッサは、三人の方に向き直った。
「この……えぇと、布さんは、犯人じゃないわ。犯人は、別にいるって、そう言って
る」
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