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2025/03/10 06:48 |
立金花の咲く場所(トコロ) 48/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 山の斜面に開墾された畑は、日当たりがよい上に、風のとおりも程よく、
時折そよぐ風が香草からの香りを巻き上げて、実に健やかに過ごせる場所だ
った。
広大な敷地にはまさに「売るほど」の香草が茂っているが、それほどの高さ
に成長しない種類のようで、五人の目線からすると緑の絨毯の上に空の青とい
う自然の絵画が存分に楽しめた。

「はー、こりゃちょっとした絶景だなぁ」

 周りを見渡しながら、リックが感心したように言った。
 確かに整備された畑は、視界をさえぎりそうなものが何もなく、かといっ
て少し向こうには山の森林があって殺風景でもなく、植えられた香草のさわ
やかな香りもあいまって、ちょっとした空中庭園のようだった。

「俺もそう思うが……これほど茂っていて、なぜ『不作』だったのだ?」
「そういやそうだな?」

 ラズロはリックの感想に共感しつつも、こんなに茂っていてどこが荒らさ
れてるんだろうと首をひねった。
 アベルも一緒に首をひねる。
 たしかに見る限り香草はたくさん生えている。
 これで出荷できるほどの収穫がなく、その理由が畑が荒らされてると言う
のは何か変だった。
 
「どういうことだろう?」
「ま、いいんじゃね? 俺は最悪このかご背負ってやまを駆けずり回るのか
と思ったよ」
 「アベルもかご男もさったとはじめましょ。」
「だから、かご男いうな!」

 リリアにせっつかれる二人に連なるように全員が、畑に入っていった。
 足を踏み入れてみると、一面に生い茂っているように見えたのは、成長し
て増えた枝葉が広がっていただけで、ちゃんと棟ごとに列になるように整備
されていた。
列と列の間を歩きながらおくに入り、比較的成長してそうなあたりにめぼし
をつけて移動した。

「よし、ここらでいいだろう」

 リックがかごを脇に下ろしたのを合図に、それぞれしゃがんで香草をつみに
かかった。

「あら?」

 暫く香草の出来を確認するように観察していたヴァネッサは、何かに気がつ
いたのか、不意に立ち上がると皆に声をかけた。

「ねえ、この先の方に少し緑が薄くて柔らかい部分があるはずなんだけど、皆
のところにはある?」

 ヴァネッサが手折った香草を掲げて見せる。

「え……んー、こっちのもないよ」
「こっちもだ」
「俺の方も同じだ」

 リリア、リック、ラズロ三人とも首を振る。

「こっちもないけど、それがどうかした?」

 アベルも手折ったものを同じように掲げて見せた。

「あのね、この香草は先端部分の若芽のところだけ少し違うの」

 その部分は薬草として毒消しに使われることもあり、そこまであわせて売り
に出るのが普通だが、この畑にあるのはそこだけがなくなっていると言うのだ。

「ひょっとして荒らされてるってこれ?」

 誰にというのでもなく、香草をみながら拍子抜けしたようにリリアが言った。
 王都に入荷しなくなった、そう聞いて直接産地に来れば畑があらされている
という。
 その展開なら畑そのものが壊滅的な被害にあってるとかそういうのがお約束
ではないのだろうか。
 村で香草の入荷が滞っている真相を聞いから、それなりに勢い込んでいただ
けに、リリアの気持ちももっともといえた。

「んー、でも若芽がないと商品価値もほとんどなくなるし、被害は大きいと思
うけど……」
 
 ヴァネッサが補足をするがさすがに自信はなさそうだった。
 田舎育ちなうえ、交易の窓口を兼ねる宿屋(食堂付)兼ギルド支店という実家
に育った経験から言うと、たとえ完全な状態でなくなったとしても、たとえ売
値が暴落するとしても、それを生業とするなら、生産品は必ず売りに出すもの
だった。
 実際農作物は天候に左右される不安定な生産品である。
 そのため年毎、地域ごとにでき不出来に差が出てしまうが、例え不完全な状
態(未成熟、破損)だとしても、とりあえず各町へと出荷されていく。
 それは生活がかかっているのだから当たり前のことだった。
 しかし、アベルもヴァネッサもまだ良くわかっていなかったことだが、眷族
というのはいわゆる人型種族に比べ、金銭的欲求は低い。
 人と意思疎通できるとはいえ、その本能は姿に見合う動物達にちかく、兎族
もまた基本は生産活動を必要としない。
 彼らすれば、あれば便利な金銭獲得手段の一つであり、またそれを喜んで買
ってくれる人たちがいるからたまたま続けているからで、完品でないものをあ
えて売りさばこうとする理由はないのだ。
 もし業者が若芽のない香草をあえて望むなら別だったろうけど。
 この微妙な違いがまだ理解されない限りは、「安くたたかれるかもしれない
けどなぜ売らないのか?」という疑問は解消されそうになかった。

「まあいいさ。女将さんの料理は薬膳ではないのだから、これで十分だろ?」

 ラズロがヴァネッサにきいた。
 この中で本当に必要不必要を判断できるのは、レシピを理解しているヴァネ
ッサだけだからだ。

「そうね。 うん、スパイスと香り付けに使うときは若芽は取るから、むしろ
手間が省けていいぐらいかも」
「よっし、ちゃっちゃとすまそうぜ」

 そういったアベルは言葉通りどんどん摘んではかごにいれていった。
 他の四人も同じように作業を再開した。
 それから数時間。
 たわいのないおしゃべりをしながら作業してるうちに、香草でかごがいっぱ
いになってきた頃、リックが皆を呼び集めた。

「おーい、ちょっときてくれ」

 皆が集まると地面をさしてみせた。
 そこにはわかりにくいが足跡のようなものがあった。
 
「ただの足跡じゃないのよ!」
「本とだ、でもこれが何?」
「おいおい、リリアもアベルもわからねーの?」
「! 靴か?」
「そうそう、さすがラズロはちがうねー」

 なにを!とむっとするアベルとリリアをまあまあといつものようになだめな
がら、ヴァネッサも足跡を見る。

「たしかに靴跡にみえるけど……」
「ヴァネッサまで……。 いいか、これは人間、少なくとも人型の足跡で、そ
れも俺たちじゃない。 兎族の人達の足跡じゃないって事。」
「それって……」

 皆がみつめるなか、リックは面白くなってきた、という笑みを浮かべて言い
切った。

「白い影とやらが何かしらないけど、少なくとも畑に入って何かやってる生身
のにんげんがいるってことさ」


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2007/09/24 22:45 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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