PC:スーシャ ロンシュタット
NPC:バルデラス 店主
場所:セーラムの街(宿屋)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――スーシャ!
体が、ビクッと震える。
……養母。
絵本の中に出てくる、恐ろしい風貌の魔女よりも、スーシャにとっては恐ろしい存
在。
魔女の方が、まだ可愛い。
だって、魔女は絵本の中にいるのだから。
どう頑張ったって、絵本から抜け出して追いかけては来れない。
しかし、養母は……現実にいるのだ。
こちらがどんなに存在を拒もうとも、怒鳴り声を張り上げ、手を上げ、どこまでも追
い詰めてくる。
何をぐずぐずやってるんだい、このノロマめ!
親のいないガキはこれだから駄目なんだ、しつけし直してやる!
養母の血走った目がスーシャを見据え、片方の手が胸元を掴み上げる。
そして、残った手がぐっと握り締められ――
――やめて!
頭を両手でかばった……途端、目の前の景色が暗闇に飲まれる。
わけもわからず固まっていると、カエルのゲコゲコ鳴く声が聞こえてきた。
……夢、だったようだ。
目が慣れてくると、辺りの様子がはっきりしてくる。
ここは、宿屋の一室。
自警団の詰め所から帰ってきた後、クタクタだったのですぐに眠ってしまったのだ。
スーシャは、もそもそと毛布から這い出して、ベッドの上に座りこむ。
体が熱い。
心臓が、物凄い速度で鼓動を打っている。
――もう、いないのに。
真っ暗な壁を見つめ、スーシャはもう一度、胸の中でその言葉を反芻する。
そう、あの人達はもうこの世にいない。
心無い発言で傷つけられることも、暴力を振るわれることも、もうない。
その事実に安心している自分を感じて、スーシャはぞっとした。
自分の心の中の、一番醜くて汚い部分を見たからだ。
あの人達にいなくなって欲しいと……極端に言ってしまえば、死んで欲しいと思った
ことが一度もないのかと言われると、「そうだ」とは答えられない。
心の奥底では、こうなることを望んでいた。
ひどいことをされるたびに、心を傷つけられるたびに、本当は思っていた。
死んでしまえばいい、と。
スーシャは、毛布をぎゅっと抱きしめた。
たとえ何があっても、他人の不幸や死なんて、考えてはいけない。
相手にひどく傷つけられたとしても、そんなことを望んではいけない。
そんなことを考えるのは、とてもとても悪いことだ。
考えてしまう奴は、悪人だ。
(わたしは、悪い子なんだ)
そう思うと、前向きに生きていこうとか、幸せになろうなんて気持ちにはなれそうに
ない。
憂うつな気持ちで毛布の糸目を見つめていると、ざああ……という雨音が聴覚をぼか
していく。
ロンシュタットという青年と出会った時から降っている雨。
今頃、あの青年はどうしているのだろう。
ふと、スーシャは考えた。
(……眠っているのかな……?)
まさか、仕立て屋に赴いているとは夢にも思わないスーシャである。
(わたし、どうして「助けて」って言おうとしてたんだろう……)
スーシャはぼんやりと考えた。
今までなら、あの人達から「助けて」と言おうとしていたと考えられる。
しかし、あの時はすでに全員死んでいることがわかっていたのだから、あの人達から
「助けて」とは言わないはずである。
では、自分は、何から助けて欲しいと思っていたのか?
――わからない。
スーシャはため息をつき、窓に近寄ると、そっと押し開けた。
どうにかして、ぐちゃぐちゃしてきた気分を変えたかったのだ。
開けた窓からは雨に濡れる町並みが見え、冷たく湿った空気が流れこんでくる。
(あ……)
雨の降る夜中だというのに、歩いている人間がいる。
大人が二人と、子供が一人。
薄暗くてよくわからないが、大人の方は男女の組み合せのようだ。
(親子……?)
そう思うと、見る目が変わる。
あの家族は血がつながっているのだろうか。幸せなのだろうか。
そんなことを、つらつらと考えてしまう。
それにしても、あの衣服、どこかで見たような……。
ぼんやりと思ったその瞬間、スーシャの背中を悪寒が駆け抜けた。
――まさか。
あり得ない。
でも……?
スーシャの体が凍りつく。
体の震えが止まらない。
寒さのせいではない。
あの三人の背格好、そして着ているものに、見覚えがあった。
歩き方こそ全く違う――まるでずるずると引きずるような歩き方だが、あれは間違い
なく、あの人達だ。
死んだはずの、かりそめの「家族」。
何故?
あの人達は、もうこの世にはいないはずなのに。
(あれは……何?)
まさか、幽霊だとでもいうのだろうか?
……コン、コン。
その時、ドアをノックする音がして、スーシャは飛びあがるほど驚いた。
「は、はい」
取りあえず、返事をする。
その声は震えていて、弱々しかった。
「スーシャ、こんな時間に悪いねぇ。ちょっと起きてくれないかい?」
店主の声とわかり、スーシャはほっとした。
ドアを開けに行こうとして、その前に、おそるおそる、もう一度外をのぞいてみる。
……どこにも、あの人達の姿はなかった。
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NPC:バルデラス 店主
場所:セーラムの街(宿屋)
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――スーシャ!
体が、ビクッと震える。
……養母。
絵本の中に出てくる、恐ろしい風貌の魔女よりも、スーシャにとっては恐ろしい存
在。
魔女の方が、まだ可愛い。
だって、魔女は絵本の中にいるのだから。
どう頑張ったって、絵本から抜け出して追いかけては来れない。
しかし、養母は……現実にいるのだ。
こちらがどんなに存在を拒もうとも、怒鳴り声を張り上げ、手を上げ、どこまでも追
い詰めてくる。
何をぐずぐずやってるんだい、このノロマめ!
親のいないガキはこれだから駄目なんだ、しつけし直してやる!
養母の血走った目がスーシャを見据え、片方の手が胸元を掴み上げる。
そして、残った手がぐっと握り締められ――
――やめて!
頭を両手でかばった……途端、目の前の景色が暗闇に飲まれる。
わけもわからず固まっていると、カエルのゲコゲコ鳴く声が聞こえてきた。
……夢、だったようだ。
目が慣れてくると、辺りの様子がはっきりしてくる。
ここは、宿屋の一室。
自警団の詰め所から帰ってきた後、クタクタだったのですぐに眠ってしまったのだ。
スーシャは、もそもそと毛布から這い出して、ベッドの上に座りこむ。
体が熱い。
心臓が、物凄い速度で鼓動を打っている。
――もう、いないのに。
真っ暗な壁を見つめ、スーシャはもう一度、胸の中でその言葉を反芻する。
そう、あの人達はもうこの世にいない。
心無い発言で傷つけられることも、暴力を振るわれることも、もうない。
その事実に安心している自分を感じて、スーシャはぞっとした。
自分の心の中の、一番醜くて汚い部分を見たからだ。
あの人達にいなくなって欲しいと……極端に言ってしまえば、死んで欲しいと思った
ことが一度もないのかと言われると、「そうだ」とは答えられない。
心の奥底では、こうなることを望んでいた。
ひどいことをされるたびに、心を傷つけられるたびに、本当は思っていた。
死んでしまえばいい、と。
スーシャは、毛布をぎゅっと抱きしめた。
たとえ何があっても、他人の不幸や死なんて、考えてはいけない。
相手にひどく傷つけられたとしても、そんなことを望んではいけない。
そんなことを考えるのは、とてもとても悪いことだ。
考えてしまう奴は、悪人だ。
(わたしは、悪い子なんだ)
そう思うと、前向きに生きていこうとか、幸せになろうなんて気持ちにはなれそうに
ない。
憂うつな気持ちで毛布の糸目を見つめていると、ざああ……という雨音が聴覚をぼか
していく。
ロンシュタットという青年と出会った時から降っている雨。
今頃、あの青年はどうしているのだろう。
ふと、スーシャは考えた。
(……眠っているのかな……?)
まさか、仕立て屋に赴いているとは夢にも思わないスーシャである。
(わたし、どうして「助けて」って言おうとしてたんだろう……)
スーシャはぼんやりと考えた。
今までなら、あの人達から「助けて」と言おうとしていたと考えられる。
しかし、あの時はすでに全員死んでいることがわかっていたのだから、あの人達から
「助けて」とは言わないはずである。
では、自分は、何から助けて欲しいと思っていたのか?
――わからない。
スーシャはため息をつき、窓に近寄ると、そっと押し開けた。
どうにかして、ぐちゃぐちゃしてきた気分を変えたかったのだ。
開けた窓からは雨に濡れる町並みが見え、冷たく湿った空気が流れこんでくる。
(あ……)
雨の降る夜中だというのに、歩いている人間がいる。
大人が二人と、子供が一人。
薄暗くてよくわからないが、大人の方は男女の組み合せのようだ。
(親子……?)
そう思うと、見る目が変わる。
あの家族は血がつながっているのだろうか。幸せなのだろうか。
そんなことを、つらつらと考えてしまう。
それにしても、あの衣服、どこかで見たような……。
ぼんやりと思ったその瞬間、スーシャの背中を悪寒が駆け抜けた。
――まさか。
あり得ない。
でも……?
スーシャの体が凍りつく。
体の震えが止まらない。
寒さのせいではない。
あの三人の背格好、そして着ているものに、見覚えがあった。
歩き方こそ全く違う――まるでずるずると引きずるような歩き方だが、あれは間違い
なく、あの人達だ。
死んだはずの、かりそめの「家族」。
何故?
あの人達は、もうこの世にはいないはずなのに。
(あれは……何?)
まさか、幽霊だとでもいうのだろうか?
……コン、コン。
その時、ドアをノックする音がして、スーシャは飛びあがるほど驚いた。
「は、はい」
取りあえず、返事をする。
その声は震えていて、弱々しかった。
「スーシャ、こんな時間に悪いねぇ。ちょっと起きてくれないかい?」
店主の声とわかり、スーシャはほっとした。
ドアを開けに行こうとして、その前に、おそるおそる、もう一度外をのぞいてみる。
……どこにも、あの人達の姿はなかった。
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