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2024/05/16 16:25 |
ファブリーズ  21/アーサー(千鳥)
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PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士(ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ)
  エンプティ  バルメ
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森

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 強い風が暗い森を揺らし、刹那、月の光が彼らの顔を照らした。
 愛らしい子供の顔と、大地に落ちる異形なシルエット。
 絵本の中に迷い込んだような、可笑しくも恐ろしくも感じるそのアンバランスさ
に、俺は一瞬顔を逸らした。

「確かに・・・ほかの子供たちはそうかもしれません。しかし、その少女は別です。

こに倒れている少年は彼女の兄で、彼女を探しにやって来たのです」

 貧しく身寄りの無い子供たちとは違い、チャーミーは富豪ファブリー氏の娘だ。
 何不自由ない暮らしをしている幸福な子供を何故バルメが招きよせたのか、この誤
解さえ解けばチャーミーを取り戻せるはずだ。
 俺はそう踏んで魔女に説得を始めた。

「彼女を帰してあげてはくれませんか?」
「何故分らないのかしら?子供が大人と同じ尺度を持っているとは限らないわ」 

 しかし、俺の努力は徒労に終わったようだ。
 魔女はまるで異国の言葉を聞いたように小首をかしげた。

「彼女はとっても可愛そうな子供なのよ」
「――そうですか」
 
 眉間に手を当てて、俺は深く考え込む仕草をした。
 指の合間から睨みつけるように後ろを振り返ると、ジュリアも自称騎士も逃げるよ
うに視線をはずした。

 話が通じない。

 こうなったら実力行使でチャーミーを奪還するか、魔女とともに怖い怪物を倒すか
の二つに一つしか手段は無い。

 竜――。

 先ほどのパーティで見たイリュージョンを思い出す。
 ヘビのような長い肢体を持ち、優美に空を飛ぶあの生き物と、バルメの話した竜で
は多少毛色が違うようである。
 多少は腕に心得があったが、それは人を相手にしたときの事。
 竜など、俺の範疇をこえている。
 しかし、必ずしも攻略不可能かといえば、そうでもない。
 『ドラゴンスレイヤー』を称する人間は存在するし、多少金を払えば雇えないこと
も――
 お金で解決しようとする思考をムリヤリ軌道修正する。

「騎士殿、実はその腰の立派な剣が、かつて竜を倒した伝説の名剣って事はないです
よね?」
「・・・無い」
「では、あなた自身が実はかなりの剣の達人でモンスターなど片手でねじ伏せるなん
て事は・・・」
「無い」 
「使えない男だ」
 
 思わず自分の本音が口を出たのかと思ったが、その声は女性のものだった。
 自称騎士はジュリアの言葉に傷ついた顔をしたが、申し訳程度の小さな声である幻
の一品の名を口にした。
 
「ですが、一滴口にすれば竜をも酔わすという酒なら・・・」
 
 その名も銘酒『竜殺し』。


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2007/09/24 00:06 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ
ファブリーズ  22/ジュリア(小林悠輝)
キャスト:ジュリア アーサー
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
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「竜殺しィ?」

 ジュリアは思わず素頓狂な声を上げてしまってから、珍しくも少しばかり反省した。
というのも夜の森に、思った以上に声は高く響いてしまったから。誤魔化すように顔を
しかめて、溜め息をついて言ってみる。

「正気か?」

 自称騎士は傷ついたような顔をした。彼が今までに表情を修うのに成功しているのを
見たことはないから、恐らく本当に傷ついたのだろう。素直な人間はいちいちこういう
面倒な反応をするので付き合いにくい、胸の奥だけで身勝手に毒を吐いて、ジュリアは
彼が何か答えるのを待った。

 耳は夜風に慣れて、ほとんど静寂と変わらない。
 自然と声は抑えめになった。

「正気を疑うのか」

 彼は腰に提げていた小さな鞄をごそごそと探った。
 やがて取りだされたのは掌に収まるほどの小さな小瓶で、中にはとろみのある透明な
液体が半分より少し多いくらい入っている。赤みがかった魔法の光に照らされて、ほん
のりと輝いてみえるそれは、あまり変わり映えしないように見えた。

「父が以前に手に入れてきたもので……数滴を水に溶かしただけで広間いっぱいの人々
に強い酒を振舞うことができたと聞いています。気付けのためにと持ち歩いていたので
すが、敵が竜であるとすれば、きっと役に立つでしょう」

 その話が本当なら気付けには使えないだろうと思ったが、口を挟むのはやめておいた。
ただ、彼が実際にその用途のために使ってみたことがあるのかだけは気になった。

 とにかく手っ取り早くアル中を作り上げるにはこれ以上ない道具のようだ。もちろん、
本物ならば。彼が本物の騎士であるかどうかよりも可能性の低い問題で、“真の騎士は
嘘をつかない”というような幻想を信じるかどうか――いや、必要ないか。

 テイラックが、こちらも胡散臭がっている表情で言った。

「本物なのか?」

「ま、また疑うのか」

 自称騎士はいっそ自信を喪失した口調で言った。

「本物に決まっている、父はこれを使って火竜を退治したんだから。
 手柄自体はどこの馬の骨ともわからない男に取られてしまったそうだから歌には残っ
てないが――そもそも父は誰が名誉を受けるかよりも人々の脅威が取り払われるかどう
かの方が重要だと」

「わかったわかった……」

 テイラックはこれ以上なくあからさまに「黙れ」と伝えて黙らせた。
 どうやら自称騎士は何かを挽回すべく必死になっているようだが、彼のその取り組み
に興味を持っている者はここにはいないように見えた。

 魔女は楽しそうに微笑みながら彼の様子を眺めている。
 ジュリアも彼女のように他人事として聞いていたかったが、とにかく竜とやらを何と
かしなければ魔女は話を聞かないらしい。実に面倒だ。普段通りに魔法が使えるなら、
木ごと薙ぎ倒して話を終わりにできるかも知れないのに。

 ――純粋な魔力勝負なら……勝てるだろうか?
 封じの術の種類にもよるが、隙をつくことができた場合のことを検討するのは無駄で
はないだろう。

「本物かどうかなんて、飲んでみればわかる」

「倒れますよ、お嬢さん」

 だからそんなものを気付けに使うな。
 ジュリアは手を伸ばして、自称騎士の手から小瓶を奪い取った。彼は「あ」と声を上
げたが、自分がやられたように取り戻すのは躊躇った。

 栓を抜いた途端、強いアルコールのにおいが鼻先を掠めた。テイラックが顔をしかめ、
自称騎士は後退った。かなり強い酒であることは間違いない。火花を散らせば空気が燃
えるかも知れない。

 栓に付着していた液体を指に掬うと、すっと指先の体温を奪って気化しはじめた。
 栓を締め、掬った酒を舐めてみる。舌を刺すような味がした。何らかの魔法的な加工
がされているのか純粋なアルコールよりも強いように思える。

 ジュリアは小瓶を目の高さに透かせて眺めてから、あまり丁寧ではない手つきで自称
騎士に返した。慌てて受け取る彼が何とも言えない表情をしていたので、ジュリアは言
い訳を考えなければならなかった。

「味を見る前に気化してしまった」

「急に何をするんだ……こんなところで倒れでもしたら」

 テイラックが溜め息をついた。

「強い酒だということは間違いないようだが、どうする?」

 老木の魔女が微笑んだまま言った。

「森の中心に湖があるわ。
 夜のたびに黒い竜はそこにいて、月の光を浴びているの」


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2007/09/24 00:27 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ
ファブリーズ  23/アーサー(千鳥)
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PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士(ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ)
  エンプティ  バルメ
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森

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 「竜が月明かりのした水浴び?そういうものは美しい乙女がするものだろう!」
 
 肉体的な疲労と、寝不足と、精神的な疲労と・・・もろもろの因子が重なって――
 思わず怒気を含んだ声で本音をもらし、人々の視線が集まった。
 失礼、と謝罪の言葉を口にすると、俺は魔女の方に顔を向けた。

「この騎士殿が竜退治を引き受けてくださるそうです」
「えぇ!?」
「魔女殿もご協力くださいますか?」

 突如押し付けられた重責に自称騎士が声を上げたが、隣にいたジュリアが「観念し
ろ」だの「騎士道に献身はつきものだ」などと追い討ちをかけて大人しくさせた。

 魔女はあいも変わらずほのかな笑みをたたえていて、感情を読み取りにくい。
 そもそも、竜退治は魔女の使命であって俺達は無関係なのだ。
 もっと乗り気になってもいいはずだ。
 しかし、老木の魔女も使い魔たちもふわふわと夢の中にでもいるような様子でわれ
われ人間を見ていた。

 ほかの生き物に姿を変えるということは、その人外の能力を受け継ぐと同時に、人
間としての何かを捨てるということではないだろうか?
 それは、自分を捨てるということ以上に冗談じゃない行為で、俺が彼らを見るたび
に感じる嫌悪感はそこにあるのではないかと思った。

 そんな彼らと対照的に、エンプティだけが暗く沈んだ眼孔で、魔女の後ろに控えて
いた。
 この男の目的がいまいち分からないが、もしかしたら二人はかつて恋人同士だった
のではないだろうか。

「わかったわ、協力しましょう」

 沈黙の後、応えた声が誰のものなのか一瞬分からなかった。
 その声にはいままでの老婆のものとは違う力が宿っていた。
 
 ざざざ。
 ずわんずわん。
 
 木々が葉を揺らす音と、地面が脈打つ音があたりを揺らした。
 何かが懸命に移動しようとする音だった。 

「今となってはこの森は全て私の身体の一部。私はこうして動けないけれど、私の手
を貸してあげることはできるわ」

 俺達を囲んでいた木々が、湖へと導くように道をあけた。
 人一人通れるかという細い道の向こうに、月光にきらめく湖が見えた。
 それほど大きい湖ではない。
 先ほどの話が本当ならば数滴で、酒の湖が出来るだろう。
  
「今夜はまだ竜は水浴びをしていないの。さぁ、いそいで」

 相変わらずの口調だったが、魔女の声には期待がこめられていた。

「バルメの魔女の物語には確かに偽りがございました。しかし、今宵はそれを真実に
するチャンスでございます。では、道中お気をつけて」

 エンプティが薄く笑って頭を下げ、自称騎士がごくりと喉を鳴らした。

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2007/09/24 00:28 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ
ファブリーズ  24/ジュリア(小林悠輝)
キャスト:ジュリア アーサー
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
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 ぽたり、ぽたり。
 小瓶から滴る雫が湖の水面に小さな波紋を広げてからすぐに、周囲には甘いアルコー
ルのにおいが漂い始めた。気化したアルコールが脳を溶かそうとするにおい。自称騎士
は酒にあまり強くはないらしく、「うう」と呻いて口元を手で覆った。

 ジュリアはその様子を眺めながら、竜はきっとお前より酒豪だろうなと言いかけたが、
これ以上に何か言うとそろそろ再起不能になってしまいそうに思えたのでやめておいた。
剣を持った者の心を抉っても何の得もない。

 いや、私が代わりに剣を握れば――使えないことはないのだ。羽のように軽く、針の
ように細い剣ならば、の話であれば。とはいえ騎士の役割を奪う気は起こらないので、
ヘコませるのはやめておこう。思いながら欠伸を噛み殺す。

「このくらいでいいか」

「相手は竜だぞ」

「…………」

 頭上で月が白々と輝いている。強い光に負けて星は少ない。
 水面に映ったもうひとつの月がゆらゆら揺れている。畔の黒い花は、日の下でも黒い
のだろうか――幻想的だと言えなくはない光景だ。

 また、ぽとぽとと雫が落ちて、酒のにおいが強くなった。
 テイラックの方は注意を引かない動きでいくらか岸から離れ、じっと周囲の森を眺め
ている。竜がどこから現れるにしても、きっと彼がすぐに気づくだろう。如何にも紳士
然とした格好とは不釣合いに彼の眼差しは鋭く、人間の目に映るものながら何であれ、
見逃すことはなさそうだった。

 こちらは、頼りになると言ってもいいかも知れない。
 武器を持っているようには見えないというたった一つの問題に目を瞑れば。いや、武
器があるにしても。

「竜は剣で倒せるのか?」

「ご入用とあらば」と、背後でエンプティの声がした。「聖剣の一振り程度で宜しけれ
ば、私めが用意いたしましょう」
 彼の手には既に、鞘に収められた剣が乗せられている。白を貴重とした製造えに金の
縁を入れたそれは確かに聖剣らしいといえばらしいが、その分だけ安っぽく玩具じみて
もいた。

「どうぞ、騎士殿」

「い、いや……僕の剣はここにある。
 魔物退治の聖剣ではないが、父から受け継いだ名剣だ。
 悪魔封じの聖堂で祝福を受けたものだと聞いている」

「それは心強い。
 ではこの剣は……アーサー殿、お使いになりますか?」

 その言葉にテイラックは少しだけ悩んだようだったが、上着の裏側を確かめるように
手を動かした後に、「いや、いい」とかぶりを振った。その動作でジュリアは彼の武器
が何なのか大凡の検討をつけた。その種類の武器で竜を倒したという話は聞いたことが
ないが、前例などきっとアテにならないものだろう。どちらも絶対数が極めて少ない。

 ジュリアはエンプティに向けて腕を伸ばした。

「私に寄越せ」

「…………はい?」

 エンプティの沈黙はジュリアにとって少しはおもしろい見物だった。
 口元がつりあがるのを感じながら、もう片手で耳元にかかる髪を背中に払う。

「ただし欲しいのは聖剣ではない。
 針のように細く、羽のように軽く、そして牙のように鋭い剣を私に寄越せ」

「承知しました、“西の魔女”殿。あなたが剣士だとは存知ませんでした」

「この森では魔法が使えないようだ、少なくとも簡単には。
 ならば、武器の一つくらい持っていないと不安で仕方がないだろう?」

 エンプティがぼろぼろの服の裾から取り出した剣は、正に注文通りの品だった。
 ジュリアは無言で受け取って鞘から払い、何度か空中を相手に手首を返して使い勝手
を確かめ、「必要があれば使わせてもらう」と言って鞘に戻した。鍔飾りの赤い石が、
月光を受けて僅かに煌く。

 いくらかの静寂の後――


「あそこだ」

 ごくごく小さな声で初めに囁いたのはやはりテイラックだった。
 彼の指す先を注視すると、蒼硝子の夜空の下、暗闇から姿を現す黒い獣の姿があった。

 遠目にもわかるしなやかな体躯。艶を帯びて月光に浮かび上がる毛皮と翼。いっそ美
しい生き物ではあったが、そっと湖に口をつけた獣の伏せた紅瞳は、ひどく禍々しい色
をしていた。


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2007/10/29 20:08 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ
ファブリーズ  25 /アーサー(千鳥)
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PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士  エンプティ  
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森

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 ダウニーの森の湖には、竜より先に月が淡い光を放ちながら水浴びをするように浮
かんでいた。
 夜風が吹くと、ゆらゆらと揺れる水面が星屑のように煌いた。
 そんな幻想的な見た目とは裏腹に、嗅覚に届くのは、その美しい湖から立ち昇る酒
精の香りだ。
 まるで、山賊たちが酒盛りでも開いているかのような、むせ返るような甘い匂い。
 果たしてこんな湖に竜が水浴びをしに来るのか、俺は段々不安になってきた。
 隣で待機する自称騎士の姿勢がやや前屈みになったのは、酒の匂いに酔ったせだろ
う。
 こんな状態で、あの酒を上手く活用することが出来たのかは疑問なところである。
 まさしく宝の持ち腐れだ。

 それに対し、ジュリアは相変わらずの無表情で湖を眺めていた。
 エンプティから貰った細身の剣を、手に慣らすように握ったり放したりしている。
 今までの会話を聞くに、どうやら彼女はこの森では自由に魔法が使えないらしい。
 国を滅ぼすほどの竜を相手に戦力が落ちるのは惜しいが、仕草を見るに剣の扱いに
も慣れているようだ。
 
 月夜の湖畔で凶暴な竜を待ち構えるのは、
 自称騎士と年齢不詳の魔法使い、剣を持った魔女、盗賊上がりの商人の四人。
 まるで喜劇のような寄せ集めのパーティに竜退治がつとまるのか。
 現状の滑稽さに思わず鼻で笑うと、俺は竜が姿をあらわすのを待った。
 

 △▼△▼△▼△▼△▼△▼

 研ぎ澄まされた感覚が、今までとは違う生き物の気配を捕らえた。
 風を切り森の中を疾走する獣の息遣い。
  
「あそこだ」

 草陰の中から現れた一匹の獣の姿を捉えると、俺は小さく囁いた。

 ――これが竜・・・

 月光に縁取られて、徐々に露わになる竜のシルエットは、想像していた以上に小柄
で優美な姿であった。
 馬より一回りほど大きいだろうか―――。

 竜は一度身を震わせると、我々の存在に気づく様子も無く真っ直ぐと湖へ足を進め
た。
 その目は


 森の木々に姿を隠しながらも、俺たちはそっと竜の様子を見守った。
 『竜殺し』の溶けた湖に口をつけ、一回、二回。
 嚥下する竜の喉の動きを確認すると、見守る俺達にも緊張が走る。

 変化が現れるのに幾らも待つ必要は無かった。
 
 真紅の瞳を見開き、首を大きく振った竜は、グルルッ、ガァァっと喉を鳴らしはじ
めた。

「・・・・・・笑い上戸か?」
「むしろ泣き上戸だろう」

 俺の呟きにジュリアが律儀に反応した。
 このまま泥酔して倒れてくれれば万々歳なのだが・・・。

 
 ――挑んだ戦士たちは一飲みにされるか、爪で切り裂かれるかしてしまった。

 凶暴な獣。
 魔女の言葉を思い出すと安易には手を出せない。

「エンプティ。魔法か何かで竜を拘束できないか?」
「では、試してみましょう」

 エンプティはすぐさま頷き、呪文を唱えた。
 つぷりと地面の中から木の根が顔を出し、竜の身体にまきついて行く。
 動きの鈍くなった竜は、そのまま木の根に巻き取られていくように見えたが・・・

 グゥオアア―――!

 咆哮とともにその口より放たれた焔が、竜の身体に巻きついていた木の根をすべて
焼き払った。

「!?」
「バルメは竜が火を吐くなんていってなかったぞ!」

 思わずエンプティに怒鳴ると、彼も驚いた顔をしていた。

「わたくしも、今の今まで存じませんでした」
「・・・・・・」

 ならば、理由は一つしかない。
 突如訪れた沈黙に耐え切れなくなったのか、自称騎士が弱弱しい声で言った。

「あの・・・・酒のせいでしょうか」

 分かりきったことだったので、それについてとやかく言う者はいなかった。
 ここで責任追及を始めたり、口論になる人種が居ないことはありがたかったが、そ
れが問題の解決に繋がるわけでもない。

「火は・・・困りましたね」
「あぁ。近づきづらいな」

 暗闇の中で、竜の吐く炎が何度か周囲を明るく照らした。
 一応酒の効果が出ているらしく、狂ったように炎を吐く竜の足取りはふらついてい
る。
 俺がエンプティの言葉に同意すると、ジュリアはかぶりを振って言った。

「そういう意味じゃない。ヤツが炎でこの森を焼き払えば、バルメの魔法は消え、竜
は外界に放たれる」

 いくら魔女の森といっても、その属性に逆らうことはできないということか・・・。
 ならば炎は危険だ。
 早々と手を打たねばならない。 


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2008/01/29 20:45 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ

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