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2025/03/10 06:32 |
ファブリーズ  25 /アーサー(千鳥)
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PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士  エンプティ  
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森

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 ダウニーの森の湖には、竜より先に月が淡い光を放ちながら水浴びをするように浮
かんでいた。
 夜風が吹くと、ゆらゆらと揺れる水面が星屑のように煌いた。
 そんな幻想的な見た目とは裏腹に、嗅覚に届くのは、その美しい湖から立ち昇る酒
精の香りだ。
 まるで、山賊たちが酒盛りでも開いているかのような、むせ返るような甘い匂い。
 果たしてこんな湖に竜が水浴びをしに来るのか、俺は段々不安になってきた。
 隣で待機する自称騎士の姿勢がやや前屈みになったのは、酒の匂いに酔ったせだろ
う。
 こんな状態で、あの酒を上手く活用することが出来たのかは疑問なところである。
 まさしく宝の持ち腐れだ。

 それに対し、ジュリアは相変わらずの無表情で湖を眺めていた。
 エンプティから貰った細身の剣を、手に慣らすように握ったり放したりしている。
 今までの会話を聞くに、どうやら彼女はこの森では自由に魔法が使えないらしい。
 国を滅ぼすほどの竜を相手に戦力が落ちるのは惜しいが、仕草を見るに剣の扱いに
も慣れているようだ。
 
 月夜の湖畔で凶暴な竜を待ち構えるのは、
 自称騎士と年齢不詳の魔法使い、剣を持った魔女、盗賊上がりの商人の四人。
 まるで喜劇のような寄せ集めのパーティに竜退治がつとまるのか。
 現状の滑稽さに思わず鼻で笑うと、俺は竜が姿をあらわすのを待った。
 

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 研ぎ澄まされた感覚が、今までとは違う生き物の気配を捕らえた。
 風を切り森の中を疾走する獣の息遣い。
  
「あそこだ」

 草陰の中から現れた一匹の獣の姿を捉えると、俺は小さく囁いた。

 ――これが竜・・・

 月光に縁取られて、徐々に露わになる竜のシルエットは、想像していた以上に小柄
で優美な姿であった。
 馬より一回りほど大きいだろうか―――。

 竜は一度身を震わせると、我々の存在に気づく様子も無く真っ直ぐと湖へ足を進め
た。
 その目は


 森の木々に姿を隠しながらも、俺たちはそっと竜の様子を見守った。
 『竜殺し』の溶けた湖に口をつけ、一回、二回。
 嚥下する竜の喉の動きを確認すると、見守る俺達にも緊張が走る。

 変化が現れるのに幾らも待つ必要は無かった。
 
 真紅の瞳を見開き、首を大きく振った竜は、グルルッ、ガァァっと喉を鳴らしはじ
めた。

「・・・・・・笑い上戸か?」
「むしろ泣き上戸だろう」

 俺の呟きにジュリアが律儀に反応した。
 このまま泥酔して倒れてくれれば万々歳なのだが・・・。

 
 ――挑んだ戦士たちは一飲みにされるか、爪で切り裂かれるかしてしまった。

 凶暴な獣。
 魔女の言葉を思い出すと安易には手を出せない。

「エンプティ。魔法か何かで竜を拘束できないか?」
「では、試してみましょう」

 エンプティはすぐさま頷き、呪文を唱えた。
 つぷりと地面の中から木の根が顔を出し、竜の身体にまきついて行く。
 動きの鈍くなった竜は、そのまま木の根に巻き取られていくように見えたが・・・

 グゥオアア―――!

 咆哮とともにその口より放たれた焔が、竜の身体に巻きついていた木の根をすべて
焼き払った。

「!?」
「バルメは竜が火を吐くなんていってなかったぞ!」

 思わずエンプティに怒鳴ると、彼も驚いた顔をしていた。

「わたくしも、今の今まで存じませんでした」
「・・・・・・」

 ならば、理由は一つしかない。
 突如訪れた沈黙に耐え切れなくなったのか、自称騎士が弱弱しい声で言った。

「あの・・・・酒のせいでしょうか」

 分かりきったことだったので、それについてとやかく言う者はいなかった。
 ここで責任追及を始めたり、口論になる人種が居ないことはありがたかったが、そ
れが問題の解決に繋がるわけでもない。

「火は・・・困りましたね」
「あぁ。近づきづらいな」

 暗闇の中で、竜の吐く炎が何度か周囲を明るく照らした。
 一応酒の効果が出ているらしく、狂ったように炎を吐く竜の足取りはふらついてい
る。
 俺がエンプティの言葉に同意すると、ジュリアはかぶりを振って言った。

「そういう意味じゃない。ヤツが炎でこの森を焼き払えば、バルメの魔法は消え、竜
は外界に放たれる」

 いくら魔女の森といっても、その属性に逆らうことはできないということか・・・。
 ならば炎は危険だ。
 早々と手を打たねばならない。 


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2008/01/29 20:45 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ

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