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2024/05/16 12:39 |
39.アロエ&オーシン 「真実」/アロエ(果南)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー 悪魔の森(目玉ちゃん)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「魔物…だって…?」
 

 思わず呟くアロエ。
 そしてゆっくりとアロエはオーシンの方を見た。

 「目玉」に頬を寄せていたオーシンが、ふっとまぶたを上げる。
 何の悪意も無いその瞳は、何がおかしいんだろう、とでも言いたげに、アロ
エを見つめていた。
 オーシンの腕の中の目玉もじぃっとアロエを見つめている。

「おい、アロエ」

 いつのまにか自分の傍へきていた、ぱっと見るとアロエと同じ姿のマルチが
ホンモノのアロエを小突く。

「おい、あの子…魔物だって言うのホントかよ?オマエ今まで魔物と一緒に居
たのか?」

 アロエは答えなかった。ただじっとオーシンの姿を見ている。
 戸惑うアロエに追い討ちをかけるように、ウォンが嘲笑いながら言い放つ。

「どうだ、身の内の天使の血が魔を拒絶して騒ぐだろう?これでもキミは彼女
と一緒に居られるのかな?…しかし純粋でないとはいえ、天使のキミは今まで
彼女と居て本当に何も感じなかったのかい?」

 本当は感じていた。

 ウォンに言われるまでも無く本当は始めて会った頃から、アロエは微妙な違
和感のようなものを、オーシンに対して感じてはいた。
 だから、ウォンのこの言葉は、はったりではなく「真実」だというのは一発
で解った。

 けれど、そんな違和感を、次第に自分の中で無視するようになった。
 一緒にいればいるほど、違和感はさらに多く感じていたのに。そしてそれは
自分を拒絶するものだとも本当は解っていたのに。
 なのに、いつもそれをどこかで誤魔化そうとしていた。
 
 何かを誤魔化すなんて、そんなの自分らしくない。一体このモヤモヤは何
だ?
 そんな気持ちを心の奥でアロエはいつも抱えていた。



 こんな気持ちになるのは、何故だろう?

 何故、なんだ?



 アロエは、目を閉じて深く深呼吸をした。

 こんな時、母様なら…、天使の母様ならなんと答えるだろう。
 アロエはじっと目を閉じて考えた。
 そう、きっと母様はこう言うだろう。

<アロエ、貴方はいつでも一番正しいと思ったことをしなさい>

「どうしたね?」
 ウォンが哂いながら尋ねる。
 アロエは…ゆっくりとウォンの方に振り向いた。
 その瞳にもう迷いはない。

「オーシンは…、オーシンだろ」
「何だって?」

「オーシンが魔物だろうと何だろうと、おれの友達であることには変わんねぇ
よ。ただ、それだけ、だ」

 アロエのその言葉に、ウォンはいきなり大声で笑い出した。

「テメェっ、何がおかしいんだ!」
「やめっ…アロエ!」

 ウォンに掴みかかろうとするアロエの体をマルチが必死で押さえつける。
 そんなアロエを、優しい面持ちで見つめながらウォンは呟いた。

「…キミのような者に、私ももう少し早く出会いたかった」
「は?」

 思わず聞き返すアロエに、ウォンは静かに言い放った。

「今からでも遅くはない。その手に持っている本を私に返し、これ以上この件
に係わるのは止めたまえ」

「何でだよっ!」

「その理由を聞くと、キミも、隣にいるキミの仲間も、魔物の少女も…この街
には居られなくなる」

「だから何でだ!」
「…この事件には、裏で糸引いてるやつがいんのか?」
 
 厳しい視線をウォンに向けつつ、静かにマルチが言った。

「あんだってぇ!?」
「そして」
 
 唖然としてマルチを見つめるアロエを尻目に、マルチは尚も言う。

「そして例えば、秘密が漏れたとき、あるいは計画を邪魔する者が現れた時、
そいつを消す様に言われている、とか」

 その言葉にウォンはくっくっくっ、と笑い出した。

「…やれやれ。大体、此処を見つけるのが早すぎるとは思ってはいたんだ」

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2007/02/12 16:48 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
40.アロエ&オーシン 「斬撃」/オーシン(周防松)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー 悪魔の森(目玉ちゃん)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ウォンは、片手を一振りした。
それは、海猫亭前で、手品のようにステッキを出現させた、あの動きであった。
あの時と同じように、一瞬のうちに、ウォンの手にはステッキが握られていた。
「アロエ。私の言葉が通じているね?」
本を渡せ、という意味を含めて、ウォンは微笑みかける。強者が、対する者を見下す
微笑み方で。
アロエは、本を抱える手に力をこめる。
絶対に渡すものか、とその目が告げていた。
「……仕方ない、力づくで奪うとしよう」
躊躇する素振りもなく、ステッキの先端から、アロエに向けて一筋の赤い光が放たれ
た。
「何ぼけっとしてんだ!」
マルチがアロエを突き飛ばす。
あれこれ構っている場合ではなかったため、結構乱暴な突き飛ばし方であった。
「どぁっ!」
おかげでアロエは、石の床にお尻をしたたかに打ちつけることになった。
赤い光は、嫌な音を立てて、アロエがいた位置の床を焦がした。
「いってー……」
「馬鹿、早く立てって!」
マルチが慌ててアロエを引っ張っているところへ、ウォンはステッキの先端を向け
る。
「……アロエ。せめて、苦しませずに死なせてあげたかったものだがね」
感傷に浸っているかのような瞳。
裏腹に、徐々に溜まっていく、赤い光――。

しかし、ウォンの意識は突然かき乱された。
視界の隅に飛び込んだ、白い色彩の気配によって。
「く……」
やむなく、彼は標的をそちらに変えた。
振り向き様に、赤い光を放つべくステッキを構える。
しかし、放とうとしたその刹那、何かがステッキを押しのけ、カァン、と硬い音を立
てた。
押しのけられたために照準がずれて対象には当たらず、向こう側の壁を焦がしただけ
に終わった。
続けざまに、ヒョン、と刃物が空を裂く音がする。
ウォンは、刃物とおぼしきものをステッキで受けとめた。
「驚いたよ、お嬢さん。こんなにも素早く動けるとはね」
気配の主は、オーシンだった。
――刃物の類を持っているわけではない。
刃物と思われていたそれは、オーシンの、爪、であった。
鋭く伸びたそれは、刃物と形容するにふさわしい形をしていた。
ウォンと対峙したオーシンは、鋭い爪で何度もウォンに斬撃を試みていた。
二度、三度、四度……。
しかしウォンはその度に、ステッキで攻撃を受け流す。
受け流されれば飛び退いて少し距離を置き、また斬撃を叩きこむ。
技術的に言えば、大したものではない。途方も無い体力に任せて攻撃しているだけの
ことだ。
唯一の利点といえば、ウォンが再びあの赤い光を放つ時間を作らせていない、という
ところだろう。
どうやら、あの攻撃を使うためには少々の時間が必要らしい。

「あぁああ……」

「うあっ!?」
突如として背後に聞こえた声に、アロエはぞわわっと寒気を覚えた。
慌てて降り返ると、そこには悪魔の森の『口』の方がゆらゆらと揺れていた。
顔をしかめたマルチが、そっと『口』と距離を置く。
「お前……に……ぃ…伝えぇる……ことが、ある……」
「な、何だよ」
不気味な姿に警戒しながらアロエが尋ねると、『口』は答えた。
「おぉぉしんが……言っていたぁ……はぁあ……時間、を…稼ぐぅうから、ここぉ
か、ら……逃げろぉぉお……ってぇ……」

「んなっ!?」
アロエの目が、思いきり見開かれた瞬間だった。


2007/02/12 16:48 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
41.アロエ&オーシン 「花嫁?」/アロエ(果南)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地地下→地上
NPC:マルチ 悪魔の森(目玉ちゃん)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おぉぉしんが……言っていたぁ……はぁあ……時間、を…稼ぐぅうから、こ
こぉか、ら……逃げろぉぉお……ってぇ……」

「んなっ!?」
アロエの目が、思いきり見開かれた。

「馬鹿かっ、そんなことできるわけねぇだろっ!」
 アロエは『悪魔の森』を怒鳴りつけた。

「オーシン見捨てて逃げられるわけねぇだろがっ!!」

 その時、『悪魔の森』の口は確かに、にやり、と歪んだ。

「お前たちはぁあああ……、逃げるぅぅうううう…」

 そう言うなり、『悪魔の森』は、アロエのマルチの体にすばやく蔓を巻きつ
けた。

「んなっ!」

 二人が抵抗する暇も無く、蔓はするすると二人の体全体に絡みつくと、ふわ
っとその体を持ち上げた。持ち上げたまま、二人をどこかに運んでいく。

「うわっ、てんめぇ、何するんだぁっ!」

 蔓を振り切ろうとじたばたともがくアロエとは反対に、マルチは大人しく
『悪魔の森』に捕まっている。

「アロエ、あんまり暴れない方がいいんじゃねぇ?きっとコイツ、オーシンの
命令通り、このまま俺たちを逃がすつもりなんだよ。このままいけばあっさり
脱出できるぜ」

「マルチっ、お前はオーシンを見捨てても平気なのかよっ!」

「はーん、なら言うけどさぁ」

 メガネの奥で、マルチの目がきらりと光った。

「あの場にお前が居て、あの状況をどうにかできた訳?ただ足手まといになっ
ただけじゃねぇの?オーシンが逃がしてくれなかったら、お前、確実にアイツ
に殺されてたぜ」

「だけどっ、逃げるなんてよぉ!」

「ならアイツに殺されてもよかったのかよ!」

 いきなりマルチは大声でアロエを怒鳴りつけた。その迫力に、アロエは次の
言葉が出なくなる。

「だ…って…」

「だってもクソもねぇ!」

 ぴしゃりとマルチは言う。

「いいか、お前があの場で死んだら、誰があの本を持ってカヤとかいう奴を救
うんだよ!お前が死んだら、オーシンは、俺は、どうすればいいんだ?そうい
う頭悪いヤツ、見てて腹立つんだよ、この馬鹿!」

 そう容赦なくアロエを罵倒するマルチの目に、うっすら涙が浮かんでいるこ
とにアロエは気づいた。

「マルチ…、お前…」

 その時アロエは気づいた。
 マルチは口こそ悪いがアイツはアイツなりに自分のことを心配してくれてい
たのだと。
 しかしそんなマルチの気持ちもわからず、自分のことしか考えず、残された
ものの気持ちを無視して、自分は無茶しようとしていた…。

 アロエはぐっと唇を噛み締めた。

「ご…めん…。マルチ…、おれ…」

 自分の行動に無責任だったよ…。そう言おうとしたその時、いきなり悪魔の
森は蔓を上に伸ばし、アロエとマルチを天井に押し上げた。
 
 押し上げた先には、換気用のダクトのフタがある。
 悪魔の森はそのフタをひょい、とはずすと、ぽいっとダクトに二人を放り込
み、ずずずずっと二人の背中を押していく。

「うわわわわわっ!」

 ダクトの中を通って、どんどん二人は地上まで運ばれていく。
 あっという間に地上まで二人を押し上げると、悪魔の森は、ぽいっと二人を
地面に投げ捨てた。
 もちろん、二人はしたたかお尻を地面に打ちつけることとなる。

「いってぇ!何だよ、いきなり投げ捨てやがって!」

 アロエが悪魔の森にくってかかる。
 しかし悪魔の森は、なにやらとても嬉しそうに、ぐねんぐねんと動いてい
る。

「オーシンのぉぉ…約束…叶えたぁ…あああ!!今度…オデの…番んん…」

 「うげ、コイツ一人称<オデ>だって」と言うマルチを尻目に、アロエは悪
魔の森に尋ねる。

「約束?オマエ、オーシンと何か約束したのか?」

「んん…、そう…、オーシン言ったぁああ、アロエはたぶん逃げようとしない
ぃぃ…、だから…逃がしてほしい…ってぇぇ…」

「それで?オマエはそれ聞いてすぐに<はい>って言ったのか?」
 マルチが聞くと、悪魔の森はぶるんぶるんと目玉を横に振った。

「オデはぁああ…、マスターにぃぃ、造られたぁぁああ…。オデ、マスターの
為に働くものぉおおお…。だけどぉ…、オーシン言ったぁあああ…!!」

 そこで、悪魔の森は嬉しそうにぐねんぐねんと体をくねらせた。

「逃がしてくれたらぁああ…、<結婚>してくれるってぇぇ…」

「何ぃいいいっ!!」
 アロエとマルチは同時に叫んだ―。

2007/02/12 16:49 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
42.アロエ&オーシン 「愛を叫んだ魔物」/オーシン(周防松)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地地下とか地上とか
NPC:マルチ ウォン=リー 悪魔の森(目玉ちゃん)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……あのさ。聞きたいんだけど」

マルチが、こめかみを押さえながらうめく。
目玉のほうの蔦(つた)が伸び、間近な位置でマルチを見る。

「なぁんだぁぁ……?」
「お前、<結婚>の意味、わかってんだろうな?」
「…はぉあぁ……当然だあぁぁぁ……」

『悪魔の森』は、蔦を操り、垂直に立った。
どこか、人間が得意げに胸を張るさまを彷彿とさせる姿だった。

「おぉしんが……オデと、ずっとぉ……ずっとぉぉ……ずぅぅっとぉぉ……一緒、
に、いる……そぉういうことだ……はぁぁぁあ……」

当たっているような、なんか間違ってるような。

「……ま、がんばれ」

そうとしか言いようのないマルチであった。

「おぉぉしぃぃん……!」

不意に、愛しいものの名を呼んで、『悪魔の森』は恐ろしいほどの勢いで換気用のダ
クトの中にずるずるずるっと戻っていった。
しばし、アロエはダクトを見つめた。

「戻ってる場合じゃないからな」

マルチに肩を叩かれ、アロエはぐっと表情を引き締めた。

「わかってる……」

アロエは、先に墓地の出口に向かうマルチの後を追う。
――墓地を出る間際に、ちらり、ともう一度ダクトの方角を見ると、今度こそ、振り
向かずに駆けた。

――立ち止まるわけには、いかない。


  * * * * * * * * * * * *


幾度も幾度も打ちつけた。
渾身の力をこめて。あるいは、全身のバネを使って。
素早く、強く、切り裂くように。
――相手に、余計なことを考えさせないように。

だけど、それはひどく体力を使う。

気力というものが実際どんなものなのか、よくわからないけれど、今のオーシンは肉
体の疲労をそれで補っている状況だった。
元が魔物なせいか、体力だけは無尽蔵なオーシンだが、ウォンと対等に渡り合うため
にはその無尽蔵な体力を容赦なく消費せざるを得なかった。
『疲れる』――そんな経験をしたのは、人間の姿をするようになって初めてのこと
だった。

「一体何を考えているんだね」

オーシンの爪をステッキで受け止めるウォンが、片方の眉をひそめていた。
何か、異変のようなものを嗅ぎ取ったのだ。
それ以上、その考えを進ませてはいけない。
そう思ったオーシンは、考えなしにとにかく突っ込んだ。
立ち止まって戦略を練る、などという考えは、なかった。

「実に惜しい」

ウォンは、突っ込んできたオーシンの体を、スッと流れるようにかわした。
かわした瞬間に、ステッキの先がオーシンの背中に打ちつけられる。
思わぬ激痛に、オーシンは身をのけぞらせて苦悶の表情を浮かべた後、前のめりに崩
れた。

「私だって馬鹿じゃないんだ。君ががむしゃらに攻撃してくる間に、攻撃パターンや
何やら、読んでいたんだよ」

ウォンの目が冷徹に光る。
彼の見る前で、オーシンは身をよじるようにして起きあがろうとしていた。

「……なるほど」

呼吸を整えたウォンは、先ほどまでアロエがいた位置を見つめ――それから、オーシ
ンをひたと見据えた。
ステッキの先端を、オーシンの額に押しつけて。

「本を持ったアロエを逃がすために、おとりになったというわけか。魔物にしてはよ
く考えたものだ」

その表情には、侮蔑の色が浮かんでいた。
この男も、魔物を忌み嫌い、力だけの下等な生物とみなすという、人間によくいるタ
イプなのだろう。

「彼女の足音はしなかった」

感情を含まぬ声色で、ウォンが呟く。

「……どういうことだろう? 足音がないのに、気がついたら彼女と本は消えてい
た」

マルチのことは出てこない。
取るに足らぬと思っているのか、それともあえて除外しているのか。

「背中の羽根で飛び去った? いやいや、それでも随分な羽音がするはずだ」

まるで、詩の一節を読み上げるように、ウォンは呟き続ける。
彼はそこで一呼吸置き――ギラリとその目に怒りの感情を浮かべた。

「……悪魔の森め。裏切ったな」

その時、ずあ…っと、一陣の風が起きた。
その風はオーシンの体を巻き取り、ウォンから離れた位置へと素早く押しのけた。

「……あ……」

オーシンは、風などではないことをすぐ悟った。
『悪魔の森』が自分の体に蔦を巻き付け、運んだのだ。
にゅっと視界に現れた目玉が、オーシンを実に愛しげに見つめた。

「おおぉぉしぃいん……オデ、やったぁああ……約束、守ったあぁぁぁ……」

うん、とオーシンは頷くと、爪を引っ込め、目玉を優しく両手で包み込んだ。

「約束……おおぉしぃん……約束……」
「……わかってる……ちゃんと、守る……」
「おおぉぉぉぉっっ……!」

喜んでいるらしい咆哮を上げる、悪魔の森。

「まさか悪魔の森を懐柔してのけるとはね。一体何と言って交渉したのやら」
「……<結婚>する、って……そう、言ったんだ……」

オーシンは、馬鹿正直に答えた。
本人にしてみれば、相手が疑問に思っているらしいから答えただけのことである。
他意はない。
返答を聞いたウォンは、片方の眉を動かした。

「結婚だと? 魔物の分際で人真似か」 

ウォンが嘲笑するのを、オーシンはぼんやりと見ていた。
それから、『悪魔の森』に頼みごとをしたあの時のことを思った。

アロエを逃がして欲しいと頼んだ時、さすがに創造主に抗うことになる、と『悪魔の
森』は躊躇した。
仕方なく、『悪魔の森』を説得するために、以前街で偶然聞いたことを言ってみたの
である。
確か、その時は若い女性が、男にこう言っていた。
「それじゃあ、アタシの言うコトを聞いてくれたら、結婚してもいいよ」と。
その台詞の前に、一体どんな会話をしていたかは知らない。
しかし、それを聞いた男が目を輝かせて「わかった! 僕、君のためなら何でもする
よ!」と嬉々として答えていたので、誰かに言うコトを聞いてもらいたい時に使う言
葉なのだと記憶していたのだ。
それを、オーシンは今使った、ということである。

……したがって、オーシンが<結婚>の意味など正しく理解していようはずもない。
オーシンの<結婚>というものに対する知識は、おそらくは『悪魔の森』とたいして
変わらない程度のものである。
まったく、恐ろしいことである。

「お前は私が作ったモノだ。言うなれば、お前にとっての創造主たる者。つまり――
お前にとって、私は親だ……いや、神にも等しいということさ」

ウォンの目に浮かぶ怒りの感情が、徐々に色濃くなっていく。

「それをあっさり裏切るのか。恐ろしくはないのか、私が」

声までもが、寒気のしそうなものに変わっていた。

「オデはあぁぁ……愛、に、生きるぅぅううう……!」

オーシンの両手の中にいる目玉が、ぎょろり、とウォンを睨む。

「魔物の分際で愛を語るな!!」

ステッキが、壁を打ちつける。
硬い音が空気を震わせ、その場の緊張感を一気に高めた。

「――役立たずが。役立たずが、役立たずが! どうして、どいつもこいつも……!
 私の言う通りにしてさえいればいいのに、何故余計なことを考える!?」 

ウォンの精神状態は、どうやら悪い方向に向かっているらしい。
オーシンに判別できたのは、それだけだった。


2007/02/12 16:49 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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