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2025/03/10 07:02 |
42.アロエ&オーシン 「愛を叫んだ魔物」/オーシン(周防松)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地地下とか地上とか
NPC:マルチ ウォン=リー 悪魔の森(目玉ちゃん)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……あのさ。聞きたいんだけど」

マルチが、こめかみを押さえながらうめく。
目玉のほうの蔦(つた)が伸び、間近な位置でマルチを見る。

「なぁんだぁぁ……?」
「お前、<結婚>の意味、わかってんだろうな?」
「…はぉあぁ……当然だあぁぁぁ……」

『悪魔の森』は、蔦を操り、垂直に立った。
どこか、人間が得意げに胸を張るさまを彷彿とさせる姿だった。

「おぉしんが……オデと、ずっとぉ……ずっとぉぉ……ずぅぅっとぉぉ……一緒、
に、いる……そぉういうことだ……はぁぁぁあ……」

当たっているような、なんか間違ってるような。

「……ま、がんばれ」

そうとしか言いようのないマルチであった。

「おぉぉしぃぃん……!」

不意に、愛しいものの名を呼んで、『悪魔の森』は恐ろしいほどの勢いで換気用のダ
クトの中にずるずるずるっと戻っていった。
しばし、アロエはダクトを見つめた。

「戻ってる場合じゃないからな」

マルチに肩を叩かれ、アロエはぐっと表情を引き締めた。

「わかってる……」

アロエは、先に墓地の出口に向かうマルチの後を追う。
――墓地を出る間際に、ちらり、ともう一度ダクトの方角を見ると、今度こそ、振り
向かずに駆けた。

――立ち止まるわけには、いかない。


  * * * * * * * * * * * *


幾度も幾度も打ちつけた。
渾身の力をこめて。あるいは、全身のバネを使って。
素早く、強く、切り裂くように。
――相手に、余計なことを考えさせないように。

だけど、それはひどく体力を使う。

気力というものが実際どんなものなのか、よくわからないけれど、今のオーシンは肉
体の疲労をそれで補っている状況だった。
元が魔物なせいか、体力だけは無尽蔵なオーシンだが、ウォンと対等に渡り合うため
にはその無尽蔵な体力を容赦なく消費せざるを得なかった。
『疲れる』――そんな経験をしたのは、人間の姿をするようになって初めてのこと
だった。

「一体何を考えているんだね」

オーシンの爪をステッキで受け止めるウォンが、片方の眉をひそめていた。
何か、異変のようなものを嗅ぎ取ったのだ。
それ以上、その考えを進ませてはいけない。
そう思ったオーシンは、考えなしにとにかく突っ込んだ。
立ち止まって戦略を練る、などという考えは、なかった。

「実に惜しい」

ウォンは、突っ込んできたオーシンの体を、スッと流れるようにかわした。
かわした瞬間に、ステッキの先がオーシンの背中に打ちつけられる。
思わぬ激痛に、オーシンは身をのけぞらせて苦悶の表情を浮かべた後、前のめりに崩
れた。

「私だって馬鹿じゃないんだ。君ががむしゃらに攻撃してくる間に、攻撃パターンや
何やら、読んでいたんだよ」

ウォンの目が冷徹に光る。
彼の見る前で、オーシンは身をよじるようにして起きあがろうとしていた。

「……なるほど」

呼吸を整えたウォンは、先ほどまでアロエがいた位置を見つめ――それから、オーシ
ンをひたと見据えた。
ステッキの先端を、オーシンの額に押しつけて。

「本を持ったアロエを逃がすために、おとりになったというわけか。魔物にしてはよ
く考えたものだ」

その表情には、侮蔑の色が浮かんでいた。
この男も、魔物を忌み嫌い、力だけの下等な生物とみなすという、人間によくいるタ
イプなのだろう。

「彼女の足音はしなかった」

感情を含まぬ声色で、ウォンが呟く。

「……どういうことだろう? 足音がないのに、気がついたら彼女と本は消えてい
た」

マルチのことは出てこない。
取るに足らぬと思っているのか、それともあえて除外しているのか。

「背中の羽根で飛び去った? いやいや、それでも随分な羽音がするはずだ」

まるで、詩の一節を読み上げるように、ウォンは呟き続ける。
彼はそこで一呼吸置き――ギラリとその目に怒りの感情を浮かべた。

「……悪魔の森め。裏切ったな」

その時、ずあ…っと、一陣の風が起きた。
その風はオーシンの体を巻き取り、ウォンから離れた位置へと素早く押しのけた。

「……あ……」

オーシンは、風などではないことをすぐ悟った。
『悪魔の森』が自分の体に蔦を巻き付け、運んだのだ。
にゅっと視界に現れた目玉が、オーシンを実に愛しげに見つめた。

「おおぉぉしぃいん……オデ、やったぁああ……約束、守ったあぁぁぁ……」

うん、とオーシンは頷くと、爪を引っ込め、目玉を優しく両手で包み込んだ。

「約束……おおぉしぃん……約束……」
「……わかってる……ちゃんと、守る……」
「おおぉぉぉぉっっ……!」

喜んでいるらしい咆哮を上げる、悪魔の森。

「まさか悪魔の森を懐柔してのけるとはね。一体何と言って交渉したのやら」
「……<結婚>する、って……そう、言ったんだ……」

オーシンは、馬鹿正直に答えた。
本人にしてみれば、相手が疑問に思っているらしいから答えただけのことである。
他意はない。
返答を聞いたウォンは、片方の眉を動かした。

「結婚だと? 魔物の分際で人真似か」 

ウォンが嘲笑するのを、オーシンはぼんやりと見ていた。
それから、『悪魔の森』に頼みごとをしたあの時のことを思った。

アロエを逃がして欲しいと頼んだ時、さすがに創造主に抗うことになる、と『悪魔の
森』は躊躇した。
仕方なく、『悪魔の森』を説得するために、以前街で偶然聞いたことを言ってみたの
である。
確か、その時は若い女性が、男にこう言っていた。
「それじゃあ、アタシの言うコトを聞いてくれたら、結婚してもいいよ」と。
その台詞の前に、一体どんな会話をしていたかは知らない。
しかし、それを聞いた男が目を輝かせて「わかった! 僕、君のためなら何でもする
よ!」と嬉々として答えていたので、誰かに言うコトを聞いてもらいたい時に使う言
葉なのだと記憶していたのだ。
それを、オーシンは今使った、ということである。

……したがって、オーシンが<結婚>の意味など正しく理解していようはずもない。
オーシンの<結婚>というものに対する知識は、おそらくは『悪魔の森』とたいして
変わらない程度のものである。
まったく、恐ろしいことである。

「お前は私が作ったモノだ。言うなれば、お前にとっての創造主たる者。つまり――
お前にとって、私は親だ……いや、神にも等しいということさ」

ウォンの目に浮かぶ怒りの感情が、徐々に色濃くなっていく。

「それをあっさり裏切るのか。恐ろしくはないのか、私が」

声までもが、寒気のしそうなものに変わっていた。

「オデはあぁぁ……愛、に、生きるぅぅううう……!」

オーシンの両手の中にいる目玉が、ぎょろり、とウォンを睨む。

「魔物の分際で愛を語るな!!」

ステッキが、壁を打ちつける。
硬い音が空気を震わせ、その場の緊張感を一気に高めた。

「――役立たずが。役立たずが、役立たずが! どうして、どいつもこいつも……!
 私の言う通りにしてさえいればいいのに、何故余計なことを考える!?」 

ウォンの精神状態は、どうやら悪い方向に向かっているらしい。
オーシンに判別できたのは、それだけだった。

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2007/02/12 16:49 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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