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2024/11/01 08:42 |
34.アロエ&オーシン 「水泡」/オーシン(周防松)
PC アロエ オーシン
場所 イノス北西墓地
NPC (マルチ ウォン=リー)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「よし、ここから逃げるぞ」
アロエが、やや声を押さえて告げる。
辺りに注意を傾けているのだろう、ネコミミが絶えずぴくぴくと動いていた。
対するオーシンは、いつものぼけっとした表情のまま、こく、と頷く。
それから、部屋の中にてくてくと戻っていき、暖炉の前にかけておいた白いワンピー
スの布地を手でつかむ。
着替える前に着ていたものである。

……あらかた、乾いている。

オーシンは、そのことを確認すると、次の行動に出た。

「ってうわわわわ!!」
大慌てしたアロエが、奇妙な声を上げる。
無理もない。
オーシンが、いきなり服を脱ぎ始めたからである。
アロエの動揺などどこ吹く風といった具合で、隠すべき部分を隠そうともせず、もそ
もそと黒い詰襟の喪服を脱ぐと、白いワンピースの袖に腕を通す。
「オオオオオーシンッ、いきなり脱ぐなっ!」
着替えを済ませ、ワンピースのすそをはたいてめくれた部分を直すと、オーシンは
「?」という表情を返した。
その表情は、『男性』だとか『女性』だとか、そんな区別などまだ関係ない……意識
すらもしない年頃の子供を彷彿とさせるものだった。
(……ま、まあ、女どうしだから、な)
アロエは、それ以上深く考えないことにした。
オーシンの性別は見た目だけのものに過ぎないと知っていたら、別の反応もあったか
もしれないが。

さて、オーシンは元の白いワンピース姿に戻ると、借り物である黒い詰襟の喪服をク
ローゼットにしまいこみ、アロエの元へと戻ってきた。

脱出開始、である。

辺りに注意を傾けながら、薄暗い廊下を突っ走る。
やや先頭を行くのはアロエである。
オーシンは途中からしか意識がないため、出口に続く道を知っているのはアロエだけ
なのである。

「マルチとは、後で落ち合う約束をしてンだ」
走りながら、アロエが説明をする。
「おれ達が入り口まで逃げたところで、合図を出して……」

「駄目」

オーシンの声が、アロエの説明を遮る。
思わず振り返ると、オーシンはすでに立ち止まっていた。
「どうした? 足、痛いのか?」
ふるる、とオーシンは首を横に振る。
「……カラを、治す方法…まだ教えてもらってない……」
ぽつん、と呟かれた言葉が、薄暗い空気の中に溶けていく。
「カヤのことは、絶対何とかする! 絶対助ける! でも、今は……今は……」
そこから先は言いづらいのだろう、アロエの言葉はしだいに弱くなっていった。
オーシンは、ぶんぶんと首を横に振る。
まさしく、「やだ」と言い張る幼い子供のそれである。
「……カラ、かわいそう」
薄暗い中にぼんやりと浮かぶ白い色彩が、ふわりと揺れる。

タンッ。

足音が生じる。

タッタッタッタッ……。

それは、廊下の中で反響しながら、しだいに遠ざかっていく。


「オーシンッ!!」

アロエが止める間もなく、オーシンは内部へと逆戻りして行った。

おそらくは、カヤを治す方法を求めて。


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2007/02/12 16:45 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
35.アロエ&オーシン 「正義とは」/アロエ(果南)
PC アロエ オーシン
場所 イノス北西墓地
NPC (マルチ ウォン=リー)
___________________________________

「オーシンッ!!」
 薄暗い廊下の闇に白い服が吸い込まれるように小さくなっていく。
 遠ざかっていくオーシンを追いかけながら、アロエの金色の目には薄く涙が
滲んだ。

(ちくしょうッ!)

 悔しい。
 アロエの心が火傷のように痛んだ。
 本当に正しいのは誰か。今、アロエははっきりと悟った。
 …本当に正しいのは、今のオーシンの行動だ。

 オーシンは、どんな状況でも、どんな相手でも、カヤを思い、少しでもカヤ
を助けられる方向に動こうとしていた。
 なのに、自分は…、オーシンを助けることで精一杯で、ウォンという男の力
を恐れて、正しい行動を取れなかった。まっすぐに自分の正義のために動けな
かった。

 少しでも惑ってしまった自分が悔しい。
 少しでも弱気になった自分が悔しい。

 そんな自分をアロエは痛いほど悔いていた。

(ごめん、オーシン!カヤっ!おれ、もう、逃げねぇからっっ!!)

 オーシンの姿が闇の中に消えた。
 オーシンが廊下の角を曲がってしまったからだ。

(やべぇ!)

 息を切らして同じ角を曲がったアロエだが、そこにはもうオーシンの姿はな
かった。

「オーシンっ!!」

 廊下の隅から隅まで見渡してもオーシンの姿は無い。
 ふと目を移すと、廊下の壁には木製の、いかにも重そうな扉がついている。
先ほどオーシンが閉じ込められていた扉と同じ形のものだ。
 
 …もしかしたらオーシンはこの扉のどこかに入っていったのかもしれない。

 縋るような気持ちでアロエは扉を開けた。



 扉のドアノブに手を掛け、開け放つ。


 開け放ったドアのその向こうにオーシンはいた。

「オーシ…」
 
 嬉しそうに声をかけようとしたアロエの動作が止まった。
 

 その部屋は、本の山だった。
 壁の本棚は一番上が天井と同じ高さであり、その壁にはびっしりと分厚い本
が並んでいる。まるでこの部屋の壁がもともと本であったかのように。
 ふと足元を見ると、床にも本がごろごろと置いてある。それと何かのメモの
ような紙がいくつも落ちている。メモの文字は…走り書きのようなものなのに
もかかわらずなかなかの達筆だ。
 部屋の中央には机が置いてあり、そこには何かの書類と思われる大量の紙が
山積みになっている。

 その机の前でオーシンは身動きもせずじっと何かを凝視していた。

「何やってんだ…?オーシン?」

 アロエの呼びかけにもオーシンは答えない。
 アロエはオーシンの肩越しにオーシンが凝視しているものを覗いてみた。

 そこにあったモノは…人体から咲く真っ赤な花の絵が表紙の論文が一つ。そ
して、青空と海をバックに、オーシンがサラと写っている写真。
 その写真のオーシンは今までアロエが見たこともない満面の笑みで微笑んで
いて、その写真のサラは、今より少しシワが少ないように見えた―。


2007/02/12 16:46 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
36.アロエ&オーシン 「ややこしや」/オーシン(周防松)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オーシンは、写真立てをじっと見つめたまま、石像のように動かない。
アロエは、写真立ての中におさまっている方のオーシンと、今実際に隣に立つオーシ
ンとを交互に見て、そして首を傾げながらも口を開いた。
「これ、お前か?」
語尾に疑問符がついているのは、疑いようがないほど顔かたちが同一人物のものであ
りながら、たたえている雰囲気がまるで違うからだろう。
それまでじっと写真を凝視していたオーシンが、ようやく生き物らしい反応を見せ
た。
「ううん」
ゆっくりと首を横に振る。
あ、やっぱりなぁ、とアロエは思った。
どう考えてもサラのしわが少ない、というところが引っかかっていたのである。
そうあんると、可能性として考えられるのは、親族のうちの誰か、ということであ
る。
「じゃあ、お前の母ちゃんか?」
「ううん」
「じゃあ……姉ちゃん?」
「ううん」
「あ、妹か?」
「ううん」
「じゃあ、おばさんとか?」
「ううん」
アロエの質問に返される反応は全て、「ううん」と首をゆっくりと横に振る動作ばか
りである。
なんだか、人の話を真面目に聞いているのかすら疑ってしまうほど、それは画一的な
反応だった。
「お前……おれの話、聞いてるか?」
ためしに聞いてみると、
「うん」
これには、首を縦に振る反応が返って来た。
やはり動きはのろいのだが。
アロエは、頭を抱えた。
わからない。
まったくもってわからない。
写真立ての中にいる、オーシンと同じ顔かたちの人物とオーシンとを繋げる続柄がこ
とごとく否定されてしまったのだ。
その上、本人でもないという。

「じゃあ、こいつ誰なんだ?」
この状況で誰しもが抱くであろう疑問をぶつけてみると、オーシンは、すっ、と写真
立てを指差した。
そして、こう答えた。


「オーシン」



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 


ウォンと対峙しながら、マルチは撤退する準備のことを考えていた。
そろそろ、アロエが人質を救出したという合図が来そうな頃合なのである。
合図が出たなら、即座にこの場から撤退しなくてはならない。
そもそも、この男に勝てるというのならば、最初から『人質を連れて逃げる』などと
いう提案はしない。
だったら最初からこいつを倒して、人質を助けに行くところである。
むしろ、その方が簡単で手っ取り早いし、楽といえば楽だ。

「しかし、よくここがわかったものだ」

ウォンは、芝居がかった動作で、そっと片手を差し出した。
マルチは、ウォンをじっと睨みながら距離を置く。
はた目には、怯えと警戒との入り混じった表情でウォンの出方を探っているように見
えるところだろう。
「ふふ、私が怖いかね」
(まだか……!)
マルチは、ひたすら、『合図』を待っていた。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * 


「……は?」

たっぷりと間を置いてから、アロエが発したのは間抜けな声だった。
そんなアロエの反応を、ぼーっとした目で見つめ……オーシンは、聞こえなかったん
だ、という解釈をした。
だから、もう一度写真立てを指差して、
「いやそれはわかったから」
『オーシン』と教えようとしたところで、ひどく疲れたような表情のアロエに止めら
れた。

「あのな、お前。さっき、これ『自分じゃない』って言ってたよな?」
これ、と写真立てを示すアロエに、こく、とオーシンは頷く。
「で、こいつは?」
アロエは、写真立てにおさまっているほうのオーシンを、びし、と指差す。
オーシンは、きょとんとした表情でまばたきをした。
「オーシン」
「だあああからどうしてそうなるんだ!」
明かにイライラした様子でアロエが髪の毛をかきむしる。
なんとかこの情報を理解しようとして、失敗に終わっている。

「お前がオーシンで、こっちもオーシンか? 本人じゃねぇってのに? ただの同名
なのか?」
混乱しはじめたアロエをぼーっと見つめつつ、オーシンはこれまたぼーっと考えた。
『お前がオーシンで、こっちもオーシンか? 本人じゃねぇってのに?』という部分
である。
事実、なのである。
ここにいる自分にサラが与えた名前がオーシンならば、サラが亡くしたという娘の名
前もオーシンなのである。
そして自分は彼女ではないので、本人ではない。
しかし、同名であることは事実だ。
オーシンの考えは、そこで止まった。
彼女と、同じ姿をとった自分に与えられた名が同じであることに、いったいどんな意
味があるか……そこまでは思考が及ばない。
「うん」
あっさりと頷くオーシンに、アロエは『もはや理解不能』といわんばかりに固まっ
た。

「……ま、いいや……」

力なくアロエが呟くのを、オーシンは聞いた。
「で、こっちは何だろな」
写真立てにこだわるのをやめ、アロエが、人体から咲く真っ赤な花の絵が表紙の論文
を手に取る。
見ていて、あまり気分の良くない表紙である。
論文を持つアロエの手は、絵に触れない位置にあった。
「何か、手がかりになるモンはあるかな……」
真剣な眼差しで、アロエが表紙をめくる。
オーシンは、ぼーっとそれを覗いて見た。
……難しい専門用語などはさっぱりわからないが、どうやらそれは古代に封印された
という、例の植物を生育した観察記録が元になったようだ。
普通の植物と同じように生育した場合と、そして……本来の使用目的である、人体を
利用して生育した場合とが記録されているらしかった。



2007/02/12 16:46 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
37.アロエ&オーシン 「目玉のスウィート・ハニー」/アロエ(果南)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ―アロエが本を手に入れた同時刻。

 この墓地の別の場所では未だ密かな戦いが続けられていた。
 マルチと、ウォン=リーとの、である。

 今はアロエそっくりに「化けて」いるマルチは、アロエからの脱出の合図を
今か今かと待ちわびていた。
 …本当は今スグこんな場所から逃げ出したい。
 実力がまるで図れない相手と対峙するのはオレの精神衛生上よくないのによ
ぉ…。
 マルチは心の中で一人ごちる。

 マルチは猪突猛進、無鉄砲で彼曰く「計画性ゼロの大馬鹿」姉アロエとは対
照的に、誰かと戦う際、まず相手の情報をじっくりリサーチしてから、隙を見
て相手の弱点を突いて戦う、というタイプだ。
 ましてやマルチは「海猫亭」で相手の強さを一度目の当たりにしている。

 ヤツは目の前で人間を二人飛ばし、自身も魔方陣でワープした。
 こんな化け物じみた魔力を持つ相手にどう考えても敵うはずが無い。

「ふふ、私が怖いかね」

 薄笑いを浮かべながら黒い影のようなヤツが迫ってくる。
 マルチは恐怖からぴんっと尻尾を立て、じりじりと足を引いた。

 マルチは今ははっきりと、自分の額から冷や汗がだらだら流れている感覚が
解る。
 化け猫の血が多く流れているマルチは、たかが驚かされたぐらいで猫化して
しまうアロエほどはカンタンに変身は解けない。が、極度の緊張状態が続け
ば、猫には戻らずとも、自分の変化が切れてしまう可能性はあった。
 自分はもうダメかもしれない、変化が解けてしまうかもしれない…。

 アロエ…!!
 心の中でマルチがアロエを呼んだその時、

 いきなりウォンの目の前ににゅっ、と長い植物の蔓(つる)が伸びてきた。

(何だ?)

 マルチが不審に思っている間にもっと驚くべき出来事が起こった。
 なんとその蔓の先が二股に分かれ一方からは「目」が、もう一方からは
「口」がポンっ、というかわいらしい音とともに「生えて」きたのだ。

 しかし、生えてきた「目」と「口」は人間のそれとソックリで妙に生々し
く、気持ち悪い。その口がウォンに向かって喉に痰が絡んでいるような声で喋
り掛けた。

『盗…られた…ァ…ア……ッ。ほ…、本…ぉぉゥゥっ!!ぐふぁああああ』

 後の声は悲鳴のようなうめき声になって聞き取れなかった。が、ウォンは心
得たかのように頷くと、その言葉だけで全てを理解したようだ。
「解った、有難う」と言ってウォンがその気持ち悪い目玉を優しく撫でると、
目玉は嬉しそう(?)にぎょろっと白目をむいて、口からハァハァと息を漏ら
した。

 目の前で見ているマルチとしては、できることなら見たくも無い気持ち悪い
光景だ。

「…ああ。こいつは<悪魔の森>の改良品種だよ」

 マルチに顔も向けず、目玉を撫で続けながらウォンが言う。

「元々は森全体に取り付いて、入った人間を片っ端から喰らう魔物でね。大雑
把に説明すると、植物にヤツの子供が取り付き、長い年月をかけてじわじわと
全ての植物を支配するんだ。こいつの生態系には謎が多くてね。私としても実
に興味深い研究対象だよ。…ま、最も今はちょっと構造を弄ったやつを、ココ
の監視役として使わせてもらっているが」

 <悪魔の森>、マルチが初めて聞く名前だ。森を取り込み人を喰らう魔物…
そんなものを「弄って」監視役にしているこの男に、マルチは更なる嫌悪感を
覚えた。
 そして何より不吉なのが、目の前の気持ち悪い植物が発した言葉。

(盗られた…、本…?)

 アロエだ…!
 直感的にマルチはそう思った。
 無計画なアイツのことだ。逃げる時にきっと何かやらかしたに決まって
る…!思わず唇をかみ締めるマルチ。
 と、事も無げにウォンがマルチに言った。

「…そう悔しそうな顔をするな。じき本物がここに来るらしい」

「んな…っ!!」

 驚きのあまりマルチは大きく目を見開くと、呻くように言葉を吐き出した。

「…最初…から、知って…」

「勿論。キミとあの子じゃ、確かに似ているが、感じるものが違う。キミの方
が、魔物の血が濃いだろう」

 ショックでマルチの頭の中が真っ白になった。
 自分とアロエの「血」の秘密は誰にも明かしてはいけない絶対の秘密なの
だ。
 それを一目でこの男に見抜かれてしまった。

「オマエは…何だ…?」
「ん?」

 自分とアロエの秘密を一目で見破った。
 それに常人には無いあの魔力。
 マルチの中で燻っていたギモンが確信に変わった。

「…たぶん、オマエ、人間じゃない、だろう?」
「答えはあの子が来たら教えてあげよう。…ほら、3、2、1」

 ウォンのカウントダウンは恐ろしく正確だった。
 1、という声とともにアロエが目の前の角から飛び出したのだ。

「…アロエっ!!」

* * * * * * * * * * * * * * * * * *         

 確かに来た時と同じルートで戻ったはずなのに。
 なのに、鉢合わせてしまった。
 丁度マルチとあの男が対峙しているその現場に。

 その光景を目にして、思わず立ち止まるアロエ。
 が、そのアロエの背中に、後ろから走ってきて止まりきれなかったオーシン
が「ごんっ」と体当たりしてきた。

「あだっ!」

 よろめいて、完全にウォンの視界に入る場所に出てきてしまったアロエ。
 その後ろを、よろよろとオーシンが出て来た。

「だいじょうぶ…?アロエ?」
「うわっ!お前まで出てくんなよ!つーか、押すなよ!完全に見つかっちまっ
たじゃねぇかっ!」
「ごめ…ん…」

「…んっ!!」
 茶番は終わりだ、というようにウォンが大きく咳払いをする。
 その音で二人ははっ、とウォンのほうを見た。
 目の前にはウォン、と奇妙な植物。そしてアロエと瓜二つの姿をしたマル
チ。

 アロエの尻尾がびん、と立ち、体から滝のような冷や汗が出る。
 一方オーシンは、ぼーっとした目で何かを見つめている。
 どうやら、ウォンの隣の植物が気になっているようだ。植物の方もウォンが
アロエたちのほうを向いたと同時にぎょろっと目玉をこちらに向け、大きな瞳
でじいーっとこちらを見ている。心なしかオーシンに興味があるように見えな
くもない。

 ここへきて、事態はどうやら最悪の状態になりつつあった―。

2007/02/12 16:47 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
38.アロエ&オーシン 「コクハク」/オーシン(周防松)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー 悪魔の森(目玉ちゃん)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オーシンと、『目玉』は、長いこと見つめあっていた。
そのうち、するするする、と目玉の方の蔓(つる)が伸び、オーシンの前に移動して
くる。
目玉は、さまざまな角度に蔓をしならせて位置を変え、オーシンを観察し始めた。
……何か、危害を加えるつもりだろうか。
「オーシン、気をつけろっ!」
アロエが警戒した、まさにその時だった。
『ォおお、お前……ェェェ、好きだァあァ……っ』
後方に置き去りの口が、例の、喉に痰がからんでいるような声でオーシンに告げたの
は。
唐突な愛の告白、である。
「はぁっ!?」
突然の、しかもわけのわからない発言に驚いたのはアロエだった。
オーシンの方は、相変わらずぼーっとしているだけだ。
突然の告白の後、<悪魔の森>は恥ずかしいと言わんばかりにぐねんぐねんと蔓をく
ねらせている。
気色悪い。まったくもって気色悪い。
見ていたアロエは青ざめて冷や汗を流し、マルチは「うげ」と顔をしかめた。
ひとしきりくねった後、目玉はオーシンをひたと見据える。
『おォォ俺の…………ことッ……嫌い、かあァ……?』
なんとなく、不安そうに目玉が揺れている。
その様はどこか、愛を告白した相手の返事を待つ、けなげな少女を思わせた。
普通の感覚を持ち合わせているならば、返事は『大っ嫌い!!』あたり。
要するに拒絶というのが一般的なところだ。

しかし、どうだろう。
オーシンは、にこ、と微笑みを浮かべた。
あの、オーシンが。
いつもは、ぼーっとした目で物を見て、ぼーっとした表情を浮かべ、ぼんやりのんび
りとしゃべるオーシンが。

この時、初めて『人間』としてまともな表情を浮かべた。

オーシンは微笑みながら、そっと、目玉を両手で包み込む。
まるで、恋人の頭でも撫でるかのような手つきで。

「……オーシン」
『はあああァ……?』
「名前……オーシン」
『ォお前…………それ、お前ェ、の、名前ェェ……?』
「うん」
言うと、オーシンは目玉に頬をぺたりとつけて、うっとりと目を閉じた。
嬉しいのだろう、<悪魔の森>の口のからは、穏やかな、しかし上気した吐息がもれ
る。
グロテスクな生き物と、年若い娘の組み合わせは、あまりにもおぞましい。
一体これをどう解釈しろというのか。
いや、そもそも解釈なんてしたくもないだろう。
オーシンと<悪魔の森>以外の面々は、しばらく動けなくなっていた。
「なあ……」
「ん?」
マルチがアロエの肩に手を置く。
「あいつ、大丈夫なのか?」
あいつ、とはオーシンのことであろう。
「……たぶん……」
アロエは、なんだかぐったりした顔をしていた。

ウォンは、意外だといわんばかりの表情を浮かべていた。
年の若い娘が、<悪魔の森>を見て、怖がったり嫌がったりするどころか、微笑むな
どと。その上、両手でそっと包み込むなどと。
不気味な愛の告白までされているというのに、だ。
これが、可愛い子犬や子猫の類に対するものなら、別に驚くような話ではない。
しかし、相手は一言で言うと、目玉と口だけしかない植物の化け物、である。
「変わったお嬢さんだとは思っていたが……」
ウォンは、ピクリと片眉を動かした。
「そう……そうか、そういうことか」
ハハハハ……と、彼は声を上げて笑う。
そうだ、それ以外に考えられない。
まったく驚くべきことだが。
そのことに気付いた時、ウォンは笑わずにいられなかった。

「何がおかしいんだよ!」
その態度に食って掛かるアロエと、
「やめろ馬鹿っ!」
実力もわからない相手を挑発しかねないと、いさめるマルチ。
「知らなかったのかね。これは傑作だ!」
ばっ、とウォンは両手を広げる。
「アロエ。君は彼女と共に行動しているね?」
唐突な質問に、アロエはまばたきをした。
「それが、一体どうしたんだよ」
……警戒することを、怠らないまま。
「本当に、ただの一度も、怪しんだことはなかったのかね?」
ウォンの目が、ぎらりと光った。

「彼女は、私達と同じ次元の住人さ。――その正体は、おぞましい、魔物だよ」

目玉にうっとりと頬を寄せていたオーシンは、ふっ、とまぶたを上げた。



2007/02/12 16:47 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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