PC:アロエ オーシン
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー 悪魔の森(目玉ちゃん)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ウォンは、片手を一振りした。
それは、海猫亭前で、手品のようにステッキを出現させた、あの動きであった。
あの時と同じように、一瞬のうちに、ウォンの手にはステッキが握られていた。
「アロエ。私の言葉が通じているね?」
本を渡せ、という意味を含めて、ウォンは微笑みかける。強者が、対する者を見下す
微笑み方で。
アロエは、本を抱える手に力をこめる。
絶対に渡すものか、とその目が告げていた。
「……仕方ない、力づくで奪うとしよう」
躊躇する素振りもなく、ステッキの先端から、アロエに向けて一筋の赤い光が放たれ
た。
「何ぼけっとしてんだ!」
マルチがアロエを突き飛ばす。
あれこれ構っている場合ではなかったため、結構乱暴な突き飛ばし方であった。
「どぁっ!」
おかげでアロエは、石の床にお尻をしたたかに打ちつけることになった。
赤い光は、嫌な音を立てて、アロエがいた位置の床を焦がした。
「いってー……」
「馬鹿、早く立てって!」
マルチが慌ててアロエを引っ張っているところへ、ウォンはステッキの先端を向け
る。
「……アロエ。せめて、苦しませずに死なせてあげたかったものだがね」
感傷に浸っているかのような瞳。
裏腹に、徐々に溜まっていく、赤い光――。
しかし、ウォンの意識は突然かき乱された。
視界の隅に飛び込んだ、白い色彩の気配によって。
「く……」
やむなく、彼は標的をそちらに変えた。
振り向き様に、赤い光を放つべくステッキを構える。
しかし、放とうとしたその刹那、何かがステッキを押しのけ、カァン、と硬い音を立
てた。
押しのけられたために照準がずれて対象には当たらず、向こう側の壁を焦がしただけ
に終わった。
続けざまに、ヒョン、と刃物が空を裂く音がする。
ウォンは、刃物とおぼしきものをステッキで受けとめた。
「驚いたよ、お嬢さん。こんなにも素早く動けるとはね」
気配の主は、オーシンだった。
――刃物の類を持っているわけではない。
刃物と思われていたそれは、オーシンの、爪、であった。
鋭く伸びたそれは、刃物と形容するにふさわしい形をしていた。
ウォンと対峙したオーシンは、鋭い爪で何度もウォンに斬撃を試みていた。
二度、三度、四度……。
しかしウォンはその度に、ステッキで攻撃を受け流す。
受け流されれば飛び退いて少し距離を置き、また斬撃を叩きこむ。
技術的に言えば、大したものではない。途方も無い体力に任せて攻撃しているだけの
ことだ。
唯一の利点といえば、ウォンが再びあの赤い光を放つ時間を作らせていない、という
ところだろう。
どうやら、あの攻撃を使うためには少々の時間が必要らしい。
「あぁああ……」
「うあっ!?」
突如として背後に聞こえた声に、アロエはぞわわっと寒気を覚えた。
慌てて降り返ると、そこには悪魔の森の『口』の方がゆらゆらと揺れていた。
顔をしかめたマルチが、そっと『口』と距離を置く。
「お前……に……ぃ…伝えぇる……ことが、ある……」
「な、何だよ」
不気味な姿に警戒しながらアロエが尋ねると、『口』は答えた。
「おぉぉしんが……言っていたぁ……はぁあ……時間、を…稼ぐぅうから、ここぉ
か、ら……逃げろぉぉお……ってぇ……」
「んなっ!?」
アロエの目が、思いきり見開かれた瞬間だった。
場所:イノス北西墓地
NPC:マルチ ウォン=リー 悪魔の森(目玉ちゃん)
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ウォンは、片手を一振りした。
それは、海猫亭前で、手品のようにステッキを出現させた、あの動きであった。
あの時と同じように、一瞬のうちに、ウォンの手にはステッキが握られていた。
「アロエ。私の言葉が通じているね?」
本を渡せ、という意味を含めて、ウォンは微笑みかける。強者が、対する者を見下す
微笑み方で。
アロエは、本を抱える手に力をこめる。
絶対に渡すものか、とその目が告げていた。
「……仕方ない、力づくで奪うとしよう」
躊躇する素振りもなく、ステッキの先端から、アロエに向けて一筋の赤い光が放たれ
た。
「何ぼけっとしてんだ!」
マルチがアロエを突き飛ばす。
あれこれ構っている場合ではなかったため、結構乱暴な突き飛ばし方であった。
「どぁっ!」
おかげでアロエは、石の床にお尻をしたたかに打ちつけることになった。
赤い光は、嫌な音を立てて、アロエがいた位置の床を焦がした。
「いってー……」
「馬鹿、早く立てって!」
マルチが慌ててアロエを引っ張っているところへ、ウォンはステッキの先端を向け
る。
「……アロエ。せめて、苦しませずに死なせてあげたかったものだがね」
感傷に浸っているかのような瞳。
裏腹に、徐々に溜まっていく、赤い光――。
しかし、ウォンの意識は突然かき乱された。
視界の隅に飛び込んだ、白い色彩の気配によって。
「く……」
やむなく、彼は標的をそちらに変えた。
振り向き様に、赤い光を放つべくステッキを構える。
しかし、放とうとしたその刹那、何かがステッキを押しのけ、カァン、と硬い音を立
てた。
押しのけられたために照準がずれて対象には当たらず、向こう側の壁を焦がしただけ
に終わった。
続けざまに、ヒョン、と刃物が空を裂く音がする。
ウォンは、刃物とおぼしきものをステッキで受けとめた。
「驚いたよ、お嬢さん。こんなにも素早く動けるとはね」
気配の主は、オーシンだった。
――刃物の類を持っているわけではない。
刃物と思われていたそれは、オーシンの、爪、であった。
鋭く伸びたそれは、刃物と形容するにふさわしい形をしていた。
ウォンと対峙したオーシンは、鋭い爪で何度もウォンに斬撃を試みていた。
二度、三度、四度……。
しかしウォンはその度に、ステッキで攻撃を受け流す。
受け流されれば飛び退いて少し距離を置き、また斬撃を叩きこむ。
技術的に言えば、大したものではない。途方も無い体力に任せて攻撃しているだけの
ことだ。
唯一の利点といえば、ウォンが再びあの赤い光を放つ時間を作らせていない、という
ところだろう。
どうやら、あの攻撃を使うためには少々の時間が必要らしい。
「あぁああ……」
「うあっ!?」
突如として背後に聞こえた声に、アロエはぞわわっと寒気を覚えた。
慌てて降り返ると、そこには悪魔の森の『口』の方がゆらゆらと揺れていた。
顔をしかめたマルチが、そっと『口』と距離を置く。
「お前……に……ぃ…伝えぇる……ことが、ある……」
「な、何だよ」
不気味な姿に警戒しながらアロエが尋ねると、『口』は答えた。
「おぉぉしんが……言っていたぁ……はぁあ……時間、を…稼ぐぅうから、ここぉ
か、ら……逃げろぉぉお……ってぇ……」
「んなっ!?」
アロエの目が、思いきり見開かれた瞬間だった。
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