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2024/05/16 22:54 |
24.アロエ&オーシン 「鉛色の空」/オーシン(周防松)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス『海猫亭』
NPC:ハボック カーチス ウォン=リー 海猫亭のマダム ベル(ベルサリウ
ス)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

――また負けた。

カーチスは重苦しいため息をつき、手元に残っていたカードをテーブルの上に投げ出
した。
見事なまでの完敗である。
負けた金額も馬鹿にならない。
次の給料日はいつだったか、と考えて、彼はひどくゆううつになった。
しばらくは貧乏を覚悟しなければなるまい。
考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。

「もう一度やるかね?」

目の前の男に尋ねられ、カーチスは「これ以上やったら破産する」と断った。
「どうだ、カーチス。調子の方は」
すっかり落ちこんでいるカーチスに、ウィスキーのグラスを片手に歩み寄ってきたハ
ボックが声をかける。
「見てわからねぇのか」
げんなりとした表情でテーブルを睨めば、ハボックも一瞬で理解したらしく、眉をピ
クリと動かした。
「……えらいことになってるな」
呟き、グラスを傾けるハボックを、カーチスはジト目で見上げた。
「しばらくはお前にたかるからな」
「無茶言うなよ。俺だって今月キツイんだぜ」
「親友を助けようっていう気持ちがねぇのかお前はっ!」
「引き際を間違えたお前が悪いんだろうがっ!」
「薄情モン!」
「うるせぇっ、だいいち俺はなぁ、お前がカードやってる間に、真面目にあの麦藁帽
の子の聞き込みをやってたんだからな! 反省しろ!」
2人の会話はやいのやいのと止まりそうにない。
まあ、ある意味仲の良い証拠であろう。
「友人かね?」
2人のやりとりを黙って聞いていた黒髪の男が、かすかに笑う。

「「誰がこんな馬鹿と!!」」

言っていることはまるきしケンカ腰だったが、その声は、ピタリと合っていた。
まあまあ、と黒髪の男はなだめるように小さく片手を上げる。
「酒場でケンカとはあまり感心しないね。まあ、今回は負けた金の支払いをナシとい
うことにしておこう。それならかまわないだろう?」
はあ……。
カーチスが、助かったと言わんばかりにため息をつく。
「カードをやるのは久々でね。実に楽しませてもらったよ。良かったら一緒に飲まな
いか? ウィスキーで良ければ、一杯おごるよ」
ハボックとカーチスは互いに顔を見合わせたものの、「それじゃあ……」と素直に
テーブルについた。

「マダム、ウィスキーを3つ」
男の注文にマダムが優雅に微笑み、応じる。

バラバラバラ……ッ。

「あら?」
頭上……正しくは屋根の上から聞こえてきた音に、ウィスキーを用意する手を止め、
マダムは顔を上げた。
「止んだと思っていたのに、また降ってきたわね」
マダムの言葉に、ハボックはちらりと窓の外を見た。


――突然の雨に降られ、3人が雨宿りのために海猫亭の軒下へと逃げ込んだのは、
ちょうどその頃だった。

「なんで降ってくるんだよっ! せっかく、人が張り切ってるっていうのに!」
軒下に逃げ込むなり、アロエは鉛色の空を睨んだ。
髪も服も、ネコミミも尻尾もびしょびしょになっている。
雨の嫌いなアロエにとっては、かなりこたえる状況だろう。
「今日はよく降るなぁ……」
その傍らで、ベルサリウスはローブのすそをしぼっていた。
オーシンはというと、特に何もせずぼーっと空を見上げている。
濡れたワンピースが素肌に張り付いているが、特に気にしていないらしい。
「……あのさ、なんとかした方がいいと思うんだけど」
見かねたらしいベルサリウスが、視線を逸らしながらぼそぼそと呟く。
その頬は、どこか赤く染まって見えた。
「……風邪、引かないから大丈夫だよ……」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「なんだよ、ベル。言いたいことがあるんなら、はっきり言っ……」

「ぬああああーーーーーーっっ!!」

アロエの言葉を、男の叫び声が寸断する。
その声の大きいこと。
ネコミミを押さえてアロエがうめき、ベルがビクッと身をすくめ、オーシンがゆっく
りした動きで声のした方角へと顔を向ける。

「い、いたーっ!」

バタァン!と乱暴にドアが開き、金髪の男が飛び出してくる。
――ハボックである。
が、オーシンがそんなことを知るはずもない。
「君、一体どこへ行っていたんだ? 随分捜したんだよ……ああ、びしょ濡れじゃな
いか!」
ハボックはオーシンの両肩をつかむ。
途端に彼は顔をしかめた。
「こんなに体も冷えちまってる。平気なのか?」
オーシンは、ぼんやりした表情のまま、まばたきをした。
体が冷たいのは、オーシンにとては別に異常なことではない。
むしろ、アロエに指摘されて初めて知ったのだ。
自分の体温がおそろしく低いものであるらしい、ということを。
ともかく。
オーシンは平気だったので、
「……うん」
こっくり、と頷いた。
ハボックは、あまりにもあっさりとした返答にあ然とした。
こんなに冷たい体をしているのに、平気だなんてことがあるものか。
普通は震えが止まらなくなるはずなのに。
そうだ、きっと彼女は感覚を失うほどに体が冷えてしまったのだ。
――と無理矢理自分を納得させて、
「……あれ?」
そこで彼はようやく、アロエとベルサリウスの存在に気付いた。
「アロエちゃん、どうしてここにいるんだい? それにその子は……?」

ハボックはしばらく、アロエとベルサリウス、そしてオーシンの3人を交互に見てい
た。
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2007/02/12 16:41 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
25.アロエ&オーシン「嵐の前」/アロエ(果南)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス『海猫亭』
NPC:ハボック カーチス ウォン=リー ベル(ベルサリウス)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あっ、オマエあの時の船員だなっ!」
 ようやく気がついたアロエが、ハボックを指差し声を上げる。
「おーおー、よく見りゃあっちに頭が爆発した方のヤツもいるしよぉ。オマエ
等なんでこんなとこにいんだよっ」
 「頭が爆発」という言葉に、瞬時にカーチスがこちらを見た。カーチスにし
てみればヒドイ言葉だろうが、頭といえば大抵自分のこと。そのおかげで名前
を呼ばれなくとも瞬時に反応できるのは彼の一つの利点であろうか。

 アロエが「あっち」、と言ってカーチスのほうを見、それにカーチスがむっ
と振り向いた時、
 ベルサリウスの身体かびくっ、と動いた。
 ふとオーシンがそれに気づく。
「…ベル?」
 今のベルサリウスは…尋常じゃないほど蒼白な顔になっていた。人の気持ち
を察することにはうといオーシンだが、さすがにベルサリウスのこの異常には
「何かあったんだ」と気づき、心配そうに顔を覗き込む。
「ベル…?一体どうしたんだい…?」

 ベルサリウスの口の端から、微かに声が漏れた。

「お…父様…」
 
 固まっているベルサリウスの見ている方向をオーシンは見た。

 暗闇のように深く、氷のように冷たい目。

 そんな男と目線が合った。
 しかし、それは一瞬で。次の瞬間から、男はにっこりとオーシンとベルサリ
ウスに笑顔を向けた。
「やあ、こんなに雨に濡れて…。平気かね?」
 親しそうな笑顔を向けて、男はオーシンに近寄り、着ていたローブをそっと
オーシンの身体にかけた。
「これを着たまえ。キミは美人だからね。そのままの格好だと、そこの二人組
みもキミと目線が合わせづらいだろう」
 オーシンはぼーっと男の顔を見つめると、「…ありがとう」と言った。
 そんな行動に、ハボックとカーチスが金魚のように口をぱくぱくさせて「う
ーわー…」と声無き声を上げる。なんて紳士な行動なんだ…と、思いながら。
 この中で一番無神経なアロエが、無垢な顔でズバリ聞いた。
「オッサン…、アンタ誰だ?」
(オッサン…!!)
 ハボックとカーチスがあんぐりと口をあける。
(この紳士な御方に向かって「オッサン」!!)
 しかし男は、無遠慮なアロエの言葉に怒った様子も見せず、にっこりと微笑
んだ。
「これは失礼したね。私はウォン=リー。そう…、この子の父親だよ」
 「そうだな?」と、促すようにウォンがベルサリウスのほうを見ると、ベル
サリウスは怯えるようにこくん、と頷いた。そのとき初めて、アロエもベルサ
リウスの異変に気づく。
「…おい、ベル?」
「ベル…?」
 ウォンの片眉がぴくり、と動く。
「ベル…というのは?」
「ああ、そうだった。オッサン、それコイツの名前なんだ」
「名…前…?」
 ウォンの表情が厳しくなる。しかしそれにかまわずアロエは言う。
「そうだ、オッサン、アンタがベルの父親なんだろ?じゃあ、なんでコイツに
名前つけてやらなかったんだよ。名前ないと可哀想じゃねぇか。不便だろう
し」


「不便?可哀想?」


 その言葉を聞いた時、ウォンの目が冷たく光った。

「なぜなんだい?」

 表情の無い顔で問いかえされて、アロエは少したじろいた。
「な、なぜって…。だから…」

「大体」
 ウォンが三日月のように笑う。
「どうして<私の所有物>に名前をつける必要があるのかな?」
「<私の所有物>…」
 アロエはウォンから一二歩下がると、低く、喉の奥で唸った。
「オーシン…、やっぱりコイツ…影の黒幕だな」

2007/02/12 16:41 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
26.アロエ&オーシン 「金色の火花」/オーシン(周防松)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス『海猫亭』前
NPC:ハボック カーチス ウォン=リー ベル(ベルサリウス)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「やれやれ。出会ったばかりの人間を『影の黒幕』呼ばわりするのかね。お嬢さん」
困った子だ、とウォンは首を振る。
アロエは、金色の瞳を険しく光らせる。
そのさまは、警戒している猫を思わせた。
傍らで、ベルが怯えきったようにうつむきながら、ローブの片袖を握り締めていた。

「お、おい、アロエちゃん?」
一方、事情をさっぱり飲みこめていないらしハボックとカーチスは、アロエの反応に
戸惑っていた。
ウォンは、彼らにちらりと視線を送り――ふむ、と顎に手をかけた。
「どうやらこちらの青年達は、完全に部外者のようだね。ならば、ここにいても仕方
ない」
顎にかけていた手をはずし、ぱちり、と指を鳴らす。
すると、ハボックとカーチスの姿はその場から消えうせた。
「アイツらに何したんだ!?」
アロエが鋭い声を上げる。
「心配しなくていい。彼らは仕事場に送り届けておいたよ」

くい、くい。

その時、オーシンがウォンの服の袖を引き、注意を自分の方へと向けた。
「べムの……お父様?」
ぼんやりした目で、頭上にあるウォンの顔を見上げる。
「べム?」
ウォンは、少々呆気に取られた様子でまばたきし、
「もしかして、今しがたベルと呼んでいたアレのことかな?」
ややあって、ベルサリウスにちらりと視線を送った。
こくっ、と静かに頷くオーシンを横目に、アロエは新たな憤りを覚えていた。

ベルサリウスを指し、『アレ』とウォンは言った。

――お父様とずっと2人きりだったから、そんなもの必要なかったんだ。

ベルサリウスの言っていた言葉が、脳裏をよぎる。
ウォンは、ずっと、ベルサリウスのことをそんな風に呼んでいたのだろうか。
名前をつけていなかったことといい、ウォンは彼に対して、人として当たり前の接し
方をしてあげなかったのだろうか。

ぐっ、と握りしめた拳が震えた。

「……そうだが?」
「あのね……カラが、体の中で植物の種が発芽したせいで、苦しんでるんだ……なん
とかする方法、教えてくれないかな……」

ぽかん、とアロエとベルサリウスが口を開けた。
無理もない話だ。
警戒せねばならないような相手に、あっさりとものを頼むなど、よほどの馬鹿か豪胆
な奴かのどちらかである。
ちなみにオーシンがこの時考えていたのは、ベルサリウスがお父様と呼ぶこの人物
が、唯一カヤを救う手段を知っているはずだ、ということだけだった。

「植物の種……ああ、アレか」
ウォンは、ほんのわずかに間を置いたが、すぐに思い当たる部分があったらしく、片
眉をピクリと動かした。
「そうか。発芽したのか」
こくん、とオーシンは頷いた。
「だから……なんとかする方法を教えて……」
「なんとかする方法?」
ウォンの瞳が、すぅ、と細められる。
「それはもしかして、そのカラとかいう人物から、発芽した種を取り除く方法を教え
ろということかな?」
「……うん」
「それはできかねる。あの種は確かに人体に入れば発芽し、血液を養分として成長す
る。だが、誰の体でも良いわけじゃない。体内に入ったとしても、発芽までに至る素
材はなかなかいないんだ。是非会ってデータを……」

「てめぇっ、人を何だと思ってんだ!」

こらえきれなくなったアロエが叫ぶと、ウォンは片手を一振りした。
次の瞬間、彼の手には一本のステッキが握られていた。

「アロエ……といったかな」

ふわぁ、とウォンはアロエに微笑む。
だが、その微笑みは見る者に温もりを与えるものではない。
おそろしいほど底冷えのするものだった。
「君はまっすぐで、優しい心の持ち主だね」
「な……に?」
言われた言葉が意外だったのだろう、アロエは目を丸くした。

「君は相手に言葉を投げかける。それは、相手から言葉を引き出そうとしているから
だ。それによって理解しようとしているんだよ、相手のことをね。これが優しさ
の……思いやりというものの現れではなくて、なんだろう?」 

ウォンは目を閉じ、ひょい、と小さく肩をすくめる。

「だが、私にその必要はない。私のことは、理解してくれなくて結構だ」
閉じた目が、再び開く。
ベルサリウスを<私の所有物>と言った時と同じ冷たい光が、その目に宿っていた。

「私は……誰かのことを理解する気など、ないからね。それで公平だろう?」

オーシンはその瞬間、みぞおちの辺りに鈍い衝撃を受けた。
なんだろう……。
ぼんやりと腹部に視線を落とすと、ウォンのステッキの先が、みぞおちを突いている
のが見えた。
衝撃はやがて明確な激痛に変わり、脳髄を突き抜けた。

かは、とオーシンは小さく咳をした。

オーシンは、今は人間の娘の成りをしているが、元は魔物である。
簡単に言うと、頑丈にできているのだ。
みぞおちを突かれたぐらいで、ここまでの激痛を感じることなど、通常ならばあり得
ない。
魔法か何かを使っているのかもしれなかった。

体を、二本の足で支えられない。
――立っていられない。

意識を手放したオーシンの体が、重力に引かれて、前のめりに、ぐらぁり、と倒れて
いく。

「オーシン!」
慌てて駆け出そうとしたアロエより先に、ウォンの腕がその体を絡め取った。
「オーシンを離せ!」
今にも飛びかからん勢いのアロエに、ウォンはゆうらりと向き直り、冷たい光を宿し
た瞳を向けた。

「――人質だよ。このお嬢さんが大事なら、これ以上種のことに関わるのをやめたま
え」

「お……お父様……」
ベルサリウスが、震える声を絞り出し――。

その場の空気が、一気に硬直する。
そして、それを合図にしたかのように、降る雨の勢いが、増した。


2007/02/12 16:42 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
27.無謀で勇敢な少女/アロエ(果南)
PC アロエ オーシン
場所 海猫亭
NPC ベルサリウス ウォン=リー
___________________________________

 先ほどの良い天気が嘘の様に、降りしきる豪雨。

 全身黒ずくめのウォン=リーという男の振る舞いは、その大胆な行動で、そ
の場にいた他の人間を圧倒し、これだけ大勢の人間の前で堂々と人を襲ったに
もかかわらず、誰もが圧倒され、誰もが地面に根を張ったように動くことがで
きなかった。
 
 戦いに慣れた冒険者は、人目で男のA級犯罪者並みの『危険度』を感じ取
り、

 そうではない一般人は、二人の船員がいともあっさり消されたことに驚き、
茫然として、その場から動けない。

「お……お父様……」

 恐怖で青ざめたベルサリウスが、震える声を絞り出す。
 そんなベルサリウスに、ウォンは口元は笑いながら刺すような視線を向け
た。

「よかったじゃないか、<ベルサリウス>。名前をもらって」
「お…、父様…っ…」

 <ベルサリウス>。その名を強調されて、ベルサリウスがたじろぐ。
 そう、それはつまり。

「お父様…っ…!」
 ベルサリウスは、悲痛な表情を浮かべて声を出した。


<イヤだ…!棄てないで…!お父様…っ>


「お父様…っ!」
 ウォンは涙で顔をぐしょぐしょに濡らしたベルサリウスの表情を見て、薄く
微笑んだ。
「お別れだね、<ベルサリウス>。そして無謀で勇敢な少女よ」
「お別れ…!?」
 アロエがぴくりと耳を動かす。
「お別れってどういうことだ!テメェ、オーシンを離せ!この卑怯者がっ!」

 そういって無謀にも、ウォンに真正面から突っ込んだアロエに、優雅に微笑
みながらウォンが例のステッキの先を向けた。ステッキの先に赤い光が溜ま
る。


 バシュン!


「おわ…っ!」

 もしも、『偶然』アロエがウォンの目の前で蹴躓かなかったら、その光は確
実にアロエの脳天を<直撃>していただろう。
 アロエの頭スレスレの場所をすり抜けていった光は、『海猫亭』の壁を直撃
し、直撃した壁からは、真っ黒い煙がブスブスと湧き上がっていた。


「…アイツ、殺す気で……!」


 一般人が思わず漏らした声無き声が、アロエの耳に入った。
 
 思わず、アロエの全身の毛が逆立つ。

「…っ!!」

 それでも。転んだ姿勢から起き上がって、アロエはウォン=リーの目を、真
っ直ぐに見据えた。金色の瞳がバチバチ燃えている。

「…っざけんな!この野郎!」
 恐怖に負けないため、自分に気合を入れるために、アロエは大声で叫んだ。


「いーか、おれはテメェのふざけた取引なんかぜってぇ受けねぇ!おれは天使
だ!カヤも守る!オーシンも渡さねぇっっ!!ベルサリウスをなんて呼ぼーが
おれの勝手だクソッタレぇっ!!」


 その場にいた全員が、アロエのこの行動に息を呑んだ。
 真似をしようと思っても真似できない行動。
 それは無謀なのか、勇敢なのか。いやきっと、その両方をこの少女は持ち合
わせているのだろう。
 無謀で、勇敢な少女。

 その行動にウォンは驚いて目をパチパチさせたが、やがて、実に面白そう
に、口元に手を当てて、くすくすと笑い出した。
「ふふ…、キミがここまで面白い少女だとはね。キミは実に、私とは対照的
だ。…面白いよ」
 そういうと、ウォンはステッキを使って片手で自身の周りにするするっと何
か書き始めた。
 もちろんステッキがチョーク状になっているわけではなく、ステッキから出
る淡い水色の光が何かの文字を模っている。
 アロエが唖然としている間に、ウォンは文字を書き終え、文字が目が眩むほ
ど眩い光を放ち始めた。

「ふふ、気が変わったよ、アロエ、キミとはもう一度会ってみたいね。…そ
う、ここより静かな落ち着ける場所で」
「な…っ!」
 文字の光が増していく。
 もう、光の眩しさにウォンの姿はほとんど見えない。
「ふふ、もう一度キミに会えるように、居場所のヒントをあげよう。後で床を
見てみたまえ…」
 最後のウォン=リーの声は、どこかに吸い込まれるかのようにかすれながら
消えていく…。
「…なろ…っ、ざ、けんな…っ」

 ウォン=リーの場所を確かめるためにもう一度アロエが目を開いた時には、
すでに光は消え去り、後には赤い文字で書かれた何かの記号らしき模様が残っ
ていた。

 そう、大勢の人間の目の前で、ウォンとオーシンは忽然とその姿を消してし
まったのである。

2007/02/12 16:42 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン
28.アロエ&オーシン 「薄暗い廊下の先」/オーシン(周防松)
PC:(アロエ) オーシン
場所:イノス
NPC:ウォン=リー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

かつん。かつん。かつん。

異様なほど薄暗い廊下に、靴音が響く。
やがて、廊下の曲がり角から現れたのはウォンだった。
その腕に、茶色の髪の娘――オーシンが横向きに抱かれている。
歩きながら、ウォンは何を思ってか、オーシンの顔を覗きこんだ。
その眼差しからは、何の感情も読み取れない。
かろうじて言えるのは、敵意や悪意、憎悪の感情はなさそうだ、ということぐらい
だ。
その時、オーシンがわずかに身じろぎした。

「おや、気がついたようだね」
目を覚ましたオーシンは、覗きこむウォンの顔を、普段以上にぼんやりした目で見つ
めた。
「……誰……?」
「これはこれは。忘れてしまったのかな、お嬢さん」
その一言で、全てを思い出す。
そうだ。
この男は、ベルサリウスの父親で、カヤを治せる方法を知っているはずの人間だ。
だが、オーシンが何かの行動に出る前に、彼は質問をつきつけた。
「歩けるかな? いい加減腕が疲れてきたのでね、自力で歩けるのなら歩いて欲しい
んだよ」
オーシンは、こくり、と頷く。
まだ少し体がしびれているのだが、歩くのに支障はない。
ウォンはその返事を聞くと、そっと彼女を降ろした。

「ついて来たまえ。そうそう、はぐれたりしない方が身のためだよ。ここには色々と
住みついているのでね」
自力で歩けるのなら歩いてくれと言っておいて、はぐれるなと言うのは結構身勝手な
話である。
が、オーシンは感受性に乏しいというべきなのか、特に何も感じなかった。
素直に、歩き出したウォンの後にくっついて行く。

黙々と、やたら薄暗い廊下を歩き続けて、ウォンの足がようやく止まった。
ウォンが立ち止まったその壁には、両開きの扉があった。
手で押すと、扉はギィ……ときしむ音を立てながらゆっくりと開いた。
無言のまま中へ入っていったウォンの後に続き、オーシンはその部屋に足を踏み入れ
る。

――薄暗い廊下とは対照的に、部屋はいくつものランプに照らされて明るかった。
壁も天井も真っ白で、床には柔らかな絨毯が敷き詰められている。
奥の壁にはレンガづくりの暖炉があり、他にも家具が一通りそろっていて、文句のつ
けようのない立派な部屋である。

そう、窓がない、という点を除けば。

「濡れた服を着ていると体が冷えてしまうからね。そこにあるものを適当に着なさ
い」
ウォンが、部屋の片隅に置かれたクローゼットを手で示す。
おずおずとクローゼットに近付き、その扉についた取っ手に手を触れ――オーシンは
もう一度ウォンを見た。
本人としては、『他人の家の物は、好き勝手にいじくり回すんじゃないよ』というサ
ラの教えが頭をよぎっただけのことなのだが……ウォンは、それを遠慮しての行動と
取ったらしい。
「勘違いしないでもらいたい。濡れた衣服のままほったらかしにして、万が一、熱で
も出されたら困るんだ。手のかかる人質など、足手まとい以外の何者でもないから
ね」
親切心からではない、と言いたいらしい。
「……すみません……それじゃ、拝借します……」
小さく頭を下げ、クローゼットの扉の取っ手に手をかける。

それも、やはり『でも、遠慮のし過ぎはかえって失礼だからね。どうぞって言われた
ら、きっちりお礼を言ってからにするんだよ』というサラの言葉ゆえの行動だった。

開けてみると、そこには女物の衣服が大量に吊り下げられていた。
オーシンは、ぼーっとした目でそれらを見つめた。
まず頭の中に浮かんだのは、「これは一体誰の服なのだろうか」ということだった。
ぼんやりとした視線を、衣服からウォンへと移す。
「……あなたの……?」
何故か真っ先にウォンのものだと思ったらしい。
「私にそんな趣味はないよ」
薄く笑い、彼はひょいと肩をすくめる。
「……それじゃ……ベンの……?」
ウォンはベンという名前に少しばかり悩んだようで、ピクリと眉を動かした。
しかし、それがベルサリウスのベルという部分を言い間違えているのだと気付くと、
不愉快そうに短く息を吐いた。
「違う」
それでは、一体誰のものだろう。
まさか、前もって女性を人質に取ることを計画して、用意していたとでも言うのだろ
うか。
あり得ないではないが……どこか不自然である。

「……誰の……?」

しかし、彼に答える気はないらしい。
こちらに背を向け、暖炉に火を起こしている。
オーシンは何度かその背中に対して「これ、誰の」と繰り返したのだが、ことごとく
沈黙で返されるばかりだった。
「さて、私は少し失礼するよ。暖炉で暖まっているといい」
オーシンは、きょとんとした表情で数回まばたきをした。
「……これ、誰の……?」
まだその質問を繰り返すのか……と言わんばかりに、ウォンはじろりとオーシンを見
る。
「誰のものでも良いだろう。それでは失礼するよ」
ウォンは不機嫌そのものの声で答え、扉を開けて出て行った。
直後、がちゃり、という音がする。
おそらく、外から鍵をかけたのだろう。
人質として捕らえたオーシンが逃げ出したりしないように。

オーシンは、しばらく閉じた扉をぼんやり見ていたが、そのうちに、後頭部に手を伸
ばし――無造作に括っていたポニーテールをほどいた。

クローゼットの服を着る前に、髪と体を拭いておこう、と考えたらしい。


2007/02/12 16:42 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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