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2025/03/10 06:29 |
28.アロエ&オーシン 「薄暗い廊下の先」/オーシン(周防松)
PC:(アロエ) オーシン
場所:イノス
NPC:ウォン=リー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

かつん。かつん。かつん。

異様なほど薄暗い廊下に、靴音が響く。
やがて、廊下の曲がり角から現れたのはウォンだった。
その腕に、茶色の髪の娘――オーシンが横向きに抱かれている。
歩きながら、ウォンは何を思ってか、オーシンの顔を覗きこんだ。
その眼差しからは、何の感情も読み取れない。
かろうじて言えるのは、敵意や悪意、憎悪の感情はなさそうだ、ということぐらい
だ。
その時、オーシンがわずかに身じろぎした。

「おや、気がついたようだね」
目を覚ましたオーシンは、覗きこむウォンの顔を、普段以上にぼんやりした目で見つ
めた。
「……誰……?」
「これはこれは。忘れてしまったのかな、お嬢さん」
その一言で、全てを思い出す。
そうだ。
この男は、ベルサリウスの父親で、カヤを治せる方法を知っているはずの人間だ。
だが、オーシンが何かの行動に出る前に、彼は質問をつきつけた。
「歩けるかな? いい加減腕が疲れてきたのでね、自力で歩けるのなら歩いて欲しい
んだよ」
オーシンは、こくり、と頷く。
まだ少し体がしびれているのだが、歩くのに支障はない。
ウォンはその返事を聞くと、そっと彼女を降ろした。

「ついて来たまえ。そうそう、はぐれたりしない方が身のためだよ。ここには色々と
住みついているのでね」
自力で歩けるのなら歩いてくれと言っておいて、はぐれるなと言うのは結構身勝手な
話である。
が、オーシンは感受性に乏しいというべきなのか、特に何も感じなかった。
素直に、歩き出したウォンの後にくっついて行く。

黙々と、やたら薄暗い廊下を歩き続けて、ウォンの足がようやく止まった。
ウォンが立ち止まったその壁には、両開きの扉があった。
手で押すと、扉はギィ……ときしむ音を立てながらゆっくりと開いた。
無言のまま中へ入っていったウォンの後に続き、オーシンはその部屋に足を踏み入れ
る。

――薄暗い廊下とは対照的に、部屋はいくつものランプに照らされて明るかった。
壁も天井も真っ白で、床には柔らかな絨毯が敷き詰められている。
奥の壁にはレンガづくりの暖炉があり、他にも家具が一通りそろっていて、文句のつ
けようのない立派な部屋である。

そう、窓がない、という点を除けば。

「濡れた服を着ていると体が冷えてしまうからね。そこにあるものを適当に着なさ
い」
ウォンが、部屋の片隅に置かれたクローゼットを手で示す。
おずおずとクローゼットに近付き、その扉についた取っ手に手を触れ――オーシンは
もう一度ウォンを見た。
本人としては、『他人の家の物は、好き勝手にいじくり回すんじゃないよ』というサ
ラの教えが頭をよぎっただけのことなのだが……ウォンは、それを遠慮しての行動と
取ったらしい。
「勘違いしないでもらいたい。濡れた衣服のままほったらかしにして、万が一、熱で
も出されたら困るんだ。手のかかる人質など、足手まとい以外の何者でもないから
ね」
親切心からではない、と言いたいらしい。
「……すみません……それじゃ、拝借します……」
小さく頭を下げ、クローゼットの扉の取っ手に手をかける。

それも、やはり『でも、遠慮のし過ぎはかえって失礼だからね。どうぞって言われた
ら、きっちりお礼を言ってからにするんだよ』というサラの言葉ゆえの行動だった。

開けてみると、そこには女物の衣服が大量に吊り下げられていた。
オーシンは、ぼーっとした目でそれらを見つめた。
まず頭の中に浮かんだのは、「これは一体誰の服なのだろうか」ということだった。
ぼんやりとした視線を、衣服からウォンへと移す。
「……あなたの……?」
何故か真っ先にウォンのものだと思ったらしい。
「私にそんな趣味はないよ」
薄く笑い、彼はひょいと肩をすくめる。
「……それじゃ……ベンの……?」
ウォンはベンという名前に少しばかり悩んだようで、ピクリと眉を動かした。
しかし、それがベルサリウスのベルという部分を言い間違えているのだと気付くと、
不愉快そうに短く息を吐いた。
「違う」
それでは、一体誰のものだろう。
まさか、前もって女性を人質に取ることを計画して、用意していたとでも言うのだろ
うか。
あり得ないではないが……どこか不自然である。

「……誰の……?」

しかし、彼に答える気はないらしい。
こちらに背を向け、暖炉に火を起こしている。
オーシンは何度かその背中に対して「これ、誰の」と繰り返したのだが、ことごとく
沈黙で返されるばかりだった。
「さて、私は少し失礼するよ。暖炉で暖まっているといい」
オーシンは、きょとんとした表情で数回まばたきをした。
「……これ、誰の……?」
まだその質問を繰り返すのか……と言わんばかりに、ウォンはじろりとオーシンを見
る。
「誰のものでも良いだろう。それでは失礼するよ」
ウォンは不機嫌そのものの声で答え、扉を開けて出て行った。
直後、がちゃり、という音がする。
おそらく、外から鍵をかけたのだろう。
人質として捕らえたオーシンが逃げ出したりしないように。

オーシンは、しばらく閉じた扉をぼんやり見ていたが、そのうちに、後頭部に手を伸
ばし――無造作に括っていたポニーテールをほどいた。

クローゼットの服を着る前に、髪と体を拭いておこう、と考えたらしい。

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2007/02/12 16:42 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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