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2025/03/10 06:53 |
29.アロエ&オーシン「黒煙 金色 空白」/アロエ(果南)
PC アロエ オーシン
場所 イノス
NPC ベルサリウス マルチ
___________________________________

「オー…シン…」
 アロエはその場にへなへなとへたりこんだ。

 眩い光と共にあの男は消えてしまった。自分のすぐ目の前で。

 目の前で起きたことのショックにただ茫然としていたが、はっ、と気がつく
と、アロエはすぐに男が消えた場所の床に飛びついた。
 男が消えた床からはブスブスと黒煙が立ち上り、床には強い熱で焼き付けら
れたような何かの印が残されている。

「何だ…コレ…」

 黒い煙を上げている印に、引き寄せられるように触れてみようとするアロ
エ。
 その時。
 誰かが腕をがしっ、と足で挟み込んだ。

「おわっ!?」

 驚いたアロエが思わず声を上げると、

「何でもホイホイ触んじゃねーよ」

 聞き覚えのある声、この態度。
 
 ぎくっ、とアロエが振り向くと、そこにはアロエの予想通りの人物が、アロ
エを上から見下す形で立っていた。
 よく知っているメガネ面、茶色い髪に腰にウェストポーチ…。
 それを確認した時、アロエが「うぇぇ」といった表情になる。

「…テメェ、なんで、ここにいんだよ。…マルチ」

 メガネの少年…マルチは「…あ?」と何か言い返そうとしたが、とたんに耳
が敏感に動くと、先ほどから「勇敢で無謀な」アロエをただ茫然と取り囲んで
いるギャラリーの視線を感知した。
 するとマルチは…すっ、と腕をホールドしていた足を外すと、眉を歪ませ、
うっすら瞳に涙をためる。

「うげっ」

 アロエがその表情に思わず仰け反ると、マルチはぐすぐすと泣き出すと、い
かにも心配そうに、こうのたまった。

「テメェだなんて…。ぐす。ひどいなぁ、せっかく久々に再会したのに、姉さ
ん。」

「…ひぅっ」
 アロエの背中に、傍目からも解る程、ビビビビッと悪寒が走る。
 アロエに向かって、尚もマルチは世にも心配そうな素振りで。

「うっ、僕っ、びっくりしたよぉ、やっと姉さんを見つけたと思ったら、姉さ
ん変な人と戦ってるし…。僕、心配したんだからね?ねぇ、怪我は無い?」

 マルチがアロエに触れようとしたとき、反射的にアロエは身を引いた。

「お、おい…ヤメロよ…、キモ…むぐっ」 

 何か言いかけたアロエの口を塞ぐと、マルチはアロエの腕を引っ張り、すば
やく立ち上がらせる。

「ううんもう何も言わなくていいからね、姉さん。そうだ、ねぇ、ひとまず僕
の部屋で休もう?部屋をとってあるんだ。あんな男と戦ったんだから、疲れて
るよね?」

「ううう」と呻いているアロエに、マルチがアロエと瓜二つの金色の眼で囁い
た。
「四の五の言わず、頷け。」と。


「うう…」


 マルチの気迫に負けアロエがこくりと頷くと、すかさずマルチは、ふわっ、
と安堵したような表情を作る。
 
 その微笑は、まるで天使のようで。

「ああ、よかったぁ、じゃあ行こう。…あ、すみません、ソコ通して下さい」

 マルチに対し、ガタイのいい冒険者や観客が「ああ」だか「おう…」だか、
情けない吐息を漏らしながら、おずおずと道を開ける。
 もう少しで宿屋である二階の階段を上がろうという前に、ふとマルチは振り
返った。
 
 独り取り残されたように立ち尽くしているベルサリウスの前につかつかと歩
み寄ると、ぐっとその腕を掴む。反射的に身を引いて抵抗するベルサリウスの
灰白色の瞳と、マルチの眼鏡の奥の金色の瞳が合った。マルチが微かな声で言
う。

「…オマエも来いよ」

「え…」
「…来いって」

 眼鏡越しとはいえ、アロエと同じように相手を真っ直ぐ見据える金色の瞳。
意志の強い眼差し。
 その瞳に逆らえなかった。心は放心状態だが、ベルサリウスはずるずると手
を引かれるままに歩き出す。


 ***********


 バタン、と部屋のドアを閉める音。それから3秒ほどの沈黙の後、アロエが
口火を切った。

「おい、マルチ、テメェ」

「この、糞バカ野郎」

「ああん?」

 ゆっくりとアロエのほうに向き直ったマルチは、さっきの天使のような表情
から一変、眉根を歪ませ、それはメンチをきる不良の如く、ギロリとアロエを
睨みつけた。

「ああん?聞こえねぇならもう一回言ってやろーか?テメェのことだよ、この
馬鹿アロエがっ」

「…テメェ、さっきは<姉さん>なんてキモチワルイこと言いやがって…。
『ヤマ』では一回もそんなこと言ったことねぇじゃねぇか!気色悪りぃんだ
よ!」

 がなるアロエにマルチはしれっと言い返す。

「あれはしょーがねぇんだよ、大勢の人が見てる手前」

「テメェ…、いつもそうだよな…。人前じゃ態度コロッと変えやがって」

 するとマルチは小馬鹿にするようにこう言い放った。

「はっ、ヨワタリジョーズと言って欲しいね。単細胞のアロエさんよぉ」

「テメェ、ふざけんなっ」


 この二人のやり取りを、ベルサリウスはただ茫然と見守っていた。と、いう
か見守ることしかできない。
 なぜなら、その言葉をキッカケに、嵐のようなこの二人の口ゲンカが始まっ
たからである。
 この二人の口ゲンカは、まさに売り言葉に買い言葉というか、漫才師のよう
なテンポのよさというか…、次から次へと言葉が飛び出し、傍で聞いているベ
ルサリウスには今はもう「バカ」「アホ」という短い単語意外は殆ど聞き取れ
ない。
 こんなことができるのも、たぶん二人が正真正銘『兄弟』だからかなぁ…、
とベルサリウスは壁にもたれかかってただぼんやりと考えていた。

 大切な人を失った彼の心は今、非常に空白で無気力だった。

(少し、眠い…)

 口ゲンカというノイズを聴きながら、そっとベルサリウスはその瞳を閉じ
た。
 心の底で、このまま永遠に眼が覚めないことを祈りながら。
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2007/02/12 16:43 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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