PC:アロエ オーシン
場所:イノス『海猫亭』前
NPC:ハボック カーチス ウォン=リー ベル(ベルサリウス)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「やれやれ。出会ったばかりの人間を『影の黒幕』呼ばわりするのかね。お嬢さん」
困った子だ、とウォンは首を振る。
アロエは、金色の瞳を険しく光らせる。
そのさまは、警戒している猫を思わせた。
傍らで、ベルが怯えきったようにうつむきながら、ローブの片袖を握り締めていた。
「お、おい、アロエちゃん?」
一方、事情をさっぱり飲みこめていないらしハボックとカーチスは、アロエの反応に
戸惑っていた。
ウォンは、彼らにちらりと視線を送り――ふむ、と顎に手をかけた。
「どうやらこちらの青年達は、完全に部外者のようだね。ならば、ここにいても仕方
ない」
顎にかけていた手をはずし、ぱちり、と指を鳴らす。
すると、ハボックとカーチスの姿はその場から消えうせた。
「アイツらに何したんだ!?」
アロエが鋭い声を上げる。
「心配しなくていい。彼らは仕事場に送り届けておいたよ」
くい、くい。
その時、オーシンがウォンの服の袖を引き、注意を自分の方へと向けた。
「べムの……お父様?」
ぼんやりした目で、頭上にあるウォンの顔を見上げる。
「べム?」
ウォンは、少々呆気に取られた様子でまばたきし、
「もしかして、今しがたベルと呼んでいたアレのことかな?」
ややあって、ベルサリウスにちらりと視線を送った。
こくっ、と静かに頷くオーシンを横目に、アロエは新たな憤りを覚えていた。
ベルサリウスを指し、『アレ』とウォンは言った。
――お父様とずっと2人きりだったから、そんなもの必要なかったんだ。
ベルサリウスの言っていた言葉が、脳裏をよぎる。
ウォンは、ずっと、ベルサリウスのことをそんな風に呼んでいたのだろうか。
名前をつけていなかったことといい、ウォンは彼に対して、人として当たり前の接し
方をしてあげなかったのだろうか。
ぐっ、と握りしめた拳が震えた。
「……そうだが?」
「あのね……カラが、体の中で植物の種が発芽したせいで、苦しんでるんだ……なん
とかする方法、教えてくれないかな……」
ぽかん、とアロエとベルサリウスが口を開けた。
無理もない話だ。
警戒せねばならないような相手に、あっさりとものを頼むなど、よほどの馬鹿か豪胆
な奴かのどちらかである。
ちなみにオーシンがこの時考えていたのは、ベルサリウスがお父様と呼ぶこの人物
が、唯一カヤを救う手段を知っているはずだ、ということだけだった。
「植物の種……ああ、アレか」
ウォンは、ほんのわずかに間を置いたが、すぐに思い当たる部分があったらしく、片
眉をピクリと動かした。
「そうか。発芽したのか」
こくん、とオーシンは頷いた。
「だから……なんとかする方法を教えて……」
「なんとかする方法?」
ウォンの瞳が、すぅ、と細められる。
「それはもしかして、そのカラとかいう人物から、発芽した種を取り除く方法を教え
ろということかな?」
「……うん」
「それはできかねる。あの種は確かに人体に入れば発芽し、血液を養分として成長す
る。だが、誰の体でも良いわけじゃない。体内に入ったとしても、発芽までに至る素
材はなかなかいないんだ。是非会ってデータを……」
「てめぇっ、人を何だと思ってんだ!」
こらえきれなくなったアロエが叫ぶと、ウォンは片手を一振りした。
次の瞬間、彼の手には一本のステッキが握られていた。
「アロエ……といったかな」
ふわぁ、とウォンはアロエに微笑む。
だが、その微笑みは見る者に温もりを与えるものではない。
おそろしいほど底冷えのするものだった。
「君はまっすぐで、優しい心の持ち主だね」
「な……に?」
言われた言葉が意外だったのだろう、アロエは目を丸くした。
「君は相手に言葉を投げかける。それは、相手から言葉を引き出そうとしているから
だ。それによって理解しようとしているんだよ、相手のことをね。これが優しさ
の……思いやりというものの現れではなくて、なんだろう?」
ウォンは目を閉じ、ひょい、と小さく肩をすくめる。
「だが、私にその必要はない。私のことは、理解してくれなくて結構だ」
閉じた目が、再び開く。
ベルサリウスを<私の所有物>と言った時と同じ冷たい光が、その目に宿っていた。
「私は……誰かのことを理解する気など、ないからね。それで公平だろう?」
オーシンはその瞬間、みぞおちの辺りに鈍い衝撃を受けた。
なんだろう……。
ぼんやりと腹部に視線を落とすと、ウォンのステッキの先が、みぞおちを突いている
のが見えた。
衝撃はやがて明確な激痛に変わり、脳髄を突き抜けた。
かは、とオーシンは小さく咳をした。
オーシンは、今は人間の娘の成りをしているが、元は魔物である。
簡単に言うと、頑丈にできているのだ。
みぞおちを突かれたぐらいで、ここまでの激痛を感じることなど、通常ならばあり得
ない。
魔法か何かを使っているのかもしれなかった。
体を、二本の足で支えられない。
――立っていられない。
意識を手放したオーシンの体が、重力に引かれて、前のめりに、ぐらぁり、と倒れて
いく。
「オーシン!」
慌てて駆け出そうとしたアロエより先に、ウォンの腕がその体を絡め取った。
「オーシンを離せ!」
今にも飛びかからん勢いのアロエに、ウォンはゆうらりと向き直り、冷たい光を宿し
た瞳を向けた。
「――人質だよ。このお嬢さんが大事なら、これ以上種のことに関わるのをやめたま
え」
「お……お父様……」
ベルサリウスが、震える声を絞り出し――。
その場の空気が、一気に硬直する。
そして、それを合図にしたかのように、降る雨の勢いが、増した。
場所:イノス『海猫亭』前
NPC:ハボック カーチス ウォン=リー ベル(ベルサリウス)
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「やれやれ。出会ったばかりの人間を『影の黒幕』呼ばわりするのかね。お嬢さん」
困った子だ、とウォンは首を振る。
アロエは、金色の瞳を険しく光らせる。
そのさまは、警戒している猫を思わせた。
傍らで、ベルが怯えきったようにうつむきながら、ローブの片袖を握り締めていた。
「お、おい、アロエちゃん?」
一方、事情をさっぱり飲みこめていないらしハボックとカーチスは、アロエの反応に
戸惑っていた。
ウォンは、彼らにちらりと視線を送り――ふむ、と顎に手をかけた。
「どうやらこちらの青年達は、完全に部外者のようだね。ならば、ここにいても仕方
ない」
顎にかけていた手をはずし、ぱちり、と指を鳴らす。
すると、ハボックとカーチスの姿はその場から消えうせた。
「アイツらに何したんだ!?」
アロエが鋭い声を上げる。
「心配しなくていい。彼らは仕事場に送り届けておいたよ」
くい、くい。
その時、オーシンがウォンの服の袖を引き、注意を自分の方へと向けた。
「べムの……お父様?」
ぼんやりした目で、頭上にあるウォンの顔を見上げる。
「べム?」
ウォンは、少々呆気に取られた様子でまばたきし、
「もしかして、今しがたベルと呼んでいたアレのことかな?」
ややあって、ベルサリウスにちらりと視線を送った。
こくっ、と静かに頷くオーシンを横目に、アロエは新たな憤りを覚えていた。
ベルサリウスを指し、『アレ』とウォンは言った。
――お父様とずっと2人きりだったから、そんなもの必要なかったんだ。
ベルサリウスの言っていた言葉が、脳裏をよぎる。
ウォンは、ずっと、ベルサリウスのことをそんな風に呼んでいたのだろうか。
名前をつけていなかったことといい、ウォンは彼に対して、人として当たり前の接し
方をしてあげなかったのだろうか。
ぐっ、と握りしめた拳が震えた。
「……そうだが?」
「あのね……カラが、体の中で植物の種が発芽したせいで、苦しんでるんだ……なん
とかする方法、教えてくれないかな……」
ぽかん、とアロエとベルサリウスが口を開けた。
無理もない話だ。
警戒せねばならないような相手に、あっさりとものを頼むなど、よほどの馬鹿か豪胆
な奴かのどちらかである。
ちなみにオーシンがこの時考えていたのは、ベルサリウスがお父様と呼ぶこの人物
が、唯一カヤを救う手段を知っているはずだ、ということだけだった。
「植物の種……ああ、アレか」
ウォンは、ほんのわずかに間を置いたが、すぐに思い当たる部分があったらしく、片
眉をピクリと動かした。
「そうか。発芽したのか」
こくん、とオーシンは頷いた。
「だから……なんとかする方法を教えて……」
「なんとかする方法?」
ウォンの瞳が、すぅ、と細められる。
「それはもしかして、そのカラとかいう人物から、発芽した種を取り除く方法を教え
ろということかな?」
「……うん」
「それはできかねる。あの種は確かに人体に入れば発芽し、血液を養分として成長す
る。だが、誰の体でも良いわけじゃない。体内に入ったとしても、発芽までに至る素
材はなかなかいないんだ。是非会ってデータを……」
「てめぇっ、人を何だと思ってんだ!」
こらえきれなくなったアロエが叫ぶと、ウォンは片手を一振りした。
次の瞬間、彼の手には一本のステッキが握られていた。
「アロエ……といったかな」
ふわぁ、とウォンはアロエに微笑む。
だが、その微笑みは見る者に温もりを与えるものではない。
おそろしいほど底冷えのするものだった。
「君はまっすぐで、優しい心の持ち主だね」
「な……に?」
言われた言葉が意外だったのだろう、アロエは目を丸くした。
「君は相手に言葉を投げかける。それは、相手から言葉を引き出そうとしているから
だ。それによって理解しようとしているんだよ、相手のことをね。これが優しさ
の……思いやりというものの現れではなくて、なんだろう?」
ウォンは目を閉じ、ひょい、と小さく肩をすくめる。
「だが、私にその必要はない。私のことは、理解してくれなくて結構だ」
閉じた目が、再び開く。
ベルサリウスを<私の所有物>と言った時と同じ冷たい光が、その目に宿っていた。
「私は……誰かのことを理解する気など、ないからね。それで公平だろう?」
オーシンはその瞬間、みぞおちの辺りに鈍い衝撃を受けた。
なんだろう……。
ぼんやりと腹部に視線を落とすと、ウォンのステッキの先が、みぞおちを突いている
のが見えた。
衝撃はやがて明確な激痛に変わり、脳髄を突き抜けた。
かは、とオーシンは小さく咳をした。
オーシンは、今は人間の娘の成りをしているが、元は魔物である。
簡単に言うと、頑丈にできているのだ。
みぞおちを突かれたぐらいで、ここまでの激痛を感じることなど、通常ならばあり得
ない。
魔法か何かを使っているのかもしれなかった。
体を、二本の足で支えられない。
――立っていられない。
意識を手放したオーシンの体が、重力に引かれて、前のめりに、ぐらぁり、と倒れて
いく。
「オーシン!」
慌てて駆け出そうとしたアロエより先に、ウォンの腕がその体を絡め取った。
「オーシンを離せ!」
今にも飛びかからん勢いのアロエに、ウォンはゆうらりと向き直り、冷たい光を宿し
た瞳を向けた。
「――人質だよ。このお嬢さんが大事なら、これ以上種のことに関わるのをやめたま
え」
「お……お父様……」
ベルサリウスが、震える声を絞り出し――。
その場の空気が、一気に硬直する。
そして、それを合図にしたかのように、降る雨の勢いが、増した。
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