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2024/05/16 21:37 |
ナナフシ  6:Fact is stranger than fiction/オルレアン(Caku)
キャスト:アルト オルレアン
場所:正エディウス国内?
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---

「大丈夫よ!こういうシチュだったら、メンバーで体格の幅のある奴から消え
ていくのよ!」

「あぁ、ホラー小説ではよくありますね。というかシチュって(正式名称:シ
チュエーション)略さないで下さい、貴方何歳なんですか」

「あら、オカマの年齢は修羅場を潜り抜けた数だけあるのよ?」

オルレアンのぷっくりとした青い唇は延々と動くのを蛭のようだ…とは思わな
かったアルトである。理由は見てないからで、口元を直視すればそう見えるん
だろうと確信した。
アルトの意味ある沈黙を無視しながら、一人でぺらぺら喋り続けるオルレア
ン。場を持たせようとしているので、ここは合コン場ではないとアルトの放射
気配は通じない

「ホラーなんてちっとも怖くないわ。血みどろなんて見飽きてるし、スプラッ
タだって毎日やってるし…拷問って最後は皆気持ちよくなるし、そういう本に
興味でもあるエルフちゃん?」

「…特にありませんが…って、どうして私ばっかり喋ってるんですか。他のー
ーーーーーーー」

ホラーとはまた別の背筋を駆ける恐怖に黒エルフが振り返ると、そこには同じ
黒い肌でもそれ以外は別生物の筋肉男と紳士がいない。
馬鹿な、チャーム系の魔法で視界を操作されているのか!?いやもしかして自分
の錯覚!?と色々な自身の体調を心配し、そして辿り着いたのはこの組み合わせ
になった自分の一秒先である。

「やだ、ギュスターブってば私よりバストとヒップあったのね…ゃん、ヒド
イ」

神様ヒドイ。
切なげに巻き毛を揺らすオルレアンと同時に、アルトは初めて神様なんている
かどうかワカランもんを呪った。




++++



「いやーーーーんオルレアーーーーーンーーーーーーーーーーーーーー」

乙女に勝る(というか乙女は絶対に出せない)野太い絶叫が黒い町に響く。
いつの間にか目の前を歩いていた愛しの愛人と愛らしいエルフが消え去ったこ
とで、精神的なパニックに陥ったらしい筋骨隆々の軍人は吼えていた。

「一人にしないでぇぇぇぇーーーーーーーやだ、私ツンデレキャラなのに
ぃ!」

「私が突っ込んでいいかどうかは不明だが、君はツンデレというよりヤンデレ
ではないのかね?」

「うっさいわこのボケ!いい加減吐きやがれクソ野郎!」

うっかり突っ込んだ紳士に、ギュスターヴの雄雄しい拳が踊る。
この前見たどこぞの本にあった格闘法を真似て「アリアリアリアリアリアリア
リアリアリアリアリアリアリィ」などと言っている。ついでに拳ってる。
見事なその拳の連打に見事に飛ばれた紳士。鍛えられてるとはいえ年齢相応の
身体が宙に舞ってぽとりと落ちた。

「じゃかしぃわこの爺ぃ!!てぇめぇそろそろこのクソッたれた売春宿みてぇな
クソ貯めから出る方法ゲロれ!吐けこのイカレ野郎がっ!!」

落ち着けギュスターヴ。放送禁止用語が一杯だ!
そんな彼の暑く熱い、そしてかなり痛い拳のせいか、紳士が涎をたらしながら
ウワゴトのように呟いた。

「くっ…だ、大体ここは空間魔法などというものではないわっ…!!
ここは…ここは…がく」

「おっ、ちょ、おまっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!『がく』って自分で言って気
絶するもんでもなかろうよ!!ていうか今の重要?キーワード?イベントフラ
グ?おまっ起きなさいよ気になるじゃなーーーーーい!!
ちょっと読みかけのSM小説よりも気になるわボケェ!」

落ちた(精神が)紳士をががくがく揺らしながら、またちょっと違った次元で
気になって眠れないギュスターブであった。
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2007/02/11 23:34 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ
ナナフシ  7:Die Extreme beruhren sich./アルト(小林悠輝)
キャスト:アルト オルレアン
場所:正エディウス国内?
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 果たして胸やら腰やらの問題なのだろうか。まぁ、どうでもいいけど。

 身の周りから変人が減ったと喜ぶべきなのか、それとも、その変人の中でもいちばん
ヤバそうな人と二人っきりで取り残されたのを嘆くべきなのか。

 間違いなく後者だろうと思いながらも、とりあえずこれでしばらく「筋肉」という単
語を聞く頻度は減るな、よかったよかったと相反したことを思う。

 思いながら、オルレアンの斜め後ろをとぼとぼと歩く。
 黒の町並みは変わりばえなく続いている。無暗矢鱈に数の多い岐路と路地。

 これでははぐれても仕方ないなと思わないでもなかったが、それにしても不自然すぎ
る。自称紳士が、逃れるために何か余計なことでもしたのだろうか。

 だとしたら後で腕の一本でも使い物にならなくして――

「あああああ駄目だ、毒されちゃ駄目だ……」

「あら興味があるならいつでも歓迎するわよ」

「いらないです。何のことだかわかってて言ってるんですか?」

 オルレアンが笑ったのが、顔を見なくてもわかった。
 恐らく、直視したら無事ではいられない類の笑みに違いないと本能だとか無意識の奥
深くだとかそういう遠いところで感じ取って、アルトは足元に視線を落とした。

「もちろん私の美貌よねー?」

「…………」

 会話が途切れる。
 そのまま二人分の足音だけが谺して、十数秒経ったところでアルトは再び口を開いた。

「あの二人はどこへ言ったと思うですか?」

「そうねぇ……ギュスターヴったら寂しがり屋サン☆ だから、一人で大丈夫かしら」

 アルトは少しだけ黙ってから、抑揚のない声で応えた。

「単独行動できない軍人ってどうなんですか」

「あえてツッコミどころ外してきたわね。ギュスターヴは一人になるとついついちょっ
と容赦や寛容やその他もろもろのものを遠くにフルスイングしちゃうだけだから。別に
なくてもいいものよね。むしろ時にはだいぶ邪魔よね」

「さっきから容赦なかった気がするですけど」

「甘いわ」

 何が? と問おうとは思わなかった。不穏な質問でしかない。
 オルレアンは喜んで応えてくれるだろうが、聞いてしまったら取り返しのつかないこ
とになる。これもどこかからの警告。

 神経が張り詰めている。
 武器の一つでも持ってくればもう少し平静でいられるだろうか。
 魔法? ああ、そういえばそんなものも使えたな……

 そう思いながら周囲を見やる。力を貸してくれそうな、意思持つ自然要素、ようする
に精霊の気配がまったくない。使えるにしても、延髄の辺りに棲みついている闇の精霊
だけだ。役に立たない。溜め息。

「武器になるようなもの持ってません?」

「私の鞭を使いたいっですて? いいわよ、使いこんで革がなめらかだから初心者でも
使いやすいと思うし、私がみーっちり教えてあげるわよ」

「やっぱりいいです」

 話題の選択から誤ったのか、それとも話相手との相性が悪すぎるのか。
 これは悪い夢だから一刻も早く目覚めて忘れよう。そのためにはどうしよう。

「何かうわーっとすごいモンスターとか出てきて倒したらぜんぶ片付いて一件落着とか
楽でいいと思いませんか」

「そういうシチュもありよね。ホラーからバイオレンスアクションに! いろんなアレ
ソレコレが飛び散る冒険活劇も捨てがたいわ」

「特にバイオレンスは望んでないです」

「あら、冷たーい。流血や破砕のない暴力なんてないのよ」

「破砕はそうそうないと思います」

 そうかしらー、と首を傾げるオルレアンの確信犯的態度を横目にしながら、アルトは
またこっそり溜め息をついた。

 それと同時にごごごごごとわざとらしいほど大きな地響きが起こり、行く手の町並み
が歪んでとてもとても大きな黒い化物の姿になったので、アルトは警戒するよりも先に、
うわぁ望み通りになったけどこれを何とかしても一件落着しそうな要素が一つもないぞ
とがっかりした。

2007/02/11 23:35 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ
ナナフシ  8:A great fierce battle named endless sterility/オルレアン(Caku)
PC:オルレアン・アルト
NPC:ゴシャーな敵
PLACE:正エディウス国内?
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「なんか敵っぽいのが現れたけど、ちょっとコレ人間相手の規格はみでてな
い?」

「大丈夫だと思います、貴女(貴方)も規格外ですし」

目の前にゴシャー!と立ち塞がった巨大怪物を目の前に、二人は平坦な声でそ
れぞれの心境を吐露しあった。
身の丈七メートルは下るまい、というぐらいの大きな背丈に人の体をデフォル
メしたような単調なシルエット、人ならば顔のある位置には理性など感じさせ
ることもない巨大な口腔がくっぱり口開いていた。

「ちょっと!って冷静になってる場合じゃないわよ本気で!あんなデカ物どっ
から叩けばいいのよ!」

「ええと、とりあえずさっき、変な蛾出してたじゃないですか?あの黒いの、
怪物VS蛾のミュージカルって見たことある気がするんで、そんな感じで?」

「馬鹿言わないで!あたしの人造精霊だって万能じゃないんだから!
増殖で体積増やしてもせいぜい馬サイズ程度よ…って来たぁぁぁぁぁ!!!?」

真上から徐々に降ってくる影に、顔を引き攣らせながら叫ぶオルレアン。
怪物が愛嬌さえ感じさせる身投げタックルの大瀑布に、アルトはダークエルフ
の脚力を最大限に使用し、オルレアンは咄嗟に人造精霊に命令を送り羽への擬
態で宙に避ける。
耳を劈くような大爆音と目を遮る視界で、辺りはもうもうと煙る。

「…ちょっとは頭使いなさいよコノ馬鹿!てか魔法生物!?なんなのコイツ!」

「…あ」

離れた場所にいるアルトが、ふとオルレアンに指を差す。
次の瞬間、口を大きく開けた怪物が顎を開いてオルレアンを噛み砕こうと咥え
ようと―――



がちっ!!


「って舐めんじゃないわよこの下種がぁ!」

紫電を散らしながら鎌を握るオルレアン。怪物の口の縁に足をかけ、怪物の口
腔内から脳天にめがけて鎌を突き刺し、つっかえぼうにしている。どうやら人
造精霊達も限界に近い力を発揮しているのか、鎌からは静電気のように紫色の
光がちかちかと跳ね回る。
さすが女性とは言い難い筋力で両者拮抗。よし、今だヤれ!とアルトは怪物に
ちょっとだけ応援を送る。

「…え?」

と、まだ収まりきっていなかった煙の中から手のような巨大もみじがアルトを
がっちり捕まえた。割とぬるい力で(おそらくオルレアンを噛み砕くことに必
死になっているからだろう)握られているので絞め殺されることはないが、が
っちりと掴まれたおかげで逃げ出せそうもない。
どうしようかと頭をめぐらせて、とりあえず怪物VSオカマの激闘を温い瞳で見
守ることにした。どうせどっちかが片つくまで体力は温存しておこう。ついで
にどっちも片付かないかな、と夢見ながら無関係を装った見学を始めたのであ
った。

……………………

三時間経過。

……………………

「ぬぉぉぉぉぉぉ……」

オルレアンは今だ怪物との不毛な力比べを続けていた。
人造精霊も約60%が休眠してしまうという現在状況。これ以上抜けられると本気
でヤヴァイので気力で死守しているが、いつまで持つか分からない。
そもそも、人造精霊とは生物の遺伝子から生まれた生命体だから、エネルギー
がなくなると彼らは活動できない。ようは宿主であるオルレアンの体力から自
分の活動エネルギーをぶっちぶっち取っていくので長時間の戦闘には不向きな
のだ。

(コイツ、まさか…)

生物にしては無機質な怪物の形を見て、オルレアンは最初、魔法生物の何かか
と思っていた。だが、魔法生物にしては意志が見られない。基本的に魔法生物
とは魔法を駆使する生命体だから、意志とのアクセスは重要だ。
数字がわかっても計算ができない猿のように、魔法は確固たる自意識からの発
信がないと行使できない。魔法を本能で使えるなんて能力はそうそうない。

「コイツ、まさか人造精霊とか言わないわよねあのクソジジィ!!」

「オルレアンさーん、もうそろそろ駄目そうですか?リタイアしますかー?」

平穏なアルトの声が聞こえてきたが、内容は早く破滅を願っているようにしか
思えない。

「馬鹿言ってんじゃないわ!リタイアしたらこの世から脱落じゃないの!」

「天国だと誰も綺麗で平等ですよ」

「オンリーワンじゃないと許せないのよ!」

ぐぎぎぎぎ、と手に汗握りながら、鎌がきしみを上げる。
オルレアンの胸中に、師とはまた別の予感がよぎって記憶を浮かび上がらせ
る。

(もしかして、コイツは…)




あの日、剣を信じて戦った日。あの日、忠誠を剣として振るったあの日。
まだ誰も彼もが生きていて、だからこそ陥落せねばならない城があった。
何もかもを焼き尽くさなければ、魔女の呪いを止められないとした元凶の日。
騎士らが乗り込んだ先に目にしたのは、黒い異形が人肉を貪る阿鼻叫喚。生き
たまま取り込まれていく同胞の絶叫。

城の地下に埋められたのは、瀕死の人間達。
なぜなら、彼らは突入時に魔女の呪いを受け、その身に黒い斑点が浮かび上が
っていた。呪いは感染する、そこで終らせなかればならなかった。

そうして、
正統エディウス国の北の果て、イズフェルミア地方ジェネック男爵領ヴァンジ
ェロ城の地下に、当時大量の人造精霊と感染者が埋められた話は、エディウス
国の上層部に属する者なら周知の事実だ。



「まさか、あの時のを掘り返したとか言うんじゃないでしょうね!」

叫びながら、怪物の真っ黒な喉奥を睨む。
あの紳士は元々魔法使いではない、だがあの馬鹿が「城」から人造精霊を掘り
返して指導者に復讐しようと思いつくのは容易だ。地位を奪った憎い敵同士を
ぶつけ合わせて、共食いでも狙ったのか。
マズイ、人造精霊は本来生物を根幹とする。こいつはどこをどうしたのか、寄
生している本体が見当たらない。のっぺりとした表皮や牙を見る限り、それが
人造精霊によって増殖した部分であり、本体でないのは見て分かる。

「ちょっとそこのエルフ!どっかにこの馬鹿が基本にしてる生物がいるはず
よ!生温い瞳で眺めてないで探しなさい!」

「ごめんなさーい、目が悪くなりました。見えません」

「ぎゃー!最低の言い訳ね!」

あと何時間持つか、2時間ぐらいだな、とアルトは冷静に穏便に平和的に考え
ていた。


2007/02/11 23:35 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ
ナナフシ  9:Wo Licht ist, da ist auch Schatlen./アルト(小林悠輝)
キャスト:アルト オルレアン
場所:正エディウス国内?
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 まぁ、一応探すだけ探してみるか。万が一オルレアンが負けたらその瞬間に握り潰さ
れそうな気がしないでもないので、醒めた目でくるりと周囲を一望する。大きな人影に
握られているお陰で視界は高い。ありがたみを感じないのは、見下ろす景色がまったく
何もおもしろくないからだろうか。

「特になにもいませんねー」

「そんなはずないのよ!」

 ないのよ、と言われても。眼下に広がるのは黒い町並み。迷路じみた路地が幾重にも
交差し、重なり、歪んでいる。目が悪いつもりはないが自分達以外に動くものは見つけ
られない。

 そもそも“この馬鹿が基本にしている生物”という言葉自体が意味不明――寄生する
生物の類だということだろうが、どうしてそんなことがわかるのか、さすがオカマはい
ろんなことを知っているなぁ。彼女(彼)の声はだいぶ切羽詰まっている。このままい
けば抹殺作戦は成功だ。さてどうする?

 まぁ、おなじ姿勢で居続けるのも疲れるし。
 残念ながら成功間違いなしのこの作戦を放棄することも考慮に入れないでもない。

「はいはいわーかーりーまーしーたー。
 探すだけ探すのであなたは気にせず死闘を続けてください」

「さっきまでと態度違いすぎない!?」

「短時間でこれだけヒドイ目に遭えば、猫かぶり続ける心の余裕なんかなくなるです」

「それでもかぶり続けるのが円滑な人間関係のコツよ」

 あなたに言われても、と反論しかけて、やめる。不毛だ。
 アルトは脱出しようと軽くもがいて、なんとか両腕を自由にすることに成功した。
 化物はオカマを食べようとすることに夢中らしい。このまま逃げられないかなと思っ
たが、さすがに気づかれるだろう。

 ここは観客席としてはなかなかの位置だし、もう少し機会を待ってみようか。
 巨大な手に肘を置いて頬杖をつき、はぁとため息をついてから改めて町を観察する。
のっぺりとした、艶のない黒檀の建物が立ち並んでいる。その一部が歪んで、巨大な人
型となってオルレアンと争っている。基本にしている生物とやらは見つからない。

 影のような町はどこまでもどこまでも続いている。
 これは――

 目を閉じて、改めて町を見下ろす。
 黒い町。落ちる影は影ではない。染める闇は闇ではない。すべてニセモノ。
 すぐそこにある巨大な黒い手は、町とまったくおなじ色をしている。

 どこかに本物の気配を感じる。無機質な世界のうちにあるそれは、間違いなく本物の
影で、本物の闇。さっきまでそんなものはなかったはずだ。
 首の付け根でチリリとシェイドが身じろぎした。

「あの」

「見つけたの!?」

「手を出していいですか?」

 ぎぢ、と嫌な音がして鎌の柄が歪んだように見えた。なんだかとても男らしい唸り声
を上げて耐えるオルレアン。これでオカマじゃなかったらとても頼りになりそうな軍人
に見えないこともないのになぁと思いながら、アルトは彼女が頷いたと勝手に解釈した。

「 Leise flehen meine Lieder durch die Nacht zu dir; 」

 影がある。何かがある。この世界のものではない何か、或いは誰か。
 引き寄せてみようと手を伸ばして唱える。怪物の中に何かがある。

「 In den stillen Hain her nieder,Liebchen, komm zu mir! 」

 蠢く気配があって、巨大な人影が一瞬、どろりと崩れた。
 すぐに形を取り戻す黒の向こうに別の色彩が確かに見えた。
 人間の肌の色。違う。醜く膨れ、濁った赤紫に変色した、崩れかけの何か。


2007/02/11 23:43 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ
ナナフシ 10:I don't suffer from insanity but enjoy every minute of it/オルレアン(Caku)
PC:オルレアン アルト
場所:正統エディウス・ジェネック男爵領
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人造精霊の泣声がする。
泣かれたって助けてやれないんだ。泣かないで眠ってくれと祈る夜。

********

視界の端に、よくわからないものを見た。
でも見慣れていたから、すぐにわかる。仲間がよくああなっていた。自分もい
ずれなるんだろうか。
紫のようで赤のようで、橙のようで青いような。とにかく不快極まる色彩の塊
だ。昔はたくさん見た、そんな色だった。まだ人造精霊の真っ黒な色のほうが
いいと、頭の片隅で思う。

「!?」

怪物が震えた。
噛み砕こうとしていた獲物が、口内から脳天にかけて巨大な槍のような得物を
突き立ててきたからだ。そう理解したまでが限度だったらしく、ゆっくりと怪
物がオルレアンとアルトを離さないまま大轟音を立てて崩れていった。周囲の
同じ色をした町並みを巻き込みながら、大きな土煙が上がった。

********

「…ジェネック男爵領城下の町並みって…アータ確実に人造精霊じゃないの!
あんた王様に言いつけちゃうんだからね!即刻死刑かついでにたらい桶よ!!」

「たらい桶の刑なんてあったか甚だ疑問だが…!」

また痛恨の一撃(殴打)を受けて倒れる老人。そろそろ肉体的に死ぬんじゃな
いだろうかと思うのだが、まぁ死ねば容疑者死亡で送還するので(ついでに余
計な罪業なすりつけて)それはそれでもOKと思うギュスターヴ。新エディウス
国の軍部の91%はその場の気分でできているのかもしれない。

「やだ、オルレアン大丈夫かしら。あの子のトラウマが響かないといいんだけ
ど…!!」

正統エディウス・ジェネック男爵領。
現在禁区として指定されているこの敷地には、かつて神を冒涜した魔女の灰と
その使い魔の遺骸が埋まっている。魔女は灰になるまで焼かれたのだが、使い
魔は生きたまま埋められたのだ。この使い魔こそが人造精霊であり、オルレア
ンや指導者と呼ばれる人々に寄生し生きながらえている存在なのだ。
精霊の名を付けるなどとは、愚かすぎるほどに動物的な、神秘や奇跡などとは
かけ離れたその生態と忌まわしい出生に誰もが嫌悪した。
ギュスターヴは当時の魔女狩りに参加はしたものの、感染はしなかった。だが
オルレアンは違う、彼は最愛の妻を首一つにされるまで食い尽くされているの
だ。さらに自分の感染が愛娘にまで伝染したのだ。彼がその後、欝になった挙
句ひきこもりで娘と心中紛いの事件を起こしかけたことは(まぁ彼はオカマで
しかも目立つから)有名だ。

とにかく、おそらくこの町並みが人造精霊なら。
城の地下から掘り起こされた人造精霊が起動してこの空間を作っている。町並
みが同じものばかりなのは、おそらくそれ以外の世界の形を知らないのだろ
う。人造精霊自体は単体では生きることも動くことも、形を作ることもままな
らない。寄生する媒体がなければ、寄生して栄養を取れる動力がなければ存在
することすらできないのだ。

「だとすると、この町並みには…」

うねり輝く筋肉を総動員して手ごろな建物に指を突き立てて上り始める。軍人
だからという理由では片付け切れないちょっとおかしい運動力で、宿屋の形を
した黒い建造物によじのぼる。
しゅごぉぉぉぉぉぉぉxと人にあらざるっぽいおかしな鼻息をついてから、威
風堂々と立ち上がって、地平線を見る。

「ビンゴぉう!」

地平線に蜃気楼のようにゆらめく、黒い城の姿。
まるで、そこだけぽっかり景色が抜け落ちているんじゃないだろうかと思うぐ
らいに虚ろな黒いシルエット。とりあえず直線距離にして10kmはくだらない
という見立ては無視して、ギュスターヴはガッツポーズをとったのであった。

********

「…なんですかこれ」

「可愛いでしょ?人造精霊の一番基礎形体よ」

わらわらと足元から体の上で動くちっさな人型。黒い色にぽっかりとした丸い
瞳。照る照る坊主に手足が生えて、ついでに愛らしさを付け足すとこんな感じ
になるのではないかというぐらい、可愛い。
さっきまでオカマと激闘していて、ついでに自分を掴んでいた異形のバケモン
とは思えないラブリーさである。

「…さっきまで、あんなにでかかったのに」

「魔女狩りで死んだ死体から切り離してやったから、元の形に戻っただけよ。
と、いっても一日程度で元の泥みたいな土塊に戻るけどね」

そう言って、オルレアンが手ごろな一匹をつまみあげる。手足が短いそれら
は、必死の抵抗をするもまったく届いてない。ちょっと胸キュン。

「あんた達でしょ、この空間の主は。とっとと元に戻して頂戴…明日娘の親子
参観なのよ、お肌の調子整えなきゃなんないし、髪の毛だって手入れしなきゃ
ならないんだから」

「その前にまっとうな人としてお子さんの前に立ってあげたほうがいいんじ
ゃ…」

アルトの呟きが終わる前に、オルレアンにつまみあげられていた人造精霊(と
いう名前の可愛い奴ら)がわっと泣き始めた。すると周囲にいたたくさんの仲
間もいっせいに泣き始める。

えーんえーん

えーんえーん

えーんえーん

「あーほら泣かしちゃったじゃない」

「絶対アンタのせいだと思います」

どういう生態なのか、どういう理論で動いているのかまったく理解不明だが、
とりあえずこの一斉大合唱をどうにかしないと耳が痛い。アルトは手始めに数
匹(数人?)持ち上げて揺さぶってみるが、泣き止む気配がまったくない。子
守なんて得意ではないアルトは純粋にどうするべきか迷っていた。すると、横
からひょいっと生白い手が伸びてきて、アルトの腕の中から数匹を奪いとっ
た。

「あーよしよし、いい子でちゅねー…あと、こいつら体内にいれると人造精霊
に感染するわよ」

すると腕の中に残っていた最後の一匹を、力の限り空に向かって投球するアル
ト。
星になった相手に「ごめんね」と優しく投げやりに思いを告げて、寄ってきた
黒い人型を一斉に払う。わーっと気の抜けた叫び声がこだまする。
しばらくすると、すんすんと鼻をすすったり目をこすったりして、ようやく泣
き止んできた。というか、傍目から見ると愛らしい。というか、その間オカマ
の子守っぷりを直視してしまい、ちょっと気分が悪くなっているアルトを他所
に、オカマが立ち上がる。

「…この短時間に手懐けてますね…」

「こう見えても一児の母兼父兼未来の恋人ですから」

「兼任しちゃいけない役職ありましたよ、さりげなく犯罪仕様を盛り込まない
でください」

「ま、この子達とは同類だし…さて、あんたの元に案内してねー」

オルレアンが慈母(慈父)の微笑みで子供達(黒い人型の人造精霊)を送り出
す。なぜかオーラが花畑なのは見えない見えない自分には見えないと信じるア
ルト。

「どこに向かってるんですか」

「たぶんこれは末端だから、おおもとみたいな「原型」がいると思うから、た
ぶんそこじゃない?
基本、人造精霊は本体を安全な場所において末端出すのが多いし」

「オカマとかも世の邪悪なる存在の些細な末端なわけですね」

「神の偉大なる美貌を受け継ぐ選ばれた民、とかいってくれない?気分盛り上
がらないし」

「人間って基本、平等を掲げてませんでしたっけ?」

「時代は常に変わっていってしまうものなのよね…」

会話があんまり成立していない二人であった。


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2007/04/10 02:36 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナナフシ

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