PC:オルレアン アルト
場所:正統エディウス・ジェネック男爵領
-----------------------------------------
人造精霊の泣声がする。
泣かれたって助けてやれないんだ。泣かないで眠ってくれと祈る夜。
********
視界の端に、よくわからないものを見た。
でも見慣れていたから、すぐにわかる。仲間がよくああなっていた。自分もい
ずれなるんだろうか。
紫のようで赤のようで、橙のようで青いような。とにかく不快極まる色彩の塊
だ。昔はたくさん見た、そんな色だった。まだ人造精霊の真っ黒な色のほうが
いいと、頭の片隅で思う。
「!?」
怪物が震えた。
噛み砕こうとしていた獲物が、口内から脳天にかけて巨大な槍のような得物を
突き立ててきたからだ。そう理解したまでが限度だったらしく、ゆっくりと怪
物がオルレアンとアルトを離さないまま大轟音を立てて崩れていった。周囲の
同じ色をした町並みを巻き込みながら、大きな土煙が上がった。
********
「…ジェネック男爵領城下の町並みって…アータ確実に人造精霊じゃないの!
あんた王様に言いつけちゃうんだからね!即刻死刑かついでにたらい桶よ!!」
「たらい桶の刑なんてあったか甚だ疑問だが…!」
また痛恨の一撃(殴打)を受けて倒れる老人。そろそろ肉体的に死ぬんじゃな
いだろうかと思うのだが、まぁ死ねば容疑者死亡で送還するので(ついでに余
計な罪業なすりつけて)それはそれでもOKと思うギュスターヴ。新エディウス
国の軍部の91%はその場の気分でできているのかもしれない。
「やだ、オルレアン大丈夫かしら。あの子のトラウマが響かないといいんだけ
ど…!!」
正統エディウス・ジェネック男爵領。
現在禁区として指定されているこの敷地には、かつて神を冒涜した魔女の灰と
その使い魔の遺骸が埋まっている。魔女は灰になるまで焼かれたのだが、使い
魔は生きたまま埋められたのだ。この使い魔こそが人造精霊であり、オルレア
ンや指導者と呼ばれる人々に寄生し生きながらえている存在なのだ。
精霊の名を付けるなどとは、愚かすぎるほどに動物的な、神秘や奇跡などとは
かけ離れたその生態と忌まわしい出生に誰もが嫌悪した。
ギュスターヴは当時の魔女狩りに参加はしたものの、感染はしなかった。だが
オルレアンは違う、彼は最愛の妻を首一つにされるまで食い尽くされているの
だ。さらに自分の感染が愛娘にまで伝染したのだ。彼がその後、欝になった挙
句ひきこもりで娘と心中紛いの事件を起こしかけたことは(まぁ彼はオカマで
しかも目立つから)有名だ。
とにかく、おそらくこの町並みが人造精霊なら。
城の地下から掘り起こされた人造精霊が起動してこの空間を作っている。町並
みが同じものばかりなのは、おそらくそれ以外の世界の形を知らないのだろ
う。人造精霊自体は単体では生きることも動くことも、形を作ることもままな
らない。寄生する媒体がなければ、寄生して栄養を取れる動力がなければ存在
することすらできないのだ。
「だとすると、この町並みには…」
うねり輝く筋肉を総動員して手ごろな建物に指を突き立てて上り始める。軍人
だからという理由では片付け切れないちょっとおかしい運動力で、宿屋の形を
した黒い建造物によじのぼる。
しゅごぉぉぉぉぉぉぉxと人にあらざるっぽいおかしな鼻息をついてから、威
風堂々と立ち上がって、地平線を見る。
「ビンゴぉう!」
地平線に蜃気楼のようにゆらめく、黒い城の姿。
まるで、そこだけぽっかり景色が抜け落ちているんじゃないだろうかと思うぐ
らいに虚ろな黒いシルエット。とりあえず直線距離にして10kmはくだらない
という見立ては無視して、ギュスターヴはガッツポーズをとったのであった。
********
「…なんですかこれ」
「可愛いでしょ?人造精霊の一番基礎形体よ」
わらわらと足元から体の上で動くちっさな人型。黒い色にぽっかりとした丸い
瞳。照る照る坊主に手足が生えて、ついでに愛らしさを付け足すとこんな感じ
になるのではないかというぐらい、可愛い。
さっきまでオカマと激闘していて、ついでに自分を掴んでいた異形のバケモン
とは思えないラブリーさである。
「…さっきまで、あんなにでかかったのに」
「魔女狩りで死んだ死体から切り離してやったから、元の形に戻っただけよ。
と、いっても一日程度で元の泥みたいな土塊に戻るけどね」
そう言って、オルレアンが手ごろな一匹をつまみあげる。手足が短いそれら
は、必死の抵抗をするもまったく届いてない。ちょっと胸キュン。
「あんた達でしょ、この空間の主は。とっとと元に戻して頂戴…明日娘の親子
参観なのよ、お肌の調子整えなきゃなんないし、髪の毛だって手入れしなきゃ
ならないんだから」
「その前にまっとうな人としてお子さんの前に立ってあげたほうがいいんじ
ゃ…」
アルトの呟きが終わる前に、オルレアンにつまみあげられていた人造精霊(と
いう名前の可愛い奴ら)がわっと泣き始めた。すると周囲にいたたくさんの仲
間もいっせいに泣き始める。
えーんえーん
えーんえーん
えーんえーん
「あーほら泣かしちゃったじゃない」
「絶対アンタのせいだと思います」
どういう生態なのか、どういう理論で動いているのかまったく理解不明だが、
とりあえずこの一斉大合唱をどうにかしないと耳が痛い。アルトは手始めに数
匹(数人?)持ち上げて揺さぶってみるが、泣き止む気配がまったくない。子
守なんて得意ではないアルトは純粋にどうするべきか迷っていた。すると、横
からひょいっと生白い手が伸びてきて、アルトの腕の中から数匹を奪いとっ
た。
「あーよしよし、いい子でちゅねー…あと、こいつら体内にいれると人造精霊
に感染するわよ」
すると腕の中に残っていた最後の一匹を、力の限り空に向かって投球するアル
ト。
星になった相手に「ごめんね」と優しく投げやりに思いを告げて、寄ってきた
黒い人型を一斉に払う。わーっと気の抜けた叫び声がこだまする。
しばらくすると、すんすんと鼻をすすったり目をこすったりして、ようやく泣
き止んできた。というか、傍目から見ると愛らしい。というか、その間オカマ
の子守っぷりを直視してしまい、ちょっと気分が悪くなっているアルトを他所
に、オカマが立ち上がる。
「…この短時間に手懐けてますね…」
「こう見えても一児の母兼父兼未来の恋人ですから」
「兼任しちゃいけない役職ありましたよ、さりげなく犯罪仕様を盛り込まない
でください」
「ま、この子達とは同類だし…さて、あんたの元に案内してねー」
オルレアンが慈母(慈父)の微笑みで子供達(黒い人型の人造精霊)を送り出
す。なぜかオーラが花畑なのは見えない見えない自分には見えないと信じるア
ルト。
「どこに向かってるんですか」
「たぶんこれは末端だから、おおもとみたいな「原型」がいると思うから、た
ぶんそこじゃない?
基本、人造精霊は本体を安全な場所において末端出すのが多いし」
「オカマとかも世の邪悪なる存在の些細な末端なわけですね」
「神の偉大なる美貌を受け継ぐ選ばれた民、とかいってくれない?気分盛り上
がらないし」
「人間って基本、平等を掲げてませんでしたっけ?」
「時代は常に変わっていってしまうものなのよね…」
会話があんまり成立していない二人であった。
----------------------------------------------------------
場所:正統エディウス・ジェネック男爵領
-----------------------------------------
人造精霊の泣声がする。
泣かれたって助けてやれないんだ。泣かないで眠ってくれと祈る夜。
********
視界の端に、よくわからないものを見た。
でも見慣れていたから、すぐにわかる。仲間がよくああなっていた。自分もい
ずれなるんだろうか。
紫のようで赤のようで、橙のようで青いような。とにかく不快極まる色彩の塊
だ。昔はたくさん見た、そんな色だった。まだ人造精霊の真っ黒な色のほうが
いいと、頭の片隅で思う。
「!?」
怪物が震えた。
噛み砕こうとしていた獲物が、口内から脳天にかけて巨大な槍のような得物を
突き立ててきたからだ。そう理解したまでが限度だったらしく、ゆっくりと怪
物がオルレアンとアルトを離さないまま大轟音を立てて崩れていった。周囲の
同じ色をした町並みを巻き込みながら、大きな土煙が上がった。
********
「…ジェネック男爵領城下の町並みって…アータ確実に人造精霊じゃないの!
あんた王様に言いつけちゃうんだからね!即刻死刑かついでにたらい桶よ!!」
「たらい桶の刑なんてあったか甚だ疑問だが…!」
また痛恨の一撃(殴打)を受けて倒れる老人。そろそろ肉体的に死ぬんじゃな
いだろうかと思うのだが、まぁ死ねば容疑者死亡で送還するので(ついでに余
計な罪業なすりつけて)それはそれでもOKと思うギュスターヴ。新エディウス
国の軍部の91%はその場の気分でできているのかもしれない。
「やだ、オルレアン大丈夫かしら。あの子のトラウマが響かないといいんだけ
ど…!!」
正統エディウス・ジェネック男爵領。
現在禁区として指定されているこの敷地には、かつて神を冒涜した魔女の灰と
その使い魔の遺骸が埋まっている。魔女は灰になるまで焼かれたのだが、使い
魔は生きたまま埋められたのだ。この使い魔こそが人造精霊であり、オルレア
ンや指導者と呼ばれる人々に寄生し生きながらえている存在なのだ。
精霊の名を付けるなどとは、愚かすぎるほどに動物的な、神秘や奇跡などとは
かけ離れたその生態と忌まわしい出生に誰もが嫌悪した。
ギュスターヴは当時の魔女狩りに参加はしたものの、感染はしなかった。だが
オルレアンは違う、彼は最愛の妻を首一つにされるまで食い尽くされているの
だ。さらに自分の感染が愛娘にまで伝染したのだ。彼がその後、欝になった挙
句ひきこもりで娘と心中紛いの事件を起こしかけたことは(まぁ彼はオカマで
しかも目立つから)有名だ。
とにかく、おそらくこの町並みが人造精霊なら。
城の地下から掘り起こされた人造精霊が起動してこの空間を作っている。町並
みが同じものばかりなのは、おそらくそれ以外の世界の形を知らないのだろ
う。人造精霊自体は単体では生きることも動くことも、形を作ることもままな
らない。寄生する媒体がなければ、寄生して栄養を取れる動力がなければ存在
することすらできないのだ。
「だとすると、この町並みには…」
うねり輝く筋肉を総動員して手ごろな建物に指を突き立てて上り始める。軍人
だからという理由では片付け切れないちょっとおかしい運動力で、宿屋の形を
した黒い建造物によじのぼる。
しゅごぉぉぉぉぉぉぉxと人にあらざるっぽいおかしな鼻息をついてから、威
風堂々と立ち上がって、地平線を見る。
「ビンゴぉう!」
地平線に蜃気楼のようにゆらめく、黒い城の姿。
まるで、そこだけぽっかり景色が抜け落ちているんじゃないだろうかと思うぐ
らいに虚ろな黒いシルエット。とりあえず直線距離にして10kmはくだらない
という見立ては無視して、ギュスターヴはガッツポーズをとったのであった。
********
「…なんですかこれ」
「可愛いでしょ?人造精霊の一番基礎形体よ」
わらわらと足元から体の上で動くちっさな人型。黒い色にぽっかりとした丸い
瞳。照る照る坊主に手足が生えて、ついでに愛らしさを付け足すとこんな感じ
になるのではないかというぐらい、可愛い。
さっきまでオカマと激闘していて、ついでに自分を掴んでいた異形のバケモン
とは思えないラブリーさである。
「…さっきまで、あんなにでかかったのに」
「魔女狩りで死んだ死体から切り離してやったから、元の形に戻っただけよ。
と、いっても一日程度で元の泥みたいな土塊に戻るけどね」
そう言って、オルレアンが手ごろな一匹をつまみあげる。手足が短いそれら
は、必死の抵抗をするもまったく届いてない。ちょっと胸キュン。
「あんた達でしょ、この空間の主は。とっとと元に戻して頂戴…明日娘の親子
参観なのよ、お肌の調子整えなきゃなんないし、髪の毛だって手入れしなきゃ
ならないんだから」
「その前にまっとうな人としてお子さんの前に立ってあげたほうがいいんじ
ゃ…」
アルトの呟きが終わる前に、オルレアンにつまみあげられていた人造精霊(と
いう名前の可愛い奴ら)がわっと泣き始めた。すると周囲にいたたくさんの仲
間もいっせいに泣き始める。
えーんえーん
えーんえーん
えーんえーん
「あーほら泣かしちゃったじゃない」
「絶対アンタのせいだと思います」
どういう生態なのか、どういう理論で動いているのかまったく理解不明だが、
とりあえずこの一斉大合唱をどうにかしないと耳が痛い。アルトは手始めに数
匹(数人?)持ち上げて揺さぶってみるが、泣き止む気配がまったくない。子
守なんて得意ではないアルトは純粋にどうするべきか迷っていた。すると、横
からひょいっと生白い手が伸びてきて、アルトの腕の中から数匹を奪いとっ
た。
「あーよしよし、いい子でちゅねー…あと、こいつら体内にいれると人造精霊
に感染するわよ」
すると腕の中に残っていた最後の一匹を、力の限り空に向かって投球するアル
ト。
星になった相手に「ごめんね」と優しく投げやりに思いを告げて、寄ってきた
黒い人型を一斉に払う。わーっと気の抜けた叫び声がこだまする。
しばらくすると、すんすんと鼻をすすったり目をこすったりして、ようやく泣
き止んできた。というか、傍目から見ると愛らしい。というか、その間オカマ
の子守っぷりを直視してしまい、ちょっと気分が悪くなっているアルトを他所
に、オカマが立ち上がる。
「…この短時間に手懐けてますね…」
「こう見えても一児の母兼父兼未来の恋人ですから」
「兼任しちゃいけない役職ありましたよ、さりげなく犯罪仕様を盛り込まない
でください」
「ま、この子達とは同類だし…さて、あんたの元に案内してねー」
オルレアンが慈母(慈父)の微笑みで子供達(黒い人型の人造精霊)を送り出
す。なぜかオーラが花畑なのは見えない見えない自分には見えないと信じるア
ルト。
「どこに向かってるんですか」
「たぶんこれは末端だから、おおもとみたいな「原型」がいると思うから、た
ぶんそこじゃない?
基本、人造精霊は本体を安全な場所において末端出すのが多いし」
「オカマとかも世の邪悪なる存在の些細な末端なわけですね」
「神の偉大なる美貌を受け継ぐ選ばれた民、とかいってくれない?気分盛り上
がらないし」
「人間って基本、平等を掲げてませんでしたっけ?」
「時代は常に変わっていってしまうものなのよね…」
会話があんまり成立していない二人であった。
----------------------------------------------------------
PR
トラックバック
トラックバックURL: