第二十四話 『移動する潜伏地』
キャスト:ルフト・しふみ・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ウォーネル=スマン・イン
場所:ムーラン→ウォーネル=スマン邸
――――――――――――――――
「――遅い!ったくあたしが呼んでるんだから3秒で来なさいよね」
いらいらと部屋の中をうろつく。しふみは退屈そうにベッドに寝転び、
手の甲にあごを乗せてけだるげに窓の外を見ている。
「それはいくらなんでも無理じゃろうて」
「だってルフトだし」
理不尽な理由を捏ねて、背中からベッドに倒れこむ。
反動でベッドが揺れ、かすかに軋む音が部屋に響いた。
外はまだ騒がしい。両こぶしを硬く握り、呪詛のようにうめく。
「馬鹿犬めぇ…あの程度の警備にあっさり見つかるなんて!」
「犬じゃからのう」
さっきのセリフを繰り返すしふみ。そののらりくらりとした様子に
苛立ちを感じて、足をばたつかせながら喚く。
「あたし達が部屋に戻ってからどのくらい時間が経ってると思ってんの!?
もう死刑よ死刑。『ごめん待った?』のセリフの後に続くのが
『ううん、今きたとこ』だけじゃないっていうのを思い知らせてやるー!」
もはや自分でもよくわからない罵りを天井にぶつける。ふ、と物憂げな
しふみの口から吐息がもれる。笑ったのか呆れたのか判断しかねたが、
どちらにしろこの女が退屈していることには間違いない。
その退屈しきった瞳が、何かを捕らえた。
「――来たぞえ」
ばさっ
怒鳴った後の静寂を、大振りに空気を叩く音が埋める。次いでいつもの
騒がしいあの声が部屋へ飛び込んできた。
「ルフト来たかぶぎゃっ」
「おっそいわよチキン野郎!なにやってたのせめて手土産ぐらい
もってきなさいよ馬鹿!」
迎え撃った怒号と枕に押されていったんは窓のフレームから消えた
ウィンドブルフだったが、すぐに飛び上がってきた。ご丁寧に嘴に
投げた枕をくわえて滞空している。
ぼとり、と無造作に床に枕を落として、たっぷり息を吸い込んでから
喋りだす。
「お前何回同じことやんだ!あぶねーだろ!」
「うっさいわね!そっちが遅れたのが悪いんでしょ!換毛期無視して
羽ひっこ抜いて枕にするわよ!」
ベッドの上で仁王立ちになって轟然と怒鳴り返す。窓の桟からベッドの
柵に足場を移して、ウィンドブルフはやや声のトーンを落とした。
「恐ろしい事言うな!…とにかくだ、まだルフトは来てねーんだな?
ちっくしょう、何かっちゃ無茶しやがってあいつはよ…」
はー、と翼で顔を覆う。いちいちこういうところが人間臭い。
「あんたら連絡とれんじゃないの?何かしらこう、胡散臭い感じで」
「胡散臭い言うな!せめて不思議とか言え」
「どっちもどっちじゃのう」
不毛な言い合いを止めるでもないしふみに笑われて、ウィンドブルフは
出鼻を挫かれたようにぱたりと翼を下ろした。
「なんでか知らんが応答がねーんだよ。何かあったのかもしんねぇ」
「またぁ?つくづく駄犬ねー」
「何食ったらそんな性悪になれるんだお前は…」
「胃にハーブとバターたらふく詰めてオーブンにブチ込むわよ」
「ルフトー!早く助けに来いー!俺もうやだー!」
半眼ですごまれて、じたばた暴れ始める鳥。羽風で部屋のカーテンが
ひらひらと揺れるが、なんの助けにもなりそうにない。
ようやく上体を起こして、しふみがにじり寄って来る。
「のう、それでは今はあの犬の状況はとんとわからぬ、ということか?」
ようやく話を進められそうな気配をいち早く察知したか、ころりと
絶望的な表情を明るくして、ウィンドブルフはうんうんと頷いた。
「あいつは声に出さないと俺と交信ができないから…もしかしたら
潜んでいる可能性もあるな」
「外がまだ騒がしいということは、捜索を続けているということであろう?
なればその考えもあながち間違ってはおらんかもしれんのう」
ふむ、とどこから取り出したか畳んだ扇子の先を唇にあてて思案する。
ベアトリーチェもようやく落ち着いて、彼女の横にあぐらをかいた。
「意外に近くにいたりしてね。ほら、荷物にまぎれてるとか――」
適当に彷徨った視線は、あの巨体を期待してのことではなかったが。
「…あんなところに箱なんてあったっけ?」
はたと入り口で目を留め、心底不思議そうに呟いたせりふに、
ほかの二人もそちらを見る。
そこには。
穴の開いた巨大な箱がぽつねんと置いてあった。
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キャスト:ルフト・しふみ・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ウォーネル=スマン・イン
場所:ムーラン→ウォーネル=スマン邸
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「――遅い!ったくあたしが呼んでるんだから3秒で来なさいよね」
いらいらと部屋の中をうろつく。しふみは退屈そうにベッドに寝転び、
手の甲にあごを乗せてけだるげに窓の外を見ている。
「それはいくらなんでも無理じゃろうて」
「だってルフトだし」
理不尽な理由を捏ねて、背中からベッドに倒れこむ。
反動でベッドが揺れ、かすかに軋む音が部屋に響いた。
外はまだ騒がしい。両こぶしを硬く握り、呪詛のようにうめく。
「馬鹿犬めぇ…あの程度の警備にあっさり見つかるなんて!」
「犬じゃからのう」
さっきのセリフを繰り返すしふみ。そののらりくらりとした様子に
苛立ちを感じて、足をばたつかせながら喚く。
「あたし達が部屋に戻ってからどのくらい時間が経ってると思ってんの!?
もう死刑よ死刑。『ごめん待った?』のセリフの後に続くのが
『ううん、今きたとこ』だけじゃないっていうのを思い知らせてやるー!」
もはや自分でもよくわからない罵りを天井にぶつける。ふ、と物憂げな
しふみの口から吐息がもれる。笑ったのか呆れたのか判断しかねたが、
どちらにしろこの女が退屈していることには間違いない。
その退屈しきった瞳が、何かを捕らえた。
「――来たぞえ」
ばさっ
怒鳴った後の静寂を、大振りに空気を叩く音が埋める。次いでいつもの
騒がしいあの声が部屋へ飛び込んできた。
「ルフト来たかぶぎゃっ」
「おっそいわよチキン野郎!なにやってたのせめて手土産ぐらい
もってきなさいよ馬鹿!」
迎え撃った怒号と枕に押されていったんは窓のフレームから消えた
ウィンドブルフだったが、すぐに飛び上がってきた。ご丁寧に嘴に
投げた枕をくわえて滞空している。
ぼとり、と無造作に床に枕を落として、たっぷり息を吸い込んでから
喋りだす。
「お前何回同じことやんだ!あぶねーだろ!」
「うっさいわね!そっちが遅れたのが悪いんでしょ!換毛期無視して
羽ひっこ抜いて枕にするわよ!」
ベッドの上で仁王立ちになって轟然と怒鳴り返す。窓の桟からベッドの
柵に足場を移して、ウィンドブルフはやや声のトーンを落とした。
「恐ろしい事言うな!…とにかくだ、まだルフトは来てねーんだな?
ちっくしょう、何かっちゃ無茶しやがってあいつはよ…」
はー、と翼で顔を覆う。いちいちこういうところが人間臭い。
「あんたら連絡とれんじゃないの?何かしらこう、胡散臭い感じで」
「胡散臭い言うな!せめて不思議とか言え」
「どっちもどっちじゃのう」
不毛な言い合いを止めるでもないしふみに笑われて、ウィンドブルフは
出鼻を挫かれたようにぱたりと翼を下ろした。
「なんでか知らんが応答がねーんだよ。何かあったのかもしんねぇ」
「またぁ?つくづく駄犬ねー」
「何食ったらそんな性悪になれるんだお前は…」
「胃にハーブとバターたらふく詰めてオーブンにブチ込むわよ」
「ルフトー!早く助けに来いー!俺もうやだー!」
半眼ですごまれて、じたばた暴れ始める鳥。羽風で部屋のカーテンが
ひらひらと揺れるが、なんの助けにもなりそうにない。
ようやく上体を起こして、しふみがにじり寄って来る。
「のう、それでは今はあの犬の状況はとんとわからぬ、ということか?」
ようやく話を進められそうな気配をいち早く察知したか、ころりと
絶望的な表情を明るくして、ウィンドブルフはうんうんと頷いた。
「あいつは声に出さないと俺と交信ができないから…もしかしたら
潜んでいる可能性もあるな」
「外がまだ騒がしいということは、捜索を続けているということであろう?
なればその考えもあながち間違ってはおらんかもしれんのう」
ふむ、とどこから取り出したか畳んだ扇子の先を唇にあてて思案する。
ベアトリーチェもようやく落ち着いて、彼女の横にあぐらをかいた。
「意外に近くにいたりしてね。ほら、荷物にまぎれてるとか――」
適当に彷徨った視線は、あの巨体を期待してのことではなかったが。
「…あんなところに箱なんてあったっけ?」
はたと入り口で目を留め、心底不思議そうに呟いたせりふに、
ほかの二人もそちらを見る。
そこには。
穴の開いた巨大な箱がぽつねんと置いてあった。
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