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2024/05/17 07:40 |
6.ウスニビイロ/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
キャスト:ヴィルフリード・フレア・リタルード
NPC:ゼクス
場所:どっかの宿屋
-------------------------------
「あの人、誰? 知り合い?」

 立ち竦むフレアにリタが声をかける。
 しかしフレアは反応しない。

「フレアちゃん?」

 突如、リタとフレアの頭上に手が置かれ、後ろに軽く引かれる力がかかった。
 ヴィルフリードだ。

「とり合えず、寒いから中入れ」
「あ……あぁ」
「風邪ひくだろうが。俺が。
 若いあんたらとは違って抵抗力低いんだからよ。
 ホラ」

 その掛け声と同時に、今度は二人の頭を強めに後ろに引く。
 リタは「うわぁ」などと言いながらも、食堂に引き返し始めた。
 頭部以外のきぐるみをまだ着用しているので、その姿はどこかひょうきんであっ
た。
 そしてフレアもそれに続く。こちらの足取りは少し重い。
 その二人の対照的な姿を横目で見ながら、ヴィルフリードはドアに手をかける。
 ……そして、最後にゼクスの歩いていった方向を確認した。
 遠くに見えるゼクスは、少しだけ振り返り、そしてまた歩き始めた。

 振り返ったゼクスの顔は、笑っていた。

 暗い中ではあったが、そう確信させるものがあった。
 ヴィルフリードは舌打ちをし、バタン、と音を立て、ドアを閉めた。
 外には冷たい夜風が吹いていた。

  ◇  ◇  ◇  ◇

 食堂に戻ると、丁度、注文品が運ばれて来た。

「で、なんだったの? 急に飛び出して」
「なんでもない……。私の勘違いだ。
 あの人には失礼なことをしてしまったようだ」

 フレアはリタに向かって、安心させようと、少しだけ微笑みを浮かべながらそう答
えた。

 関わらせてはいけない。

 この一時だけの――少々強引ではあったが――出会いだというだけなのだ。関わら
せてはいけない。
 フレアはそう思っていた。

「……ふぅん。
 じゃぁ『惜しかった』ってなんだろうね?
 『また会おう』は?」

 フレアの笑みが消える。

「ごめんねー。
 でも、仕方ないよね? あの距離じゃ自然に聞こえるんだもん」

 リタの言っている事には一理あった。
 あの時、リタはフレアのすぐ背後にいたのだ。

「でも……」

 フレアは、何故か、弁解するように言った。

「でも、本当に、私はあの人のことなど知らない。初対面だ」
「でもさぁ、『惜しい』って、何か目的があって、それが達成できなかった時に使う
よねー。
 で、『また会おう』って、今度、また、目的を達成させるために会おうっていうこ
とだろうし。
 ……だとすれば、『目的』は何だろうねー?
 何にしろ、フレアちゃん、ちょっとヤバい状況なんじゃないの?」
「きっと人違いだ。だとすれば、すぐに解決する」

それまで、黙ってそのやり取りを聞きながら飲み食いをしていたヴィルフリードが口
を挟んだ。

「ゼクス。
 6本指の奇人だ。ここいらの冒険者の間ではちょっとした有名人だ。
 一度だけなら接触したことがある。仕事絡みでな。
 初対面だろうが、あいつには関係ないさ。
 変態だよ、アイツは。興味持ったら、そんなの関係ないのさ。
 ほら、そこの金髪嬢ちゃんと、俺らも初対面だが、なんだかそんなこと関係ないよ
うな展開になって、今飯を食っているだろう? それと一緒だよ」
「うわぁ。それ、僕、変態ってこと言っていない? サラリとキツイこと言うなぁ」
「……否定するつもりか?」
「してはないよ? だって人間誰しも、そのような要素はあるものじゃない?
 ただ、それを面と向かってサラリと言う人間性に、問題を置いているんだよ」
「そーゆーコトを面と向かってサラリと言えるお前の人間性はどうなんだ?」
「ホラ。僕、変態だから。それにちゃんと人を選んでるし」

 ニッコリと笑う金髪の美少女(美少年だけども)。
 ヴィルフリードは、力無く、テーブルの上に崩れ落ちた。
 しかし、その頭の片隅でだんだんとその状況を楽しむようになっていた。

 あぁ、この感覚だ。

 心の奥底をくすぐるような感覚。
 久しぶりだ。

 人格の歪みは人と触れ合うことで修正するのが一番いい。
 確かにそうなのかもしれない。
 ヴィルフリードは、目の前にいる人物が言っていた言葉を、なんとなく思い出して
いた。

 その湧き上がる気持ちを押さえつけるように、続ける。
 今は、この気持ちを出す場面ではない。

「まぁ、アンタがどうするつもりかは知らんが、何にしろ覚悟だけはしておくんだ
な。
 詳しくは知らんが魔法を使うらしい」

 フレアは、深刻な顔でうつむき、軽くうなずく。
 そこに、リタが再び入る。

「僕、今さっきはあんまり見なかったから覚えてないんだけど、6本指なの? 確か
に?」
「あぁ、確かに、そうだった」

 フレアは、言葉を切りながら一語一語丁寧に答える。

「なら、相当の力の持ち主かもね。
 本で読んだことあるんだけども。
 大きな魔力は時にヒトの身体の構造すら変えてしまうんだって。
 その一番良くある……と言っても、数件だけなんだけど。まぁ、その事例が指の増
加らしいよ。
 噂では、普通の指では組めない印も使えるらしいけども。
 興味深いよねー。遺伝子と魔力の関係」

 その言葉に、フレアは目を丸くした。

「ん? どうしたの?」

 無邪気にフレアに微笑みかけるリタ。

「いや……まさか、直後にこんなに情報が入るとは思わなくて」
「役に立つでしょ?」
「それは、ともかく、だ」

 ヴィルフリードがジョッキをテーブルに置き、リタを軽くにらむ。

「リタ……とか言ったな?
 一体お嬢さんの目的は何なんだ?」

 おかげでこっちは変態扱いだ、とヴィルフリードは心の中で呟く。
 宿を出る前、宿屋のオヤジに言った「カワイコちゃんをひっかけてくる」という台
詞を言った直後、『カワイコちゃん』を2人も連れてきたのがまずかったらしい。オ
ヤジはさっきからチラチラとこちらを興味津々に視線を向けている。
 それを睨んで追い出そうと試みているがなかなかうまくいかない。

「『みんなでお食事して、ハイ終わり』だけで、終わるのか? コレ」

 ヴィルフリードは、にんじんのソテーを頬張りながら、ふとした疑問をぶつけた。

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2007/02/11 14:27 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors
7.パンプキン/リタ(遠夏)
PC:ヴィルフリード、フレア、リタルード
NPC:なし
場所:宿屋
----------------------------------

「えー、じゃあ僕、精神病院に軟禁されてた超天才児で、
 今逃げてるところだからこれから護衛してくださいって駄目?」

「明らかに嘘じゃねぇか」

リタルードの返事に、即座にヴィルフリードが突っ込む。

「それなら、行方不明の某王国の世継ぎで王位につくために
 仲間が必要なのーとか」

「『それなら』だの『とか』だの言ってたら信じるものも信じないぞ?」

「うん、だって冗談だし。でも」

表情はそのまま、瞳だけから笑みを消して、リタルードは言う。

「ヴィルフリードさん、僕のこと結構好き、だよね?」

自分自身というカード。それを切る。
自分が信じられないわけでも、心底嫌っているわけでもないけれど、
それでもこのカードを切るとき、冷たい緊張が自分の中に生じないことはない。

「まぁ、な」

ニヤリと笑んでヴィルフリードが言って、リタルードは内心安堵する。

「あと僕、ゼクスさん、興味あるんだよね」

「何故だ?」

どこか険しい声で尋ねたのはフレアだ。

「あいつは興味本位で関わっていい相手じゃない」

「もちろん、有名人だからミーハ-魂が騒ぐのってわけじゃなよ。
 ちなみに、実はゼクスさんと知り合いだったんですー
 ってわけでもないからね」

「だから何故だ?」

その問いに、リタルードな今度は完全に笑みを消して、答える。

「僕には僕なりの事情があるってだけじゃ……納得してもらえない、かな?」

「お前さん、その言い方ものすごく卑怯だってわかってるか?」

ヴィルフリードが苦い顔をする。

「うん…。あのさ、でも何が何でも!ってわけじゃないんだよ。
 わからないかもしれないしわかるかもしれない。
 そういうのに頼ってみたいって、駄目かな」

「話がよく見えないんだが…」

「他の人にちゃんとわかるように言ってないのは自覚してるよ。
 でも、僕がそういう理由でフレアちゃんにくっついていたいっていうのは
 わかってもらえる?」

「あぁ…」

フレアは少し躊躇したが、それでも結局は頷いた。

「その話の流れだと俺もセットになってるみたいだが」

「あれ、嫌なの?
 ここでヴィルフリードさんにぐねられるとすっごい面倒だから
 僕露骨に嫌な顔するよ?」

そしてリタルードはにっこり笑って続ける。

「もちろん明日の朝ご飯も三人一緒だからね!」



「駄目だ、集中できない」

夕飯のあと、フレアは同じ宿屋で部屋を借りて、あとの二人はそれぞれの部屋に戻っ
て。
着ぐるみを脱いで、例の本の山に取り掛かっていたリタルードは舌打ちして本を置い
た。

会ったのこと無い人と初めて話したり、変わったことのあった日は、そういうことが
ある。

胸の奥で鈴が鳴りつづけるような、気が高ぶる感じ。
たぶんこれでは、ベッドに入ってもなかなか寝付けないだろう。

それとも、もしかして。

呼んでる?

六本指のゼクス。おそらく彼は強大な力の持ち主だろう。

まさか、と思う。そんなことをする理由がわからない。
自分が彼を気にしているだけで、彼が目をつけているのはフレアのはずだ。

そう思いながらも、リタルードは出かける準備をすることにする。

気のせいならそれはそれでいい。このまま部屋にいても退屈するだけだ。
罠だとしても、避ける理由など存在しないのだから。

朝ご飯、一緒に食べられなかったら嫌だな。

部屋を出るとき気にかかったのはそんなことだった。


2007/02/11 14:28 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors
8.バージンスノウ-雪月花-/ディアン(光)
PC:ディアン、ヴィルフリード、フレア、リタルード
NPC:なし
場所:宿屋
----------------------------------
「やれやれ・・・やっと着いたのはいいが、フレアの奴ぁ一体
どこに宿を取ったのやら・・・」
俺がこの町に着いたのは太陽が山の端に消え、代わって出てきた半月が中天に
3分の1ほど昇ったころ。
まだまだ夜は始まったばかりの時間帯だから、(本人は気づいてないだろうが)
あの目立つ少女のことだ。
酒場にでも行けば案外簡単に情報があるかもしれねぇが・・・
こんな天気のいい夜だ。
知らない町での夜の散歩も風流だろうと、ぶらつきながらその辺の宿を
覗いてみることにした。
時間に押されていない旅の、良いところだ。
幸い、路銀にも余裕がある。
ま、ムリしてここで見つけられなくてもいいだろうってのが本音だしな。
縁があれば、どっかで会うこともあるだろうさ。
 
何を考えるでもなく、宿屋に入って宿帳を見、また出てふらり・・・
の繰り返しで4軒目。
「・・・?」
ロビーで目に入ったのは、ランプの明かりを浴びて輝く、鮮やかな金髪。
少年とも、少女とも取れる体型と顔の造作の持ち主だった。 
一瞬どきりとする美貌に、次の瞬間俺は首を振った。
向こうも戸口をくぐった俺を見て一瞬歩みを止めたものの、すぐに興味を
無くしたように歩き出したのだ。
歩き方だけは、よほど特殊な訓練をつまない限り男女の違いが表れる。
肩で重心をとる歩き方は、男特有のもの。
(ちょっとドキッとして損したぜ・・・)
内心失望のため息をつきながら、カウンターに声をかけた。
「悪いが、ちょっと教えてくれ。連れとはぐれちまったんだが・・・えぇとだな、
背丈はこれくらいで、腰までの黒髪に、真っ赤な瞳の・・・そうだな、
『ぴりっ』とした感じの女の子なんだが。」
身振り手振りで表現する俺を見て、受付の男は「あぁ」という表情を浮かべた。
お、当たりか?
「失礼ですが、お連れ様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、フレア、って言うんだが・・・。」
男は、ぱらぱらと宿帳をめくり、次いで軽くうなり声を上げた。
「どうした?いるんだろ?」
「いえ、確かにフレアさまは宿をお取りになっていますが、お連れ様がいるとは
聞いていないので・・・というよりお連れ様お二人とご一緒でしたが。」
な、にゃにぃ!?
いやまぁ、確かにフレアにはもしかしたらそっちの方面に行くかも~みたいな
曖昧な調子で言ってはあったが・・・もしかして、忘れられてるのか、俺!?
元はと言えば俺が路銀を気前良くフレアに奢ってやっちまったせいで自分の分が
足りなくなり、かといってフレアにたかるわけにもいかずに
「ちょっと用事があるから先に行っててくれ」とフレアを先行させて
2,3日ほど『仕事』をして懐を潤してから追いついた・・・って経緯が
あるにはあるし、悪いのは俺なんだが。

珍しいこともあるもんだが・・・連れが二人?
覗きこむように宿帳を確認すると、(あまり客の入りは良くないのだろう)閑散と
した名簿のページには確かに「F・フレア」の署名と一緒に二名ほど名前が
連なっている。もちろん、部屋は別々に取ってあるのが救いだが。
(ふんふん。リタルードにヴィルフリード、ね・・・)
絶対忘れん!と固く誓いながら、その名前を胸の奥に刻み込んだ。
しっかし・・・3人で宿とは・・・いや、まさかそんな、といかがわしい妄想を
払いのける。
「そうだな、それじゃあ仕方ない。じゃあ、俺に一部屋とってもらっても
いいかな?」
「分かりました。すぐにお取りしますので・・・ええと、2階の4号室をご利用
ください。寝具等は置いてありますので・・・」
差し出された鍵を受け取り、説明を聞き流して俺は颯爽と階段を上っていった。
明日の朝、俺を見つけて驚くフレアの顔を想像してほくそえみながら・・・。

2007/02/11 14:29 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors
9.インディアンレッド/フレア(熊猫)
キャスト:ヴィルフリード・リタルード・フレア
NPC:なし
場所:宿屋
―――――――――――――――

「……」

装備を外した胸が薄く上下するのを感じながら、フレアは
ベッドの上に寝転がりながら天井を見ていた。

ブーツは履いたままだが、足は床につけている。

視線を天井からベッドにうつす。そこには、外したバックルと剣が
ランプの光を受けて鈍く輝いていた。

ふと不安になって、上半身だけを起こして背後の窓を見る。
だがそこにはベッドに座っている自分と、部屋の様子が
映っているだけで、あとは闇だ。

あの何もかも知っているかのような目も、6本の指もない。

――また会おう――

それでも、きっともう会うことはないだろう――十回目の気休めを、胸中で繰り返
す。
それと同時に、リタとヴィルフリードのことが思い出された。

もしもう一度でもゼクスに会うようなことがあれば、彼らとは
別れなくてはいけない。


出会った瞬間に別れのことを考えるようになったのは、いつからだろう。


一度出逢ってしまったら、遅かれ早かれ、あとは別れるしかない。
その別れが怖いから、出逢うのも怖くなる。

ディアンと会った時もそうだ。あの時出逢ってしまったから、今こうして
別れに怯えている。

先に行っててくれ―― もしかしたら、
あれは遠まわしな別れの挨拶ではなかったのか。
現に3日経った今も、まだディアンと合流できていない。

(…言わない方がいいだろうな)

もし再会することができても、今日の事は黙っていよう。
それでなくても勘のいい彼のことだ。何かひとつでもとっかかりがあれば、
全て見抜かれてしまう。

だから、今日の事は忘れてしまおう。
そう決めたとき、ドアの向こうで階段を上ってくる足音がした。
とっさに横の剣を手にとって――苦笑しながら枕元に置く。

この宿屋にあるアルコールが、そんなに高くなければいいのだが。
フレアは立ち上がると、ドアに向かった。


2007/02/11 14:30 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors
10.Rose Grey/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
キャスト:ヴィルフリード・ディアン・フレア・リタルード
NPC:なし
場所:宿屋
―――――――――――――――

 ヴィルフリードは、酒瓶を持って、宿屋への帰路へついていた。
 仕事直後なのに、宿屋の安酒だけで済まそうという気にはなれず、食後、外に
繰り出していた。
 暗い夜道を歩きながら、ヴィルフリードは今日出会った二人について考えてい
た。

 不思議なことに、フレアよりリタと多く話していたというのに、フレアの性格
の方が掴みやすい、と感じていた。
 リタは、一言で表せば「不思議」であった。掴み所のない言動。ふわふわと
漂った雰囲気。女性であるのに、なぜかそう感じさせない所作(実際女性でない
のだからしょうがないのだが・・・)。
 あの手合いは、考えても埒が明かない。ヴィルフリードはリタについての思考
を放棄していた。
 あれは考えながら対応するよりは、その場の雰囲気で掛け合いを楽しむが一番
であろう。
 そんなリタの性格が掴みにくい、という対比もあるのだろうが、フレアはきっ
と、根っから素直なんだろう。
 そう、一言で表せば。

 不器用な子だ。

 ヴィルフリードは、フレアをそう評していた。

 甘えてしまえばいいのに。
 騙してしまえばいいのに。
 頼ってしまえばいいのに。
 逃げてしまえばいいのに。

 自分が今まで平然とやってきたことを、彼女はしない。
 それは、とても潔癖なことなのだろう。
 だが。

 正面から一人で立ち向かおうとするなんて、バカのすることだ。不器用にも程
がある。
 そんな身を削るような生き方で長生きできるとは思えない。

 そして今更のように気づいて、ヴィルフリードは息を吐き出すように笑う。

 彼女は、不器用な上、クソ真面目なんだ。

 だが、あのタイプは一度頼れる人ができると強くなる。
 何もかもが自分とは正反対のタイプだ。

 こうなると、心配というよりも、嫉妬が大きい。
 なのに同時に、ずっとそうであって欲しいという願望を託してしまう気持ちも
ある。
 両方とも、「なりえなかったもの」に対する感情だ。
 どちらにしても醜く、相手には迷惑なものだ。
 だから、それらを、静かに、静かに心の奥に沈める。
 沈めて、彼女の好きにさせるのいい。
 それが一番だ。


 それを沈め終わろうとした頃、丁度宿屋の前についた。
 カウンターでカギを受け取り、部屋に向かおうと、階段を上ったところで声が
した。

「あ」

 フレアだ。

「よぉ。
 どうしたんだ?」

「ちょっと、下に降りて軽いアルコールのものを飲もうと思って……」

「奇遇だな。
 俺はコイツを調達してきたところなんだ」

 ヴィルフリードは手に持った酒瓶を上げ、振ってみせた。

「なんなら一緒に飲むか? 下の食堂は閉まっていたから……どっちかの部屋に
なるが。
 軽いものなら、部屋に貰いモンがある。甘いやつで、飲めないから売ろうと
思ってたやつだ」

「いや……それは悪い」

 その時、先ほど沈めたはずの感情が、遊び心を伴って、一つの小さな泡ように
浮上した。

「ま、若い子がオッサンと飲んでも楽しかないわなぁ」

 カラカラと笑いながらその台詞を言う。
 この台詞を言うと、素直で真面目な彼女のことだ。答えは予想される。

「いや、そんなことはない」

 案の定、少し慌てたように、釈明するフレア。

「んじゃぁ、一人寂しく飲むこのオッサンにちょいと付き合ってくれんかね?」

「……だが……」

「ん? ……あぁ。そうか」

 渋るフレアの様子に、ヴィルフリードはようやく気がついた。

「うら若き娘さんとこんな時間に二人きりってのは、問題あるってか。
 いやぁ、最近はお嬢さんぐらいの娘には男扱いされなくてねぇー。『お父さん
と一緒の年だ』なぁんて言われるから、ま、逆に嬉しいんだがね。
 んじゃぁ、おやすみな」

 そう言って背を向けようとしたとき。

「ヴィルフリードは」

 ヴィルフリードはそのかけられた言葉に、少し驚いたように口を半開きにし、
顔だけをフレアに向けた。
 フレアの顔を見ると、声をかけた自分自身に驚いた顔をしていた。が、すぐ
に、笑顔を作った。
 やはり、誤魔化すのが下手な少女だ。

「ヴィルフリードは……何故、そんな風に出会いを楽しめるんだ?」

「……楽しまなきゃ損だろ?」

「でも……楽しんだら楽しんだ分だけ……」

 フレアはそこで言葉を呑み込んだ。

「……あ? ……あぁ、そうか。
 ……あー……なんだろね?」

 ヴィルフリードは軽く息をひとつ吐き、そしてひょうきんないつもの口調で話
し始めた。

「俺はさぁ。出会いに関して、そんな感覚が多分麻痺しかけてるんだ。慣れ、っ
てやつかね?
 だから、別れに対して、アンタみたいに強い思い入れも、今は無い。
 昔は辛かったよ、そりゃ。でもなぁ、昔の方が、出会いをもっと楽しめたん
だ。
 俺、バカだったからよ。アンタみたいに別れのことなんて目の前に突き出され
るまで考えてなかったからよ。
 だからこそ、あの頃みたいになれやしねぇかって、楽しもうとしているんだろ
うな。
 ま、よくわからねぇけど」

 ヴィルフリードの下に向けられた視線が、フレアにまっすぐに向けられる。

「その怖れる感覚は大事にした方がいい。それがあるからこそ、楽しめるんだ。
 でもな、アンタも剣をしょってるんだ。わかるだろう? 戦ってもいない敵相
手に脅えてちゃぁ、勝てるモンも負けるんだ。
 覚悟はしても、恐れちゃぁ、アカンよ。
 なんにしろ、アンタは俺より出会いを楽しめる」

 いつの間にかヴィルフリードは真顔になっていたが、今度は相好が崩れる。

「って、今、説教臭かったなァ。
 あー、クソ。年はとりたかねぇや。
 ……ま。そーゆー訳で。また今度機会があったらオッチャンとの出会いも大事
にしてなァー。
 んじゃ、おやすみぃーい」

 そのまま、歩こうとしだしたとき。

「いや、待ってくれ。一緒に……飲もう。少しだけなら付き合おう。私の部屋で
よければ」

 その小さな逆転劇に、ヴィルフリードは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに口の両
端を吊り上げる。

「んじゃぁ、自分のグラスと酒を持ってくるよ。部屋で待っててくれ」

 笑顔で軽く手を振る。フレアは少し微笑みながら小さく手を振り返した。



 部屋に戻ったヴィルフリードは一人自己嫌悪に陥っていた。

 あのみっともなさといったらなんなんだ。
 親父臭く説教しやがって、挙句の果てに……沈めたはずの「願望による託し」
までしやがった。

 兎に角も。
 仕切りなおしだ。
 酒でも飲んで忘れよう。

 そう思ったとき、隣の部屋のドアの音が聞こえた。
 隣人は、リタである。
 恐らく、共用トイレにでも行くのだろう、とヴィルフリードは、さして気にも
しなかった。



 フレアの部屋の前に立ち、ノックをする。
 しばらくするとフレアがドアから顔を出した。

「入ってくれ」

 そう言われて入ろうとした時、背後で文字で表現し難い奇妙で短い言葉―――
あえて文字で表現するならば「ゴァっ!」だろうか―――が聞こえた。
 振り返ると、そこには白ずくめの戦士が驚いたようにこちらを見ていた……。


2007/02/11 14:31 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors

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