キャスト:ヴィルフリード・フレア・リタルード
NPC:ゼクス
場所:どっかの宿屋
-------------------------------
「あの人、誰? 知り合い?」
立ち竦むフレアにリタが声をかける。
しかしフレアは反応しない。
「フレアちゃん?」
突如、リタとフレアの頭上に手が置かれ、後ろに軽く引かれる力がかかった。
ヴィルフリードだ。
「とり合えず、寒いから中入れ」
「あ……あぁ」
「風邪ひくだろうが。俺が。
若いあんたらとは違って抵抗力低いんだからよ。
ホラ」
その掛け声と同時に、今度は二人の頭を強めに後ろに引く。
リタは「うわぁ」などと言いながらも、食堂に引き返し始めた。
頭部以外のきぐるみをまだ着用しているので、その姿はどこかひょうきんであっ
た。
そしてフレアもそれに続く。こちらの足取りは少し重い。
その二人の対照的な姿を横目で見ながら、ヴィルフリードはドアに手をかける。
……そして、最後にゼクスの歩いていった方向を確認した。
遠くに見えるゼクスは、少しだけ振り返り、そしてまた歩き始めた。
振り返ったゼクスの顔は、笑っていた。
暗い中ではあったが、そう確信させるものがあった。
ヴィルフリードは舌打ちをし、バタン、と音を立て、ドアを閉めた。
外には冷たい夜風が吹いていた。
◇ ◇ ◇ ◇
食堂に戻ると、丁度、注文品が運ばれて来た。
「で、なんだったの? 急に飛び出して」
「なんでもない……。私の勘違いだ。
あの人には失礼なことをしてしまったようだ」
フレアはリタに向かって、安心させようと、少しだけ微笑みを浮かべながらそう答
えた。
関わらせてはいけない。
この一時だけの――少々強引ではあったが――出会いだというだけなのだ。関わら
せてはいけない。
フレアはそう思っていた。
「……ふぅん。
じゃぁ『惜しかった』ってなんだろうね?
『また会おう』は?」
フレアの笑みが消える。
「ごめんねー。
でも、仕方ないよね? あの距離じゃ自然に聞こえるんだもん」
リタの言っている事には一理あった。
あの時、リタはフレアのすぐ背後にいたのだ。
「でも……」
フレアは、何故か、弁解するように言った。
「でも、本当に、私はあの人のことなど知らない。初対面だ」
「でもさぁ、『惜しい』って、何か目的があって、それが達成できなかった時に使う
よねー。
で、『また会おう』って、今度、また、目的を達成させるために会おうっていうこ
とだろうし。
……だとすれば、『目的』は何だろうねー?
何にしろ、フレアちゃん、ちょっとヤバい状況なんじゃないの?」
「きっと人違いだ。だとすれば、すぐに解決する」
それまで、黙ってそのやり取りを聞きながら飲み食いをしていたヴィルフリードが口
を挟んだ。
「ゼクス。
6本指の奇人だ。ここいらの冒険者の間ではちょっとした有名人だ。
一度だけなら接触したことがある。仕事絡みでな。
初対面だろうが、あいつには関係ないさ。
変態だよ、アイツは。興味持ったら、そんなの関係ないのさ。
ほら、そこの金髪嬢ちゃんと、俺らも初対面だが、なんだかそんなこと関係ないよ
うな展開になって、今飯を食っているだろう? それと一緒だよ」
「うわぁ。それ、僕、変態ってこと言っていない? サラリとキツイこと言うなぁ」
「……否定するつもりか?」
「してはないよ? だって人間誰しも、そのような要素はあるものじゃない?
ただ、それを面と向かってサラリと言う人間性に、問題を置いているんだよ」
「そーゆーコトを面と向かってサラリと言えるお前の人間性はどうなんだ?」
「ホラ。僕、変態だから。それにちゃんと人を選んでるし」
ニッコリと笑う金髪の美少女(美少年だけども)。
ヴィルフリードは、力無く、テーブルの上に崩れ落ちた。
しかし、その頭の片隅でだんだんとその状況を楽しむようになっていた。
あぁ、この感覚だ。
心の奥底をくすぐるような感覚。
久しぶりだ。
人格の歪みは人と触れ合うことで修正するのが一番いい。
確かにそうなのかもしれない。
ヴィルフリードは、目の前にいる人物が言っていた言葉を、なんとなく思い出して
いた。
その湧き上がる気持ちを押さえつけるように、続ける。
今は、この気持ちを出す場面ではない。
「まぁ、アンタがどうするつもりかは知らんが、何にしろ覚悟だけはしておくんだ
な。
詳しくは知らんが魔法を使うらしい」
フレアは、深刻な顔でうつむき、軽くうなずく。
そこに、リタが再び入る。
「僕、今さっきはあんまり見なかったから覚えてないんだけど、6本指なの? 確か
に?」
「あぁ、確かに、そうだった」
フレアは、言葉を切りながら一語一語丁寧に答える。
「なら、相当の力の持ち主かもね。
本で読んだことあるんだけども。
大きな魔力は時にヒトの身体の構造すら変えてしまうんだって。
その一番良くある……と言っても、数件だけなんだけど。まぁ、その事例が指の増
加らしいよ。
噂では、普通の指では組めない印も使えるらしいけども。
興味深いよねー。遺伝子と魔力の関係」
その言葉に、フレアは目を丸くした。
「ん? どうしたの?」
無邪気にフレアに微笑みかけるリタ。
「いや……まさか、直後にこんなに情報が入るとは思わなくて」
「役に立つでしょ?」
「それは、ともかく、だ」
ヴィルフリードがジョッキをテーブルに置き、リタを軽くにらむ。
「リタ……とか言ったな?
一体お嬢さんの目的は何なんだ?」
おかげでこっちは変態扱いだ、とヴィルフリードは心の中で呟く。
宿を出る前、宿屋のオヤジに言った「カワイコちゃんをひっかけてくる」という台
詞を言った直後、『カワイコちゃん』を2人も連れてきたのがまずかったらしい。オ
ヤジはさっきからチラチラとこちらを興味津々に視線を向けている。
それを睨んで追い出そうと試みているがなかなかうまくいかない。
「『みんなでお食事して、ハイ終わり』だけで、終わるのか? コレ」
ヴィルフリードは、にんじんのソテーを頬張りながら、ふとした疑問をぶつけた。
NPC:ゼクス
場所:どっかの宿屋
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「あの人、誰? 知り合い?」
立ち竦むフレアにリタが声をかける。
しかしフレアは反応しない。
「フレアちゃん?」
突如、リタとフレアの頭上に手が置かれ、後ろに軽く引かれる力がかかった。
ヴィルフリードだ。
「とり合えず、寒いから中入れ」
「あ……あぁ」
「風邪ひくだろうが。俺が。
若いあんたらとは違って抵抗力低いんだからよ。
ホラ」
その掛け声と同時に、今度は二人の頭を強めに後ろに引く。
リタは「うわぁ」などと言いながらも、食堂に引き返し始めた。
頭部以外のきぐるみをまだ着用しているので、その姿はどこかひょうきんであっ
た。
そしてフレアもそれに続く。こちらの足取りは少し重い。
その二人の対照的な姿を横目で見ながら、ヴィルフリードはドアに手をかける。
……そして、最後にゼクスの歩いていった方向を確認した。
遠くに見えるゼクスは、少しだけ振り返り、そしてまた歩き始めた。
振り返ったゼクスの顔は、笑っていた。
暗い中ではあったが、そう確信させるものがあった。
ヴィルフリードは舌打ちをし、バタン、と音を立て、ドアを閉めた。
外には冷たい夜風が吹いていた。
◇ ◇ ◇ ◇
食堂に戻ると、丁度、注文品が運ばれて来た。
「で、なんだったの? 急に飛び出して」
「なんでもない……。私の勘違いだ。
あの人には失礼なことをしてしまったようだ」
フレアはリタに向かって、安心させようと、少しだけ微笑みを浮かべながらそう答
えた。
関わらせてはいけない。
この一時だけの――少々強引ではあったが――出会いだというだけなのだ。関わら
せてはいけない。
フレアはそう思っていた。
「……ふぅん。
じゃぁ『惜しかった』ってなんだろうね?
『また会おう』は?」
フレアの笑みが消える。
「ごめんねー。
でも、仕方ないよね? あの距離じゃ自然に聞こえるんだもん」
リタの言っている事には一理あった。
あの時、リタはフレアのすぐ背後にいたのだ。
「でも……」
フレアは、何故か、弁解するように言った。
「でも、本当に、私はあの人のことなど知らない。初対面だ」
「でもさぁ、『惜しい』って、何か目的があって、それが達成できなかった時に使う
よねー。
で、『また会おう』って、今度、また、目的を達成させるために会おうっていうこ
とだろうし。
……だとすれば、『目的』は何だろうねー?
何にしろ、フレアちゃん、ちょっとヤバい状況なんじゃないの?」
「きっと人違いだ。だとすれば、すぐに解決する」
それまで、黙ってそのやり取りを聞きながら飲み食いをしていたヴィルフリードが口
を挟んだ。
「ゼクス。
6本指の奇人だ。ここいらの冒険者の間ではちょっとした有名人だ。
一度だけなら接触したことがある。仕事絡みでな。
初対面だろうが、あいつには関係ないさ。
変態だよ、アイツは。興味持ったら、そんなの関係ないのさ。
ほら、そこの金髪嬢ちゃんと、俺らも初対面だが、なんだかそんなこと関係ないよ
うな展開になって、今飯を食っているだろう? それと一緒だよ」
「うわぁ。それ、僕、変態ってこと言っていない? サラリとキツイこと言うなぁ」
「……否定するつもりか?」
「してはないよ? だって人間誰しも、そのような要素はあるものじゃない?
ただ、それを面と向かってサラリと言う人間性に、問題を置いているんだよ」
「そーゆーコトを面と向かってサラリと言えるお前の人間性はどうなんだ?」
「ホラ。僕、変態だから。それにちゃんと人を選んでるし」
ニッコリと笑う金髪の美少女(美少年だけども)。
ヴィルフリードは、力無く、テーブルの上に崩れ落ちた。
しかし、その頭の片隅でだんだんとその状況を楽しむようになっていた。
あぁ、この感覚だ。
心の奥底をくすぐるような感覚。
久しぶりだ。
人格の歪みは人と触れ合うことで修正するのが一番いい。
確かにそうなのかもしれない。
ヴィルフリードは、目の前にいる人物が言っていた言葉を、なんとなく思い出して
いた。
その湧き上がる気持ちを押さえつけるように、続ける。
今は、この気持ちを出す場面ではない。
「まぁ、アンタがどうするつもりかは知らんが、何にしろ覚悟だけはしておくんだ
な。
詳しくは知らんが魔法を使うらしい」
フレアは、深刻な顔でうつむき、軽くうなずく。
そこに、リタが再び入る。
「僕、今さっきはあんまり見なかったから覚えてないんだけど、6本指なの? 確か
に?」
「あぁ、確かに、そうだった」
フレアは、言葉を切りながら一語一語丁寧に答える。
「なら、相当の力の持ち主かもね。
本で読んだことあるんだけども。
大きな魔力は時にヒトの身体の構造すら変えてしまうんだって。
その一番良くある……と言っても、数件だけなんだけど。まぁ、その事例が指の増
加らしいよ。
噂では、普通の指では組めない印も使えるらしいけども。
興味深いよねー。遺伝子と魔力の関係」
その言葉に、フレアは目を丸くした。
「ん? どうしたの?」
無邪気にフレアに微笑みかけるリタ。
「いや……まさか、直後にこんなに情報が入るとは思わなくて」
「役に立つでしょ?」
「それは、ともかく、だ」
ヴィルフリードがジョッキをテーブルに置き、リタを軽くにらむ。
「リタ……とか言ったな?
一体お嬢さんの目的は何なんだ?」
おかげでこっちは変態扱いだ、とヴィルフリードは心の中で呟く。
宿を出る前、宿屋のオヤジに言った「カワイコちゃんをひっかけてくる」という台
詞を言った直後、『カワイコちゃん』を2人も連れてきたのがまずかったらしい。オ
ヤジはさっきからチラチラとこちらを興味津々に視線を向けている。
それを睨んで追い出そうと試みているがなかなかうまくいかない。
「『みんなでお食事して、ハイ終わり』だけで、終わるのか? コレ」
ヴィルフリードは、にんじんのソテーを頬張りながら、ふとした疑問をぶつけた。
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