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2024/05/21 08:58 |
5.ハイドラント/フレア(熊猫)
キャスト:ヴィルフリード・リタルード・フレア
NPC:ゼクス
場所:街道
―――――――――――――――

乱暴に扉を開けて通りに出ると、そこには一人の男がいた。

男――と称するより、青年と言ったほうがいいか。自分より年上だろうが、
そう老いてもいない。

黒っぽいコートのようなものを袖に腕を通さず羽織っているだけで、
武装をしている感じでもない。

青年は、フレアが出てきても意に介さない様子で、
この宿屋の窓に片方の手のひらと顔を向けている。

6本の指がある手の平で。

嫌に痩せぎすの腕だけを伸ばし、体はこちらに向けながら、
ゆっくりと流し目のように目を細めて、視線をこちらに這わせてきた。

白に近いベージュの髪。ランプの灯の光ではなく、日の光に当たれば
もっと色は薄いだろう。
口が妙に大きいような気がする。

黙ってそこに立っているだけ、こちらを見ているだけ。
それだけで、意識が張り詰める。

例え、彼の指の数が自分と同じだとしても、纏っている強大な魔力がなくても、
きっと今と同じ事を考えただろう。

彼が今、その魔力を放ったとしたら――
この宿屋は、いやこの一帯は塵と化す。
それは予想ではなく、漠然とした真実。
見えなくても、感じる。肌が痛いほどに濃く、純粋に強い魔力。


その切っ先は、確かにこの宿にむけられている。


と、手は下ろさないまま、青年が口を薄く開いた。

「…何の用かな」

少しかすれたような、甘い声。
なぜかぐっと言葉に詰まるが、なんとか言葉を返す。

「そっちこそ!」

喉が渇いている。気がつけば、拳をきつく握っていた。
青年はこちらの睨みに動じる事なく――少し間をおいて嘆息すると、
やっとそこで腕を下ろした。
コートの中に、細い腕が消える。

同時に、フレアの胸から暗く重い緊張が抜けた。

背後で、なになにー、というリタの軽い声と足音が聞こえた。
続いて、開きっぱなしのはずの扉が軋む音。

振り返ると、いつの間にか様子を伺っていたらしいヴィルフリードが、
半身を扉に隠したまま、渋い顔をして立っている。
さらにその後ろから、ひょいとリタが顔だけを出した。

「フレアちゃん、どうしたの?」

目の覚めるような金髪を振って、リタが首をかしげる。
フレアは口ごもってもう一度青年に顔を向けると、彼は二人を見ているよう
だったが、すぐにこちらを再度見返すと、どうという事もないふうに
口だけで笑って見せた。

「惜しかったね」
「え――」
「…僕の事はゼクスとでも呼んで欲しい…。また会おう」

そう言い切って、ゼクスと名乗った青年はいきなりきびすを返した。
あれ誰?と、リタが言っているのが聞こえる。


フレアは混乱して、ただその後姿を見ていた。

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2007/02/11 14:27 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors

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