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PC :アーサー ジュリア
NPC:ファブリーズ(マイル ジョイ レノア) エンプティ
場所:モルフ地方東部 ― ファブリー邸
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「お任せください。このぼくが必ず、事件の真相を暴いてさしあげましょ
う!」
男の自信に満ち溢れた声が会場にむなしく響いた。
(まぁ。頑張ってくれ。今日一日くらいは付き合ってやるさ)
俺はワイングラスを傾け、中身を一気に飲み干した。
ここでファブリー氏に恩を売っておけば、モルフ東部での仕事もしやすくな
る。
今日だって、そのためだけにわざわざ遠くからやってきたのだ。
「というわけで、次はアリバイです!!皆さん、チャーミー嬢が姿を消す前後
のアリバイを証言してください」
探偵小説のシナリオでも読んでいるような進行状況に人々の空気は更に白け
ていく。
そんなもの不必要だ。
何故なら、全員がその時この場にいたのだから。
「これは私の推測に過ぎやせんが……」
集団の一人が、かの迷探偵と同じ台詞を口に出した時、またふざけた役者が
一人増えたのかとげんなりしたが、新しい発言者のエンプティは意外にまとも
な事を口にした。
「もし、お嬢さんが魔女に攫われたとするならばもうこの屋敷にはいないと思
うのですが」
「いや、犯人はきっとこの中に…」
だって、犯人だからか?
「そ、そうですね。はやり捜索の手を外にも広げましょう」
自信だけは人一倍な探偵がただのほら吹きと気がついたのか、溺れかけてい
るところに差し出された藁が何の役にも立たないものだと気づいたのか、ファ
ブリー氏は執事に捜索隊をだす手配を申し付けた。
「……父さん、昔話だと魔女はダウニーの森に住んでるんですよね?」
「レノア。あれは昔話だ。それに魔女は騎士に殺されて老木に姿を変えてしま
ったんだろう?」
「馬車なら30分あればいける。あの森はそれほど広くないし…。町は捜索隊
に任せるとして、僕らで魔女が本当にいるのか確かめてきます」
どうやらレノア少年は、本当に魔女が妹を攫ったと考え始めたようだ。
確かに、実際にダウニーの森にはまるで人が姿を変えたような老木がある、
と言われている。
この中に犯人がいると考え込むよりは建設的かもしれないが、到底考えられ
ない話だった。
「ジュリアさん!手を貸してはくれませんか?」
「何故、私が…」
名指しで頼まれた黒髪の女――ジュリアが数歩後ずさりした。
しかし、レノアは彼女にすがりつくと奥で交渉をはじめる。
「報酬は…で」
「そんなに私は安くない」
「じゃあ…」
「……」
身振り手振りで行われた話し合いは決着がついたのか、この服が汚れない程
度の働きしかしない、と宣言しつつもジュリアはしぶしぶ頷いた。
しかし、聞こえた単語は「三食昼寝つき」やら「上等な客室で」やらだった
ので、一体この女ハンターにどれだけの報酬が支払われたのかは謎のままだっ
た。
「では、私もお供しましょう!これでも私は騎士の称号をもっていますから
ね。魔女が現れても我が剣の錆びにしてやりましょう」
話を無視され静かだった男がぱっと顔を輝かせ、ジュリアにウインクした。
ジュリアはそれを避けるように顔を横にそらせる。
というか、コイツは誰なんだ。
騎士と名乗るということは他国の人間のはずだが…。
「では、最初に言い出した、わたくしもお供しましょう」
エンプティがそろそろと手を上げる。
パーティーが終わってから、やけにこの男が積極的だ。
「では、私は失礼させて頂きますよ。お役に立てず申し訳ありません。ファブ
リーさん」
「そう思うのならば、お前もこればいいじゃないか?」
逃げる俺を引き止めるようにジュリアが提案してきた。
「おや、嬉しいですね。貴女の様な美しい人に気に入っていただけるとは」
「常識的な人間が少なかったら、非常識が常識になってしまうじゃないか」
ジュリアの顔はしごく真面目だった。
PC :アーサー ジュリア
NPC:ファブリーズ(マイル ジョイ レノア) エンプティ
場所:モルフ地方東部 ― ファブリー邸
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「お任せください。このぼくが必ず、事件の真相を暴いてさしあげましょ
う!」
男の自信に満ち溢れた声が会場にむなしく響いた。
(まぁ。頑張ってくれ。今日一日くらいは付き合ってやるさ)
俺はワイングラスを傾け、中身を一気に飲み干した。
ここでファブリー氏に恩を売っておけば、モルフ東部での仕事もしやすくな
る。
今日だって、そのためだけにわざわざ遠くからやってきたのだ。
「というわけで、次はアリバイです!!皆さん、チャーミー嬢が姿を消す前後
のアリバイを証言してください」
探偵小説のシナリオでも読んでいるような進行状況に人々の空気は更に白け
ていく。
そんなもの不必要だ。
何故なら、全員がその時この場にいたのだから。
「これは私の推測に過ぎやせんが……」
集団の一人が、かの迷探偵と同じ台詞を口に出した時、またふざけた役者が
一人増えたのかとげんなりしたが、新しい発言者のエンプティは意外にまとも
な事を口にした。
「もし、お嬢さんが魔女に攫われたとするならばもうこの屋敷にはいないと思
うのですが」
「いや、犯人はきっとこの中に…」
だって、犯人だからか?
「そ、そうですね。はやり捜索の手を外にも広げましょう」
自信だけは人一倍な探偵がただのほら吹きと気がついたのか、溺れかけてい
るところに差し出された藁が何の役にも立たないものだと気づいたのか、ファ
ブリー氏は執事に捜索隊をだす手配を申し付けた。
「……父さん、昔話だと魔女はダウニーの森に住んでるんですよね?」
「レノア。あれは昔話だ。それに魔女は騎士に殺されて老木に姿を変えてしま
ったんだろう?」
「馬車なら30分あればいける。あの森はそれほど広くないし…。町は捜索隊
に任せるとして、僕らで魔女が本当にいるのか確かめてきます」
どうやらレノア少年は、本当に魔女が妹を攫ったと考え始めたようだ。
確かに、実際にダウニーの森にはまるで人が姿を変えたような老木がある、
と言われている。
この中に犯人がいると考え込むよりは建設的かもしれないが、到底考えられ
ない話だった。
「ジュリアさん!手を貸してはくれませんか?」
「何故、私が…」
名指しで頼まれた黒髪の女――ジュリアが数歩後ずさりした。
しかし、レノアは彼女にすがりつくと奥で交渉をはじめる。
「報酬は…で」
「そんなに私は安くない」
「じゃあ…」
「……」
身振り手振りで行われた話し合いは決着がついたのか、この服が汚れない程
度の働きしかしない、と宣言しつつもジュリアはしぶしぶ頷いた。
しかし、聞こえた単語は「三食昼寝つき」やら「上等な客室で」やらだった
ので、一体この女ハンターにどれだけの報酬が支払われたのかは謎のままだっ
た。
「では、私もお供しましょう!これでも私は騎士の称号をもっていますから
ね。魔女が現れても我が剣の錆びにしてやりましょう」
話を無視され静かだった男がぱっと顔を輝かせ、ジュリアにウインクした。
ジュリアはそれを避けるように顔を横にそらせる。
というか、コイツは誰なんだ。
騎士と名乗るということは他国の人間のはずだが…。
「では、最初に言い出した、わたくしもお供しましょう」
エンプティがそろそろと手を上げる。
パーティーが終わってから、やけにこの男が積極的だ。
「では、私は失礼させて頂きますよ。お役に立てず申し訳ありません。ファブ
リーさん」
「そう思うのならば、お前もこればいいじゃないか?」
逃げる俺を引き止めるようにジュリアが提案してきた。
「おや、嬉しいですね。貴女の様な美しい人に気に入っていただけるとは」
「常識的な人間が少なかったら、非常識が常識になってしまうじゃないか」
ジュリアの顔はしごく真面目だった。
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キャスト:ジュリア アーサー
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
--------------------------------------------------------------------------
がらがらと、あまり揺れない馬車で悪い道を失踪することしばらく。
降り立った捜索隊の目の前に立ち塞がるのは、巨大な木々の影だった。
ランタンの灯りが陰影を濃く幹を照らす。“ダウニーの森”とだけ書かれた朽ちかけ
の立て札の横にぽっかりと口を開けた森道の入り口は深い暗黒。
招くように、拒むように、森はざわざわと風の音を響かせている。
ほぅ、どこかでふくろうの声。
馬車の中で喋り続けていた自称騎士――名前は聞いたような気もするが忘れた――が
怖気づいたように口を噤んでいる。ジュリアはそれを横目に、口の中でぶつぶつと小声
の呪文を唱えた。ほんのりと、周囲の空間が光を帯びる。
この場にいるのは、レノア、自称騎士、金髪の男、ジュリア――それに、ファブリー
家の使用人が二人、灯りを持って所在なさげに立っている。
レノアはうち一人に馬車の番を任せ、もう一人には自分達に同行するよう言った。ど
ちらも浮かない顔をしている。こんな真夜中に森へ入るのは嫌だろうし、一人で待ち続
けるのは更に嫌だろう。それでも仕事だからか、或いは己の恐怖を鑑みないほどお嬢さ
んを心配しているのか、彼らは「わかりました」と頷いた。
レノアは「光よ、我が手に集い」云々と難しい呪文で、丸い光の珠を頭上に浮かべた。
灯りが多すぎる。いや、このくらいしないと不安なのか。彼の表情は強張っている。
金髪の男だけは何とも言えない表情で森の入り口を眺めているが、怯えているように
は見えなかった。いや、勢いで「来い」と言ったが、まさか本当に来るとは思わなかっ
た。身の程知らずなのだろうか、それとも、少しは頼りにしてもいいのだろうか。
思いながら見ていると、男は口を開いた。
「ジュリアさん、夜歩きは慣れていますか?」
「近眼のせいか鳥目でね」
あまり噛み合わない返事をして、ポケットから眼鏡を取り出し、かける。
具合を確かめるために夜空を見上げる。森が蠢く輪郭がくっきりと判別できた。星星
の光点がいつもより多く見つけられる。
これなら大丈夫かと視線を降ろし、改めて周囲を見ると、普段は意識していなくても
視界はだいぶぼやけていたらしい。鮮明に見えた人間の顔は、寸前までと随分違ってい
るように思えた。
「なかなかの美形じゃないか」
「……お褒めに預かり至極光栄」
男は茶化すような口調で切り返してきた。ジュリアはそれこそ貴族か何かのような鷹
揚な態度で頷いて、それから周囲を見渡した。当たり前だが、暗い。夜の森は不気味だ。
なるほど魔女の一人くらいは住んでいそうだと今更ながらに納得して、ジュリアは一
人、小さく頷いた。
「い、行きましょう!」
自称騎士が、あまり勇ましくない声を上げる。恐る恐るといった様子で森へ近づく彼
の後ろを、意外と平静に見えるレノアが続く。使用人の掲げたランタンが動くに従って
影が揺らめく様は、悪魔が踊っているように見えないこともない。
「ジュリアさん、テイラックさんも早く」
「行きましょうか」
「そうだな」
テイラックと呼ばれた男を追い越して、光を連れて三人に続く。
後ろから小声で何かをぼやくような声が聞こえたが、何を言ったのかは聞こえなかっ
たし興味もなかった。
☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆
「魔女というのはですね、悪魔に接吻し魔力を得た邪悪な女で、三日月の晩に、神の目
が届かぬ森の奥に集って生贄の儀式を――」
自称騎士が喋り続けている。夜の森が恐いのはわからないでもないが、もう少し静か
にしてくれないだろうか。最初の内は相槌やら反論やらをしていたレノア少年も、話が
堂々巡りし始めると口を噤んでしまった。今では、返事をする者もいないのに喋り続け
る一人の声が白々しい。ほぅ、どこかでふくろうが鳴いた。
びょうと吹き抜ける風の音。そのたびに言葉が途切れ、また再開する。おなじ言葉を
繰り返すのは、怯えのあまりかも知れない。自称騎士はまた言う。魔女とは――
ああ、私も今は魔女と呼ばれている。
二つ名を名乗ったことはない。気づいたら呼ばれていた。西の魔女。誰が考えたのだ
か知らないが、安易な名だ。それなのに的を射ている。西の。あの亡国の、魔法使い。
あの麗しき国で私は――今は、そんなこと関係ない。この行軍は魔女狩りだろうか。
「おい、そこの騎士」
「な……何です?」
返事の声は裏返りかけていた。反応があったこと自体が予想外だったらしい。ずっと
一人で喋り続けているつもりだったのだろうか。思いながらもジュリアは彼を黙らせる
ために口を開いた。
「あまり魔女を侮辱しない方がいいぞ。この森は魔女の領域なのだろう?
調子に乗りすぎて呪いにでもかけられたらどうするんだ」
ジュリアは当てつけがましく言ってため息をついた。
ほぅ、近くでふくろうが鳴いた。翼のはばたき、かわいた音。
自称騎士が「…う、」と、呻き声を発した。
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
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がらがらと、あまり揺れない馬車で悪い道を失踪することしばらく。
降り立った捜索隊の目の前に立ち塞がるのは、巨大な木々の影だった。
ランタンの灯りが陰影を濃く幹を照らす。“ダウニーの森”とだけ書かれた朽ちかけ
の立て札の横にぽっかりと口を開けた森道の入り口は深い暗黒。
招くように、拒むように、森はざわざわと風の音を響かせている。
ほぅ、どこかでふくろうの声。
馬車の中で喋り続けていた自称騎士――名前は聞いたような気もするが忘れた――が
怖気づいたように口を噤んでいる。ジュリアはそれを横目に、口の中でぶつぶつと小声
の呪文を唱えた。ほんのりと、周囲の空間が光を帯びる。
この場にいるのは、レノア、自称騎士、金髪の男、ジュリア――それに、ファブリー
家の使用人が二人、灯りを持って所在なさげに立っている。
レノアはうち一人に馬車の番を任せ、もう一人には自分達に同行するよう言った。ど
ちらも浮かない顔をしている。こんな真夜中に森へ入るのは嫌だろうし、一人で待ち続
けるのは更に嫌だろう。それでも仕事だからか、或いは己の恐怖を鑑みないほどお嬢さ
んを心配しているのか、彼らは「わかりました」と頷いた。
レノアは「光よ、我が手に集い」云々と難しい呪文で、丸い光の珠を頭上に浮かべた。
灯りが多すぎる。いや、このくらいしないと不安なのか。彼の表情は強張っている。
金髪の男だけは何とも言えない表情で森の入り口を眺めているが、怯えているように
は見えなかった。いや、勢いで「来い」と言ったが、まさか本当に来るとは思わなかっ
た。身の程知らずなのだろうか、それとも、少しは頼りにしてもいいのだろうか。
思いながら見ていると、男は口を開いた。
「ジュリアさん、夜歩きは慣れていますか?」
「近眼のせいか鳥目でね」
あまり噛み合わない返事をして、ポケットから眼鏡を取り出し、かける。
具合を確かめるために夜空を見上げる。森が蠢く輪郭がくっきりと判別できた。星星
の光点がいつもより多く見つけられる。
これなら大丈夫かと視線を降ろし、改めて周囲を見ると、普段は意識していなくても
視界はだいぶぼやけていたらしい。鮮明に見えた人間の顔は、寸前までと随分違ってい
るように思えた。
「なかなかの美形じゃないか」
「……お褒めに預かり至極光栄」
男は茶化すような口調で切り返してきた。ジュリアはそれこそ貴族か何かのような鷹
揚な態度で頷いて、それから周囲を見渡した。当たり前だが、暗い。夜の森は不気味だ。
なるほど魔女の一人くらいは住んでいそうだと今更ながらに納得して、ジュリアは一
人、小さく頷いた。
「い、行きましょう!」
自称騎士が、あまり勇ましくない声を上げる。恐る恐るといった様子で森へ近づく彼
の後ろを、意外と平静に見えるレノアが続く。使用人の掲げたランタンが動くに従って
影が揺らめく様は、悪魔が踊っているように見えないこともない。
「ジュリアさん、テイラックさんも早く」
「行きましょうか」
「そうだな」
テイラックと呼ばれた男を追い越して、光を連れて三人に続く。
後ろから小声で何かをぼやくような声が聞こえたが、何を言ったのかは聞こえなかっ
たし興味もなかった。
☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆
「魔女というのはですね、悪魔に接吻し魔力を得た邪悪な女で、三日月の晩に、神の目
が届かぬ森の奥に集って生贄の儀式を――」
自称騎士が喋り続けている。夜の森が恐いのはわからないでもないが、もう少し静か
にしてくれないだろうか。最初の内は相槌やら反論やらをしていたレノア少年も、話が
堂々巡りし始めると口を噤んでしまった。今では、返事をする者もいないのに喋り続け
る一人の声が白々しい。ほぅ、どこかでふくろうが鳴いた。
びょうと吹き抜ける風の音。そのたびに言葉が途切れ、また再開する。おなじ言葉を
繰り返すのは、怯えのあまりかも知れない。自称騎士はまた言う。魔女とは――
ああ、私も今は魔女と呼ばれている。
二つ名を名乗ったことはない。気づいたら呼ばれていた。西の魔女。誰が考えたのだ
か知らないが、安易な名だ。それなのに的を射ている。西の。あの亡国の、魔法使い。
あの麗しき国で私は――今は、そんなこと関係ない。この行軍は魔女狩りだろうか。
「おい、そこの騎士」
「な……何です?」
返事の声は裏返りかけていた。反応があったこと自体が予想外だったらしい。ずっと
一人で喋り続けているつもりだったのだろうか。思いながらもジュリアは彼を黙らせる
ために口を開いた。
「あまり魔女を侮辱しない方がいいぞ。この森は魔女の領域なのだろう?
調子に乗りすぎて呪いにでもかけられたらどうするんだ」
ジュリアは当てつけがましく言ってため息をついた。
ほぅ、近くでふくろうが鳴いた。翼のはばたき、かわいた音。
自称騎士が「…う、」と、呻き声を発した。
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PC :アーサー ジュリア
NPC:レノア 自称騎士 エンプティ
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
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夜空は晴れ渡り、月光が大地を明るく照らしていたが、その光もけして森の中まで
は届きはしなかった。
レノアとジュリアが作り出した魔法の光と、従者の持つランタンが闇へと続く道を
照らし、このダウニーの森の光と闇をわけていた。
なるほど、確かに魔女の住む家の一つや二つ見つけられそうだ。
俺はこれまで魔女――魔法を使う人間と殆ど関わったことが無かった。
仮に魔女を見つけたとしてどうチャーミーを取り戻せばいいのか見当もつかなかっ
たが、こちらにはレノアとジュリアという魔法使いが二人もいるのだ。その辺りは心
配ないだろう。
ふとジュリアの視線に気がつき、俺は尋ねた。
「ジュリアさん、夜歩きは慣れていますか?」
「近眼のせいか鳥目でね」
ジュリアは軽くあしらう様に答えると、上着のポケットを探り出した。
どうも扱い辛い女だ、俺はそう思った。
格好こそ高級品を身に纏い、慣れた仕草でドレスの裾をさばいていたが、口調と態
度は男のようだった。
何より男に全く興味がなさそうなのがいけない。
「やっぱり無駄足だったかな…」
ぼそりと呟いて彼らのあとを追う。
☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆
10分ほど歩いただろうか、ダウニーの森はそれほど大きくは無いと聞いたが、森
は暗さを増すばかりで目的の場所も、出口も未だ見つかりはしなかった。
暗闇の中では耳ばかりが敏感になるのか、梟の鳴き声や小枝を踏みしめる音がする
たびに誰かしらの身体が飛び上がった。
「ご安心ください!獣も魔物も我が剣の露としてくれましょう!」
一人話し続ける騎士の声も震えていたが、言葉だけは勇ましかった。
この数時間で我々は彼の事について数年来の友人のように詳しくなっていた。
ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ―――29歳。
とある王家に使える騎士だという。
しかし、肝心の国の名前を言わないのは彼が国王から特命を受け、その任務の最中
だかららしい。
単なる狂言回しとも考えられたが、腰に下げた剣だけは本物だった。
何故ファブリー氏はこの男をパーティなどに呼んだのだろうか。
ざっ。
その時、茂みの影から小さな黒い影が躍り出た。
人々に緊張が走り、ヴァンが剣に手を伸ばしたが、震えた手は剣をつかむ事無く泳
いでいた。
「ニャーーーーーォ」
なんだ、猫か。
闇夜に光る二つの目に、ほっと安堵の息を吐き、レノアが光源で猫をかざしその姿
を照らす。
「ひっ!」
小さく悲鳴をあげたのが誰だったのかは分からない。
黒い猫の肢体の上に乗った頭は、金髪にふっくらした頬の愛らしい少年の顔だっ
た。
もう一声鳴いて、少年の顔をした猫は使用人の足元にまとわりついた。
「うわぁあああ!!」
「何処に行くんだ!?ジャック!?」
使用人――ジャックが恐怖のあまり駆け出した。
レノアが慌てて後を追う。
猫は可愛らしい男の子の声でたずねた。
「おじさんたち、だあれ?何しにきたの?」
「おのれ、化け物めっ。魔女の使いだな!」
「落ち着いてください、騎士どの。相手は子供じゃないか」
俺はヴァンを制しながら後ろを振り返った。
ジャックとレノアの姿は見えなかった。
「子供もなにも、この姿では関係無いでしょう!!」
唾が飛ぶほど近くで怒鳴り散らすヴァンから顔をそらし、ジュリアを見たが、彼女
はお手並み拝見とばかりに手を後ろで組んでにやにやしていた。
「オーケー。…いいでしょう。まずは私に任せてください」
俺は膝をついて猫に尋ねた。
ジュリアの光のお陰で、その異様な姿がはっきりと見えた。
「私たちはバルメ婆さんに会いに来たんだ。君は彼女が何処にいるか知っているかね
?」
「知ってるよ」
「そこにはチャーミーという女の子もいるのかい?」
「いるよ。最近やってきた子だよ」
素直に答える猫
「じゃあ」
「ねぇ。そのおじさんは騎士さまなの?」
「む、おじさんとは失礼な。私の名はヴァン・ジョルジュ・エテツィオ…」
「おいっ!やめろ」
ジュリアが慌てて止めようとしたが遅かった。
「国王陛下に仕えるれっきとした騎士だ」
高らかにヴァンが名乗ると同時に、木々のざわめきが一層激しくなった。
魔女は騎士に殺され老木に姿を変えた――――。
魔女が我々を歓迎するはずなどなかった。
PC :アーサー ジュリア
NPC:レノア 自称騎士 エンプティ
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
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夜空は晴れ渡り、月光が大地を明るく照らしていたが、その光もけして森の中まで
は届きはしなかった。
レノアとジュリアが作り出した魔法の光と、従者の持つランタンが闇へと続く道を
照らし、このダウニーの森の光と闇をわけていた。
なるほど、確かに魔女の住む家の一つや二つ見つけられそうだ。
俺はこれまで魔女――魔法を使う人間と殆ど関わったことが無かった。
仮に魔女を見つけたとしてどうチャーミーを取り戻せばいいのか見当もつかなかっ
たが、こちらにはレノアとジュリアという魔法使いが二人もいるのだ。その辺りは心
配ないだろう。
ふとジュリアの視線に気がつき、俺は尋ねた。
「ジュリアさん、夜歩きは慣れていますか?」
「近眼のせいか鳥目でね」
ジュリアは軽くあしらう様に答えると、上着のポケットを探り出した。
どうも扱い辛い女だ、俺はそう思った。
格好こそ高級品を身に纏い、慣れた仕草でドレスの裾をさばいていたが、口調と態
度は男のようだった。
何より男に全く興味がなさそうなのがいけない。
「やっぱり無駄足だったかな…」
ぼそりと呟いて彼らのあとを追う。
☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆
10分ほど歩いただろうか、ダウニーの森はそれほど大きくは無いと聞いたが、森
は暗さを増すばかりで目的の場所も、出口も未だ見つかりはしなかった。
暗闇の中では耳ばかりが敏感になるのか、梟の鳴き声や小枝を踏みしめる音がする
たびに誰かしらの身体が飛び上がった。
「ご安心ください!獣も魔物も我が剣の露としてくれましょう!」
一人話し続ける騎士の声も震えていたが、言葉だけは勇ましかった。
この数時間で我々は彼の事について数年来の友人のように詳しくなっていた。
ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ―――29歳。
とある王家に使える騎士だという。
しかし、肝心の国の名前を言わないのは彼が国王から特命を受け、その任務の最中
だかららしい。
単なる狂言回しとも考えられたが、腰に下げた剣だけは本物だった。
何故ファブリー氏はこの男をパーティなどに呼んだのだろうか。
ざっ。
その時、茂みの影から小さな黒い影が躍り出た。
人々に緊張が走り、ヴァンが剣に手を伸ばしたが、震えた手は剣をつかむ事無く泳
いでいた。
「ニャーーーーーォ」
なんだ、猫か。
闇夜に光る二つの目に、ほっと安堵の息を吐き、レノアが光源で猫をかざしその姿
を照らす。
「ひっ!」
小さく悲鳴をあげたのが誰だったのかは分からない。
黒い猫の肢体の上に乗った頭は、金髪にふっくらした頬の愛らしい少年の顔だっ
た。
もう一声鳴いて、少年の顔をした猫は使用人の足元にまとわりついた。
「うわぁあああ!!」
「何処に行くんだ!?ジャック!?」
使用人――ジャックが恐怖のあまり駆け出した。
レノアが慌てて後を追う。
猫は可愛らしい男の子の声でたずねた。
「おじさんたち、だあれ?何しにきたの?」
「おのれ、化け物めっ。魔女の使いだな!」
「落ち着いてください、騎士どの。相手は子供じゃないか」
俺はヴァンを制しながら後ろを振り返った。
ジャックとレノアの姿は見えなかった。
「子供もなにも、この姿では関係無いでしょう!!」
唾が飛ぶほど近くで怒鳴り散らすヴァンから顔をそらし、ジュリアを見たが、彼女
はお手並み拝見とばかりに手を後ろで組んでにやにやしていた。
「オーケー。…いいでしょう。まずは私に任せてください」
俺は膝をついて猫に尋ねた。
ジュリアの光のお陰で、その異様な姿がはっきりと見えた。
「私たちはバルメ婆さんに会いに来たんだ。君は彼女が何処にいるか知っているかね
?」
「知ってるよ」
「そこにはチャーミーという女の子もいるのかい?」
「いるよ。最近やってきた子だよ」
素直に答える猫
「じゃあ」
「ねぇ。そのおじさんは騎士さまなの?」
「む、おじさんとは失礼な。私の名はヴァン・ジョルジュ・エテツィオ…」
「おいっ!やめろ」
ジュリアが慌てて止めようとしたが遅かった。
「国王陛下に仕えるれっきとした騎士だ」
高らかにヴァンが名乗ると同時に、木々のざわめきが一層激しくなった。
魔女は騎士に殺され老木に姿を変えた――――。
魔女が我々を歓迎するはずなどなかった。
キャスト:ジュリア アーサー
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
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梢のざめきは殆ど轟音となって一行を打ち据えた。
誰かが小さな悲鳴を上げる。限界まで張り詰めていた緊張の糸がついに耐えかねて引
き千切れたが、その先にあったのもやはり緊張でしかなかった。ただし、空気は一瞬前
より遥かに濃い脅怖を内包し、痛々しいまでに鋭いものと化している。
「みんな、聞いたね?」
少年猫が喉の奥でくるくると笑った。
「騎士様が来たよ。再び魔女を斃しに来たんだ――剣は研いだ? 鎧は磨いた?
ダウニーの森へようこそ、魔女の領域へようこそ。僕らはあなたを歓迎するよ」
金の巻毛に囲われた頬。無垢な瞳が細く歪む。
無垢な笑顔で猫は続ける。
「老木の魔女は森の奥にいる。いつだって客人を待っている。
ねじくれた根を踏み越え、茨の薮を抜けて、辿り着けるものなら辿り着けばいい」
「――!」
観察に興じるつもりだったジュリアは、そこまでを聞くと自称騎士の腕を乱暴に掴ん
だ。驚いて振り返る彼が抗議か何か口を開くよりも早く、半ば怒鳴りつけるように言う。
「殺せ、魔法だ!」
「…何」
「早く! その剣が飾りでないなら」
自称騎士は剣に手をかけ、抜き放つかと思えたが、そのまま躊躇の素振りを見せた。
ジュリアが警告ではなく己が直接妨害すべきと気づいた時には手遅れだった。
「けれども心さなければいけない。
魔女の森は、決して誰も逃しはしないのだから」
猫が言い終えると共に、再び森がざわめいた――違う。蠢いた。
大木がぎしぎしと音を立てながら枝を伸ばし、隣の木と絡み合う。
どこかで響いた絶叫じみた声は、はぐれた使用人のものだろうか。
テイラックが無言でジュリアを庇うように動いた。ジュリアは思わず苦笑する。
剣の柄を握った自称騎士は、二人の前で猫と睨み合っている。その横顔は焦燥感に引
き攣っていた。
「……ジュリアさん、これは一体?」
「想像の通りだ。お前の頭はそう悪くないだろう」
「森そのものが我々に襲いかかろうとしているのだとしたら、絶望的ですね」
「まったくだ」
猫が、にゃあおと、今度は猫の声で鳴いた。
騎士がびくりと身を震わせたその隙に、小さな影はするりと闇へ滑り込む。
「あっ」
「追うな!」
テイラック――確か、アーサー・テイラック、彼が鋭い声を発した。騎士は思わず踏
み出しかけていた足を止めたが、本気で深追いしようとしていたわけではなさそうだっ
た。騎士は首を横に振り、手は剣にかけたまま周囲を睨んだ。
「……襲ってくる様子はありませんが」
木々はざわめいている。行く手の獣道は続いている。
振り返れば、帰り道はなくなっていた。
ぎしぎしと音がする。景色そのものが動いているのを一瞬だけ眩暈と錯覚した。
ゆっくりと。植物が、根を地面から露出させて、這いずるように動いている。じいっ
と見つめてようやく気づくほどわずかな動きではある。それでも動けば方角を見失うに
違いない。
行く手の獣道だけ、何事もないように続いている。
「誘われているのか」
「……」
ジュリアはため息を吐いた。騎士の失策を責める気になれないのは、元々何の期待も
していなかったからだ。巻き込まれた面倒ごとが、更に面倒になってしまったが、この
森に訪れた時から予想していた範囲内。
深夜、魔女の森に赴くというのに、悪いことが何も起こらない方が不気味ではないか。
それでも面倒は避けたいが。あの依頼料では正直、ワリに合わない。合わないが――
ああ、そうか。“仕方なく巻き込まれる”状況を望んでいたのかも知れない。
だけどやはり面倒は嫌だ。口元だけを吊り上げて呟く。
「“茨”よ、お前だけがあの光景を見知っている。
滅亡の残滓、虚構たる尖塔。王国の亡骸を私に見せてくれ」
足元で、ぼこりと土が盛り上がり、それきり何の変化も起こらなかった。
何の意図もない干渉のためだけの呪文。反応が悪いことを確かめて、この森で、この
魔法は使えないと覚った。
「……先へ行きましょう」
と言ったのはどちらだったか。
ジュリアは顔を上げて頷いた。
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
--------------------------------------------------------------------------
梢のざめきは殆ど轟音となって一行を打ち据えた。
誰かが小さな悲鳴を上げる。限界まで張り詰めていた緊張の糸がついに耐えかねて引
き千切れたが、その先にあったのもやはり緊張でしかなかった。ただし、空気は一瞬前
より遥かに濃い脅怖を内包し、痛々しいまでに鋭いものと化している。
「みんな、聞いたね?」
少年猫が喉の奥でくるくると笑った。
「騎士様が来たよ。再び魔女を斃しに来たんだ――剣は研いだ? 鎧は磨いた?
ダウニーの森へようこそ、魔女の領域へようこそ。僕らはあなたを歓迎するよ」
金の巻毛に囲われた頬。無垢な瞳が細く歪む。
無垢な笑顔で猫は続ける。
「老木の魔女は森の奥にいる。いつだって客人を待っている。
ねじくれた根を踏み越え、茨の薮を抜けて、辿り着けるものなら辿り着けばいい」
「――!」
観察に興じるつもりだったジュリアは、そこまでを聞くと自称騎士の腕を乱暴に掴ん
だ。驚いて振り返る彼が抗議か何か口を開くよりも早く、半ば怒鳴りつけるように言う。
「殺せ、魔法だ!」
「…何」
「早く! その剣が飾りでないなら」
自称騎士は剣に手をかけ、抜き放つかと思えたが、そのまま躊躇の素振りを見せた。
ジュリアが警告ではなく己が直接妨害すべきと気づいた時には手遅れだった。
「けれども心さなければいけない。
魔女の森は、決して誰も逃しはしないのだから」
猫が言い終えると共に、再び森がざわめいた――違う。蠢いた。
大木がぎしぎしと音を立てながら枝を伸ばし、隣の木と絡み合う。
どこかで響いた絶叫じみた声は、はぐれた使用人のものだろうか。
テイラックが無言でジュリアを庇うように動いた。ジュリアは思わず苦笑する。
剣の柄を握った自称騎士は、二人の前で猫と睨み合っている。その横顔は焦燥感に引
き攣っていた。
「……ジュリアさん、これは一体?」
「想像の通りだ。お前の頭はそう悪くないだろう」
「森そのものが我々に襲いかかろうとしているのだとしたら、絶望的ですね」
「まったくだ」
猫が、にゃあおと、今度は猫の声で鳴いた。
騎士がびくりと身を震わせたその隙に、小さな影はするりと闇へ滑り込む。
「あっ」
「追うな!」
テイラック――確か、アーサー・テイラック、彼が鋭い声を発した。騎士は思わず踏
み出しかけていた足を止めたが、本気で深追いしようとしていたわけではなさそうだっ
た。騎士は首を横に振り、手は剣にかけたまま周囲を睨んだ。
「……襲ってくる様子はありませんが」
木々はざわめいている。行く手の獣道は続いている。
振り返れば、帰り道はなくなっていた。
ぎしぎしと音がする。景色そのものが動いているのを一瞬だけ眩暈と錯覚した。
ゆっくりと。植物が、根を地面から露出させて、這いずるように動いている。じいっ
と見つめてようやく気づくほどわずかな動きではある。それでも動けば方角を見失うに
違いない。
行く手の獣道だけ、何事もないように続いている。
「誘われているのか」
「……」
ジュリアはため息を吐いた。騎士の失策を責める気になれないのは、元々何の期待も
していなかったからだ。巻き込まれた面倒ごとが、更に面倒になってしまったが、この
森に訪れた時から予想していた範囲内。
深夜、魔女の森に赴くというのに、悪いことが何も起こらない方が不気味ではないか。
それでも面倒は避けたいが。あの依頼料では正直、ワリに合わない。合わないが――
ああ、そうか。“仕方なく巻き込まれる”状況を望んでいたのかも知れない。
だけどやはり面倒は嫌だ。口元だけを吊り上げて呟く。
「“茨”よ、お前だけがあの光景を見知っている。
滅亡の残滓、虚構たる尖塔。王国の亡骸を私に見せてくれ」
足元で、ぼこりと土が盛り上がり、それきり何の変化も起こらなかった。
何の意図もない干渉のためだけの呪文。反応が悪いことを確かめて、この森で、この
魔法は使えないと覚った。
「……先へ行きましょう」
と言ったのはどちらだったか。
ジュリアは顔を上げて頷いた。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士(ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ)
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
あの時、ジュリアの言葉どおりヴァンが剣を振り下ろしていれば、事態は違っ て
いたのだろか?
いや、たいして変わりはしないだろう。
俺たちが魔女の住処に足を踏み入れ、その眠りを妨げようとしていることには 変
わりはない。
「彼らは・・・ファブリー家の者たちは大丈夫でしょうか」
「そんな事より自分の心配をしろ」
来た道を塞がれ、不安げに後ろを振り返ったヴァンに、ジュリアがそっけない 言
葉を返した。
「しかし…お嬢さん。あれはファブリー家の娘同様、魔女に魔法をかけられた子 供
なのでしょう?」
「かもな」
「ぼくは、女子供を斬る剣など持っていません」
先ほど躊躇した理由はそこなのだ。と、ヴァンは殊更に主張するように言った 。
しかし、今までの狼狽ぶりを見る限り、単に怖じけづいたとしか思えない。
ジュリアも馬鹿にするような口調で尋ねる。
「ならばバルメも斬れないというのか?女で、しかも老人だ」
「魔女は邪悪な存在です」
なるほど。と小さくジュリアは呟くと、暗闇の向こうを見据えた。
彼女の視線を追って俺もその先を見つめる。
巨大な翼をもった二つの『何か』が、こちらに目掛けて突進してきた。
「ようこそ魔女の森へ」
「ようこそバルメの森へ」
それは幼い少女と少年の顔を持った二羽の梟だった。
双子なのだろうか、同じ赤い髪と鼻のそばかすをもった怪物は急かすように俺 た
ちの頭上を旋回した。
「落としましょうか?」
未だ剣を抜く決心のつかないヴァンを尻目に、俺はジュリアに尋ねた。
この異様な森の中で、アテになるのは今となってはこの女だけだ。
「わっ」
「騎士殿!?」
ジュリアが答えるより早く、後ろでヴァンが声を上げた。
その足に太い木の根が巻きついている。
「ほらほら急いで」
「道が閉じてしまうよ!」
俺はヴァンの剣を引き抜くと、彼の足の下に振り下ろした。
切れ味だけはやたらいい剣は、まるで人の腕のようにヴァンに絡みついた根を
あっさりと切断した。
その剣を再び持ち主に押し付けると誰ともなしに駆け出す。
道は一つだ。
迷うことは無い。
途中、何度も頭の上を飛び回り邪魔をする梟たちに、ジュリアが何かを投げつ け
た。
ボンっ!
破裂音と共に、少年梟が墜落した。
「今のは?」
「クッキーだ」
「なるほど・・・」
――もしもまた、魔女の使い魔が現れたら、それで難を逃れてください。
そういって渡されたクッキーが、俺の懐の中にもあった。
▽ ▽ ▽
細い、細い道をひたすらに走った。
幾度か木の根や使い魔たちの妨害にあったが、命を奪おうとするほどの殺意は無
かった。
どうやら魔女は今ここで俺たちを殺すつもりは無いようだ。
森に駆り立てられた俺たちの足が、疲労で鈍くなる頃に、ようやく終わりが見 え
た。
それは、森の中のほんの小さな平地だった。
そこで俺たちを出迎えたのは幼い子供たちの歌声。
「深い深い森の奥 村人に追われたバルメ婆さん」
「話し相手は 黒い猫」
「灰色の鼠に」
「双子の梟」
その中にはチャーミィの姿も在った。
彼女は、横たわるレノアと従者の姿を呆然と見下ろしていた。
恐らく彼らはバルメの使い魔になるには成長しすぎていたのだろう。
「ようこそお客人」
子供たちの甲高い声に、たった一つしわがれた声が混じる。
他の森の木々を避けるように、孤独に生えた一本の老木。
木の表面が深い皺を刻み、老婆の顔を作った。
PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士(ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ)
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
あの時、ジュリアの言葉どおりヴァンが剣を振り下ろしていれば、事態は違っ て
いたのだろか?
いや、たいして変わりはしないだろう。
俺たちが魔女の住処に足を踏み入れ、その眠りを妨げようとしていることには 変
わりはない。
「彼らは・・・ファブリー家の者たちは大丈夫でしょうか」
「そんな事より自分の心配をしろ」
来た道を塞がれ、不安げに後ろを振り返ったヴァンに、ジュリアがそっけない 言
葉を返した。
「しかし…お嬢さん。あれはファブリー家の娘同様、魔女に魔法をかけられた子 供
なのでしょう?」
「かもな」
「ぼくは、女子供を斬る剣など持っていません」
先ほど躊躇した理由はそこなのだ。と、ヴァンは殊更に主張するように言った 。
しかし、今までの狼狽ぶりを見る限り、単に怖じけづいたとしか思えない。
ジュリアも馬鹿にするような口調で尋ねる。
「ならばバルメも斬れないというのか?女で、しかも老人だ」
「魔女は邪悪な存在です」
なるほど。と小さくジュリアは呟くと、暗闇の向こうを見据えた。
彼女の視線を追って俺もその先を見つめる。
巨大な翼をもった二つの『何か』が、こちらに目掛けて突進してきた。
「ようこそ魔女の森へ」
「ようこそバルメの森へ」
それは幼い少女と少年の顔を持った二羽の梟だった。
双子なのだろうか、同じ赤い髪と鼻のそばかすをもった怪物は急かすように俺 た
ちの頭上を旋回した。
「落としましょうか?」
未だ剣を抜く決心のつかないヴァンを尻目に、俺はジュリアに尋ねた。
この異様な森の中で、アテになるのは今となってはこの女だけだ。
「わっ」
「騎士殿!?」
ジュリアが答えるより早く、後ろでヴァンが声を上げた。
その足に太い木の根が巻きついている。
「ほらほら急いで」
「道が閉じてしまうよ!」
俺はヴァンの剣を引き抜くと、彼の足の下に振り下ろした。
切れ味だけはやたらいい剣は、まるで人の腕のようにヴァンに絡みついた根を
あっさりと切断した。
その剣を再び持ち主に押し付けると誰ともなしに駆け出す。
道は一つだ。
迷うことは無い。
途中、何度も頭の上を飛び回り邪魔をする梟たちに、ジュリアが何かを投げつ け
た。
ボンっ!
破裂音と共に、少年梟が墜落した。
「今のは?」
「クッキーだ」
「なるほど・・・」
――もしもまた、魔女の使い魔が現れたら、それで難を逃れてください。
そういって渡されたクッキーが、俺の懐の中にもあった。
▽ ▽ ▽
細い、細い道をひたすらに走った。
幾度か木の根や使い魔たちの妨害にあったが、命を奪おうとするほどの殺意は無
かった。
どうやら魔女は今ここで俺たちを殺すつもりは無いようだ。
森に駆り立てられた俺たちの足が、疲労で鈍くなる頃に、ようやく終わりが見 え
た。
それは、森の中のほんの小さな平地だった。
そこで俺たちを出迎えたのは幼い子供たちの歌声。
「深い深い森の奥 村人に追われたバルメ婆さん」
「話し相手は 黒い猫」
「灰色の鼠に」
「双子の梟」
その中にはチャーミィの姿も在った。
彼女は、横たわるレノアと従者の姿を呆然と見下ろしていた。
恐らく彼らはバルメの使い魔になるには成長しすぎていたのだろう。
「ようこそお客人」
子供たちの甲高い声に、たった一つしわがれた声が混じる。
他の森の木々を避けるように、孤独に生えた一本の老木。
木の表面が深い皺を刻み、老婆の顔を作った。