◆――――――――――――――――――――――――――――
PC ロッティー
NPC ハーディン氏 ソフィア ロッティー人形
場所 クーロン近郊
--------------------------------
男はその日、酷く苛ついた気分で夜を迎えた。
暗い書斎の安楽椅子で一人書類に目を通す。
空いた左手の人差し指は机を叩きながら神経質なリズムを奏でていた。
「旦那様、クーロンから例の占い師が到着しました」
「分かった。上がらせろ」
普段なら、占い師なんぞうん臭い人間を招いたりしない。
散々相手を脅して金銭を巻き上げるだけの乞食など如何して信用できよう。
しかし、この大事な時期、念に念を押した所で足りぬことは無かった。
彼が呼んだのは『クーロンの道標』とも呼ばれる、裏の世界では名の通った占い師。
先読みを得意とし、クーロンを牛耳る組織の幹部たちもその力にあやかる為に足を運んでいるとの噂である。
存在自体は気に入らなかったが、その占い師をワザワザ屋敷まで呼び寄せるという行為は男の自尊心を充分に満足させた。
あとは、その占い師に一言成功すると言わせれば、きっと男の不安は払拭されるはずだった―――。
「失礼いたします」
ノックをして静々と入ってきた占い師は、彼の予想に反して若い女だった。
歳にしてせいぜい二十歳を越えたばかり。
かのクーロンの占い師がこんな若いはずがない。
彼が問い質すより早く、女は小さいが透き通る声で話を始めた。
「わたくしはエルゼ様の一番弟子、ソフィアと申します。申し訳御座いませんが、今晩、師は火急の用ができまして、参ることができなくなりました。差し出がましいとは思いますが、お宅様はお急ぎの依頼との事でしたのでわたくしが変わりに・・・」
「帰れ!この阿婆擦れが!!」
女は最後まで言葉を紡ぐ事が出来なかった。
男は女の言葉を遮ると机に拳を勢いよく叩きつけて、激昂する。
女は男の剣幕に怯えながらも真摯な目で訴えかける。
「も、もちろんお代は頂きません」
「当然だ!あの女に近づく為にどれだけの金を使ったと思ってる!!それを…」
馬鹿にされた。
元々気の短い男である。
彼の怒りは収まるところを知らなかった。
そのハズであった。
しかし、凛とした女の声が彼の理性を呼び戻させた。
「ミスター・ハーディン。どうか落ち着いてください」
女のランプに灯された黄金に輝く瞳を見ていると自然と言葉通り、気持ちが落ち着いてくる。
「貴方様には死相が出ております」
「!」
脅すつもりか。
しかし、女の表情は依然変わらない。
「わたくしは、その運命を変えるために、ここに参ったのです」
「……」
男は改めて女を見た。
夜の闇に溶ける黒髪に、炎に照らされた琥珀色の瞳は吸い込まれるような力が宿っている。
とりわけ美しい訳ではないが、優しげな造作は彼女の性格を物語っているようだった。
「いいだろう・・・。お前にどれだけの能力があるか知らんが、見当はずれな事を一言でも口にしてみろ。その命無いと思え」
「努力はいたします。しかし、運命を変える為には貴方様自身が変わらねばなりません。わたくしはそのお手伝いをするだけ・・・」
女は男の前まで近寄ると、荷物の中から薄紫色の蝋燭を取り出した。
それに火を灯すと部屋の脇に置かれていたランプの火を消す。
部屋の中は一層暗くなり闇に近づいた。
紫の蝋が溶け出し、蝋に練りこまれた甘い香りが部屋に満ちる。
「では、貴方様の未来を占わせて頂きます」
------
ソフィアという名の占い師が屋敷を出ると、外には一台の馬車と、一人の女が立っていた。
女はくすんだ灰色の髪を夜風に靡かせながら、早足でソフィアに近づく。
「大丈夫だった!?」
「うん。平気よ、ちょっとドキドキしたけど」
巨大なハーディン邸を振り返りながら、ソフィアは軽く額の汗を拭う。
口調は幾分か砕けて、依頼主の前に居た時よりも可愛らしい印象を与えた。
「でも、噂どおりほんとに気難しそうな人だったわね」
「御免なさい・・・こんな危険な依頼人を貴女任せるなんて」
女は己を恥じるように顔を覆った。
本来、これは彼女の仕事であったのだ。
「気にすること無いわ。私は何にもなかったんだもの。貴女が行っていれば、『厄災』が降りかかっていたのは他の皆も知っているのだから。ね。ソフィ
ア?」
「ロッティー・・・」
ソフィアと呼ばれた灰色の髪の女は顔を上げた。
「私たち兄弟みたいに育った仲じゃない!この蝋燭も役に立ったしね」
ロッティーは甘い香りの漂う蝋燭をソフィアに返した。
「いいのよ。持って行って」
「私の商売は路上だもの。効果なんて無いわ」
ソフィアは肩を竦めて笑うロッティを眩しそうに見つめた。
僅かな期間とはいえ、同じ師に弟子入りしたソフィアとロッティーであったが、力の差は歴然としていた。
それをソフィアも熟知していたのだ。
「占いのほうはどうだったの?」
「う~ん、ちょっとねぇ…」
----------
「―――残念ながら、取引は失敗に終わると出ております。それだけではなく、貴方様の命も…」
「ど、どうにか出来ぬのか!?」
先ほどの占い師を馬鹿にした態度は一変し、男の目は真剣そのものであった。
ダークブラウンの瞳の瞳孔が大きく開いている。
もっとも、これはロッティーの用意した蝋燭に含まれる幻覚剤の作用である。
「貴方様の目的を邪魔するのは『四つ羽の死神』。それに対抗する為に貴方様も死神・・・それ同等の力を持つ人間を雇わなければなりません」
「今いる用心棒では足りないというのか?」
「えぇ、残念ながら」
「で、その人間とやらは何処にいるんだ!?」
「『彼』は貴方が雇うのではありません。別の人間に雇われてやってくるのです」
カードをめくる直前、おや、とロッティーは顔を上げた。
突然頭に浮かんだのは、意外なカードだったからだ。
(何でこんなカードが・・・?)
表を開けば、カードはやはり閃きとは全く異なった図柄で、慌てて意識を集中しなおす。
「……目的を忘れてはいけません。受け入れなくてはなりません。『彼』を連れて来るのは貴方にとって最も大切な人なのですから」
PC ロッティー
NPC ハーディン氏 ソフィア ロッティー人形
場所 クーロン近郊
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男はその日、酷く苛ついた気分で夜を迎えた。
暗い書斎の安楽椅子で一人書類に目を通す。
空いた左手の人差し指は机を叩きながら神経質なリズムを奏でていた。
「旦那様、クーロンから例の占い師が到着しました」
「分かった。上がらせろ」
普段なら、占い師なんぞうん臭い人間を招いたりしない。
散々相手を脅して金銭を巻き上げるだけの乞食など如何して信用できよう。
しかし、この大事な時期、念に念を押した所で足りぬことは無かった。
彼が呼んだのは『クーロンの道標』とも呼ばれる、裏の世界では名の通った占い師。
先読みを得意とし、クーロンを牛耳る組織の幹部たちもその力にあやかる為に足を運んでいるとの噂である。
存在自体は気に入らなかったが、その占い師をワザワザ屋敷まで呼び寄せるという行為は男の自尊心を充分に満足させた。
あとは、その占い師に一言成功すると言わせれば、きっと男の不安は払拭されるはずだった―――。
「失礼いたします」
ノックをして静々と入ってきた占い師は、彼の予想に反して若い女だった。
歳にしてせいぜい二十歳を越えたばかり。
かのクーロンの占い師がこんな若いはずがない。
彼が問い質すより早く、女は小さいが透き通る声で話を始めた。
「わたくしはエルゼ様の一番弟子、ソフィアと申します。申し訳御座いませんが、今晩、師は火急の用ができまして、参ることができなくなりました。差し出がましいとは思いますが、お宅様はお急ぎの依頼との事でしたのでわたくしが変わりに・・・」
「帰れ!この阿婆擦れが!!」
女は最後まで言葉を紡ぐ事が出来なかった。
男は女の言葉を遮ると机に拳を勢いよく叩きつけて、激昂する。
女は男の剣幕に怯えながらも真摯な目で訴えかける。
「も、もちろんお代は頂きません」
「当然だ!あの女に近づく為にどれだけの金を使ったと思ってる!!それを…」
馬鹿にされた。
元々気の短い男である。
彼の怒りは収まるところを知らなかった。
そのハズであった。
しかし、凛とした女の声が彼の理性を呼び戻させた。
「ミスター・ハーディン。どうか落ち着いてください」
女のランプに灯された黄金に輝く瞳を見ていると自然と言葉通り、気持ちが落ち着いてくる。
「貴方様には死相が出ております」
「!」
脅すつもりか。
しかし、女の表情は依然変わらない。
「わたくしは、その運命を変えるために、ここに参ったのです」
「……」
男は改めて女を見た。
夜の闇に溶ける黒髪に、炎に照らされた琥珀色の瞳は吸い込まれるような力が宿っている。
とりわけ美しい訳ではないが、優しげな造作は彼女の性格を物語っているようだった。
「いいだろう・・・。お前にどれだけの能力があるか知らんが、見当はずれな事を一言でも口にしてみろ。その命無いと思え」
「努力はいたします。しかし、運命を変える為には貴方様自身が変わらねばなりません。わたくしはそのお手伝いをするだけ・・・」
女は男の前まで近寄ると、荷物の中から薄紫色の蝋燭を取り出した。
それに火を灯すと部屋の脇に置かれていたランプの火を消す。
部屋の中は一層暗くなり闇に近づいた。
紫の蝋が溶け出し、蝋に練りこまれた甘い香りが部屋に満ちる。
「では、貴方様の未来を占わせて頂きます」
------
ソフィアという名の占い師が屋敷を出ると、外には一台の馬車と、一人の女が立っていた。
女はくすんだ灰色の髪を夜風に靡かせながら、早足でソフィアに近づく。
「大丈夫だった!?」
「うん。平気よ、ちょっとドキドキしたけど」
巨大なハーディン邸を振り返りながら、ソフィアは軽く額の汗を拭う。
口調は幾分か砕けて、依頼主の前に居た時よりも可愛らしい印象を与えた。
「でも、噂どおりほんとに気難しそうな人だったわね」
「御免なさい・・・こんな危険な依頼人を貴女任せるなんて」
女は己を恥じるように顔を覆った。
本来、これは彼女の仕事であったのだ。
「気にすること無いわ。私は何にもなかったんだもの。貴女が行っていれば、『厄災』が降りかかっていたのは他の皆も知っているのだから。ね。ソフィ
ア?」
「ロッティー・・・」
ソフィアと呼ばれた灰色の髪の女は顔を上げた。
「私たち兄弟みたいに育った仲じゃない!この蝋燭も役に立ったしね」
ロッティーは甘い香りの漂う蝋燭をソフィアに返した。
「いいのよ。持って行って」
「私の商売は路上だもの。効果なんて無いわ」
ソフィアは肩を竦めて笑うロッティを眩しそうに見つめた。
僅かな期間とはいえ、同じ師に弟子入りしたソフィアとロッティーであったが、力の差は歴然としていた。
それをソフィアも熟知していたのだ。
「占いのほうはどうだったの?」
「う~ん、ちょっとねぇ…」
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「―――残念ながら、取引は失敗に終わると出ております。それだけではなく、貴方様の命も…」
「ど、どうにか出来ぬのか!?」
先ほどの占い師を馬鹿にした態度は一変し、男の目は真剣そのものであった。
ダークブラウンの瞳の瞳孔が大きく開いている。
もっとも、これはロッティーの用意した蝋燭に含まれる幻覚剤の作用である。
「貴方様の目的を邪魔するのは『四つ羽の死神』。それに対抗する為に貴方様も死神・・・それ同等の力を持つ人間を雇わなければなりません」
「今いる用心棒では足りないというのか?」
「えぇ、残念ながら」
「で、その人間とやらは何処にいるんだ!?」
「『彼』は貴方が雇うのではありません。別の人間に雇われてやってくるのです」
カードをめくる直前、おや、とロッティーは顔を上げた。
突然頭に浮かんだのは、意外なカードだったからだ。
(何でこんなカードが・・・?)
表を開けば、カードはやはり閃きとは全く異なった図柄で、慌てて意識を集中しなおす。
「……目的を忘れてはいけません。受け入れなくてはなりません。『彼』を連れて来るのは貴方にとって最も大切な人なのですから」
PR
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PC ロッティー レイヴン
NPC ハーディン氏 ソフィア ロッティー人形 アルシャ
場所 クーロン近郊
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「旦那様、お嬢様がお戻りになられました。それと、おそらく雇われたと思われる方
も御一緒です」
「よし、通せ」
お辞儀をする執事を下がらせ男ハーディンは考え込む様に腕を組む。
『自分にとって最も大切な人』ソフィアと名乗った占い師の言った言葉が脳裏に蘇
る、妻は既に他界している、現在それが当てはまる人間は一人しかいない。
――――――――約1時間前―――――――――
「ぶべら!」
間抜けなつぶれた叫び声を上げて男が吹き飛んだ。まだ日が昇って一刻も経っていな
いクーロン近郊・ガーラヤ街、裏路地、6人の凶器を持ったいかにもガラが悪そうな
男達とその男達の倍はあろう巨躯をした紅い外套を身にまとった大男が対峙してい
た。大男の側には尻餅を突いた金髪の少女があっけに取られた表情で固まっている。
「気を付けな兄ちゃん達、俺様は今機嫌が悪ぃんだ」
大男が台詞とは裏腹に楽しそうな口調で言う、声は人間にしては低くそれでいてよく
響いている。
「ぐ…く、な、何もんだおめぇは」
「お前さん等に名乗る必要はねぇな、これ以上うだうだ言いやがるんだったら…」
途中で区切り、大男が最初に殴り飛ばした男を親指で指す。
「全員無料で地獄観光させてやるぜ?」
「ひ!く、覚えてやがれ~」
まるで不良のような捨て台詞を吐き男達は足早に逃げて行く。
「おいおい、忘れ物だぜ」
言うと大男は壁にめり込んだ男を鷲掴みにしてブンと放り投げた。素晴らしい膂力で
ある。
「ぶぎゃ!」
間抜けなつぶれた叫び声が聞こえてきたような気がした。
「ふん、つまらねぇな」
「あ、あの」
そのまま立ち去ろうとした大男を小さな声が呼びとめる。声の主は案の定さっきまで
尻餅を突いていた少女だった。
「あ、あの助けていただいて、どうもありがとうございました」
振り向いたが無言のままの大男に動揺しているのか声も体も少し震えている。年の頃
は17~18、青いシャツに白いスカート、全体的に細身のようだ。金色の髪は肩の辺り
まで伸ばしている。
「別に助けようとしたわけじゃねぇ、理由をつけてクズをぶん殴りたかっただけだ。
それよりお嬢ちゃんもお嬢ちゃんだ、こんな所を一人でうろつくのは襲ってくれと
言っているようなもんだ、もう二度と来んじゃねぇぞ」
「あ、ま、待って下さい!」
言いたい事を言って背を向けた大男を少女が呼びとめ、再び振りかえったその大男に
抱きつく。
「お願いです!助けてください!」
「はぁ?って、今助けたじゃねか!」
言って、慌てて手で口を押さえる大男、しかし出てしまった言葉をなかった事にする
事はできない、その言葉に半泣き状態だった少女が顔を上げ輝かせる。
「やっぱり助けようとしてくれたんですね」
「…ぐ……つ~かなんだよ、助けてくれってのは」
大男はバツが悪そうにしかし誤魔化す様に少女を片手で引っぺがしながら問う。
「あ、えっとあの実はあなたを雇いに来たのです」
ストン、と降ろされながら少女が答える、その顔はさっきまでの輝いた物とは違いど
こか困ったような表情になっていた、本人は真剣なのだろうがそのころころ変わる表
情に大男も口の端を持ち上げる。
「あ、今笑いましたね!」
「笑っちゃいねぇよ、それよりお嬢ちゃんは俺様を雇いに来って行ったよな、ってこ
とは俺様のことを知っているのか?」
「いいえ」
首をぶんぶん振って答える少女に大男はがくんとなる。
「ただ、『四つ羽の死神に対抗できる強い人』を探しているのです、きっとその人は
あなただと思うんです」
「四つ羽の死神?なんだかしらねぇが、お嬢ちゃんは俺様を雇いたい、そう言ったよ
な?いじめっ子を懲らしめる様にお願いするのとはわけが違うんだぞ、解っているか
?」
ただでさえ低い声のトーンをさらに低くさせて大男は念を押す様に尋ねる、少女は一
瞬びくりと身体を強張らせたがこくりと頷いた。しばらく少女の青い瞳を見つめてか
ら溜息混じりに大男が言葉を発する。
「どうやら本気みたいだな、どれ、丁度退屈していた所だ。話してみな、っとそれよ
りお嬢ちゃんの名前を先に教えてくれないかい?」
そう言って手近のベンチにドカッと座る。
「あ、すみません、私はアルシャと言います、えっと…」
「戦く大地レイヴンだ、よろしくな、雇い主さん」
名乗り、大男は血に飢えた獣のようなそれでいて人懐っこさを感じさせる笑みを浮か
べた。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま戻りました」
扉から入ってきたのは金髪の少女だった、もちろんそれが四つ羽の死神に対抗できる
傭兵ではない事は解っている、入ってきた実の娘を見て舌打ちをするハーディン。
「戻ったか、それで傭兵は…」
言葉の途中で扉の端に大きな手が掛かった、次に扉から出てきたのは思わず見上げて
しまうほどの大男だった、紅い闇色の外套から覗いた腕は恐ろしく太くがっちりとし
ている、髪の色は深い銀色、漆黒の肌に額から突き出た二本の角と尖った耳は明らか
に人間ではないと自己主張している様だった。装飾品らしき物は右耳に付けた逆十字
架のピアスだけだ、それが何を意味するのかは定かではない。
「お前さんがハーディンだな」
男が口を開いた、低くそれでいてよく響く声だ。
呼び捨てにされたのが気に障ったのか椅子に座ったままの男―ハーディンは顔をしか
めた。
「あ、あの…えっと、彼はレイヴンさんです…レイヴンさん、父のハーディンです」
アルシャがいきなり険悪状態に陥った空気を取り繕うように紹介する、が空気は変わ
らない様だ。
「なるほど、確かに貴様なら四つ羽の死神に対抗できるだろうな」
沈黙を破ったのはハーディンの方だった。
「その四つ羽の死神ってのはなんだ?」
「知らん、ただ私の邪魔をする者だと言う事は確かだ、だから貴様を雇ったのだ。貴
様にはその四つ羽の…」
「ちょっと待ちな」
レイヴンがハーディンの言葉を途中でさえぎり、悪戯っぽい笑みを浮かべ軽く睨む。
「俺様はお前さんに雇われたんじゃない、このお嬢ちゃんに雇われたんだ」
側に立っていたアルシャの頭に手を置き続ける。
「お前さんの命令を聞く筋合いは一つも無い、それじゃな、そう言う事で失礼させて
もらうぜ、こう言う堅苦しい所は嫌いなんだ」
「な、ま、待たぬか!」
さっさと背を向けた大男にハーディンが怒鳴り付ける、がレイヴンは構うことなく扉
に手をかける。
「安心しな、お前さんの命はちゃ~んと守ってやる、それが依頼だからな」
最後に言い残し書斎を出ていった、残されたハーディンは怒りの表情で歯をギチギチ
と鳴らし拳を強く握りしめた。礼儀しらずの傭兵に自尊心をズタズタに引き裂かれた
事がよっぽど腹立ったらしい。
「あ、あの私も失礼します」
そう言いアルシャが出て言った瞬間近くにあった高価そうな置き物を力任せに床に叩
きつけた。
「ったく、気にいらねぇぜ、他人を見下したような目をしやがって、しかしハーディ
ンが呼んだって言う占い師はそうとう腕がいいんだな、確かに、金貨を天井いっぱい
積まれたってあんな奴には雇われたかねぇな」
なんて事をブツブツいいながら門前を歩いていたレイヴンの目に見慣れない物が映っ
た。
「なんだコリャ?」
近づいて見てみると人形の様だった、大きさはレイヴンの手の平に収まるくらいだが
普通の人間の手の平には収まらないだろう微妙な大きさだ。
「なんだ?アルシャのだろうか…しかしどっかで見たことあるような、どこだったか
な……まあいいか、きっとアルシャのだろう」
そう決めつけレイヴンは屋敷まで引き返しはじめた、自分が持っている物の重要さな
ど知りもせず。
★---------------------------------------★
PC ロッティー レイヴン
場所 クーロン
NPC ロッティー人形 男
★---------------------------------------★
―――ハーディン氏より再び“ソフィア”に依頼あり。
至急クーロンの占い館へ来てください ――――
こんな手紙が、ロッティーの元に届いたのはあの日から一週間ほど経ってからだった。彼女は今、クーロンから少し離れた場所に滞在している。このような事態が起こる事はソフィアもロッティーも予測済みであったので出来ればクーロンで宿を取りたかったのだが、最もあの町で安全と言われる宿屋でさえ、非力なロッティーを見た瞬間、即座に首を横に振った。
――悪い事はいわねぇ。
アンタのような若い娘さんがうちに泊まったら
次目が覚めた時にはアンタの居場所は宿屋から娼館の一室にはや変わりさ。
最近クーロンでは若い娘がさらわれてズィーノに売り飛ばされる事件が多発しているらしい。流石にそれは勘弁と、ロッティーはこのフレデリア貴族が経営する荘園まで場所を離れたのだ。領主直属の自衛団が作られているこの辺りは比較的治安が良い。それでもこうやってボンヤリと窓の外を眺めていると、騒ぎを聞きつけては領内を縦断する自衛団の姿を目にするのだから、つくづく、クーロン一帯と言うのは恐ろしい場所である。
「そんな町にこれから行くのよねぇ・・・」
ロッティーの表情は暗い。ソフィアの働く占い館には一度だけ行ったことがあるが、それも土地勘あるものについて行ったからこそ、独りではとても辿り付く自信は無い。ロッティーの持つ強運もクーロンという巨大な暴力の渦の中では無に等しいものに感じられた。
「ひとりでは、心細いけど」
それでも行くしかないことは、彼女もよく承知していた。
何故といわれても分からない。これが“運命”というモノなのかもしれない。
----------
大陸で最も危険な独立都市国家、クーロン。
別名“犯罪都市”とも呼ばれ、本来ならば裏で暗躍する巨大な5つの組織が、表となりその都市を治めていた。
昼間こそ、商売に精を出す人々と、この都市でしか手に入らない色々な品を買う為に市に寄った旅人で、比較的正常な町の様子を見せているが、それも太陽の日の当たるごく一部の場所である。僅かでも道を反れれば死神の足音が常に背後で聞こえる程物騒な場所である。
そして今、光の当たる通りから紺色の外套を纏った小柄な旅人が薄影の中へと身を投じた。
「・・・・・・」
骨董屋と茶屋の間の路地に人影は見られない。顔を隠していても明らかに女性、または子供と分かるその旅人は、早足でその無人の細道を奥へ奥へと進んでいった。たまに、ふと足を止めて、己の位置を確かめるように顔を上げる。建物の間から僅かに覗く太陽を確かめるようでもあった。最初は、直線であった道筋は次第にランダムに変化し、まるで遠回りであった。しかし、その間一度も人に会わなかったのは、偶然というよりは、まるで行くべき道を知っているようである。
しかし――
ガァタン!
背後で何かが転がった。
「!」
窪んだ眼光がこちらを見ている。頬は削げ落ち、明らかに薬物の中毒症状が出ている男は、先ほどまでゴミのように裏道に転がっていたが、その旅人から発せられる甘い、若い女の香りに引き寄せられるようにフラフラと立ち上がった。
「――ァ」
思わず声を上げそうになって、ロッティーは口を押える。
素早く踵を返して駆け出した。男はなおも追ってきて、不確かだった足取りが急に獲物を狙う野犬のように素早くなった。
(ピオの馬鹿~~!なんでこんな時に居なくなっちゃうのよ!)
あの人形が居れば、先回りをして道を確認する事も、相手の意表をつくことも可能であったのに――!
しかし、後悔しても既に遅い。目的地までの僅かな道をロッティーは全力疾走で駆け抜ける。薬に病んだ男はやはり健全な体のロッティーに追いつくことは出来ず、彼女の目端に占い館の外装が映る。あとは、この道を曲がれば―――
「・・・・・・あぁ」
しかし、ゴールである館の入り口を前にして、ロッティーは絶望の声を上げた。そこには、後ろより追って来る男より更に大きな『壁』が待ち受けていたのである。
「―――――」
確かめるように店の看板を眺めていた男が、こちらに気がついて顔を向けた。驚くほどの巨漢で、常人なら見上げる高さにあるその看板がちょうど真横に並んでいる。
その男を押しのけて占い館に入ることなど出来るわけも無く、少し離れた所で、思わずロッティーは座り込んでしまった。
「―――ぉ」
地面に座り込んだロッティーを見て、その大男は何かを言いかけ、ふと思い出したように懐をまさぐった。既に半分諦めて、呆然とその様子を眺めていたロッティーの背後でヒューヒューと荒い呼吸が聞こえた。執念深く追って来た先ほどの薬物中毒者だ。座り込んだロッティーをみつけると、ニヤリと笑って近づいてくる。
「――ぃや!」
慌てて立ち上がり、伸ばされた手を払いのける瞬間に、フードが取れ、ロッティーの黒髪が扇のように広がった。
「あぁ、やっぱり」
その声とともに、ロッティーの後ろから岩のような頑丈な腕が素早く伸び、彼女に近づく男の頭を掴んだ。まるでリンゴのようにその手に男の頭蓋が収まった。
「・・・・・・え?」
「ヌググッ」
「悪いが他を当たってくれ。俺様もこの娘に用があるんでな」
空気を震わす、低く落ち着いた声がロッティーの頭上から聞こえた。聞き覚えのある、懐かしい声に思わず顔を上げて、まじまじと男の顔を見つめる。
「レ、レイヴンさん!?」
「よぉ。よりにもよって珍しい場所で会うもんだな。ここはお前さんには似合わない町だぜ、ロッティー?」
以前と全く変わりない不敵な笑みを浮かべ、レイヴンは、ポンとその胸にロッティー人形を落とす。
「!」
ロッティーは更に驚きながら、ぎゅっとその人形を抱きしめた。
頭を掴まれもがく男を遠くに放り投げたレイヴンは、手の埃を払う仕草をしながら視線をロッティーに向ける。
「俺様はちょっとした用でこれからココに入るんだが。お前サンも同じようだな」
「えぇ、お友達が働いているのよ」
「へぇ。そりゃあ偶然だなぁ」
久しぶりの再会を喜びながらも、
二人はその違和感を拭えないでいた。
これは偶然の出来事なのだろうか、それとも―――
PC ロッティー レイヴン
場所 クーロン
NPC ロッティー人形 男
★---------------------------------------★
―――ハーディン氏より再び“ソフィア”に依頼あり。
至急クーロンの占い館へ来てください ――――
こんな手紙が、ロッティーの元に届いたのはあの日から一週間ほど経ってからだった。彼女は今、クーロンから少し離れた場所に滞在している。このような事態が起こる事はソフィアもロッティーも予測済みであったので出来ればクーロンで宿を取りたかったのだが、最もあの町で安全と言われる宿屋でさえ、非力なロッティーを見た瞬間、即座に首を横に振った。
――悪い事はいわねぇ。
アンタのような若い娘さんがうちに泊まったら
次目が覚めた時にはアンタの居場所は宿屋から娼館の一室にはや変わりさ。
最近クーロンでは若い娘がさらわれてズィーノに売り飛ばされる事件が多発しているらしい。流石にそれは勘弁と、ロッティーはこのフレデリア貴族が経営する荘園まで場所を離れたのだ。領主直属の自衛団が作られているこの辺りは比較的治安が良い。それでもこうやってボンヤリと窓の外を眺めていると、騒ぎを聞きつけては領内を縦断する自衛団の姿を目にするのだから、つくづく、クーロン一帯と言うのは恐ろしい場所である。
「そんな町にこれから行くのよねぇ・・・」
ロッティーの表情は暗い。ソフィアの働く占い館には一度だけ行ったことがあるが、それも土地勘あるものについて行ったからこそ、独りではとても辿り付く自信は無い。ロッティーの持つ強運もクーロンという巨大な暴力の渦の中では無に等しいものに感じられた。
「ひとりでは、心細いけど」
それでも行くしかないことは、彼女もよく承知していた。
何故といわれても分からない。これが“運命”というモノなのかもしれない。
----------
大陸で最も危険な独立都市国家、クーロン。
別名“犯罪都市”とも呼ばれ、本来ならば裏で暗躍する巨大な5つの組織が、表となりその都市を治めていた。
昼間こそ、商売に精を出す人々と、この都市でしか手に入らない色々な品を買う為に市に寄った旅人で、比較的正常な町の様子を見せているが、それも太陽の日の当たるごく一部の場所である。僅かでも道を反れれば死神の足音が常に背後で聞こえる程物騒な場所である。
そして今、光の当たる通りから紺色の外套を纏った小柄な旅人が薄影の中へと身を投じた。
「・・・・・・」
骨董屋と茶屋の間の路地に人影は見られない。顔を隠していても明らかに女性、または子供と分かるその旅人は、早足でその無人の細道を奥へ奥へと進んでいった。たまに、ふと足を止めて、己の位置を確かめるように顔を上げる。建物の間から僅かに覗く太陽を確かめるようでもあった。最初は、直線であった道筋は次第にランダムに変化し、まるで遠回りであった。しかし、その間一度も人に会わなかったのは、偶然というよりは、まるで行くべき道を知っているようである。
しかし――
ガァタン!
背後で何かが転がった。
「!」
窪んだ眼光がこちらを見ている。頬は削げ落ち、明らかに薬物の中毒症状が出ている男は、先ほどまでゴミのように裏道に転がっていたが、その旅人から発せられる甘い、若い女の香りに引き寄せられるようにフラフラと立ち上がった。
「――ァ」
思わず声を上げそうになって、ロッティーは口を押える。
素早く踵を返して駆け出した。男はなおも追ってきて、不確かだった足取りが急に獲物を狙う野犬のように素早くなった。
(ピオの馬鹿~~!なんでこんな時に居なくなっちゃうのよ!)
あの人形が居れば、先回りをして道を確認する事も、相手の意表をつくことも可能であったのに――!
しかし、後悔しても既に遅い。目的地までの僅かな道をロッティーは全力疾走で駆け抜ける。薬に病んだ男はやはり健全な体のロッティーに追いつくことは出来ず、彼女の目端に占い館の外装が映る。あとは、この道を曲がれば―――
「・・・・・・あぁ」
しかし、ゴールである館の入り口を前にして、ロッティーは絶望の声を上げた。そこには、後ろより追って来る男より更に大きな『壁』が待ち受けていたのである。
「―――――」
確かめるように店の看板を眺めていた男が、こちらに気がついて顔を向けた。驚くほどの巨漢で、常人なら見上げる高さにあるその看板がちょうど真横に並んでいる。
その男を押しのけて占い館に入ることなど出来るわけも無く、少し離れた所で、思わずロッティーは座り込んでしまった。
「―――ぉ」
地面に座り込んだロッティーを見て、その大男は何かを言いかけ、ふと思い出したように懐をまさぐった。既に半分諦めて、呆然とその様子を眺めていたロッティーの背後でヒューヒューと荒い呼吸が聞こえた。執念深く追って来た先ほどの薬物中毒者だ。座り込んだロッティーをみつけると、ニヤリと笑って近づいてくる。
「――ぃや!」
慌てて立ち上がり、伸ばされた手を払いのける瞬間に、フードが取れ、ロッティーの黒髪が扇のように広がった。
「あぁ、やっぱり」
その声とともに、ロッティーの後ろから岩のような頑丈な腕が素早く伸び、彼女に近づく男の頭を掴んだ。まるでリンゴのようにその手に男の頭蓋が収まった。
「・・・・・・え?」
「ヌググッ」
「悪いが他を当たってくれ。俺様もこの娘に用があるんでな」
空気を震わす、低く落ち着いた声がロッティーの頭上から聞こえた。聞き覚えのある、懐かしい声に思わず顔を上げて、まじまじと男の顔を見つめる。
「レ、レイヴンさん!?」
「よぉ。よりにもよって珍しい場所で会うもんだな。ここはお前さんには似合わない町だぜ、ロッティー?」
以前と全く変わりない不敵な笑みを浮かべ、レイヴンは、ポンとその胸にロッティー人形を落とす。
「!」
ロッティーは更に驚きながら、ぎゅっとその人形を抱きしめた。
頭を掴まれもがく男を遠くに放り投げたレイヴンは、手の埃を払う仕草をしながら視線をロッティーに向ける。
「俺様はちょっとした用でこれからココに入るんだが。お前サンも同じようだな」
「えぇ、お友達が働いているのよ」
「へぇ。そりゃあ偶然だなぁ」
久しぶりの再会を喜びながらも、
二人はその違和感を拭えないでいた。
これは偶然の出来事なのだろうか、それとも―――
★---------------------------------------------------★
PC ロッティー レイヴン
場所 クーロン
NPC ソフィア アーリン ジェーン
★---------------------------------------------------★
ソフィアの居る『幻蝶館』は、何人もの女占い師が住まう占い館であった。
その頂点が、クーロンの影の要人達を何人も占い、信者としてきた『クーロンの道
標』、エルゼである。
ロッティーは何度かこの館を訪れた事があったが、かの女占い師には一度も出会っ
た事は無かった。
彼女に会うことは、それ自体が幸運であり、莫大なお金とコネがなければエルゼに
占ってもらう事は不可能と言われていた。
「こんにちはー。どなたかいらっしゃいますか?」
今、ロッティーはその『幻蝶館』の前に立っていた。後ろには、彼女の倍はあるの
ではないかと思われる大男、レイヴンが立っている。深紅の外套を纏った彼の外見は
六年前と全くそのままであったが、髪の色だけが染めたのであろうか、変わってい
た。先ほどまでは心細くてたまらないロッティーであったが、レイヴンに再会し、ロ
ッティー人形も懐に戻ってきた為、少しだけ元気を取り戻していた。しかし、いくら
ノッカーを叩いても反応のない館の奥に、次第に表情を曇らせていく。
「どうしたのかしら。誰も居ないなんてはずは無いはずだけど・・・。」
彼女はソフィアに呼ばれてやってきたのである。戸惑うロッティーの後ろから、ぬ
ぅっと太い腕が伸び、扉を押した。レイヴンは低い声で唸ると、暗い館の奥を鋭い眼
光で睨んだ。
「いや、中には人は居るようだ。ただ妙な雰囲気だがな」
素早くロッティーを下がらせ、前に出る。彼のハンターとしての勘がこの屋敷の中
の異変にいち早く反応したのだ。僅かに死臭の漂う部屋に向かって、レイヴンはその
地鳴りのような声を張り上げた。
「たのもう!俺様は、ハーディンの使いできたレイヴンというものだ。ソフィアとい
う占い師はいるか?」
「え!?」
ロッティーが驚いてレイヴンを見上げる。ソフィアと偽ってハーディンを占ったの
は他ならぬロッティーであったのだ。
(じゃあ、ハーディンさんを死神から守る人は、レイヴンさんの事だったの
ね・・・)
あの時の『再会』のカードの意味を知り、ロッティーは納得する。しかし、レイヴ
ンの探し人が本当はロッティ―であることを教えるよりも早く、中から女が出てき
て、二人に声をかけた。
「ァらぁ、随分といかついおニイさんだねぇ。悪いけど今取り込み中なンだよ。ソフ
ィアなら居ないから帰っておくれ」
出てきたのは占い師というよりは、娼婦を思わせる艶っぽい女であった。目の前の
巨漢を警戒の面持ちで見上げながら、追っ払うように手を動かした。
「あ、あのッ。アーリンさん!」
「おや、アンタ・・・ロッティーだっけ?」
「ええ、私はソフィアに呼ばれてここに来たんです。・・・・居ないって本当です
か?」
レイヴンの後ろに隠れていたロッティーが問いただすと、途端にアーリンの表情が
強張った。白い顔はみるみる青くなっていき、とうとう顔を覆うとワッと泣き出した
のである。
「アーリンさん!?」
驚いてロッティー駆け寄ると、アーリンは嗚咽を混じらせながらも、言葉を紡ぐ。
その間レイヴンだけは、部屋の奥底を静かな瞳でじっと見つめていた。
「さ、さっき、ソフィアは死んだんだ」
「・・・え?」
「私たちが、ソフィアの仕事場を見に行ったら、そ、そこにッ」
「違うでしょ。アーリンねえさん。ソフィア姉さんは死んだんじゃなくて殺されたの
よ」
そこに割り込んだのは、アーリンとは対照的な冷やかで幼い声であった。
灰色の髪を二つに結んだ幼い少女が酷く大人びた様子でそこに立っている。
「いつ見つけたんだ?」
「2時間くらい前。ここじゃ人殺しが起きたって訴える所もないから、どうしようっ
て話してたの」
レイヴンの質問に淡々と答えると、少女は「ソッチ」と指を指した。レイヴンは示
された廊下の奥へと姿を消す。
「こ、殺されたって、本当なの?」
ロッティーは肩を震わせて無くアーリンを支えながら、ソフィアと同じ灰色の髪の
少女に尋ねた。
群青色の瞳がロッティーを映してクスリと笑う。その表情にロッティーは年端もい
かぬ少女に対して一瞬恐怖を覚えた。
「でも、これで私と貴女の占いのとおりでしょ。ロッティーさん」
「!?あ、あれは・・・」
「貴女も同じだったんでしょう?私の占いを信じて、だから身代わりになったのよ
ね?」
ハーディンと言う男は、良くない噂をもつ豪商であった。本来仕事を請け負ったエ
ルゼが急用で間に合わず、一番弟子であるソフィアが代わりに行く事になったのだ。
その時、この少女―――ジェーンが言ったのである。
『駄目よ。ソフィア姉さん。ハーディンの家に行ったら姉さんは間違いなく死ぬ事に
なるわ』
ロッティーも、その時、ソフィアの身に不安を感じていた。だから、ロッティーは
彼女の代わりにハーディンの屋敷に訪れたのだ。
「代わりに貴女が行ったって無駄だったのよ。だって、『ソフィア』姉さんが占った
のよ。現にハーディンの遣いは『ソフィアという占い師』を探しにここまできたんで
しょう?」
「レイヴンさんが殺したって言うの!?」
「そんなこと言ってないわよ、ロッティーさん」
ジェーンは小さい子に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。ロッティー
は沈痛な面持ちで唇を噛む。
「おいおい、どうしたんだ?」
再びロッティーの元に戻ってきたレイヴンは、緊迫した空気の張り巡らされたその
場に訝しげな顔をする。
「レイヴンさん」
硬い声で彼の名を呼ぶロッティーの瞳は、決意とともに琥珀色から輝く金へと変化
していた。
「ハーディンさんの取引は成功したの?」
「あぁ、一つ目はな。・・・・って、ロッティー。どうしてお前さんがそんなこと知
ってるんだ?」
「まだ、終わってはいないのね?『四つ羽の死神』からは逃げ出せていないのね」
「・・・おぃ。ロッティー?」
「ハーディンさんを占ったのは私なの。ソフィアは私の代わりに死んだんだわ!お願
い、ハーディンさんのところに連れてって!」
ロッティーの剣幕に驚いて、レイヴンは暫く思案するように黙っていた。しかし、
彼の目的もまた『ハーディンを占った占い師』を彼の元に再び連れてくるといったも
のだったのだ。
「話はだいたい分かった。ロッティーがいた方が心強いしな。まぁ、守る人間が一人
増えようが俺様には軽いもんだ」
皺の寄ったロッティーの眉間を指で軽く押して、レイヴンは不敵に言って見せた。
「六年前の契約の延長ってことでな」
PC ロッティー レイヴン
場所 クーロン
NPC ソフィア アーリン ジェーン
★---------------------------------------------------★
ソフィアの居る『幻蝶館』は、何人もの女占い師が住まう占い館であった。
その頂点が、クーロンの影の要人達を何人も占い、信者としてきた『クーロンの道
標』、エルゼである。
ロッティーは何度かこの館を訪れた事があったが、かの女占い師には一度も出会っ
た事は無かった。
彼女に会うことは、それ自体が幸運であり、莫大なお金とコネがなければエルゼに
占ってもらう事は不可能と言われていた。
「こんにちはー。どなたかいらっしゃいますか?」
今、ロッティーはその『幻蝶館』の前に立っていた。後ろには、彼女の倍はあるの
ではないかと思われる大男、レイヴンが立っている。深紅の外套を纏った彼の外見は
六年前と全くそのままであったが、髪の色だけが染めたのであろうか、変わってい
た。先ほどまでは心細くてたまらないロッティーであったが、レイヴンに再会し、ロ
ッティー人形も懐に戻ってきた為、少しだけ元気を取り戻していた。しかし、いくら
ノッカーを叩いても反応のない館の奥に、次第に表情を曇らせていく。
「どうしたのかしら。誰も居ないなんてはずは無いはずだけど・・・。」
彼女はソフィアに呼ばれてやってきたのである。戸惑うロッティーの後ろから、ぬ
ぅっと太い腕が伸び、扉を押した。レイヴンは低い声で唸ると、暗い館の奥を鋭い眼
光で睨んだ。
「いや、中には人は居るようだ。ただ妙な雰囲気だがな」
素早くロッティーを下がらせ、前に出る。彼のハンターとしての勘がこの屋敷の中
の異変にいち早く反応したのだ。僅かに死臭の漂う部屋に向かって、レイヴンはその
地鳴りのような声を張り上げた。
「たのもう!俺様は、ハーディンの使いできたレイヴンというものだ。ソフィアとい
う占い師はいるか?」
「え!?」
ロッティーが驚いてレイヴンを見上げる。ソフィアと偽ってハーディンを占ったの
は他ならぬロッティーであったのだ。
(じゃあ、ハーディンさんを死神から守る人は、レイヴンさんの事だったの
ね・・・)
あの時の『再会』のカードの意味を知り、ロッティーは納得する。しかし、レイヴ
ンの探し人が本当はロッティ―であることを教えるよりも早く、中から女が出てき
て、二人に声をかけた。
「ァらぁ、随分といかついおニイさんだねぇ。悪いけど今取り込み中なンだよ。ソフ
ィアなら居ないから帰っておくれ」
出てきたのは占い師というよりは、娼婦を思わせる艶っぽい女であった。目の前の
巨漢を警戒の面持ちで見上げながら、追っ払うように手を動かした。
「あ、あのッ。アーリンさん!」
「おや、アンタ・・・ロッティーだっけ?」
「ええ、私はソフィアに呼ばれてここに来たんです。・・・・居ないって本当です
か?」
レイヴンの後ろに隠れていたロッティーが問いただすと、途端にアーリンの表情が
強張った。白い顔はみるみる青くなっていき、とうとう顔を覆うとワッと泣き出した
のである。
「アーリンさん!?」
驚いてロッティー駆け寄ると、アーリンは嗚咽を混じらせながらも、言葉を紡ぐ。
その間レイヴンだけは、部屋の奥底を静かな瞳でじっと見つめていた。
「さ、さっき、ソフィアは死んだんだ」
「・・・え?」
「私たちが、ソフィアの仕事場を見に行ったら、そ、そこにッ」
「違うでしょ。アーリンねえさん。ソフィア姉さんは死んだんじゃなくて殺されたの
よ」
そこに割り込んだのは、アーリンとは対照的な冷やかで幼い声であった。
灰色の髪を二つに結んだ幼い少女が酷く大人びた様子でそこに立っている。
「いつ見つけたんだ?」
「2時間くらい前。ここじゃ人殺しが起きたって訴える所もないから、どうしようっ
て話してたの」
レイヴンの質問に淡々と答えると、少女は「ソッチ」と指を指した。レイヴンは示
された廊下の奥へと姿を消す。
「こ、殺されたって、本当なの?」
ロッティーは肩を震わせて無くアーリンを支えながら、ソフィアと同じ灰色の髪の
少女に尋ねた。
群青色の瞳がロッティーを映してクスリと笑う。その表情にロッティーは年端もい
かぬ少女に対して一瞬恐怖を覚えた。
「でも、これで私と貴女の占いのとおりでしょ。ロッティーさん」
「!?あ、あれは・・・」
「貴女も同じだったんでしょう?私の占いを信じて、だから身代わりになったのよ
ね?」
ハーディンと言う男は、良くない噂をもつ豪商であった。本来仕事を請け負ったエ
ルゼが急用で間に合わず、一番弟子であるソフィアが代わりに行く事になったのだ。
その時、この少女―――ジェーンが言ったのである。
『駄目よ。ソフィア姉さん。ハーディンの家に行ったら姉さんは間違いなく死ぬ事に
なるわ』
ロッティーも、その時、ソフィアの身に不安を感じていた。だから、ロッティーは
彼女の代わりにハーディンの屋敷に訪れたのだ。
「代わりに貴女が行ったって無駄だったのよ。だって、『ソフィア』姉さんが占った
のよ。現にハーディンの遣いは『ソフィアという占い師』を探しにここまできたんで
しょう?」
「レイヴンさんが殺したって言うの!?」
「そんなこと言ってないわよ、ロッティーさん」
ジェーンは小さい子に言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡いだ。ロッティー
は沈痛な面持ちで唇を噛む。
「おいおい、どうしたんだ?」
再びロッティーの元に戻ってきたレイヴンは、緊迫した空気の張り巡らされたその
場に訝しげな顔をする。
「レイヴンさん」
硬い声で彼の名を呼ぶロッティーの瞳は、決意とともに琥珀色から輝く金へと変化
していた。
「ハーディンさんの取引は成功したの?」
「あぁ、一つ目はな。・・・・って、ロッティー。どうしてお前さんがそんなこと知
ってるんだ?」
「まだ、終わってはいないのね?『四つ羽の死神』からは逃げ出せていないのね」
「・・・おぃ。ロッティー?」
「ハーディンさんを占ったのは私なの。ソフィアは私の代わりに死んだんだわ!お願
い、ハーディンさんのところに連れてって!」
ロッティーの剣幕に驚いて、レイヴンは暫く思案するように黙っていた。しかし、
彼の目的もまた『ハーディンを占った占い師』を彼の元に再び連れてくるといったも
のだったのだ。
「話はだいたい分かった。ロッティーがいた方が心強いしな。まぁ、守る人間が一人
増えようが俺様には軽いもんだ」
皺の寄ったロッティーの眉間を指で軽く押して、レイヴンは不敵に言って見せた。
「六年前の契約の延長ってことでな」
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PC ロッティー レイヴン
場所 クーロン
NPC アルシャ
---------------------------------------
幻蝶館を後にしたレイヴンとロッティーは並んで歩いていた。
二人に会話は無く、ただ黙々とハーディンの館に向って歩を進めていた。
「なあ、ロッティー」
不意にレイヴンが口を開く、ロッティーは巨身の彼を見上げる。
「人間ってぇのはな、なんつ~か…脆いもんなんだ」
レイヴンは前を向いたままそう呟く、ロッティーは無言で彼を見つづけている。
「いや、人間だけがって意味じゃねぇんだけどな、生物ってのは生れる時に『生』を
与えられる。それと同時に『死』も与えられてんだ。それがどんなに納得いかねぇも
んでも、受け入れるしかねぇんだ。後に残された奴が出来るのは…忘れねぇでいてや
る事だけだ」
彼にしては長い台詞、それを聞いてロッティーはやっと、レイヴンが自分を慰めてく
れていることに気付く。
100年以上は生きているレイヴンは、まだ若いロッティーに比べると経験もその道の知
識も豊富ではあるが、その生のほとんどを一人で生きてきた。こう言う状況でなんと
言えば良いのか、酷く模索している様だった。
おそらくこの状況が、戦場で戦友の死を悲しむ兵士が相手だったら…彼は慰めの言葉
などは絶対に吐かなかっただろう。相手がロッティーであるからこその気遣いだっ
た。
「だ、大丈夫ですよ、私は。ほら、こんなに元気ですから」
ロッティーは笑顔で両腕を上に伸ばして上下させる。そんなロッティーをちらりと一
瞥したレイヴンは、赤い瞳を再び前に向ける。元気なはずが無い、心配させたくない
様に元気だと偽っているのだ。
「なぁ、ロッティー…」
レイヴンが再びロッティーに話しかけようとした時、言葉を途中で区切り、前方を睨
みつける様に見る。レイヴンの顔を見上げていたロッティーも彼の横顔が徐々に険し
いものへと変わっていくのに気付き、彼に習って前方を見る。
目に映ったのは、半壊したハーディンの館だった。
「こいつは一体…」
さすがのレイヴンもこの状況に困惑した様だった。しかし、それも一瞬の事だった。
すぐに我に返ったレイヴンは、その巨体からは想像も出来ないスピードで駆けると、
壊れていない門を蹴飛ばし、玄関の扉を踏みつけて館にの中に入った。中は外よりも
酷くあらされており、使用人や他の用心棒達の死体が所々に散乱していた。
「俺様が居ないあいだに何があったってんだ?」
レイヴンは瓦礫を踏み分けながら崩壊しそうな階段を上っていき、ハーディンの部屋
の扉をあけた。そこもあらされていたがハーディン本人は見当たらなかった。
「レイヴンさん、これは一体…」
一階に下りてきたレイヴン、やっと追いついてきたロッティーが息を切らせながら問
う。
「解らねぇ、全員死んでいる様だが…ハーディンのやろうもアルシャの嬢ちゃんも見
あたらねぇ」
レイヴンが辺りを見渡していると、ロッティーがレイヴンの足元に視線を移す。
「地下に、誰か居るみたいです」
ロッティーの言葉にレイヴンは怪訝そうな表情をしたが、彼女の瞳が琥珀色に輝いて
いる事に気付き、確信を持った。
「地下だな?」
そういうとレイヴンは拳を強く握って作ると、思いっきり床に叩きつけた。一発でヒ
ビが無数に走ると、それはドンドンと増えていき、とうとう足もとの床が音を立てて
崩れ始めた。
「ちょこっと我慢してくれな」
レイヴンはロッティーをその身体に包むとその上から外套を被り、彼女を下敷きにし
ない様に気を付けながら、地下に向って降下していった。
「誰もいねぇな?」
崩れ落ちた天井を見上げたあと、地下室であろう部屋を見渡してレイヴンが言った。
確かに、この部屋にはレイヴンとロッティー以外、誰も居ない、居なくてよかった。
おそらく酒でも置いてあったのか、プ~ンとぶどう酒の匂いやアルコールの匂いが充
満している。
「いえ、この隣の部屋から感じます」
「しゃあねぇ、ちょっとどいてろ」
ロッティーを下がらせると、彼はまた拳を強く握り…
「まさか、また!?」
ロッティーの声を遮り、丸太のような腕がいともあっさりと石の壁に大穴を開ける。
物凄い迫力である。
「だ、だれ!?」
ロッティーの言ったとおりだった、生存者がいた。腰が抜けているのか、床にぺたん
と尻餅をついているが、震える声で、それでも勇ましく短剣を構えている。
「アルシャ、無事だったのか?」
レイヴンは短剣を構えている生存者、彼の雇い主の名前を呼んだ。
「れ、レイヴンさん?レイヴンさんなの?」
生存者―アルシャは壁をぶちぬいて出現した者の正体がレイヴンであると解ると、短
剣を取り落とし、瞳を潤ませて泣き出してしまった。レイヴンはアルシャに近寄ると
静かに腰を下ろした。
「何があった?」
レイヴンはなるべく落ち着かせる様な口調でアルシャに問うた。
「わからない…わからない…」
アルシャは顔を手で覆って首を横に振る、何かに脅えているようだった。
「レイヴンさん、その娘は誰ですか?」
後ろからひょっこりと顔を出したロッティーがレイヴンを見上げる。レイヴンは腰を
下ろしているので立っている時よりも話しやすそうだ。
「ああ、こいつはアルシャってんだ、ここのハーディンの娘だ」
「…レイヴンさん、ここは私に任せてください」
「んん?任せるって何を…」
ロッティーはレイヴンへ向ってにこりと笑って頷くと、アルシャの側まで歩よってし
ゃがみこんだ。そして手に持っていたロッティー人形の両腕を自分の両手で持つとク
イクイと動かしながらアルシャに話しかけた。
「やあ、初めましてアルシャさん、私はロッティー、宜しくね」
まるでロッティー人形が喋っている様に見える。
その光景に、いままで泣いていたアルシャは顔を上げ、きょとんとした表情でロッテ
ィーの顔を見る。
「かわいいお顔が台無しだよ?はい、これを使って」
ロッティー(人形)はそう言うとハンカチを取り出しアルシャに差し出す。
まだ動揺しているアルシャにロッティーは優しく微笑む……アルシャの顔に、笑顔が
戻っていた。
ロッティーの腹話術(?)と優しい話し方のおかげでアルシャはだいぶ落ち着きを取
り戻した様だった。ポツリポツリとアルシャは、ハーディンのいきさつを話し始め
た。
「パパはレイヴンさんの帰りを待たずに第2の取引場所に行ったの、もちろん沢山の用
心棒をつれて」
「ったく、あの野郎は何を考えてるんだかな」
「パパが出かけてちょっと経って…ホンの1~2分くらいだった、いきなり家が揺れた
の、地震なんてものじゃなくて何かがどーんとぶつかったような…その後、悲鳴が上
がって…ビックリして、そっちの方を見ると…」
そこでアルシャは言葉を切ると俯いた、ロッティーは心配そうにロッティー人形ごと
覗きこんだが、アルシャは「大丈夫」と言って話しを続ける。
「…そっちを見ると、そこにそいつはいたんです」
「そいつ?」
ロッティーが聞き返し、アルシャが頷く。
「とても…大きかった、あなたよりも」
アルシャがレイヴンを見上げて震える声で言った。
「背中に2枚の羽をはやしてた…真っ黒な、悪魔のような羽を…」
「2枚?4枚じゃなくて?」
ロッティーの質問にアルシャは首を縦に振る。
「確かに2枚でした」
ロッティーが困惑気味の顔でレイヴンを見る、占いでは『四つ羽』の死神のはずだっ
た。レイヴンも困ったような面をしていた。
「…み、みんな殺されて…私、私を逃がすため…」
アルシャは堪えきれず涙を流した。
その涙を見たか見ていないのかは知らないが、唐突にレイヴンが立ち上がる。
「レイヴンさん?」
突然立ちあがったレイヴンをロッティーは不安そうな表情を浮かべて振りかえる。
「お前さんは、『生きて』いるんだ。つぅ~ことは契約は続行中ってことだ、ハーデ
ィンんとこに行くぞ」
「でも…場所が」
アルシャは顔をパッと明るくしたが、すぐに取引場所を知らない事に気づき、表情を
曇らせる。
「あ~心配いらねぇ……ちょっと道案内させてもらうぜ」
そう呟くとレイヴンは、さっきまで自分達が居た酒倉庫へと向かって鉄鎖を投げた。
「グギャ」という短い悲鳴と共に、何かをしめつけるような音が響いた。
「ぬんっと……こりゃ便利だ、ただ粉砕するだけじゃなく、こんな使い方もアリだ
な」
片腕でひょいっと鉄鎖を引っ張ったレイヴンは豪快に笑い出した、まるで生き物の様
に戻ってきた鉄鎖の先には、黒装束を着た男が身体を締め付けられて窒息寸前の状況
でもがいていた。
「こ、この人は…?」
「さあねぇ…だが取引場所を知ってそうだ、なあ、兄ちゃん?」
レイヴンが鉄鎖をさらにキツクしめると男は狂った様に首を縦に振った。
「ぃよ~し、しっかり案内頼むぞ、兄ちゃん」
レイヴンは鉄鎖をほんの少し緩めると、黒装束の男を見下ろし悪戯っぽくシシシと笑
った。