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2024/05/21 17:43 |
1.ロッティー&レイヴン『四つ羽の死神』/ロッティー(千鳥)
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC  ロッティー
NPC  ハーディン氏 ソフィア ロッティー人形
場所 クーロン近郊
--------------------------------

男はその日、酷く苛ついた気分で夜を迎えた。
暗い書斎の安楽椅子で一人書類に目を通す。
空いた左手の人差し指は机を叩きながら神経質なリズムを奏でていた。

「旦那様、クーロンから例の占い師が到着しました」
「分かった。上がらせろ」
 
普段なら、占い師なんぞうん臭い人間を招いたりしない。
散々相手を脅して金銭を巻き上げるだけの乞食など如何して信用できよう。
しかし、この大事な時期、念に念を押した所で足りぬことは無かった。
彼が呼んだのは『クーロンの道標』とも呼ばれる、裏の世界では名の通った占い師。
先読みを得意とし、クーロンを牛耳る組織の幹部たちもその力にあやかる為に足を運んでいるとの噂である。
存在自体は気に入らなかったが、その占い師をワザワザ屋敷まで呼び寄せるという行為は男の自尊心を充分に満足させた。
あとは、その占い師に一言成功すると言わせれば、きっと男の不安は払拭されるはずだった―――。

「失礼いたします」

ノックをして静々と入ってきた占い師は、彼の予想に反して若い女だった。
歳にしてせいぜい二十歳を越えたばかり。
かのクーロンの占い師がこんな若いはずがない。
彼が問い質すより早く、女は小さいが透き通る声で話を始めた。

「わたくしはエルゼ様の一番弟子、ソフィアと申します。申し訳御座いませんが、今晩、師は火急の用ができまして、参ることができなくなりました。差し出がましいとは思いますが、お宅様はお急ぎの依頼との事でしたのでわたくしが変わりに・・・」
「帰れ!この阿婆擦れが!!」

女は最後まで言葉を紡ぐ事が出来なかった。
男は女の言葉を遮ると机に拳を勢いよく叩きつけて、激昂する。
女は男の剣幕に怯えながらも真摯な目で訴えかける。

「も、もちろんお代は頂きません」
「当然だ!あの女に近づく為にどれだけの金を使ったと思ってる!!それを…」

馬鹿にされた。
元々気の短い男である。
彼の怒りは収まるところを知らなかった。
そのハズであった。
しかし、凛とした女の声が彼の理性を呼び戻させた。

「ミスター・ハーディン。どうか落ち着いてください」

女のランプに灯された黄金に輝く瞳を見ていると自然と言葉通り、気持ちが落ち着いてくる。 
 
「貴方様には死相が出ております」
「!」

脅すつもりか。
しかし、女の表情は依然変わらない。

「わたくしは、その運命を変えるために、ここに参ったのです」
「……」

男は改めて女を見た。
夜の闇に溶ける黒髪に、炎に照らされた琥珀色の瞳は吸い込まれるような力が宿っている。
とりわけ美しい訳ではないが、優しげな造作は彼女の性格を物語っているようだった。
  
「いいだろう・・・。お前にどれだけの能力があるか知らんが、見当はずれな事を一言でも口にしてみろ。その命無いと思え」
「努力はいたします。しかし、運命を変える為には貴方様自身が変わらねばなりません。わたくしはそのお手伝いをするだけ・・・」

女は男の前まで近寄ると、荷物の中から薄紫色の蝋燭を取り出した。
それに火を灯すと部屋の脇に置かれていたランプの火を消す。
部屋の中は一層暗くなり闇に近づいた。
紫の蝋が溶け出し、蝋に練りこまれた甘い香りが部屋に満ちる。

「では、貴方様の未来を占わせて頂きます」
 
------

 ソフィアという名の占い師が屋敷を出ると、外には一台の馬車と、一人の女が立っていた。
 女はくすんだ灰色の髪を夜風に靡かせながら、早足でソフィアに近づく。
「大丈夫だった!?」
「うん。平気よ、ちょっとドキドキしたけど」
 巨大なハーディン邸を振り返りながら、ソフィアは軽く額の汗を拭う。
 口調は幾分か砕けて、依頼主の前に居た時よりも可愛らしい印象を与えた。
「でも、噂どおりほんとに気難しそうな人だったわね」 
「御免なさい・・・こんな危険な依頼人を貴女任せるなんて」
 女は己を恥じるように顔を覆った。
 本来、これは彼女の仕事であったのだ。
「気にすること無いわ。私は何にもなかったんだもの。貴女が行っていれば、『厄災』が降りかかっていたのは他の皆も知っているのだから。ね。ソフィ
ア?」
「ロッティー・・・」
 ソフィアと呼ばれた灰色の髪の女は顔を上げた。
「私たち兄弟みたいに育った仲じゃない!この蝋燭も役に立ったしね」
 ロッティーは甘い香りの漂う蝋燭をソフィアに返した。
「いいのよ。持って行って」
「私の商売は路上だもの。効果なんて無いわ」
 ソフィアは肩を竦めて笑うロッティを眩しそうに見つめた。
 僅かな期間とはいえ、同じ師に弟子入りしたソフィアとロッティーであったが、力の差は歴然としていた。
 それをソフィアも熟知していたのだ。
「占いのほうはどうだったの?」 
「う~ん、ちょっとねぇ…」

----------

「―――残念ながら、取引は失敗に終わると出ております。それだけではなく、貴方様の命も…」
「ど、どうにか出来ぬのか!?」
 先ほどの占い師を馬鹿にした態度は一変し、男の目は真剣そのものであった。
 ダークブラウンの瞳の瞳孔が大きく開いている。
 もっとも、これはロッティーの用意した蝋燭に含まれる幻覚剤の作用である。
「貴方様の目的を邪魔するのは『四つ羽の死神』。それに対抗する為に貴方様も死神・・・それ同等の力を持つ人間を雇わなければなりません」
「今いる用心棒では足りないというのか?」
「えぇ、残念ながら」
「で、その人間とやらは何処にいるんだ!?」
「『彼』は貴方が雇うのではありません。別の人間に雇われてやってくるのです」
 カードをめくる直前、おや、とロッティーは顔を上げた。
 突然頭に浮かんだのは、意外なカードだったからだ。
(何でこんなカードが・・・?)
 表を開けば、カードはやはり閃きとは全く異なった図柄で、慌てて意識を集中しなおす。
「……目的を忘れてはいけません。受け入れなくてはなりません。『彼』を連れて来るのは貴方にとって最も大切な人なのですから」

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2007/02/25 23:06 | Comments(0) | TrackBack() | ○四つ羽の死神

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