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2024/05/21 07:52 |
5.『四つ羽の死神』追跡編~/ロッティー(千鳥)

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  PC  ロッティー  レイヴン
  場所  クーロン
  NPC アルシャ
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幻蝶館を後にしたレイヴンとロッティーは並んで歩いていた。
二人に会話は無く、ただ黙々とハーディンの館に向って歩を進めていた。

「なあ、ロッティー」

不意にレイヴンが口を開く、ロッティーは巨身の彼を見上げる。

「人間ってぇのはな、なんつ~か…脆いもんなんだ」

レイヴンは前を向いたままそう呟く、ロッティーは無言で彼を見つづけている。

「いや、人間だけがって意味じゃねぇんだけどな、生物ってのは生れる時に『生』を
与えられる。それと同時に『死』も与えられてんだ。それがどんなに納得いかねぇも
んでも、受け入れるしかねぇんだ。後に残された奴が出来るのは…忘れねぇでいてや
る事だけだ」

彼にしては長い台詞、それを聞いてロッティーはやっと、レイヴンが自分を慰めてく
れていることに気付く。
100年以上は生きているレイヴンは、まだ若いロッティーに比べると経験もその道の知
識も豊富ではあるが、その生のほとんどを一人で生きてきた。こう言う状況でなんと
言えば良いのか、酷く模索している様だった。
おそらくこの状況が、戦場で戦友の死を悲しむ兵士が相手だったら…彼は慰めの言葉
などは絶対に吐かなかっただろう。相手がロッティーであるからこその気遣いだっ
た。

「だ、大丈夫ですよ、私は。ほら、こんなに元気ですから」

ロッティーは笑顔で両腕を上に伸ばして上下させる。そんなロッティーをちらりと一
瞥したレイヴンは、赤い瞳を再び前に向ける。元気なはずが無い、心配させたくない
様に元気だと偽っているのだ。

「なぁ、ロッティー…」

レイヴンが再びロッティーに話しかけようとした時、言葉を途中で区切り、前方を睨
みつける様に見る。レイヴンの顔を見上げていたロッティーも彼の横顔が徐々に険し
いものへと変わっていくのに気付き、彼に習って前方を見る。
目に映ったのは、半壊したハーディンの館だった。



「こいつは一体…」

さすがのレイヴンもこの状況に困惑した様だった。しかし、それも一瞬の事だった。
すぐに我に返ったレイヴンは、その巨体からは想像も出来ないスピードで駆けると、
壊れていない門を蹴飛ばし、玄関の扉を踏みつけて館にの中に入った。中は外よりも
酷くあらされており、使用人や他の用心棒達の死体が所々に散乱していた。

「俺様が居ないあいだに何があったってんだ?」

レイヴンは瓦礫を踏み分けながら崩壊しそうな階段を上っていき、ハーディンの部屋
の扉をあけた。そこもあらされていたがハーディン本人は見当たらなかった。

「レイヴンさん、これは一体…」

一階に下りてきたレイヴン、やっと追いついてきたロッティーが息を切らせながら問
う。

「解らねぇ、全員死んでいる様だが…ハーディンのやろうもアルシャの嬢ちゃんも見
あたらねぇ」

レイヴンが辺りを見渡していると、ロッティーがレイヴンの足元に視線を移す。

「地下に、誰か居るみたいです」

ロッティーの言葉にレイヴンは怪訝そうな表情をしたが、彼女の瞳が琥珀色に輝いて
いる事に気付き、確信を持った。

「地下だな?」

そういうとレイヴンは拳を強く握って作ると、思いっきり床に叩きつけた。一発でヒ
ビが無数に走ると、それはドンドンと増えていき、とうとう足もとの床が音を立てて
崩れ始めた。

「ちょこっと我慢してくれな」

レイヴンはロッティーをその身体に包むとその上から外套を被り、彼女を下敷きにし
ない様に気を付けながら、地下に向って降下していった。



「誰もいねぇな?」

崩れ落ちた天井を見上げたあと、地下室であろう部屋を見渡してレイヴンが言った。
確かに、この部屋にはレイヴンとロッティー以外、誰も居ない、居なくてよかった。
おそらく酒でも置いてあったのか、プ~ンとぶどう酒の匂いやアルコールの匂いが充
満している。

「いえ、この隣の部屋から感じます」

「しゃあねぇ、ちょっとどいてろ」

ロッティーを下がらせると、彼はまた拳を強く握り…

「まさか、また!?」

ロッティーの声を遮り、丸太のような腕がいともあっさりと石の壁に大穴を開ける。
物凄い迫力である。

「だ、だれ!?」

ロッティーの言ったとおりだった、生存者がいた。腰が抜けているのか、床にぺたん
と尻餅をついているが、震える声で、それでも勇ましく短剣を構えている。

「アルシャ、無事だったのか?」

レイヴンは短剣を構えている生存者、彼の雇い主の名前を呼んだ。

「れ、レイヴンさん?レイヴンさんなの?」

生存者―アルシャは壁をぶちぬいて出現した者の正体がレイヴンであると解ると、短
剣を取り落とし、瞳を潤ませて泣き出してしまった。レイヴンはアルシャに近寄ると
静かに腰を下ろした。

「何があった?」

レイヴンはなるべく落ち着かせる様な口調でアルシャに問うた。

「わからない…わからない…」

アルシャは顔を手で覆って首を横に振る、何かに脅えているようだった。

「レイヴンさん、その娘は誰ですか?」

後ろからひょっこりと顔を出したロッティーがレイヴンを見上げる。レイヴンは腰を
下ろしているので立っている時よりも話しやすそうだ。

「ああ、こいつはアルシャってんだ、ここのハーディンの娘だ」

「…レイヴンさん、ここは私に任せてください」

「んん?任せるって何を…」

ロッティーはレイヴンへ向ってにこりと笑って頷くと、アルシャの側まで歩よってし
ゃがみこんだ。そして手に持っていたロッティー人形の両腕を自分の両手で持つとク
イクイと動かしながらアルシャに話しかけた。 

「やあ、初めましてアルシャさん、私はロッティー、宜しくね」

まるでロッティー人形が喋っている様に見える。
その光景に、いままで泣いていたアルシャは顔を上げ、きょとんとした表情でロッテ
ィーの顔を見る。

「かわいいお顔が台無しだよ?はい、これを使って」

ロッティー(人形)はそう言うとハンカチを取り出しアルシャに差し出す。
まだ動揺しているアルシャにロッティーは優しく微笑む……アルシャの顔に、笑顔が
戻っていた。



ロッティーの腹話術(?)と優しい話し方のおかげでアルシャはだいぶ落ち着きを取
り戻した様だった。ポツリポツリとアルシャは、ハーディンのいきさつを話し始め
た。

「パパはレイヴンさんの帰りを待たずに第2の取引場所に行ったの、もちろん沢山の用
心棒をつれて」

「ったく、あの野郎は何を考えてるんだかな」

「パパが出かけてちょっと経って…ホンの1~2分くらいだった、いきなり家が揺れた
の、地震なんてものじゃなくて何かがどーんとぶつかったような…その後、悲鳴が上
がって…ビックリして、そっちの方を見ると…」

そこでアルシャは言葉を切ると俯いた、ロッティーは心配そうにロッティー人形ごと
覗きこんだが、アルシャは「大丈夫」と言って話しを続ける。

「…そっちを見ると、そこにそいつはいたんです」

「そいつ?」

ロッティーが聞き返し、アルシャが頷く。

「とても…大きかった、あなたよりも」

アルシャがレイヴンを見上げて震える声で言った。

「背中に2枚の羽をはやしてた…真っ黒な、悪魔のような羽を…」

「2枚?4枚じゃなくて?」

ロッティーの質問にアルシャは首を縦に振る。

「確かに2枚でした」

ロッティーが困惑気味の顔でレイヴンを見る、占いでは『四つ羽』の死神のはずだっ
た。レイヴンも困ったような面をしていた。

「…み、みんな殺されて…私、私を逃がすため…」

アルシャは堪えきれず涙を流した。
その涙を見たか見ていないのかは知らないが、唐突にレイヴンが立ち上がる。

「レイヴンさん?」

突然立ちあがったレイヴンをロッティーは不安そうな表情を浮かべて振りかえる。

「お前さんは、『生きて』いるんだ。つぅ~ことは契約は続行中ってことだ、ハーデ
ィンんとこに行くぞ」

「でも…場所が」

アルシャは顔をパッと明るくしたが、すぐに取引場所を知らない事に気づき、表情を
曇らせる。

「あ~心配いらねぇ……ちょっと道案内させてもらうぜ」

そう呟くとレイヴンは、さっきまで自分達が居た酒倉庫へと向かって鉄鎖を投げた。
「グギャ」という短い悲鳴と共に、何かをしめつけるような音が響いた。

「ぬんっと……こりゃ便利だ、ただ粉砕するだけじゃなく、こんな使い方もアリだ
な」

片腕でひょいっと鉄鎖を引っ張ったレイヴンは豪快に笑い出した、まるで生き物の様
に戻ってきた鉄鎖の先には、黒装束を着た男が身体を締め付けられて窒息寸前の状況
でもがいていた。

「こ、この人は…?」

「さあねぇ…だが取引場所を知ってそうだ、なあ、兄ちゃん?」

レイヴンが鉄鎖をさらにキツクしめると男は狂った様に首を縦に振った。

「ぃよ~し、しっかり案内頼むぞ、兄ちゃん」

レイヴンは鉄鎖をほんの少し緩めると、黒装束の男を見下ろし悪戯っぽくシシシと笑
った。


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2007/02/25 23:17 | Comments(0) | TrackBack() | ○四つ羽の死神

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