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2024/11/08 05:41 |
アクマの命題【17】 巡る真相、探る深層/スレイヴ(匿名希望α)
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PC:スレイヴ メル
NPC:悪魔ウィンダウス 
場所:ソフィニア魔術学院
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 初めて見る退魔師の仕事。現場はスレイヴにとって少々物足りないシロモノで
あった。
 瀕死の重傷を負ったメルが最後の力で行ったと思われる浄化の炎は、悪魔の身
を焼き存在を削っていく。

「やれやれ、名を知られたからと言って命乞いですか。あまりに見苦しいです
ね。哀れみの念すら浮かばない」

 情けない────呟くスレイヴは嘲笑を浮かべている。
 頭を振りつつメルを視界に捕らえる。彼女は死にかけている。この悪魔と心中
とは余りに愚かしい。嘲笑を込めて彼女を見やるがスレイヴの表情が固まる。
 幾分か、先ほどより血色がいいのだ。その事実にスレイヴは目を見開いた。
 対してメルは燃え行く悪魔を睨み付けており、スレイヴの視線に気づかない。

 何故回復している?回復魔法?だろうか。しかし、その兆候は見られない。場
の魔力の動きは無し。では神の加護?神の奇跡?この術の事は詳しくは知らな
い……だが、この回復力は尋常ではない。魔法だろうと加護だろうと、施行には
代価を支払わなければならない。抉られた肉の補修、大量出血を補うほどの血を
生成?どれほどの代価を必要とするのだろうか?現状から推察すると、この場で
何かを消費しているようには思えない。

 ならば何を代価としているのか?寿命か記憶の消費?現在解っているのは彼女
の身体は数年前で成長が止まっている事のみ。

 精神的な代物ではないのならば、人体のあるべき姿から逆らっている呪術の
類……言わば不老。この異常治癒能力と関わっている?……この呪術は不老とい
う考え事態が間違っている?この能力は治癒?回復?修復?修繕?修理?再生?
蘇生?……これでは成長しないという事と係わり合いがない。それとも複数の呪
術?

 ……興味が尽きないですねぇ

 醜い悲鳴を上げ続ける悪魔を前にして考えいたが、耳障りに感じてきたスレイ
ヴはそのまま声に出す。

「止めは刺さないのですか?」

 騒音公害。すでに致命傷を受けている悪魔を殺ることは容易なのではと推察す
る。
 対してメルは「いえ」と小さく呟いた。

「この悪魔には、最後まで聖なる炎に焼かれながら懺悔をしてもらいます」

 固い表情のまま答えるメル。悪魔への拷問を懺悔というのなら、止めは救済に
なるのだろうか。
 メルの瞳には何が移っているのだろう。聖職者は救いを求める悪に対して懺悔
という名の拷問を要求するのだろうか。スレイヴに察することはできなかった。

(悪魔という存在がよほど気に入らないのでしょうか?)

 業が深ければ深いほど知りたいという欲求は増す。利益を求めるという行為で
はない。
 ただの知識欲である。

(それがわかるのなら相応の代償を払いましょう)

 その間にも悪魔の悲鳴が大人しくなっていく。
 叫ぶという機能まで消え始めたのだろうか。悪魔に再び意識を戻した瞬間、悪
魔がふと消え失せた。

「おや?」

 スレイヴは不自然さを覚える。どういうことかとメルを見やった。
 一つ息を吐きゆっくりと目を瞑ったメル。静かな口調で答える。

「悪魔は退散いたしました。これでもう安全です」

 再度悪魔の居た場所を見つめるメル。スレイヴも同じく焦げ跡すら残っていな
い床を見る。
 喧騒が過ぎ去った室内。壊れた屋根や壁から光が差し込み彼らを照らす。

(残留思念の欠片もないようですね。退散というならその通りですが……)
「退魔師(エクソシスト)の現場は初めて見ましたが、中々に興味深い物でし
た。しかし……あのように粗野な作業なのですか?」

 自らの体を削り窮地まで追い込まれていたメル。戻ってきた時に見た惨状。
 皆々ああでは退魔師は途絶えてしまう。解っていながらスレイヴはあえて問
う。
 
「他の方はもっと速やかに悪魔を退けるでしょう。私はまだ未熟で」
「それだけではないでは?」

 言葉を遮られたメルは身を震わせる。スレイヴの言葉の意味を瞬時に理解した
のだろう。
 メルはこれまでのスレイヴの行動から「スレイヴ・レズィンス」という人物を
ある程度知る事が出来ただろう。
 次の行動を察したのか、表情が強張っている。

「まぁいいでしょう。では、そうですね、この場で私はあの悪魔の名前も知らな
かった。貴女は傷を負わずに退魔に成功した。という事にしましょう」
「え……?」
「先程の悪魔は名を知られてもいない存在。先日の事件を起こした悪魔に引きず
られて出てきた小物」

 事実の捏造。スレイヴは少しばかり首をかしげながら考える。
 2、3秒後には纏まった虚実を口にする。

「小さな聖職者を見つけ、その悪魔は小物らしく貴女を挑発し呼び出した。そし
て襲い掛かるが返り討ちに。あの少年や貴女の今の格好……丁度いいですね」

 自分の造った状況を見直し、くすくすと笑うスレイヴ。そしてメルに視線を合
わせる。
 きょとんとしているメルの表情がより一層スレイヴを刺激している事は気づい
ていないようだった。

「この場に呼び出されて不意を突かれ、衣服を刻まれ。迫る悪魔は貴女の胸に爪
を突きつける……正にこれから凌辱しようという展開ではないですか」

 言われ、メルは自分の姿、服が破けている部分を再確認した。

「きゃぁあ!」

 羞恥で顔を赤くしながらその腕で胸を隠ししゃがみ込むメル。心臓を抉られれ
ば服は破けているわけでありまして。
 血まみれの法衣がより危険な雰囲気をかもし出していた。
 スレイヴは爽快な笑みを浮かべている。

「あぁ、私は”彼ら”のような趣向はないので、大丈夫ですよ」
「何の話ですか!」
「しかし非常に背徳的ですね……幼いシスターの法衣をはだけさせ弄ぼうとする
のは、実に悪魔の所業と言えるでしょう」

 一人大きくうなずきながら納得している。表情は至極真面目である。関心して
いるようにも見える。

「貴方も同じです!」
「おや、ほめられてしまいました。照れますね」
「ほめてません!」

 抑揚のない棒読みなスレイヴの切り返しにしゃがみ込みながらも突っ込むメ
ル。
 そんな中、スレイヴは一つの考えに思い当たる。

(彼らのような趣向……これ以上成長しない彼女。この姿が全て。成長しようと
もこの姿を留める。欠落しようともこの姿に戻る?)

 大それた欲求の一つ「不老」もどきの呪術。もしそんな呪術が彼女にかかって
いるのなら、呪いをかけた存在は何を思って行ったのか。もしそれが彼らと同じ
なら。
 スレイヴは大声を立てて笑いたい衝動に駆られたが、表面に現れる前に押さえ
つける。

 考えを切り替えるため、スレイヴは自分の青いマントをはずして二つ折りにし
た後に、しゃがみ込んでいるメルの肩にかけてやる。

「え?」

 恐る恐るメルはスレイヴを見た。が、スレイヴの視線はすでにメルから外れて
いた。
 この場の惨状の具合を確かめている。

「そのままの格好では、着替えがある場所にも向えないでしょう。今の貴女の姿
が人目に着いては私の代案も無駄になってしまいます」

 怪我をしていない、ということになっている。血に濡れた法衣は存在しないは
ずなのだ。

「貴女の血がこぼれた所が陣の上でよかった。これなら楽ですね。少し離れてく
ださい」

 疑問を問う前にスレイヴが半目で集中する。手をかざすと同時に敷かれた陣が
光り、その下にもうひとつの陣が現れる。
 加速──重力に逆らい浮き上がる血液。3つの陣が立体的に液体を囲むと徐々
に球体になっていく。
 凝固──陣がその下に一つ現れ、激しく光ると同時に球体となった血溜りが急
に小さくなった。
 スレイヴがその陣に手を突っ込み、小さくなった鈍く赤い色をした球体を手に
取る。

「これは貴女のモノですよ。どうぞ受け取ってください」

 前が綻びないように右手でマントを握り、マントの裾から手を出すメル。
 渡されたのは石のように固い、メルでも握り締められるような小さな玉。

「これは?」
「貴女と同じ成分の……宝石、とでもしておきましょう。血は魔力の源でもあり
ます。あれだけの血液ですから、相応の力が含まれているでしょう。ただ、即席
ですので……精度は少々荒いですがね」

 赤い玉を観察しているメルをよそに、スレイヴは部屋の入り口へと向う。
 はっとしてメルはスレイヴを視線で追う。顔だけ振り返り横目でメルと視線を
合わせたスレイヴ。

「この場の後片付けは済みました。さぁ戻りましょうか。送りますよ」

 スレイヴに終始奔走させられていたメル。その思いからか誘いに一歩留まっ
た。一つ深呼吸をして目を瞑り静止していたが、ゆっくり目を開いた後に静かな
口調で答える。

「お願いします」

 その意思のある瞳に、スレイヴは満足した。


 ‡ ‡ ‡ ‡


 ────学園内某所。

『あの小娘……次は必ず殺してやる!』

 削られた躯体。退いた悪魔はまだ現世に留まっていた。
 退魔であって抹殺ではない行為。

『今に見ていろ……油断などしなければ』
「次はねぇんだよクソペド野郎」
『!?』

 白い短髪のチンピラがガンをつけている。

「気配が小せぇがこの俺様の探知がら逃れられるやつぁいねぇ」
『はっ!貴様程度が何をしようというのだ。邪魔をするな』
「あぁん?最後の台詞はそれでいいのかよ。ケッ。クソ面白くもネェ」

 どうしようもねぇなとつまらなそうに空を仰ぐチンピラ。
 その横に赤髪の男がいる。そいつからは魔力をまったく感じられないため、悪
魔は無視を決めた。

『貴様も死にたいらしいな』

 急接近。鋭利な爪をチンピラの心臓へ突き出す。が、

『ガッ!?』

 殴られた。横の赤い髪の男に。
 ただの拳だというのに、根底を揺るがすほどの衝撃。赤髪の男は軽く突き出し
た拳の攻撃だったはずだ。
 飛沫のように揺らぐ存在。自分という意思が削られたかのような喪失感を覚え
た悪魔。

「存在に依存して存在している存在?ワケわかんねぇかもしンねぇけどよ。そい
つらの存在そのものをブッ壊したらどうなるか知ってっか?」

 目の下のモノを嘲笑うチンピラ。その表情が悪魔を逆撫でる。

『キサマァァァ!』
「ぎゃはははは!それだよソレ!それを聞きてぇンだよ!ってワケで消えとけボ
ケ」

 フェイントで悪魔の攻撃をかわすチンピラ。その先には赤髪の男。
 重心を落とした姿勢からの拳の一撃。東から伝わる武術の基本だっただろう
か。

『 』

 ”悪魔ウィンダウスに攻撃するという意思”が”悪魔ウィンダウスという存
在”を押し潰す。
 何も考えられなくなった悪魔ウィンダウスという”存在”は、

 世界から消滅した。

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2007/02/10 22:35 | Comments(0) | TrackBack() | ●アクマの命題
アクマの命題【18】 物語の謎は表紙に有り/メル(千鳥)
††††††††††††††††††††††††††††††††
PC:メル スレイヴ
場所:ソフィニア魔術学院
††††††††††††††††††††††††††††††††



 ソフィニア魔術学院、学院長室。

「―― 以上が今回の調査のご報告となります。学院長」

 真新しい修道服に身を包んだメルは一礼すると、調査書を学院長に手渡した。
 それを受け取った学院長は、ほっと安堵の表情を浮かべる。

「では、これで再び悪魔が魔術学院を襲うと言う事は無くなるのですね?」

 その問いに、小さな聖職者は厳しい顔をして首を振った。 

「いいえ、悪魔は常にわたくしたち人間を誘惑しようと狙っています。ですから、わたくしたちは聖書の教えを守り清い行いを――」
「そ、そうですね!生徒たちには悪魔に興味関心を持たないように、関連の書物は閲覧禁止を強化するように通達します」

 シスターの長い説教を予感し、学院長は慌てて同意した。

「えぇ、是非お願いします」

 そう頷きながらも、彼女の中には言葉には表現できぬ〝違和感〟があった。
 それはこの事件と、彼と、出遭わなければけして浮かばぬ感情。

 悪魔を知る事で、悪魔を凌駕したスレイヴ・レズィンス。
 悪魔と関わりながらも、けして悪魔に惑わされることの無い魔術師。
 あの姿こそ、メルの求める悪魔に負けぬ強さなのでは無いだろうか?

(何を考えているの!?メル)

 まるで悪魔の誘惑から逃れるように、メルは己を叱咤した。
 忘れてしまったのか?
 彼のあの利己的な言葉を。
 自分勝手な行動を。
 あれこそ神の教えに反する行為ではないか!

「それでは、わたくしは本日中にソフィニアを出ます。皆様に神のご加護があらん事を」

 静かに祈りを捧げて気持ちを落ち着かせる。
 何者にも傷つけられない身体と信念を持つはずのメルに、スレイヴはまるで池に投げこまれた小石のように小さな波紋を残して行った。
 

 ††††††

 日が傾き、長い一日が終わろうとしていた。
 たった一晩だけ過ごした学院の女子寮を、小さな旅行鞄一つで出てゆく。
 荷物が増える間も無い、あっという間の二日間だった。
 見送りに立つ人はいない。
 別れを告げる程親しくなった人間もいない。
 知り合った人々はあくまで仕事上の調査対象でしかなかった、彼らにとってもメルはただの調査員にすぎなかったはずだ。

「おや、もう仕事は終わったんですか?シスター」
 
 しかし、彼はそこに居た。
 裏門の一歩手前、古びた銅像の一つに背を預けていたスレイヴは、本を閉じて読書をやめると、まるでいつもの散歩コースで出会ったかのような気安さでメルに近づいた。

「ええ」
「そうですか、終わりましたか」

 念を押すように繰り返したスレイヴにメルの表情が強張った。
 この勿体ぶった言い方には覚えがあった。
 彼はまだ何かとんでもないこと隠しているのだ。
 メルの警戒をよそに、スレイヴはまるで世間話のような遠回りな会話を続ける。

「実は、先程図書館でこの本を借りてきましてね。私も一度手に取ったっきりで、探すのに手間取りましたが…。きっと貴女も興味がある内容だと思ったもので」

 スレイヴは持っていた本の表紙をメルに見えるように上げた。
 随分と古びた本で、まだ印刷技術の発達していない時代のものだった。
 古風な筆跡で表紙にはこう書かれている。

「『…ラトルの緑豆族成長日記』…?」

 所々破れた文字を声に出して読み上げ、メルは首をかしげた。
 一体、どこにメルとの関連があるというのだろうか。
 彼女の素直な反応にスレイヴは満足そうに口の端を上げた。
 そして、白い手袋ごしに本の表紙を軽くさする。

「!」
 
 既に枯れかけたインクの文字が、まるでスレイヴの指先から逃れるように表紙の上を踊った。
 本の表紙を走り回った文字は再び元の位置に戻ろうとしたが、並ぶ順番を間違えたかのか、全く異なるタイトルの本になっていた。 

「…魔召喚書。『ラクトルの悪魔召喚書』!?」

 歴史上から消えたはずの魔導書。
 スレイヴが、バルドクスが悪魔を召喚する際に用いた古代の悪魔召喚陣の記されている禁書。 

「何故、こんなものが魔術学院に…」
「どうやら、この本を書いた人物はこの学院に縁故のある者のようですね。あなたもご存知だとは思いますが…私が知る限りでこの本の著者についてお話しましょうか」

 スレイヴはまるで物語を話すような口調で話を始めた。
 ちょうど数日前にメルが教会で子供たちに聞かせたときのように。

「彼は貧しい家の五人兄弟の末っ子で、富も名誉も持たない子供でした。しかし、彼には『知恵』があった。森に住む魔法使いの元で下男として働きながら、彼は夜に独り魔術を学んだ」
「スレイヴさん…それは…」

 メルはこの話を良く知っていた。
 だが、それは悪魔召喚陣を開発した男としてではない。

「しかし、貧しい師の元での修行は限界があった。そこで彼は『人で無いもの』から知恵を、力を借りる契約法を生み出した。悪魔を欺き、神にも挑む存在となった男を人々は賢者と呼んだ――」
「それは……」
「賢者クラトル。この本は晩年に書かれたようですから、流石の彼も本名で書く事を控えたようですね。しかし、彼の『知恵』を求める者が現れれば…」
 
 スレイヴの足元に魔方陣が浮かび、すぐに消えた。
 見間違えるはずもない、淡い光を放つ『ラクトルの召喚陣』。

「彼は惜しみなくその知識を分け与える。すばらしい。まさに言い伝えの通りですね、シスター」
「あなたは、最初から何もかも知っていたのですか!?知っていて…」
「知るも知らないも…私には興味の無いことです。たまたま、私の研究の参考になる本を書いたのがラクトルであり、貴女方の言うところの賢者クラトルだった」
 
 彼の主張は、確かに首尾一貫していた。
 しかし、メルに、彼を信奉するイムヌスの教徒にとっては、彼が悪魔召喚書を書き残した事実は信じがたいものだった。

「貴女には、大きな試練があるといいましたね、シスター・アメリア」
「はい…」

 ショックを隠しきれないメルに、少しだけ優しい口調でスレイヴは言った。

「貴女は過程を気にしすぎる。目的さえ見誤らなければ、方法などさして重要な事ではない。クラトルも良い例なのでは?」

 ならば、悪魔すら駆使するスレイヴの目的とは、一体なんと言うのか。
 恐ろしくてメルには尋ねることが出来なかった。

「では、この本は図書館に返却しておきますが、よろしいですね」
「え!?そんな…」

 それは困る。
 
「ちゃんと返さないと、司書の目が光ってますからね。それに、貴女の仕事はもう終わったのでしょう?」

 すかさず切り返すスレイヴに思わず言葉を詰まらせる。
 そして、大きな大きなため息。

「…分かりました」
 
 きっと賢者クラトルもそれを望み、このような魔法をかけ、この学院に存在するのだろう。
 いつか、この魔導書を紐解き、利用する者の為に。
 それは破壊か、いずれくるという悪魔との戦いの希望か――。

「神は、何故わたくしと貴方を引き合わせたのでしょう…」
「それを考えるのもまた試練の一つでしょうね」

 門の外までメルを見送ったスレイヴは、右手を差し出した。
 メルも迷う事無くその手を握り返した。

「同じ時を生き、同じ大地を踏みしめる限りいずれお会いすることもあるでしょう」 
「えぇ、それまでスレイヴさんも元気で」
 
 学院の鐘が静かに夕暮れを告げ、『ソフィニア魔術学院悪魔召喚事件』の幕は降りた。
 しかし、事件の全容を知る者はごく僅かだった。

 ††††††

 聖騎士は奇蹟の悪魔を求め

 聖少女は魔道師の英知に触れ

 魔女は悲しみの歌を紡ぐ 

 ――― 運命の日は近い。

††††††††††††††††††††††††††††††††

 アクマの命題 第一部 【完】

2007/02/10 22:36 | Comments(0) | TrackBack() | ●アクマの命題
1.ハニーイエロー Honey Yellow/リタ(遠夏)
PC:リタルード
NPC:重要キャラは特になし(たぶん
場所:成り行きに任せるので今は未定
-----------------------------------------

大きく窓をとったつくりのため明るい室内。
平均的な成人男性よりも頭ひとつ分ほど高い本棚。

今日も晴れていてよかった、と店主は思う。

天気の悪い日は客の入りが悪いし、なにより本が湿気ってかわいそうだ。
身体が重たくて、おまけに誰にも手にとってもらえないなんて、気の毒で仕方ない。


あくびをかみ殺しながら、新しく入ってきた客にカウンター越しに声をかけようとし
て、
読みかけの本をばさりとひざの上に落とした。

その客は狭苦しい棚の間を通って、次々と本を抜きとっていく。
その姿を見たほかの客たちの反応は、
店主と似たり寄ったりで、あんぐりと口をあけたり、
中にはちらりと見ただけで無視を決め込んだものもいる。

その中で例外がひとり。

「あ、くまさんだー」

店内で、ほかより背の低い棚の並ぶ区域。
母親の驚愕と焦りを無視して、無邪気な声をあげた子どもに、
その客----大きな頭にガラス玉の眼の、濃い茶色のもこもこした毛皮の
客は注意をむける。

「くまさんおっきいねー。マリーのおうちにもくまさんあるけど
くまさんみたいにおおきくないよー」

「こらっ、マリー」

躊躇いも無く問い掛ける子どもの腕をつかんで、母親が子どもを
引き寄せる。
子どもは抗議の声を上げたが、くまが自分に手を振ったのを見て、笑って「また
ねー」と言った。

「あ、どうも」

カウンターに本が置かれて、反射的にそう言って、
店主はその冊数に目を丸くする。

「カバーおつけしましょうか…?」

その問いにくまは首を振って----ガコガコと音がした---- 、
壁に貼られた紙を指差す。

”10冊以上のお買い上げで布製の手提げ袋おつけします”

なるほど、そのもこもこした手では本を運ぶのはしんどいだろう。

「…まいど」

代金を受け取って、商品を渡す。
店を出るとき、客が軽く会釈したのがなんだか好印象だった。

「あぁ」

店主はつぶやく。

----今日はいい天気だなぁ。




「あっちぃ」

着ぐるみの頭部をはずして、ベッドに腰掛ける。

窓の外はもう暗い。
今夜は新月のはずだから星がさえて見えるだろうとリタルードは思う。

汗で額に張り付いた金髪を指でつまんでもてあそぶ。
一時は腰に届くほど長くしていた髪だけど、今はある程度短くしてひとつにまとめて
いることが多い。

今日買った本はこの街を出るまでに読んで売らなきゃならない。
荷物を増やしたくないし、財産になるものでもないからだ。

着ぐるみを着て、外で出歩くことの難点は、暑さのほかにはしゃべれないことだ。
買い物の時にはそれほど支障は無いが、宿を借りるときが大変だった。

打開策としては首から黒板をさげることだろうか。それならその状態でうまくチョー
クで
字を書けるように練習しないと。

そこまで考えて、ふと気づいた。

僕、もしかしてすごく変な人になってる?

「なんかものすごくそんな気がするなぁ…」

つぶやいて、目線の先の机の上につまれた本の山を見やる。
数えたら十冊は優にこえていた。うん、変な人になってる。

「最近ずっとひとりだったしな」

そういえば独り言も増えた。

ぽろぽろと口から思考回路に流れる情報の一部がこぼれるのは、
あまり気持ちのよいものではないけれど、ついでてしまう。

よし、ナンパでもしにいこう。

決意して、自分の首から下がまだ着ぐるみをきたままだったことを思い出す。
むくむくのもこもこ。指なんかいつもよりぶっとくて愛らしい。

これ、明日には返却しないといけないんだよね。

足元に転がっていたくまの頭を手にとる。
何事も第一印象が重要なのだ。


2007/02/11 14:23 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors
2.ワイルドファイア/フレア(熊猫)
キャスト:(クマ)リタルード・フレア
NPC:なし
場所:街道
―――――――――――――――

さらさらと音さえ聞こえてきそうな、見事な銀砂が天空に埋め込んであった。

月は無い――が、広い街道を歩くには、街の明かりと
綺羅星(きらぼし)の瞬きだけで十分だった。

道中急いだが、とうとう日が暮れた。
しかしまだ宵の口だ。ここは宿場町ではないものの、宿を探すのは
深夜にならない限り、そう難しくないだろう。

ところどころ飲み屋から溢れる光が、路に人影を落としている。
流れてくる陽気な笑いと、温かそうな湯気を受けながら、フレア・フィフスは
肩のザックを背負いなおした。

まだ少女と言っていいだろう。16歳になるが、小柄な体つきのせいか、
よく年下に見られることが多いようだ。

細身の剣を腰に佩いている。鞘は白い陶器のような、あまり見ない素材だ。
だが、それを扱うであろう身体は、あまりにも華奢である。
剣を持ってはいるものの、軽装であり、防具らしい防具もほとんど身につけていな
い。

腰まで伸びた黒髪をひとつに束ねていて、それが歩くリズムに乗って跳ねる。
瞳は赤。火のように明るい色で、濁りもない。

ふと、その瞳が前方へと向いた。
そこだけちょうど街灯が切れていてよくわからないが、どうやら宿屋のようである。

空室があれば、あそこに泊ろう。

と、その見当をつけていた宿屋から人影が現れ、こちらに向かって歩いてきた。
うす暗く、相手がどんな人相をしているのかはよく見えない。
それでも、少し異様であるということははっきりわかった。

やたら頭が大きい。背が高いわけではないが、とにかく頭が大きい。

だが、宿屋は目の前なのだ。このまま疑問を振り払って通り過ぎ、
受付を済ませてしまえば、あとは好きなだけ眠れる。

無視を決め込んで、フレアは早足でそれとすれ違った。

「……え!?」

無視できなかった。
慌てて振り返る。そこにいたのは、どうみてもクマだった。
とはいえ、本物のではない。むっくりとした生地でできた、着ぐるみである。
例えるならば、カーニバルの時に子供達に風船を配っていそうな。

すれ違ってからすぐに振り向いたのか、クマもこちらを向いており、
ガラス製の黒い瞳に見つめられて戸惑う。
『中身』がどこを向いているのかは知れないが。

「なに、か…?」

ひたすら平静を装い、話しかけてみる。
クマは、がこん、と音を立てて首を縦に振ると、左右を探るように見渡して、
ぼすばすぼす、と、変な足音をたてながら向かいのアパートに向かった。
アパートの一階は道に面しており、バルコニーなど手を伸ばせばすぐに届く。

クマ――というより、クマの着ぐるみを着た『何か』は、そこにあった早咲きの
チューリップの鉢植えを手に取るり、くるりと振り返ってそれを差し出してくる。

「…私に?」

がこん。

「…」

とりあえず受取るが、「人様のものだろう?」と、もとにあった場所に戻す。
見ると、クマは少し頭を傾かせて突っ立っていた。

見ようによれば、落ち込んでいるようにも見えなくもない。


2007/02/11 14:25 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors
3.Cement/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
キャスト:ヴィルフリード・フレア・(クマ)リタルード
NPC:なし
場所:宿屋とその宿屋前
-----------------------------------------

 なんとなく、気分が落ち込む日というのは誰しも体験するものであろう。
 そして、今日が彼にとってその日であった。

 ある宿屋の一室。ベッドに倒れこむようにして寝転がっている壮年の男性がいた。
 この街での仕事を終えたばかりであるヴィルフリードは、ベッドに顔をうずめなが
らため息をついた。
 昔なら、仕事終わりの日は稼いだばかりの金を握りしめ、ぱぁっとバカなことに注
ぎ込んでいたのに、なんだこのザマは。
 そう心の中で毒づく。

 窓から見える空を見る。もう外は暗く、ヴィルフリードは今更ながら時間の認識を
する。
 しばらく、その空の色を眺めていたが、突如、むくりと起き上がる。

「こんなこと、やっててもラチがあかねぇか……」

 なにかを振り切るようにつぶやき、簡単な身支度を始めた。


「おや、どちらにお出かけで?」

 宿屋の主人が、ずらした眼鏡を少し上げ、声をかける。

「外で酒でも、かっくらってくるよ。
 ついでにカワイコちゃんでもひっかけてくるさ。」

 ヴィルフリードは笑いながら鍵を渡す。

「ハハ、旦那もお盛んなこって。
 いってらっしゃい」

 ヴィルフリードは、片手をヒラヒラと振りながら、玄関へ向かった。
 実際には、酒場という場所に行くこと事態が目的だった。酒場の、あのごった返し
た雰囲気に身を置きたかったのだ。
 あの、訳も無く浮かれた空気にいれば、この身体に溜まった腐った空気が抜けるの
ではないか。そんな、ことを期待しての行動だった。
 まぁ……カワイコちゃんがひっかかってくれれば儲けものだが。

 宿屋から出る。
 すると、ヴィルフリードは異変に気づいた。
 通行人が、わざわざ密集したところを選んで歩いている。
 ……いや、違う。宿の周りを避けるように、人々が通行しているのだ。
 ある人はなにかに視線を向け、ある人は早足にその場を通過していく。

 なんだ……?

 そんなふうに、余所見をしながら歩いていたのがまずかったらしい。

 トン

 何かにぶつかった。

「おっ…と。すまない」

 ぶつかったのは、華奢な少女だった。
 その少女の、こちらを見上げる瞳にヴィルフリードは心の中で少し感嘆した。
 どんな上等な宝石でもこんな色は出せまい。
 ぶつかった拍子か、まとめている髪の毛が少し乱れてしまっている。
 他に被害は……と見るが、特にないようだった。
 ついでに、胸はまだ発展途上であることを、ヴィルフリードは確認した。
 流石に、少女に対してそのような対象として見る気は無いのだが……それは男の悲
しい性(サガ)であるとでも思っていただきたい。

「あ……いや……」

 少女の声には困惑の色が混ざっていた。少女の視線の先がヴィルフリードから離れ
る。
 ヴィルフリードもそれにつられるように、少女の視線の先をたどる。
 そこには。

 巨大なクマのぬいぐるみ。

 クマは、何かを言いたげに片腕を中途半端にこちらに伸ばし、少しだけ首をかし
げ、突っ立っていた。
 簡単に言ってしまえば、その様は「寂しそう」であった。

 そのクマのぬいぐるみから、小さくではあったが、言葉が漏れた。

「横取り……」


2007/02/11 14:25 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors

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