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2025/10/29 05:16 |
浅葱の杖25 /トノヤ(アキョウ)
キャスト:トノヤ・ファング
NPC:ワッチ・月見・リア・セバス
場所:ヴァルカン/古い屋敷内
___________________

積み上げられた薪の上に、肩肘をついてダルそうに座っているのはトノヤ。
斧を片手にトノヤを睨み、いつでも来いと構えるのはワッチ。

「ほい」

やる気のないトノヤの手から薪が一本宙を舞う。

「ふんっ」

コッと乾いた音を立てて薪は真っ二つに割れ、ワッチの後ろに着地する。
ワッチの後ろには綺麗に割られた薪達が山積みになっている。
薪を割るために用意された切り株は寂しそうにポツンと隅に追いやられていた。


「ほい」
「おりゃっっ」

また一本。

「ほいほいっと」
「ふんふんがっ」

今度は二本。

「五本同時っ、ほいほいほいほい、ほいっと」
「うりゃりゃりゃりゃーーー!!ふげっ」

急に五本同時に投げられ、割損ねた一本がワッチの眉間に見事ヒットした。

「ぐぅうう、いたた~~……少年!今一本だけ明らかにオイラの眉間狙っただろ!遊
んでるんじゃないんだぞ!!!」
「だはははははは!修行が足りねーんだよ、親父殿!ひぃひぃ」
「な、なにをぉおおお!よし、もっと投げてみろ!全部打ち取ってみせる!」

「あーあー、やってるやってる。絶対こうなってると思ったんだよね」

修理の手続きを終え、様子を見に来てみればやはり真面目にやっていない。
ファングはやれやれとバンダナに手を当て、遊んでいる二人に近づいた。
近づいても気づかないほど熱中している二人に声をかけようとしたところで、ふと、
気づいた。

「あれ、月見は?」

肉体労働の薪割りより手続きを選んだ月見だったが、すぐ飽きて先に薪割りの様子を
見に行ったはずだったのに。
姿が見えない。

「おーい、そこの破天荒と不良少年、破廉恥こっちに来なかった?」
「あ、ファング。手伝いに来てくれたのか?でももう終わるよ、っていうかちょっと
割りすぎたかも」
「てめっ!おせぇんだよ!今頃のこのこ来やがって」
「ねえ、聞いてよ、人の話。月見来なかった?ずいぶん前にこっちに行ったと思った
んだけど」

遊んでいたようでちゃんと薪は割り終わっていたようで。
何日も持ちそうなほどの大量の薪が山になっているのが見えた。
ワッチは斧をもとの場所へしまっているところだった。

「月見~?来てないと思うけどなぁ。オイラ薪割りに夢中で気づかなかったな」
「きもちわりぃ奇声発する幽霊ならいたけどな」
「げっ、マジでここって幽霊でんの!?」
「そうそう、出た出た。働く男の汗はなんて美しいんダッ☆うひょーーーう☆とか
ゆって。気持ち悪かったから少年が薪投げつけたら居なくなったけど」
「マジうぜぇよ。鼻息荒ぇし、一回投げつけただけじゃくたばらなくてよ。三本めで
やっと、こ、これも愛ッ☆とかいいながら、成仏したんだよな」
「ちょ、と、え。それって…さ。えええ!?どう考えたってそれ月見じゃん!!」

なんで気づかないかな!と、急いで、幽霊が出たという墓石の陰に向かうファング。

覗き込んでみると案の定、眉間に三つのたんこぶをこさえながら気絶している月見を
発見した。
気絶しているくせに幸せそうな顔をしていたのは気づかなかったことにして、とりあ
えず起こそうと、月見のたんこぶを木の枝でつついた。

「つんつん。おーい、生きてるかー?」
「……うぺっ。んがっ!?目覚めたら目の前にはバンダナ王子が目覚めのチッスをs
……」
「するかぼけ!ぎゃー!巻き付くな!人間の動きをしろ!」

軟体動物のように腕にまとわりつく月見をどうにか引きはがしながら、薄気味悪い墓
の群れから離れ、凸凹二人のもとへ……

「って、いないし!」

さっきまでそこに居たはずの破天荒と不良少年は、すでに屋敷の中へ戻ったようだっ
た。

「あっは、ファング君もボクも放置プレイ☆」
「なんなんだよこのまとまりのなさは~~~!ったく、くだらない事言ってないで俺
たちも屋敷に戻るぞ」
「イエッサー」



屋敷に戻ると、用意が終わるまで湯でもあびていてください、と執事に言われ、浴場
へと案内された四人。
下手な宿より待遇が良い。
危険因子の月見を先にいれ、執事に事情を説明し、見張ってもらっている間に男共は
浴場へとを急いだ。
見張ってもらっているとわかっていても、なんとなく急いで済ませてしまったのは三
人とも同じだった。
ほかほかといい気持ちで出て来て、ワッチが一言。

「これってさ、普通だったら逆だよな……」
「………」

なにが、と、言わなくても無言でうなずくファングとトノヤ。

「……なかなか苦労しているようですね」

執事のつぶやきに三人は同時にため息をついた。


食事ははじめに通された応接室ではなく、少し広めのダイニングに通された。
暖炉と、テーブルと、10脚ほどの椅子だけが並ぶ、とても質素なダイニング。
すでにテーブルの上には前菜と飲み物が用意されていた。

「わお!なにやらオシャレな晩餐会のよ・か・ん☆がしますぞー!」
「なんか、ここまでしてもらっちゃって良いのかな~」
「肉料理多めだといいなぁオイラ」
「あーやっとメシだー」

それぞれ好き勝手な椅子に座り、前菜をあっというまに空にしてしまった。
これだけじゃぁ、足りない!とお行儀もへったくれもなく騒ぎだす困った四人組。

「お待たせいたしました、こちらメインディッシュの川魚の南蛮焼き、山羊のグリル
……ああ、そちらはパンペルデュと、きのこの……」

執事がワゴンにいっぱいのメインディッシュを説明しながらテーブルに並べている端
から、皿はどんどん空になり積み上げられていく。
並びきるのも待ちきれず、ワゴンから勝手に好きなものを取り始める始末。
月見はすでにデザートに手を出し始めていた。

「まったく、屋敷の食料を根こそぎ食べ尽くす気?ほどほどにしてよね」

十数枚重なって塔のようになった皿を両手に、給仕室へと消えた執事と入れ替えにリ
アがあきれた様子で入って来た。

「うまいっす!ごちになってまふ!もぐもぐ」

頬袋にいっぱい食料をつめこみながらファングは屋敷の主に礼を言った。

「当たり前でしょ、うちのセバスの料理は一級品よ。ところで、修理に数日かかるけ
ど、あなたたちどうする?いったん街へ戻る?空いている部屋があるからここに泊
まっていっても良いけど」
「でひればここひおひゃましたいれふ。おれたひあんあもちあわへないんれこうつー
ひとああんm……」
「……ものを飲み込んでからしゃべっていただけるかしら」
「ぅん、ごっくん。ここにお世話ンなっても良いですか」
「わかったわ。部屋とか色々セバスが案内するわ。じゃ、私は作業に戻るから」

扉を開けかけて、ふと、リアは振り返った。

「タダで泊まれると思ったら大間違いよ。そのぶん働いてもらうからね。ふふふ」

物凄い笑顔を残して屋敷の主は作業場へと戻っていった。


________________________
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2007/10/04 23:00 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
神々の墓標 ~カフール国奇譚~ 8/カイ(マリムラ)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PC:カイ ヘクセ
NPC:アティア 魔猿
場所:カフール国、スーリン僧院
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 白い長めの体毛に覆われた巨体は、直立の姿勢でなくても軽くカイを見下ろす。他
の猿を煽るように吼え、カイを威圧するように体を震わせると、山なりに飛びかかっ
てきた。
 高い!
 カイはとっさに姿勢を低くして下を駆け抜け、振り向きざまに薙ぐ。しかし魔猿の
動きは速かった。着地から跳躍へのタイムラグがほとんどない。
 右。
 考える前に体が動く。カイが転がるようにして避けた跡には、魔猿の爪が突き刺
さっている。
 無理矢理爪を引き抜こうとする魔猿の脇を抉る刃は、もう片方の腕に阻まれる。

 なにをすればいい?大僧正にはない自分の特性とは何だ?

 正攻法で勝てる相手なら、大僧正が負けるはずはないのだ。カイは林へ駆け込みな
がら思案する。少し遅れて付いてきた魔猿は、目に見えて分かる速度でカイとの距離
を詰めてくる。

 大きく跳躍した魔猿は、一本の枝に取り付いた。踊るように次の枝へ渡ろうとす
る。

 刀身が斬り裂いたのは虚空。
 「気の風」と呼ばれる特殊な技で、離れた敵も斬ることが出来るのだが、今回の標
的は違った。跳び移ろうとした次の枝を切ったのだ。体重がかかると同時に落下する
魔猿。背中から落ち、体が痙攣する。カイは飛びかかって一刀両断にしようとした
が、逆に魔猿の腕に払いのけられ、木の幹まで吹き飛ばされる。

 声とは呼べない音とともに、肺の空気が押し出される。幸い骨折などはしていない
ようだが、即座に体勢を立て直すことは出来ない。緊張が走る。

 走ることはあまり得意ではないらしい。再び飛びかかってきた魔猿は、木の幹に押
しつけられたように動けないカイに鋭い爪を振り降ろした。辛うじて刀で受け流す
が、もう片方の振り降ろされる腕には対処できない。渾身の力を込めて腹に蹴りを入
れるも、よろけただけで致命傷にはほど遠いようだ。
 が、そこに一瞬の隙が出来た。腕がバランスを取ろうと左右に泳ぐ。カイは鞘から
小柄を取り出すと、全体重をかけて魔猿の懐に飛び込んだ。狙うは、目。

 耳を塞ぎたくなるような醜い声が響く。小柄は深々と魔猿の左目に突き刺さってい
る。
 無茶苦茶に振り払った魔猿の腕にカイは再び弾き飛ばされたが、今度は後ろに跳び
すさることが出来たため、先ほどのダメージは受けていない。

 しかしこのままで魔猿を倒すことは出来るのだろうか。こちらの方が疲弊してい
る。片目の傷など、相手には大したことはないかも知れない。さあ、ここでどうすれ
ば。

 手負いの魔猿は赤い血を滴らせながらカイに迫ってくる。カイはもう一度「気の
風」を試したが、魔猿の体毛を少し削いだだけで、気にする様子もなく近づいてく
る。

 カイは魔猿に背を向け、一本の木に向かって走り出した。なかば木の幹を駆け上が
るようにして大きく宙返りをする。初めて魔猿の背後を取った!

 即座に斜めに斬り上げる。

 ……はずだった。
 至近距離で背後から斬りつければ、いくら魔猿とはいえ大きな痛手になる。

 しかし魔猿の反応は速かった。耳をつんざくような奇声を上げながら大きく体を捻
る。
 長い手は振り向きざまに刀を跳ね飛ばし、カイの手の届かない木の幹に突き刺さ
る。武器を失ったカイに容赦なくもう一本の腕が振り降ろされる。
 カイは必死に背を逸らすも、魔猿の爪はカイの右の額に三本の朱を残した。血がじ
わりと染み出してきて、右の視界を奪う。

 舌打ちとともに砂を投げつけ、霊廟の方へと一旦引く。
 視界はお互い片方ずつ。相手の方が力も強く俊敏だ。しかも山の気を味方に付けて
いる。
 ……山の気?そういえば登ってくる際の息苦しさはもうない。自己鍛錬の成果だけ
でなく、山の気に馴染み始めているのではないか。

 そのとき、踵に硬い何かが触れた。見ると、すでに躯となった僧の長槍が転がって
いる。
 やけに鮮やかな朱色の柄が、カイに強く何かを主張する。

 待て。
 魔猿は薙ぎや払いへの対処は早いものの、突きには慣れていないのではないか。
 さっき唯一傷を負わせた小柄だって突きという直線的な攻撃だし、蹴りでもバラン
スを崩していた。
 攻撃手段が槍なら、もしくは。

 カイは長槍を手に取り、魔猿に向かって構えた。
 魔猿も砂の目くらまし効果が消えたのか、こちらへ動き出す。

 高く飛びかかってきた魔猿に鋭い突きを三度与える。
 しなやかに動く長槍をへし折ろうと魔猿は掴みかかろうとするが、不発に終わる。


 いける。
 致命傷にはまだ至っていないが、何とか戦える。

 カイは相手の視界の外に出るよう、円を描くように距離を詰める。
 魔猿の動きは今まで見た限り、非常に直線的だ。相手がきょろきょろしているうち
に、連続攻撃を与えておきたい。

 カイの専門は槍ではない。しかし、ここで学んだ武人として、一通りの武器を扱え
る。
 素直に師匠であった大僧正に感謝の念が浮かぶ。だからこそよけいに敵を討ちた
い。

 魔猿の脇に回ったところで、カイは連突を始めた。
 一撃一撃は重くないが、避けづらく対応が難しい。

 魔猿の足が止まったところで足払いをかける。
 連突の防御の為、腕に気を取られていた魔猿は不意を打たれた形となる。
 全体重をかけて止めを刺そうとしたそのとき、カイは鋭い痛みとともに視力を失っ
た。

 猿真似。
 それはさっきカイが使った砂による目くらましだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2007/10/04 23:02 | Comments(0) | TrackBack() | ●神々の墓標~カフール国奇譚~
ファブリーズ  24/ジュリア(小林悠輝)
キャスト:ジュリア アーサー
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森
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 ぽたり、ぽたり。
 小瓶から滴る雫が湖の水面に小さな波紋を広げてからすぐに、周囲には甘いアルコー
ルのにおいが漂い始めた。気化したアルコールが脳を溶かそうとするにおい。自称騎士
は酒にあまり強くはないらしく、「うう」と呻いて口元を手で覆った。

 ジュリアはその様子を眺めながら、竜はきっとお前より酒豪だろうなと言いかけたが、
これ以上に何か言うとそろそろ再起不能になってしまいそうに思えたのでやめておいた。
剣を持った者の心を抉っても何の得もない。

 いや、私が代わりに剣を握れば――使えないことはないのだ。羽のように軽く、針の
ように細い剣ならば、の話であれば。とはいえ騎士の役割を奪う気は起こらないので、
ヘコませるのはやめておこう。思いながら欠伸を噛み殺す。

「このくらいでいいか」

「相手は竜だぞ」

「…………」

 頭上で月が白々と輝いている。強い光に負けて星は少ない。
 水面に映ったもうひとつの月がゆらゆら揺れている。畔の黒い花は、日の下でも黒い
のだろうか――幻想的だと言えなくはない光景だ。

 また、ぽとぽとと雫が落ちて、酒のにおいが強くなった。
 テイラックの方は注意を引かない動きでいくらか岸から離れ、じっと周囲の森を眺め
ている。竜がどこから現れるにしても、きっと彼がすぐに気づくだろう。如何にも紳士
然とした格好とは不釣合いに彼の眼差しは鋭く、人間の目に映るものながら何であれ、
見逃すことはなさそうだった。

 こちらは、頼りになると言ってもいいかも知れない。
 武器を持っているようには見えないというたった一つの問題に目を瞑れば。いや、武
器があるにしても。

「竜は剣で倒せるのか?」

「ご入用とあらば」と、背後でエンプティの声がした。「聖剣の一振り程度で宜しけれ
ば、私めが用意いたしましょう」
 彼の手には既に、鞘に収められた剣が乗せられている。白を貴重とした製造えに金の
縁を入れたそれは確かに聖剣らしいといえばらしいが、その分だけ安っぽく玩具じみて
もいた。

「どうぞ、騎士殿」

「い、いや……僕の剣はここにある。
 魔物退治の聖剣ではないが、父から受け継いだ名剣だ。
 悪魔封じの聖堂で祝福を受けたものだと聞いている」

「それは心強い。
 ではこの剣は……アーサー殿、お使いになりますか?」

 その言葉にテイラックは少しだけ悩んだようだったが、上着の裏側を確かめるように
手を動かした後に、「いや、いい」とかぶりを振った。その動作でジュリアは彼の武器
が何なのか大凡の検討をつけた。その種類の武器で竜を倒したという話は聞いたことが
ないが、前例などきっとアテにならないものだろう。どちらも絶対数が極めて少ない。

 ジュリアはエンプティに向けて腕を伸ばした。

「私に寄越せ」

「…………はい?」

 エンプティの沈黙はジュリアにとって少しはおもしろい見物だった。
 口元がつりあがるのを感じながら、もう片手で耳元にかかる髪を背中に払う。

「ただし欲しいのは聖剣ではない。
 針のように細く、羽のように軽く、そして牙のように鋭い剣を私に寄越せ」

「承知しました、“西の魔女”殿。あなたが剣士だとは存知ませんでした」

「この森では魔法が使えないようだ、少なくとも簡単には。
 ならば、武器の一つくらい持っていないと不安で仕方がないだろう?」

 エンプティがぼろぼろの服の裾から取り出した剣は、正に注文通りの品だった。
 ジュリアは無言で受け取って鞘から払い、何度か空中を相手に手首を返して使い勝手
を確かめ、「必要があれば使わせてもらう」と言って鞘に戻した。鍔飾りの赤い石が、
月光を受けて僅かに煌く。

 いくらかの静寂の後――


「あそこだ」

 ごくごく小さな声で初めに囁いたのはやはりテイラックだった。
 彼の指す先を注視すると、蒼硝子の夜空の下、暗闇から姿を現す黒い獣の姿があった。

 遠目にもわかるしなやかな体躯。艶を帯びて月光に浮かび上がる毛皮と翼。いっそ美
しい生き物ではあったが、そっと湖に口をつけた獣の伏せた紅瞳は、ひどく禍々しい色
をしていた。


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2007/10/29 20:08 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ
立金花の咲く場所(トコロ) 49/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「白い影とやらが何かしらないけど、少なくとも畑に入って何かやってる生身の人間
がいるってことさ」

どこか自信ありげに語るリック。
その肩に、ぱん、と手を置く者がいた。

「待て」

ラズロである。

「人間とは限らない」
「へ?」
思いがけない言葉だったのだろう、リックは口をぽかんと開け、間抜けな顔をしてい
る。

「靴跡だけで断定するのは危険だ。例えば、人間に近い姿のモンスターもいる。亞人
種の可能性も捨てきれない。連中の中には靴をはく奴もいる。靴跡だけの情報で人間
と決めつけるのは少し早いだろう」

「あ、そうか」
頬をかくリック。
「まあ、気にするな」
「靴をはくモンスターなんかいるのかぁ?」
アベルは半信半疑で、じっと靴跡をにらむ。
「俺は以前見たことがある」
「へぇ~」
長年田舎の小さな村で過ごしてきたアベルと、旅をしてきたラズロでは、見識の広さ
に違いが出るようだ。
「ラズロ君、物知りだね」
ヴァネッサは、素直な感想をリリアに述べた。
「うん、顔も良くて頭も良くて、おまけに剣の腕も立つ! こりゃモテないわけない
わね」
リリアも納得した顔で頷く。
「そうだね。すごく人気あるよね」
「なんか、クラスの子がファンクラブ作るとか言ってたよ」
(ラズロ君、嫌がりそう……)
不機嫌極まりないラズロの表情が浮かぶようで、ヴァネッサは苦笑した。

「……?」

ヴァネッサは、不意に顔を上げた。
なんだか、とても良い匂いがするのだ。
とは言っても、おいしそうな食べ物の匂いではない。
例えて言うと、花の匂いに似ている。
具体的にどんな花の匂いなのかと聞かれると、うまく答えられないが。

「お、おい。どうしたんだよヴァネッサ」

突然、辺りをきょろきょろと見まわし始めたヴァネッサに、アベルが気付く。
「……何か、いるみたい」
「えぇっ? それ、幽霊っ?」
ヴァネッサの答えに、リリアが今にも泣きそうな顔をする。
「わからないけど……でも、悪いものじゃない気がする」
「悪いものじゃないって、じゃあ何?」
「それは……」
どう答えたら安心させられるだろう、と考えていると、視界の端に、白いものがふわ
りと広がった。
驚いてそちらを向くと、薄いヴェールを何枚も重ねたような、そんなものがふわふわ
と空中を漂っていた。
その姿は、まるで――

「きゃーっっ!!」

リリアが絶叫し、リックにしがみつく。
恐怖で混乱したのだろう、ずいぶんと力がこもっている。
ただ、しがみついた場所が悪かった。
彼女は、がばっとリックの首に腕をまわしていたのである。
「ぐ、ぐるぢぃ、ぐるぢぃ」
「きゃーっ、きゃーっ、きゃああーーっ!」
必死に訴えるも、リックの声は届いていない。
「おいっ、リックが死にかかっているぞ」
見かねたラズロが助け舟を出しているが、それでもリリアの混乱は解けそうにない。

「下がってろ、ヴァネッサ」

ずい、とアベルがヴァネッサをかばうようにして前に立つ。
その顔には緊張感がみなぎっていた。
二人の見る前で、布は空中でひらりと一回転する。

『うふふ。仲良しさんですね』

おだやかそうな声がした。
もしかしたら、言葉が通じるのかもしれない。
ヴァネッサは、緊張しながら声をかけた。

「こ、こんにちは」
『こんにちは。なんだか楽しそうなので、つい出てきてしまいました。びっくりさせ
て、ごめんなさい』
びっくりしているのは一名のみである。
「あなた……もしかして、ここの香草畑の近くに住んでいるとか?」
『はい。この辺はとても居心地が良いので、住むことに決めました』

布は、ふわふわ揺れながら答える。

「そう……。それで、あなたは?」
『はい?』
「幽霊なの? それとも、別のもの?」
『私はれっきとした妖精ですよ。幽霊呼ばわりしないでください。まあ、間違えるの
は仕方ないでしょうけど。白くてひらひらしてますからね』
「ご、ごめんなさい」
『あ、怒っているわけではありませんから。あまり気にしないでください』


「ちょ、ちょっと待った。ヴァネッサ、こいつ何か言ってんのか?」

困惑顔のアベルに尋ねられ、ヴァネッサは驚く。
いつの間にかリリアの混乱は解けたようで、丸い目にいっぱい涙をためつつ、
「うー」とうなっている。
そのそばで、顔色の悪いリックがぜぇぜぇと息をしていた。

「え……」
「俺、何も聞こえねーぞ?」
言いつつ、お前は?と言いたげにラズロを見る。
ラズロは黙ったまま首を横に振る。
同じく聞こえない、ということだろう。 
「ヴァネッサしか会話できない、ってことか?」
アベルは頭をがしがしとかく。
「仕方ないな。通訳を頼む」
「……えぇ」

ヴァネッサはもう一度、布と向き合う。
肝心なことを、まだ聞いていない。

「その……あなたが、この畑を荒らしているの?」
『はい?』
「最近、この香草畑が荒らされて、とても困っているって聞いたの。目撃した人の話
だと、あなたのような白い影を見たって……」
『ひどいです!』
布は憤慨した。
この反応を見る限り、犯人ではないようだ。

『私じゃありません! むしろ私はあいつらが来ないよう、追い返したりすることも
あるっていうのに、あんまりです! だいたい、私が畑を荒らして何の得をするって
言うんです?』

(あいつら?)

それは誰なのかをすぐに問い詰めたかったが、ヴァネッサは踏みとどまった。
それよりも先にすることがある。
この「白い影」の身の潔白を伝えておかねばならない。

「疑ってごめんなさい、今から、皆にもそう伝えるわ」

ヴァネッサは、三人の方に向き直った。

「この……えぇと、布さんは、犯人じゃないわ。犯人は、別にいるって、そう言って
る」



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2007/10/29 20:11 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
星への距離 10/ロンシュタット(るいるい)
PC:スーシャ ロンシュタット
NPC:バルデラス、団長
場所:セーラムの街


 いつ朝になったのか、分からないくらい空は重く、どんよりと曇っている。
 雨は一晩過ぎたら小雨になり、風の勢いも弱まりつつある。この分なら、昼前に雨は上がり、夕方頃には天候も回復するだろう。
 そんな沈んだ空気のせいか、この日の朝、早く起きた者は少なかった。
 怪我から腹痛、風邪や出産に至るまで、およそあらゆる治療を手がけている医者の一家も、今日の起床に限っては遅かった。
 いつもは家の誰よりも早起きし、暖かいスープとパンの朝食を用意する妻が、だるそうに寝返りを打ちつつまだ寝息を立てている。
 医者は扉をノックする音で目が覚め、妻を見るが、まるで目覚ましになっていない。
 寝癖のついた頭で出て行っては、相手が患者であった場合、いくら朝早いとは言え、威厳は失墜してしまうだろう。
 ベッドから起き出し、ガウンを羽織って簡単な身なりを整える準備の時間だけでも応対してくれればいいのだが、無理に起こすと酷く機嫌が悪くなるのを、この数年の結婚生活でイヤというほど学んだ彼は、諦めて自分で玄関まで行くことに決めた。
 スリッパを履いて、(本人は)急いで向かう。
「はい、どなたですか?」
 扉を開けながら訊くが、返答は無い。
 それどころか、玄関前には誰もいなかった。
 彼は首を出し、通りへと続く前庭を見回してみるが、どこにも自分を訪ねて来た者の姿は無い。
 風の悪戯だろうか?
 そんな事を考えながら、外気に当たって冷えた体を温めようと寝室へ戻る途中、正にその寝室から誰かが出て来た。
 医者をやっている以上、この街のほとんどの人を知っている。
 あれは仕立て屋の親子じゃないか。
 そんな事をぼんやり思い出している脳の裏では、少しずつ覚醒しだしたもうひとりの自分が、疑問を投げかけた。
 いつ、どこから入って来たんだ?
 だがそんな思考はすぐに消えてしまい、自分にふらふらと近寄ってくる姿を見て、怪我でもしているのかと思った。
 寝室のドアがゆっくり開いた。
 ノブを掴んでいる人の体重でもかかっているのか、軋んだ音を立てている。
 廊下へ出てきたのは、仕立て屋の女将だ。
 彼女は顔の下半分を真っ赤な血で染めている。
 どんな大怪我をしたというんだ。
 と、ちらりと思ったとき、ドアの隙間からまだベッドで寝ている妻の腕が見えた。
 だが、それは先程までとは少し違う。布団か着ている服でもほつれたのか、赤い糸が肘から指に伝わり、それが床に垂れている。
 先に妻を起こして治療を手伝ってもらうか、この怪我をしているらしい家族を診察室へ連れて行くか考えた所で、彼は父親に掴れた。

 ドアのノックで飛び上がり、スーシャは慌ててノブを回した。
 扉の向こうにいたのは、昨日から泊めてもらっている宿屋の主人だ。
「おはよう」
 朝早いというのに、彼はすでに服を昨日と同じ様なものに着替え、エプロンをかけている。
 開いた扉から、焼けたトーストの香ばしい匂いが漂ってくる。
「お、おはよう、ございます」
 まだちょっとびっくりしているスーシャが応えると、主人は頷いて言った。
「いつもはもっと遅いんだろうけど、うちは商売柄、どうしても朝早く夜遅くなるんだ。これから朝ごはんを食べるけど、どうする? もう少し寝るかい? それとも一緒に食べるかい?」
 どうしようか、スーシャは迷った。
 今自分が見たものを、どうしていいのか分からないのだ。
 この人に相談してみようか、信じてくれるだろうか?
 ……自分を虐げてきた、一家の歩く姿を話して、自分はどう見られるだろうか?
 そんなことを考えたが、すぐに体が震えた。
 怖い。
 さっき見たものが、本物の仕立て屋一家なのか見間違いなのか、そんなことはどうでもよかった。
 ただ、彼らを見た時の恐怖がまだ心の中に残っていて、底冷えする朝の冷気と一緒に、少ない体力と気力を奪い取って行くのが苦しかった。
「あの、それじゃあ、一緒に食べてもいいですか?」
「ああ、分かった。後はお皿を並べて取り分けるだけだから、すぐだよ。それじゃあ、行こうか」
 背を向けて歩き出す主人の後を少し遅れて歩きながら、スーシャはふと現実的な事を考えた。
 そういえば、誰かと一緒に朝ごはんを食べるのは、一体、いつ以来なんだろう?
 誰かと暮らしていれば当たり前のことにさえ疑問を感じ、戸惑う自分は、やっぱり、おかしいのかもしれない。
 いつもはひとりで、残り物のような、冷えたものを食べていたが、今日は、今だけは違うのだ。
 食卓を囲むと言うことを意識すると緊張してきた。
 食堂へ近づくに連れ、緊張は高まってきたが、心の中の暗く冷たい思いは、少しずつ小さくなっていった。

 ロンシュタットが宿へ戻って来たのは、家々の煙突から、朝食の用意をするための煙が立ち昇り、人々が日々の生活を始める頃だった。
 他に宿泊客がいないため、がらんとした酒場を抜け、2階の自分の部屋へ入る。
 鎧戸が閉まっているため暗いが、その隙間から朝日が差し込み、うっすらと室内を照らしている。
 体力のお化けのようなロンシュタットも流石に疲れたのか(何しろ、隣町から追い出され、街道を休むことなく歩いてきた上に、このセーラムの街に入る時には別の悪魔と戦っているのだ。しかも怪我をしたまま、仕立て屋を殺した犯人を調べる為に、寝ずに今まで調査していれば当たり前だ)、黒く長い剣をベッド横のテーブルに立てかけると、シーツの上に寝転がり、手足を大きく伸ばした。
 誰が、何の為にやったのか分からないままだったが、悪魔の仕業で無いなら、後はどうでもよかった。
 少し休んでから、昨日の夕食よりはマシなメニューが出るだろう朝食をとろうとして眼を閉じると、意識の糸を切られた様に、何の自覚も無く眠りに落ちた。

 次に彼が起きたのは、部屋の扉を叩く音だった。
 寝込んでしまった事を少し後悔し、ロンシュタットはゆっくり起き上がり、まだ横から入ってくる光を遮りながらノブを回した。
 そこに立っていたのは、昨夜ちらりと見かけた、団長だった。
 脇には小さくなって、宿の主人もいる。
「まだ寝ていたのか。すまないが、起きて話を聞いてくれないか? ロンシュタット」
 この街に来て、誰にも──間接的にバルデラスが教えたが──スーシャにも名乗っていない自分の名を口にされ、ロンシュタットの眉が寄り、眼が細くなる。
「自分の名前が出た事が、不思議か? だが、君ほどの者なら、自分の高い知名度は当然、理解しているだろう」
「私ゃ、知りませんでしたがね」
 主人が言うのをじろりと見ると、そのひと睨みで口を閉ざさせて、団長は話を続けた。
「君の名前はスーシャから……いや、正確には彼女から話を聞いたうちの団員が教えてくれた。普通に暮らしているだけなら口の端にも上らないが、我々や戦士団、傭兵団、イヌムス教関係者の間では、知らない方がモグリだろう。デーモンスレイヤーのロンシュタット」
 ロンシュタットは最初の怪訝な表情のまま、一向に言葉を発しない。一方的に話し続ける団長が何を言っているのかさっぱり分からない、と宿屋の主人は首を傾げる。
「切り殺した悪魔は膨大な数になるそうだな。そのせいでお前を見ると、悪霊や悪魔は悲鳴を上げて逃げ出すという話じゃないか」
「人の噂や、他の者が私をどう思っていようが、興味などない。何の用だ?」
 にやり、と笑って団長は話を続けた。
「先に断っておくが、君が今度の事件の犯人だと決め付けているわけではない。だが、事件のあった丁度その時に街へ来た部外者だ。色々話を聞かせてもらいたい」
「私には関係無い」
 何の感情も篭らない冷たい声でロンシュタットが即答するのを聞くと、団長が眼を吊り上げたように見えた主人は慌てて付け足した。
「今、そのスーシャも詰め所へもう一度出かけて、色々話をしているんだ。被害者の女の子が健気に協力しているんだ、そんなこと言わず、少しくらい話してもいいんじゃないか? 本当に無関係なら、すぐに話も済むだろうし」
「それは確かだ。君が完全に無関係だというなら、君が考えているより早く解放できる」
 ロンシュタットの表情が、いつもの無感情なそれへと変わっていく。
 まるで団長の言葉の真贋を確かめるように、しばらく黙っていると、彼はようやく口を開いた。
「いいだろう。だが、私が話せる事など、何も無い」
「それを判断するのは我々だ」
 ロンシュタットはその返答を待たず、部屋の奥へ戻り、バルデラスを腰に吊るす。
 バルデラスは特に何の反応も無く、そのまま吊るされて、彼と一緒に部屋を出る。
 今まで、このお喋りな剣が一言も発しなかったのは、ロンシュタットのとった行動に驚いているからだ。
 どうして捜査に協力するのか? いつも通り無視すればいいものを。
 だが、それ以上、考える事はしなかった。
 ロンシュタットが何を考えているか、長い付き合いになるが分かった事は無い。
 それなら考える材料が無い今は、あれこれ推測するだけ疲れる。
 バルデラスはこのまま黙っていよう、と思った。
 少なくとも、これから連れて行かれる詰め所に着くまでは。

2007/10/29 20:13 | Comments(0) | TrackBack() | ○星への距離

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