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2025/04/21 23:00 |
クロスフェードB第五話 覚醒/ギュンター(たじぽん)
PC ジェナス ギュンター
NPC アルフォード ケヴィン ラーズ リーズ
場所 アルフォード家

__________________________________


 襲撃者の放った毒針によって重傷を負ったラーズを乗せた馬車は街道を疾
駆し、郊外に豊富な敷地と研究設備を備えたライゼル=アルフォードの屋敷
の中へと飛び込んでいった。馬車は、慌てて制止に入った門番は完全に無視
し、敷地最奥にある建物の前でようやく停止した。
ケヴィンはすかさず御者台から飛び降りると、扉の前に立つ二人の守衛の方
へ詰め寄った。
「俺は、ライゼルの知り合いのケヴィン、ケヴィン=ローグだ。怪我人がい
るんだ中へ入れてくれ」
「アルフォード様からはそのようなことは伺っておりません。どうかお引き
取りください」
「事は一刻を争うんだ。俺の名前を伝えれば分かる、人一人の命がかかって
いるんだぞ!! 早くしろ」
このような問答が続いて一向に中に入れてもらえない。馬車の中でラーズの
止血をしながら待っていたジェナスとギュンターもさすがに不審に思い外へ
出てきた。
「一体何をしている? 出血だけでも危険な状態だ、解毒だってしなきゃい
けない。護衛対象に死なれたら私たちの信用にかかわる。邪魔するなら切る
ぞ」
そう言ってギュンターが剣に手をかけると、守衛も槍を構えたために、その
場は一触即発の状態になった。 その時、
「何を騒いでいる? ん? そこにいるのはケヴィンじゃないか。後ろの二
人は連れか?」
「のんびりしてる時間はないんだライゼル。早く手当てがしたい、中に入れ
てくれ」
「それは大変だ、ささ早く中に運びなさい」
そうして一行はようやく屋敷の中に入ることが出来た。


一通り治療を終え、ベッドの上で眠るラーズとそのそばで椅子に腰掛け心配
そうにそれを見守るリーズを小部屋に残し、一行は大広間に集まっていた。
「それでラーズの容態はどうなんだい?」
と、相変わらず緊張感のない声音でケヴィンに問いかけた。
「はっきり言って危ない状態だ。いつ危篤状態に陥ってもおかしくない。あ
るいは・・・いやまさかそんなことにはならんか」
ケヴィンは途中口ごもり、ぶつぶつと呟くようにそう言った。
「何がまさかなんだ? ケヴィンよ、この期に及んでまだ何か隠しているの
か?」
「ちっ、まったく鋭い男だ。これは俺もはっきりとしたことは分からないん
だが、ライカンスロープ族はある時を境に上半身を獣の姿に変えることが出
来るらしい。何しろ大昔に滅んだとされていた種族だから詳しい記録は残っ
ちゃいないが、何かの拍子に覚醒しないとも限らない」
「要するに今回負った傷がその引き金になるかもしれないと言いたいんだな
?」
「そういうことだ」
「そんな事言ったって分からないんだろ、成り行きにまかせりゃいいじゃん

「まあ確かに俺たちにはどうすることも出来ない。ただ本当に覚醒したら大
変・・・」

いやぁぁぁぁ誰か来てぇぇぇぇ

「へっ?ひょっとして」
「そのまさからしいぞ」
「とっとにかくラーズのところへ行こう」

 三人が部屋に駆けつけると壁際に座り込んだリーズが怯えた様子でラーズ
の方を指差していた。彼女の視線の先に立っていたのは上半身を金色の狼の
姿に変えたラーズであった。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ラーズは唸り声とともに壁に拳を叩きつけた。すると冗談のように簡単に人
一人通れるほどの穴が出現した。彼はその穴をくぐって外へ出て行った。
「あんなのが街に出て行ったら大騒ぎになる。おいジェナス奴を止めるぞ」
「へいへい分かってますよ」
そう言って二人はラーズを追いかけようとするが、その際ケヴィンが一言釘
を刺した。
「なるべく傷つけるな、彼は不幸な子供なんだ。彼に罪はない」

ギュンターがラーズの頭すれすれに矢を放つと、彼は二人に気付き、向き直
って突進してきた。先ほどまで重傷で床に伏せていたとは思えない、という
より常人を超える程の瞬発力をもって一気に距離を詰めギュンターに肉薄す
ると、袈裟切りのように鉤爪を振り下ろす。ギュンターはそれをすんでの所
でかわすと、鞘に収めたままの剣でラーズの腹に突きをいれ飛び退いて距離
を取った。しかしラーズは、突きの一撃などものともせずにギュンターに飛
び掛かり、彼に体勢を整える暇を与えなかった。
「がはっ・・・」
再度距離を詰めたラーズは今度はコンパクトなモーションでギュンターの腹
に拳の一撃を与える。かろうじて剣で受け止めようとするも、踏みとどまる
ことは出来ず吹っ飛ばされてしまった。
「嘘だろ」
人ってあんなに飛ぶのか? といった感じで呆然とその光景を眺めていたジ
ェナスは、爪を一舐めして彼の方に向き直ったラーズと目が合った。
「げっ、ひょっとして次は俺ってか??」
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2007/02/17 00:25 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードB
クロスフェード第6話 「狂獣」/ジェナス(鷹塔将文)
PC ジェナス ギュンター
NPC アルフォード ケヴィン ラーズ リーズ
場所 アルフォード家


__________________________________


 ラーズはこちらに向き直り、体勢を低くしている。今にも突進してきそうな感じ
だ。
「こいつぁまずいなぁ・・・」
 ジェナスはじりじりと後退しながら、何とかならないか考える。
 ラーズは、ジェナスに合わせるかのようにじりじりと迫ってくる。
 一触即発とはまさにこのことである。時計の秒針の音が聞こえてくるぐらいの静
けさに、全身から冷や汗が吹き出るのがよく分かる。
「――――!」
 目の前のラーズの姿が一瞬揺らいだ。と、次の瞬間にはそこから消えていた。
「何っ、・・・!!」
 とっさに前方に飛び込む。下がった頭のすぐ上を鋭い何かが通り過ぎてゆくのを
感じた。
 ジェナスはそのまま前転の勢いで立ち上がり、すかさず間合いを広げる。その間
に腰から短剣を引き抜き、構えることも忘れない。
 ラーズは両手から伸びる長い爪を構え、すでに体勢を立て直している。
「あの速さは反則だぜ・・・! まずは速さを何とかするか」
 ジェナスは短剣を構えたまま、右手に意識を集中させる。右手周りに霊気が集ま
り始め、視認できるほどに凝縮される。
「オォォォォォォ」
 その霊気に危険を感じ取ったのか、ラーズは声を上げて突進してくる。右腕を振
りかぶり、爪をさらに伸ばして振り下ろす。
 ジェナスはそれを短剣で受け流し、ラーズの右腕を軸に空中高くに身を投げ出す。
凝縮した霊気で光輝く右手を天にかざし、召喚の鍵を口にする。
「出でよ、冷気の精霊シヴァ!」
 凝縮した霊気が球体になり、弾け飛んだ。そこには、雪のように白い肌に薄い布
を巻いただけの女性精霊が現れる。
〈かなりの強敵のようね、ジェナス〉
「ああ、しかも傷つけてはならないときている。やっかいなことこの上ない」
 着地したジェナスの横にシヴァが並ぶ。軽口を叩き合いながらも、目線はラーズ
から離す事はない。
 そのラーズは、いきなり現れたシヴァに戸惑っているのか、構えたまま動こうとは
しない。
「異様にスピードが速くてな・・・頼むわ」
〈なるほどね・・・私を呼んだ理由がそれってわけね〉
 淡々と話しているようだが、どこか面白くなさそうだ。
「・・・お前を一番に信用しているからな」
〈・・・分かりきった世辞なんか、いらないわよ〉
顔を背けながら言う。うっすらと赤みがさした横顔に、苦笑しつつジェナスは心の中
でシヴァに感謝する。
〈では私の冷気で奴の足を止めてやろう! 凍り尽くせ、スターダストストーム!〉
 霧状に広がった冷気が、ラーズを包み込むようにほとばしり、足に収束していく。
ラーズは不意をつかれた形になり、避けることかなわず立ち尽くしている。
 冷気は完璧にラーズの足を凍らせ、動きを封じることに成功した。
「よし、あとはケヴィンさんに元に戻す方法を聞いて・・・」

ガシャァン!

 綺麗な破砕音が、ケヴィンの元に走ろうとするジェナスの耳に入る。
 ゆっくりと振り返ると、砕け散った氷の絨毯に佇むラーズがいた。ラーズは勝ち
誇ったように、足元に散らばった氷を踏み潰す。
「おいおい・・・、手を抜いたのかよ、シヴァ?」
〈そんな・・・バカな!?〉
 シヴァ本人も、信じられないと言った感じの表情である。
 衝撃を受けているその隙に、ラーズの姿が再び掻き消えた。
「! ぐぁっ!!」
 反応が遅れたジェナスは、背中に大きな一撃をもらってしまった。致命傷にはな
らないものの、出血は決して少なくはない。
〈ジェナ!〉
 シヴァがジェナスを抱えて間合いを広げる。
「くっ・・・、面倒なことになってきやがった・・・」
「迷いがあるからそういうことになるんだよ」
 背後から、聞きなれない声がする。
 ジェナスは背中の痛みを感じつつも、背後を見やる。
 開け放たれたドアがあり、そこに佇む一つの黒い影が見える。
「これは殺し合いだ・・・。もう一匹いるんだ、遠慮することはねぇだろ」
 室内に一歩足を踏み入れ、剣を構えるその人物は・・・
「お前が出来ないなら俺がやるだけだ。この、ユヴェス・ザ・オーバーキルが、な」

2007/02/17 00:26 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードB
第一話 接触/フィミル(セツ)
PC:フィミル ヴォル
場所:森の中


その日の夜は少し憂鬱で、幾重にも吐き出されたため息は、ただでさえやせ細っていた月をすっかり隠してしまっていた
そんな夜に共鳴してか、少女の足取りは重い

「うう、寒です・・・・」

見ると、その髪も衣装もぐっしょりと濡れている
先程まで降っていた雨のせいか
今でも思い出したように、木の葉たちが冷たい涙を滴らせる
特に寒い季節と言うわけではないのだが、何分ここは深い森の中、さらに夜ときては彼女が情けない弱音を吐くのも頷ける
すっかり冷たくなった指を擦り合わせて、息を吐きかける
お酒でもあれば温まる事が出来るのに、そんな事を思いながらため息をついたその時━━━━

ぞくっ

「・・・・・!」

不意に、ざらりとした感触
激しい嫌悪感
わずかながらに残っている天使としての感覚が、危険信号を発しているのだ

 アクマヨ

気がつくと走り出してしまっていた
考えるより先に、いい加減染み付いた恐怖が足を動かしていた
激しく脈打つ鼓動
震える指先
度重なる襲撃が、彼女を疲れさせていた
一瞬、死の誘惑が彼女の頬を撫でる

「嫌よ・・・・・私は、死なないわ」

その声は震えてしまっていたが
無理やり作った不敵な笑みは、引きつってはいなかった
そうだ、こんなところでは、死んでも死にきれない
後方に気配を感じる
いつも通り、一つだけ

(・・・・どうしようか)

いつも通り逃げつづけるか、倒すか
なぜか相手はどんどん強くなっている
前回も振り切れなかった
重ねて、今は雫たちに体温を奪われていて、いつまで体力が持つか分からない

決断はできた
下唇を噛み締めながら、剣を抜きつつ振り返る

「私は、死ぬわけにはいかないのよ、悪魔さん・・・・」

「悪魔さん」はガーゴイルのような翼を持つ、真っ黒な悪魔だった
目だけが不吉に紅く輝き、翼に触れる枝を無理やりへし折りながら森を滑空している
まだ距離がある

「・・・・閃光の霧よ」

手加減はしていられない
自分が使える攻撃魔術の中でも最高クラスの物を使った
白いモヤが前方に広がる
霧ではない、正体は石英の粉だ
そして、その一粒一粒が周囲のマナを電気エネルギーに変換して蓄えている
さらに自らの魔力を目一杯注ぎ込む
威力は「霧」の体積に反比例するため、小さく絞り込んだ
フットボールほどの球体が出来上がる
ここまで圧縮すれば威力が高すぎる程だが、問題ない
威力を抑えて発動時間を長くすることも出来るのだが、そのつもりはない

「さぁ、来なさい・・・・・」

果たして、相手は鋭い爪を立てて、単純に突っ込んで来る
と、その時

「大丈夫か!?」
「!!」

見るとなんだかラフな格好の銀髪のお兄さんがこちらに走ってきていた
助けてくれるらしく、ナックルのような物を装着しようとしている
ありがたいが、今はまずい

「目を閉じて!」
「え?」
「いいから!」

お兄さんが目を固く閉じるのを確認して
閃光
瞬間的に「霧」が莫大なエネルギーを放出
その光は夜を切り裂いて厚く広がる雲を照らした

ジュッ

微かに、そんな音が聞こえた気がした
悪魔の巨体は少し横に避けたフィミルを通り越して、バキバキと音を立てながら茂みに突っ込んで行った
終わった
悪魔の頭部は一瞬で蒸発した、はずだ
死体を確認する気にはならないが、確かに霧が奴の頭部を包み込んだ瞬間を見た
しゃがみ込む
一気に魔力を使いすぎたせいで、膝が大爆笑中だった
自分は戦い慣れていない
改めてそう思う
先程の魔術、あんなに範囲を小さくして、もし外していれば反撃できずにやられていただろう
慎重になるべきだった

「もういいのか!?」
「え?あっ、もう結構です」

お兄さんは目を開き、こちらに走ってきた
そしてなにやら口を開きかけ━━━━跳んだ

「え?」

そして私を飛び越えて・・・・

ドンッ

振り返ると何か黒いものが巨木に叩き付けられていた
それは━━━━先程の悪魔だった、ただし首はない
今のはお兄さんの蹴りが決まったらしい

「なっ、まだ生きて、」
「らしいね」

どうしよう、私はまともに戦える状態じゃない
と、その時お兄さんと目が合った

「立てる?」
「・・・・大丈夫です」

立ち上がって、地面に突き刺していた剣を抜き、構える
魔術はしばらく使えない
剣術には自身がない
悪魔が体制を立て直したようだ

「助けて、くれるんですか?」
「そのつもりで来たんだけど」
「・・・感謝します」
「それは生き延びた後でしてね」
「はい・・・」

この人を連れてきてくれた神様に感謝しつつ、震える剣を低く構えなおした

2007/02/17 00:38 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第二話「跳躍」/ヴォル(暁十夜)
PC:ヴォルペ・アルジェント フィルミエル
場所:マキーナ周辺森
NPC:下級悪魔

――――――――――――――――――――

 暗い闇が支配する時間、月すらも分厚く不気味な雲にかくれ、真に闇が世界
を覆う。
 動物達も寝静まり、フクロウの鳴き声すら聞こえない暗い森の中、銀色の光
が点滅している。
 乱立する木々の間を二つの影が疾走する。一方は縫うように木の間を飛び、
もう一方の影は地面を走る。
 宙を飛ぶ影が急旋回し。地面を走る影に襲いかかる。
 瞬間、銀色の光が強烈に輝く。闇の中に爆発が起こり、木々がなぎ倒され
る。赤い炎が雄々しく立つ銀色の人影を照らす。狐を模した仮面が印象的だ。
 仮面の男が空を見上げる。覆っていた分厚い雲が晴れ、丸い月が姿を現し
た。仮面に隠れ、表情はうかがえないが、仮面の奥からは深い憂いが感じられ
た。それは、人としての存在を超えてしまった者独特の哀愁があった。
 仮面の男は後ろを振り返ることなく、薄暗い森の中に消えていった。
 パチパチと燃える木々の中には、人間とは似て非なる生物の亡骸が転がって
いた……。

    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 女神の微笑む口のように細く尖った月を、薄雲が覆う。森は先程までの雨で
冷たい雫を木々にたたえている。
 獣たちも寝静まった時間。通る存在がいないはずの獣道を一人、銀髪の青年
が歩いている。
 常人には寒いはずの気温だが、青年ははき古したボロボロのジーンズに左袖
が千切れてない長袖の白い麻のシャツという格好をしている。
「もうすぐマキーナなか。ちょっと時間がかかっちゃったねブレッザ」
 子供の様な表情の青年は誰かに喋りかけるように言った。青年の近くには人
影はない。
『そうね、少し急いだ方がいいかもしれないわね。そろそろ敵も私達の目的に
気付く頃かもしれないし』
 青年の頭の中で女性の声が響く。青年は静かに頷く。
 青年の名はヴォルペ・アルジェント、稀有な名前で偽名だ。いろいろなこと
があって名乗っている。
 彼の頭の中に響いた声の主、ブレッザ・プリマヴェリーレもその内の一つ
だ。 彼女は世界でも有数の大妖、九尾の狐だ。それがある組織によってヴォ
ルペと融合させられてしまった。
「それじゃあさ」
『ダメよ』
「まだ何もいってないじゃん」
 子供みたいに唇を尖らせてヴォルペは不満を口にする。
『あまり目立つ行動はやめなさいといつも言ってるでしょ。まったく、いつま
でたっても子供なんだから』
 ブレッザにお小言を言われ、ヴォルペは多少スネてみせる。
 ヴォルペはブレッザと融合したことによって様々な力を手に入れた。それこ
そ常人では考えられない力だ。
「けちぃ」
 一瞬、ムスっとした表情をしたヴォルペだったが、すぐに厳しい表情に変わ
った。
「ブレッザ……これは」
 風に乗ってきたのは今まで感じたこと無い純粋な悪意の気配、嗅いだことの
ない強烈なほどの邪な臭い。
『……これは、悪魔ね。臭いからして下級ね問題ないわ』
「でもさ」
 悪魔の臭いの中に別な生き物の匂いを感じる。人、女性の匂いだ。
『面倒に巻き込まれるのは避けたいけれど、止めたって行くんでしょ、どう
せ』
 ブレッザの言葉に頷いて、ヴォルペは駆け出した。獣よりも、風よりも早
く。

    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……閃光の霧よ」
 風を切る音と一緒に聞こえてきたのは少女の声だった。近い。
「大丈夫か!?」
 少女の姿を確認してヴォルペは叫ぶ、少女の前にはドス黒い色をした異形の
怪物が見える。
「目を閉じて!」
「え?」
「いいから!」
 少女に言われるがまま、ヴォルペは目を閉じた。次の瞬間、ビリビリとした
感覚と何かが焼ける音が聞こえた。
 下級悪魔のだろう、派手な足音を立てて少女の脇を通り抜けていった。
 少女に動きは無い。息遣いも確かに聞こえるし、血の臭いもしない。やられ
たという事はないだろう。
『彼女、戦い慣れてないわね』
 不意にブレッザが言った。その証拠に下級悪魔の立ち上がる音をヴォルペの
耳は捉えていた。
「もういいかな?」
「え? あっ、もう結構です」
 少女の言葉を聞き終える前にヴォルペは少しの助走をして跳んだ。しゃが
め、と言おうと思ったが少女の現状を見て無理だと判断して止めた。
 少女の上を跳び越えて、下級悪魔の肩口に蹴りを入れる。本当なら頭部を狙
うのだが、頭が無いのだからしょうがない。
「なっ、まだ生きて」
「らしいね」
 そう言って軽やかに着地したヴォルペが少女に屈託のない笑顔を向ける。
「立てる?」
「……大丈夫です」
 地面に突き刺していた剣を支えに少女は立ち上がった。一目で極度に疲労し
ているのがわかる。
『無謀ね、あの程度の実力で悪魔に立ち向かうなんて』
 ブレッザの辛辣な言葉に苦笑するヴォルペに少女が尋ねた。
「助けてくれるんですか?」
「そのつもりで来たんだけど」
「感謝します……」
「それは生き延びた後でしてね」
 笑みを浮かべてそう言ったヴォルペに少女は力なく返事をした。
「じゃあ、休んでて」
 震える体で剣を構える少女にヴォルペは微笑んだ。
「え……?」
 拳を軽く振り、ヴォルペはワンステップで下級悪魔までの間合いを一気に詰
める。力強く拳を握り締め、下級悪魔の腹部に拳を叩き込む。
 対格差は明確である。しかし、ヴォルペの拳を受けた下級悪魔の足は地面か
ら浮いていた。
「はっ!!」
 連続してヴォルペは心臓――人ならば――がある位置を殴りつける。
 木に叩きつけられた下級悪魔は何事も無かったかのように立ち上がった。ヴ
ォルペに拳を打ち付けられたところが大きく陥没している。
「ねぇ、あいつどうやったら倒せるの?」
 苦笑してヴォルペは言った。
『生命活動はもう停止してるわ。放って置けば勝手に死ぬわよ?』
「……そういう事は早く言ってよ」
 ため息をついてヴォルペは走り出した。少女に向かって。
「ちょっとごめんね」
「え? ちょ、ちょっと」
 困惑する少女の体を抱きかかえてヴォルペは、そのまま走り出した。
「このまま街まで行くよ」
 ヴォルペの行ったとおり、遠くに街の明かりが見える。ただ少女の記憶が確
かならこの先は……。
「舌噛むといけないからちゃんと口閉じててね」
「待って、この先は崖……いやぁあああああああ」
 森の中に響き渡った少女の声は、マキーナの街にまで届いていた。

2007/02/17 00:39 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達
第三話「月下」/シオン(ケン)
PC:シオン クロース オプナ
場所:マキーナ周辺森
NPC:屍使い
--------------------------------------------------------------------------------
風をまとった光牙(鞘に入れた状態)の一撃を受け、大きく吹き飛ぶ男、大の大人の
男を吹き飛ばしたのは驚く事に華奢な体付きをした少年だった。

自分の身長をゆうに越える聖柄の太刀をまるで棍の様に構えるとまだ残っている男達
を一瞥する、月光を受け白銀に輝く髪を夜風になびかせ、月明かりに照らされて幻想
的な美しさを漂わせる横顔は絶世の美女を思わせる、それでいて僅かに幼さを残して
いた。

先ほどまで出ていた月が再び厚い雲に覆われ始めた頃、白髪の少年は最後の男の鳩尾
に突きを入れて昏倒させていた。

パチパチ

白髪の少年が先ほど昏倒させた男を調べようとした時だった、オレンジ色の散切りの
髪をした長身の20代前半の青年が拍手をしながら白髪の少年に近寄ってきた。いつ
もなら微笑みをたたえて挨拶をする白髪の少年だが場合が場合で不意に現れたオレン
ジ頭の青年に僅かばかりの警戒心を宿した眼で見つめる。
その様子を見て、オレンジ頭の青年は不適な笑みになり口を開く。

「いいね~、その表情、その眼」

オレンジ頭の青年はにやにやと笑いながら近づいてくる。

「貴方はどなたですか?」

オレンジ頭の青年の言動に白髪の少年は少し眉をひそめつつ問う

「へ~、そんな声をしてるんだ、モロ僕の好みだよ」

質問の答えになっていない返答、オレンジ頭の青年は白髪の少年の顎に手を添え、妖
しい光を放つ紺色の瞳でまじまじと見つめてくる。

「お、おやめなさい」

その瞳に魅入ってしまっていた事に気付き、顔を赤らめながらも慌てて跳びのく白髪
の少年、それを愉快そうに眺めていたオレンジ頭の青年はにやにやと笑いながら右手
に刀、左手に剣を何所からともなく取り出した。

「残念だけどそろそろ本題に入ろうか、シオン・エレハイン」

「!…なぜ私の名前を?」

シオン・エレハインと呼ばれた白髪の少年は一瞬驚いたがすぐに冷静に物事を解釈し
た。

「…やはりさっきの人達は貴方が差し向けてきたのですね?」

シオンの問いにオレンジ頭の青年は満足そうに笑う。それが意味するものは―――肯
定―――

「いいね~頭が言い人って言うのも好きだよ…でもね」

言った途端、シオンの足首を何者かが掴み、そのまま逆さ釣りの状態で持ち上げられ
る。

「ぁ…何!?」

「僕が差し向けたのは人じゃないんだよね

シオンの青紫色の瞳に映った者は先ほど確かに昏倒したはずの男であった。普通の人
間ならまだまだ気を失っている一撃だったはずだ。

「言い忘れたけど僕の名前は『屍使い』…君を襲っていたのは僕が操っていた死体君
達だよ」

オレンジ頭の青年、屍使いが勝ち誇って言う、そして再びシオンに近づこうとして足
を止めた。

「へ~君…やっぱりスゴイよ」

刹那、シオンを掴んでいた死体がシオンを中心い発生したつむじ風にズタズタに切り
裂かれる、それはその周辺にあった他の死体も巻きこみ、風が止んだときには死体達
は一つ残らず消し飛ばされていた。

「あの状態で詠唱を完成するなんて、並大抵のレベルじゃない…ますます欲しくなっ
た」

屍使いの言葉が終るよりも早く、風をまとわせた光牙を手に構え、突っ込んでくるシ
オン、それを跳躍でかわす屍使い、上に跳ぶことを読んでいたかのように、振り帰り
際の突きは正確に屍使いの鳩尾を捕らえていただろう、しかし屍使いの背中から炎の
翼が生え、空を切る事にとどまった。シオンはすぐさま風の翼を広げ、屍使いを追撃
する。

「はっはっは、まさか僕が炎の魔法を使えるとは思わなかっただろ?」

屍使いの言葉を無視し、繰り出されるシオンの突きを屍使いは器用に左右の刀剣でさ
ばく、屍使いが火の玉を飛ばしてきたらシオンは風の盾で防ぐ、風と火は基本的には
火のほうが強いが防御、支援にに関しては風の方が勝る、激しい空中戦が続くさな
か、シオンに好機が訪れる。突きと見せかけて繰り出した光牙をなぎに変更した際、
屍使いの右腕を強く打ちつけ、怯んだ所を風をまとった突きを胸元に御見舞いしたの
だ。たまらずむせ返る屍使いに光牙を突き付ける。

「もう勝負はつきました。お引きなさい、そして二度と私の前に姿を現さないでくだ
さい」

強い口調で言い放つシオンを屍使いは見つめると、ニィっと口元を吊り上げて笑う。

「へ、さすがにつよいね、こりゃ本気でいかなきゃやばいか」

その言葉を聞きシオンは改めて構えなおす、が屍使いは相変わらず下品に笑いつづけ

「まあ、まてって、ビッグバン・メテオ…炎系の最上級魔法だ、それを避ける事がで
きれば、君の言う通りもう二度と君の前には姿を現さないよ」

言って屍使いは大容量の詠唱を始める。しかしシオンは少し考えていたが受けること
にした、避ける事に関しては風使いの右に出る者はいない、それが魔法や銃と言った
飛び道具ならなおさらだった。

「わかりました、受けましょう」

屍使いはニヤ~っと妖しく笑う、その間にも詠唱はどんどんと終って行く。

「(さすがにウィンドシールドでは防ぎきれませんね…)」

シオンはいつ放たれても良いように身構える、その数秒後、詠唱は完成した。

「じゃあ避けてみな!」

そう言った屍使いはいきなり後ろを振り返ると明後日の方向にビックバン・メテオを
放出した、そのエネルギーは凄まじく、火、水、風、土の中で威力で言えば最強と言
うのもうなづけるほどだった、もちろんウィンドシールドなんてもんで受けてたら風
の盾ごと消滅するだろう…しかしそれを屍使いはあらぬ方向に放出したのだ、しか
し、シオンはその意味がすぐにわかった、避けさせないためにしたのだ、ビックバ
ン・メテオの進行方向には二人の旅人がいた、一人は紅の長髪に桜色のローブを羽織
った20代くらいの女性だ、もう一人は対照的に白っぽい頭髪に10代くらいの少女だ。
あの距離、あのタイミングではビッグバン・メテオを防ぐ事はもちろん、かわす事も
不可能だろう。

「死体操作と同様に、僕のやり方は人から嫌われるんだ、君は放っておけるかな?」

最上級魔法を放ったため、荒い息遣いだが屍使いははっきりと聞こえる声で言った。
もっともシオンにはもう聞こえていなかったかもしれないが。

「ふふ、やっぱり行ったか、そうで無くちゃね」

フフフと不適に笑い屍使いは高みの見物を決めこんだ。

迫り来るビックバン・メテオにやっと気付いたのか、二人が走り始める、やはりだ、
今からでは間に合わないだろう、シオンは目を瞑り、精神を集中し、身体の中にいる
『あいつ』に問いかけた。『千年大蛇』サイボーグであるシオンが作られる際、人間
の細胞と一緒にかかけ合わせたもう一つの細胞の正体だ、この細胞のおかげでシオン
は尋常ならぬ身体能力を身につけることが可能だった、しかし制限時間は5分だ、それ
を過ぎると……シオンは無意識に右腕の傷を包帯越しにさする。

再び開いたシオンの瞳は銀色に輝き、肩ちょっとまであった白髪はプラチナブロンド
の長髪に変わりその身体は金色の淡い燐光に包まれていた。

加速したシオンは金色の残像を引きながら信じられないスピードでビックバン・メテ
オの前に回りこむとそれを両の手で押さえる。そのかいもあって二人は無事に範囲外
までかけぬけた。
それを確認し、シオンはさらに力をこめる、もはや身体は限界に近かったが、力を振
り絞り、ビックバン・メテオを消滅させた、その際の大爆発に巻きこまれ吹き飛ばさ
れたシオンは元の姿に戻っていた。
泥の地面を滑走し、大木に激突してやっと止まった。両腕は焼け爛れ、背中にも激痛
が走る朦朧とする意識の中、先ほどの二人が駆け寄ってくるのが見えた。

「こっちに来てはいけません、早くお逃げなさい」

と、言おうとしたが叶わず、シオンは意識を失ってしまった。


「す、すごい…なんて綺麗なんだ…オマケにこれほどの力があるとはな~…フフフ、
楽しくなってきた、また逢えるのを楽しみにしてるよ、大丈夫、君なら生き残れるっ
て…」

そう言い残すと屍使いはオレンジ色の火の玉になり何所かに消えて行った。
後には何の痕跡も残さずに…

2007/02/17 00:40 | Comments(0) | TrackBack() | ○造られし者達

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