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2025/04/21 16:00 |
58.「心の迷宮・最後の扉」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー リング
NPC:真実の鍵 影の男
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 黄土色の石壁と天井、床以外何も無い通路を、ギゼーはひたすら歩いてい
た。
 やがて進路方向左手に下へ降りる階段が見えて来た。その更に奥まった所に
は扉があつらえてある。扉の色は青かった。取っ手が付いている以外、他に装
飾と言える装飾は何も無く、ただ目の前に木製の板が塞がっているに過ぎなか
った。通路はそこで行き止まりになっている。

「……この扉は……真実の扉……なのか?」

 ギゼーは見極める為に、真実の鍵を鍵穴に差し込んだ。そして静かに押し開
けて行った。胸中に、期待と不安を混合した色で塗り込めて――。


    ◆ ◇ ◆


「ちょっと待って下さい! 今の何なんですか――」

 リングの制止の叫びが、辺りを揺るがした。
 ギゼーが扉を開けた時、リングは擬似リングがメデッタに誘惑している映像
を見せられて、動揺している所だった。影の男は続いてギゼーの映像を映し出
そうとしている。
 影の男とリングの間にある空間が歪み、円を描くように像が形作られてい
く。
 それは、今正に、リングと影の男の戦いを見ているギゼーの後姿だった。

「!? ギゼーさん!?」

 不意に後ろを振り向くリング。そうした所で、見える筈は無いのだが。

『おやまぁ。ちょうどこちらを見ている所でしたねぇ。いや、しかし、まだ真
実の扉は開けていないようですね』
「真実の扉?」

 影の男の少しおどけた様な物言いに動じず、空かさず質問を投げかけるリン
グ。
 影の男はその質問には答えずに、代わりに先程のリングの疑問に答える。

『……そうそう。冥土の土産に、イイ事を教えて差し上げましょう。先程の貴
女の質問ですが、ココは、心を試すための迷宮なのデスヨ。勿論、人間の、
ね』

 影の男は、笑いながら言った。まるでゲテモノの顔で、口だけを歪に歪ませ
て。
 リングの、「この迷宮は何なんですか」という質問に対する答えが、それだ
った。

『ココに入った人間は、誰しも王になる為の試練を受ける資格が与えられま
す。モチロン、それを乗り越えられなかったら……死が待っているだけですけ
ど、ネ』

 大仰に両手を上に掲げながら少し芝居がかった言い方を、影の男は態とらし
くした。

『それが、ココを作った人間の、最後の望みだった――』

 然して哀しげでも無く、そうのたまうと片腕を胸の辺りに滑らせて慇懃にお
辞儀をする。それは、リングに向けられてのものだった。
 リングは肩の辺りを微かに震わせて、声を絞り出すように低く呟いた。

「……それが、たったそれだけのために、こんな迷宮を作ったというのです
か。いったい、何の為に……」

 そんなリングの様子を、さも可笑しげに見詰めながら――しかし瞳が無い顔
で何処を見詰めているのか判らないが――再び質問に答えた。

『――王を選出する為に。ただ、ソレだけの為に』

 私はココにいる、と含み笑いで締め括った。


    ◆ ◇ ◆


「ココも違う。真実の扉じゃナイ。シカシ――どうやら真実の扉は近いヨウ
ダ。現実世界との接点が、多くなって来ていル」

 真実の鍵は扉を閉めて、そう言った。
 ギゼーは自分の耳を疑った。「真実の扉が近いだって? どうしてそんな事
が解るんだ」と、何か理不尽なものを感じずにはいられなかった。でも、確か
に現実世界との繋がりが増えてきたような気もする。先程のメデッタの時も、
今回のリングの時もそうだ。これが真実の扉に近い証拠だとするならば、真実
の扉の先にあるものは――。

 青い扉が真実の扉じゃないと解ったからには、道は一つしかなかった。
 下へ続く階段。
 ギゼーは一歩一歩確かめながら降って行った。崩れる事など無い階段だとい
うのに、慎重を持して足取りも重く降りて行く。壁に手をつき、慎重になぞっ
て行く。
 階段は螺旋階段になっていて、永遠に下へと続いているかのようだった。

 一体何時間降っただろう、階段の下方から段々と暗がりが迫って来ている。
今まで明るかった空間が、急に暗く沈み込む。まるで、闇に飲み込まれていく
ようだ。黄土色の壁が暗闇を吸収して暗黄色から灰色を経て黒へと変わってい
く。

「ダンダン、心の深部に近付いているんだヨ」

 徐に真実の鍵が口をきく。それはギゼーの心臓を鷲掴みにしたらしく、一瞬
飛び上がるほど驚いた。

「……なんだよ。脅かすなよ……」
「ノミの心臓だナ。ケケケ」

 意地悪く嗤う、真実の鍵。
 対してギゼーは気分を害したのか膨れっ面を作ると、無言のまま下へ降りて
いく。
 降りきった所はドーム状の部屋になっていて、怪談の反対側――つまり正面
に扉が見える。周囲は既に闇に飲み込まれており、周りを見渡せる筈が無いの
に何故かそこがドーム状で出来ていると解る。正面の扉は仄かに光っていて、
金細工が施されている。下地は木製の扉のようだ。

「こ、ここが……これが、真実の扉……」

 ギゼーが思わず空唾を嚥下する。何故か一目見ただけでそれが真実の扉だと
解ってしまう不思議に、心が揺らいだのだ。本当に自分はこの扉を開ける資格
があるのだろうか、と。扉の威風にも圧巻されていた。
 真っ直ぐ真実の扉に近付くギゼー。手に握った真実の鍵は、何故か震えてい
た。否、震えているのはギゼーの腕の方だった。腕から伝わる振動で、真実の
鍵はギゼーが恐れを抱いているのだという事を感じ取っていた。

「こわいのか?」
「べっつに~?」

 これでもかと言うほど強がって見せるギゼー。鼻歌なんぞ歌いながら鍵を鍵
穴に差し込んでいく。
 そして、静かに扉は開かれた――。


    ◆ ◇ ◆


 扉の向こうには、王冠が鎮座していた。

「こ、これが……竜の爪……」

 もう一度、空唾を嚥下するギゼー。完全に王冠の風貌に飲まれていた――。

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2007/02/14 23:42 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
59.「遺跡の真実」/リング(果南)
PC ギゼー リング
場所 白の遺跡
NPC メデッタ 影の男
___________________________________

『――王を選出する為に。ただ、ソレだけの為に』
 含み笑いで、男がリングに詰め寄る。
『そのためだけに、私はココにいる』
 そしてリングのその首に手をかけた。
『さようなら、竜族の娘よ』
「くっ…は…っ…」 
非情な力がリングの首にかかる。


 扉の向こうには、王冠が鎮座していた。こうこうと輝く金の王冠は、その名
の通りそそり立つ竜の爪を模っている。
「こ、これが……竜の爪……」
 もう一度、空唾を嚥下するギゼー。
 この王冠を守るため、いくつものトラップが仕掛けられている理由がギゼー
には今解った気がした。たしかに<コレ>はただの王冠とは違う。
王冠からはただの王冠とは明らかに違う高尚な気配が漂ってくる。そう、まる
で元の竜の尊厳が伝わってくるような。王冠の中央にはひとつだけ、血のよう
に真っ赤なルビーが嵌め込まれていた。そのルビーは、まるで真っ赤な竜の瞳
のようにきらきらと輝いている。
「すげぇよ…、このルビーだけでも、いったいいくらするんだ…」
 そう呟き、吸い込まれるように王冠に近づいていくギゼー。王の誕生はも
う、間近だった――。


『ふふふ、もう少しで新たな王が誕生しマス。そうすれば、また破壊と殺戮の
時代が始まるのデス―』
「うぇ…っ…」
 男にギリギリと首を締め付けられながらも、リングははっとして目を見開い
た。
「馬鹿な…っ…!ギゼーさんがっ…そんな人になるわけ…っ…」
『なるのデスよ…。それが<王>デスから。…いや、<王>の人格でしょうか
ね?』
「!」
驚くリングに、男は哂いながら告げる。
『なぜなら、そう…、この遺跡を創った者の意思は<自分の保存>デスよ。王
の体が朽ちても永遠に自分の存在を保存するための装置なんデス。すなわち、
あの王冠を手に入れた瞬間からあの少年の人格は消えて、あの少年の人格は<
王>になりマス。そのための<体と心を選ぶ>遺跡なのデスよ、ココは、
ね…』
男に告げられ、真実を見つけた少女は愕然とした。
「そ…んな…っ…」
 それではギゼーさんがあまりに可哀想すぎる…!少女は思った。触れた瞬間
から自分を失ってしまう、王の人格保存装置。あんなに手に入れたがっていた
宝が<コンナモノ>だったなんて…!
(触れちゃダメです!<王>になっちゃダメ!ギゼーさんっ…!)
 心の中で大きくリングは叫んだ。しかし、その意識も苦しさで薄れようとし
ている――。


 そっと金色の輝きに手を伸ばし、おそるおそるその指先を近づける。
―オメデトウ、コレを手に入れたらキミこそ晴れて<王>だネ。
 どこからか真実の鍵の声が聞こえる。
―サア、ハヤクソノオウカンニ触レテ…。
 ギゼーはそっと、王冠のルビーに手を触れた…。

 どくんっ

 その時、なにか紫色のものが心臓に入り込んだような感触がして、頭が割れ
るように痛くなった。とたんに目の前が真っ暗になる。なんとなくだけども、
自分が今、『侵蝕』されているのが解る。
(ああッ!何だこの感触は…ッ!)


 その時、
 ぶわっ、とリングの皮膚一面に何かの「文字」が浮かび上がった。ソレはま
るで体全体に彫られた刺青のように。くっきりと文字を映し出す。
『なんデスか…!コレは…!』
 思わず男が驚いて手の力を緩める。
『まるで…、聖書の文句のようなモジ…』
 そう、それは「聖書」を守る者が生命の危機に陥ると作動する装置…聖書の
中に封じ込められているすべての魔力が一気に開放される仕組みになっている
のだ。 
 リングの体の文字がギラン、と一瞬で閃いた!そしてそれは光の柱になっ
て、男の支配する空間を縦に貫く。
『うわぁぁぁぁぁっ…!!』
 男の悲鳴が広がった。


 メデッタを誘惑していたリングの体が突然、パキッ、と縦に割れた。
『あ…』
 リングが「あっ」という表情を貼り付けたまま半分に分かれる。
「なっ…!」
 我に返り、驚くメデッタ。
「一体、何が…!」
『ナンテコト…、遺跡が…崩壊、す…ル…』
 その瞬間、空間が二つに裂けた。

2007/02/14 23:44 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
60.「<王>の心」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー リング
NPC:真実の鍵
場所:白の遺跡
++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 心が蝕まれていく。
 紫色の何かに浸食されていく。
 それは、<王>の心。
 かつて王だったものの成れの果てだった――。


   ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


――ギゼーさん、駄目! そんなものに負けないで!

 遠くでリングが喘ぎながら言ったような気がした。
 今やギゼーの意識は失いかかっていた。竜の爪を手に取って被ってみたい。しかし、そ
れをすれば心が失われてしまう。そんな葛藤がギゼーを苦しめていた。

――ナニヲグズグズシテルノサ。サッサトカブッチマイナ。

 また、遠くの方で真実の鍵が何やら誘惑めいた事を言ったような気がする。だが、そん
な口車に乗る程、ギゼーは愚かしい人間ではなかった。
 だが、しかし。今まで追い求めていた物が、手の届く距離にある。それだけで心が揺ら
ぐ。心が傾いで行く。アレを手に取れば目的は達成される。ただそれだけで幸せだった。
今までの自分なら。だが、今の自分は――。

「リングちゃん……メデッタさん……」

 やっとの思いで仲間の名前を呟いてみる。そうしたところで今この瞬間に受けている苦
しみからは逃れられないのだが。
 今まで出会った色んな人々の顔が、走馬灯のように脳髄を掠めていく。彼らの悲しむ顔
が目に浮かぶ。リング、メデッタ、ジュヴィア、クロース、サリア、父親であるチグリに、
母親であるユーフラ、それからガロウズ村の皆……。彼らを裏切るわけにはいかない。殺
戮と破壊の衝動を抑えなくてはならない。支配者の心に染まってはいけない……。
 ふとした弾みで、ガロウズ村で生まれてから今日[こんにち]までの記憶が鮮やかに蘇っ
て来た。それはまるで走馬灯のように、ニューロンを駆け巡った。それは自己を保存する
鍵である。無意識の内の抗いであった。<王>の心に対する。


   ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「ギゼー」

 甘ったるい声が頭上から降ってきた。
 昼日中、余りにも気持ちのいい天気なのでつい転寝[うたたね]をしてしまったようだ。
ギゼーはひとつ伸びをすると、芝生の上に上半身を起こして声の降って来た方を振り向い
た。
 そこには、サリアが居た。サリアが甘えたような、恥ずかしがっている様な、不思議な
面持ちでギゼーのほうを見詰めている。
 ギゼーは少し幼さの残る顔でサリアを見詰め返した。

「なんだい? サリア」

 サリアとギゼーは懇意にしている仲である。友達連中の中でも特に親しくしていた。付
き合っているとまではいかないまでも、それなりに好意を寄せ合っていた。ともすると付
き合っているんじゃないかと周囲の人間に錯覚させるほど、二人は中睦まじかった。

「ギゼー、食べて欲しいものがあるんだけど。いい?」

 頬を朱に染めてサリアが懇願する。その仕草は乙女のそれだ。ギゼーはかわいらしいと
思った。だがギゼーはそんな思いなどおくびにも出さずに、気怠るげに尋ね返した。

「食べて欲しいもの? 何?」
「桃色まんじゅう」

 即答だった。サリアの悪い癖だ。桃色きのこを材料にして作った料理をギゼーに食べさ
せるのだ。実験台とも、恋仲になりたいが為の計画とも取れる行動だった。
 ぐらりと周りの景色が傾いだ。その瞬間、ギゼーは落ちて行く浮遊感に見舞われた。
 気が付くと今度は、落とし穴から落下していた。ギゼーの年齢は先程よりも進んでいて、
丁度17歳の頃だった。慌てて周囲を見渡すと、手の届く所にロープがぶら下がっていた。
ギゼーはそのロープを思い切り握り締めた。すると、摩擦で多少擦れたが、何とか落下を
止める事ができた。

「っぶねぇ」

 ギゼーは今や、遺跡内を探索している所だった。そして落ちたのだ。落とし穴に。常に
慎重を持してやまないギゼーともあろうものが、まさか簡単なトラップに引っかかるとは。
若気の至りと言う奴である。上には遺跡の天井と思しき石壁が見える。

「何処だ? ここは。
 …………思い出した。俺は、遺跡を探索している途中なんだった」

 早く上に昇らなければ。腕の筋力が、何時までもつか知れた事ではない。ギゼーは焦っ
た。だが、焦れば焦るほど、上手く上に昇れない。摩擦で擦れて出来た火傷の痛みが、
ロープをよじ登るのを邪魔する。気ばかり焦ってなかなか上に上がれない。

――ハヤク、ハヤク、オウカンヲテニイレチマイナ。ソウスレバラクニナレルゾ。

 再び何処か遠くの方から真実の鍵の声が聞こえて来た。今度は焦っているような声音で
囁いてくる。
 微妙にニュアンスの違う物言いに、何か違和感を覚えるギゼー。真実の鍵は何を焦って
いるのだろう、という疑惑が浮上する。焦ってる、何処かそんな感じの物言いに引っ掛か
りを感じるのだ。
 と、その時急に息苦しさを感じて、思わず手をロープから離した。火傷の痕はもうすっ
かり無くなっていて、その代わり周囲を水が埋め尽くしていた。そこは先程まで居た遺跡
の落とし穴ではなく、水の中だった。
 今度は水中を上に向かって泳ぐ事になったギゼー。年齢も17から18歳になっている。遺
跡で落とし穴に落ちてから、一年後の湖の中だった。湖の底に遺跡があるとの噂話を信じ、
ギゼーは湖の中心までボートで漕いで行ってそこから湖の中に潜ったのだ。流石に素潜り
には限界があって、ギゼーは途中で水面に出ざるを得なくなったのだ。

「ぷはぁっ!」

 やっとの思いで水面に顔を出すギゼー。
 手近に浮かんでいた小船の縁に、手を掛けて転がり込む。

「やぁっぱり、無理だったかぁ。息が続かねぇよ」

 ギゼーはふと船底に違和感を感じて覗き見た。
 見ると其処には黄金の鍵が落ちていた。片翼のついた鍵が――。

――トットトオウカンヲテニシロヨ。ハヤクカブッチマイナ。

 ギゼーは喋る筈のない鍵が直接心に語り掛けてきたので、吃驚して取り落としてしまっ
た。それでもお構いなしに、そいつはギゼーに必死で語りかける。それはまるで何かに追
われているもののようだった。

――オウカンハスバラシイゾ。イママデテニイレタドノタカラヨリモ、スバラシイタカラ
ダゾ。サア、テニイレロ。ソシテカブルノダ。

 確かに真実の鍵は焦っている。それはまず間違いないだろう。今もって明らかになった。
 何かが、真実の鍵に起ころうとしているのかもしれない。いや、その何かはもう既に起
こっているのかもしれなかった。
 その時、不意に船が傾いだ。
 そのまま湖に身を投げ出されるかと思いきや、そうはならなかった。
 気が付いたらギゼーは雑踏の中に転がり出ていた。年の頃は、20歳。もう、結婚してい
ても可笑しくない年齢である。いや、寧ろ結婚していなければいけない年齢、とも言われ
ている。
 しかし、ギゼーは違っていた。
 その頃のギゼーは、美女を観察することにかまけていた。美女を見詰める事が好きだっ
た。遺跡を探索し、宝を物色する次くらいに好きだった。何故かは解らない。何時からそ
うだったのかも。ただ、ギゼーの母親が大きく関与している事だけは、はっきりしていた。
 ギゼーの母親は村一番の器量良しだった。その美しさは近隣の村々まで遠く及んでいた。
ギゼーは小さい頃から、その母親を見て育って来たのだ。多少、マザコンの気もあった。
父親にどやされると、必ず母親の膝に泣き付いていた。
 そんなところから、何時しか美女ウォッチングが何時しかギゼーの趣味の一つになって
いったのだろう。
 その日もギゼーは何時も通り美女を観察していた。そして目ぼしき美女に声を掛けたら、
案の定、張り飛ばされたのだ。そして、尻餅をついた。ギゼーはそこまで思い出していた。
そして、痛い筈の尻をさすりもせずに、美女を見上げて唖然としている。
 自分はどんな言葉をかけたっけ?
 そんな事も思い出せずに、先程の衝撃から立ち直れずに居た。
 すると、美女は何やら恐ろしげな顔で、人ならざる声音で言った。

「サア、リュウノツメヲテニイレルノヨ。オウカンヲカブッテ、オウニオナリナサイ」

 その言葉は、何処か遠くから響いてくるようにも聞こえた。
 何処か遠く、例えば夢の中から。
 否、夢の中ではない、現実の世界からかもしれない。
 ギゼーにとって今いる世界が現実の世界なのか、はたまた夢の世界なのかもはや判らな
くなって来ていた。唯一ついえることは、この世界は現実味を帯びていないと言う事だけ
だった。そして、何処か遠くから響いてくる声が聞こえるということだけが現実との接点
だった。その声こそが、現実との繋がりなのだ。
 現実――現実との繋がり。現実とは何か。その考えに至った所で、ギゼーは徐に口を開
いた。

「俺は王にならない。俺は……王じゃない」

 自然と口をついて出た言葉だった。
 俺は王じゃない。俺は、俺であって何者でもない。

 その瞬間、紫色の何か――<王>の心が砕けた。
 そして、ギゼーは現実の白の遺跡に戻ってきた。
 その手には王冠が握られていた。その金色に光る竜の爪を模った王冠はいよいよもって
現実味を帯び、掌を伝ってずっしりと重みが伝わって来る。そして、その中央には煌々と
輝く真紅に染まった宝石が嵌め込まれていた。それはルビーのように見えて、でもルビー
ではなかった。瞳孔のような文様がその石の中心部分に描かれていた。それはまるで竜の
瞳に似ていた。

「ついに――ついに手に入れたぞ。竜の爪を――」

 ギゼーは、興奮を抑える事が出来なかった。
 ギゼーが高々と竜の爪を掲げた時、遺跡全体が揺らいだ――。


2007/02/14 23:45 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
61.「崩壊の合唱曲」/リング(果南)
PC ギゼー メデッタ
NPC リング
場所 白の遺跡
___________________________________

 空間が二つに裂けたと思ったら、メデッタの目の前に現れたのは、何の変哲
もない、積み上げられた石で出来た部屋だった。自分を幻惑する空間が消えれ
ば、この場所は単なる遺跡にしか過ぎない。
 ただし、この遺跡には今、変化が起こり始めていた。メデッタの顔にパラパ
ラと砂の粒が当たる。それは遺跡の天井から降ってきていた。天井を見上げ、
メデッタは呟いた。
「…この遺跡、崩れ始めている」
 なぜ今、この遺跡は壊れようとしているのか、メデッタには理由は解らなか
った。ただ、この状況から、…ギゼーとリングをつれて今すぐにココを脱出し
なければ危ないことは、分かった。
(急いで、あの二人を探さなければ)
 メデッタは黒いマントを翻すと、今いる部屋を駆け足で抜け出した。

 ***

 二人の名を呼びながら、崩れそうな部屋をいくつ廻ったことだろうか。
 何部屋目かの部屋で、ついにメデッタはようやく探していた一人目に出会え
た。
「…リング!!」
 リングは、崩れそうな部屋の中央で、呆けたように空を見て座り込んでい
た。体が、先ほどの自衛行為の影響で、まだ少し金色に発光している。メデッ
タはその様子を一目見て分かった。なぜ、遺跡が崩れはじめたのか、なぜ、リ
ングはこのようになってしまったのか。
(…「聖書」だ…っ)
 メデッタはリングに近寄ると、発光するその体をしっかりと抱きしめた。
「…さあ、此処から出ようリング。こんな本、抱えているからいけないん
だ…」
 目はうつろに開いていても、意識のないリングをメデッタは抱き上げた。抱
き上げたまま、ギゼーを探し、ここから出るつもりなのだ。
(こんなわけのわからない処で、死んでたまるか)
 メデッタはリングを抱えたまま、また走り出した。部屋を出ると石柱が立ち
並ぶ長い回廊があった。迷わずそこを走り抜ける。
(リングも、…そしてギゼー君もこんなところで絶対に死なせない!) 
 メデッタは走った。一刻も早く、ギゼーを見つけるために。

2007/02/14 23:46 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
62.「遺跡からの脱出」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー メデッタ
NPC:リング 影の男
場所:白の遺跡
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 ギゼーはただ呆然と崩れ行く遺跡を眺めていた。
 崩れていく。遺跡が。浪漫が。そう考えたら自然と涙が込み上げてくる。同
時に笑いも。ギゼーは半泣き半笑いのままその場に立ち尽くしていた。“竜の
爪”を手にしたまま。
 壊れる? 遺跡が? ギゼーにとってそれは、俄かには信じ難い事だった。
 崩れ行く遺跡を目の前にして、自分の夢まで崩れていく錯覚を覚えながらも
ギゼーはとにかく早くこの場から脱出しなければいけないと痛感していた。だ
が、どうやって? そもそもここは何処なのかすらも知らないのだ。この場か
ら脱出するにしても、この部屋がある空間自体が外の世界と繋がっているかど
うかも怪しいのだ。

「でも、揺れているってことは……」

 少なくとも現実の世界である事だけは確かなようだ。

「そうだ! 真実の鍵は?」

 ギゼーは咄嗟に手元を見た。だが、真実の鍵は忽然と消えていた。まるで夢
が霧散してしまったかのように。足元を見遣っても、後ろの扉にあつらえてあ
る鍵穴を見ても、この部屋中何処を探しても真実の鍵の姿は見当たらなかっ
た。

「夢の中の出来事だったから、消えてしまったのかなぁ」

 そう、あれは現実の世界で手に入れたものではない。夢の中の世界で手に入
れたものだ。だから現実の世界に帰ってきた今、消えてしまったとしてもおか
しくはなかった。

「ま、いっか。ともかく今はここから早く脱出するだけだ」

 何時までも夢の中の世界に引き摺られるわけには行かない。この現実世界で
は、今正に自身の身が危ぶまれているのだ。竜の爪を手に入れた今となれば、
尚更こんな場所からはおさらばするべきだ。

「そうと決まれば……」

 扉に数歩歩きかけたギゼーの耳に、自分を呼ぶ声が何処か遠くから聞こえて
来た。

「? あの声は……メデッタさん!?」

 咄嗟に希望が生まれ、メデッタの元へと少しでも近付こうと扉を開けようと
した。が、開かない。それもそのはず、この扉を開いたのは真実の鍵だったの
だ。それが今はもう無い。仕方なしに扉に対して体当たりを敢行するギゼー。
一度目の体当たりではビクともしなかった。余裕の無さを痛感するためか、は
たまた刻限を計るためか、ギゼーは一度目の体当たりの後天井を仰ぎ見た。土
色の砂粒がパラパラと頭上に降り注いでいる。この部屋も崩れるのは最早時間
の問題だ。
 二度目の体当たりで、扉が軋む。
 三度目で漸く、扉が開け放たれた。
 扉が開け放たれてギゼーが部屋から飛び出ると同時に、天井が轟音を立てて
崩れ去った。室内はそのまま土塊で埋まり、揺れはまだ続いている。床が抜け
るのも時間の問題か。

「ふゅぃー。間一髪……」

 空気の抜けるような声を漏らし、ギゼーは立ち上がって周囲を見渡した。部
屋から飛び出たそこは通路だった。今は壊れて入り口は塞がれている扉を正面
に、左右に延びる通路。右手は行き止まりで、左手には螺旋が下へと続いてい
る階段があった。先程聞こえたメデッタの声は左の螺旋階段の下方から聞こえ
てくる。どうやらこの階は円を描くように構成されているらしい。
 ギゼーは大声を張り上げてメデッタの呼び声に答えてみた。

「メデッタさーん! 俺はここです!」

 ギゼーが一声張り上げると、メデッタも流石に気付いたのか呼び声が確認の
声に変わる。

「ギゼー君! そこにいるのか!?」

 どうやらメデッタはギゼーの位置を認知出来たようである。周囲の崩落する
轟音に掻き消されないように、声を目一杯張り上げながら近付いてくる。ギゼ
ーもメデッタの声を頼りに下へと続く階段を駆け下りて行った。



     ************



 白の遺跡の一室――。

 影の男は再び現実世界で、影の存在として形を成していた。暫し崩れ行く天
上を見上げながら呆けていたかと思うと、やがて小さく呟いた。

「…………これで、やっと……やっと、役目を終えられる……」

 影の男の頬には、光るものがあった。
 王の秘宝も奪われた今となっては、唯の虚しい一つの使命でしかなかった。
影の男は、落胆するようにその姿をかき消した。

2007/02/14 23:46 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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