PC:ギゼー リング
NPC:真実の鍵 影の男
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
黄土色の石壁と天井、床以外何も無い通路を、ギゼーはひたすら歩いてい
た。
やがて進路方向左手に下へ降りる階段が見えて来た。その更に奥まった所に
は扉があつらえてある。扉の色は青かった。取っ手が付いている以外、他に装
飾と言える装飾は何も無く、ただ目の前に木製の板が塞がっているに過ぎなか
った。通路はそこで行き止まりになっている。
「……この扉は……真実の扉……なのか?」
ギゼーは見極める為に、真実の鍵を鍵穴に差し込んだ。そして静かに押し開
けて行った。胸中に、期待と不安を混合した色で塗り込めて――。
◆ ◇ ◆
「ちょっと待って下さい! 今の何なんですか――」
リングの制止の叫びが、辺りを揺るがした。
ギゼーが扉を開けた時、リングは擬似リングがメデッタに誘惑している映像
を見せられて、動揺している所だった。影の男は続いてギゼーの映像を映し出
そうとしている。
影の男とリングの間にある空間が歪み、円を描くように像が形作られてい
く。
それは、今正に、リングと影の男の戦いを見ているギゼーの後姿だった。
「!? ギゼーさん!?」
不意に後ろを振り向くリング。そうした所で、見える筈は無いのだが。
『おやまぁ。ちょうどこちらを見ている所でしたねぇ。いや、しかし、まだ真
実の扉は開けていないようですね』
「真実の扉?」
影の男の少しおどけた様な物言いに動じず、空かさず質問を投げかけるリン
グ。
影の男はその質問には答えずに、代わりに先程のリングの疑問に答える。
『……そうそう。冥土の土産に、イイ事を教えて差し上げましょう。先程の貴
女の質問ですが、ココは、心を試すための迷宮なのデスヨ。勿論、人間の、
ね』
影の男は、笑いながら言った。まるでゲテモノの顔で、口だけを歪に歪ませ
て。
リングの、「この迷宮は何なんですか」という質問に対する答えが、それだ
った。
『ココに入った人間は、誰しも王になる為の試練を受ける資格が与えられま
す。モチロン、それを乗り越えられなかったら……死が待っているだけですけ
ど、ネ』
大仰に両手を上に掲げながら少し芝居がかった言い方を、影の男は態とらし
くした。
『それが、ココを作った人間の、最後の望みだった――』
然して哀しげでも無く、そうのたまうと片腕を胸の辺りに滑らせて慇懃にお
辞儀をする。それは、リングに向けられてのものだった。
リングは肩の辺りを微かに震わせて、声を絞り出すように低く呟いた。
「……それが、たったそれだけのために、こんな迷宮を作ったというのです
か。いったい、何の為に……」
そんなリングの様子を、さも可笑しげに見詰めながら――しかし瞳が無い顔
で何処を見詰めているのか判らないが――再び質問に答えた。
『――王を選出する為に。ただ、ソレだけの為に』
私はココにいる、と含み笑いで締め括った。
◆ ◇ ◆
「ココも違う。真実の扉じゃナイ。シカシ――どうやら真実の扉は近いヨウ
ダ。現実世界との接点が、多くなって来ていル」
真実の鍵は扉を閉めて、そう言った。
ギゼーは自分の耳を疑った。「真実の扉が近いだって? どうしてそんな事
が解るんだ」と、何か理不尽なものを感じずにはいられなかった。でも、確か
に現実世界との繋がりが増えてきたような気もする。先程のメデッタの時も、
今回のリングの時もそうだ。これが真実の扉に近い証拠だとするならば、真実
の扉の先にあるものは――。
青い扉が真実の扉じゃないと解ったからには、道は一つしかなかった。
下へ続く階段。
ギゼーは一歩一歩確かめながら降って行った。崩れる事など無い階段だとい
うのに、慎重を持して足取りも重く降りて行く。壁に手をつき、慎重になぞっ
て行く。
階段は螺旋階段になっていて、永遠に下へと続いているかのようだった。
一体何時間降っただろう、階段の下方から段々と暗がりが迫って来ている。
今まで明るかった空間が、急に暗く沈み込む。まるで、闇に飲み込まれていく
ようだ。黄土色の壁が暗闇を吸収して暗黄色から灰色を経て黒へと変わってい
く。
「ダンダン、心の深部に近付いているんだヨ」
徐に真実の鍵が口をきく。それはギゼーの心臓を鷲掴みにしたらしく、一瞬
飛び上がるほど驚いた。
「……なんだよ。脅かすなよ……」
「ノミの心臓だナ。ケケケ」
意地悪く嗤う、真実の鍵。
対してギゼーは気分を害したのか膨れっ面を作ると、無言のまま下へ降りて
いく。
降りきった所はドーム状の部屋になっていて、怪談の反対側――つまり正面
に扉が見える。周囲は既に闇に飲み込まれており、周りを見渡せる筈が無いの
に何故かそこがドーム状で出来ていると解る。正面の扉は仄かに光っていて、
金細工が施されている。下地は木製の扉のようだ。
「こ、ここが……これが、真実の扉……」
ギゼーが思わず空唾を嚥下する。何故か一目見ただけでそれが真実の扉だと
解ってしまう不思議に、心が揺らいだのだ。本当に自分はこの扉を開ける資格
があるのだろうか、と。扉の威風にも圧巻されていた。
真っ直ぐ真実の扉に近付くギゼー。手に握った真実の鍵は、何故か震えてい
た。否、震えているのはギゼーの腕の方だった。腕から伝わる振動で、真実の
鍵はギゼーが恐れを抱いているのだという事を感じ取っていた。
「こわいのか?」
「べっつに~?」
これでもかと言うほど強がって見せるギゼー。鼻歌なんぞ歌いながら鍵を鍵
穴に差し込んでいく。
そして、静かに扉は開かれた――。
◆ ◇ ◆
扉の向こうには、王冠が鎮座していた。
「こ、これが……竜の爪……」
もう一度、空唾を嚥下するギゼー。完全に王冠の風貌に飲まれていた――。
NPC:真実の鍵 影の男
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
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黄土色の石壁と天井、床以外何も無い通路を、ギゼーはひたすら歩いてい
た。
やがて進路方向左手に下へ降りる階段が見えて来た。その更に奥まった所に
は扉があつらえてある。扉の色は青かった。取っ手が付いている以外、他に装
飾と言える装飾は何も無く、ただ目の前に木製の板が塞がっているに過ぎなか
った。通路はそこで行き止まりになっている。
「……この扉は……真実の扉……なのか?」
ギゼーは見極める為に、真実の鍵を鍵穴に差し込んだ。そして静かに押し開
けて行った。胸中に、期待と不安を混合した色で塗り込めて――。
◆ ◇ ◆
「ちょっと待って下さい! 今の何なんですか――」
リングの制止の叫びが、辺りを揺るがした。
ギゼーが扉を開けた時、リングは擬似リングがメデッタに誘惑している映像
を見せられて、動揺している所だった。影の男は続いてギゼーの映像を映し出
そうとしている。
影の男とリングの間にある空間が歪み、円を描くように像が形作られてい
く。
それは、今正に、リングと影の男の戦いを見ているギゼーの後姿だった。
「!? ギゼーさん!?」
不意に後ろを振り向くリング。そうした所で、見える筈は無いのだが。
『おやまぁ。ちょうどこちらを見ている所でしたねぇ。いや、しかし、まだ真
実の扉は開けていないようですね』
「真実の扉?」
影の男の少しおどけた様な物言いに動じず、空かさず質問を投げかけるリン
グ。
影の男はその質問には答えずに、代わりに先程のリングの疑問に答える。
『……そうそう。冥土の土産に、イイ事を教えて差し上げましょう。先程の貴
女の質問ですが、ココは、心を試すための迷宮なのデスヨ。勿論、人間の、
ね』
影の男は、笑いながら言った。まるでゲテモノの顔で、口だけを歪に歪ませ
て。
リングの、「この迷宮は何なんですか」という質問に対する答えが、それだ
った。
『ココに入った人間は、誰しも王になる為の試練を受ける資格が与えられま
す。モチロン、それを乗り越えられなかったら……死が待っているだけですけ
ど、ネ』
大仰に両手を上に掲げながら少し芝居がかった言い方を、影の男は態とらし
くした。
『それが、ココを作った人間の、最後の望みだった――』
然して哀しげでも無く、そうのたまうと片腕を胸の辺りに滑らせて慇懃にお
辞儀をする。それは、リングに向けられてのものだった。
リングは肩の辺りを微かに震わせて、声を絞り出すように低く呟いた。
「……それが、たったそれだけのために、こんな迷宮を作ったというのです
か。いったい、何の為に……」
そんなリングの様子を、さも可笑しげに見詰めながら――しかし瞳が無い顔
で何処を見詰めているのか判らないが――再び質問に答えた。
『――王を選出する為に。ただ、ソレだけの為に』
私はココにいる、と含み笑いで締め括った。
◆ ◇ ◆
「ココも違う。真実の扉じゃナイ。シカシ――どうやら真実の扉は近いヨウ
ダ。現実世界との接点が、多くなって来ていル」
真実の鍵は扉を閉めて、そう言った。
ギゼーは自分の耳を疑った。「真実の扉が近いだって? どうしてそんな事
が解るんだ」と、何か理不尽なものを感じずにはいられなかった。でも、確か
に現実世界との繋がりが増えてきたような気もする。先程のメデッタの時も、
今回のリングの時もそうだ。これが真実の扉に近い証拠だとするならば、真実
の扉の先にあるものは――。
青い扉が真実の扉じゃないと解ったからには、道は一つしかなかった。
下へ続く階段。
ギゼーは一歩一歩確かめながら降って行った。崩れる事など無い階段だとい
うのに、慎重を持して足取りも重く降りて行く。壁に手をつき、慎重になぞっ
て行く。
階段は螺旋階段になっていて、永遠に下へと続いているかのようだった。
一体何時間降っただろう、階段の下方から段々と暗がりが迫って来ている。
今まで明るかった空間が、急に暗く沈み込む。まるで、闇に飲み込まれていく
ようだ。黄土色の壁が暗闇を吸収して暗黄色から灰色を経て黒へと変わってい
く。
「ダンダン、心の深部に近付いているんだヨ」
徐に真実の鍵が口をきく。それはギゼーの心臓を鷲掴みにしたらしく、一瞬
飛び上がるほど驚いた。
「……なんだよ。脅かすなよ……」
「ノミの心臓だナ。ケケケ」
意地悪く嗤う、真実の鍵。
対してギゼーは気分を害したのか膨れっ面を作ると、無言のまま下へ降りて
いく。
降りきった所はドーム状の部屋になっていて、怪談の反対側――つまり正面
に扉が見える。周囲は既に闇に飲み込まれており、周りを見渡せる筈が無いの
に何故かそこがドーム状で出来ていると解る。正面の扉は仄かに光っていて、
金細工が施されている。下地は木製の扉のようだ。
「こ、ここが……これが、真実の扉……」
ギゼーが思わず空唾を嚥下する。何故か一目見ただけでそれが真実の扉だと
解ってしまう不思議に、心が揺らいだのだ。本当に自分はこの扉を開ける資格
があるのだろうか、と。扉の威風にも圧巻されていた。
真っ直ぐ真実の扉に近付くギゼー。手に握った真実の鍵は、何故か震えてい
た。否、震えているのはギゼーの腕の方だった。腕から伝わる振動で、真実の
鍵はギゼーが恐れを抱いているのだという事を感じ取っていた。
「こわいのか?」
「べっつに~?」
これでもかと言うほど強がって見せるギゼー。鼻歌なんぞ歌いながら鍵を鍵
穴に差し込んでいく。
そして、静かに扉は開かれた――。
◆ ◇ ◆
扉の向こうには、王冠が鎮座していた。
「こ、これが……竜の爪……」
もう一度、空唾を嚥下するギゼー。完全に王冠の風貌に飲まれていた――。
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