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2025/03/10 07:49 |
60.「<王>の心」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー リング
NPC:真実の鍵
場所:白の遺跡
++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 心が蝕まれていく。
 紫色の何かに浸食されていく。
 それは、<王>の心。
 かつて王だったものの成れの果てだった――。


   ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


――ギゼーさん、駄目! そんなものに負けないで!

 遠くでリングが喘ぎながら言ったような気がした。
 今やギゼーの意識は失いかかっていた。竜の爪を手に取って被ってみたい。しかし、そ
れをすれば心が失われてしまう。そんな葛藤がギゼーを苦しめていた。

――ナニヲグズグズシテルノサ。サッサトカブッチマイナ。

 また、遠くの方で真実の鍵が何やら誘惑めいた事を言ったような気がする。だが、そん
な口車に乗る程、ギゼーは愚かしい人間ではなかった。
 だが、しかし。今まで追い求めていた物が、手の届く距離にある。それだけで心が揺ら
ぐ。心が傾いで行く。アレを手に取れば目的は達成される。ただそれだけで幸せだった。
今までの自分なら。だが、今の自分は――。

「リングちゃん……メデッタさん……」

 やっとの思いで仲間の名前を呟いてみる。そうしたところで今この瞬間に受けている苦
しみからは逃れられないのだが。
 今まで出会った色んな人々の顔が、走馬灯のように脳髄を掠めていく。彼らの悲しむ顔
が目に浮かぶ。リング、メデッタ、ジュヴィア、クロース、サリア、父親であるチグリに、
母親であるユーフラ、それからガロウズ村の皆……。彼らを裏切るわけにはいかない。殺
戮と破壊の衝動を抑えなくてはならない。支配者の心に染まってはいけない……。
 ふとした弾みで、ガロウズ村で生まれてから今日[こんにち]までの記憶が鮮やかに蘇っ
て来た。それはまるで走馬灯のように、ニューロンを駆け巡った。それは自己を保存する
鍵である。無意識の内の抗いであった。<王>の心に対する。


   ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「ギゼー」

 甘ったるい声が頭上から降ってきた。
 昼日中、余りにも気持ちのいい天気なのでつい転寝[うたたね]をしてしまったようだ。
ギゼーはひとつ伸びをすると、芝生の上に上半身を起こして声の降って来た方を振り向い
た。
 そこには、サリアが居た。サリアが甘えたような、恥ずかしがっている様な、不思議な
面持ちでギゼーのほうを見詰めている。
 ギゼーは少し幼さの残る顔でサリアを見詰め返した。

「なんだい? サリア」

 サリアとギゼーは懇意にしている仲である。友達連中の中でも特に親しくしていた。付
き合っているとまではいかないまでも、それなりに好意を寄せ合っていた。ともすると付
き合っているんじゃないかと周囲の人間に錯覚させるほど、二人は中睦まじかった。

「ギゼー、食べて欲しいものがあるんだけど。いい?」

 頬を朱に染めてサリアが懇願する。その仕草は乙女のそれだ。ギゼーはかわいらしいと
思った。だがギゼーはそんな思いなどおくびにも出さずに、気怠るげに尋ね返した。

「食べて欲しいもの? 何?」
「桃色まんじゅう」

 即答だった。サリアの悪い癖だ。桃色きのこを材料にして作った料理をギゼーに食べさ
せるのだ。実験台とも、恋仲になりたいが為の計画とも取れる行動だった。
 ぐらりと周りの景色が傾いだ。その瞬間、ギゼーは落ちて行く浮遊感に見舞われた。
 気が付くと今度は、落とし穴から落下していた。ギゼーの年齢は先程よりも進んでいて、
丁度17歳の頃だった。慌てて周囲を見渡すと、手の届く所にロープがぶら下がっていた。
ギゼーはそのロープを思い切り握り締めた。すると、摩擦で多少擦れたが、何とか落下を
止める事ができた。

「っぶねぇ」

 ギゼーは今や、遺跡内を探索している所だった。そして落ちたのだ。落とし穴に。常に
慎重を持してやまないギゼーともあろうものが、まさか簡単なトラップに引っかかるとは。
若気の至りと言う奴である。上には遺跡の天井と思しき石壁が見える。

「何処だ? ここは。
 …………思い出した。俺は、遺跡を探索している途中なんだった」

 早く上に昇らなければ。腕の筋力が、何時までもつか知れた事ではない。ギゼーは焦っ
た。だが、焦れば焦るほど、上手く上に昇れない。摩擦で擦れて出来た火傷の痛みが、
ロープをよじ登るのを邪魔する。気ばかり焦ってなかなか上に上がれない。

――ハヤク、ハヤク、オウカンヲテニイレチマイナ。ソウスレバラクニナレルゾ。

 再び何処か遠くの方から真実の鍵の声が聞こえて来た。今度は焦っているような声音で
囁いてくる。
 微妙にニュアンスの違う物言いに、何か違和感を覚えるギゼー。真実の鍵は何を焦って
いるのだろう、という疑惑が浮上する。焦ってる、何処かそんな感じの物言いに引っ掛か
りを感じるのだ。
 と、その時急に息苦しさを感じて、思わず手をロープから離した。火傷の痕はもうすっ
かり無くなっていて、その代わり周囲を水が埋め尽くしていた。そこは先程まで居た遺跡
の落とし穴ではなく、水の中だった。
 今度は水中を上に向かって泳ぐ事になったギゼー。年齢も17から18歳になっている。遺
跡で落とし穴に落ちてから、一年後の湖の中だった。湖の底に遺跡があるとの噂話を信じ、
ギゼーは湖の中心までボートで漕いで行ってそこから湖の中に潜ったのだ。流石に素潜り
には限界があって、ギゼーは途中で水面に出ざるを得なくなったのだ。

「ぷはぁっ!」

 やっとの思いで水面に顔を出すギゼー。
 手近に浮かんでいた小船の縁に、手を掛けて転がり込む。

「やぁっぱり、無理だったかぁ。息が続かねぇよ」

 ギゼーはふと船底に違和感を感じて覗き見た。
 見ると其処には黄金の鍵が落ちていた。片翼のついた鍵が――。

――トットトオウカンヲテニシロヨ。ハヤクカブッチマイナ。

 ギゼーは喋る筈のない鍵が直接心に語り掛けてきたので、吃驚して取り落としてしまっ
た。それでもお構いなしに、そいつはギゼーに必死で語りかける。それはまるで何かに追
われているもののようだった。

――オウカンハスバラシイゾ。イママデテニイレタドノタカラヨリモ、スバラシイタカラ
ダゾ。サア、テニイレロ。ソシテカブルノダ。

 確かに真実の鍵は焦っている。それはまず間違いないだろう。今もって明らかになった。
 何かが、真実の鍵に起ころうとしているのかもしれない。いや、その何かはもう既に起
こっているのかもしれなかった。
 その時、不意に船が傾いだ。
 そのまま湖に身を投げ出されるかと思いきや、そうはならなかった。
 気が付いたらギゼーは雑踏の中に転がり出ていた。年の頃は、20歳。もう、結婚してい
ても可笑しくない年齢である。いや、寧ろ結婚していなければいけない年齢、とも言われ
ている。
 しかし、ギゼーは違っていた。
 その頃のギゼーは、美女を観察することにかまけていた。美女を見詰める事が好きだっ
た。遺跡を探索し、宝を物色する次くらいに好きだった。何故かは解らない。何時からそ
うだったのかも。ただ、ギゼーの母親が大きく関与している事だけは、はっきりしていた。
 ギゼーの母親は村一番の器量良しだった。その美しさは近隣の村々まで遠く及んでいた。
ギゼーは小さい頃から、その母親を見て育って来たのだ。多少、マザコンの気もあった。
父親にどやされると、必ず母親の膝に泣き付いていた。
 そんなところから、何時しか美女ウォッチングが何時しかギゼーの趣味の一つになって
いったのだろう。
 その日もギゼーは何時も通り美女を観察していた。そして目ぼしき美女に声を掛けたら、
案の定、張り飛ばされたのだ。そして、尻餅をついた。ギゼーはそこまで思い出していた。
そして、痛い筈の尻をさすりもせずに、美女を見上げて唖然としている。
 自分はどんな言葉をかけたっけ?
 そんな事も思い出せずに、先程の衝撃から立ち直れずに居た。
 すると、美女は何やら恐ろしげな顔で、人ならざる声音で言った。

「サア、リュウノツメヲテニイレルノヨ。オウカンヲカブッテ、オウニオナリナサイ」

 その言葉は、何処か遠くから響いてくるようにも聞こえた。
 何処か遠く、例えば夢の中から。
 否、夢の中ではない、現実の世界からかもしれない。
 ギゼーにとって今いる世界が現実の世界なのか、はたまた夢の世界なのかもはや判らな
くなって来ていた。唯一ついえることは、この世界は現実味を帯びていないと言う事だけ
だった。そして、何処か遠くから響いてくる声が聞こえるということだけが現実との接点
だった。その声こそが、現実との繋がりなのだ。
 現実――現実との繋がり。現実とは何か。その考えに至った所で、ギゼーは徐に口を開
いた。

「俺は王にならない。俺は……王じゃない」

 自然と口をついて出た言葉だった。
 俺は王じゃない。俺は、俺であって何者でもない。

 その瞬間、紫色の何か――<王>の心が砕けた。
 そして、ギゼーは現実の白の遺跡に戻ってきた。
 その手には王冠が握られていた。その金色に光る竜の爪を模った王冠はいよいよもって
現実味を帯び、掌を伝ってずっしりと重みが伝わって来る。そして、その中央には煌々と
輝く真紅に染まった宝石が嵌め込まれていた。それはルビーのように見えて、でもルビー
ではなかった。瞳孔のような文様がその石の中心部分に描かれていた。それはまるで竜の
瞳に似ていた。

「ついに――ついに手に入れたぞ。竜の爪を――」

 ギゼーは、興奮を抑える事が出来なかった。
 ギゼーが高々と竜の爪を掲げた時、遺跡全体が揺らいだ――。

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2007/02/14 23:45 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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