PC: スイ(PL:フンズワーラー) シズ(PL:ミキ)
NPC: ミキ
場所: ハイゼン→グレインフィールド
「やべぇよ、オレみちまったんだけどさ、ソフィニアの奴ら、自分で船も漕げなくなりやがった!!」
「なんだよ、それ。頭ばっかりでかくなって腕が使えなくなったのか?」
「いやさ、朝オレらがいつもの場所に行ったら、あいつらがいやがってさ。」
「そんなわけないじゃん!ソフィニアの奴らが朝早くにそんな近くまでこれるはず無いだろ。」
「それが、ヤツら漁終えた後、帰っていったんだけど、その時船漕いでなかったんだよ。」
「あ、それオレも見た!こう、船がすすすぃーっと勝手に滑るように走ってくんだよ。」
「うっへ、また魔法とかなんとかってヤツですかい。」
「ヤツらがオレ達の方まで来れるようになるなんて漁の場所が減ってやっかいだな・・・・。」
「なぁに、いざとなったらヤツらの船に乗り込んでいって、一発この湖が誰のものだか教えてやらぁ!」
ガルドゼンド王国、その北に隣接する湖畔の縁に漁業を営むハイゼンという村があった。
王国には領海がないので魚などの幸は川か、或いはこのハイゼンから来る。
森は穏やかで、しかし逆に捕まえられる動物も少なく、王国全土に広まる、
ハイゼンの魚は国全体の大切な食料だ。
だから、ハイゼンの男達は、戦争のためにかり出されることがなかった。
『おいおい、争い事は勘弁だぜ。他国の人間を殴り飛ばすなんてことしたら、国王陛下にご迷惑がかかるじゃないか。』
村に一つだけある食堂には、遅い昼食をとる独身男性がたむろして、
世話話にむさい華を咲かせていた。
「はっ、ちげぇねぇ。だけど、ヤツらとうとうオレらの漁をする場所まで獲りやがったら、それこそ国王陛下に直訴してなんとかしてもらわにゃならんな。」
『そうだな。みんなの湖なんだし、仲良くしたいもんだ。』
話が穏便でなかったのでつい口を挟んだが、まだ食堂のなかには沢山の野郎が昼食を待っているので、
食堂の主は小さな厨房へと戻ろうとした。すると、その厨房からこの場に似合わない可愛らしい女性が半目涙で走ってきた。
「シズさぁぁぁん;;。手切っちゃいましたああぁぁ(T△T」
ぱっ、と男臭い食堂に花が咲いたような気がしたのは気のせいじゃないはずだ。
それは女性が花と言うよりも、色めき出す独身男性達がまるで水を与えられた花のように
生き生きとし始め、女性から発せられる暖かい太陽の光を一心に受けようと、
一斉に食堂の主、シズと、女性の方へ身体を向けたからであろう。
「うぅ、シズさん治して・・・・(;へ;」
『ミキ!お前、オレが治してくれると思ってすっかり油断してるだろう。
もう少し自分の身体を大切にしてくれよ。オレでも治せないモノはあるんだから。』
そう迷惑そうに言いながら、シズは腰にかけてあった一枚の赤いスカーフを手に取った。
そして、そのスカーフを、シズに向けて立ててあるミキの指に優しくかけて、こう言った。
『妖精さん、妖精さん。どうか怪我を治してください。お願いします。』
本人曰く、可愛らしく言わなければならないというその呪文に、
回りの男性が吹き出しそうになる中、シズはすぐさまスカーフをとった。
すると、ミキの指から垂れていた血はなくなり、傷が消えていた。
「ありがとぉございますー(≧▽≦)」
『もうこんな事ないようにしてくれよ。』
不機嫌そうなことを口にしながらも、シズは思わず微笑んでしまった。
厨房に戻っていくミキ、さっさと自分の食事を平らげにかかる男達、
平和だった。こんな何処にでもあるような平和だけれども、
それが自分の目の前にもしっかりあることを感じると嬉しくなった。
「シズさーん、お野菜切れましたよー。」
『ああ、ありがとう。じゃぁ作りますかね。』
シズは厨房に入り、フライパンを手にした。
竈に薪を足し、焚きつけた後、フライパンに油の塊を放り込む。
この春結婚した村の南の方に住む若い夫婦から今朝分けて貰った豚の肉と、
ミキの切った形のおかしい野菜を、じゅーじゅー焼いていく。
シズの右手は、火傷で真っ赤になっていた。
28という年齢に合わない白髪と老けた顔、地味な服に、エプロン。
炎を上げる竈、フライパンを軽々と持ち上げて具をかえすシズを一目見た者は、
時にシズをこう呼ぶ。「炎の料理人」と。
まるで自らが炎となって食材に魂を籠めるかのような力強い腕前は見た目倒しではなく、
料理を炒めたり、焼いたり、ゆでたりすることに関してシズは一流だった。
しかし、その香ばしい匂いが厨房を満たし、それが食堂の方にまで流れ込むと、
腹を空かせた若者達がまだかまだかと騒ぎ出すので、シズは急いだ。
『ミキ、頼む。』
言われて横で見ていたミキは、シズの変わりにフライパンの前に立ち、
調味料を振りながら色々と味付けを始めた。
シズは、活きの良い食材を選ぶのは好きだし、
食材の味を一番引き立てる焼き加減で食材を調理するのは得意だが、味音痴だった。
二年前にこの村に着て食堂を継いだが、精は付くのに味が悪いと言われていた。
そこで、元々村で料理を教えていたミキを雇ったのだ。
すると、味は良いし、可愛いから男性受けするしで、
親の飯など食いたくないという独身男性が良く通うようになった。
ミキはこの店に欠かせない、とても優秀な料理人だ。
だが、そんな優秀なミキが、何故独身のまま二年もこの店で働いているのか、
それはシズには一生分からないだろう。
「これはこれは、抜群の味になりましたよー。」
『どれどれ・・・・・・美味いな。よし出そう。』
シズには、味を褒められて喜んで頬を赤らめるミキや、
それを食堂からのぞき込みながら悔しそうに歯ぎしりをする男達など見えていないようだ。
「あ、シズさん。コークスの実がなくなっちゃった。」
『あー、とうとうなくなっちまったのか。無いとやっぱりまずいか?』
「当たり前です!これがなきゃ料理のおいしさも半減ですよ!」
調味料として磨り潰して使っていたコークスの実は、この村では手に入らない。
南に下ったところにある農業地帯グレインフィールドの一角で栽培されている。
麦によく似た形で、聞いた話だと元々珍しい植物らしいのだが、
苦労に苦労に苦労の苦労を重ね、栽培できるようにしたモノであるらしい。
人の手で育てるのが難しく、一年に採れる量も少ないのだが、
どうしても欲しいからと言って毎年少しずつ貰ってくるのだ。
シズとしては、前回の思い出もあって、この実を貰いに行くことを考えると憂鬱になるのだ。
「じゃぁ、明日はおやすみにしないとまずいですね。」
『そうだな・・・。』
皿に盛った料理を両手に抱えて、食堂に入って、飢えた男達に渡す。
『あー、みんな。明日はちょっと用があって店開けられないから。』
「えーー!!!!」
「みんな、ごめんなさいね・・・・でも、明日もちゃんと自分でご飯食べてくださいね?」
「はーい!!!!」
『なに、何で貰えないんだ。』
険悪なムードになるのは嫌だ。争いは好きじゃない。
でも、必要なモノは必要だし、経験上こうするのが一番得策だ、そうシズは思っている。
貰えるのが当たり前なのに、何故貰えない、そう言った態度をとるのが一番イイのだ。
店を休みにして、今日は日が昇ってから、青々と広がるハイゼンの畑の横を歩き、
小さな森を一つ越え、段々と熱くなっていく中グレインフィールドの壮大な麦畑の途中途中で、
道を尋ねながら歩き、早めの昼食の香りが腹の虫を刺激する頃にやっと、
コークスの実を育てている農家まで来たのだ。
シズがハイゼンの来る前、皆に料理を教えていたミキは、普通にコークスの実を手に入れられていた。
優しいおじさんが農家の主だったらしく、笑顔で頼めばコロッと貰えたらしい。
しかし、数年前に主が変わり・・・・・
「ダメだっ。去年は仕方なく渡したが、今年はダメだ!帰ってくれよ!」
目の前の男は、男と呼ぶにはまだ相応しくない少年だった。
15か、そこらだろう。まだ判断力に欠け、主としての責任に押しつぶされそうに見える。
コークスの実を渡して良いものか迷い、とりあえずダメだと言っているではないか。
シズはそう判断した。だから、こちらの方が世の理に沿っていて正しいという態度をとっているのだ。
それでも、少年はこちらの頼みを飲まなかった。
こちらがどれだけ頼んでも少年は、ダメだの一点張りだ。
農家にある客間で、シズの持ってきた風呂敷の中身がテーブルの上に開けられている。
魚の干物、昨日の残りの豚を薫製にしたモノ、村で貰った米、新鮮な野菜などをお礼に渡すので、
コークスの実をホンの少し、両手で器を作ってそれに山になるくらい欲しいと半時ほど頼んでいる。
それでもダメだという。徐々に少年の顔つきから見えてきたのは、
どうやら去年のように量が少なく手渡せないと言うよりも、
渡すこと自体出来ない、全く考えられないという感じだ。
そう言えば家の中もなにか緊張の漂ったような雰囲気が流れている。
それは決してシズ達が来たからではなさそうであった。
この村でもコークスを栽培しているのはこの農家だけだった。
どれだけ育てるのに苦労するのかは分からないが、どうやら10人程度の男達が、
コークスを育てるために土に混ぜる肥料を作ったり、まるで女性の肌を触るかのように、
優しくコークスの穂を触り、観察して、世話をしていたりした。
その男達が、どこか元気のない顔をしながらシズ達を迎えたのだ。
シズ達、そう、ミキもこの場にいた。
昔から貰っていたミキが来れば貰える道理にはなるだろうし、
この歳の少年なら、女性に頼まれた方が弱いのではないかと踏んだからだ。
さっきから、ミキが無いと困るのだ、是非必要なのだと再三頼むたびに、
少年は苦しそうな顔でうめきながらも、それでもダメなのだと言い続けている。
押しても引いてもウンとも言わない少年に負け、とうとうシズ達は農家を出た。
お礼として持ってきた荷物は、気持ちだと言っておいていった。
いや悪いからと言われたが、正直重くて持ち帰りたくないと言ってやった。
外まで送りに来たのは男達だけで、主の少年はシズ達が部屋を出るときもずっと、
机の上のものをじっと見つめながら何かと戦っているかのように黙っていた。
「どうしましょぉ・・・・・(ー。ー」
『そうだな・・・・・どうしようか。』
日が丁度空のてっぺんで輝く時間に、ハイゼンへの帰路につくのも辛いものがある。
「お腹減りましたね・・・・。」
『そうだな、うちみたいな食堂があれば食べていきたいな。』
-----そう言えば昼食すら出してくれなかったな、あの農家は。
コークスばかり作っていて、実は食べる食料がないとか。
村八分にあって麦を分けて貰えないのかも知れないな。
いや、男達は元気がなかったが、やせ細ってるようにも見えなかったし、
人の昼食にまで気を使う余地がないほど、あの農家はいま大変なのだろうか。
まてよ、あの農家はコークスをどうしてるんだ。
あんな香ばしくて食欲をそそる香料なんだし、どこかで使ってるはずだ。
食堂なんてのがあったらそこには間違いなく使っているだろう。
そこで分けて貰うことは出来ないだろうか-----
『ミキ、食堂を探そう。』
「そうですね・・・・あ、シズさん。良い匂いしません?」
シズは味音痴だが、鼻は良い。食材を選ぶのに鼻が良くなければ困る。
確かに、ミキの言ったとおり、風に乗って良い香りがシズの鼻腔をくすぐった。
『これは・・・・・・・』 「『シチュー?』」
NPC: ミキ
場所: ハイゼン→グレインフィールド
「やべぇよ、オレみちまったんだけどさ、ソフィニアの奴ら、自分で船も漕げなくなりやがった!!」
「なんだよ、それ。頭ばっかりでかくなって腕が使えなくなったのか?」
「いやさ、朝オレらがいつもの場所に行ったら、あいつらがいやがってさ。」
「そんなわけないじゃん!ソフィニアの奴らが朝早くにそんな近くまでこれるはず無いだろ。」
「それが、ヤツら漁終えた後、帰っていったんだけど、その時船漕いでなかったんだよ。」
「あ、それオレも見た!こう、船がすすすぃーっと勝手に滑るように走ってくんだよ。」
「うっへ、また魔法とかなんとかってヤツですかい。」
「ヤツらがオレ達の方まで来れるようになるなんて漁の場所が減ってやっかいだな・・・・。」
「なぁに、いざとなったらヤツらの船に乗り込んでいって、一発この湖が誰のものだか教えてやらぁ!」
ガルドゼンド王国、その北に隣接する湖畔の縁に漁業を営むハイゼンという村があった。
王国には領海がないので魚などの幸は川か、或いはこのハイゼンから来る。
森は穏やかで、しかし逆に捕まえられる動物も少なく、王国全土に広まる、
ハイゼンの魚は国全体の大切な食料だ。
だから、ハイゼンの男達は、戦争のためにかり出されることがなかった。
『おいおい、争い事は勘弁だぜ。他国の人間を殴り飛ばすなんてことしたら、国王陛下にご迷惑がかかるじゃないか。』
村に一つだけある食堂には、遅い昼食をとる独身男性がたむろして、
世話話にむさい華を咲かせていた。
「はっ、ちげぇねぇ。だけど、ヤツらとうとうオレらの漁をする場所まで獲りやがったら、それこそ国王陛下に直訴してなんとかしてもらわにゃならんな。」
『そうだな。みんなの湖なんだし、仲良くしたいもんだ。』
話が穏便でなかったのでつい口を挟んだが、まだ食堂のなかには沢山の野郎が昼食を待っているので、
食堂の主は小さな厨房へと戻ろうとした。すると、その厨房からこの場に似合わない可愛らしい女性が半目涙で走ってきた。
「シズさぁぁぁん;;。手切っちゃいましたああぁぁ(T△T」
ぱっ、と男臭い食堂に花が咲いたような気がしたのは気のせいじゃないはずだ。
それは女性が花と言うよりも、色めき出す独身男性達がまるで水を与えられた花のように
生き生きとし始め、女性から発せられる暖かい太陽の光を一心に受けようと、
一斉に食堂の主、シズと、女性の方へ身体を向けたからであろう。
「うぅ、シズさん治して・・・・(;へ;」
『ミキ!お前、オレが治してくれると思ってすっかり油断してるだろう。
もう少し自分の身体を大切にしてくれよ。オレでも治せないモノはあるんだから。』
そう迷惑そうに言いながら、シズは腰にかけてあった一枚の赤いスカーフを手に取った。
そして、そのスカーフを、シズに向けて立ててあるミキの指に優しくかけて、こう言った。
『妖精さん、妖精さん。どうか怪我を治してください。お願いします。』
本人曰く、可愛らしく言わなければならないというその呪文に、
回りの男性が吹き出しそうになる中、シズはすぐさまスカーフをとった。
すると、ミキの指から垂れていた血はなくなり、傷が消えていた。
「ありがとぉございますー(≧▽≦)」
『もうこんな事ないようにしてくれよ。』
不機嫌そうなことを口にしながらも、シズは思わず微笑んでしまった。
厨房に戻っていくミキ、さっさと自分の食事を平らげにかかる男達、
平和だった。こんな何処にでもあるような平和だけれども、
それが自分の目の前にもしっかりあることを感じると嬉しくなった。
「シズさーん、お野菜切れましたよー。」
『ああ、ありがとう。じゃぁ作りますかね。』
シズは厨房に入り、フライパンを手にした。
竈に薪を足し、焚きつけた後、フライパンに油の塊を放り込む。
この春結婚した村の南の方に住む若い夫婦から今朝分けて貰った豚の肉と、
ミキの切った形のおかしい野菜を、じゅーじゅー焼いていく。
シズの右手は、火傷で真っ赤になっていた。
28という年齢に合わない白髪と老けた顔、地味な服に、エプロン。
炎を上げる竈、フライパンを軽々と持ち上げて具をかえすシズを一目見た者は、
時にシズをこう呼ぶ。「炎の料理人」と。
まるで自らが炎となって食材に魂を籠めるかのような力強い腕前は見た目倒しではなく、
料理を炒めたり、焼いたり、ゆでたりすることに関してシズは一流だった。
しかし、その香ばしい匂いが厨房を満たし、それが食堂の方にまで流れ込むと、
腹を空かせた若者達がまだかまだかと騒ぎ出すので、シズは急いだ。
『ミキ、頼む。』
言われて横で見ていたミキは、シズの変わりにフライパンの前に立ち、
調味料を振りながら色々と味付けを始めた。
シズは、活きの良い食材を選ぶのは好きだし、
食材の味を一番引き立てる焼き加減で食材を調理するのは得意だが、味音痴だった。
二年前にこの村に着て食堂を継いだが、精は付くのに味が悪いと言われていた。
そこで、元々村で料理を教えていたミキを雇ったのだ。
すると、味は良いし、可愛いから男性受けするしで、
親の飯など食いたくないという独身男性が良く通うようになった。
ミキはこの店に欠かせない、とても優秀な料理人だ。
だが、そんな優秀なミキが、何故独身のまま二年もこの店で働いているのか、
それはシズには一生分からないだろう。
「これはこれは、抜群の味になりましたよー。」
『どれどれ・・・・・・美味いな。よし出そう。』
シズには、味を褒められて喜んで頬を赤らめるミキや、
それを食堂からのぞき込みながら悔しそうに歯ぎしりをする男達など見えていないようだ。
「あ、シズさん。コークスの実がなくなっちゃった。」
『あー、とうとうなくなっちまったのか。無いとやっぱりまずいか?』
「当たり前です!これがなきゃ料理のおいしさも半減ですよ!」
調味料として磨り潰して使っていたコークスの実は、この村では手に入らない。
南に下ったところにある農業地帯グレインフィールドの一角で栽培されている。
麦によく似た形で、聞いた話だと元々珍しい植物らしいのだが、
苦労に苦労に苦労の苦労を重ね、栽培できるようにしたモノであるらしい。
人の手で育てるのが難しく、一年に採れる量も少ないのだが、
どうしても欲しいからと言って毎年少しずつ貰ってくるのだ。
シズとしては、前回の思い出もあって、この実を貰いに行くことを考えると憂鬱になるのだ。
「じゃぁ、明日はおやすみにしないとまずいですね。」
『そうだな・・・。』
皿に盛った料理を両手に抱えて、食堂に入って、飢えた男達に渡す。
『あー、みんな。明日はちょっと用があって店開けられないから。』
「えーー!!!!」
「みんな、ごめんなさいね・・・・でも、明日もちゃんと自分でご飯食べてくださいね?」
「はーい!!!!」
『なに、何で貰えないんだ。』
険悪なムードになるのは嫌だ。争いは好きじゃない。
でも、必要なモノは必要だし、経験上こうするのが一番得策だ、そうシズは思っている。
貰えるのが当たり前なのに、何故貰えない、そう言った態度をとるのが一番イイのだ。
店を休みにして、今日は日が昇ってから、青々と広がるハイゼンの畑の横を歩き、
小さな森を一つ越え、段々と熱くなっていく中グレインフィールドの壮大な麦畑の途中途中で、
道を尋ねながら歩き、早めの昼食の香りが腹の虫を刺激する頃にやっと、
コークスの実を育てている農家まで来たのだ。
シズがハイゼンの来る前、皆に料理を教えていたミキは、普通にコークスの実を手に入れられていた。
優しいおじさんが農家の主だったらしく、笑顔で頼めばコロッと貰えたらしい。
しかし、数年前に主が変わり・・・・・
「ダメだっ。去年は仕方なく渡したが、今年はダメだ!帰ってくれよ!」
目の前の男は、男と呼ぶにはまだ相応しくない少年だった。
15か、そこらだろう。まだ判断力に欠け、主としての責任に押しつぶされそうに見える。
コークスの実を渡して良いものか迷い、とりあえずダメだと言っているではないか。
シズはそう判断した。だから、こちらの方が世の理に沿っていて正しいという態度をとっているのだ。
それでも、少年はこちらの頼みを飲まなかった。
こちらがどれだけ頼んでも少年は、ダメだの一点張りだ。
農家にある客間で、シズの持ってきた風呂敷の中身がテーブルの上に開けられている。
魚の干物、昨日の残りの豚を薫製にしたモノ、村で貰った米、新鮮な野菜などをお礼に渡すので、
コークスの実をホンの少し、両手で器を作ってそれに山になるくらい欲しいと半時ほど頼んでいる。
それでもダメだという。徐々に少年の顔つきから見えてきたのは、
どうやら去年のように量が少なく手渡せないと言うよりも、
渡すこと自体出来ない、全く考えられないという感じだ。
そう言えば家の中もなにか緊張の漂ったような雰囲気が流れている。
それは決してシズ達が来たからではなさそうであった。
この村でもコークスを栽培しているのはこの農家だけだった。
どれだけ育てるのに苦労するのかは分からないが、どうやら10人程度の男達が、
コークスを育てるために土に混ぜる肥料を作ったり、まるで女性の肌を触るかのように、
優しくコークスの穂を触り、観察して、世話をしていたりした。
その男達が、どこか元気のない顔をしながらシズ達を迎えたのだ。
シズ達、そう、ミキもこの場にいた。
昔から貰っていたミキが来れば貰える道理にはなるだろうし、
この歳の少年なら、女性に頼まれた方が弱いのではないかと踏んだからだ。
さっきから、ミキが無いと困るのだ、是非必要なのだと再三頼むたびに、
少年は苦しそうな顔でうめきながらも、それでもダメなのだと言い続けている。
押しても引いてもウンとも言わない少年に負け、とうとうシズ達は農家を出た。
お礼として持ってきた荷物は、気持ちだと言っておいていった。
いや悪いからと言われたが、正直重くて持ち帰りたくないと言ってやった。
外まで送りに来たのは男達だけで、主の少年はシズ達が部屋を出るときもずっと、
机の上のものをじっと見つめながら何かと戦っているかのように黙っていた。
「どうしましょぉ・・・・・(ー。ー」
『そうだな・・・・・どうしようか。』
日が丁度空のてっぺんで輝く時間に、ハイゼンへの帰路につくのも辛いものがある。
「お腹減りましたね・・・・。」
『そうだな、うちみたいな食堂があれば食べていきたいな。』
-----そう言えば昼食すら出してくれなかったな、あの農家は。
コークスばかり作っていて、実は食べる食料がないとか。
村八分にあって麦を分けて貰えないのかも知れないな。
いや、男達は元気がなかったが、やせ細ってるようにも見えなかったし、
人の昼食にまで気を使う余地がないほど、あの農家はいま大変なのだろうか。
まてよ、あの農家はコークスをどうしてるんだ。
あんな香ばしくて食欲をそそる香料なんだし、どこかで使ってるはずだ。
食堂なんてのがあったらそこには間違いなく使っているだろう。
そこで分けて貰うことは出来ないだろうか-----
『ミキ、食堂を探そう。』
「そうですね・・・・あ、シズさん。良い匂いしません?」
シズは味音痴だが、鼻は良い。食材を選ぶのに鼻が良くなければ困る。
確かに、ミキの言ったとおり、風に乗って良い香りがシズの鼻腔をくすぐった。
『これは・・・・・・・』 「『シチュー?』」
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PC: スイ、シズ
NPC: ミキ、ウィンブルズ家の少年当主、女将
場所: ハイゼン→グレインフィールド
---------------------------------------------------------------
シチューの香りの場所は、こじんまりとした、一見すると一般民家と見まごう
ような小さな食堂だった。
よくよく見ると、入り口の横には、黒く汚れた粗末な板切れに、「宿 ありま
す」とある。その文字も、よくよく見ないと黒く劣化した色合いで読めない。歴
史を感じさせるというよりは、放置されている感が否めない。
扉は開けっ放しにしており、中からはいくつかの話し声がする。怖気づく風も
なく、スイは踏み入った。
中には、10人程度の人間がおり、盛況しているようだった。テーブルは埋
まっており、スイは適当にカウンターに腰をかける。テーブルは、長年使われ続
けてきたようで、すっかり飴色になっている。が、よくこまめに拭いているの
か、清潔感があった。
物を大事に扱っている店というのは、期待してよい。
「お客さん、食事かい?」
水の入ったコップをでんと置いたのは、日に焼けた丸顔に、長年で刻まれたで
あろう恵比須顔の中年の女性。
「あぁ。これで食えるだけ、お願いする」
水を飲みながら、大き目のコインを渡す。
冷たい水が胃に流れ込み、刺激する。途端、きゅぅ、と胃液が沸いてきた。
「……街の物価と間違えてやしないかい? うちじゃぁ、こいつは宴会並の量にな
るよ」
「しばらく食べてないからな」
「まぁいいよ。食べてくれるんならね」
やれやれ、といった風に、女将は奥の厨房に入っていった。
積まれていく数々の皿に、周囲の注目が注がれる。しかし、スイは気にせず口
に次々と運んでいく。口の周りにソースやらがついているのも気にせず、時折、
手でつまんで食べてもいる。
カリっと焼き上げたパン、沢山の野菜がごっちゃになったサラダ、カブと鶏肉
のシチュー、トマトの半熟オムレツ、平目のバターソテー、細切りジャガイモの
炒め物、タカの爪とオリーブオイルのスパゲッティ、甘いソースのかかったあぶ
り骨付き肉、カボチャとイモの重ね焼き、塩茹でキャベツと海老のクリームソー
ス和え……と、数えるのもキリがなかった。
「これで最後だよ」
呆れたように女将はりんごのワインコンポートを置いた。
「食べ切れなかった分の御代は帰そうかと思っていたのに……。まったく……この
細っこい身体で、よくもこんなに入ることだよ」
スイは手の甲で口の周りを拭き、それを綺麗に舐めとり、水一杯を一気に飲み
干した。
見かねた女将は、空のコップと交換に真っ白なお絞りを差し出した。スイはそ
の厚意に甘え、口の周りと手の甲を改めて拭く。
「うまいものを食べれるときには、食べておくもんだ」
用意されたスプーンを無視し、フォークでしゃり、と音をたてながら、ピンク
色のりんごのコンポートを突き刺し、そのままがぶりと噛み付くように食べる。
汁気がじゅわり、と溢れ出した。
「まぁ、こっちとしてもうまいと言われれば亭主があんなに作った甲斐ってもん
があるさね」
よくよく見ると、奥のほうでは、ひょろりと薄い印象の中年が、フライパンを
振っている。どうやら、厨房担当はこの女将の旦那がやっているようだ。
「ちゃんと味わっていたかどうかは疑わしいけど」
女将はそう言って朗らかに笑った。皮肉を言っているものの、嬉しそうだ。
「ちゃんと味わってるぞ。
どれもこれも旨かったが……何かちょっと、味がぼんやりしている気がするな」
「よく気づいたね。旅人さん。
いつもなら、コークスを使ってたんだ。だけどね、もう残り少なくてねぇ。
今年は手に入りそうにないから、大事に使ってるんだ」
「コークス? 聞いたこと無いな」
「おや? 旅人さんは、コークス目当てでここに来たんじゃないのかい?」
「いや、単なる道中だ」
「珍しいね。ここに来るのは、コークスを商いにする商人の類くらいしか来ない
もんだよ。ここにいる客は、ほとんどコークス目当てさ。
まぁ、単にコークスくらいしか、産物はないって事なんだがね」
「その特産物のコークスが何故手に入らなくなったんだ?」
コンポートの残り汁をずず、と音を立てて飲み干す。砂糖と林檎の甘みをいっ
ぱい含んだワインが、喉を通る。
「それがねぇ……。私にもわからないんだよ。
コークスの実の栽培は、ウィンブルズ家が一手に担っていてね。
そこの家が、今年から、一切どこにも卸してくれないみたいでね……勿論うちも
例外じゃないさ。
それがねぇ……はっきりとした理由があるなら、まだ諦めもつくんだけど、頑と
して理由もいわないんだ。あの坊っちゃん当主は。『譲れない』の一点張りさ。
ここにいるお客さんも、それで帰るに帰れないってわけさ。
嘘でもいいから、今年は手違いで全滅したとかいう理由を言っちまえば、みん
な納得できるってのにね。それすらもしないんだよ。波風が立つだけだってのにね。
なんにしろ、こっちはそれで儲かってるんわけだ」
最後の方の言葉は小声でそう言い、ハハハ、と豪快に女将は笑った。
「ごちそうさま。旨かった」
最後のデザートのお皿を積み上げる。
一息ついたところで、これからどうするかを考えた。まだ日も高いからここを
出ていくのもいいかもしれないが、久々の人里だ。ここで一晩越すのも悪くない。
そう思ったとき、入り口から少女の声が聞こえた。
「ここですよ! シズさん!! 私、もうお腹ぺっこぺこです~!(><)」
「わかったから、そう急ぐな、ミキ。財布は……よし、昼食代くらいならあるな」
入ってきたのは、まだ幼さを感じさせる少女と、白髪の壮年の男だった。親子
だろうか。それにしては、お互いを名前で呼び合っている。顔も似たところは全
く無い。
と、そこで、スイは男の方に違和感を感じた。
顔の造作は、明らかに年をくっているというのに、なんというか、何かがアン
バランスな気がした。
少女がスイに気づき、男の袖をひっぱって、なにやら話し、スイを小さく指差
す。おそらくは「知り合いですか」という言葉であろう。男は、少女が促す先を
見る。
目が合った。しかし、スイは全く動じない。
あぁ、そうか。
真正面からそれにぶつかって、スイはその違和感の正体がようやく分かった。
目の輝きが、あの顔の造作から浮いている。端的に言えば、若い。
面白い。スイはそう思った。
男は少しこちらを気にしながら、テーブルに付く。だが、スイはもう男の方を
見ようとはしなかった。原因がわかってスッキリした以上、もう見る意味は無い。
女将は、その壮年の男と少女のテーブルに注文を取りに行った。
NPC: ミキ、ウィンブルズ家の少年当主、女将
場所: ハイゼン→グレインフィールド
---------------------------------------------------------------
シチューの香りの場所は、こじんまりとした、一見すると一般民家と見まごう
ような小さな食堂だった。
よくよく見ると、入り口の横には、黒く汚れた粗末な板切れに、「宿 ありま
す」とある。その文字も、よくよく見ないと黒く劣化した色合いで読めない。歴
史を感じさせるというよりは、放置されている感が否めない。
扉は開けっ放しにしており、中からはいくつかの話し声がする。怖気づく風も
なく、スイは踏み入った。
中には、10人程度の人間がおり、盛況しているようだった。テーブルは埋
まっており、スイは適当にカウンターに腰をかける。テーブルは、長年使われ続
けてきたようで、すっかり飴色になっている。が、よくこまめに拭いているの
か、清潔感があった。
物を大事に扱っている店というのは、期待してよい。
「お客さん、食事かい?」
水の入ったコップをでんと置いたのは、日に焼けた丸顔に、長年で刻まれたで
あろう恵比須顔の中年の女性。
「あぁ。これで食えるだけ、お願いする」
水を飲みながら、大き目のコインを渡す。
冷たい水が胃に流れ込み、刺激する。途端、きゅぅ、と胃液が沸いてきた。
「……街の物価と間違えてやしないかい? うちじゃぁ、こいつは宴会並の量にな
るよ」
「しばらく食べてないからな」
「まぁいいよ。食べてくれるんならね」
やれやれ、といった風に、女将は奥の厨房に入っていった。
積まれていく数々の皿に、周囲の注目が注がれる。しかし、スイは気にせず口
に次々と運んでいく。口の周りにソースやらがついているのも気にせず、時折、
手でつまんで食べてもいる。
カリっと焼き上げたパン、沢山の野菜がごっちゃになったサラダ、カブと鶏肉
のシチュー、トマトの半熟オムレツ、平目のバターソテー、細切りジャガイモの
炒め物、タカの爪とオリーブオイルのスパゲッティ、甘いソースのかかったあぶ
り骨付き肉、カボチャとイモの重ね焼き、塩茹でキャベツと海老のクリームソー
ス和え……と、数えるのもキリがなかった。
「これで最後だよ」
呆れたように女将はりんごのワインコンポートを置いた。
「食べ切れなかった分の御代は帰そうかと思っていたのに……。まったく……この
細っこい身体で、よくもこんなに入ることだよ」
スイは手の甲で口の周りを拭き、それを綺麗に舐めとり、水一杯を一気に飲み
干した。
見かねた女将は、空のコップと交換に真っ白なお絞りを差し出した。スイはそ
の厚意に甘え、口の周りと手の甲を改めて拭く。
「うまいものを食べれるときには、食べておくもんだ」
用意されたスプーンを無視し、フォークでしゃり、と音をたてながら、ピンク
色のりんごのコンポートを突き刺し、そのままがぶりと噛み付くように食べる。
汁気がじゅわり、と溢れ出した。
「まぁ、こっちとしてもうまいと言われれば亭主があんなに作った甲斐ってもん
があるさね」
よくよく見ると、奥のほうでは、ひょろりと薄い印象の中年が、フライパンを
振っている。どうやら、厨房担当はこの女将の旦那がやっているようだ。
「ちゃんと味わっていたかどうかは疑わしいけど」
女将はそう言って朗らかに笑った。皮肉を言っているものの、嬉しそうだ。
「ちゃんと味わってるぞ。
どれもこれも旨かったが……何かちょっと、味がぼんやりしている気がするな」
「よく気づいたね。旅人さん。
いつもなら、コークスを使ってたんだ。だけどね、もう残り少なくてねぇ。
今年は手に入りそうにないから、大事に使ってるんだ」
「コークス? 聞いたこと無いな」
「おや? 旅人さんは、コークス目当てでここに来たんじゃないのかい?」
「いや、単なる道中だ」
「珍しいね。ここに来るのは、コークスを商いにする商人の類くらいしか来ない
もんだよ。ここにいる客は、ほとんどコークス目当てさ。
まぁ、単にコークスくらいしか、産物はないって事なんだがね」
「その特産物のコークスが何故手に入らなくなったんだ?」
コンポートの残り汁をずず、と音を立てて飲み干す。砂糖と林檎の甘みをいっ
ぱい含んだワインが、喉を通る。
「それがねぇ……。私にもわからないんだよ。
コークスの実の栽培は、ウィンブルズ家が一手に担っていてね。
そこの家が、今年から、一切どこにも卸してくれないみたいでね……勿論うちも
例外じゃないさ。
それがねぇ……はっきりとした理由があるなら、まだ諦めもつくんだけど、頑と
して理由もいわないんだ。あの坊っちゃん当主は。『譲れない』の一点張りさ。
ここにいるお客さんも、それで帰るに帰れないってわけさ。
嘘でもいいから、今年は手違いで全滅したとかいう理由を言っちまえば、みん
な納得できるってのにね。それすらもしないんだよ。波風が立つだけだってのにね。
なんにしろ、こっちはそれで儲かってるんわけだ」
最後の方の言葉は小声でそう言い、ハハハ、と豪快に女将は笑った。
「ごちそうさま。旨かった」
最後のデザートのお皿を積み上げる。
一息ついたところで、これからどうするかを考えた。まだ日も高いからここを
出ていくのもいいかもしれないが、久々の人里だ。ここで一晩越すのも悪くない。
そう思ったとき、入り口から少女の声が聞こえた。
「ここですよ! シズさん!! 私、もうお腹ぺっこぺこです~!(><)」
「わかったから、そう急ぐな、ミキ。財布は……よし、昼食代くらいならあるな」
入ってきたのは、まだ幼さを感じさせる少女と、白髪の壮年の男だった。親子
だろうか。それにしては、お互いを名前で呼び合っている。顔も似たところは全
く無い。
と、そこで、スイは男の方に違和感を感じた。
顔の造作は、明らかに年をくっているというのに、なんというか、何かがアン
バランスな気がした。
少女がスイに気づき、男の袖をひっぱって、なにやら話し、スイを小さく指差
す。おそらくは「知り合いですか」という言葉であろう。男は、少女が促す先を
見る。
目が合った。しかし、スイは全く動じない。
あぁ、そうか。
真正面からそれにぶつかって、スイはその違和感の正体がようやく分かった。
目の輝きが、あの顔の造作から浮いている。端的に言えば、若い。
面白い。スイはそう思った。
男は少しこちらを気にしながら、テーブルに付く。だが、スイはもう男の方を
見ようとはしなかった。原因がわかってスッキリした以上、もう見る意味は無い。
女将は、その壮年の男と少女のテーブルに注文を取りに行った。
PC:ドミノ(仮面)
性別:女
場所:コールベル
NPC:クローバー(四つ葉)、賊
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ドミノ-1 【仮面の占(まじな)い師】
風に流れる長い銀色の神が月光に照らされて輝く。
今は漆黒の瞳。
顔の片方だけを仮面で隠した女が、身軽に宙を舞う。
「逃がさないよ」
鈴の音のような声が告げた。
暗闇の中の走る男の首筋に突き刺さる、それは一枚のカード。
「塔(タワー)。今日は厄日だったね貴方」
絶命した男の首筋からカードを引き抜くと、女はその場を後にした。
『スパイラル』と呼ばれるチームがある。
ギルドのランクSからCまでのメンバーで構成されたチームだ。
おかしな事に皆、本名や二つ名ではなく呼び名(あだ名)で呼び合ってい
る。
その中の一人に、ランクAの仮面と呼ばれる女がいた。
「なんだ、ドミノか」
ギルドで出会った黒髪の青年が銀色の髪の18歳くらいの少女に話しかける。
「お久しぶりね。四つ葉」
「ああ、クローバーでいいよ。君を見習って俺も自分の呼び名である『四つ
葉』をもじって名乗る事にしたんだ」
「じゃクローバー。
最近仕事の方はどう?」
「上々。うちのリーダーの螺旋なんか凄いよ。ケタ違うもん」
「螺旋はね」
「あとは傘男がランクBに上がったって」
「ゲ。なによ永遠のCランクでいればいいのに」
露骨に嫌そうな顔をした少女―――――ドミノの顔に夜付けていたあの仮面
はない。
付けるのは夜だけだ。
端から見れば清楚可憐な美少女。
だが、彼女は『仮面の占(まじな)い師』という二つ名で呼ばれる女であ
る。
今は常緑の色をしているドミノの双眸が、四つ葉もといクローバーを見て半
眼になった。
「あ、お怒りモード?
なんでそんな傘男の事嫌いなのさ。確かに晴れの日でもコート着て傘差して
るけど」
「存在が」
言い切ってドミノはギルドの入り口へと向かう。
「もう行くの?」
「私が用があったのは無造作紳士よ。いないなら他を当たるわ。
じゃあね」
「はいはい」
青空が広がる。
雲の断層。そのパノラマを見上げる彼女の瞳の色はもう紺碧色だ。
彼女の瞳は感情によって変化する。
それを特におかしいとは思わないのが『スパイラル』のメンバーで。
だからドミノはそれなりに『スパイラル』という場所が気に入っている。
街の大通りを歩いて、一つの大きな邸宅の扉の前に辿り着く。
見張りの男達がドミノを見て。
「何の用だ」
ときつい声で訊いてきたが、彼女は表情一つ変えずにえよく響く声で告げ
る。
「依頼主(クライアント)に言ってくれる? 『スパイラル』のドミノが来た
って」
「…ドミノって…仮面……」
「『仮面の占(まじな)い師』!?」
「判ったなら迅速行動する事ね」
「判りました!」
一人の見張りが慌てた足取りで邸宅の中へと入っていく。
(少し…寒いかしら)
黒い裾の長い上着を着ているとはいえ下は短いスカートで、上着の中はキャ
ミソール一枚だけだ。
「お待たせいたしました。お館様がお待ちです。こちらへどうぞ」
見張りとは別の男に案内されるままに邸宅の中に足を踏み入れ、少しの暖を
とる。
通されたのは広い書斎だった。
椅子に腰掛けているのは初老の男性だ。
「お初お目に掛かります。貴方が依頼人のフォックス様ですね?」
「相違ない」
「私はギルドより依頼を受けて参りました。
『スパイラル』のドミノ(仮面)と申します」
「君の噂は聞いておるよ。『仮面の占(まじな)い師』。
GR、Sの『鳥籠の螺旋』に以前依頼をした事があってな。
君の事は彼から聴いたよ」
「それは手間が省けるというもの。
では早速依頼内容に入って構いませんね?」
「ああ、依頼は聴いておるか?」
「最近頻繁に出没する賊をどうにかして欲しいとの事でしたね」
「ああ、奴は必ず夜に、それも深夜に現れる。
これがこの館の見取り図だ」
「今までその賊が現れた場所を教えて下さい。
大体の出現ポイントを弾き出します」
今夜は満月だ。
顔の片方を仮面で隠し、弾き出した賊の出現ポイントで待つ。
(……物音)
依頼人の言葉が蘇る。
『その賊はどうやら魔法の使い手らしくてな』
「でも、私の敵じゃない」
ドミノが隠れている部屋の扉が開く。
室内に足を踏み入れ、棚などを物色し始めた男に殊更ゆっくりと隠れていた
陰から姿を現す。
男が驚きの声を上げた瞬間にドミノの右手が一閃していた。
「…ぐ!」
男が床に片膝を着き、右手を押さえる。
男の足と右手にはカード。
「おあいにく様。部屋を汚しても良いと言われてるの」
「………!? 仮面(ドミノ)!?」
「お利口さんね。でも、もっと利口なら良かったわ」
男が素早く突き刺さっていた二枚のカードを引き抜き、立ち上がって早口で
呪文を唱える。
一瞬、室内を閃光が満たし窓硝子の割れる音がした。
「あかりし夜に瞬いて、契約の元我の前へ集え」
詠唱しながら男を追って窓から外へと飛び出す。
隣の家の屋根に飛び移った所で、男からの魔法攻撃が来るのは予想済みだ。
一枚のカードを宙に投げてドミノは告げる。
「おいで――――『魔術師(マジシャン)』!」
瞬間、男の攻撃すらもかき消してその場にローブを纏った女が現れる。
手には杖。
これは以前、ドミノが召喚術で呼び出してしまった異世界の人間がくれた
『タロットカード』と呼ばれるものだ。それを魔法で絶対に破れない代物に強
化した。
その人間は一時期だけ『スパイラル』のメンバーで、ランクはCだったけれ
ど。
生意気な少年だった。
ドミノのお気に入りだった。
月光と呼ばれていた。
帰らなくちゃ。
そう彼が言ったから、私は召還術で彼を元いた場所へと送り帰した。
その別れ間際に彼が餞別としてくれたのがこのカードだった。
男の姿も自分が呼び出した『魔術師(マジシャン)』の姿もないが、あの傷
ではそう速くは逃げられないだろう。
それに『魔術師(マジシャン)』は優秀だ。
しとめ損ねることはない。
これでもう一仕事終わりだと息を吐き、屋根から軽々と地面に降り立った
時。
目の前に一人の男が居ることに気が付いた。
それが、彼との出会いになる。
性別:女
場所:コールベル
NPC:クローバー(四つ葉)、賊
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ドミノ-1 【仮面の占(まじな)い師】
風に流れる長い銀色の神が月光に照らされて輝く。
今は漆黒の瞳。
顔の片方だけを仮面で隠した女が、身軽に宙を舞う。
「逃がさないよ」
鈴の音のような声が告げた。
暗闇の中の走る男の首筋に突き刺さる、それは一枚のカード。
「塔(タワー)。今日は厄日だったね貴方」
絶命した男の首筋からカードを引き抜くと、女はその場を後にした。
『スパイラル』と呼ばれるチームがある。
ギルドのランクSからCまでのメンバーで構成されたチームだ。
おかしな事に皆、本名や二つ名ではなく呼び名(あだ名)で呼び合ってい
る。
その中の一人に、ランクAの仮面と呼ばれる女がいた。
「なんだ、ドミノか」
ギルドで出会った黒髪の青年が銀色の髪の18歳くらいの少女に話しかける。
「お久しぶりね。四つ葉」
「ああ、クローバーでいいよ。君を見習って俺も自分の呼び名である『四つ
葉』をもじって名乗る事にしたんだ」
「じゃクローバー。
最近仕事の方はどう?」
「上々。うちのリーダーの螺旋なんか凄いよ。ケタ違うもん」
「螺旋はね」
「あとは傘男がランクBに上がったって」
「ゲ。なによ永遠のCランクでいればいいのに」
露骨に嫌そうな顔をした少女―――――ドミノの顔に夜付けていたあの仮面
はない。
付けるのは夜だけだ。
端から見れば清楚可憐な美少女。
だが、彼女は『仮面の占(まじな)い師』という二つ名で呼ばれる女であ
る。
今は常緑の色をしているドミノの双眸が、四つ葉もといクローバーを見て半
眼になった。
「あ、お怒りモード?
なんでそんな傘男の事嫌いなのさ。確かに晴れの日でもコート着て傘差して
るけど」
「存在が」
言い切ってドミノはギルドの入り口へと向かう。
「もう行くの?」
「私が用があったのは無造作紳士よ。いないなら他を当たるわ。
じゃあね」
「はいはい」
青空が広がる。
雲の断層。そのパノラマを見上げる彼女の瞳の色はもう紺碧色だ。
彼女の瞳は感情によって変化する。
それを特におかしいとは思わないのが『スパイラル』のメンバーで。
だからドミノはそれなりに『スパイラル』という場所が気に入っている。
街の大通りを歩いて、一つの大きな邸宅の扉の前に辿り着く。
見張りの男達がドミノを見て。
「何の用だ」
ときつい声で訊いてきたが、彼女は表情一つ変えずにえよく響く声で告げ
る。
「依頼主(クライアント)に言ってくれる? 『スパイラル』のドミノが来た
って」
「…ドミノって…仮面……」
「『仮面の占(まじな)い師』!?」
「判ったなら迅速行動する事ね」
「判りました!」
一人の見張りが慌てた足取りで邸宅の中へと入っていく。
(少し…寒いかしら)
黒い裾の長い上着を着ているとはいえ下は短いスカートで、上着の中はキャ
ミソール一枚だけだ。
「お待たせいたしました。お館様がお待ちです。こちらへどうぞ」
見張りとは別の男に案内されるままに邸宅の中に足を踏み入れ、少しの暖を
とる。
通されたのは広い書斎だった。
椅子に腰掛けているのは初老の男性だ。
「お初お目に掛かります。貴方が依頼人のフォックス様ですね?」
「相違ない」
「私はギルドより依頼を受けて参りました。
『スパイラル』のドミノ(仮面)と申します」
「君の噂は聞いておるよ。『仮面の占(まじな)い師』。
GR、Sの『鳥籠の螺旋』に以前依頼をした事があってな。
君の事は彼から聴いたよ」
「それは手間が省けるというもの。
では早速依頼内容に入って構いませんね?」
「ああ、依頼は聴いておるか?」
「最近頻繁に出没する賊をどうにかして欲しいとの事でしたね」
「ああ、奴は必ず夜に、それも深夜に現れる。
これがこの館の見取り図だ」
「今までその賊が現れた場所を教えて下さい。
大体の出現ポイントを弾き出します」
今夜は満月だ。
顔の片方を仮面で隠し、弾き出した賊の出現ポイントで待つ。
(……物音)
依頼人の言葉が蘇る。
『その賊はどうやら魔法の使い手らしくてな』
「でも、私の敵じゃない」
ドミノが隠れている部屋の扉が開く。
室内に足を踏み入れ、棚などを物色し始めた男に殊更ゆっくりと隠れていた
陰から姿を現す。
男が驚きの声を上げた瞬間にドミノの右手が一閃していた。
「…ぐ!」
男が床に片膝を着き、右手を押さえる。
男の足と右手にはカード。
「おあいにく様。部屋を汚しても良いと言われてるの」
「………!? 仮面(ドミノ)!?」
「お利口さんね。でも、もっと利口なら良かったわ」
男が素早く突き刺さっていた二枚のカードを引き抜き、立ち上がって早口で
呪文を唱える。
一瞬、室内を閃光が満たし窓硝子の割れる音がした。
「あかりし夜に瞬いて、契約の元我の前へ集え」
詠唱しながら男を追って窓から外へと飛び出す。
隣の家の屋根に飛び移った所で、男からの魔法攻撃が来るのは予想済みだ。
一枚のカードを宙に投げてドミノは告げる。
「おいで――――『魔術師(マジシャン)』!」
瞬間、男の攻撃すらもかき消してその場にローブを纏った女が現れる。
手には杖。
これは以前、ドミノが召喚術で呼び出してしまった異世界の人間がくれた
『タロットカード』と呼ばれるものだ。それを魔法で絶対に破れない代物に強
化した。
その人間は一時期だけ『スパイラル』のメンバーで、ランクはCだったけれ
ど。
生意気な少年だった。
ドミノのお気に入りだった。
月光と呼ばれていた。
帰らなくちゃ。
そう彼が言ったから、私は召還術で彼を元いた場所へと送り帰した。
その別れ間際に彼が餞別としてくれたのがこのカードだった。
男の姿も自分が呼び出した『魔術師(マジシャン)』の姿もないが、あの傷
ではそう速くは逃げられないだろう。
それに『魔術師(マジシャン)』は優秀だ。
しとめ損ねることはない。
これでもう一仕事終わりだと息を吐き、屋根から軽々と地面に降り立った
時。
目の前に一人の男が居ることに気が付いた。
それが、彼との出会いになる。
PC : エスト・ドミノ(仮面)
場所 : コールベル
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月の綺麗な夜だから、遠回りして帰ろう……なんてロマンチックなことを考えていた
わけではない。
エストがそこにいたのは、『たまたま』である。
彼――エストがコールベルに着いたのは、ずいぶん前のこと。
芸術の都と名高いそこを訪れたのは、観光目的などではない。
人探し、である。
エストは、10年前に生き別れになった妹を探して旅をしている。
別に、探し出してどうこうしよう、というつもりはない。
生きているのか、それとも死んでいるのか……ただそれだけが知りたいのだ。
幸せに暮らしているのなら、それに越した事はない。
もし、妹が生きていて、幸せに暮らしているのなら、「俺はお前の兄だ」などとで
しゃばるつもりはなかった。
手がかりのないまま旅立って、はや四年。
妹と同じ特徴の少女がいると聞けば、片っ端から会ってみた。
少しでも名が知られるようになれば、妹がいつか気付いてくれるかもしれないと思っ
て、ギルドのランクを頑張って上げてみたりもした。
……しかし、いまだに妹に繋がる情報はない。
エストは最近、自分のやっていることに意味があるのだろうか、と時折思うようにも
なっていた。
あるいは、もう妹は――死んでいるのではないか、と。
ともあれ。
コールベルに着き、さてこれから……というまさにその瞬間、彼は見てしまったの
だ。
何やら道端でうずくまっている老人と、そのそばで途方にくれる幼い子供。
率直に言ってしまえば、エストには一切関係のない話である。
だから、関わらずにいることも可能ではあったのだ。
(別に俺の知りあいじゃないし)
(でも苦しそうだし)
(そのうち誰かが声をかけるさ)
(誰も見向きもしてないみたいだけど)
(俺は人探しをしてるんだぞ)
(だけど……)
思考を巡らしながら、エストはうろうろうろうろと彼らの前を何度も何度も往復した
挙句、とうとう声をかけてしまったのである。
――結果。
腹痛で動けないという老人をどうにか家まで運んでやると、老人は古美術商を営んで
いて、これでは明日からお店を休まなきゃいけないと困り果てた顔をするので、エス
トはこれまたさんざん迷った挙句、店番を引き受けてしまった……のだった。
人がいいのか、あるいはただ単に断れない性格なだけなのか。
従業員のような状態を、エストはもう何日も続けていた。
そんなエストが少女に遭遇したのは、老人に頼まれた届け物を済ませた帰りのこと
だった。
老人の営む古美術品店に戻るには、この通りを通る必要があった。
エストは、突然現れた少女を見据えた。
銀色の長い髪。
黒い上着を身につけ、顔の半分を仮面で覆い隠している。
「誰だ」
厳しい声音でそう尋ね、じり…っと片足を後ろにずらす。
命を狙われるような覚えはないが、警戒をしておくに越した事はない。
あいにく、今は得物である弓矢を持っていないのだ。
素手だと全く戦えないというわけではないが、体術は弓矢に比べて得意ではないので
ある。
最悪、なりふり構わず逃げ出さなくてはいけないだろうか、などということを、エス
トは頭の隅でちらりと思った。
「警戒しないで頂戴。別に危害を加えるつもりはないから」
そう言い、目の前の少女は飛び降りた際に乱れた銀色の長い髪を手ぐしで整える。
「そう言われてもな。だったらなんで目の前に飛び降りてくる?」
エストの顔立ちは、あまり優しい印象のものではない。どちらかといえば強面であ
る。
おまけに性格の不器用さもあって、エストはしばしば初対面で怖い人と誤解されてし
まうことが多かった。
悲しいことに、泣かれてしまったこともある。
しかし、少女のエストを見る黒い瞳は、珍しいことにいたって冷静なものだった。
「仕事中だったのよ」
仕事、という言葉にエストはぴくりと反応する。
(……ギルドハンターか)
しばしの沈黙が生じる。
冷えた夜風が、少女の黒い上着のすそを小さく揺らした。
場所 : コールベル
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月の綺麗な夜だから、遠回りして帰ろう……なんてロマンチックなことを考えていた
わけではない。
エストがそこにいたのは、『たまたま』である。
彼――エストがコールベルに着いたのは、ずいぶん前のこと。
芸術の都と名高いそこを訪れたのは、観光目的などではない。
人探し、である。
エストは、10年前に生き別れになった妹を探して旅をしている。
別に、探し出してどうこうしよう、というつもりはない。
生きているのか、それとも死んでいるのか……ただそれだけが知りたいのだ。
幸せに暮らしているのなら、それに越した事はない。
もし、妹が生きていて、幸せに暮らしているのなら、「俺はお前の兄だ」などとで
しゃばるつもりはなかった。
手がかりのないまま旅立って、はや四年。
妹と同じ特徴の少女がいると聞けば、片っ端から会ってみた。
少しでも名が知られるようになれば、妹がいつか気付いてくれるかもしれないと思っ
て、ギルドのランクを頑張って上げてみたりもした。
……しかし、いまだに妹に繋がる情報はない。
エストは最近、自分のやっていることに意味があるのだろうか、と時折思うようにも
なっていた。
あるいは、もう妹は――死んでいるのではないか、と。
ともあれ。
コールベルに着き、さてこれから……というまさにその瞬間、彼は見てしまったの
だ。
何やら道端でうずくまっている老人と、そのそばで途方にくれる幼い子供。
率直に言ってしまえば、エストには一切関係のない話である。
だから、関わらずにいることも可能ではあったのだ。
(別に俺の知りあいじゃないし)
(でも苦しそうだし)
(そのうち誰かが声をかけるさ)
(誰も見向きもしてないみたいだけど)
(俺は人探しをしてるんだぞ)
(だけど……)
思考を巡らしながら、エストはうろうろうろうろと彼らの前を何度も何度も往復した
挙句、とうとう声をかけてしまったのである。
――結果。
腹痛で動けないという老人をどうにか家まで運んでやると、老人は古美術商を営んで
いて、これでは明日からお店を休まなきゃいけないと困り果てた顔をするので、エス
トはこれまたさんざん迷った挙句、店番を引き受けてしまった……のだった。
人がいいのか、あるいはただ単に断れない性格なだけなのか。
従業員のような状態を、エストはもう何日も続けていた。
そんなエストが少女に遭遇したのは、老人に頼まれた届け物を済ませた帰りのこと
だった。
老人の営む古美術品店に戻るには、この通りを通る必要があった。
エストは、突然現れた少女を見据えた。
銀色の長い髪。
黒い上着を身につけ、顔の半分を仮面で覆い隠している。
「誰だ」
厳しい声音でそう尋ね、じり…っと片足を後ろにずらす。
命を狙われるような覚えはないが、警戒をしておくに越した事はない。
あいにく、今は得物である弓矢を持っていないのだ。
素手だと全く戦えないというわけではないが、体術は弓矢に比べて得意ではないので
ある。
最悪、なりふり構わず逃げ出さなくてはいけないだろうか、などということを、エス
トは頭の隅でちらりと思った。
「警戒しないで頂戴。別に危害を加えるつもりはないから」
そう言い、目の前の少女は飛び降りた際に乱れた銀色の長い髪を手ぐしで整える。
「そう言われてもな。だったらなんで目の前に飛び降りてくる?」
エストの顔立ちは、あまり優しい印象のものではない。どちらかといえば強面であ
る。
おまけに性格の不器用さもあって、エストはしばしば初対面で怖い人と誤解されてし
まうことが多かった。
悲しいことに、泣かれてしまったこともある。
しかし、少女のエストを見る黒い瞳は、珍しいことにいたって冷静なものだった。
「仕事中だったのよ」
仕事、という言葉にエストはぴくりと反応する。
(……ギルドハンターか)
しばしの沈黙が生じる。
冷えた夜風が、少女の黒い上着のすそを小さく揺らした。
PC: トウヤ(PL:ミキ)
NPC: サーカス
場所: カルマーン
その物語は壮大ではなかったかも知れない。
『ぼくのこの短い腕で出来る事なんて限られてるんだ、結局。』
その少年は強くなかったかも知れない。
『いつまで人に守られ続けてるの?!大切なモノがあるなら自分で守りなさいよ!』
その少年は賢くなかったかも知れない。
『ミキさん。ぼくはどうしたらいいの・・・・?』
それでも、この旅は少年の人生を大きく変えた。
2006年秋、テラロマが贈るワクワクファンタジー!
剣と魔法の世界で繰り広げられる少年達の命の花火!
題名未定!!現在台本執筆中!!
この秋、キミと少年の世界は広がる!
木漏れ日が眩しくてぼくはカーテンを閉めるために身を起こした。
なんだか不思議な夢を見ていた気がする。まぁ、所詮夢なんて夢か。
カーテンに手をかけて窓から外を覗くと、沈む夕陽と真っ赤にそまる街並みが見えた。
普段真っ白なカルマーンの道路や、無駄に自己主張の高い煌びやかな屋敷たちが、
一緒に夕陽の色に染まって、次第に空と共に黒くなっていくのをぼくはのんびりと見入ってしまった。
ふと、視線を落とすと道路に中の良い友人の姿が見えた。どうやらうちの屋敷に向かってくる所らしい。
ぼくはさっきまで寝ていたし、こんな時間だからきっと入れて貰えないだろう。
ぼくは窓を開けて3階の窓から、屋敷の門に張り付いている門番に向かって叫んだ。
「アイン!カークを入れてやってくれ!ぼくが呼んだんだ!」
ぼくの名前はトウヤ・アルゥ・セルシエナ。
ガルドゼント王国の貿易商セルシエナ家の長男だ。
年齢は13歳。趣味は読書。特技は勉強。
ぼくははっきり言っておぼっちゃまだ。
一代で富と地位を築いた立派なパパ、面倒見の良いママ、
仕事は何でも確実にこなす執事達に囲まれ、ゆくゆくはパパの跡を継ぐ。
欲しいモノは何でも手に入る、何も怖くない。
そんなどうしようもない金持ちのぼんぼんだ。
本の中の知識ばかり詰め込んで、本当の世の中のことは何も知らない。
「トウヤおぼっちゃま、サーカス様をお連れしました。」
「カーク、入ってくれ。」
ぼくは相変わらずベットに寝たまま半身を起こし、ぼくの友人を迎えた。
サーカス・アルゥ・ミリアム。ぼくはカークと呼んでいる。
彼はぼくの友人。ぼくの良き相談相手だ。
ぼくは少し前、彼にある頼み事をした。その報告に来てくれたのだろう。
無言で手招きして近くのイスに座らせ、ぼくは彼の言葉を待った。
「トウヤ、要望通りに依頼を出しておいたよ。馬車も食料も備品も用意した。」
ぼくは歓喜で飛び上がりそうになったけれども友人の手前上ぐっとこらえた。
「人間必ず死ぬのに、こんな平和ボケした生活ばかり続けるのはつまらない。
だからぼくは旅に出たかったんだ。カーク、ありがとう。」
「トウヤ、本当に行くのか・・・・・」
「ああ、ぼくには時間がないんだ。16になるまでにもっと人生を楽しみたいんだ。」
「・・・・・・・今日はそれを伝えに来ただけだ。」
立ち上がり部屋を出ようとしたカークにぼくは言った。
「そうか、ありがとう、カーク。」
「明日、またギルドに行ってからくるよ。おやすみ。」
ぼくは旅に出たかった。北の村に住む姉のミキさんに会いに行きたかったし、
出来れば国外にも出てみたかった。色々な場所を旅したかった。
だから、カークに頼んで、旅のための馬車や護衛を3人雇った。
雇ったというかギルドに護衛の依頼を出させた。
女性の冒険者がいれば旅の間に仲良くなれるかも知れない。
どんな冒険が出来るのだろうか、どんな世界がぼくの前に広がるのか。
ぼくは旅が待ち遠しくてたまらなくなった。
ぼくは棚に並べた、有名な冒険者の探検記をとりだし、
ランプをつけて、来る自分の旅の参考にするために読み始めた。
NPC: サーカス
場所: カルマーン
その物語は壮大ではなかったかも知れない。
『ぼくのこの短い腕で出来る事なんて限られてるんだ、結局。』
その少年は強くなかったかも知れない。
『いつまで人に守られ続けてるの?!大切なモノがあるなら自分で守りなさいよ!』
その少年は賢くなかったかも知れない。
『ミキさん。ぼくはどうしたらいいの・・・・?』
それでも、この旅は少年の人生を大きく変えた。
2006年秋、テラロマが贈るワクワクファンタジー!
剣と魔法の世界で繰り広げられる少年達の命の花火!
題名未定!!現在台本執筆中!!
この秋、キミと少年の世界は広がる!
木漏れ日が眩しくてぼくはカーテンを閉めるために身を起こした。
なんだか不思議な夢を見ていた気がする。まぁ、所詮夢なんて夢か。
カーテンに手をかけて窓から外を覗くと、沈む夕陽と真っ赤にそまる街並みが見えた。
普段真っ白なカルマーンの道路や、無駄に自己主張の高い煌びやかな屋敷たちが、
一緒に夕陽の色に染まって、次第に空と共に黒くなっていくのをぼくはのんびりと見入ってしまった。
ふと、視線を落とすと道路に中の良い友人の姿が見えた。どうやらうちの屋敷に向かってくる所らしい。
ぼくはさっきまで寝ていたし、こんな時間だからきっと入れて貰えないだろう。
ぼくは窓を開けて3階の窓から、屋敷の門に張り付いている門番に向かって叫んだ。
「アイン!カークを入れてやってくれ!ぼくが呼んだんだ!」
ぼくの名前はトウヤ・アルゥ・セルシエナ。
ガルドゼント王国の貿易商セルシエナ家の長男だ。
年齢は13歳。趣味は読書。特技は勉強。
ぼくははっきり言っておぼっちゃまだ。
一代で富と地位を築いた立派なパパ、面倒見の良いママ、
仕事は何でも確実にこなす執事達に囲まれ、ゆくゆくはパパの跡を継ぐ。
欲しいモノは何でも手に入る、何も怖くない。
そんなどうしようもない金持ちのぼんぼんだ。
本の中の知識ばかり詰め込んで、本当の世の中のことは何も知らない。
「トウヤおぼっちゃま、サーカス様をお連れしました。」
「カーク、入ってくれ。」
ぼくは相変わらずベットに寝たまま半身を起こし、ぼくの友人を迎えた。
サーカス・アルゥ・ミリアム。ぼくはカークと呼んでいる。
彼はぼくの友人。ぼくの良き相談相手だ。
ぼくは少し前、彼にある頼み事をした。その報告に来てくれたのだろう。
無言で手招きして近くのイスに座らせ、ぼくは彼の言葉を待った。
「トウヤ、要望通りに依頼を出しておいたよ。馬車も食料も備品も用意した。」
ぼくは歓喜で飛び上がりそうになったけれども友人の手前上ぐっとこらえた。
「人間必ず死ぬのに、こんな平和ボケした生活ばかり続けるのはつまらない。
だからぼくは旅に出たかったんだ。カーク、ありがとう。」
「トウヤ、本当に行くのか・・・・・」
「ああ、ぼくには時間がないんだ。16になるまでにもっと人生を楽しみたいんだ。」
「・・・・・・・今日はそれを伝えに来ただけだ。」
立ち上がり部屋を出ようとしたカークにぼくは言った。
「そうか、ありがとう、カーク。」
「明日、またギルドに行ってからくるよ。おやすみ。」
ぼくは旅に出たかった。北の村に住む姉のミキさんに会いに行きたかったし、
出来れば国外にも出てみたかった。色々な場所を旅したかった。
だから、カークに頼んで、旅のための馬車や護衛を3人雇った。
雇ったというかギルドに護衛の依頼を出させた。
女性の冒険者がいれば旅の間に仲良くなれるかも知れない。
どんな冒険が出来るのだろうか、どんな世界がぼくの前に広がるのか。
ぼくは旅が待ち遠しくてたまらなくなった。
ぼくは棚に並べた、有名な冒険者の探検記をとりだし、
ランプをつけて、来る自分の旅の参考にするために読み始めた。